【事例紹介】センスメイキング理論とは?「腹落ち」を最大活用してリーダーとして組織強化の極意を学ぼう

センスメイキング理論とは、ミシガン大学の組織心理学者カール・ワイクによって生み出され、発展した比較的新しい考え方です。組織を動かす概念としてビジネスシーンに活用されていますが、元々心理学や哲学の領域と重なる抽象的な理論が背景にあり、実践現場にいるビジネスパーソンにとってややなじみにくい側面もあります。
しかし、今まさに世界を席巻しているコロナ禍の影響や、デジタル化の推進、SDGsの実現など、VUCA:Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の時代にあっては、組織に自律的なイノベーションと行動を促すセンスメイキング理論が非常に有効と考えられます。
この記事ではそのセンスメイキング理論について、事例を交えつつ解説します。

センスメイキング理論とは?重要性と実施すべき3つの環境

センスメイキング理論は、例えばPDCAのような「循環するプロセス」です。PDCAが通常のプロジェクトにおいて計画から実行、検証、対策といった一連の流れをコントロールするものであるのに対し、センスメイキング理論は不測の事態・事象に対してそこに「意味づけ」を行いながら行動を起こし、組織に一致したベクトルと大きな力を与えることを目的とした概念です。

センスメイキング理論という言葉は、日本ではあまりなじみがないかもしれません。英語では「意味をなす、納得し理解する」というときにmake senseという表現を用います。ビジネスの重要な局面でそのような「納得し理解する感情を意図的に巻き起こし全体の方向性を揃え、組織の総合力を上げることに資すること」がセンスメイキングの要諦です。センスメイキング理論が特に力を発揮する不測の事態・事象とは、新しい・想定外・混乱的・不確実(先行きが見通しにくい)というような予期しえぬ環境を指します。その具体的な例を、以下で示していきましょう。

危機的な状況:crisis

これはまさに世界規模で現在進行形の状況です。ウイルスによる感染症が蔓延し、あらゆる場面・場所で人々の行動が制限されていることで、私たちの活動はかつてない影響を受けています。ここまで大きなアクシデントでなくとも、予測しなかった危機に対して皆が一致して事に当たるには、センスメイキング理論が有効です。TOKYO2020の開催をめぐって国民の協力意識が今一つ形成されなかったのは、日本政府による納得できるストーリーの提示がなかったから、と言っても過言ではないかもしれません。1964年東京オリンピックの感動の記憶とともに語られたオリンピックの魅力は、時代情勢が異なる現在のセンスメイキングとしては力不足だったという捉え方もできるのではないでしょうか。

アイデンティティへの脅威:threat to identity

個人と同じようにその集団である組織もまた、アイデンティティをもつ存在です。何を目的とし、誰に対し、どのような価値を提供し、どんな存在(であるべき)なのかというそもそもの理念が揺らいでしまうと方向性が見失われ意図せぬ脅威にさらされます。「濡れ煎餅」の販売で知られる銚子電鉄は、「『この町に銚電があってよかった。銚電ありがとう!』と言ってもらえる、そんな会社になるために、鉄道事業と名物「奇跡のぬれ煎餅」販売で、どんな逆境にも絶対にあきらめることなく奮闘を続ける鉄道会社」として「電車をとめるな」という自主映画の制作や新生姜の岩下とのコラボなど、多くの話題を提供しつつも、本業の鉄道部門は慢性の赤字を抱えています。これに対し2021年の株主総会では、ついに筆頭株主から「既に公共性の使命は終えた。煎餅販売を本業にすべき」との進言がなされました。事業多角化で存続を図ってきた現経営陣のセンスメイキングは、社員や地域、鉄道ファンらの一部に強く訴える力を持っていましたが、エクイティの面で重要な利害関係にある株主に対しては、もっと別のストーリーが必要だとも言えるでしょう。

意図的な変化:intended change

上記二つの環境要因は不測の事態ですが、大きな変化を企業自身が意図的に起こす場合もあります。タイミングとしてはM&Aや周年の節目、代替わりなどが考えられますが、例えば上記の銚子電鉄が「思い切って電鉄事業からは撤退しよう」という意思決定を行ったとしたら、重大な意図的変化になります。不確実性の時代にはしばしば起こりがちで、バブル期やリストラ流行りの頃にも、まったく分野の異なる事業に進出したり、多角化を図ったりする企業が数多くありました。このような場合も、トップは「なぜそうするのか、どのような根拠で、どんなビジョンを掲げるのか」を社内外に広く深く表明する必要があります。センスメイキングによって、あらゆるステークホルダーを納得させなくては成功がおぼつかないからです。

入山章栄氏:「腹落ち=納得」のセンスメイキング理論

センスメイキング理論は90年代の終わり頃から2000年代初頭にかけて、カール・ワイクやサリー・マイトリス、ヘンリー・ミンツバーグなど欧米の学者らによって提唱されてきました。哲学や心理学とも深いかかわりを持つため経営学の理論としては抽象的な面も多く、いまだ議論が続いています。

わが国では早稲田大学大学院教授の入山 章栄氏が、センスメイキング理論の本質を「腹落ち=納得」と表現しています。実証主義的に情報を正確に分析し、ロジックに従って行動計画を立てる組織論とは異なり、事象の捉え方は主体・客体の相互依存関係の上で成立するとする、相対主義的な認識論をベースにしています。
認識論では、主体と客体の関係性は絶対的でないため、例えば「ある環境要因をどう捉え、どう対処していくか」という解釈に多義性が生じます。組織全体での多義的な解釈の足並みを揃え、対象とする事象の意味について組織のメンバー、周囲のステークホルダーが「腹落ちする=納得する」ストーリーを導き出し、集約していくプロセスを入山氏はセンスメイキング理論と定義しています。そして現在の日本大手・中堅企業に最も欠けており、最も必要なのがセンスメイキング理論だと主張しています。

センスメイキング理論のプロセスと全体像

センスメイキング理論は、大きく三段階のプロセスから成ります。

      1. 環境感知の段階
      2. 解釈・意味づけの段階
      3. 行動・行為(イナクトメント)の段階

組織が置かれた環境に何らかの変化があった場合、まず組織はそれを感知します。生命体が感覚器官を用いて周囲の情報を収集し、対処しながら自己を保全するのと同じです。
感知された環境情報はそのままでは単なる認知でしかありませんから「それはどういうことなのか」という解釈を、組織として行います。解釈・意味づけを個々勝手に行ってしまうと組織としての統制がとれず、ベクトル合わせができません。ここではリーダーがそれをガバナンスして解釈を揃え、ストーリーを示します。
次の段階では提示されたストーリーに従って、実際の行動に移ります。段階としては最後に位置しますが、実はこの行動が新たなる情報を感知してストーリーの精度を上げていくため、プロセスは1~3を循環することになります。各段階について、具体的に解説していきましょう。

1. 環境感知:物事を俯瞰的に見つめて情報をいち早くキャッチする

環境感知は、企業を取り巻く状況に何らかの大きな変化があったとき、それに関する情報をいち早くキャッチするプロセスです。前述した不測の事態・事象がこれに当たります。再度整理してみましょう。

  • 危機的な状況:crisis
  • アイデンティティへの脅威:threat to identity
  • 意図的な変化:intended change

入山氏はこれら三つの環境変化に日本企業が直面しており、イノベーションを創出して乗り越えていくためにもセンスメイキング理論が不可欠であると述べています。できる限り俯瞰的に、スピーディに情報を集めることが求められますので、この点に関しては「競争戦略において経営者はファイブフォース(新規参入・代替品・買い手・売り手・競争業者)を意識し、できる限り環境を正しく理解する」というマイケル・ポーター的な実証主義アプローチも必要です。

2. 解釈・意味付け:情報にストーリー性を持たせる

環境の変化に対し意味づけを行い「いま何が起きているのか」「何をなすべきなのか」「何が期待されるのか」という疑問に答えるストーリーを組み上げ、ステークホルダーらの解釈の足並みを揃えるプロセスです。環境から何を読み取るのか、どんなイメージを想定しうるのか、その先に何を思い描くのか。選択肢は無数にありますが、このストーリーの発見こそが、組織に道を示す非常に重要なポイントとなります。

3. 行動・行為:ターゲットの自発的な行動へつなげる

行動・行為(イナクトメント)は、センスメイキング理論においては循環プロセスの出発点となります。まず「何となくの方向性」で行動を起こしてみて、その結果の情報をさらに収集して環境解釈の足並みを揃えていくのです。認識論的に言えば、行動しなければ環境は変わりません。センスメイキング理論でよく例に出されるハンガリー軍の場合では、地図というストーリーの提示を得て偵察部隊がテントを出発し、山を降り始めました。このように、ストーリーはターゲットの自発的なアクションを促すのです(後述の成功事例参照)。
あらかじめ計画を詳細に詰め、それに沿って上部から下部、前から後ろへとリニアに計画を進めていくタイプのプロジェクトが実証主義的な態度であるとすると、センスメイキング理論におけるイナクトメントは、試行錯誤の連続の中で最適解を求めていく、相対主義的な進め方と言えます。

センスメイキング理論の7大要素

センスメイキング理論には「7大要素」と呼ばれる以下に示す要件があります。

      1. アイデンティティ:identity
      2. 回想・振り返り:retrospect
      3. 行動・行為:enactment
      4. 社会性:social
      5. 継続性:ongoing
      6. 環境情報の部分的認知:extracted cues
      7. 説得性・納得性:plausibility

これら7つの要素は、センスメイキング理論では多義的な世界で道を示し、明確にストーリーを掲げて組織を引っ張っていくことのできるリーダーに必要な資質、とされています。もちろんリーダーだけでなく、組織に属すビジネスパーソンのポテンシャルを最大限に引き出す要素でもあるので、意識的に活用してみてはいかがでしょうか。
5章では成功事例に合わせて具体的な解説をしていますので、そちらも参照してください。

1. アイデンティティ:自身(所属組織)の立ち位置

アイデンティティとは常に自己が、あるいは所属する組織が「何もので、何を目指す存在なのか」を明確に認識し、言葉を用いてそれを表現できることを指します。90年代の日本では、事業の多角化や合併によって事業領域に変化が生じたため、自分たちが何者であるのかというアイデンティティが揺らぐケースが、規模の大小を問わず頻出しました。そのため、企業理念を再構築すると共にビジュアルシンボルのリニューアルを行い、従業員の行動に基準を示すCI(コーポレート・アイデンティティ)戦略に関する活動が盛んになりました。この流れはその後ブランディング戦略へと受け継がれていくのですが、どうしても目につきやすい広報・広告やビジュアライズの部分に注目が集まる傾向があります。センスメイキング理論においても、企業という存在の中核を成す「アイデンティティの再確認」を成功要件として重視しています。

2. 回想・振り返り:過去の見直しが経験に意味を与える

「あの現象、行動にはこんな意味があった」と後付けで意味を理解できることがあります。「終わってからなら何とでもいえる」という批判をよく耳にしますが、行動の結果を検証しそこにどういう意味があったのかを振り返り、納得(腹落ち)して記憶することは、事象の認識に経験の厚みを与え、今後より確実で説得力のあるストーリーを想定することに貢献します。入山氏はこれを「レトロスペクティブ・センスメイキング」と呼んでいます。

3. 行動・行為:周囲への働きかけ

人は行動することではじめて、環境に働きかけることができます。働きかけることでさまざまな情報を獲得し、修正しつつゴールへ向かうのです。2021年7月、ヴァージン・グループの創業者で、同社の「宇宙飛行士No.001」であるリチャード・ブランソン氏が他5名の搭乗員と共に、宇宙船から地上に帰還しました。2004年に計画を発表して以来、度重なる失敗や障害を越えながらも実際に地上89km(米空軍の定義では高度80km以上からが宇宙)まで飛行し、地球へと戻ってきたのです。その背後には、カリスマ的経営者であるブランソン氏らしいセンスメイキングと、周囲を巻き込む行動があったからではないかと推測できます。

4. 社会性:他者との関係性

センスメイキング理論における主体と客体の関係は、認識論的な相対主義の立場をとります。そのため、主体=観測者(企業あるいは組織を構成する個人)の行動、働きかけによって、客体=他者である環境社会(ステークホルダー)との関係性が捕捉できます。両者を別々のものとして切り離して考えず、結びつきによって生じる社会性そのものに意味を見出すからです。
センスメイキング理論における他者との関係性は、量子力学における「シュレーディンガーの猫(誰も見ていない物体は状態が曖昧な存在になる。観測者が存在して初めて状態が固定される)」に似た概念でもあります。

5. 継続性:繰り返されるプロセスの循環

実証主義的なプロセスと異なり、他者との関係性の中で意味づけを行い共感・納得を形成していくセンスメイキング理論では、行動(イナクトメント)がプロセスの出発点となる、と前述しました。行動により周囲との関係性に変化が生じ、それをフィードバックすることで成功の確度を高めていきます。
また、一度の成功例が他の場合にそのまま応用できる訳ではありません。成功は体験として記憶に残り、さらに別の体験が繰り返されることによって暗黙知として組織内に共有されます。継続性がセンスメイキングを通した体験に厚みを与え、個々のストーリーの信頼感向上に貢献するのです。

6. 環境情報の部分的認知:個の認識は全の1部にあらず

人は、観測によって認識し、解釈したもののある一部分しか把握することができません。対象全体を100%完璧に捉えることは不可能です。同じ物事に対しても、人により解釈や考え方が異なるからこそ、世界が成立しているとも言えます。世界を解釈して意味を見出すセンスメイキング理論は、関係性のあるひとつの側面を強調してそこにストーリーを付与します。腹落ちするストーリー体験は常に独自・特有のものであり、他にない印象を強く形成するのです。

7. 説得性・納得性:正確さだけでは足りない

日本ではスタートアップ企業やベンチャー企業に対して、金融機関がなかなか資金を提供しないと言われてきました。十分なリサーチに基づく確実性の高い事業計画と価値ある担保がなければ、稟議が通らないとされたのです。しかし、未来の事業に対し必ずリターンが確保できる保証などありません。そこで希望と熱意のあるストーリーを持ったファウンダーのプレゼンテーションに対して、納得と共感によって資金を提供するクラウドファンディングが盛んになりました。クラウドファンディングのサイトは、センスメイキングの宝庫です。予測や観測情報の正確さよりも、エモーショナルでイメージを喚起するストーリーこそが共感を呼ぶのではないでしょうか。

【成功事例】センスメイキング理論で遭難を乗り越えた隊員たち

センスメイキング理論でよく例示されるエピソードとして「ハンガリー偵察隊のストーリー」があります。アルプス山脈で雪中行軍中だったハンガリー軍偵察部隊が、猛吹雪に阻まれ遭難しかけた際のストーリーです。
もはや絶望と思われた状況の中、一人の隊員がポケットから地図を見つけました。この発見に部隊は歓喜し、落ち着きを取り戻して大まかな方向を目指して進み、やがて無事に下山することができました。しかし後に確認すると、隊員が発見したのはなんとアルプスの地図ではなく、まったく異なるピレネー山脈の地図だった、というものです。
この挿話は、絶望の中にいた集団の意思と感情を(たとえ不正確ではあっても、信じる“よすが”となる)地図が鼓舞し、無事下山できるというストーリーを得て行動し、試行錯誤を継続した結果成功に至るプロセスを表しています。
これをセンスメイキング理論の「7大要素」で考えると、次のようになります。
1. アイデンティティ:identity
「雪山で遭難した身動きのとれない集団」ではなく「必ず下山・生還するプロの軍隊」と再定義
2. 回想・振り返り:retrospect
部隊としてのこれまでの経験を想起、任務遂行の記憶の振り返り
3. 行動・行為:enactment
猛吹雪の中、テントを出て雪中を進み始めた行動・行為
4. 社会性:social
雪山という環境、地図という心理的拠り所、下山を確信した集団構成員の相互作用など
5. 継続性:ongoing
少し進んでは確かめ、進路を定め、また進むという試行錯誤の継続
6. 環境情報の部分的認知:extracted cues
アルプス山脈全体の形状や気象状況など全体像はほとんど掴めないが、今いる環境情報の認知による最適化
7. 説得性・納得性:plausibility
正しくない地図にも関わらず、センスメイキングによって部隊の「力と方向性のベクトル合わせ」を行った結果の生還

【まとめ】企業におけるセンスメイキング理論ではここを押さえよう

私たちソフィアが実際にお客様の企業状況を見てあらためて感じていることは「社員の納得感・腹落ち感がないまま施策を進めようとしても、なかなかうまくいきにくい」ということです。特に昨今のような先行きが不透明な状況では、変革を促し自律的な行動につなげるための魅力的で希望あるストーリーが必要です。社員が納得=腹落ちし、理解・共感から行動へと進めていけるストーリー探しやストーリー作りをリーダーは意識しなくてはなりません。
ソフィアでは、顧客企業のそのようなセンスメイキングを支援する各種の施策を用意しています。ぜひより詳しい施策内容をお知りになりたい方は以下よりお気軽にお問い合わせください。

株式会社ソフィア

コミュニケーションコンサルタント

廣井 和幸

社内報やビジョンブックなどインターナルコミュニケーションのためのコンテンツをつくることが多いですが、外向けも歓迎です。公開社内報「そふぃあと!」の責任編集長でもありますので、そちらもごひいきに!

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