守備範囲を超えていけ! 遊撃手人材インタビュー 第1回 三井不動産株式会社・川路武さん 「やりたいことをやる」が新しい価値になる

#イノベーション#コミュニケーション#デザイン思考#ビジネススキル#働き方

16.May.2018

急速に変化する社会の中で組織が生き残っていくためには、型にはまらない自由な発想と行動力をもつ人材が不可欠です。このコーナーでは、大企業の社員でありながら、自分の仕事の範囲を超えた取り組みで社会に影響を与えてきた方々(遊撃手型人材)に、どのようにして困難を乗り越え、取り組みを進めてきたのかを伺い、こうした人材が育つ組織のあり方を探ります。
第1回はNPO法人の運営からコワーキングスペースの立ち上げまで、さまざまな分野にチャレンジし続けている三井不動産株式会社・川路武さんに、ご自身の挑戦を支えてきた体験と思いについて語っていただきました。

インタビュー実施日:2018年4月3日 WORKSTYLING汐留にて

【今回の遊撃手】
三井不動産株式会社
ビルディング本部 ワークスタイル推進部
ワークスタイリンググループ統括
川路武さん
(インタビュアー:森口静香)

〈略歴〉
1998年、三井不動産入社。官・民・学が協業する街づくりプロジェクト「柏の葉スマートシティ」など、大規模案件におけるコミュニティづくりや、環境マネジメント案件の企画開発に多数携わる。三井不動産レジデンシャル出向時(マンション事業の新商品開発等を担当)に、朝活「アサゲ・ニホンバシ」を開催するNPO法人「日本橋フレンド」を立ち上げる。現在は新規事業の法人向け多拠点型シェアオフィス「WORKSTYLING」を立ち上げ、事業統括を担当する。

小さなチャレンジの積み重ねが、動く力になる

森口
川路さんは、なんでもアグレッシブに取り組まれているイメージが強いのですが、新卒で三井不動産に入社されたのはどのような理由だったんですか。
川路さん
就職氷河期だったこともあって、就職活動ではたくさんの企業を受けていました。そのとき姉から「ビジネスの仕組みを学ぶのも大切だよ。たくさんの情報が入ってくる業界一位の会社とかもいいんじゃない?」とアドバイスされたんです。姉は銀行で働いていて、いろんな企業の人を見ていたので、感じるところがあったんでしょうね。面接を通じていろんな業界の人に会ううちに、商社や不動産では夢を語る人が多くて面白いなと思ったんです。最後の決め手は「人」でしたね。僕はアメリカンフットボールをやっていたんですが、三井不動産では最終面接まで一回もアメフトの話を聞かれなかったんです。アメフトは私のすべてじゃないし、どこを受けてもアメフトの話を聞かれて正直飽き飽きして。ここなら自分のことをちゃんと理解しようとしてくれるんじゃないかと思い決めました。
森口
まさに「人の三井」だったんですね。ソフィアのメンバーが最初に川路さんにお会いしたのは、確か柏の葉(千葉県柏市)でプロジェクトをご担当されている頃でしたね。
川路さん
そうです。最初は私が運営していた社内SNSのヒアリングのためにいらっしゃって。いろいろ話しているうちに「面白そうだから一緒に何か仕事をしよう」という話になったんですよね。
森口
しばらくして、プロジェクトのご支援をさせていただく機会をいただいて。その後、川路さんは、NPO法人の日本橋フレンドを設立されて「アサゲ・ニホンバシ」を運営されたり、Clipニホンバシ(現在は31VENTURES Clipニホンバシ)を立ち上げられたり、どんどん進化されているなぁと思っていました。こういった社内のことや会社の枠を飛び越えた新しい取り組みを始めたのは、どんなきっかけだったんですか。
川路さん
現場で街づくりにかかわっていた頃にも、実はいろいろ取り組んでいたんです。大規模マンションのプロデュースを担当していたときには、入居してくださった方々同士のかかわりが少ないことに違和感を感じ、入居時のあいさつ会にトライしました。もちろんすぐには売り上げにはつながらないのですけど、5年、10年経ったときに「三井不動産があのときにあいさつ会をやってくれたおかげで、周囲の人との関係が築けて防犯面もばっちりだよ」なんて言ってもらえるんじゃないかと思ったんです。またタイムカプセル を入居者さんで一緒にマンションの館銘板の裏に埋めたプロジェクトもありました。家族の写真をカプセルに埋め込んで……ちょうど来年で10年、入居者のみなさんと掘り起こすのが楽しみです。
 新しいことに積極的に取り組むきっかけとなったのは、管理部門に配属されたことだったと思います。街づくりに直接かかわる業務でなくなったときに、エネルギーが「新しいもの」に向いたんですね、きっと。そのときに大きく役立ったのが、柏の葉プロジェクトにかかわっていた頃に学んだことでした。柏の葉プロジェクトでは、大学の先生やアーティストなど社外の方から「世の中のビジネスの仕組みが変わってきて、消費者と生産者、ビジネスをする側とそれをサポートする表現者がどんどん一緒になってくる」と日々言われ、「Macを買え!」「写真を撮れ!」「毎日、音楽を聞け!」「毎日、絵を描け!」といろんな人から、いろいろなことをアドバイスされて、とにかくがむしゃらにやってみたんです。子どもの頃から、自分には芸術的分野が向いていないなぁと思っていたんですが、たとえば毎日通勤時にスケッチブックで絵を書いていたら少しずつ上達してきて、今ではちょっとした打ち合わせ時に自分の思ったことをさらっとイラストとして描いて見せられるくらいになりました。こうした経験があったからこそ、「こんなことができるんじゃないか?」と、アイデアが生まれたときに、まずはとにかく絵で描いて、実物をつくって、やってみる、というプロトタイピングができるようになりました。Clipニホンバシもまさにそうやって始めました。

森口
いろんな人たちのアドバイスに素直に耳を傾けて、実際に取り組んでいるのって、素敵ですね。アドバイスを受けても、実際に行動に移すのが難しい人もたくさんいますし……。
川路さん
20代後半の頃、柏の葉プロジェクトでたくさんの方の意見を聴いてやってみようと思えたのは、入社してすぐの頃に自分から手を挙げてチャンレジをして、ある程度成果を形に残すことができたからじゃないかなぁと思うんです。入社当時、経理系の部門に配属されたときに、決算対応などのルーチン業務を「紙のマニュアルだと、ちょっと更新するのもわざわざ印刷しないといけないし、すぐに古くなりますし電子化しましょう!」と提案をしたんです。電子化すれば、工夫したことや不便だったことなどをコメントで残すこともできます。今で言う社内SNSのようなものですね。任された仕事を進める中で苦労したこともあって、みんながもっと便利に使えるようにしたいと考えた結果でした。まだまだ紙文化の会社だったので、画面に接続して更新をするといった行動に「どうしてそんな面倒なことをするんだ」と言われたこともありましたが、今でもその電子マニュアルは更新され続けていると聞いています。こうした本当に小さなチャレンジに自分から手を挙げて、形になった成功体験を積み重ねてきたことが、今につながっていると思うんですよね。
森口
周囲から反発されたり、渋い顔をされると不安になったり引き下がってしまう方も多いと思いますが、川路さんはあきらめなかったんですね。
川路さん
やりたいという気持ちが強かったんだと思います。当時、同期が現場で大規模なプロジェクトにかかわっていることを聞くと、自分は経理の書類ばかり作って何をやっているんだろうと思ってしまうこともありました。でもそこで腐っちゃいけない、与えられた世界の中で、目の前にある「これをやりたい」と思ったことをとにかく一生懸命がんばりました。

見返りを期待しないからためらわない

森口
今も「エスカレーターの片側空けるのやめよう運動」、「外国人に無条件に優しくする運動」など、いろんなことを公言して取り組まれていますよね。「外国人に無条件に優しくする運動」は、困っている外国人をわざわざ探して、道案内だけでなく、一緒に目的地まで行ったり、ときにはバスやタクシー代まで払ったりしていて、おもしろいと思うと同時に、すっごいなーって思います。
川路さん
地図を見ながらうろうろしている外国人に声をかけてみると、たいてい目的地が全然違う方向だったりするんですよ。しかも一緒にバス停まで行って、いざ乗ろうとしたら日本円を持っていなかったりする。だから「もういいよ」ってバス代も払ってあげちゃう(笑)そしたら、名前やメールアドレスを書いた紙を手に「自分たちの国に来たら必ず連絡をくれ、最大限おもてなしする!」って言われるんですけど、絶対受け取らないんです。「もらったら連絡して行かなきゃいけなくなっちゃうので要らないです。日本人はみんな優しいんですよ」と。彼らが国に帰って、日本人はいい人だ、日本はいい場所だと言ってくれたら、それで十分じゃないかなと。
森口
何が川路さんをそこまで動かすんですか。
川路さん
僕にとってはライフワークなんですよ。日本人とは全然違う発想をする海外の人と触れ合うと純粋に驚きがあるし、自分にも新しい考えが浮かんできます。道を教えて終わりだと、その後に「あの人大丈夫かな、ちゃんとたどり着いたかな。着いた先で困っていないかな」と心配になりますよね。自分も海外に行ってそんな困った体験はたくさんしています。でも一緒に連れて行けば、その間に話ができて、僕も新たな気づきをもらえる。一歩足を突っ込んだほうがおもしろいなと思うんです。
森口
そんな風に、やりたいと思ったことをためらわずに実行できるのは、小さい頃からなんですか。
川路さん
母親の影響はあると思うんです。母はとてもオープンな人でした。本州ではまだあまりゴーヤ(当時はにがうりと呼んでいました)が知られていない頃に、2階の窓まで隠れるくらいにゴーヤで緑のカーテンをつくって、「あのぶつぶつした実はなんだろう」って近所に気味悪がられたりして。でも当時近所に住んでいたイラン人のグループの人たちとゴーヤをきっかけに仲良くなって、いつの間にか家に招き入れて一緒にパーティーをしているような人でしたね。高校の頃に留学をしたいと言ったときも、当時日本人留学生がアメリカで銃殺されるという悲しい事件があって、周囲は「危ないんじゃないか」と反対した人も多かったのに、母だけは反対どころか「行ったほうがいい」と言ってくれました。
森口
お話をお聞きすると、お母様も川路さんも、未知への好奇心が原動力のように感じます。しかも行動した先に見返りを期待していないですよね。
川路さん
そうそう、過度に期待はしていないです。自分がしたことが、必ず自分に返ってくるなんて思っていません。だから自分がおもしろいと思うことをやって、相手が喜んでくれるだけで十分満足。でも世の中の多くのサラリーマンは、長い会社人生の中で「儲けなければマインドセット」が何よりも優先されてしまっています。言い換えれば「相手が得をすると自分が損をする」というゼロサムマインドになってしまっているような気がします。私は自分が大損せずに相手が喜ぶなら、何でもやっちゃえばいいと思うんですけどね。そうして得られる信頼はお金には計算できないけど、とても大きなものですから。
森口
そうしたゼロサムマインドの人々の中で、どうやって自分のやりたいことや明確な利益の見えない取り組みを推し進めるのでしょうか。
川路さん
納得してもらえるようビジネスに落とし込む術は身に着けましたね。そのためのプレゼン術であったり、川路がいつも言っていても「またか」と聞いてもらえないので、外部の人に言ってもらったり。

人の思いと仕組みの交差点

川路さん
今日この会議の前に散歩しながら来たんですけど、街路樹にプレートがかかっていて、そこにQRコードがついているのを見かけたんです。その昔、街づくりの事業担当だった頃に採用したことがあり、懐かしいなぁとQRコードをカメラで読み取ってみたんですが、リンク先には、樹木の情報とともにサイトの訪問人数が載っていました! 予想以上に訪問数があるのを見て、QRコードという手法にはまだまだ未来があるなと思ったんです。そこでITに詳しいまわりに友達にメッセージで聞きまくったら「今さらかよ! ネットでググれ」と。ここから、これを自分の事業に落とし込むゲームが始まります。たとえば、100室の会議室をネット上で検索できるけれど、目の前にある会議室の情報ってすっと出てこない、というようなことが結構ありますよね。QRコードを使えば、センサーがなくてもこうした問題を解決できるんじゃないかと気が付いて、今日はルンルンなんです。
森口
ルンルンの源泉は、ご自身や何かを成し遂げたい人の思いを叶える仕組みを見つけ出した瞬間なんですね。
川路さん
そうですね、誰かが喜ぶ仕組みならビジネスじゃなくてもいいんです。元手がなくてもできることはたくさんあるし、起業しようとも今は全然思いません。おそらく数十年後、自分の息子が私と同じ年齢になる頃には、資本主義の仕組みや経済観はがらっと変わっているはずです。もしかすると、野を駆け回って、音楽を弾いて、恋をする、ふつうの人がまるで古代ギリシアの貴族や日本の平安貴族のような生活になるかもしれない。そのときに大切なのは、自分の好きなことができるかどうかだと思うんです。稼ぐための人生は成り立たなくなってしまうんじゃないかな。だからやりたいことをやるってことは価値があるんだなと思っています。
森口
そうした変化する世界の中で戦う川路さんの最大の武器は何ですか。
川路さん
共感力ですかねぇ。話を聞いて、何が起こっているかを感じ取ったり、弱者の立場に立ってその気持ちを吸い取ろうとする力が、自分の唯一のプロフェッショナルな部分だと思います。自分の体験から、道に迷って困っている外国人の気持ちや、初めての場に連れてこられた不安な新入社員の気持ちがよくわかるんです。だから何か自分にできることがあるならやりたい。そうすれば相手も自分もハッピーになれるじゃないですか。
森口
みんながハッピーになってほしい、という純粋な思いが、その武器の裏側にあるんですね。本日はありがとうございました。

【取材後記】

2011年3月11日の午後、川路さんとプロジェクトミーティングを行うことになっていました。あの東日本大震災の日です。そろそろ出かけようとオフィスで準備をしているときに、大きな地震がきました。何度も揺れが来る中でしたが、川路さんは私に一通「リスケでお願いします!」とメールをくださいました。
メールがなければ、私が川路さんを心配したり、行くべきか悩んだりしてしまっていたかもしれません。私がそうしたことを考える前に、先回りして連絡をくださったのです。
そうやって、人の気持ちに寄り添うからこそ、純粋にユーザーの視点に立つことができるし、組織や会社の枠を超えて、純粋に人に寄り添う取り組みをつくり、新しい価値を生み出しているのだと思います。
とはいえ、新しいことに取り組むには、高い壁や深い溝を飛び越えなければいけないはずです。しかし、川路さんの「なんでもこい!」的な最高の笑顔からは、その裏側の努力やしんどさは見えません。苦悩は一切見せずに明るく大きな声で笑い飛ばす強さに、たくさんの人が集まり、その取り組みがどんどん加速するのだと思います。
正義で戦うのではなく、善をなすために、にこやかに組織の中外で戦う川路さんを応援せずにはいられません。
(インタビュアー:森口静香)

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この記事に関連するメンバー

森口 静香

組織変革やインナーブランディングのプロジェクトにおいて、プロジェクトの企画や進行・品質管理などを行うプロジェクトマネジメントを多く担当しています。

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