レトリックとは?レトリックに含まれる3大要素とポイントを解説

政治家が大衆の心を動かし、ものごとの大きな流れを変える歴史的な節目などにはレトリックが使われてきました。古代ギリシャの雄弁家が残したレトリックは、弁論や説得などの場において、表現を豊かにし、相手の感情に訴えかけたいときに使用されます。また、レトリックの技術は現代のビジネスにおいても、文章作成や会議などさまざまなコミュニケーションの場面で活用されています。

そこでこの記事では、そもそもレトリックは何か、どのようなビジネスシーンで役立つのかを解説したうえで、レトリックを上手に活用するコツを紹介します。

レトリックとは?

まずはレトリック(rhetoric)の由来や、レトリックが必要な場面についてみていきましょう。

レトリックの意味

レトリックは、コミュニケーションの場において情報を発信する側が、受信側を説得したり、納得させたりするための、手法やテクニックです。レトリックは日本語で「修辞法」と訳されており、具体的な表現技法としては比喩、誇張、反語、倒置などがあります。海外では、説得やスピーチという文脈で用いられる場合が多く、プレゼンテーションのトレーニングでも、レトリックは欠かせないスキル項目になっています。本記事では、ビジネスにおけるレトリックの重要性や全体概要を中心に、テクニックや手法のいくつかご紹介していきます。

レトリックの両面性

第35代アメリカ合衆国ジョン・F・ケネディ大統領が1961年の大統領就任演説の中で聴衆に呼びかけた「国があなたのため に何ができるかではなく、あなたが国のために何ができるのか」というフレーズは、レトリックであるとされています。

ジョン・F・ケネディ大統領のスピーチを詭弁と認識するか、名スピーチと認識するかは、受け手によって意見が分かれます。スピーチの修辞法という側面だけではなく、聴衆側の状態や、スピーチが行われた背景、大統領の人格などの要素を、それぞれの受け手がどのようにとらえるかによって、見解は異なってくるのです。ここからわかるように、レトリックというのは、巧みな言葉やパフォーマンスで聴衆を説得し鼓舞する方法であると同時に、語り手の都合の良いように言いくるめる方法であり、詭弁にもなり得るという両面性があります。

コミュニケーションには発信者と受信者という二つの立場があります。発信側は、レトリックを理解することで、適切にレトリックを用いて効果的なコミュニケーションを展開することができます。受信側は、レトリックを理解することで、相手のレトリックを見抜き、相手のペースに巻き込まれずに本質的な議論に持っていくことができます。そして、優れたレトリックとは、それが発信側のレトリックであるということを受信側に認知されずに伝わるものを指します。もう少し具体的に見ていきましょう

レトリックの3つの体系

そもそもレトリックは、ギリシア語のレトリケに由来する言葉で、アリストテレス著書「弁論術」で弁論・説得の技法として紹介されているような、古くからある技法です。

著書の中でアリストテレスは、弁論・説得により得たい成果に合わせ、レトリックを以下の3つに体系化しています。

  • 法廷のレトリック
  • 演示のレトリック
  • 審議のレトリック

それぞれのレトリックについて解説します。

(1)評価=過去形=法廷のレトリック

相手の弁論や論述を評価するときは、「良かった」「悪かった」と過去形で語る、法定のレトリックを使います。

(2)価値=現在形=演示のレトリック

(1)から一歩踏み込み、相手の意見について自分の意見と相違を探りたいときは、「自分は良かったと思うけど君はどう思う?」と現在形で質問する、演示のレトリックを用います。

(3)選択=未来形=審議のレトリック
さらに評価を未来のアクションにつなげるため、「いくつか課題はあるけど次回に向けてどうすればよいか考えよう」と投げかけるのが審議のレトリックです。

レトリックが必要な場面

レトリックはライターや弁論や説得の場ばかりではなく、連絡や交渉、各種文章作成など、普段の仕事や生活の中でも全ての人が知らず知らずのうちに使っており、ビジネスにおいては重要なスキルです。そして、意図をもって活用するかそうでないかによってその効果は変わってきます。

ビジネスにおいてレトリックを生かせる場面としては、新規事業開発や新商品開発の担当者が上位者へプレゼンテーションを行う、上司が部下に対して業務への動機付けを行う、営業担当者が顧客に対して提案を行う、などのシーンが挙げられます。これらの場面においてレトリックを意識することで、発信側の説得力を強化し、コミュニケーションの効果を高めることができます。

また、新規事業のプレゼンテーションを受ける役員陣、1on1を受ける部下、提案を受ける顧客などは、レトリックを学ぶことによって発信側のレトリックを見抜き、レトリックの背後にある本質的な情報を理解することができます。

つまり、レトリックは言葉のキャッチボールに深みを持たせる要素であり、議論だけでなく相互理解にも役立つものなのです。

次に、レトリックの基本的な構造を説明します。

レトリックに含まれる3大要素

アリストテレスの弁論術に記されているレトリックの3大要素は、エトス(人柄)・パトス(感情)そしてロゴス(論理)です。つまり話し相手と信頼関係を築きつつ、熱意をもって働きかけ、論理を成立させるのです

エトス

エトスとは情報を発信する人・情報源に対する信頼を意味します。アリストテレスは3つの要素の中で一番重要であり、ロゴス(論理)以上に重要であるといっています。人間は「誰が情報を発信するか」によってその情報を信頼したり、疑ったります。

政治家や専門家、研究者が発信する情報や、それらの人々がお墨付きを与えた情報であれば、多くの人がその情報を信じるでしょう。発信者の持っている背景やポジション、価値観などを統合したものがエトスとなり、エトスは受信者が情報を判断する際に「この情報は信用できる/信用できない」というバイアスとして作用します。

エトスは、発信者の実績や経験、価値観がまず基本にあります。価値観やポリシーに一貫性がなく自己都合に見えればポジショントークと言われかねません。エトスは、発信者のそのものの評価や人柄を土台にして、説得する手法と言えます。つまり、一朝一夕で獲得することはできないとも言えます。実績、経験、肩書がないとエトスがない、レトリックができない、つまりは説得できないとなるでしょうか?

そんなことはありません

人種差別撤廃運動を率いたマーティン・ルーサー・キングの名スピーチ「I Have a Dream」はとても有名です。人種差別による貧困や格差に苦しむ人へのスピーチであるものの、その他多くの夢を持ち人たちに刺さるフレーズになります。つまり、キング牧師と聴衆の共通部分を言語化した内容です。

エトスは、発信者の実績や価値観が基本にあるものの、如何に受信者との共通部分を模索し、相手に寄り添っているかが、重要になります。

実際にビジネス現場では、役員に対して、社員に対して、部下に対して、顧客に対して、腹落ちと納得を生み出すために、相手を徹底して分析することです。相手の立場、役割、問題意識、周辺環境、心理状態、要望など多面的にできる限り知ることです。その上、共通項を見出し、強調し、同じであることを伝える事です。この活動自体は、相手に対する誠実性を生み出します。発信者と受信者の共通と共感を見出す活動がエトスを生み出します。

従って、テクニカルな手法として代表されるディコーラム(適切さ)のように、受信者に求める振る舞いや喋り方を選択したり、受信者の業界や組織に併せて業界組織特有の専門用語や特有に言い回しをしたり、相手の価値観や大儀を前提に進めるなど、相手を前提にした手法が多いです。

只、本質的には、エトスは手法というより姿勢に近い内容です。発信者が、受信者を分析し寄り添えるかという事にかかっています。

パトス

パトスとは受信者の感情や心情をくみ取った要素です。どんなに熱い言葉を並べても、情熱的であっても相手を説得できるわけでもありません。説得するには共感させる必要があります。発信者が喜怒哀楽を表現することで、受信者の感情を揺さぶり説得につなげることが必要です。

広告や宣伝業界では、パトスのテクニックや事例は数えきれないほど存在します。また、動画、アニメーションの表現技法も含めると、手法や技法の宝庫です。

これは、感情が理性を圧倒することあることは、知っているからです。パトスは、感情的に伝えるという事だけではなく、相手に感情移入させるという行為も必要です。

パトスを取り入れる手法の1つとして、ストーリーを語るという方法があります。ブランド戦略の大家、デービッド・アーカー氏によれば、ストーリーへの移入度合いが深まるほど、語り手の連想・信念・愛着・態度・行動・意図に関してプラスの感情が生じ、聞き手の批判的な思考が弱まると言っています。

例えば、新サービスや新事業のプレゼンテーションをする際には、製品・サービスの品質や優位性のあるデータをただ並べるよりも、実際にその製品やサービスを使った人や状況などを、映像や寸劇などのストーリーに変えて伝えることが非常に効果的です。ストーリーをより細かく設定し、詳細であればあるほど、聞き手の感情移入を促すことができます。

ロゴス

ロゴスとは論理立てて相手に説明することであり、説得される側にとっては相手の論理の整合性を判断することです。ロゴスは、論理による議論や会話の場で必要とされる要素です。論理の枠組みには、演繹法のように原理原則から個別の事例を当てはめる方法や、個別の事例から原則や法則を導き出す帰納法などがあります。

結果を重視するビジネスの現場において、論理立てた説明や説得、つまりロゴスが必要であることは当然です。しかし、実際のビジネス現場で行われる議論や説得においては、ロゴスだけでなく、エトスとパトスも混ざった状態であることが多いです。

一見論理的には整理されている主張でも、説得する側に有利な事実とデータのみを並べ立てていることもあります。説得される側は、説得する側のパトスとエトスを整理したうえで、論理の前提は何なのか、使われている言葉がどのように定義されているか、データは正しいか、根拠は適切か、どのようなフレームワークが使われているかなど、論理構成要素を批判的にチェックする必要があるでしょう。論理構成要素を疑う能力を得るためには、クリティカルシンキングやディベートなどが非常に役に立ちます。

レトリックを使用するシーン

ここでは、コミュニケーションにおいてレトリックを使用するシーンについて解説します。

合意形成の場面

レトリックの3大要素「エトス」「パトス」「ロゴス」は、議論や会議の中でリアルタイムに駆使されます。合意形成にレトリックを生かすのです。

まずは、発信者であるあなた(エトス)が相手にどのように受け取られるかを意識しなくてはいけません。相手があなたのポジションを認めているなら、こちら側の主張を前面に出し合意形成に持ち込むことも可能でしょう。そうでないなら、一歩引いたスタンスで相手の主張も受け入れることが求められます。

次はパトスです。エトスによって相手がそれぞれのポジションをわきまえていたとしても、発信者の主張に情熱がこもっていなければ相手の腹には落ちません。エトスによって強引に合意形成に持ち込むこともできるかもしれませんが、情熱が足りなければうわべだけの合意に陥る懸念があります。

また、合意形成ではロゴスも重要です。いくら相手の感情に訴えても、論理立てがなされていなければ相手を説得することができません。特に結果を重視するビジネスにおける場では、結果につながるような論理構成がされていなければ合意形成は難しいでしょう。論理的に相手を説得する際には、データ、根拠、フレームワークなどを利用しましょう。

相手の心をつかむ

聞き手の感情に影響を与えるためには、話の論点を上手く整理し、自身に有利な立場を築くことも大切ですが、無理やり感があってはいけません。聞き手の信頼をつかむためには、心をほぐし、好感を抱かせる必要があります。自然と相手の「YES」を引き出すためにも、レトリックは有効です。

相手の議論から身を守る

レトリックを学べば相手のレトリックを読み取り、本当に相手を信頼出来るのか、相手の私利私欲のみが動機となっていないか、相手の提案が自分にとっていいものか見極めることができます。同時に、相手の誤りも見抜けます。

レトリックがないとどのようなことが起きるか?

レトリックを使わないで本音をむき出しでぶつけ合っていては、議論が思った方向に進まなくなります。そして衝突を避けようとすれば、議論が深まりません。

また、レトリックがなければリーダーシップを取って他者を先導することも難しくなるでしょう。ケネディやルーズベルト、オバマ、トランプなどスピーチの名手とされるアメリカの歴代大統領は、レトリックを駆使した力強いトップメッセージを発信し、何億もの大衆を引き付けてきました。

日本人はレトリックを使ったコミュニケーションが苦手と言われており、ビジネスの世界でもなかなか相手との議論が深まらないなどの問題が起こりがちです。そのため、自社の特性を深く検討せず、「大手がやっているから」という理由でDXやSDGsなどを表面的に取り入れる、つまり、エトスのみでロゴスを軽視するなどの事態も起こりうるのです。

もちろんレトリックにも、欠点はあります。レトリックを使って正論をつぶしたり、自論を押し付けたりといったこともビジネスの現場では起こります。とくにエトスの強い上位者の強引な意見が、議論を引きずるといったことは、職場の会議などでよく見られます。レトリックをビジネスの場面で生かす際には、その両面性をしっかりと認識した上で、適切に用いることが求められるのです。

まとめ

ここまで、レトリックの意味、3大ポイント、実際の使い方やレトリックの効用について解説してきました。レトリックは相手を説得する際の手法であり、ビジネスの場でも多く利用されています。新規事業や新商品のプレゼンテーション、上司が部下に対する動機付け、営業が顧客に対する提案などにおいて、レトリックを意識することで説得力を得ることができるので、ぜひ学んでみてください。

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