組織を変えるインターナルコミュニケーション経営とは?効果と実践【2025最新】
最終更新日:2026.02.02
目次
現代の企業経営において、組織の内部結束と機動力を高める「インターナルコミュニケーション」の重要性がかつてないほど高まっています。グローバル化の進展、人的資本経営の要請、そして働き方の多様化により、従来の「社内広報」の枠組みだけでは、企業の持続的な成長を支えることが困難になっているからです。
あなたの会社では、経営層が発するビジョンは現場の社員一人ひとりに届いているでしょうか。また、現場のリアルな声は経営判断に活かされているでしょうか。
本レポートでは、インターナルコミュニケーションが経営に与えるインパクトを、世界的な調査データや弊社ソフィアが実施した「インターナルコミュニケーション実態調査2024」の最新エビデンスに基づいて紐解いていきます。業績との相関関係から、組織のサイロ化を防ぐ具体的な施策、さらには生成AIを活用した2025年の最新トレンドに至るまで、大企業の経営企画・広報部門のリーダーが今知るべき情報を網羅的に解説します。組織を変革し、競争力を高めるための「インターナルコミュニケーション経営」の本質へ、一緒に迫っていきましょう。
そもそもインターナルコミュニケーションとは何か?
経営機能としての再定義
現代のビジネス環境において、「インターナルコミュニケーション」という言葉は、かつてのような「社内のお知らせ」や「福利厚生の一環」という狭い意味合いを超え、経営戦略の中核を成す重要な機能として再定義されつつあります。組織が肥大化し、ビジネスのスピードが加速する中で、経営の意志を末端まで浸透させ、同時に現場の知見を経営に還流させる循環(ループ)を作ることこそが、企業の生存戦略そのものになっているのです。
では、「インターナルコミュニケーション」とは何でしょうか。端的に言えば、社内やグループ会社内など、同一の組織内における広報活動のことです。
「社内コミュニケーション」と訳されることもありますが、インターナルコミュニケーションは社内広報誌やその他メディアでの一方通行の発信だけでなく、社員同士の情報交換のような双方向のコミュニケーションを含みます。
この「双方向性」こそが、従来の社内広報とインターナルコミュニケーション経営を分かつ決定的な違いです。従来の広報が「情報を伝えること(Transmission)」を主眼に置いていたのに対し、インターナルコミュニケーションは「意味を共有し、行動を変えること(Transformation)」を目指します。
インターナルコミュニケーション経営の目的と本質
「インターナルコミュニケーション経営」は情報交換・対話をすることで、社員が企業理念・ビジョン・バリュー、カルチャーなどを深く理解することが目的です。また、社員自ら企業のビジョンを体現し、ひいてはメッセージとして外部へ発信してくれるような存在になることを促します。
これは、いわゆる「インナーブランディング」や「エンプロイー・アドボカシー(従業員による推奨)」の概念とも深く結びついています。視点を変えれば、社員が自社の最大のファンであり、その価値を深く理解していなければ、顧客に対して真の価値を提供することは不可能だと言えるでしょう。つまり、インターナルコミュニケーションは、組織内部の結束を高めるだけでなく、外部(顧客・市場・投資家)への競争力を高めるための基盤強化策といえます。
インターナルコミュニケーションにより、経営層と現場の社員や、異なる部署間の社員同士など、上下関係や部門間を超えて、経営や業務への理解を深め合うことが可能です。
具体的には、社員の業務や経営への理解を深めるためのインターナルコミュニケーション施策として、会社のビジョンについて意見を交わす場を設けたり、セミナーや講演会を開いたりすることがあげられます。
社内広報とインターナルコミュニケーションの違い
ここで、従来型の「社内広報」と、現代求められている「インターナルコミュニケーション」の違いをより明確に整理しておきましょう。この違いを理解することが、施策の設計において極めて重要になります。
| 特徴 | 従来の社内広報 (Internal PR) | インターナルコミュニケーション |
| 目的 | 情報を「伝える」こと | 「伝わった」結果としての理解・共感・行動 |
| 活用ツール | 社内報(紙・Web)、掲示板、一斉メール | 双方向ツール、対話の場、デジタルワークプレイス |
タワーズワトソンの調査レポート「Clear Direction in a Complex World」—2011-2012 Change and Communication ROI report—では以下のように述べられています。
このように、インターナルコミュニケーションは、企業の業績向上に大きく寄与すると考えられています。
日本企業を取り巻く環境変化と人的資本経営
では、日本企業におけるインターナルコミュニケーションの現状はどうでしょうか。欧米や中国では、かねてよりインターナルコミュニケーションが重要視され、優れたノウハウやナレッジが培われてきました。その背景にあるのは、転職しながら給与を上げていくというキャリアスタイルです。転職が当たり前の国では、従業員が数年で入れ替わるという前提で企業が運営されるので、インターナルコミュニケーションは組織維持において重要な経営要素になります。
一方、日本では、長らく正社員の終身雇用制が一般的でした。「言わなくてもわかる」「阿吽の呼吸」といったハイコンテクストな文化が、あえてコミュニケーションを緻密に設計する必要性を感じさせなかった側面もあります。しかし、この前提は完全に崩れ去りました。
近年、転職する人の割合が増えているため欧米や中国と同様の兆しが見えています。JOB型人事制度を取り入れて採用を行う企業も増えており、今後もこの傾向はますます加速するでしょう。そのため日本の企業にとっても、インターナルコミュニケーションはより一層重要なものになります。
人的資本経営とISO 30414の観点からの重要性
さらに、2020年に経済産業省が発表した「人材版伊藤レポート」以降、日本企業において「人的資本経営」への取り組みが急務となっています。人的資本経営とは、人材を「資源(コスト)」ではなく「資本(キャピタル)」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげる経営手法です。
この人的資本経営において、インターナルコミュニケーションは中心的な役割を果たします。なぜなら、人材の価値を引き出すためには、企業のパーパス(存在意義)への共感や、従業員エンゲージメント(貢献意欲)の向上が不可欠だからです。
また、人的資本情報の開示に関する国際ガイドライン「ISO 30414」においても、以下の項目はインターナルコミュニケーションの質と密接に関連しています。
リーダーシップ (Leadership):経営層と従業員の信頼関係、リーダーシップ開発
組織文化 (Organizational Culture):エンゲージメント、定着率、従業員満足度
生産性 (Productivity):コミュニケーション効率による生産性の向上
特に投資家は、企業が従業員とどのような関係を築いているか、組織文化が健全であるかを厳しくチェックし始めています。インターナルコミュニケーションはもはや「社内の仲良しクラブ」を作るためのものではなく、投資家への説明責任を果たすための重要なKPI(重要業績評価指標)となっているのです。
インターナルコミュニケーション経営の効果
コスト削減と生産性向上へのインパクト
コミュニケーションというものは、それ自体が目的になるケースは少なく、あくまで何かを実現させるための手段です。企業にとってインターナルコミュニケーションは、経営上の課題を解決するために必要な手段です。そのため、インターナルコミュニケーションを導入する際は、企業に今どのような課題があるのかをあらかじめ考えた上で、実行に移していきましょう。
コミュニケーション不全は、目に見えない巨大なコストを生み出します。
従業員向けコミュニケーションデジタルツールを提供している「Staffbase」が行った調査では、インターナルコミュニケーションにコストをかけていない企業では、従業員が意欲を失い、業務効率が落ちたため、平均12%の労働時間が浪費されていることが分かりました。これにより企業が支払っている給与の35%が無駄になっているという結果も出ています。さらに、やる気のない従業員が増え、離職率は34%という高い数値になります。
これは、情報の検索にかかる時間、認識齟齬による手戻り、モチベーション低下による生産性の欠如などが積み重なった結果です。弊社ソフィアの調査(2024年)においても、現場では情報が「ない・遅い・見つからない」という「情報の三重苦」が発生しており、これが業務効率を著しく阻害している実態が明らかになっています。
組織力強化とエンゲージメント向上
一方、インターナルコミュニケーションにコストをかけている企業の上位4社は、離職率や事故が低く、生産性・収益性が高いことがわかりました。さらに顧客満足度の指標も高くなっています。
このように、インターナルコミュニケーションを活性化させることは、企業にとって大きな効果をもたらします。
インターナルコミュニケーションの5つの具体的メリット
ここまでインターナルコミュニケーションの重要性について述べてきました。では、具体的にはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここで、インターナルコミュニケーションがもたらすメリットを、さらに具体的に5つのポイントで整理します。
1. 生産性向上につながる
インターナルコミュニケーションで社内の交流が活性化することで、従業員同士が協力して事業を行ったり、誰かのアイデアを積極的に採用できる空気が作られたりします。これにより、企業が持つ人材リソースのポテンシャルを存分に活用でき、生産性向上につながります。
2. 離職率が低下する
従業員エンゲージメントが高まることで、組織への帰属意識が強まります。また、悩みや不満を早期に相談できる関係性が構築されることで、離職の予兆をキャッチし、対策を講じることが可能になります。
3. 社内の最新情報を従業員と共有できる
経営環境の変化が激しい現代において、最新の情報を全社員がリアルタイムで共有していることは、迅速な意思決定と行動のために不可欠です。情報格差をなくすことで、組織全体のアジリティ(俊敏性)が高まります。
4. グローバル組織での部署や拠点間のコミュニケーションの活性化
グローバル企業において、国境や言語の壁は大きな課題です。インターナルコミュニケーションを戦略的に行うことで、拠点間の物理的・心理的距離を縮め、グローバルなシナジーを創出することができます。
5. 経営理念の浸透
経営理念やビジョンは、額縁に入れて飾っておくだけでは意味がありません。日々のコミュニケーションを通じて繰り返し語られ、従業員自身の言葉で語り直されることで初めて、実際の行動指針として定着します。
経営の構成要素とインターナルコミュニケーション
経営戦略を実行し成果を出すためには、組織の様々な要素を有機的に結びつける必要があります。ここでは、経営の主要な構成要素とインターナルコミュニケーションの関係性を詳細に紐解いていきます。

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戦略・ビジョンとインターナルコミュニケーション
戦略・ビジョンを従業員に伝えるコミュニケーションは、インターナルコミュニケーションの最も重要な部分だと言えます。また、ビジョンや戦略計画を伝えることにより、従業員に共感を惹き起こし、行動を促すことも重要です。そのためには、日々変化する環境の中において、業績、KPIデータ、そして組織や人のアクティビティを分析しなければなりません。その上で、ビジョンや戦略との整合性や一貫性を検討する必要があります。これはトップマネジメントの重要な役割となるため、戦略ビジョンとインターナルコミュニケーションはトップマネジメントが行わなければなりません。
しかし、現実は厳しいものです。弊社ソフィアが実施した「インターナルコミュニケーション実態調査2024」では、「自社の経営目標や戦略に共感する社員は約1割にとどまる」という衝撃的なデータが出ています。多くの企業で、経営層が発信するメッセージが現場に届いていない、あるいは「自分ごと」として捉えられていない実態があります。
業務タスクとインターナルコミュニケーション
円滑に業務を行うためにも、インターナルコミュニケーションは重要となります。コミュニケーションが希薄になると、指示や連絡がタイムリーに伝わらないため、生産性が低下したり、業務上のトラブルを引き起こす原因となったりします。そういった問題を避けるためには、個別の業務内容を可視化し共有する必要があります。また、業務進行状況や業務従事する従業員の状態も可視化し共有しましょう。
組織として戦略ビジョンを遂行、そして達成するために業務やタスクは設計されます。そのためには、経営組織は業務を可視化し、分業化し、個別業務に落とし込まなければなりません。しかし、工程分業やバリューチェーンはサイロ化を生み出し、個別業務に従事する従業員は業務の全体が見えなくなります。特に現在ではテレワーク普及により、個別業務に従事する従業員は前工程や後工程がどのような業務を行っているのかということでさえ把握できなくなっています。
このような状態では円滑に業務を行うことができません。個人の業務がブラックボックス化する可能性が高く、万が一トラブルが起きた際に対応できないことも考えられます。
つまり、円滑な業務運営にはインターナルコミュニケーションが必要です。例えば、全体の状況はポータルサイトやBIツールなどを活用し可視化・共有化を行いましょう。デジタルワークプレイスやコミュニケーションプラットフォームをフル活用することで可視化・共有化が可能となります。
組織構造・制度・ルールとインターナルコミュニケーション
既存の組織構造や制度、ルールは、コミュニケーションの阻害要因になっており、インターナルコミュニケーションで補完しなければ組織は動きません。組織構造はレポートライン、すなわちコミュケーションの流れを決めます。また、人事制度や組織内の規定は、秩序や規範を生み出しますが、制度、ルールを超えたコミュニケーションは発生しません。
たとえば、情報セキュリティを遵守することは重要ですが、遵守していれば、あるいは決まった手順を踏んでいれば、完全に防げるわけではありません。ただセキュリティ対策が複雑化するにつれ、ルール化した仕組みの背景や内容はある事すら知らない状況です。そして未だに情報漏洩に問題は人為的なものが多いのです。
人事制度や目標管理など評価制度なども同じで、各職場の各人の設定した目標だけを実行すれば、組織全体の成果が出るわけではありません。ビジネス環境の変化や職務役割の決められたことだけをやることは、組織全体の成果にはつながりにくいとされ、最近では基本の人事評価に加え、職務外の活動も評価の対象になっているものが取り入れられており、職場環境を良くするため、自分の仕事以外に行動なども評価するようになっています。
平たく言えば、制度やルールとコミュニケーション(背景と意義、ビジョンやありたい姿)が併記されなければ、手段の目的化を注意するということです。
組織構造や制度、ルールは一定の共通する秩序を生み出す反面、コミュニケーションを減らす要因になるともいえます。そのため、組織構造や制度、ルールの意図や歪みをインターナルコミュニケーションで補完する必要があります。人事制度改定や基幹システム導入において、組織や従業員に対するコミュニケーションに失敗すれば、組織と従業員で制度の意図をそれぞれが個別に解釈・運用し、結果として改悪になるケースも少なくありません。組織構造や制度ルールを上手く運用するためには、インターナルコミュニケーションが重要となります。
人財・人とインターナルコミュニケーション
従業員のコミュニケーションスキルや能力向上は、インターナルコミュニケーションの基礎とも言えます。組織のインターナルコミュニケーション能力は、従業員一人ひとりのコミュニケーション能力です。
経営の意思決定をする役員会や、上司と部下の1on1ミーティングなどにおいて、社員同士の言語・非言語コミュニケーションは事あるごとに発生します。特に日本企業は和を重んじるような対話を好む傾向もあり、変革や改革に必要な討論などのコミュニケーションはあまり行われていません。
しかし、組織が成長するためには議論や討論が必要な場面もあります。効果的な議論や討論を行うためにはコミュニケーションスキルを向上させなければなりません。コミュケーションスキルを向上させることが、インターナルコミュニケーションの促進につながります。
組織文化・風土とインターナルコミュニケーション
インターナルコミュニケーションは、良い組織風土や文化も、悪い組織風土や文化も醸成します。良い組織風土や文化を醸成しようと考えるのであれば、インターナルコミュニケーション変革から始めましょう。
「大企業病」という言葉があります。大企業病は、大規模組織の管理過剰が生み出す病気とされています。「意思決定が遅い」「内向きで現場・市場の声が通らない」「無駄な手続きが多い」「管理者が内向きで動かない」などが大企業病の特徴です。これは、不健全なインターナルコミュニケーションが、良くない組織風土や文化を醸成した例でもあります。
会社が成長する過程には4つの段階がありますが、とかく会社が安定期になると動きが鈍り変化を受け入れない体制になりがちです。このようなことにならないためにもチャレンジを是とする風土づくりや、企業のミッションやビジョンを明確にし、絶えず発信していくことが重要なのです。
ここまでで、経営の構成要素とインターナルコミュニケーションの関係を、いくつかの要素に分けて説明してきました。インターナルコミュニケーションは構成要素の整合性を取る役割もあり、複雑であり流動性の高いのが特徴です。また、上記の要素同士のコミュニケーションも、インターナルコミュニケーションになります。
では、これらの課題をどのようにモニタリングしていけばよいのでしょうか。2問~3問程度の毎月パルスチェックやES調査、社内デジタルツール(チャット、イントラ)のトラフィックのログデータなど、上記各要素の変数をモニタリングし、コミュニケーション状態を整理分析しながら進めることが肝要です。
最新調査から見るインターナルコミュニケーションの課題
インターナルコミュニケーションの重要性は理解されつつありますが、実際の運用現場では多くの課題が存在します。ここでは、弊社ソフィアが実施した最新の調査データなどを基に、日本企業が直面している課題の深層に迫ります。
「情報の三重苦」と部門間サイロ化の実態
弊社ソフィアが実施した「インターナルコミュニケーション実態調査2024」(従業員数1,000人以上の企業対象、回答者数496名)では、多くの大企業が直面している深刻な課題が浮き彫りになりました。
まず、回答者の79%が「社内のコミュニケーションに問題がある」と感じています。その問題が発生している場所として最も多く挙げられたのが「部門間」(58%)であり、次いで「部門内_上司と部下」(51%)、「経営陣と社員」(42%)と続きます。これは、日本企業において「縦の壁(階層)」だけでなく「横の壁(部門間のサイロ化)」が深刻化していることを示しています。
さらに、情報共有においては以下の「情報の三重苦」が発生していることが明らかになりました。
以下表組
| 情報の三重苦 | 具体的な状況 |
| 1. ない | 必要な情報が発信されていない、または共有されていない |
| 2. 遅い | 意思決定や通達が現場に届くまでにタイムラグがあり、機を逸する |
| 3. 見つからない | 情報がどこにあるか分からず、検索に時間を浪費している |
この「三重苦」は、従業員の生産性を低下させるだけでなく、会社への信頼感を損なう大きな要因となっています。
デジタルツール導入と戦略共感のギャップ
同調査では、社内チャットツールの導入率は76%に達していることがわかりました。しかし、ツールがあっても活用度には大きな格差があり、また「戦略への共感」は前述の通り約1割に留まっています。
これは、「ツールの導入=コミュニケーションの活性化」ではないことを如実に物語っています。物理的なインフラ(チャットやWeb社内報)は整いつつありますが、そこで交わされるコンテンツの質や、対話を促す文化(ソフト面)の整備が追いついていないのが現状です。ツールを入れただけで満足してしまい、本来の目的である「ビジョンの浸透」や「行動変容」に至っていないケースが散見されます。
グローバル・外国人従業員とのコミュニケーション課題
グローバル化が進む中で、言語や文化の壁も大きな課題です。WOVN.ioなどの競合他社も指摘している通り、外国人従業員とのコミュニケーションにおいて以下の問題が発生しています。
情報格差:日本語のみでの情報発信により、外国人従業員が必要な情報にアクセスできない
エンゲージメント低下:「自分たちは蚊帳の外」と感じさせ、帰属意識が低下する
安全管理リスク:工場や現場において、安全に関する重要な指示が伝わらないリスクがある
多言語化対応は、単なる翻訳の問題ではなく、多様な人材を包摂する(インクルージョン)ための経営課題として捉える必要があります。
インターナルコミュニケーション経営の3つのコンテンツ
課題を乗り越え、効果的なインターナルコミュニケーション経営を実践するためには、どのようなコンテンツ(中身)を発信すべきでしょうか。ここからは、『人を活かし組織を変える インターナルコミュニケーション経営-経営と広報の新潮流』(経団連出版)を参考に、意識するべき3つの階層をご紹介します。
知識(Knowledge):暗黙知の形式知化
まず意識したいのは、企業としての知識(ナレッジ)を充実させることです。知識には、「暗黙知」と「形式知」の2種類があります。
| 企業としての知識 | 詳細 |
| 暗黙知 | 言語化されていない知識 |
| 形式知 | 言語化されている知識 |
暗黙知は言語化されていない知識のことで、形式知は言語化されている知識のことを表します。インターナルコミュニケーションで重要なのは、暗黙知を言語化し、形式知にしていくことです。
たとえばトップ層と現場の間で成功事例・失敗事例を共有すれば、暗黙知だったものが形式知になるでしょう。さらに経営理念に対する実践活動の事例を共有すれば、暗黙知がまたひとつ形式知になります。
このように各々の知識をコンセプト化して形式知にすれば、企業としてのナレッジが充実し、インターナルコミュニケーション経営に役立てることができます。知識(ナレッジ)を強化するインターナルコミュニケーションの施策には、オンボーディングやデジタルワークプレイス、ポータルサイトなどがあります。
ナレッジマネジメントとは?AI活用と失敗しない導入手順【2025年版】
ナレッジマネジメントの定義からSECIモデル、ISO30401、最新の生成AI(RAG)活用までを網羅。組織の暗黙知を資産に変え…
態度(Attitude):感情と帰属意識へのアプローチ
人や物事に対する考えや姿勢、感じ方に対する影響も意識していきましょう。態度は、行動と違ってはっきりとは見えにくいものですが、組織の雰囲気を良好に保つためにかなり重要なものです。実際、インターナルコミュニケーション経営を実践できている企業は、社内の雰囲気がよく、ムードメーカーがいることも多いです。インターナルコミュニケーションを通じて態度に良い影響を与えることができれば、組織で働く人の気持ちも良い方向に変えていくことが可能です。
これは、社員エンゲージメント(会社への愛着や貢献意欲)に直結する要素です。論理的な「知識」だけでなく、情緒的な「態度」に働きかけるストーリーテリングや、称賛文化の醸成が求められます。弊社ソフィアの調査においても、エンゲージメント向上は人事部が注力する最重要課題の一つとして挙げられています。
行動(Behavior):具体的なアクションへの転換
実際に表面に出てくる動作や立ち居振る舞いも、当然意識する必要があります。従業員の行動変容を意識したインターナルコミュニケーション施策を実施することで、社内間での人間関係が改善され、良好な人間関係が業務に良い影響を与えることもあります。
知識が増え、態度が変わっても、実際の行動が変わらなければ経営成果には結びつきません。例えば、「挑戦しよう」というスローガンだけでなく、実際に挑戦した人を表彰する制度や、失敗を許容するルールの運用など、行動を後押しする仕組みとコミュニケーションの連動が不可欠です。
インターナルコミュニケーション経営の事例
理論やフレームワークだけでなく、実際にインターナルコミュニケーション経営に成功している企業の事例を見ることで、具体的なイメージを持つことができます。ここでは、国内の先進事例に加え、グローバル対応の事例もご紹介します。
株式会社ユーグレナ:ハイブリッド総会とCFO制度
ユーグレナを使ったヘルスケア商品などで有名な株式会社ユーグレナでは、コロナ禍の中、リアル+オンラインのハイブリッド形式で、グループ総会を実施しました。
総会の前後には、MicrosoftのSwayを活用したオンラインパンフレットを作成。総会の内容を発信し、簡単にコンテンツを確認できるようにしました。結果、情報共有に役立ったのはもちろん、今後の総会への参加モチベーションを高めることにも寄与しました。インターナルコミュニケーションによって、社員の意欲向上を実現できたのです。
また、同社は18歳以下の「CFO(Chief Future Officer)」を設置するなど、未来志向のステークホルダーを経営に巻き込むことで、社内の意識変革を促すユニークな取り組みも行っています。これは、外部の視点を内部に取り入れることで、固定観念を打破する高度なインターナルコミュニケーションの一形態と言えるでしょう。
三井不動産:ポータルサイトによる風土刷新
三井不動産グループの新規事業創出を支援する、三井不動産株式会社のビジネスイノベーション推進部は、企業風土の刷新のための情報ポータルサイトを作りました。同社はもともと体育会系のカルチャーが強く、創造性やクリエイティビティを発揮しづらい雰囲気がありました。そこで、情報発信の拠点となる「WARP PORTAL」を立ち上げ、社内の新規事業事例を紹介したり、さまざまな起業に取材をして記事を掲載したりしたのです。企業風土を刷新し、新しいことにチャレンジする人を応援する気風を創っています。
この事例は、単なる情報共有ではなく、「こういう行動が評価される」「こういう挑戦が面白い」という「態度(Attitude)」と「行動(Behavior)」の変容を促すメディア活用の好例です。
NTTデータ:中堅社員による経営への提言
NTTデータでは、中堅社員の育成を促すために、ワーキンググループ型のプログラムを実施しました。同社の中堅社員は現場で経験を積んできた人が多く、目の前の課題に対して適切に効率よく取り組むことができます。しかし彼らを将来のミドルマネージャーに育てるためには、より抽象的な問題への思考能力をつける必要がありました。そこで、通常は経営層が策定する「新中期経営計画」を、中堅社員に真剣に考えてもらうワークを実施。最終的に経営層へプレゼンする場も設け、マインドの向上、エンゲージメントの向上を促しました。
これは「共創型」のインターナルコミュニケーションです。経営計画を「降りてくるもの」ではなく「自分たちで作るもの」にすることで、暗黙知の共有と、経営視点の獲得(知識の向上)を同時に実現しています。
スクウェア・エニックス:社内ポータルの多言語化
グローバル対応の事例として、株式会社スクウェア・エニックスの取り組みが挙げられます。同社では、外国人従業員の増加に伴い、社内ポータルの多言語化を実施しました。従来は日本語の情報が中心でしたが、英語などの多言語対応を行うことで、外国人従業員もリアルタイムで社内情報にアクセスできるようになりました。これにより、情報の非対称性が解消され、外国人従業員のエンゲージメント向上や、グローバルなチームワークの強化に寄与しています。
2025年のインターナルコミュニケーションのトレンド
2025年に向けて、インターナルコミュニケーションはテクノロジーの進化と共に新たな局面を迎えています。IABC(国際ビジネスコミュニケーター協会)の議論や最新のトレンド分析に基づき、経営層が押さえておくべきポイントを整理します。
生成AIの活用と「人間中心」の回帰
ChatGPTなどの生成AIは、社内報の作成や要約、翻訳、FAQ対応などの業務効率化において不可欠なツールとなりつつあります。しかし、AI生成コンテンツが氾濫することで、社内が「情報のノイズ」で溢れかえるリスクも指摘されています。
2025年のトレンドは、単なる効率化から「ハイパー・パーソナライゼーション」へとシフトします。従業員一人ひとりの属性や興味関心に合わせて、AIが必要な情報をフィルタリングし、最適なタイミングで届ける仕組みが求められます。
同時に、AIが普及するからこそ、「誰が言ったか」という信頼性が重要になります。IABCの議論では、「ブランドへの信頼」から「人への信頼」への移行が指摘されています。経営者だけでなく、社内の信頼できるインフルエンサー(コネクター)を巻き込んだコミュニケーションが重要になるでしょう。
クリティカルシンキングと偽情報対策
社内外で情報が錯綜する中、従業員自身が情報の真偽を見極める「クリティカルシンキング(批判的思考)」の能力開発が、インターナルコミュニケーションの役割として浮上しています。誤情報やフェイクニュースから組織のレピュテーションを守るため、広報部門が教育者としての役割を担う場面が増えるでしょう。
まとめ
ここまで、インターナルコミュニケーション経営を行うためのポイントを、事例を含めて整理してきました。
結論から言えば、インターナルコミュニケーションは、企業の業績に直結するものです。
情報の「三重苦」を解消し、部門間のサイロを取り払い、社員一人ひとりのエンゲージメントを高めること。これらは人事部や広報部だけの課題ではなく、経営層がコミットすべき最重要の経営戦略です。








