オンボーディングとは?実施の目的とプロセスを解説

近年トレンドになっているオンボーディングですが、日本では「オンボーディング=新人研修」として解釈されていることがあります。

これは発祥地である海外の定義を踏まえると正確ではありません。

本来、オンボーディングとは、新人研修に限らずより広く大きな枠組みで教育・受け入れ体制を敷くことによって、新入社員がいち早く会社やチームに馴染み、自分の強みを萎縮することなく生かして伸び伸びと活躍できるようにサポートする、より広義な取り組みを指します。

この定義を誤ると、オンボーディングを正しく実施できない可能性があるため注意しましょう。
そこで本記事ではこのオンボーディングについて概要と実施の目的、導入する際のプロセスについて解説します。

オンボーディングとは

オンボーディング(on-boarding)とは、新卒や中途の新入社員が早期に活躍できるように、一律に行われる研修とは別に、個々が業務で必要となる知識や技術を提供したり、会社やチームにいち早くなじめるようサポートしたりといった、一連の取り組みを指します。
アメリカでは会社で迎える新しい人を「乗組員」に例えて、「Welcome on board!(乗ってくれてありがとう)」という言葉をかけるそうです。この言葉が語源となり、オンボーディングという言葉が誕生しました。

オンボーディングの概要

オンボーディングとは前述のとおり、新入社員に対する組織としての支援活動を意味します。日本では「新人研修」や「OJT」という言葉が一般的で、オンボーディングもイコールで捉えられがちです。しかし、海外で発祥した本来のオンボーディングはより広義で、さらに「情報の提供」や「価値観の共有」に重きが置かれています。

ここでいう情報や価値観とは、社内制度や評価制度(つまり「組織が人材をどのように考え、扱うか」ということ)、企業のミッションやビジョン、経営層やマネジメント層の仕事のしかたや人となり、部署やチームの人間関係などです。
こうした情報を知らないと、新しく組織に所属した人間はコミュニケーションが手探りの状態になり、本来の持ち味をうまく出すことができません。個を主張する海外とは逆に、和を重んじる日本であればなおさらです。

こうした情報や価値観を早くに伝えておくことで、新入社員にとっては自分がどう立ち振る舞うことが最善なのかという指針になります。業務における早期戦力化の面だけでなく、新入社員が組織の一員として自分らしさを遺憾なく発揮して活躍できるようにするという意味合いが、オンボーディングにはあるのです。

オンボーディングのために行われる取り組みの例

オンボーディングで行われる取り組み例をご紹介します。

・チームや部門の壁を超えたつながりの構築

垣根なく行われる社内のイベントやソーシャライズパーティ、社内SNSなど、海外のオンボーディングでもっとも重視されているものです。自己紹介などを行うラフなミーティングをはじめ、ランチ会や歓迎会などをオンボーディングの観点から見直して実施してみるとよいでしょう。
メンバーとの関係性を構築する機会を設けることでコミュニケーションに費やすコストが下がり、早期から協力体制を敷いて共同作業を行えるようになります。こういった機会は、今後の業務上の連携を円滑にするため、新しいメンバーの専門性の付加価値を他の組織にも及ぼすため、つながりによるイノベーション創出のためなどに用いられます。

・職場内のスムーズな人間関係構築のためのコミュニケーション機会

研修やOJTに加えて、対面でのコミュニケーション機会を増やすことで、新入社員が馴染みやすい雰囲気や、チームメンバーの人となりを知るきっかけをつくります。関わる人間の仕事のやり方やクセを知ることで、新入社員は自分がどのように振る舞うことが適切かを早期に察することができます。すると、探り探りではなく堂々と自分の個性を前面に出して、その人らしさをいかんなく発揮しつつ業務を遂行できるようになるでしょう。


・資料や冊子の制作と配布

会社の風土や価値観をわかりやすく伝える資料や冊子(クレドなど)も、新入社員が自社を知るために役立ちます。こうした資料は外部に向けて作られることが多いものですが、オンボーディングの一環として内部に向けたものも制作しておくとよいでしょう。また、社内ポータルサイトにそういった情報を掲載する手もあります。

・社内のTIPSをまとめたもの

入社したてのころは、企業独自の自社ルールがわからず苦戦したり疎外感を覚えたりすることも多々あります。一見すると人材育成の範疇ではないように思えるかもしれませんが、和を重んじる日本人は規範意識に敏感なこともあり、こうした面でのサポートも行って然るべきです。会社は自宅と同じくらい長時間過ごす場所ですから、社内ルールは早くに知っておくと新入社員も安心するでしょう。

日本でオンボーディングが行われるようになった背景

パーソルキャリア株式会社が実施している転職動向の調査によると、2020年6月の転職希望者は過去(※)最多となっています。
優秀な社員の流出はどの企業も危惧すべきところであり、新たに採用した人材を定着させるためにオンボーディングの重要性が注目され、海外に倣って行われるようになりました。
また、社会人経験や業務経験のある中途採用者への教育は新卒社員と比べて軽視されてきたという風潮もあり、中途採用の社員に向けたオンボーディングが最近は特に重視されています。

オンボーディングを行うことによる効果

オンボーディングには従業員の定着(組織への馴染み)や早期戦力化をはじめ、さまざまな効果が期待できます。

離職防止による採用コストの削減

離職率の高い企業にとって、社員がすぐに辞めてしまうことが原因の採用活動は頭の痛い問題です。社員の離職率が低下することで、採用活動が必要最低限に抑えられるため、不要なコストを削減できます。

社員のエンゲージメント向上

採用面接だけで企業の情報や価値観のすべてを伝えることは困難です。また、これまでは新入社員が入社するとすぐにOJTということも多く、企業のカルチャーを深く知る機会がないまま実務に入っていました。オンボーディングを行うことで新入社員が企業や企業活動を深く理解するきっかけとなり、エンゲージメントを向上させることができます。

オンボーディングのプロセス

オンボーディングはこれまでの新人教育よりも内容が広範囲にわたることから、人事担当や現場の管理職がプロセスをしっかりと策定した上で臨む必要があります。

目的の設定

ここでいう目的とは、自社のオンボーディングによって新入社員が会社の風土や価値観を理解した上で、企業やチームにおけるその人のミッションとしてどのようなスキルを身につけ、どのように活躍してほしいかという、あるべき状態のことです。

オンボーディングと一口にいっても、企業の情報や価値観も企業ごとに異なれば、企業が求める人材も異なります。つまり、限られた期間の中で何を伝えるかを、教育担当者自身がまずは整理・把握し、伝達できるようにしておく必要があります。またここでは業務知識だけでなく、オンボーディングが本来重きを置く「情報の提供」や「価値観の共有」についても含めることを忘れないようにしてください。
またここでは、研修だけでなく研修後の配属先での教育についても指針を立てておきましょう。

環境の構築

情報の伝達や価値観の共有には密なコミュニケーションが不可欠なため、どのようなサポート環境が最適かをしっかりと検討する必要があります。1on1(ワンオンワン)やメンター制度だけでなく、社内ポータルやSNSといったITツールの利用も欠かせません。数あるコミュニケーション手法の中から適切なものを選択、あるいは組み合わせて活用しましょう。

また、オンボーディングは新入社員がチームや会社に慣れるまで継続的に行う必要があることから、チーム内の受け入れ環境、研修後のフォロー環境についても考えておくべきです。

プランの作成

オンボーディングは継続して行う必要があると述べましたが、タイムラインを引いて、入社当日、1週間、1ヶ月、半年後…と、それぞれのポイントで達成すべき「あるべき姿」を設定しておきましょう。それぞれの取り組みが短期的なものなのか、長期にわたるものなのか、いつどのタイミングで実施すべきなのか、設定したスケジュールを踏まえてそれぞれのプロセスにおける具体的なプランを作成してください。

プランの見直し

作成したプランは、人事担当と管理職だけでなく、オンボーディングに関わるすべての社員と共有し、ズレがないことを確認します。また、新入社員を迎える現場の全員がプランを理解し、実施について納得した状態にしておくことも重要です。

オンボーディングは「新しく加わった人を全員で歓迎し支援する『文化』の醸成」と言い換えることもできます。ようこそ!という気持ちは、メンバーの誰もが抱くものです。しかし現実には、その気持ちを個人的に伝える機会がなかったり、チームとして感じてもらったりする取り組みがそれほど重視されておらず、初日にあいさつもそこそこに実務に放り込まれるというケースも少なくありません。その背景には、人員不足などの理由で新人の早期戦力化を求める現場の事情もあるでしょう。

しかし、会社側がオンボーディングの視点を持ち、歓迎の気持ちを形にするために社員をうまく巻き込むことで、よりオープンな文化を作ることができるはずです。

実施

プランが定まったら、オンボーディングを実施します。はじめのうちはうまく回らない部分も多いはずなので、どこが課題なのかを関係者一人ひとりが記録しておくとよいでしょう。

また、プランが軌道に乗るまでは新入社員はテストパイロットになります。新入社員を不用意に不安にさせないためにも、自社の教育体制がまだ構築中であるという「情報の伝達」も忘れずに行い、納得感を持ってオンボーディングに参加してもらうことが大切です。

振り返り

実施後は、あらかじめ定めたポイントを経過するごとに振り返りを行います。ここでは、受け入れる側である管理者や現場社員のほか、オンボーディングの対象となった新入社員本人にも意見をヒアリングしましょう。なお、ただそれぞれが感想を言い合って終わりにならないよう、評価指標をあらかじめ設けておくことも有効です。

施策ひとつにしても、視点が異なると見えなかった課題が浮き彫りになってくるので、関係者全員からもれなく意見を吸い上げるようにしていきましょう。振り返りができたら、改善策を考えて次回につなげていきます。

オンボーディングの事例

多くの海外企業は自社のカルチャーに新入社員をなじませること(カルチャーフィット)を目的にオンボーディングを行います。日本とは少しやり方や目的が異なるかもしれませんが、急速な人口減少に伴う労働者不足や労働力の流動化が進む日本企業にとっても、参考になるポイントがたくさんあります。

Googleの「企業文化にスポットをあてたオンボーディング」

Googleは世界屈指のハイテク業界の巨大企業であると同時に、世界的に最も働きがいのある会社の1つといわれています。独自性の高い企業文化を重視している同社は、オンボーディングにおいても数々の優れた取り組みを行っています。

・Googleの企業文化に関する教育

Googleがオンボーディングプログラムの生命線と位置づけて最も重視しているのが、Googleの「企業文化」に関する教育です。
Googleは、世界的な企業に大きく成長した現在においても、少人数だったスタートアップ当時のような、親密で和気あいあいとしていた雰囲気を企業文化を維持しています。また、社内で行われるTGIFミーティングでは酒類が用意されているなど、その文化は一般的な企業とは大きく異なっています。

新入社員は、Googleが持つテクノロジーに関する講義とともに、企業文化に関する講義を受け、また、実際に業務や懇親の場で企業文化に触れます。
それらを通じて、フランクなGoogle独特の企業文化の虜になり、仕事上のさまざまな不安や、仕事に慣れないストレスを忘れさせ、快適さを感じるようになるのです。

とくにGoogleが重視しているのは、基本的価値観の一つである「変化」という企業文化です。環境変化が激しい世界経済の中でも、ハイテクの世界は技術革新のスピードが目まぐるしい業界です。

社員がGoogleで快適さを感じつつも成功を成し遂げるには、従来にはない新しいシステムや、やり方を積極的に受け入れる社員の姿勢が必要です。
断続的な変化に順応できるように、単なる情報の記憶に頼らず、新しいシステムや情報に対して、どのように対応できるかに重点を置いています。

・Google独自のチェックリスト

Googleは新入社員を受け入れるマネージャーに対し、下記5つのタスク(リスト)を与えて、オンボーディングプログラムを実施しています。

  • 役割と責任について話し合う。
  • 新入社員を仲間と一致させる。
  • 新入社員がソーシャルネットワークを構築するのを手伝う。
  • 新入社員の最初の6か月間、月に1回従業員のオンボーディングチェックインを設定する。
  • オープンな対話を奨励する。

リストは非常に単純明確で、マネージャーは最低限度やるべきことを意識するようになります。

・Google独自の技術理論を習得させる

Googleは新入社員に対して、コードラボ(Codelabs)と呼ばれる講義を開催し、Google固有の各種理論を習得させています。

新入社員であっても、Googleの重要プロジェクトや主要機能の開発を担えるようにするため、この講義は新入社員を育成するうえで非常に重要です。

・GoogleのOJT

新入社員に割り当てられる最初のプロジェクトは「スタータープロジェクト」と呼ばれています。このプロジェクトは約2週間で実施されます。

・メンターシッププログラム

新入社員には、それぞれメンターが割り当てられています。
メンターは新入社員のニーズに応えるための研修を受けており、約3か月にわたって、非公式な場でのコミュニケーションを通じて新入社員をサポートします。

日本オラクルの「エンゲージメントを高めるオンボーディング」

世界中に13万人以上の社員を有するオラクル・コーポレーション。日本法人である日本オラクル株式会社では、オンボーディングを通じて中途採用者の定着につなげています。
日本オラクルのオンボーディングの特徴は、社員エンゲージメント率85%の目標を設定して、さまざまな取り組みを実施している点です。

・オンボーディングを運用する専門部署「社員エンゲージメント室」の設置

日本オラクルでは、以前から中途採用者の定着率が低く、その改善が重要な経営課題になっていました。そこで2016年1月に、「社員エンゲージメント室」が設置されました。

社員エンゲージメント室は、社員が誇りを持って働くことが可能な会社を目指して、社員満足度85%超を実現するために、専任組織として設けられました。オンボーディンクを中心とした中途採用者の受入れ支援、組織の活性化や働き方改革などのミッションを担当しています。

・5週間のオンボーディングプログラム

日本オラクルのオンボーディングプログラムは5週間で実施されており、概要は以下のとおりです。

  • 第1週目:集合方式での会社組織やルールなどに重点を置いた基礎学習
  • 第2週目:上司によるOJT指導とe-ラーニング学習
  • 第3週目:自社商品と自社サービスの内容を中心としたOJT
  • 第4週目:集合方式でのロープレ研修
  • 第5週目:実践に備えた最終段階の総仕上げ

・日本オラクルド独自の「ナビゲーター」と「サクセスマネージャー」制度

現場でのOJTは、上司だけではなく、「ナビゲーター」と呼ばれる現場の先輩社員も加わります。「ナビゲーター」は、新入社員の日常業務の細かな部分までサポートします。

また、社員エンゲージメント室のメンバーが担当する「サクセスマネージャー」という役割もあります。「サクセスマネージャー」は、新入社員のオンボーディングプログラム期間中、新入社員との週1回のミーティングを実施し、それぞれの社員の業務理解度を把握し、悩みなどをヒアリングします。

・社員が効果的に学習できる環境整備

社員が効率的に、かつ効果的に学習できるよう、研修教材などは自社サイトからいつでもダウンロードや閲覧可能な状態にしています。

・社員同士のコミュニケーション活性化に向けた環境整備
日本オラクルでは、社員同士の交流促進やつながりの強化を目的に、外部講師を招くなどして四半期ごとに社内イベント開催しています。
また、オフィス内にはカフェテリアが設置されており、ランチなどの食事を目的とした利用だけではなく、仕事のミーティングや、気軽な雑談など、社員間のコミュニケーションを図る場所として提供しています。

Amazon AWSの「イノベーションを前提としたオンボーディング」

Googleと同じく、世界屈指の巨大企業の一つであるAmazon。クラウドサービスを提供する AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)のオンボーディングを紹介します。
AWSのオンボーディングも、基本理念である「顧客第一主義」などを、いかに新入社員に理解してもらうか、AWSの企業文化の浸透に重点を置いたオンボーディングとなっています。

・Amazonの「顧客第一主義」の醸成

AWSは、顧客が何を望んでいて、何を必要としているかを常に追求しており、顧客第一主義へのこだわりこそがビジネスにつながるという姿勢を大切にしています。オンボーディングにおいても、新入社員が「顧客第一主義」を正しく理解できるように設計・運営されています。

・Amazon独自のロードマップ

AWSでは、社員に対して「ローンチプラン」と呼ばれる成功へのロードマップが提供されます。社員はこのロードマップを参考に、圧倒的な業務スピードで業務を実践できるスキルとセンスをオンボーディングで磨きをかけていくのです。

AWSはIT業界をイノベーションしてきました。イノベーションこそが「顧客第一主義」の原点であり、イノベーションは「多様性」のある労働力(社員)によって生み出し続けているというのが、AWSの企業文化そのものです。
AWSは新しい才能ある人物を採用し続け、オンボーディングを通じ社内のコミュニティを活性化し、最高のパフォーマンスを発揮できる社員を育成しているのです。

まとめ

本来のオンボーディングは、さまざまな視点からのサポートを、多くの既存社員を巻き込みながら長期的に行うものです。したがって、新人研修のコンテンツを企画・制作するようなものとは性質が異なり、一朝一夕で完成させることは難しいといえるでしょう。また、こうした大規模な施策は多数の成功事例やときには失敗例をも経て、徐々にアップデートしていくものでもあります。難易度の高い取り組みではありますが、成功すれば企業にとって非常に有益なものとなります。今後人材の流動化が加速する中で、オンボーディングは企業にとって不可欠な活動であるという認識のもと、取り組んでいきましょう。

株式会社ソフィア

ワークショップデザイナー

幾田 一輝

社員意識調査を通じた組織課題の分析から、IT・人事分野の改善施策の企画立案、施策実施に向けた伴走支援を担当しています。改善施策の中では、ワークショップの企画、設計を得意としています。

株式会社ソフィア

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