事例から学ぶチェンジマネジメント 8段階プロセスと変革事例を解説

あなたは会社で何かを変えようとしたときに、周囲の人に反対されたことはありませんか。しかも反対する理由が「今までのやり方のほうが良いから」という場合が多いのではないでしょうか。組織の習慣を変えることは、多くの企業にとって簡単なことではありません。どうすれば企業変革をスムーズに行えるのでしょうか。今回は、変革を成功に導く手法であるチェンジマネジメントのプロセス、実際の変革事例を解説します。

チェンジマネジメントとは

企業はさまざまな場面で変革の必要性に直面します。外部や社内の環境変化などにより、事業や組織を変えざるを得ない場面にあなたも立ち会ったことがあるのではないでしょうか。

一方で企業における変革は、単に組織体制や製品を変えれば良いというわけではありません。なぜなら企業とは人々が集まって成り立つものであり、組織体制や製品を変えるためには、組織に染みついた古い慣習や暗黙のルールなど、人に起因する要素も変えなければならないからです。

BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)の提唱者である、元マサチューセッツ工科大学教授のマイケル・ハマーは著書「リエンジニアリング革命」の中で、業務プロセス変革が失敗する理由の一つとして「人々の価値観や信念を無視すること」をあげています。チェンジマネジメントは、変革を単なる外形的な改革ではなく、人間的・心理的側面にも焦点をあてて成功へと導く手法です。

これまでは組織変革を中心にチェンジマネジメントが行われてきました。しかし最近では、IT技術の急速な発展や、COVID-19パンデミックの影響による外部環境の変化により、企業はデジタル化の必要性に迫られています。そのため近年のチェンジマネジメントは、ITシステム導入に伴う働き方の変化や業務プロセスの見直しがトレンドとなっています。

チェンジマネジメントの8段階プロセス

チェンジマネジメントの有名なフレームワークに、ハーバード大学ビジネススクールのジョン・コッター名誉教授が提唱する「変革の8段階のプロセス」があります。このフレームワークは、コッター教授がリーダーへのインタビューにより、変革には8つの段階があることを明らかにしたものです。変革はどのような段階を経て起こるのでしょうか。

危機意識を高める

最初のステップは「危機感」を持つことです。何かを変えるということは、あるべき姿と現状とのギャップを見出し、そのギャップを埋めるために行動することを意味します。あるべき姿を描くためには、「現状のままではダメだ」という意識が必要です。こうした意識を関係者の間で共有し、あるべき姿を目指して市場でのチャンスをつかみ、あるいは危機を乗り越えていくのです。

変革推進のための連帯チームを築く

どんな変革も一人の力だけでは成し得ません。変革を成功させるにはチームが必要です。特に企業の場合、経営陣がコミットしなければ変革を成し遂げることはできないでしょう。また、時には変革する分野に詳しい専門家のサポートも必要でしょう。こうした変革のスペシャリスト集団をつくることが成功の秘訣です。

ビジョンと戦略を生み出す

第3段階では、チームを変革へと導いていくためのビジョンと戦略を生み出します。特に多くの人を巻き込むには、わかりやすいビジョンが重要です。最近で言えば、「新型コロナウイルスの感染拡大を終息させ、元通りの生活を取り戻す」というビジョンを叶えるための戦略・手法として、政府が「3密を避ける」といった新しい行動様式を提示しました。このように変革にはわかりやすいビジョンと戦略が必要なのです。

変革のためのビジョンを周知徹底する

ビジョンを設定したら、何度も繰り返しメンバーに伝えましょう。新型コロナウイルスへの感染を防止するための「3密」という言葉も、テレビやYouTubeなどあらゆる方法 or 媒体 or メディアを使って周知が徹底されました。ビジョンはメンバーが覚えるまで繰り返し伝えることが重要なのです。

従業員の自発を促す

第4段階までは構成メンバーへの意識づけが中心でした。ここからは変革の実行ステップに入っていきます。推進メンバーが中心だった変革活動も、より広範囲に関係者を巻き込み、組織的に変革を促すボトムアップ中心の活動へ移行するのです。

短期的成果を実現する

ボトムアップ活動が少しずつ機能し始めたら、まずは小さなことでもいいので成果を出します。例えば、新市場への進出というプロジェクトであれば、顧客からの問い合わせを獲得する、といったことでもかまいません。こうした小さな成功を組織内で共有することで、変革へのモチベーションがさらに高まります

成果を生かして、さらなる変革を推進する

成果が少しずつ見え始めたら、それをもとに新たな成果を生み出していきます。一つの成果に対してなぜそれを出すことができたのかを分析して、成功のプロセスを社内に共有していきます。成果創出のプロセスへの理解が深まり、実践が広まることでさらに変革は加速していくでしょう。

新しい方法を企業文化に定着させる

こうした新しいプロセスが定着してくると、特に意識しなくても新たな成果を創出できるようになります。さらには新たなプロセスがメンバーのマインドや価値観を変えていきます。この時期にあらためて新たなプロセスを組織のルールとして明文化しておきましょう。これにより新しい方法を企業文化として定着させていくことができます。

チェンジマネジメントの事例

では実際にチェンジマネジメントに成功した企業は、どのよう変革を成し遂げたのでしょうか。

組織改革におけるチェンジマネジメントの事例

・日産自動車

特に有名な事例として、日産自動車のリバイバルプランがあげられます。日産自動車は今でこそ国内2位の自動車メーカーです。しかし、1998年には200億円以上の赤字と、2兆円にものぼる有利子負債を抱えていました。グローバルシェアも91年の6.6%をピークに、98年には4.9%にまで低下。こうした背景には顧客よりも自社の利益を優先する考え方があったと言われています。さらには88年から98年の10年間に6回もの赤字を計上。当時の日産には危機意識が欠如していました。

こうした状況を打開するため、ルノーから派遣されたカルロス・ゴーンCEOの指導の下、1999年に日産リバイバルプランが策定されました。まず日産は行き過ぎたセクショナリズムを打破するために、変革チームとして部門横断型のCFT(クロス・ファンクショナル・チーム)をつくりました。同時にマーケティング改革を行い、経験と勘だけに頼らない科学的なマーケティング手法を確立。販売店から毎週届くアンケート結果を元に、顧客ニーズを分析した車づくりを行うようになっていきました。何よりもゴーンCEOが「日産が変わるべき理由、どう変わっていくか」を繰り返し社内に訴えかけたことで、日産はついに2001年に黒字化を達成しました。たった2年で変革を成功させたのは驚くべきことではないでしょうか。

業務改革と基幹システムをつなぐチェンジマネジメントの事例

・従業員10,000名以上の飲料メーカー

この企業では、グローバルでバラバラであったERPシステムを「業務改革/BPR」を目的として統合・導入するプロジェクトを開始しました。しかし、新たなERPシステムのカットオーバーに向けて、多くの社員から業務変革に対する抵抗感と、業務変革に伴う負荷の大きさが浮き彫りになってきました。そこでチェンジマネジメントの必要性が急浮上してきたのです。

社員の抵抗感を乗り越えるため、まず社員の心理的状態とリテラシーをヒアリングおよびアンケ―トで可視化しました。同時に、社員の心理状態をペルソナで設定し、ERPシステムの活用に向けてあるべきITリテラシーを明確化し、現状の社員の状態とのギャップを可視化しました。さらには部門毎、ターゲット毎に、コミュニケーション施策を検討して実装しました。こうした努力が結実し、現場からの協力を得られるようになり、最終的には大きな抵抗の動きが生じることもなく、システムを導入することが出来ました。

業務改革に向けたERPシステム刷新に伴うチェンジマネジメント事例

・従業員1,000名以上の製薬メーカー

一般的に全社の基幹システムは、業務改革/BPRを目的として企画・導入されるものです。しかしこのメーカーでは、かつて基幹システムを導入した際に、いつの間にか業務改革/BPRより、システムの導入そのものが目的になってしまったという失敗経験がありました。現場の要望や要求を聞きすぎるあまり、システムを業務の進め方に合わせるために独自開発を施したため、導入コストが大幅に増加したのです。これを教訓に、このメーカーでは基幹システム変更の際、システムを業務に合わせるのではなく、業務をシステムに合わせて変革する方針を固めました。

しかし、現場の要求や要望を明確にしないままにシステム部門が独自にシステム導入を進める中、導入直前になってプロジェクトが暗礁に乗り上げました。システム部門が現場に対してシステムの説明をしたところ、大きな抵抗や反感が生まれたのです。そこで、現場のキーマンに集まってもらい、グループインタビューを実施しました。システム導入に向けた心理的な抵抗を和らげるとともに、導入に向けた合意形成に努めました。新システムのインプリメンテーショントレーニングの実施と併せて、「今回のシステム導入は、現場社員の業務への不満を解消し、ベネフィットを産み出すためのものである」というストーリーを伝える、さまざまなコミュニケーション施策を実施したのです。その結果、現場の疑問や不安が解消して刷新が前向きに受け止められるようになり、スムーズな導入が実現しました。

まとめ

変革は、一朝一夕で成し遂げられるものではありません。しかし正しいステップさえ踏めば、確実に成果を手にできます。これまで多くのチェンジマネジメントが行われてきました。現在はそうした事例もWEBや本で参照することができ、研究者によってそのエッセンスがフレームワークとしてまとめられています。こうした先人たちの知恵を借りることで、あなたも必ずや変革を成功へと導くことができるでしょう。

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よくある質問
  • チェンジマネジメントとは何ですか?
  • 企業の変革を成功に導くために、組織に変化を受け入れやすくするためのマネジメント手法です。企業も環境の変化に適応するために、合併や統合、ビジネスモデルの変革、組織や人の変革、組織風土や文化の変革、新技術の導入などを行わなければなりません。
    かつてバブル崩壊後の苦境を脱する解決策として受け入れられ、日本企業の経営課題に取り入れられてきました。

株式会社ソフィア

取締役、シニア コミュニケーションコンサルタント

築地 健

インターナルコミュニケーションの現状把握から戦略策定、ツール導入支援まで幅広く担当しています。昨今では、DX推進のためのチェンジマネジメント支援も行っています。国際団体IABC日本支部の代表を務めています。

株式会社ソフィア

取締役、シニア コミュニケーションコンサルタント

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インターナルコミュニケーションの現状把握から戦略策定、ツール導入支援まで幅広く担当しています。昨今では、DX推進のためのチェンジマネジメント支援も行っています。国際団体IABC日本支部の代表を務めています。

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