トップダウン・ボトムアップとは?意味やそれぞれのメリット・デメリットについて

営業現場で担当別に売上目標を立案するとき、あるいは業務のプロセスを見直すときなどに、トップダウンそれともボトムアップのいずれで進めるかは意見の分かれるところです。

その前に、トップダウン・ボトムアップの本質を理解している方は、意外と少ないかもしれません。
この記事では、トップダウンやボトムアップの定義、それぞれのメリットやデメリット、適しているケースについて解説すると同時に、ボトムアップ経営を実現させるメソッドを紹介します。

「トップダウン」「ボトムアップ」とは?

「トップダウン」と「ボトムアップ」はいずれも、意思決定や問題改善の実現を目的とするメソッドであり、プロセスの違いこそあれ目指すところは同じです。

「トップダウン」とは?トップダウンのメリットとデメリット


トップダウン型経営では、企業トップの意思決定がまずスタートにあり、決定事項をトップから各事業本部、本部から支社や営業所といった要領で上意下達式にブレイクダウンしていきます。
実はトップダウンでもボトムダウンでも、最終的に経営トップが判断を下すという点では同じです。異なるのは意思決定に至るコミュニケーションプロセスの違いです。

トップダウンのメリットは、意思決定から実行までの判断を迅速に行える点です。現在の日本企業では少なくなってきましたが、ビジネスプロセスが単純で計画通りに実行すればある程度の成果が見込まれるビジネスモデルや、組織やビジネス全体をトップが俯瞰できる小規模ベンチャーやビジネスには、トップダウンが向いています。

一方、トップダウンの代表的なデメリットとしては、従業員の判断スキル低下、悪い情報の隠ぺい、経営者の資質によるブレなどが考えられます。まず従業員の判断スキル低下ですが、トップが重要な経営判断を独断で下すので、部下は指示されたことをただ黙々と処理するようになります。

次に隠ぺいですが、トップダウン型組織においては悪い情報が上がってこなくなりトップが「裸の王様」になりがちです。

最後に経営者の資質です。トップダウン型組織では意思決定の材料として現場の意見をトップに届ける仕組みがないため、現場の意見を取り入れるかどうかはトップ次第になってしまいます。中にはまめに現場に足を運んで社員の話に耳を傾けるトップも存在しますが、多くは現場の意見も聞かずに経営者の独断で物事を決めてしまいます。
そうなると、よほど現場がわかっている経営者でもない限り偏った意思決定に陥りやすく、往々にして、致命的な間違いを起こしやすいのです。

トップダウンは、高度に複雑化した先進諸国においては、危機的状況や、選択肢が少ない状況など限定的条件にのみ機能するものです。つまりは実態として無理筋になりつつあるということです。

「ボトムアップ」とは?ボトムアップのメリットとデメリット


ボトムアップ型経営では、現場からの提案を経営層にまで集約させ、これをベースとしてトップの意思決定につなげます。むしろボトムアップで意思決定していかないと、現代のような不確実性の高い時代を生き残るのは難しいかもしれません。

「ボトムアップ」のメリットは、まず社員の主体性醸成です。自分の意見・提案が汲み取られるので、社員は自ら考え行動するようになります。同時に、社員のやる気向上にもつながります。

2番目が現場密着型の経営です。ボトムアップ型では現場に寄り添った意見が経営に活かされやすく、得意先や顧客の変化にも柔軟に対応できます。

「ボトムアップ」のデメリットは、意思決定の方向性をまとめるのに時間がかかる、多くの意見を集めるのでありきたりの結論に陥りがちといった点が挙げられます。そして2つの課題を解消するには、一定の工夫が欠かせません。
実際のところ、完全なボトムアップ型・トップダウン型を取っている企業は少なく、併用しているところが大多数のようです。

例えば年度予算編成を取り上げると、売上や利益の目標を各事業部門や各部から重層的に積み上げ全社目標を策定するボトムアップ予算編成、経営層が掲げる全社売上・利益目標を各事業部門・各部に割り当てるトップダウン予算編成に手法は大別されます。

一方のみで予算を策定する企業は少数派で、一般的にはボトムアップで積み上げた売上・予算を経営層が策定した目標と擦り合わせて、最終的な着地を決めるといった手法をとるケースが多いようです。

全ての組織や職場で、最終的な意思決定はトップダウンです。ただし、大なり小なりボトムアップの情報がインプットされない限り、的確な意思決定はできません。しかし、意思決定には必ずタイムリミットがあるため、際限なくボトムアップの情報を集めて検討することはできません。

いかに早く多くの関係者が納得する意思決定をするのか、そのさじ加減をトップが探り、判断する必要があるのです。意思決定のためのヒントは後段で解説します。

トップダウンとボトムアップを使い分けるには

トップダウン・ボトムアップは、企業の属性や状況によって使い分けることが大事です。それぞれが適した企業や状況を見ていきましょう。

トップダウンが適している問題・ケース

現場の意見を重視しない独断専行のトップダウン型意思決定は「判断ミス」という大きなリスクを抱えています。

ただし、アジャイル(迅速)かつ大胆な経営判断が求められる場面、たとえば大胆な経営戦略でベンチャー企業が急成長するとき、ビジネスモデルや事業構造を大きく改革するとき、コロナ禍といった外的要因による経営環境激変に見舞われたときなどは、トップダウンが適しています。

また、自律的に行動できる社員が育っていない組織で完全なボトムアップ型を導入すると、社員の混乱を招き、結果として経営における意思決定も質の低いものとなりかねません。

トップダウンは万能の意思決定スタイルではなく、あらゆる組織にとって有効な方法ではありません。顕著な問題としては、トップダウンは命令に近いため個々の社員や部署・チームにおける創造性を抑制してしまう、一度下した意思決定を状況に応じて変更させていくのが困難であるといった柔軟性に欠ける側面があります。

臨機応変な対応が求められるビジネスにおいて、柔軟性は重要な力であると言えます。そのため、トップダウンを用いた経営を行う際には、トップダウン独自のメリットを活かしつつ、柔軟性の低さをカバーするような工夫が必要だと言えます。上層部が意思決定を下部組織の社員に伝達し、プロジェクトや業務遂行のアクションを起こした後に、柔軟な対応ができると理想的でしょう。

しかしながら、柔軟な対応を意識した経営を行う際には、下部組織の社員から情報を吸い上げ、上層部へ伝達するボトムアップを取り入れるのが効果的です。つまるところ、ある程度ボトムアップを併用しなければ柔軟な対応ができず、間違ったときにダメージコントロールもやりにくくなるため純粋なトップダウンは行いにくいものなのです。トップダウンの利点は意識しながらも、一定の規模になった企業はトップダウンを採用しにくくなっている事も現実です。

ボトムアップが適している問題・ケース

ボトムアップは情報吸い上げのプロセスであり、現場から適切な情報が円滑に吸い上げられるのならボトムアップの方が適しています。たとえば営業現場の売上目標設定なら、営業担当者のスキルが高く、販売現場の状況や課題を的確に把握し目標設定に反映できるならボトムアップが理想的でしょう。とはいえ、実際は指示通り動くほうが楽だと考えている従業員が多いことからトップダウンを求めるケースもあります。抽象度の高い目標や目標値だけを決定し、やり方を現場に任せる場合などは、現場に考え挑戦しようと思う動機があれば問題はないですが、どうしたら良いのか途方に暮れてしまうのが一般的でしょう。

多くの社員にとって、会社こそが生活の多くの時間を職場過ごす自己実現の場です。その中で自分が提案したアイデアや改善が多少なり現実化していくことこそが、社員としての幸福であり、企業のとしての発展の鍵です。これを忘れて日々の目の前の仕事だけが過ぎ去ればいいという社員ばかりになると、その会社にもう発展はありません。トップのその危機感を持てるかどうか、社員がその危機感を理解するかどうかにかかっているのです。

一度言っただけで変われるほど人は柔軟ではありません。トップは執拗に柔軟性や多様性の大切さを説き、自ら実践していかなければなりません。こういった意味で言行一致は非常に重要です。トップが常に最先端に気を配り、変化を恐れず役職に関係なく社員の意見を聴こうという姿勢を示せば、最初は冷ややかに見ていた社員たちも、やがては目の前の仕事をどうしたら効率的にできるか、顧客からの要望をどうしたら製品化できるかについて徐々に口を開き始めるでしょう。

トップがボトムアップを求めるならば、職場の改善はまずはトップからです。トップが何も変化せずに社社員にだけ変化を求めても聴く社員はおらず、いたとしても反対勢力に押され、最悪の場合には離職してしまうこともあります。

ボトムアップ経営を成功させるために

前述の通り、トップダウンのメリットは迅速な経営判断です。ただし、ボトムアップで迅速性さがムリというわけではなく、一定条件さえ整えば十分に可能です。
具体的には、技術的な側面(BIツールとイントラ)、人間的側面(オープンな状況・関係性)が迅速性のカギを握ります。それぞれについて詳しく見ていきましょう。

コミュニケーションプラットフォームを用意する

今までは、意思決定に時間がかかることが、ボトムアップ推進のボトルネックとされてきました。この制約条件を一気に解決するのが、ITツールを活用したコミュニケーションプラットフォームです。

たとえば、全社員を集めた意見交換を開こうと思っても、全国から集まらなくてはいけないなどの問題でこれまでは実現が困難でした。一方でオンラインとリアルを併用した集会なら、ログイン登録した全国の社員が参加でき、距離的制約を一気に取り払えます。

さらにチャット機能を使えば、その場でリアルタイムに社員の回答や意見を集約でき、さらには即刻で施策に反映といった離れ業も可能です。

なんでも言い合える関係性を作る

積極的な意見や前向きな意見といっても、上司や先輩の前では遠慮してしまうこともあるでしょう。同時に失敗が許されないような組織では、果敢に挑戦する社員も出てきません。やはり上に立つ人間が、自由な発言やチャレンジを歓迎する空気を意図的に作っていかなければいけません。

たとえばディスカッションを行うときも若手にまとめ役を任せるなど、地道な工夫の積み重ねが欠かせないのです。
前向きな意見やチャレンジが認知されれば、たとえ若手であっても能動的に物事を考えるようになります。そしてたとえ一社員でも、「自分が上司の立場なら」と俯瞰した視点を持てるようにもなるのです。

双方向が交流しやすい文化を作る

積極的な意見を交わす前提条件は、双方向のコミュニケーションにあります。双方向コミュニケーションを促すために、ファシリテーターによる進行・ホワイトボードなどツールの活用などをルール化することがよくありますが、ルール化だけでコミュニケーションは活発化しません。

カギを握るのは、オープンな組織風土の醸成です。上司や先輩による無言の圧力、今までのやり方を替えられない暗黙のルールなど、小さなことでも心理的な見えない鎖を少しずつ取り除いていくことで、組織は学習を繰り返し風土が改善されてゆくのです。もちろんトップからの情報発信も、風土改善に寄与します。

積極的に挑戦できる風土を作る

ボトムアップ経営を実現するためには、現場の従業員が自由に挑戦できるような企業の風土を醸成し、各個人が積極的に意見を述べやすい環境づくりが必要です。そのためには上がってきた意見や、新たな挑戦をしようとする姿勢を否定しないことが重要になります。従業員は、自身の声が経営陣に届き、具体的な施策として採用されることで、より自主性を持って業務に取り組むようになります。

「人間は新たなものを創造する際に、本質的な喜びを感じる」という考えに基づき、マルクスは共産社会では報酬が重要ではなくなるにしても、人々が創造の喜びを求めて新しいものを生み出し続けるだろうと述べました。しかし、マルクスが予見できなかったのは、「言ったもの負け」という文化が社会主義国や今の大企業や官僚組織で広がることは予想ではできませんでした。

ボトムアップに成功した企業事例

ここからはボトムアップ経営で成功をおさめた企業と、その取り組みを紹介していきます。

サイボウズ

サイボウズは、ボトムアップの循環を作り上げ、社員一人ひとりの話を聞いていくうちに、現在の「100人100通りの人事制度」を導入しました。社員の希望に対応するためにあらゆる人事制度をボトムアップ型で改めて整え、離職率を4%まで下げることに成功したのです。

DeNA

DeNAでは、20周年を機に始まった「De20」プロジェクトから、ボトムアップの文化が始まりました。その後、「Delight Board」という名称に変更され、現在も継続しています。このプロジェクトには、新卒インターン生や管理職、入社直後の中途社員も参加しています。 Delight Boardでは、従業員の意見や提案を募り、最終的に3つのプロジェクトが選出されました。これらのプロジェクトは、ボトムアップのアプローチで進行しており、組織と制度に対するチャレンジが行われています。これにより従業員の主体性が強化され、現場の意見が抽出されやすくなりました。また、新しい意見やアイデアを取り入れることも容易となりました。

DeNAは、ボトムアップの風土を持ちながらも、組織と制度へのチャレンジを行っています。Delight Boardを通じて、従業員の主体性を高め、現場の意見を活かし、新しいアイデアを取り入れることで、自分と事業の力を向上させています。ボトムアップのアプローチは、DeNAにおいて成果を上げていることが伺えます。

Google

Googleは業務時間の20%を自由に使える「20%ルール」を導入しており、従業員ひとり一人の挑戦を促しています。これにより、従業員は自分の興味や関心に基づいたプロジェクトに取り組むことができ、ボトムアップのアプローチが具体的に現れています。

リクルートホールディングス

リクルートは「0から1」のビジネスを創り出すことにこだわりながらも、「1を10」にしていくことも実現しています。このような矛盾するマネジメントを両立させることができるのは、リクルートが新しいボトムアップの方法論を持ち、組織内の意見やアイデアを活用することでイノベーションを促進し、競争力を高めてきたためです。

結果としてリクルートは多様な分野で成功を収め、今後もリクルートはボトムアップの経営手法を継続して発展させ、さらなる成果を上げていくことでしょう。

小林製薬

ボトムアップのアプローチは、小林製薬が持つ「あったらいいなDX」のビジョンとも合致しています。社員一人ひとりが自らのアイデアをカタチにし、顧客や従業員の体験を向上させることで、より良い製品やサービスを提供することができます。小林製薬は今後もボトムアップのアプローチを大切にし、組織の成長と発展を図っていくでしょう。

まとめ

結論として、迅速な判断が求められる場合にはトップダウンもやむを得ないですが、理想的にはボトムアップが望ましいといえそうです。

ただしボトムアップを実現するには、環境整備が欠かせません。みなさんの職場はどうですか?問題山積でも、あきらめることはありません。課題を着実にあぶり出して現状を改善し、一歩一歩ボトムアップ型経営に近づけていきましょう。

この記事を、みなさんの職場における意思決定・問題改善の迅速化、生産性向上を考える際に参考にしていただければ幸いです。

よくある質問
  • トップダウン・ボトムアップとは何ですか?
  • トップダウン型経営では、企業トップの意思決定がまずスタートにあり、決定事項をトップから各事業本部、本部から支社や営業所といった要領で上意下達式にブレイクダウンしていきます。一方、ボトムアップ型経営では、現場からの提案を経営層にまで集約させ、これをベースとしてトップの意思決定につなげます。

  • トップダウン・ボトムアップそれぞれのメリットとデメリットは何ですか?
  • トップダウンのメリットは「意思決定から実行までの判断を迅速に行える」点であり、デメリットは「従業員の判断スキル低下、悪い情報の隠ぺい、経営者の資質によるブレ」などです。
    ボトムアップのメリットとしては「社員の主体性醸成、得意先や顧客の変化にも柔軟に対応できる」点、デメリットとしては「意思決定の方向性をまとめるのに時間がかかる、多くの意見を集めるのでありきたりの結論に陥りがち」などが挙げられます。

  • トップダウン ボトムアップ どっちがいい?
  • トップダウンとボトムアップは対立概念ではありません。どこの組織も双方を活用して、組織運営をしています。マネジメントスタイルや組織文化が、どちらかの傾向が強かったり弱かったりする場合があります。又、問題や課題の分類において、メリットデメリットがあります。

株式会社ソフィア

先生

ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。

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