インターナルコミュニケーション

腹落ちとは?納得感のある社内コミュニケーションで行動変容を促す鍵

腹落ちという言葉を聞いたことがあるでしょうか。腹に落ちるともいいますが、言われた内容に心から納得している状態のことを指します。

一方、一見納得しているように見えても内心では反発している状態は「面従腹背」。ほかにも、腹が黒い、腹が据わる、腹が立つ、腹に一物、腹を固める、腹を決める、腹を読む…など「腹」を含む用語から推察されるように、「腹」は「心中」のような意味合いを持つことがわかります。実際に辞書でも「腹」という言葉は「「心」「胸のうち」という意味を含むことが示されています。

「腹」関係した言葉の中で、特に仕事の場でよく耳にするのは「腹落ち」という言葉ではないでしょうか。会社では、経営層やマネジメント層からトップダウンで現場に指示を出したり、社員教育を行ったりすることが多々あります。しかし、トップダウンの指示や情報に対して社員が腹落ちしていない状態では、企業活動にさまざまな弊害が生じます。

本記事では、社員が主体的に行動を起こすカギとなる「腹落ち」について詳しく解説していきます。

腹落ちとは

まず、「腹落ち」という言葉の意味を確認しておきましょう。ビジネスシーンで頻繁に使われるこの言葉ですが、辞書的には「納得すること、成程と思うこと、腹に落ちること、などの意味の表現」と説明されています。「腹に落ちる」とも言い、物事に対して頭だけでなく腹(心の底)から納得できている状態を指す表現です。言い換えれば、聞いた内容について十分な納得感があり、「なるほど」と深く合点して自分事として理解できていることを意味します。

日本語では「腹が立つ」「腹を決める」「腹に一物ある」など、”腹”という言葉は古くから感情や本心を表す比喩として使われてきました。「腹落ち」もその一つで、単なる理解を超えて心から得心が行く(腹にストンと落ちる)状態を表現する言葉なのです。特に企業や組織で変革に取り組む際には「社員・従業員の腹落ち」が大切だとよく言われます。経営層やマネージャーからトップダウンで方針や施策を指示しても、現場の社員が腹落ちしていない状態では組織活動にさまざまな弊害が生じるからです。

では、社員は十分な情報を与えられて「やるべきこと」が理解できれば腹落ちするのでしょうか?実際にはそれだけでは不十分なケースが多々あります。例として、政府も推進し多くの企業が戦略に組み込んできた「働き方改革」や「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の取り組みを振り返ってみましょう。これらは2018年前後に政府・企業がこぞって情報発信やプロジェクト立ち上げを行い、社員にも働きかけられてきましたが、それらの活動が軌道に乗り2019年までに本格的なワークスタイル変革(例えば在宅勤務の定着)に成功した企業はごく一部でした。トップダウンで「やれ」と指示し必要な情報提供もしていたにもかかわらず、多くの組織では十分な成果が出なかったのです。

しかし、2020年に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大が起こると状況は一変しました。2019年には国内企業のテレワーク実施率が16.3%程度だったものが、2020年には42.6%にまで急拡大しています。それまで「国がやれと言うから」「経営が言うから」と受け身だった企業や社員も、感染拡大下では「自分自身が感染しない・広げない」という切実な必要性に直面し、否応なしに行動を変えざるを得なかったのです。つまり社員一人ひとりにとって他人事ではないリアルな危機感やメリット・デメリットの実感が生まれたことで、初めて本気の行動につながりました。

この例が示すように、「やらなければならないからやる」「こうすればできる」という知識や義務感だけでは、人は本当には動きません。「やらないことで生じる不利益」や「やることで得られる安心・メリット」を自分ごととして認識し、感情的な腹落ち(納得感)にまで至って初めて行動が変容するのです。単なる「やるべきだから」「方法は分かるから」といった押し付けや情報提供だけでは、社員の行動を引き出すだけの原動力にはなり得ません。「腹落ち」は社員を主体的な行動変容へと導くカギだと言えるでしょう。

社員が腹落ちできない主な原因

ではなぜ社員は腹落ちできないのでしょうか。社員が「腹落ちしていない」状態に陥る主な原因として、以下のような要因が挙げられます。

目的や背景の共有不足

経営側からの指示が「こうすべきだ」という結論や具体的な進め方の説明に終始し、「なぜそれをやるべきなのか」「それによって何を実現しようとしているのか」「それをやることで社員や会社にどんなメリットがあるのか」といった背景や目的が十分に共有されていない場合、社員は心から納得しづらくなります。

必要性への共通認識が持てないままでは、指示された取り組みも他人事に感じられてしまうでしょう。実際、弊社ソフィアの調査でも「現場の実情や実務と乖離している」(33.0%)や「背景や意図が十分に理解できない」(25.3%)といった点が、経営戦略に共感できない理由の上位に挙げられています。

論理は理解できても感情が伴わない

頭では「必要な改革だ」と理解していても、現場の不安や不満など感情面で納得できていないケースもあります。説明がロジカルすぎて押し付けがましかったり、現場の気持ちを汲んでいないと、社員は「しっくりこない」という感覚を抱き、腹落ちを阻害する感情的な壁が生じます。例えば「忙しいのに負担ばかり増える」「自分たちの努力が報われる保証がない」など、社員の心情に目を向けないままでは共感を得られません。視点を変えれば、単に頭で理解させるだけでなく、社員の感情面にも配慮することが重要だと言えるでしょう。

コミュニケーションスタイルのミスマッチ

話し手(経営・上司)と聞き手(現場)のコミュニケーションの取り方や伝えるタイミングが噛み合っていないと、内容自体は正しくても相手の胸に響かず、「腑に落ちない」状態になることがあります。一方的なメールや資料だけの伝達、専門用語だらけの説明、対話の機会がない状況などでは、どんなに良い施策も相手の腹にストンと落とすことは難しいのではないでしょうか。

メッセージが組織目線で「社員主語」になっていない

経営層の語るビジョンや方針が抽象的すぎたり、「会社のため」「世の中のため」といった組織主語の話ばかりになっていると、社員は自分との関わりを見出せずに他人事と感じてしまいます。社員それぞれの立場で「自分にとってどんな意味があるのか」が示されないと、共感や納得感を持てず腹落ちには至りません。弊社ソフィアの調査では、自社の経営目標や戦略に「十分共感している」従業員はわずか9.9%に留まり、その理由として「現場の実務と乖離している」「成果指標が不明確」などが挙げられています。経営側のメッセージが現場感覚と噛み合わず、自分ごと化できていない現状を物語っていると言えるでしょう。

以上のような原因によって社員が腹落ちできないままだと、せっかくの施策も絵に描いた餅になりかねません。では社員が腹落ちしていないとき、現場では具体的にどのような問題が起こるのでしょうか。

腹落ちしていない状況では何が起こるのか

繰り返しになりますが、「腹落ちしていない」とは、頭では理解できていても感情が伴っていない状態です。社員は表面上こそ指示に「わかりました」と従っていても、内心では納得せず不満や抵抗感を抱えています。そのため周囲から「やるべきだ」という同調圧力があっても当人にはモヤモヤとした「やりたくない」という反発心が生まれ、行動が伴わなくなるのです。

このように社員が腹落ちしていない組織では、次第に以下のような弊害が生じてきます。

形式的な遂行に陥る

仕事の本来の目的や意義を腹落ちできていない社員は、「とにかく言われたとおりにやればいい」という受け身・形式的な姿勢になりがちです。指示されたタスク自体が目的化してしまい、そこに創意工夫や主体性は生まれません。業務を単なる作業と捉えて効率よく片付けることや、周囲には従っているフリをして波風立てないことに意識が向いてしまい、建設的な意見提案やチャレンジ精神が失われていきます。

モチベーション低下・生産性の停滞

腹落ちしていない仕事をいやいや進める状態が続くと、社員のモチベーションは下がり、仕事の質も低下します。自発的に頑張ろうという気持ちが湧かないため、必要最低限のことしかやらなくなり、生産性や業績にも悪影響が出るでしょう。周囲から見れば一応業務は回っていますが、内実は惰性的で停滞感が漂います。

職場の閉塞感・信頼関係の希薄化

社員たちが本音では納得していないのに建前で従っている状態(まさに「面従腹背」の状態)が常態化すると、職場全体に閉塞感が生まれます。上司と部下の間で本音のコミュニケーションがなくなり、互いに不信感や諦めの空気が広がります。こうした環境では新しいアイデアも生まれにくく、組織は変革力・活力を失ってしまうのではないでしょうか。

人材育成の停滞・離職の増加

もしあなたの組織が「自立型人材」を育てたいと望んでいるのに、一向に社員が自律的に動かないと悩んでいるなら、それは社員の能力の問題ではなく腹落ちの問題かもしれません。社員が腹落ちしていないことで自発的な成長意欲が湧かず、受け身の人材ばかりになってしまいます。さらに現代では、仕事に腹落ち感ややりがいを見いだせない社員はより良い職場環境を求めて転職してしまうことも珍しくありません。組織に優秀な人材が定着せず、人材育成やチームワークにも悪影響が及ぶでしょう。

今の時代に腹落ちがより重要になっている理由

ここまで見てきたように、腹落ちしていない状態で組織活動を進めようとしても形式的な遂行にとどまり、本当の成果は生まれません。では、なぜ「今こそ」社員の腹落ちが重要視されるのでしょうか?

もちろん、以前から経営側の方針や指示に対して社員が心から納得していることは望ましいと考えられてきました。しかし従来の日本の労働環境では、企業への帰属意識が強く、上意下達・トップダウンでの指示に社員が黙って従う文化が残っていたのも事実です。何か不満や疑問があっても「そういうものだ」として受け入れ、会社の言うとおり行動するのが当たり前とされてきました。それに高度成長期のような「やれば報われる時代」であれば、社員が完全に腹落ちしていなくても会社に身を任せていれば生活は安泰という期待があり、組織の方針に従うことへの抵抗感は相対的に小さかったかもしれません。

しかし現在は社会の先行きが不透明・不確実で、価値観の多様化も進んでいます。企業およびそこで働く個人は常に変化に対応して新しいことに挑戦することが求められますが、明確な正解がない中で多様な価値観を持つ人々が協力するのは簡単ではありません。「とりあえず言われた通りにやる」だけではうまくいかず、企業として狙った成果が上がらないだけでなく、仕事をする上で腹落ち感を得られない社員は他にやりがいを求めて離職してしまうでしょう。実際、弊社ソフィアの調査でも自社の経営目標・戦略に十分共感できていない社員が約9割に上り、腹落ち感の欠如が組織課題になっていることが明らかになっています。

だからこそ、関わる全ての人が今後取り組むべきことを自分ごととして受け止め、納得できるような「社員主語のストーリー」が必要になるのです。腹落ちした社員は組織へのエンゲージメントが高まり、変革への柔軟性も増します。それでは具体的に、腹落ちが特に重要になる場面とはどのようなシーンなのでしょうか。

腹落ちが重要になる場面

社員の腹落ちがとりわけ重要になるのは、組織レベルでは「企業内に大きな変化が必要なとき」、そして個人レベルでは「上司と部下のコミュニケーション」の場面です。

1. 企業の変革時や外部環境の変化への対応

前述した働き方改革やDXの例の通り、企業が新たなチャレンジや変革に取り組む際には社員の腹落ちが成否を分ける重要ポイントになります。トップダウンで「言われたからやる(本当はやりたくない)」という面従腹背の状態ではプロジェクトが思うように進まず、期待した成果につながりません。社員がその取り組みを自分ごと化して納得し、自律的に動ける状態を作ることが不可欠です。そのために経営層は一方的に指示するだけでなく、なぜその変革が必要なのかを丁寧に語り、社員一人ひとりに問いかけて考えさせるような双方向のコミュニケーションを行う必要があります。周囲からの押し付けではなく本人が心から理解・共感することで初めて行動に移せる──腹落ちとはまさにその状態を指すのです。

2. 上司と部下のコミュニケーション

こちらは個人レベルで腹落ちが重要となる場面です。新しい取り組みに限らず、日常的な業務において職場が社員に求める行動を自律的に実行し成果を出すためには、腹落ちが不可欠です。例えば職場から「○○を徹底しよう」と求められているのに社員がなかなか動かない、あるいは一応やっているふうには見えるものの受け身で責任感が感じられないという場合、それは腹落ちできていない状態です。そのような部下に主体的に動いてもらうには、単に「やりなさい」と指示を下すだけでは不十分です。問いかけを通じて相手に考えさせ、自分ごと化するきっかけを与えるコミュニケーションを上司が意識的に作っていく必要があります。実際、ソフィアの調査でも社内コミュニケーション上の問題対象として「部門内(上司と部下)」を挙げた回答が51%に上っており、多くの組織で上司と部下の対話不足が課題となっています。定期的な1on1ミーティングやフィードバック面談の場を設け、部下の本音や感情を引き出しながら腹落ちを促す対話を積み重ねることが大切です。

以上のような場面では特に「腹落ち」の有無が結果を大きく左右します。それでは、社員に腹落ち感を持ってもらうために、経営側や上司は具体的にどのようなことに取り組めば良いのでしょうか?次の章ではそのポイントを解説します。

社員が腹落ち感を得るために必要なこと

社員に腹落ちしてもらうために、経営側や上司が果たすべき重要なポイントは大きく2つあります。

感情を把握する

まず、社員がなぜ腹落ちできていないのか、その理由や背景となる感情をしっかり把握することが必要です。上司と部下の人間関係の問題だと短絡的に考えるのではなく、組織目線ではなく社員主語に立って、腹落ちできていない社員の置かれた状況や本音の心情を探るのです。たとえば「忙しすぎて新しい施策まで手が回らない」「失敗したら評価が下がる不安がある」「今回の方針には自分の専門性が活かせず面白みを感じない」など、社員それぞれに腹落ちを阻害する要因となる感情があるはずです。それを丁寧に汲み取り、不安や不満といった感情面に寄り添った対策を考えることが第一歩となります。

社員主語のストーリーを作る

次に、社員に伝えるメッセージを社員主語のストーリーに作り直すことです。ただ命令口調で「○○せよ」と言うのではなく、社員自身が共感でき当事者意識を持てるような物語を提示します。このストーリーづくり自体はゴールではなく、あくまで腹落ちのきっかけづくりに過ぎません。しかし、社員の共感を呼び「自分ごと」として捉えられる内容にすることが重要です。

具体的には先述のSDGsの例のように、「会社が○○したいから君たちも従ってくれ」という語りではなく、「○○に取り組むことはあなた(社員)自身にとっても△△な意味がある」といった社員視点での価値を盛り込むことがポイントです。社員主語のストーリーは、社内報や経営メッセージ、上司から部下への説明など様々な社内コミュニケーション手段で活用できます。社員の状況や感情に寄り添ったストーリーを伝えることで、社員がそのテーマ(新施策や目標など)を自分の状況と重ね合わせて考え、「自分ごと」として腑に落ちるきっかけが生まれるのです。

なおストーリーを提示した後も、それだけで社員全員が即座に腹落ちするわけではありません。ストーリーはあくまで取っ掛かりです。大切なのはその後に続く体験や対話を通じて、本当に社員の腹に落としていくことです。では次に、社員を腹落ちさせるための具体的なステップを順に見ていきましょう。

社員の腹落ちに向けたステップ

最後に、社員に腹落ちしてもらうための具体的な3つのステップを解説します。それぞれの段階で社員の認識と行動を少しずつ変容させ、最終的に本質的な腹落ち(心からの納得と主体的な行動)を定着させる流れです。

1. ストーリーで”きっかけ”づくり

まずは前述したように、社員の状況や感情に寄り添った社員主語のストーリーを作り、伝えることから始めます。上司が部下に対して直接話をしたり、社内報・社内メールなどのメディアを通じてストーリーを共有したりします。このストーリーは社員にとって納得感のある問いかけでもあります。ストーリーを受け取った社員が「もし自分だったら…」と自身の状況に重ね合わせて考え始め、「確かに放っておけば自分にも悪影響がある」「自分たちにもやる意味があるかもしれない」と感じられるかどうかがカギです。ここで社員の中に少しでも「自分ごと」としての意識変化が芽生えれば、次の段階に進みます。

2. 体験してもらう

続いて、社員がそのストーリーの世界観や必要性を追体験できる場を作ります。当事者意識を生み出すためには、頭で理解するだけでなく実際に体感してもらうステップが不可欠です。具体的には、研修やワークショップで疑似的な体験の機会を設けたり、ジョブローテーションや現場見学など業務に組み込んで直接的に経験させたりする方法があります。例えばDX推進の必要性を腹落ちさせたいなら、旧来の非効率な業務フローとデジタル化後のフローを疑似体験させて違いを実感してもらう、といった施策が考えられます。五感を通じた実体験があることで、社員はテーマを自分ごととしてよりリアルに感じ、「やはり変革は必要だ」「これは自分達にもプラスになる」と腹落ちしやすくなるのです。なお、本質的な腹落ちは行動と振り返りを通じて初めて実現するものです。一度の体験で終わりではなく、次のステップに繋げていきます。

3. 行動・体験を振り返る

最後に、実際に体験したことや行動してみた結果を振り返るプロセスです。人はポジティブな感情と結び付いた経験を何度か繰り返すことで、それが自分の中に定着していきます。体験の場で「なるほど、こうすればうまくいく」「意外とやってみると前向きな気持ちになれた」というポジティブな感触を得られたなら、その後も継続して取り組むことで次第に腹落ち感が深まり、行動が習慣化していくでしょう。上司や人事担当者はアンケートや対話で社員の意識変化を確認したり、実際の業務成果の変化を測定したりしてフィードバックします。もしそれでも「まだ今ひとつ自分ごと化できていない」という声があれば、ストーリーの内容を見直すなど再度の調整(いわゆるPDCAサイクル)が必要かもしれません。このように振り返りと改善を続けることで、社員の腹落ち度合いをさらに高めていくのです。

以上の3つのステップを踏むことで、社員は自分なりにそのテーマに意味付けを行い、心の底から納得した腹落ち状態に至ります。腹に落ちてしまえば行動は自発的・継続的なものとなり、組織としても初めて望む成果に近づくことができるのです。そして本質的な腹落ちが実現したとき、社員の意識・行動には必要な変容(行動変容)が起こり、組織にも良い循環が生まれます。

まとめ

不確実で先行きの読めないVUCAの時代に企業が生き残り成長していくためには、組織にも個人にも俊敏な適応力、すなわちアジリティ(敏捷性)が求められます。市場環境や社会情勢が今日と明日で激変する可能性がある以上、社員の腹落ちにもアジリティが必要だと言えるでしょう。状況が変わるたびに社員が戸惑い受け身になるのではなく、常に自分ごととして素早く理解・納得し、行動に移せる組織であることが理想です。

「社員がうまく腹落ちできていないかもしれない」と感じたら、そこには経営側の社員主語の視点の欠如が潜んでいるかもしれません。現在の社員の行動や感情にしっかり目を向け、コミュニケーションや人材育成の手法を今一度見直してみましょう。社員の腹落ち度合いを高める取り組みは、社員のエンゲージメント向上や組織変革の成功率アップにも直結します。社員が心から納得し共感できれば、組織は内部から強く動き出します。腹落ち感のある職場づくりこそが、これからの時代に企業が持つべき大きな武器となるのではないでしょうか。

よくある質問
  • 「腹落ちする」と「腑に落ちる」は同じ意味ですか?
  • 一般的にはほぼ同じ意味で使われます。「腹落ちする」はビジネスで生まれた表現で、「腑に落ちる(腑に落ちない)」という慣用句と本質的な意味は変わりません。どちらも「納得する」「合点がいく」ことを指し、特に違和感なく心にストンと落ちる感覚を表現します。ただし「腑に落ちる」は本来否定形で「腑に落ちない」と使われることが多い表現で、肯定形の「腑に落ちる」を使うのは比較的最近の用法とも言われます。「腹落ち」はそのビジネス版スラングのような位置づけで、社内会話では「腹落ちしました(納得しました)」のように肯定形でよく使われるという違いがあります。いずれにせよ、社員が「腹落ちしている」状態とは「腑に落ちて納得している」状態と同義と考えて差し支えありません。

  • 社員が本当に腹落ちしているかどうか、確認する方法はありますか?
  • 一つの方法は、双方向のコミュニケーションを通じて直接確認することです。例えば会議の場で「この方針について腹落ちしていますか?」と問いかけ、メンバーの理解度や異議の有無を確認するやり方があります。実際に「何か不明点や引っかかりはない?」と質問してみて、部下が自分の言葉でその目的や意義を説明できたり前向きな意見を出せるようであれば、腹落ちしていると判断できるでしょう。逆に沈黙していたり表面的な返事しか返ってこない場合、まだ腹落ちしていない可能性があります。その場合は再度「なぜそう思うか」「どんな懸念があるか」を対話で引き出し、先述のストーリーや体験を通じて納得感を高めるフォローが必要です。

    また日常的に社員の言動や表情を観察することも有効です。腹落ちしている社員は主体的に質問したり改善提案をするなど前向きな動きが見られるのに対し、腹落ちしていない社員は指示待ちや受け身の態度が目立つ傾向があります。定期的な1on1などで率直な感想を聞く機会を設けるとともに、社員の行動変化を注意深く見て判断すると良いでしょう。

  • 部下に腹落ちしてもらうために上司ができることは何ですか?
  • 上司としては、まず部下に対する説明責任を果たすことが重要です。単に「やっておいて」と命じるのではなく、「なぜそれをやるのか」「その取り組みがもたらすメリットは何か」を噛み砕いて伝え、目的・背景を共有するよう努めましょう。次に、対話の姿勢を持つことです。一方的に話すだけでなく、「どう思う?」「不安な点はない?」と問いかけて部下の意見や感情を引き出します。部下が本音を話してくれたら、それを否定せず受け止めた上で誠実に回答し、懸念を一つひとつ解消していきます。このような双方向コミュニケーションによって信頼関係が深まり、部下は徐々に腹落ちしてくれるようになります。

    また、可能であれば成功体験を積ませる機会を作ることも有効です。小さな範囲でもよいので任せて実行させ、結果を一緒に振り返って「うまくいったね」「次はもっと良くしよう」とフィードバックすることで、部下は自信と納得感を得られます。さらに上司自身が腹落ちしている姿勢を示すことも大切です。上司が心から信じていない施策を部下にやらせようとしても伝わりません。上司自身がその方針に共感し、自ら進んで実践する姿を見せることで、部下も「上司がそこまで言うなら」と腹落ちしやすくなるでしょう。要するに、上司が部下の立場に立った丁寧な説明と対話を重ね、ロールモデルとして率先垂範することが、部下の腹落ちを促す近道となります。

株式会社ソフィア

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人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。