インターナルコミュニケーション世界トレンド2025:AIとDXで変わる組織の未来と日本企業の処方箋 世界のインターナルコミュニケーション最前線③
最終更新日:2026.02.09
目次
グローバル規模でビジネス環境が激変する中、インターナルコミュニケーション(社内広報)の役割は、「情報の伝達」から「組織の変革ドライバー」へと劇的に進化しています。かつては社内報やイントラネットでの一方的な通達が主でしたが、現在では経営戦略の浸透、従業員エンゲージメントの向上、そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の核として機能することが求められているのです。
特に2025年を見据えた現在、生成AIの台頭やハイブリッドワークの常態化により、従業員と企業のつながり方は再定義されつつあります。米国ギャラップ社の調査によれば、世界の従業員エンゲージメントは低迷傾向にあり、特に日本企業においては「熱意あふれる社員」の割合が依然として低い水準に留まっています。2024年報告では 日本の従業員エンゲージメントはわずか6% 翌2025年報告ではわずかに増て7%となっています。
ツールの導入は進んでも「従業員の心が離れている」「戦略が現場に伝わらない」といった本質的な課題に、多くのリーダーが頭を悩ませているのではないでしょうか。
本記事では、海外のインターナルコミュニケーション関連記事から、世界の潮流や新しいノウハウをご紹介する当シリーズの第3弾として、ビジネスコミュニケーターの国際団体IABCによる報告書、”The Future of Communications: 6 Trends to Watch in 2021 and Beyond”をベースにしつつ、最新の2024-2025年のグローバルトレンドと日本企業の最新実態を大幅に加筆・再構成しました。
ビジネスコミュニケーターの国際団体IABCによる報告書、および「IABCトレンド・ウオッチ・タスクフォース」の洞察に加え、弊社ソフィアの調査では、国内大企業の従業員496名を対象とした「インターナルコミュニケーション実態調査2024」を実施し、そこから見えてきた「組織の断絶」のリアルなデータをエビデンスとして活用しています。これからの企業コミュニケーションにおける新潮流と、日本企業が取るべき具体的対策を詳しく見ていきましょう。
これからの企業コミュニケーションにおける「6つのトレンド」
それでは、これからの企業コミュニケーションにおける「6つのトレンド」を一つずつ詳しく見ていきましょう。
トレンド1:コロナ後の働き方・職場のあり方が差別化要因
ハイブリッドワークの定着と「オフィス回帰」の攻防
リモートワークにするか、オフィスに出勤するか、ハイブリッドにするか。いずれにせよ、これからの職場の働き方が組織に大きな影響をもたらすことは間違いありません。
2025年現在、パンデミックを経て多くのグローバル企業が「オフィス回帰(RTO: Return to Office)」と「柔軟な働き方」の間で揺れ動いています。AmazonやGoogle、Zoomといったテックジャイアントが週3日以上の出社を義務化する一方で、Spotifyのように「Work From Anywhere」を継続し、人材獲得の武器とする企業もあり、対応は二極化しています。
インターナルコミュニケーションを担当する部門は、リモートワークやハイブリッド環境の中でも、いかにして組織内のアライメントを推進し、望ましい組織文化を育み、社員のモチベーションを保ち、そしてもちろん、業務の生産性を維持するかが問われることになります。物理的に離れた場所にいる従業員同士をつなぎ、偶発的なイノベーション(セレンディピティ)をどう生み出すかは、デジタルツールの活用だけでなく、オフィスという「場」の意味づけにかかっているのです。
トレンド・ウオッチ・タスクフォースのメンバーのマイク・クライン氏は、IABCのWeb会員誌 ‘Catalyst’に寄稿した”The Workplace Is Emerging as the Differentiator for Employees”『従業員にとっては職場の働き方が差別化要因』の中で、このトレンドを掘り下げて説明しています。
クライン氏がまず重要なこととして指摘しているのは、企業がたとえ同じ選択をしたからといって、その影響は同じにはならないということです。つまり、企業にとって答えは一様ではないのです。また、業種によってもその選択は一様ではありません。当初GoogleとTwitterは、リモートワークを続けるとする一方で、Netflixはなるべく早くオフィス勤務に戻すとしていました。その後、状況の変化とともに今でも試行錯誤は続いています。
ここで重要なのは、経営層が決定した働き方のポリシーを、いかに納得感(Why)を持って従業員に伝えられるかです。弊社ソフィアの調査では、社内コミュニケーションの課題を感じる対象として「部門間」の壁(58%)や「上司と部下」(51%)との関係性が上位に挙がっています。ハイブリッド環境下では、意図的にコミュニケーションの機会を設計しなければ、部門を超えた連携や、上司部下間の信頼構築が希薄化するリスクがデータとして裏付けられています。
従業員体験(EX)としての働き方と人材獲得
また従来オフィス勤務が当たり前であったところに、リモートワークとハイブリッドが選択肢に加わったことで、職場環境の変容が引き金となって業務のアウトソース化、海外・オフショアへの転換が起こることもありえます。
どの選択肢になるにせよ、従業員が最も影響を受けることになります。会社によっては、リモートワークを認める代わりに給与体系の見直しを迫ることもありえるでしょう。ハイブリッド方式の場合、住居を通勤圏に限るかもしれません。リモートワークを選ぶ場合、従業員の結束を固め、つなぎとめるために、従来の人事部による対面式の集合研修に変わるプログラムが必要になります。それぞれのアプローチは、異なる組織文化をもたらします。いずれにせよ、従業員にとっては一大事です。転職を考える人は、転職先企業の働き方が大きな関心事になります。パンデミックを理由に職場の配置転換を経験した従業員は特に影響されるでしょう。
2025年の人材市場において、働き方の柔軟性は給与と並ぶ重要な「報酬」の一部とみなされています。特にデジタルネイティブ世代や、介護・育児と仕事を両立させたい層にとって、企業の柔軟性は選社基準の最上位に来ます。インターナルコミュニケーション部門は、採用広報(エンプロイヤーブランディング)とも連携し、自社の働き方がいかに従業員のウェルビーイングに寄与しているかを、内部・外部双方に一貫性を持って発信する責務があるのです。
ステークホルダーからの圧力とESG経営
会社にとっては、どの選択肢を選ぶにせよ、ステークホルダーからの追及は強まり、環境への負荷やコストの面で一層のプレッシャーを受けることになります。オフィス勤務の場合、通勤による影響や排出ガスの環境負荷が問われます。ハイブリッドの場合は最も経費がかかることになります。アウトソースやオフショアを選択する場合は、雇用を失う従業員から反感と抵抗を受けるかもしれません。
クライン氏は、働き方の変更をプロアクティブにうまく対処できなければ、従業員による混乱やゴタゴタを顧客や消費者から隠し通すことは難しいでしょうと述べています。内部の混乱は、SNSなどを通じて瞬時に外部へ拡散されるリスクがあるため、社内広報と社外広報の境界線はもはや存在しないと考えるべきです。
トレンド2:コミュニケーション職はDE&Iを体現すべき
「多様性」から「公正性(Equity)」への進化
グローバル企業に限らず、コミュニケーション部門の担当者は、ますます多様化する対象にむけてコミュニケーションするようになりました。これは、世界の多様な関係者と対話を重ねることで、コミュニケーション職の専門性を高める好機でもあります。翻って、コミュニケーション部門のチーム構成は、真に多様な背景と経験を体現しているでしょうか。人種、性別、身体障害者の多様性を受け入れる手本となっていますか。
IABCはこのようなトレンドを指摘していますが、日本の企業組織の中には、まだまだ日本はそこまで考えなくていいのではないかと思っている人も多いことでしょう。しかし、Diversity & Inclusion(多様性と受け入れ)が、いかに生産性や創造性、イノベーションを高める>か、いくつもの研究調査で明らかになっています。さらに2020年の”Black Lives Matter”(黒人の命を軽んじるな)の抗議行動が社会的なうねりとなって、人々は「Equity:公正」を求めるようになりました。今ではdiversity, equity and inclusion (DE&I)で語られるようになっているのです。つまり、公正な姿にするための積極的な是正が企業にも求められているのです。
トレンド・ウオッチ・タスクフォースのメンバーのシャニーク・パークス氏は、IABCのWeb会員誌 ‘Catalyst’に寄稿した“Diversity, Equity and Inclusion (DE&I) Policies Have Evolved — Have We? Communicators Can Take the Next Step to Propel the Profession Forward”『DE&Iポリシーを進化させたか、コミュニケーターの専門性を一歩進める好機』の中で、このトレンドを説明しています。
パークス氏は、コミュニケーション部門の専門家チームは、日々の仕事の中で、DE&Iポリシーを実践する手本となり、その価値を具現化するというユニークな立場にあると指摘します。その一方で、私たちは、DE&Iが国や地域ごとに異なるものであることを認めなければなりません、と強調します。構成員の多様性、無意識の偏見、是正のための積極的差別などの問題は、コミュニケーションの担当者が実際に直面していないと認識するのが難しく、解決するのは必ずしも容易ではありません。DE&Iポリシーへの関心が長続きしない可能性がある中で、今考慮すべき点は3つあるとパークス氏は言います。
ニュース性の低いDE&Iポリシーについては、もっと議論する必要があります。障害は代表権を得ているか、職場における世代間に代表権の不平等はないか、言語によるコミュニケーションの障壁はないか、信仰やその他の宗教上の必要措置は施されているかなどです。
ブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter)と呼ばれる抗議活動は世界各地で話題になりましたが、人種問題に対応して「公正」であることを重んじた新たなポリシーを策定しようという動きは、北米とヨーロッパに見られる程度と限定的です。その他の地域では、多国籍企業のグローバル方針が変化のきっかけとなっているものの、現地では必ずしも浸透していません。DE&Iポリシーを見直す中で、この点も考慮することが求められるでしょう。
コミュニケーション部門は、DE&Iポリシーを企業文化に定着させるために重要な役割を担っています。イノベーション、従業員エンゲージメント、レピュテーションの向上のために、多様性を受け入れるインクルーシブな職場環境の価値を紹介することが求められていますが、従業員がリモートワークするようになり、この役割はより困難になっています。さらに、この役割に照らして、多くのコミュニケーション担当者が、自らの偏見やコミュニケーション部門の人員構成における多様性に疑問を持ち、模範とならなければならないと考えています。
経営陣にとっては、DE&Iポリシーを組織戦略に組み込み、継続性を確保することが重要です。そうすることで、従業員は納得し、CSR活動を強化することができます。
従業員にとっては、多様性を受け入れるインクルーシブな職場では、自分が大切にされていると感じ、意欲的に働くことができます。しかし、DE&Iに関する発表やポリシーがいかに立派でも、言動不一致で企業文化にまで根付いていなければ、従業員の間に不信感が芽生える可能性があります。
コミュニケーション部門の担当者にとっては、DE&Iポリシーを伝える立場にあるコミュニケーションチームが、組織内で推進している価値観を体現しているかどうか、従業員から厳しくチェックされるでしょう。
コミュニケーション部門が果たすべきモデル的役割
トレンド・ウオッチ・タスクフォースのメンバーのシャニーク・パークス氏は、IABCのWeb会員誌 ‘Catalyst’に寄稿した”Diversity, Equity and Inclusion (DE&I) Policies Have Evolved — Have We? Communicators Can Take the Next Step to Propel the Profession Forward”『DE&Iポリシーを進化させたか、コミュニケーターの専門性を一歩進める好機』の中で、このトレンドを説明しています。
パークス氏は、コミュニケーション部門の専門家チームは、日々の仕事の中で、DE&Iポリシーを実践する手本となり、その価値を具現化するというユニークな立場にあると指摘します。その一方で、私たちは、DE&Iが国や地域ごとに異なるものであることを認めなければなりません、と強調します。構成員の多様性、無意識の偏見、是正のための積極的差別などの問題は、コミュニケーションの担当者が実際に直面していないと認識するのが難しく、解決するのは必ずしも容易ではありません。DE&Iポリシーへの関心が長続きしない可能性がある中で、今考慮すべき点は3つあるとパークス氏は言います。
ニュース性の低いDE&Iポリシーについては、もっと議論する必要があります。障害は代表権を得ているか、職場における世代間に代表権の不平等はないか、言語によるコミュニケーションの障壁はないか、信仰やその他の宗教上の必要措置は施されているかなどです。
ブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter)と呼ばれる抗議活動は世界各地で話題になりましたが、人種問題に対応して「公正」であることを重んじた新たなポリシーを策定しようという動きは、北米とヨーロッパに見られる程度と限定的です。その他の地域では、多国籍企業のグローバル方針が変化のきっかけとなっているものの、現地では必ずしも浸透していません。DE&Iポリシーを見直す中で、この点も考慮することが求められるでしょう。
コミュニケーション部門は、DE&Iポリシーを企業文化に定着させるために重要な役割を担っています。イノベーション、従業員エンゲージメント、レピュテーションの向上のために、多様性を受け入れるインクルーシブな職場環境の価値を紹介することが求められていますが、従業員がリモートワークするようになり、この役割はより困難になっています。さらに、この役割に照らして、多くのコミュニケーション担当者が、自らの偏見やコミュニケーション部門の人員構成における多様性に疑問を持ち、模範とならなければならないと考えています。
日本企業においては、DE&Iを「女性管理職比率」や「障がい者雇用率」といった数値目標の達成だけで捉えがちですが、インターナルコミュニケーションの文脈では「心理的安全性(Psychological Safety)」の確保が重要になります。「誰でも自由に意見が言える」「異なる意見が尊重される」という空気感を、社内報やタウンホールミーティングを通じて醸成することが求められます。弊社ソフィアの調査では、「部門内_上司と部下」のコミュニケーションに課題を感じる層が半数(51%)を超えており、上意下達の文化が根強い中で、心理的安全性の欠如が組織の硬直化や若手の離職を招いている可能性があります。
経営陣にとっては、DE&Iポリシーを組織戦略に組み込み、継続性を確保することが重要です。そうすることで、従業員は納得し、CSR活動を強化することができます。
従業員にとっては、多様性を受け入れるインクルーシブな職場では、自分が大切にされていると感じ、意欲的に働くことができます。しかし、DE&Iに関する発表やポリシーがいかに立派でも、言動不一致で企業文化にまで根付いていなければ、従業員の間に不信感が芽生える可能性があります。
コミュニケーション部門の担当者にとっては、DE&Iポリシーを伝える立場にあるコミュニケーションチームが、組織内で推進している価値観を体現しているかどうか、従業員から厳しくチェックされるでしょう。
心理的安全性とは?定義や意味と誤解、本質的に高い職場状態や高める方法について解説!
注目されている概念に心理的安全性があります。心理的安全性の概念とは、取り入れる方法とは。本記事では、その起源…
トレンド3:ネット社会における「プライバシー」と「倫理」の問題に直面
行動データの活用と「監視」の境界線
“Internet of Behaviors”という言葉を昨年、ガートナー社が使い始め、「振る舞いのインターネット」などと訳されるようになりました。個人がこうすると明言していなくても、個人の取る行動を知り、追跡できるようになることは、マーケターの夢であるかもしれませんが、プライバシーの侵害だとして倫理的に問題となるかもしれません。現実には、その間でバランスをとることにありそうですが、確かなことは、テクノロジーによって、個人の日常的なやりとりまで把握し、それに対応し、さらにはそれを予測する能力が飛躍的に高まっているということです。コミュニケーション部門の担当者は、ここでもテクノロジーと人間の間に介在していて、この新しいテクノロジーを良い方向に使うことの意味と責任を理解することができる立場なのです。
2025年のトレンドとして、AIによる「従業員センチメント分析(感情分析)」の導入が欧米を中心に進んでいます。社内のチャットツールやメール、アンケートの回答から、従業員のエンゲージメントレベルや離職リスクをAIが予測する技術です。例えば、MicrosoftのViva Insightsなどは、働き方のパターンから燃え尽き症候群(バーンアウト)のリスクを可視化します。これは組織改善に役立つ一方で、「自分の感情や行動がAIに分析されている」という事実が、従業員に「監視されている」という不信感を与える可能性もあります。
テクノロジーと人間の間の倫理的番人
現実には、その間でバランスをとることにありそうですが、確かなことは、テクノロジーによって、個人の日常的なやりとりまで把握し、それに対応し、さらにはそれを予測する能力が飛躍的に高まっているということです。コミュニケーション部門の担当者は、ここでもテクノロジーと人間の間に介在していて、この新しいテクノロジーを良い方向に使うことの意味と責任を理解することができる立場なのです。
DX推進部門や広報部門は、データの利用目的を透明化し、「監視のためではなく、働く環境を良くし、従業員をサポートするためにデータを使う」というメッセージを明確に発信する必要があります。倫理的なガイドラインを策定し、テクノロジーの進化が従業員の尊厳を損なわないよう監視する「ゲートキーパー」としての役割が求められます。
このトレンドは、6月末に開催されたIABCワールドカンファレンスでも取り上げられているので別の機会に詳しく報告します。
トレンド4:人々をつなぐヒューマンストーリーを探して深堀りする
データの時代だからこそ「物語」が響く
コミュニケーション担当者は、企業やコミュニティの重要なハブの役割を担っていて、人間の体験を組織のミッションやイニシアチブ、さらには日々の運営に結びつけて伝えることができる立場にあります。世界的なパンデミックは、悲しみ、暴力、経済的・精神的な混乱などを引き起こし、人々に大きな打撃を与えました。コミュニケーションには、事実を伝えるだけでなく、感情を共有し、視覚的に直感的にストーリーを伝え、変化を促す力があります。
無機質な数値目標や戦略のスローガンだけでは、従業員の心は動きません。2020年に世界のあちこちで都市がロックダウンされたとき、ニュースに流れていた映像を思い出してください。パンデミックの最中に、医療従事者が病院から出てきて帰宅する際に、世界中の人々が窓から身を乗り出したり、自転車を止めたり、鐘を鳴らしたりして、皆で拍手を贈っていました。私たちはここに変わらぬコミュニケーションの未来を見る思いがしました。それは人間らしさです。我々は皆、人間らしさでつながっているのです。
戦略的ナラティブと動画活用
2025年のインターナルコミュニケーションにおいて、ショート動画(TikTokやInstagram Reelsのような縦型短尺動画)やポッドキャストが社内でも主流になりつつあります。CEOの長文メッセージよりも、現場社員が自身の成功体験や苦労話を語る1分の動画の方が、遥かに高いエンゲージメントを獲得するケースが増えています。
弊社ソフィアの調査では、経営戦略への共感がわずか1割にとどまるという衝撃的な結果が出ています。これは戦略が「自分事」になっていないことが最大の要因です。戦略を現場の文脈に翻訳し、「あの部署の〇〇さんが、この戦略を使ってどう課題を解決したか」という具体的な物語(ナラティブ)として発信することが、共感を生む鍵となります。データを羅列するのではなく、その背後にある「人の想い」や「苦悩と克服」のストーリーを発掘し、共有する仕組みを作ることが、組織の一体感を高めます。
トレンド5:嘘情報やディープフェイクを見破り、企業の立場を明確にする
偽情報(Disinformation)との戦い
世界で最大手のPR会社であるエデルマンが行った調査によると、2020年、事実とされたことに対して人々の不信感が高まり、あらゆるメディアに対する信頼低下が世界的に加速しました。今、意図的な偽情報の流布が脅威となり、その結果、悪影響を及ぼしています。
トレンド・ウオッチ・タスクフォースのジョアン・ヘンリー議長は、IABCのWeb会員誌 ‘Catalyst’に寄稿した”Disinformation and Deepfakes Fuel Growing Mistrust”『偽情報とディープフェイクが不信感を募らせる』の中で、このトレンドを説明しています。
世界の多くの地域で国民の分断や部族主義が台頭し、同じ見解をすでに共有する人々だけに特定のニュースを届ける狭義の報道が拡大しています。特にソーシャルメディアのフォーラムでは、情報源となる自称専門家が入れ替わりで自由に飛び入り参加し、コンテンツや情報源のチェックは、群衆の考えに応じて基準が変わるなど、一貫性がありません。見たいニュースだけを読み、信じたいニュースだけを信じる、こうした行動が一層分断を深め、対立に拍車をかけているのです。
テクノロジーによるリスクの増大
メディアへの信頼性低下は、対極化した偏見と結びついていますが、それだけではありません。二極化を深めているかもしれないトレンドとして理解しておきたいのは、ディープフェイクのようなニュースや情報を操作するテクノロジーが急速に高まっていることと、巨大なニュースプラットフォームがパワーを集めながら成長し、寡占化が進んでいることです。これには、ケーブルTV、ネットワーク、出版を含むコングロマリットや、Google、Facebook、Snapchatなどのプラットフォームが含まれます。
ディープフェイクは、コミュニケーションの信頼性に大きなリスクをもたらしています。人工知能(AI)の「deep learning 深層学習」と「fake偽物」が融合したもの、つまりディープフェイクは、顔認識や音声技術を用いてAIによる合成メディアを作り出します。元NATOのサイバーセキュリティ専門家によって設立され、主に政府機関の顧客のためにこれらを検出するグローバル組織「World Economic Forum (WEF) が 」によると、オンライン上のディープフェイクの数は昨年1年間で900%増加し、60億回近い再生回数を記録しています。例えば、米国下院議長のナンシー・ペロシ氏、英国の大手金融機関、Amazonのジェフ・ベゾス氏、テスラのイーロン・マスク氏などのリーダーたちが狙われました。ガボンの国では、体調を崩していた大統領のディープフェイクと思われる動画が出回り、実際にはディープフェイクではなかった可能性が高いものが、ある種の疑念を生みきっかけとなり、クーデター未遂が起きました。
企業の「信頼の防波堤」としての役割
2021年1月25日、Twitter社は、偽情報と戦う新しいツール「Birdwatch」をリリースし、クラウドソーシングでコンテキスト、情報、情報源を集め始めました。以来、多くのSNSチャネルでは、何でもかんでも偽情報と呼ぶのは危険だと主張する声が上がっています。またトランプ前大統領ら政府高官がソーシャルメディアのアカウントを停止されたことを受けて、プラットフォームによる過失、言論の自由、検閲について熱い議論が交わされています。
社外に偽情報が溢れる時代において、従業員にとって最も信頼できる情報源は「雇用主(自社)」であるべきです。エデルマンの信頼度調査(Trust Barometer)でも、ビジネスに対する信頼は政府やメディアよりも高い傾向にあります。インターナルコミュニケーション担当者は、外部のノイズやフェイクニュースから従業員を守り、正確な情報をタイムリーに提供する「ゲートキーパー」としての役割が求められます。
今、コミュニケーション部門担当者は、企業や組織の立場を明確にすることが求められています。必要となる新たなスキルとしては、組織のメッセージを外に向けて確実に発信させる能力や、組織内でディープフェイクや偽情報を特定して被害を食い止めるためのリソースを確保する能力などが挙げられるでしょう。
トレンド6:透明性は諸刃の剣:信頼回復にも失墜にもなりうる
ラディカル・トランスペアレンシー(徹底的な透明性)
企業組織が根強い不信感に見舞われたとき、最も確実な対処法は完璧な透明性を確保することだと思われます。私たちは何者なのか、何のために存在しているのか、どこで過ちを犯したのか、雇用はどのようにしているのか、皆さんの給料や私の給料は何から支払われているのかなど、あらゆることを公開することです。
コミュニケーション職の間では、「透明性」と「authenticity:真正性」という言葉は、会社のスローガン以上の意味を持っています。しかし、根本的に透明性を確保することは、言うは易く行うは難しです。コミュニケーション担当者は、自問しなければなりません。このように透明性を確保することで、「あなたが本当に言いたいことは何ですか?」 さらに重要なのは、透明性で掲げたことを「どこまで自ら遵守できますか?」ということです。慎重に選んだ言葉に、行動が伴わなければ、逆に不信感は深まり、さらに傷跡が残ってしまうでしょう。
言行一致が信頼のカギ
コミュニケーション担当者は、自問しなければなりません。このように透明性を確保することで、「あなたが本当に言いたいことは何ですか?」さらに重要なのは、透明性で掲げたことを「どこまで自ら遵守できますか?」ということです。
例えば、経営陣が「従業員のウェルビーイングが最優先」と発信しながら、実際には長時間労働を黙認したり、リソース不足を解消しなかったりすれば、その透明性は「偽善」と受け取られます。これを「言行不一致(Say-Do Gap)」と呼びます。
慎重に選んだ言葉に、行動が伴わなければ、逆に不信感は深まり、さらに傷跡が残ってしまうでしょう。2025年のインターナルコミュニケーションでは、発信されたメッセージと実際の従業員体験(EX)が一致しているかを常にモニタリングし、ギャップがあれば経営層にフィードバックする勇気(Speaking Truth to Power)が求められます。
以上がIABCトレンド・ウオッチ・タスクフォースが掲げた6つのトレンドです。参考にしてみてください。
トレンド7:AI活用と「人間中心」の業務変革
生成AIの浸透とコミュニケーション業務の変容
2024年から2025年にかけての最大の変化は、生成AI(Generative AI)の実務への本格導入です。MicrosoftやSalesforce、Unileverなどのグローバル先進企業では、AIが社内コミュニケーションのあり方を根本から変えています。
グローバル企業のAI活用事例
Microsoftの事例: 同社は「Viva Engage」などのプラットフォームを活用し、AIを用いて従業員の関心事を分析しています。AIがリーダーの発信すべきトピックを提案し、メッセージの下書き作成や多言語翻訳を自動化することで、コミュニケーションのスピードと質を向上させています。また、AIを活用して従業員の声をリアルタイムで収集・分析し、組織の健全性を測るパルスサーベイの高度化を実現しています。
Unileverの事例: マーケティングだけでなく社内業務においてもAIを活用しています。2024年末までに23,000人の従業員にAIトレーニングを実施し、業務の自動化や意思決定の迅速化を進めています。また、AIを活用してサプライチェーンや顧客との連携を最適化し、その成果を社内に共有することで、DXへの納得感を高め、「イノベーションを起こす文化」を醸成しています。
DHLの事例: 現場(デスクレスワーカー)をつなぐためのモバイルファーストなアプリ「Smart Connect」を導入。AIを活用して多言語対応やパーソナライズされた情報配信を行い、物流現場の社員とオフィス社員の分断を解消しています。
AIはツールであり、主役ではない
しかし、AIはあくまでツールです。「AI-Driven Personalization(AI主導のパーソナライゼーション)」が進む一方で、コンテンツの最終的な責任と「魂」を吹き込むのは人間です。AIが生成した文章そのままでは、従業員に「無機質」「手抜き」と感じられるリスクがあります。AIを「下書き」や「分析」に使い、最終的なメッセージには担当者の熱意や文脈(コンテキスト)を乗せることが、これからのスキルセットとなります。
トレンド8:マネージャーの役割再定義と「1on1のパラドックス」
結節点としてのミドルマネージャー
組織のコミュニケーションにおいて、最も負荷がかかり、かつ重要なのがミドルマネージャー(中間管理職)です。Gallupの調査によると、チームのエンゲージメントの70%はマネージャーの質に依存しています。ハイブリッドワークやDXにより、トップからの情報を現場に翻訳して伝え、現場の声を吸い上げるマネージャーの役割は過重になっています。世界的に見ても、マネージャーのエンゲージメントは低下傾向にあり、彼らをどう支援するかが喫緊の課題です。
日本企業における「1on1」の実態とパラドックス
ここで注目すべきは、弊社ソフィアの調査による最新の結果です。弊社ソフィアの調査では、社内コミュニケーション促進の取り組みとして「1on1」が最も多く実施されている(上位)一方で、「効果を感じない施策」としても「1on1」が挙げられるというパラドックスが確認されています。
なぜ1on1は機能しないのか?
このデータは、1on1が「手段の目的化」に陥っていることを示唆しています。
対話の質の欠如: 単に時間を設けて業務報告をするだけでは、信頼関係もエンゲージメントも向上しません。
マネージャーのスキル不足: 心理的安全性を担保した対話や、キャリア支援のコーチングスキルを持たないまま1on1を強要されています。
目的の曖昧さ: 何のために話すのかが共有されておらず、双方が「時間の無駄」と感じているケースが散見されます。
世界的なトレンドでも、マネージャーへのコミュニケーション・トレーニングや、対話をサポートするツール(AIによる会話分析やトピック提案など)の提供が、インターナルコミュニケーション部門の重要課題となっています。日本企業においても、単なる制度導入ではなく、マネージャーの「対話力」を高める教育支援が不可欠です。
トレンド9:データドリブンな戦略とROIの証明
「読まれたか」から「動いたか」へ
従来、社内広報の効果測定は「開封率」や「PV数」などの指標(Vanity Metrics:虚栄の指標)に留まりがちでした。しかし、DX推進部門や経営企画部門が主導する現代のインターナルコミュニケーションでは、ビジネスへの貢献度(ROI)を証明することが求められています。
測定すべき新たな指標
行動変容の測定: メッセージを受け取った従業員が、特定の研修に申し込んだか、新しいツールを使い始めたか、コンプライアンス遵守率が上がったか、といった具体的な「行動」を追跡します。
組織のベロシティ(速度): 情報がいかに速く正確に伝わり、意思決定のスピードが上がったかを測定する「Organizational Velocity」という概念も登場しています。情報伝達の遅延がビジネス機会の損失につながる現代において、コミュニケーションのスピードは競争力そのものです。
センチメントとリテンションの相関: 従業員サーベイの結果と離職率や生産性データの相関を分析し、コミュニケーション施策が組織の健全性にどう寄与したかを可視化します。
データ分析ツールを活用し、コミュニケーション施策と業績指標(売上、離職率、顧客満足度など)との相関を分析することで、インターナルコミュニケーションを「コストセンター」から「価値創出センター」へと転換させることが可能です。
まとめ
これまで見てきたトレンドと、日本企業の実態を踏まえ、これからのインターナルコミュニケーション担当者が取り組むべきは、以下の3つの要素を統合した戦略です。
対話 (Dialogue)
経営と現場、上司と部下の「本音の対話」を促します。形骸化した1on1を見直し、心理的安全性を確保した上で、双方向のコミュニケーションを設計します。経営層には「聞く力(リスニング)」を、従業員には「声を上げる力(スピーキングアップ)」を養う機会を提供します。
教育 (Education)
AIリテラシーやDE&I、コミュニケーションスキルの教育を通じて、従業員をエンパワーメントします。特にミドルマネージャーへの支援は急務です。彼らが「翻訳者」として機能できるよう、情報の背景や文脈を丁寧に伝え、伝えるスキルを強化します。
ツール (Tools)
生成AIや社内SNS、データ分析基盤を整備し、効率的かつパーソナライズされた情報伝達を実現します。ただし、ツールは導入して終わりではなく、それが「対話」や「教育」を加速させるために使われているかを常に検証します。
弊社ソフィアの調査では、これら「対話・教育・ツール」の三本柱をバランスよく強化することが、組織のコミュニケーション課題を解決する鍵であると提言しています。
世界は急速に変化していますが、組織を構成するのは「人」です。テクノロジーを武器にしつつ、人間らしいストーリーと倫理観を持って、組織の未来をデザインしていくこと。それが、これからのコミュニケーション担当者の使命です。






