INTERVIEW

お客様インタビュー

お客様インタビューvol.28
「文部科学省伴走事業 対談記事③ ~協働を文化にしていくための視点~」

福井大学
中森 一郎 教授(写真右)
​Inquiry合同会社 founder,CEO
山本 一輝 さん(写真左)
株式会社ソフィア・株式会社ソフィアクロスリンク
廣田 拓也(写真中央)

インタビュー実施日:2024年5月27日

ソフィアは2020年よりソフィアクロスリンクという子会社を設立しました。
「地域の人と組織を元気にします」をミッションに掲げ、企業と行政、企業と学校、企業同士が繋がり、相互に越境し合うことで新しい価値を生み出す支援を行っています。

2021年より文部科学省が推進する次世代人材育成事業「マイスター・ハイスクール(次世代地域産業人材育成刷新事業)」に対する伴走支援を行ってきました。

1話目は、次世代人材育成を推進する背景、変革を起こすための伴走支援体制、2話目は変革に対する主体性の高め方についてお伺いしました。今回は『協働を文化にしていくための視点』を中心にお話をお伺いします。

協働を文化にするには「探究」「長期志向」「チーム学習」が肝

廣田
この事業が始まったタイミングで「私たち伴走者の仕事は、協働を文化にして資産として残すことなのではないか」という話をしましたね。
近田
協働体制を文化にしていく際の共通項とか、重要なポイントはあるのでしょうか。
中森
学びの面で言うと、いわゆる「探究」が重要になってくると思います。
山本
生徒に対して探究学習を進める一方で、先生方もマイスター・ハイスクール事業を通して探究をしていますよね。この協働体制の中で、正解のないテーマについて仮説検証しながら実施して振り返るといったサイクルを行ってきました。
廣田
もう一つ僕が感じているのは、時間的感覚かな。3年という短い期間でプロジェクトは設計されているけど、本当は10年後、20年後という長期の話なんです。だから今すぐに成果が出るわけではないけれど、長期志向で物事を捉える視点は共通項としてあると思う。
近田
長期志向で捉えるというと、具体的にどんな話がされるのですか?
廣田
たとえば企業が学校と関わるのは、主に企業が学生を採用するタイミングです。そういった単年度の話ではなく、中長期的に見て、地域の人たちや学校を中心にいろいろな人が新しい学びを行うことは、自分の企業にとってどういう意味があるのかと。
近田
つまり地域という連関性を意識したうえで、時間軸を考えようというわけですね。
山本
協働体制の中で1つ重要だと思うのが「チーム学習」ですね。狭義のインプットではなくて、実施したことを次にどうつなげるか、チームの中で意見交換をする能力。端的に言えばコミュニケーションですが、それがきちんとインストールされていることが大事ですね。
今回のマイスター・ハイスクールは、推進委員会や運営委員会のような会議体が必ず存在しました。その会議体がうまく機能していると、そこには必ずチーム学習の機会が備わっていたんですよね。そのうえで有効な組織がつながっていき、ひいては文化になるのではないかと思いました。
近田
チーム学習というのは、答えがない問いに対して多様な視点を持つチームの人たちが、いくつかの答えのパターンを提供するようなイメージですよね。
山本
近いと思います。教員だけでなく、産業界や行政の方など多様な視点が入るのが、協働体制の大きな価値かもしれないですね。

中長期視点で「Student Agency」を育てていく

中森
中長期の視点ですが、OECD(経済協力開発機構)がThe OECD Learning Compass 2030を掲示しています。課題の多い未来で、子供たちが自らの頭で考え、行動し、生き抜く力を養うための指針です。


出典:The OECD Learning Compass 2030

子供の足元にある『Student Agency』は “子供自身が責任を持って、主体的に世の中を変えていこうという意思や能力を身に付ける必要性がある” ということを示しています。

中心にある『Learning Compass』は「学びの中核的基盤(学習に必要な基礎的なスキル・知識・態度)」「変革を起こすコンピテンシー(活躍するための行動特性や思考)」「振り返りのサイクル」が必要であると表しています。

私が一番重要だと感じているのは左上の『Co-agency』です。子供が成長する過程では、友達・仲間・家族・教師・コミュニティなどとの関わりは切り離せず、相互に関わり合うことが子供のさらなる成長へつながります。

実は、幼児教育の時期からStudent Agencyを育むことは始まっていて、社会に出るまでに受ける教育(知識、スキル)を、長きにわたってみんなで育てに行こうとしています。
マイスターで生まれた協働体制を文化にしていく流れの中で、ラーニングコンパスもうまく推進されるといいなと感じています。
近田
これは都市よりも地方のほうが推進しやすい印象ですね。
山本
人口減少が深刻化していく過疎地域ですね。産業界の人口減少、学校側の生徒減少という危機感から、労働力の低下について同じ課題意識があり、共通のビジョンを持っていたので合意がスムーズでしたね。

地域起点でのムーブメント

近田
地域が起点となって探究したことで生まれた結果や、芽生えたものがあれば教えていただきたいです。
廣田
私が紹介したいのは、滋賀県の彦根工業高校のケースです。
学校で使っている機械の燃料を自分たちで作ろうとしたのがきっかけでした。
まずバイオ燃料を作るために植えた菜の花を回収して、滋賀県立大学とユーグレナにバイオ燃料を作ってもらいました。その菜の花の廃材をプラスチックにする技術を大学から学び、バイオプラスチックまで作ったんです。
その話を聞いた地元の製菓企業が、産業廃棄として出る卵の殻でバイオプラスチックを作れませんかと申し入れてくれて。高校生たちが卵の殻をバイオプラスチックにして、その企業が使う棚に活用しました。地域の企業が工業高校の知恵を使って研究開発をしてもらう代わりに寄付金を出すという良い循環が生まれたんです。
山本
私は坂井高校のスチューデントエージェンシーに関わるエピソードです。
坂井高校の生徒たちが「8コース共通して持ってもらいたい7つのコアコンピテンシー」を校訓から導き出し掲げました。これを高めるために、生徒会を中心に学校中の生徒に働きかけて、セルフ点検しながら旗振りをしていったんです。
その結果、7つのコアコンピテンシーが高くなった状態で坂井高校の卒業生として社会に出て活躍できる、というマインドが醸成されました。先生たちはあくまでも支援する形だったので、生徒たちの自律的な働きによって自己肯定感が高まっていったんですね。
近田
自己肯定感は先生の働きかけだけでは高められないと。
山本
そうですね、生徒自らが推進していくのが良い点だと思いました。教育の思想が3年間で根底的に変わったと感じています。
中森
私が支援した中では、小中高の生徒が相互学習した事例があります。
教員が介入せずに高校生が企画をして、小中学校に声をかけたんです。小中高の子供たちがオンラインでつながって、それぞれの探究学習の仕方を相談し合って相互に学びました。
探究したことを幼いころから発表したり接続することで、探究がより高度になったり深まりが出てくる。そういうことを子供たち自身でやり始めています。
実は学びって断絶が起こっているんですよ。小学校は総合的な学習の時間にふるさと学習をやるけれど、中学校と高校もそれぞれでやっていたりする。
廣田
産業界に横の断絶が起きていたとすれば、教育界は縦の断絶が起きているんですね。
中森
縦と横の両方の断絶をなくしていくことが必要になってきますよね。

 参考
【マイスター・ハイスクールの取組事例リーフレット】地域産業界とともに変革する専門高校へ

地域企業と探究する学校が協働し、つながり続ける

近田
生徒たちが社会に出てからの話になりますが、企業内であまり探究してこなかった人たちと接するうちに、段々と探究することが難しくなると思うんですね。
中森
自分のやりたいことをさせてくれない、主体的な学びを保証してくれない企業に対して、若手社員には譲れない意思がありますよね。今の学生からは主体性を伸ばそうという教育の成果を感じます。
これからはますますその傾向が加速していくので、売り手市場の中で多くの企業は変わらざるを得ないんじゃないでしょうか。
近田
若手社員としては主体的なこともやりたいという希望がある。企業側としては既存事業に加えて新規事業もやっていきたい。やるべきことが山積していますね。
山本
成果を出すことと探究を推進することのジレンマを突破しようとした試みとして、先程お話しした坂井高校のコンソーシアムがあります。これは坂井高校をハブとして「関わる地域の産業界のみなさんと一緒に学ぼう」ということをコンセプトにしています。
このコンセプトに賛同できる企業しか呼んでいないという背景もあって、基本的には人を派遣するとか事業協力することは寄付行為なんです。彼らが参加する研修会では、坂井高校で起きているいろんな事例に対して、自社の企業課題や推進していきたいことをどのようにつなげて、協働していくかを提案してもらいます。実現可能かを生徒が考えて、調整がうまくいったら形にしていこうという話になっています。企業としてはコンソーシアムに入っているからこそ事業を提案する機会が生まれ、それが生徒に刺さればプロジェクト化が始まります。これがもし機能するならば、企業のジレンマが解決するヒントになる気がします。
廣田
「探究の態度を持ち続ける」ことと「つながり続ける」ことの1つの解は「探究をしている学校と地域企業が協働し続ける」というのが、環境を作るうえではすごく大事な話なんじゃないかな。

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