AIを相棒に、思考する力を磨く ―― コミュニケーションの未来とは?世界のインターナルコミュニケーション最前線⑧
最終更新日:2025.12.16
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AIは競争相手ではなく、インターンであり、編集者であり、最良の同僚であって、適切に導けば、私たちをより明確で、より創造的で、より影響力あるコミュニケーターへと成長させてくれる存在なのです。ビジネスコミュニケーションの国際団体IABCのWeb誌’Catalyst’は8月21日、Tanya Pikula氏による記事”AI Can Make Us Better Thinkers, If We Let It“を掲載しました。
生成AIの登場は、コミュニケーションの世界に大きな衝撃を与えました。「初めてChatGPTを使った時の驚きは今でも忘れられません」とピクラ氏は振り返ります。旅行プランの作成、SNS投稿の下書き、メール文案、クリエイティブなアイデアまで、数時間かかる作業を一瞬でこなしてしまう、その圧倒的なスピードと流暢さに、「打ちのめされた」と言います。
しかし使い続けるうちに、見方は変わりました。AIを校正や簡単な下書きに使うだけでなく、思考を整理し、議論を深め、表現を磨く「思考の相棒」として活用できるようになったことで、AIはより深く考え、創造的に仕事に取り組むための心の余白を生み出してくれる存在になったのです。「力を奪われるどころか、力を得たように感じました」とピクラ氏は言います。
戦術から戦略へ ―― 大局を見る力を養う
若手のコミュニケーターは日々、SNS投稿、データ分析、ニュースレター作成などに追われがちです。しかし「なぜそれをやるのか」「組織の戦略や文化とどうつながるのか」という大局的な視点が抜け落ちやすいのも事実です。
そこでAIが役立ちます。単純な文章作成を任せることで時間が生まれ、より本質的な問いに向き合えるようになります。例えば「医療ボランティア活動」の記事を書くとき、心温まる体験談を並べるだけではなく、「世代間交流が高齢化の理解をどう変え、医療制度にどう影響するのか」といった大きな視点に踏み込むことができるのです。
AIは、初稿や戦術的コンテンツの生成を支援することで、私たちの時間を解放し、より深い探究に割く余力を与えてくれるのです。もはや単に新しいプログラムや記念日について素早く社内報記事を作成するだけではありません。若手の専門家も、自分の仕事を「さまざまなプログラムがどう相互に作用しているのか」「メッセージが業界全体の状況とどう比較できるのか」「そして何より、組織の使命や戦略的優先事項とどう一致しているのか」という理解を持って取り組むことができるし、そうすべきなのです、とピクラ氏は強調します。
「実際、私たち全員に、コミュニケーションがどのように組織の中核目標を支援し前進させるのかを、より深く考える機会が訪れています。このマインドセットはコンテンツを際立たせ、関連性を保ち、思考を刺激する会話を誘発します。最終的に、それは私たち自身と組織を「思慮深いリーダー」として位置づけることにつながります。」

コミュニケーターが切り開く未来志向のAI戦略 世界のインターナルコミュニケーション最前線⑤
この記事では、急激に変容し続ける世の中で、この先の将来、企業のコミュニケーション部門、コミュニケーション職に…
<AIで時間を作り、戦略思考に使う>
■ ステップ1: AI化できる作業リスト(今週のあなたの作業を書き出し、AIに任せられるものをチェック)
・定例報告書の初稿作成 → AI化可能度:高
・SNS投稿文のバリエーション作成 → AI化可能度:高
・業界トレンドの要約 → AI化可能度:中■ ステップ2: 生まれた時間で取り組む戦略的問い
(例)
・私たちの広報活動は、経営目標のどの部分に最も貢献しているか?
・今年の社内コミュニケーションで見えてきた課題の本質は何か?
・他部門との連携で生まれる新しい価値は?
プロンプトはリーダーシップの訓練
AIへの指示(プロンプト)は単なる命令ではなく、新しいリテラシーです。背景を伝え、制約を示し、問いを立て、フィードバックを繰り返す――まさに「人を導く」スキルに通じます。若手がAIを使いこなす過程で、将来必要となるリーダーシップ力を育てることもできるのです。
研究でもこの効果が裏付けられています。AIを活用した学生は、単純作業を減らし、概念的な思考に集中できるようになり、批判的思考力や判断力が高まると報告されています。つまり、AIを「主体的に活用する」ことで、思考の深さそのものが磨かれていくのです。
すぐ使える!プロンプト作成5つのコツ(優れたプロンプトは優れたコミュニケーション)
1.背景を伝える:「当社は医療機器メーカーで、主要顧客は病院です」
2.制約を示す:「200字以内で、専門用語を避けて」
3.トーンを指定:「前向きだが誇張しない、信頼感のあるトーン」
4.例を示す:「過去の良い例はこれです:〇〇」
5.フィードバックループ:「この点をもっと具体的に」と修正依頼
コミュニケーターだからこそできるAI活用
AIはすべてを知っているわけではありません。組織の事情や文化的な背景、何を伝えるべきで何を控えるべきかを理解しているのは私たち人間です。
だからこそ、AIを導く「指揮者」としての役割がコミュニケーション専門職には求められています。
「幸いなことに、コミュニケーションの専門家はAIを適切にプロンプトし導くための独自の適性を持っています」とピクラ氏は指摘します。私たちは、しばしば組織の「結合組織」として、部門横断的に働き、技術的な最新情報をわかりやすい公共メッセージに翻訳し、政府政策からメディアの言説、内部士気まで幅広く注意を払っています。
私たちは単に書くだけでなく、統合し、文脈を与え、戦略や価値観、タイミングと整合させるのです。何が重要か、何が響くか、何を言うべきかあるいは言うべきでないかを理解しています。ルーチン作業をAIに委ねることで、私たちは戦略的なレベルでストーリーテリングに集中でき、より深い知的関与と先見性を発揮できるのです。
これからの価値は「言葉」より「思考」
AIの進化で、誰もがある程度は上手な文章を書けるようになりました。だからこそ、これから重視されるのは文章の巧拙ではなく、アイデアの独自性、視点の深さ、思考の広がりです。異なるトレンドを結びつける力、タイミングやトーンを理解する力、コンテンツをより大きな戦略的または文化的文脈の中で位置づける力が重要なのです。最も重要なのは「思考のリーダーシップ」です――単に情報を伝えるのではなく、挑戦し、刺激し、共鳴を呼び起こすコミュニケーション。これがコミュニケーションの未来です。
問いを立て、つながりを見出し、未来を想像し、方向を示す――機械にはできない「人間ならではの思考」に集中する余裕をAIは与えてくれます。文法や表現の不安に縛られず、誰もが自分の考えを発信できる時代。「真に価値があるのは、磨かれた言葉ではなく、そこに込められた質の高い「思考」そのものです」とピクラ氏は結んでいます。
1 Studies in Higher Education, “The Influence of AI Text Generators on Critical Thinking Skills in UK Business Schools”
2 “Enhancing Critical Thinking: Exploring Human-AI Synergy in Student Cognitive Development”
3 “The Effect of Generative Artificial Intelligence (AI)-Based Tool Use on Students’ Computational Thinking Skills, Programming Self-Efficacy and Motivation”
