
2023.05.01
社内ポータル徹底解説:機能・メリット、導入から成功のポイントまで

目次
「社内ポータル」は、自社で使ったことのない人にとってはあまり馴染みのない用語かもしれません。簡単にいえば、「社内の情報を集約した入り口のサイト」です。近年は大企業を中心に導入が進み、情報システム部門だけでなく人事・総務部門が運用を担うケースも増えています。今回はこの社内ポータルについて詳しく解説しながら、構築の際のポイントについても触れていきます。
社内ポータルとは?
「ポータル(portal)」は、「玄関」「入り口」を表す英単語です。冒頭で述べたようにポータルサイトとは、情報の入り口の役割を担うサイトを意味します。
<社内ポータルの概要>
一般的なポータルサイトと社内ポータルサイトを比較して社内ポータルの概要を掴みましょう。一般的なポータルサイトといえば、Yahoo! JAPAN」が有名で、さまざまなジャンルの情報へアクセスするための入り口となっています。インターネットを頻繁に使う方なら、こういったポータルサイトによって自分の欲しい情報が簡単に見つかった経験があるでしょう。
対して社内ポータルは、社内の人間しかアクセスできないイントラネット上に設置されたポータルサイトです。社内ポータルでは、社内のイントラネット内の他のページ、社外のWebページだけでなく、社員だけが使えるスケジューラーや勤怠ツールなどにもアクセスできるものがほとんどです。
「社内ポータル」の担う役割が深化している背景
これまで、社内のニュース・お知らせや業務に用いられるIT関連の情報、書類の電子データなどは「社内イントラ」や「ファイルサーバー」上にまとめられていました。「社内ポータルサイト」と呼ばれる新たなWebサイトを各社が整備している背景には以下の理由があります。
- テレワーク・ハイブリッドワークを踏まえた業務効率化
- 社内発信が必要な経営情報の多様化
- 社会からの要請により企業が対応すべき経営テーマの多様化
コロナ禍によって出社しない働き方が普及し、オンラインでの業務・コミュニケーションが占める割合が大きくなりました。そのために必要なツールも多岐にわたり、それらへのアクセスをより効率化するため、整理された入口が必要となりました。同時に、それらの利活用において困ったときの解決方法や便利な使い方、普段は使わないが特定の場面で必要な機能など、各種ツールに関する情報も併せて簡単に取得できることも欠かせません。さらに、書類・ドキュメントはもちろん社内でやり取りされる情報が量・多様ともに圧倒的に増加しました。緊急のお知らせや経営ビジョン・戦略、各事業における計画とそれらに関連するリアルタイムな経営情報、サプライチェーンの状況、顧客や市場に関する情報など、会社から全社に対する様々な情報が社内ポータル上で共有されています。ビジネスの複雑化に伴い、これまでは経営層のみが判断のために取得していた情報を現場レベルでの意思決定を推進するために共有するようになったという背景があります。また、社会全体・業界全体で取り組まれるSDGsやDX、働き方変革などの経営テーマについて全社に発信し、社員の共感と実践を促進していくことが求められる中、全社に対する有用な発信の場として社内ポータルサイトが活用されています。
こうした背景において、社内コミュニケーションの不足は多くの企業で大きな課題となっています。2024年の調査では実に84.8%の企業が社内コミュニケーションに課題が「ある」と回答し、中でも「部門間のコミュニケーション不足」を指摘する声が77.5%と最も多く挙げられました。また別の調査によれば、社員が社内情報を調べるのに1日平均1時間5分以上を費やし、約77%の社員が必要な情報を自力で見つけられていないといいます。上司や同僚に問い合わせるケースも多く、これが全社の生産性低下につながっている可能性も指摘されています。このように部門横断の情報共有やナレッジの整備が不十分だと、現場の負担や時間ロス、コミュニケーション断絶を招きかねません。社内で情報を迅速かつ的確に共有・発信できる共通基盤として、社内ポータルにはこれらの課題を解決する役割が期待されているのです。
社内ポータルの変化
これまでの社内ポータルは、業務マニュアルや会社からの必要なメッセージを集合させている情報の倉庫といった役割を担っていました。しかし昨今では、情報を発信する側と受信する側の関係性がフラット化し、社内ポータルは利用者同士が直接意見を言い合えるコミュニケーションの場に変化しています。会社が社員に必要な情報を一方的に発信する場ではなく、会社と社員が双方向に情報や意見を発信できるのが現在の社内ポータルです。また、デジタルワークプレイスのようなデジタル空間を活用した快適で効率的な仕事空間が普及しつつあり、市場を急速に拡大しているメタバースによってビジネスの常識も大きく変わろうとしています。そういったビジネス現場の激しい変化に付いていくためにも、必要な情報をすぐに受け取ることができる社内ポータルは会社にとって必須のツールといえるでしょう。
社内ポータルを最大限活用するためには、目的と発信すべき情報を整理する
社内ポータルを構築したものの、上手く使いこなせていないという組織も少なくありません。社内ポータルが活用できていない要因として、発信すべき情報の整理と設計ができていないということがあります。これまでの社内イントラやファイルサーバーから、そのまま内容を新しい仕組みに移し替えただけで、情報の取捨選択や再検討がなされていないという状況です。これまでより多くの役割を担うことになるポータルサイトとして、新しい運用設計を考えなければなりません。先に触れた背景を踏まえつつ、ポータルサイトが果たしうる役割について、いくつか例示してご紹介します。
ハイブリッドワーク・オンラインコミュニケーションの支援
社内ポータルはハイブリッドワーク(出社とリモート勤務の併用)やオンラインコミュニケーションの支援にも有用です。書類の保管場所、業務管理や申請、それぞれの仕事に用いられるツールなど、業務がオンライン化することに併せて、それら多様なツールやサービスの入口をポータルサイトに集約することでアクセスの利便性を高めることができます。
また、出社して直接他部署を訪ねたり隣の席の同僚に気軽に話しかけたりということが難しくなった代わりに、社員同士がお互いの連絡先やプロフィールを見る機会も増えたことでしょう。さらに、ポータルサイト内に各部門から情報発信するスペースを設けることによって、部門間連携の礎となるリアルタイムな状況報告や情報共有が全社で行われるケースも多くあります。実際、テレワーク下では「社内での気軽な相談・報告が難しい」といったコミュニケーション不足が大きな課題の一つとして挙げられており、社内ポータルを通じて物理的な距離を超えた円滑な情報共有を促進することが重要です。
「オンボーディング」の支援
オンボーディングとは、企業・組織が新入社員(中途社員を含む)に対して行う定着支援策を指しています。情報提供や価値観の共有によって、新入社員と既存社員との関係性を円滑にし、新入社員が企業・組織に早く溶け込んで伸び伸びと業務に取り組めるよう様々な情報提供や機会提供を行います。オンボーディングの主な項目として、大まかに以下の3つが挙げられます。
- 業務の流れ・手続き・規定を知る
- 会社の風土・価値観を知る
- 人を知る・つながる
入社後、新入社員がこれらの情報をじっくり学べるように社内ポータルサイトは重要な役割を果たします。長年勤めている社員が慣れと経験によって「どの情報がどこにあるのか」「誰が詳しいのか」を把握している状態が多くの会社で起こっていました。これらを誰もが分かりやすく・見つけやすく整理していくことを、社内ポータルサイトの設計時に検討することが重要です。オンボーディングの取り組みは社内ポータルだけで行うものではありませんが、ポータル上に新入社員向けの情報コーナーを設けたり、社内研修・eラーニングへの導線をまとめたりすることで大きな効果が得られます。
社内ポータルの本質的な機能とは、社員のコミュニケーション行動の媒介
ここまで触れてきた現在の社内ポータルの担う役割を整理すると、「全社員が必ずアクセスする場」として、「オンラインの社内コミュニケーションの中心となりながら、様々な情報流通や人と人とのつながりを媒介する」ということが本質的な価値であると言えます。企業・組織が目標に向かって進むためには、社員同士のコミュニケーションによって意思決定や合意形成を行うことが不可欠です。社員同士の意思疎通のスムーズさは企業・組織のパフォーマンスにも大きく影響し、長期的に見ると経営にも関わってくる大事な要素です。単なる情報の倉庫やリンク集ではなく、今後の経営や事業を支えるために必要な社内コミュニケーションをイメージしながら社内ポータルを設計する必要があります。自社の理想とする働き方を見据えながら、促したい社員のコミュニケーション行動(情報の取得・発信)を定義することが社内ポータル設計に必要不可欠なのです。
ただし、最初から細かな用途まで完全に検証してから導入を判断できるケースは稀であり、多くの場合はセキュリティやコストなど制約条件を踏まえて、まず使用するシステムやツールを選定し導入することになるでしょう。その後、導入済みのシステムを使いながらあとから詳細な目的・用途の設計を行うという流れが一般的です。とはいえ現在、多くの組織で社内インフラとして導入されるツールには情報の取得・発信に関わる機能が備わっているため、目的・用途をしっかり設計しさえすれば後からでも対応する機能を当てはめていくことが可能です。ただ、用途が明確化されていなければ機能の細かな運用方法が定まらないため、この設計を高い解像度で行うこと、あるいは長期的な運用の中で細かく改善していくことが求められます。
社内ポータルの機能
その他、社内ポータルサイトが一般的に備えている主な機能についてご紹介します。
検索機能
社内ポータルには性能の高い検索機能が搭載されており、これまでに蓄積した会社の情報を検索で簡単に引き出すことができます。すぐに欲しい情報を手に入れられる検索機能はスピード感が求められる現代のビジネスの現場において必須であり、多くのユーザーが社内ポータルに求める機能でしょう。
ワークフロー申請
社内ポータル上で、交通費や各種経費の精算、その他の稟議など各種申請に関するワークフローを実装できます。これにより紙やメールでのやり取りを減らし、社内の業務効率化に大きく寄与します。
コミュニケーション機能(情報掲示・ファイル整理・双方向)
旧来のファイルサーバーから置き換わるものとして、まずは社内の様々なファイルを体系立てて整理・配置することが必要です。また、そうした機能から派生して「Webページ」として情報を分かりやすく編集して掲載するコンテンツ管理機能を持つことも一般的です。そしてそれらのコンテンツに対して社員側・利用者側からコメントや「いいね」など何らかのリアクションや情報発信を行うこともできます。社内報を掲示板化したり、ドキュメント共有にフォーラム的な要素を加えるなど、双方向コミュニケーションを促す仕組みが社内ポータル上に備わっていることが望ましいでしょう。
スケジュール管理
チームや関連部門メンバーのスケジュールをブラウザ上で一覧確認できます。メンバーの予定を把握することで打ち合わせの日程を調整したり、上司が不在の時間を把握したりといったことが可能です。
プロジェクト管理
プロジェクトの進捗状況や参加メンバー、現在のタスクの担当者を社内ポータル上で確認できます。状況を全員で共有できるため、遅延や抜け漏れが起きにくくなります。また、プロジェクトメンバーだけのグループチャットや定例ミーティングのスケジュール設定など、複数のツールを社内ポータルと連携して密なコミュニケーションを取ることも可能です。
勤怠管理
社内ポータルにログインした時点でタイムカードを打刻したものとみなし、勤怠管理に連携できるツールもあります。特にテレワーク環境では物理的なタイムカード打刻ができないため重宝するでしょう。また、社員のログイン情報が自動的に集計されるため、総務・人事などコーポレート部門の負荷を大きく軽減できます。
社内ポータルの用途の設計
上述した多様な機能を用いて、社内ポータルによって社員同士のコミュニケーションをどのように支援していくのか、用途の例をいくつかご紹介します。
組織の壁を越えた社内コミュニケーションの円滑化
企業全体として共有すべき価値観や前提となる経営情報、問題認識が社内ポータル上で適切に伝えられることによって、社員間の議論や会話がより有意義で効率的になることが見込まれます。また、特に現状が見えづらい他部署の状況や他プロジェクトの進捗情報が少しでも共有されることによって、問題解決にあたるときの相談先が明確になるでしょう。
さらに社内ポータルサイトに掲載された情報を全員が参照できるようにすることで、社内問い合わせの頻度が減る効能も期待できます。人事・総務部など管理部門の業務負担が減ることはもちろん、現場レベルでの質問対応もポータル上の情報案内によって簡潔に済ませられるようになるでしょう。
情報取得の効率アップ
社内ポータルによって社内に分散していた情報を一箇所に集約・共有することで業務効率の向上も期待できます。いちいち社内の別の人に尋ねたりメールを探し回ったりする手間が減り、業務に必要なファイルを探し回るといった状況を回避することができます。業務効率が向上して生まれた余裕時間を他の業務に充てることができるため、人的リソースの有効活用にもつながるでしょう。
従業員のモチベーション向上
組織の情報がフラットに全社で共有されることで、社員が戦略の推進のために何をすべきか目的やアクションを明確に持つことにつながります。また、個人のキャリア開発に資する情報、市場や社会から自社への期待、業界における優れた事例の共有、自社が直面するピンチやチャンスなどの情報を社内ポータル上で発信することにより、社員のモチベーションも向上します。社内ポータルは単なる事務連絡ツールではなく、社員に経営ビジョンや成功事例を共有してエンゲージメントを高める場としても機能するのです。
テレワークにおけるオンラインコミュニケーションの支援
自宅や出張先など場所を問わずインターネット経由で利用できる社内ポータルは、テレワークのような遠隔業務の促進にも役立ちます。テレワークにはコミュニケーション不足に陥りやすいという課題がありますが、社内ポータルの活用によって距離的に離れていてもコミュニケーションが取りやすい環境を整えることができます。また、必要な情報も社内ポータルで共有できるので、紙の資料に頼ることなく情報閲覧ができ、ペーパーレス化によるコスト削減も実現できます。
社内ポータルサイトを構築する際のポイント
目的・用途そして機能を踏まえ、実際に自社で構築する際のポイントを7つにまとめました。
社内の多様な観点からポータルサイトが解決する課題を定義する
社内ポータルを取り扱う部署としては、情報システム部(IT部門)が担うケースが最も多く、次いで人事や総務が担当することが多いでしょう。そうしたプロジェクトが立ち上がった際、まず議題に挙がるのは新しいITツールやセキュリティに関する通知、勤怠や承認・申請などの仕組みの実装といったテーマです。しかし社内ポータルの検討においては、それだけでなくオンラインとオフライン双方の働き方を支える社員共通基盤として、組織課題の解決に資するコミュニケーション機能を組み込むことも重要です。プロジェクトチームには社内IT担当者だけでなく、社内広報や経営企画、SDGsなど経営テーマ推進担当のメンバー、さらには現場部門のメンバーが参画するケースも増えています。仮に社内ポータルサイトの構築を大人数で議論できない場合でも、様々な立場の社員から意見を集約する仕組みを設け、ポータルに求める要件を洗い出すことが重要です。
組織課題の解決のための情報発信を図る
ブラウザを立ち上げて最初に開かれるポータルサイトは、社内でもっとも閲覧されやすいWebサイトであると言えます。閲覧率の高いメディアとして、社員の行動変容につながる情報の発信に活用できます。組織課題や事業課題を踏まえて注力するテーマを決め、それに合致するコンテンツを制作しましょう。具体的な事例では、「自律的なキャリア開発」を社内の重点テーマに掲げて社内キャリアパスに関する情報発信のサブサイトを設け、そこから人材開発に関する学習コンテンツへと誘導するものや、経営計画やビジョンの解説、SDGsやDXなどに関する社内の取り組みを紹介するコンテンツなどが多くの会社で発信されています。社内ポータルは業務に必要なツールとしてだけでなく、社員と共有したい情報を発信するための場としての設計も意識してみてください。
見つけやすく適宜に分類された情報の配置
社内ポータルサイトを使って効率よく業務を進めるためには、社内に点在するさまざまな情報やドキュメント、リンクや帳票などが社内ポータル内のどこにあるかすぐに分かるように設計する必要があります。目的別(例:休暇取得、福利厚生、相談窓口)、発信元別(例:人事部発、広報部発)などさまざまな分類方法がありますので、ポータル設計の際にはユーザーヒアリングを行いましょう。「どんな目的でポータルにアクセスすることが多いのか」「どう探すのが自然か」など利用者ニーズを聞き出し、ユーザー中心で情報設計を行うことが重要です。
セキュリティ意識の強化
社内ポータルには社員の個人情報をはじめ、取り扱いに注意が必要な情報が集約されるでしょう。情報漏洩を防ぐためには社員への注意喚起が必要です。現在ではテレワークが推進されていることもあり、社員の自宅や外出先からポータルにアクセスする場面も想定されます。「テレワークで使用しているPCを他人と共有しない」「公共の場所でPCを開いたまま席を立たない」など、社員一人ひとりのセキュリティ意識を強化するよう努めましょう。
コミュニケーションの場を整理する
社内ポータル上でチャットツールや掲示板を導入できても、それがどんな目的で設置され、どう使われるべきなのかを明示しておかないと、場が荒れたり過疎化したりするおそれがあります。コミュニケーションツールを社内ポータルに設置する際は、「どのような場にしたいか」「どんな内容のやりとりを想定するか」を整理してから実装しましょう。例えば「部署を超えて気軽に質問・相談できる掲示板」なのか、「業務上の正式な質疑応答を記録するフォーラム」なのかによって運用ルールも変わってきます。社員が安心して発言できるガイドラインを設け、健全なコミュニケーションの場を育むことが大切です。
社内ポータル構築の主な手順と期間
以上のポイントを踏まえ、実際の社内ポータル構築プロジェクトはどのように進めればよいでしょうか。ここでは一般的な導入手順とスケジュールの目安を紹介します。
- ヒアリング・要件定義: 最初に現場の声をヒアリングし、ポータルで実現したいことや対象となる社員の利用方法、アクセス権限、扱うコンテンツの種類・ボリューム、想定アクセス数、必要なインフラ要件などを整理します。シングルサインオン(SSO)やActive Directory連携など認証方式によってコストや難易度が大きく変わるため、セキュリティと利便性のバランスも検討します。要件定義にかかる期間はプロジェクト規模によりますが、2か月程度が一般的です。
- 設計: 要件定義の内容に沿って、ポータルサイトの画面構成や機能仕様、運用管理画面の設計を行います。社員ごとのアクセス制限やコンテンツ閲覧権限のルールによっては設計の難易度が高くなることがあります。また、既存システムからデータ移行を行う場合は移行方法の検討もこの段階で行います。設計作業には約2か月を要するケースがほとんどです。
- デザイン作成: サイト全体のUIデザインを作成します。基本的な流れは一般的なWebサイト制作と同様ですが、社内ポータルは情報量が多く「見る」より「使う」ことを重視したシンプルで直感的なデザインが求められます。各社のコーポレートイメージに合わせつつ、社員にとって使いやすい画面を目指します。デザイン作成には1〜2か月程度かかるのが通常です。
- システム開発: デザインに沿って実際のシステム構築を行います。開発自体は一般的なWebシステム構築と大きく変わりませんが、社内ポータル特有の認証方式(例:社内のAD/LDAPとの連携や独自ログイン)やコンテンツ閲覧権限の実装に時間を要することがあります。最近では市販のCMS(コンテンツ管理システム)製品を基盤に構築するケースも多く、その場合は標準機能で多くの要件に対応できるため開発工数を削減できます。開発期間は規模にもよりますが2〜5か月程度が目安です。
- データ移行: 現在運用中の社内サイトやファイルサーバー等から、新ポータルへ必要なデータを移行します。移行元システムによって難易度は異なりますが、データベースからの直接移行、Webページをクローリングして取得、あるいは手動コピーなどの方法が考えられます。内容確認やレイアウト調整も含めると1〜6か月とプロジェクトによって大きく変動します。
- テスト: 開発した社内ポータルが正しく動作するか確認します。特にアクセス制限の認証機構やコンテンツの閲覧制御など、セキュリティ関連のテストに十分な時間をかけます。不具合修正やユーザビリティの微調整もこの段階で行い、リリース前の最終確認を行います。テスト工程には2〜3か月程度を見込むケースが多いです。
- リリース: テストが完了したらいよいよ本番環境へリリースします。自社内サーバー上で運用する場合はリリース時に現地対応が必要になることもありますが、近年はAWSなどクラウド環境で運用する企業も増えています。リリース作業自体は1日で完了することが一般的です。
以上が主な構築手順となります。要件や規模によって期間は前後しますが、社内ポータルサイトの平均的な構築期間は4〜6か月ほどとされています。各工程で適切に計画・管理を行い、遅延の要因や抜け漏れを早期に発見することが、プロジェクト成功のポイントです。
社内に定着する社内ポータルの条件
多くのWebサイトがそうであるように、社内ポータルもリリースして終わりではありません。常に最新かつ有用な情報を提供し続けることが重要です。特に社内向けの情報に古いものが混じっていると社員に混乱を招いたりトラブルの元になったりします。「ここに来ても最新情報が得られない」と社員が感じるようになると社内ポータルにアクセスしなくなってしまうため要注意です。では、社内に定着する社内ポータルの条件を見ていきましょう。
使われやすいデザインとインターフェースが採用されている
社内ポータルにどんなに便利なツールと情報が集約されていても、画面のレイアウトが見づらかったり導線(メニューやリンク構造)が分かりにくかったりすると、期待したようには利用されないケースがあります。社内ポータルのようなサービスにおけるデザイン品質とは、すなわちUI(ユーザーインターフェース)の使いやすさを指します。UIとはユーザーとサービスの接点(インターフェース)を意味しており、例えば社内ポータルをPCで閲覧した場合のページ構成やメニューの項目・並び順、文字の大きさやフォント、色使い、ボタン配置など画面上に表示される全ての要素がUIを構成します。社員に社内ポータルを日常的に利用してもらうには、直感的に操作でき、どこに何があるかすぐ分かるようなUIデザインが重要です。まずは前項で説明した情報設計をもとに具体的なUIを決めていきましょう。
また社内ポータルは作って終わりではなく、社内コミュニケーションの変化やビジネス潮流の変化に合わせて小さなブラッシュアップを継続的に行う必要があります。ポイントは一度に大きく変えず小さな変化を積み重ねていくことです。急激に大幅リニューアルされた社内ポータルは社員が使いこなせず、かえって非生産的なツールになってしまう恐れがあります。
以上を踏まえ、社内ポータルは細かな改善を重ねやすいツールや、定期的な機能アップデートが計画されている製品を選定することが望ましいと言えます。さらに最近ではスマートフォンでのWeb閲覧も当たり前になっているため、モバイル対応されたデザインも必要になります。自社で適切な改善アイデアが思い浮かばない場合は、社内ポータルの構築実績が豊富な外部の協力会社に相談し、ユーザー視点でのUI改善を図るのも良いでしょう。
情報発信の際のテンプレートを用意する
社内ポータル上で情報発信を行う際には、あらかじめ標準化された発信用テンプレートを用意しておくと効果的です。発信者側の作業時間短縮になるだけでなく、閲覧する側にとっても見やすいフォーマットで最新情報が提供されるためポータル全体の可読性も維持できます。誰もが見やすく更新しやすいテンプレートを開発し、積極的に活用していきましょう。
社員のセキュリティ意識の向上を図る
社内ポータルを定着させるためには、社員一人ひとりが取り扱う情報の価値とリスクを正しく判断し、状況に応じた行動を心がけるという意識を醸成していくことも欠かせません。昨今の社内ポータルは外出先からクラウド経由でアクセス可能です。そのため、自宅や立ち寄ったカフェなどでノートPCやスマートフォンを開いて閲覧・書き込みができてしまいます。これはすなわち、第三者に画面を見られる危険性が非常に高いということです。また、電車内などで社内ポータルの画面を見ながらつい話してしまった内容が機密情報にあたる可能性も考えられます。とはいえ、仕事にスマートフォンなどモバイル機器を用いることも今や当たり前となり、そのおかげで利便性も大きく向上しています。「セキュリティ」を意識するあまり業務に支障をきたしてしまっては本末転倒です。適切なセキュリティ教育(研修会の実施や定期啓蒙など)を通じて社員の意識向上を図り、利便性とセキュリティのバランスを取ると良いでしょう。
運営体制の確立と継続的な改善
社内ポータルを長く活用していくには、導入後の運営体制を整えることも重要です。具体的には、IT部門・人事部門・各事業部門など横断メンバーで構成される推進プロジェクトチームを組成し、経営層から明確な支援(スポンサーシップ)と権限委譲を得た上で全社的に運用していく体制が望ましいとされています。導入後も定期的に利用状況の分析やユーザーからのフィードバック収集を行い、必要に応じてコンテンツの更新や機能改善を重ねていきましょう。こうした継続的な改善活動によって長期的な価値創出が可能となり、ポータル構築の投資効果を最大化できます。運営体制が不明確なままだと情報更新が滞ったり組織の抵抗で活用が進まなかったりするリスクがあるため、体制とルールを明確化し、PDCAサイクルでポータルを育てていくことが社内定着の大前提となります。
社内ポータルの効果測定とROI
社内ポータルを導入した後は、その効果測定をしっかり行いましょう。経営層にとってはポータル活用による投資対効果(ROI)を定量的に示すことも重要です。効果測定のためには、いくつかのKPI(重要指標)を設定します。例えば「社員のポータル利用率(何割の社員が毎日アクセスしているか)」「コンテンツの閲覧数や検索クエリ数**(どの情報がよく見られているか、検索されているか)」「ポータル活用による業務時間の削減量」などが考えられます。
例えば、一般的な会社員は1日に平均1.6時間を業務上の「調べもの」に費やしており、計算上、日本全体で1日当たり約1兆円もの人件費が情報検索に充てられているとの試算もあります。社内ポータルによって社員が必要な情報を素早く見つけられるようになれば、このような時間ロスの削減につながり、生産性向上という形でROIを十分に高められる可能性があります。また、ポータル導入前後で社内問い合わせ件数がどの程度減ったか、社員同士の情報共有の速度が向上したか、といった指標を追うのも有効でしょう。
さらに、ポータル上で取得できるログデータ(アクセス数、検索キーワード、投稿・コメント数など)を分析すれば、どの部署が積極的に使っているか、どんな情報が不足しているかといった活用度合いや課題も把握できます。必要に応じて社員アンケートを実施し、ポータル利用に関する満足度や業務効率の変化について定性的な評価を集めることも有益です。こうした定量・定性双方のデータをもとに経営陣へ効果を報告し、さらなる改善の投資判断につなげることで、社内ポータルの価値を組織に根付かせることができるでしょう。
将来的なポータルの理想像「デジタルワークプレイス」
社内ポータルはデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進とも相まって、より注目が集まっています。この社内ポータルの延長線上に位置づけられる理想の環境が「デジタルワークプレイス」です。デジタルワークプレイスとは、業務に不可欠な社内ツール群や各種情報、コミュニケーション手段をオフィス内からクラウド上に移行し、マルチデバイスでアクセス可能にする概念です。インターネットに接続さえできれば時間や場所を問わず業務やビジネス上のやり取りができるため、昨今のテレワーク時代に即した働き方を実現するビジネス戦略とも言えます。今までオフィスで対面で行ってきたことを、できるだけそのまま、あるいはさらに効率を高めながらWeb上で実現していく試みであり、「紙業務の電子化」のさらに次の段階と言えるでしょう。気軽に使えるWeb会議ツールや複数人で共同編集可能なドキュメント(PowerPoint・Excelファイルなど)も、デジタルワークプレイスの考え方に基づくツールです。
その他、集合研修や情報発信の掲示板といったものもWeb化が可能ですし、中にはもっと細かな、例えば「ドアを開けて隣の部署の●●さんに声をかける」といった動作を仮想空間上で再現しているアプリケーションも登場しています。できるだけストレスなく、また本来リアルな場で行っていた細やかなコミュニケーションをもデジタル環境に反映していこうと、各社で様々なツール開発が進んでいます。具体例としてMicrosoft社はデジタルワークプレイスの実現に向けた機能開発を進めており、コミュニケーションアプリ「Teams」への各種業務アプリ統合や、SharePointのVR対応などによって、VR空間上で社内ポータルにアクセスできる世界観も現実味を帯びてきています。これにより、社内ポータルで実現できることの幅は今後ますます広がっていくと考えられます。
社内ポータル導入の成功事例
では、実際に社内ポータルを導入して大きな成果を上げている企業の例を見てみましょう。例えばセガサミーホールディングスでは、グループ内の29社それぞれに分散していたイントラサイトを統合し、共通の社内ポータルサイトを構築しました。同社のポータルは社員が毎日訪れる欠かせない情報基盤となっており、社内ポータルの閲覧率を80%にまで高めたことが報告されています。ポータル上で必要な情報を一元化し誰もがアクセスする状態を作り出すことで、情報共有のスピードや社員のエンゲージメントが飛躍的に向上した好例と言えるでしょう。
また、株式会社ノーリツや株式会社ゼンリンデータコムといった企業でも社内ポータルサイトを構築し、グループ内・組織内に散在していた情報を一箇所に集約することで情報伝達の効率化と社員の利用定着に成功しています。このように実際の導入事例からは、社内ポータルを単なる情報置き場ではなく社員が毎日使いたくなる場にすることが社内浸透のカギであり、そのためには本記事で述べてきたような綿密な計画・設計と運用努力が不可欠であることが分かります。
まとめ
社内ポータルとは社員同士のコミュニケーションを円滑化させるためのツールであり、その副次効果として業務の効率化・社員のモチベーション向上・テレワークの促進といったメリットが生じるとお伝えしました。情報を一箇所に集約できるため、社員間で共有されていない情報を最小限に抑えられる効果もあります。また社内ポータルにはワークフロー申請や勤怠管理といった、社員の業務外の手間を簡素化してくれる機能も備わります。経費精算やタイムカード打刻を社内ポータル上で完結できることは、多くのビジネスパーソンにとって小さなストレスから解放されることを意味します。これまでアナログで行っていた細かな作業を省ける点も社内ポータルを運用する大きなメリットです。
ただし社内ポータルはあくまでも社員が業務遂行のために活用するツールであり、ただ導入しただけでは十分なメリットを引き出せず社員が使わなくなってしまう可能性も高いでしょう。大切なのは社員同士のコミュニケーションを円滑化するというゴールを見失わず、社員の業務ニーズに合わせて社内ポータルの機能やコンテンツを継続的に更新・改善していくことです。適切にアップデートを繰り返した社内ポータルは社員に定着し、業務のスムーズな進行を手助けしてくれる心強い存在となることでしょう。
以上、社内ポータルの基礎から導入・運用のポイントまでを解説しました。人事部門や研修担当の方にとって、本記事が社内ポータル活用のヒントとなり、自社のコミュニケーション活性化に寄与すれば幸いです。
関連事例
よくある質問
- インターナルコミュニケーションとは何ですか?
社内やグループ会社内など、同一の組織内における広報活動のことです。「社内広報」や「インナーコミュニケーション」とも呼ばれ、社内報や社内セミナー、対話集会などを通して、社内におけるコミュニケーションを活性化する活動全般を指します。
こうした活動は、組織の価値観や文化に対する社員の知識・理解を深めることにつながります。会社のビジョンを外部に向けて主体的に発信することのできる社員を育成し、組織全体を良い方向へと導く取り組みとして、インターナルコミュニケーションが行われます。
- 社内ポータルの機能・役割とは何ですか?
コロナ禍によって出社しない働き方が普及し、オンラインでの業務・コミュニケーションが占める割合が大きくなりました。そのために必要なツールも多岐にわたり、それらへのアクセスをより効率化するため、整理された入口が必要となりました。社会全体・業界全体で取り組まれる、SDGsやDX、働き方変革などの経営テーマについて、全社に発信し、社員の共感と実践を促進していくことが求められる中、全社に対する有用な発信の場として社内ポータルサイトが活用されています。

株式会社ソフィア
先生
ソフィアさん
人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。
株式会社ソフィア
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