インターナルコミュニケーション

従業員エンゲージメントを高める施策とは?人的資本経営の鍵を握る「対話・教育・ツール」

目次

従業員エンゲージメントは従業員満足度と混同されがちですが、異なるものです。日本企業は世界各国と比較してこの従業員エンゲージメントが低く、そのために引き起こされる問題も多いため、人的資本経営が重視されるこれからの企業経営において従業員エンゲージメントを高める取り組みは不可欠です。

本記事では、従業員エンゲージメントの概説と、従業員エンゲージメントを高める要素について紹介します。さらに、最新の調査データから見えてきた「戦略への共感不足」や「1on1の形骸化」といった日本企業特有の課題を克服し、離職率低下と業績向上を実現するための「対話・教育・ツール」の実践的なアプローチについても詳しく解説します 。

従業員エンゲージメントを高める要素と実践的アプローチ

人的資本経営が叫ばれる昨今、企業の持続的な成長を左右する指標として「従業員エンゲージメント」への注目が急速に高まっています。しかし、多くの人事担当者の方が「施策を行っているのに効果が見えない」「現場の温度感が上がらない」という悩みを抱えているのが実情ではないでしょうか。

従業員エンゲージメントは従業員満足度と混同されがちですが、実は異なるものです。日本企業は世界各国と比較してこの従業員エンゲージメントが低く、そのために引き起こされる問題も多いため、これからの企業経営において従業員エンゲージメントを高める取り組みは不可欠です。特に、多様な働き方が広がり、組織の求心力が問われる現代において、その重要性は増すばかりでしょう。

本記事では、従業員エンゲージメントの概説と、従業員エンゲージメントを高める要素についてご紹介します。また、弊社ソフィアが実施した最新の「インターナルコミュニケーション実態調査2024」から見えてきた、日本企業特有の課題と解決の糸口についても詳しく解説していきます。

従業員エンゲージメントとは

「エンゲージメント(engagement)」は「関与」や「関わり」という意味を持つ英単語ですが、従業員エンゲージメントの文脈では会社と社員との関わりを指します。端的に言えば、企業と従業員が相互理解を深めながら、従業員が企業に対して「愛着を持っている状態」と解釈できます。

しかし、単なる「愛着」という言葉だけでは、そのビジネスにおける真の価値を捉えきれない場合があります。学術的な見地やビジネスの現場では、以下のような要素が複合的に組み合わさった状態と定義されるのが一般的です。これは、ウィリアム・カーン(William Kahn)が提唱した「個人的エンゲージメント(Personal Engagement)」の理論や、職務要求・資源モデル(JD-Rモデル)などの学術的背景に基づいています。

理解度・共感度(Rational:認知的側面)

企業が掲げるビジョン、ミッション、戦略を従業員が正しく理解し、それに心から共感している状態です。平たく言うと、「会社がどこへ向かおうとしているのか」を腹落ちしており、自分の業務がその目標達成にどう貢献するのかを認識できているかが問われます。カーンの理論においては、仕事の意味を見出す「有意味性(Meaningfulness)」がエンゲージメントの重要な前提条件とされています。

弊社ソフィアの調査では、日本企業においてこの「戦略への共感」が著しく低いという衝撃的なデータが出ています(後述します)。

帰属意識・情熱(Emotional:感情的側面)

組織の一員であることに誇りを持ち、「この会社のために頑張りたい」「仲間と共に成し遂げたい」というポジティブな感情を持っている状態です。これはカーンの理論における「安全性(Safety)」、つまり本来の自分を出しても不利益を被らないという心理的安全性や、職場の人間関係に大きく左右されます。信頼関係が構築されていることで、従業員は感情的エネルギーを仕事に注ぐことができるのです。

行動意欲(Motivational/Physical:行動的・身体的側面)

理解と情熱に基づき、自発的に期待以上の成果を出そうとする意欲を指します。換言すれば、「言われたことだけをやる」のではなく、組織の成功のために自ら課題を見つけ、改善しようとする「余分な努力(Discretionary Effort)」を惜しまない姿勢のことです。カーンの理論では、物理的・精神的なリソースが十分にあり、仕事に没頭できる「利用可能性(Availability)」が高い状態に関連します。

これら3つの要素が高いレベルで統合されたとき、初めて「高いエンゲージメント」が発揮され、個人のパフォーマンスが組織全体の成果へと直結します。

まとめると、各要素は次のように整理できます。

  • 理解度(Rational):ビジョンや戦略への理解と共感。学術的には「有意味性(Meaningfulness)」、つまり自分の仕事が組織にとって価値があると感じる状態に対応します。
  • 帰属意識(Emotional):組織への誇り、信頼、愛着。学術的には「安全性(Safety)」、つまり心理的安全性が確保され、恐れずに自分を表現できる状態に対応します。
  • 行動意欲(Physical):自発的な貢献意欲、没頭。学術的には「利用可能性(Availability)」、つまり仕事にリソースを注ぐ準備ができている状態に対応します。

従業員エンゲージメントを高めることで得られるメリット

従業員エンゲージメントを高めることで、従業員の中に「企業のために〜しよう(したい)」というプラスの意識が働き、企業にとっては多くのメリットが生じます。これらは相互に関連し合い、好循環(エンゲージメント・サイクル)を生み出していきます。では、具体的にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

離職率の低下

所属している組織に愛着を持つようになると、今いるところにこれからも所属していたいという欲求が強まり、組織を離れにくくなります。企業においては、会社を離れること、すなわち「離職率」の低下につながるわけです。

特に、若手社員や中核人材においては、給与などの条件面以上に「組織への共感」や「成長実感」が定着の鍵となります。弊社ソフィアの知見でも、エンゲージメントが高い組織では、「突発的な退職(びっくり退職)」のリスクが大幅に軽減される傾向にあります。逆に言えば、エンゲージメントの欠如は、優秀な人材が静かに去っていく「サイレント・クイット(静かな退職)」の前兆ともなり得るため、早期の対策が重要だと言えるでしょう。

生産性の向上と業績へのインパクト

従業員エンゲージメントが高まることで、会社への愛着から従業員の中に「会社のために〜したい」という自発的な行動が生まれるようになります。企業の成長を従業員が自分ごととして捉えるようになり、その実現に率先して貢献しようと努めるようになることで、結果として生産性が向上するのです。

リンクアンドモチベーション社の研究では、エンゲージメントスコアの向上が営業利益率の向上と相関することが示されています。JD-Rモデル(職務要求・資源モデル)においても、仕事の資源(裁量権、フィードバック、社会的支援)が豊富にある状態=エンゲージメントが高い状態は、個人のパフォーマンスを最大化させることが実証されています。視点を変えれば、やらされ仕事ではなく主体的に取り組む仕事は、質・スピード共に高まるということです。

顧客満足度の向上

会社に愛着を持つようになると、自社の製品やサービスに対しても思い入れが強くなり、自社の製品やサービスの提供を通して顧客に満足してもらいたいと社員一人ひとりが感じるようになります。

先に挙げた自発的な行動と相まって、顧客を満足させるためにお客様対応や接客の品質が高まるほか、商品企画やブランドの体現といった部分にもよい影響が生まれるでしょう。結果として顧客満足度の向上に大きく寄与することとなります。

これは「サービス・プロフィット・チェーン(SPC)」と呼ばれる概念でも説明されます。噛み砕いて言えば、従業員満足・エンゲージメントの向上がサービス品質を高め、それが顧客満足を生み、最終的に企業の利益につながるという連鎖のことです。

イノベーションの創出と組織のレジリエンス

心理的安全性が確保され、エンゲージメントが高い組織では、失敗を恐れずに新しいアイデアを提案する風土が醸成されます。縦割りの弊害が解消され、部門を超えた協力関係もスムーズになるため、既存の枠組みにとらわれないイノベーションが生まれやすくなるのです。

また、変化や危機に直面した際にも、組織全体が一丸となって乗り越える力(レジリエンス)が高まります。変化の激しい市場環境において、これは極めて大きな競争優位性となるでしょう。

ここまで、従業員エンゲージメントを高めることで企業が得られるメリットについて見てきました。では、なぜ日本企業のエンゲージメントは低い状態にあるのでしょうか。次のセクションで、その原因を掘り下げていきます。

従業員エンゲージメントを低下させる要因

世論調査などを手がける米ギャラップ社が世界各国の企業を対象に実施した従業員のエンゲージメント調査によると、日本企業には「熱意あふれる社員(従業員エンゲージメントの高い社員)」が6%しか存在しないことがわかっています。なお、この傾向は継続しており、2022年は5%、2024年は7%と、日本は引き続き世界最低水準にとどまっています。逆に言えば、社員の94%は従業員エンゲージメントが低く、日本におけるほとんどの企業がエンゲージメント低下の状態に陥っているということにほかなりません。残念なことですが、決して他人事ではないのです。

またこれは日本企業固有の特徴でもあります。熱意あふれる社員の割合は米国の32%と比べると26%も低く、調査した139カ国中132位と最下位クラスでした。グローバル化が進む企業競争においては致命的だと言えるでしょう。

ただし、海外の雇用環境は日本と大きく異なる点にも留意が必要です。たとえば、アメリカでは「任意に基づく雇用」(Employment at-will)という規則があります。これは雇用者と被雇用者のどちらも、いついかなる理由でも、たとえ理由がなくても自由に雇用契約を解除できるというものです。

また中国では、10年の勤続または2回の連続した有期契約の更新が行われた場合に有期雇用契約から期間の定めのない雇用契約となり、日本のように採用時から無期雇用ということはありません。

ただし、中国の場合は「2回の契約更新」という表現には解釈の余地があり、実務上は「2回目の契約更新後」つまり3回目の契約から無期限になるケースもあります。正確には、初回契約+1回目更新+2回目更新の後に無期限契約が発生すると理解されるのが一般的です。

被雇用者にとっては日本より雇用環境がずっとシビアであるため、こうしたエンゲージメント調査の結果に日本企業とは異なるバイアスがかかり、否定的な意見が表出しにくくなっている可能性もあることを補足しておきます。

では、日本企業において具体的にどのような要因がエンゲージメントを低下させているのでしょうか。代表的な4つの要因に加え、弊社ソフィアの最新調査から見えた「構造的な課題」について解説します。

適切な労働環境を用意できていない

従業員は会社に対して「働きやすさ」、すなわち適切な労働環境を求めます。この労働環境を用意できていないと従業員の中に不満足が生じ、従業員エンゲージメントが低下します。あなたの職場では、働きやすさを阻む要因が放置されていないでしょうか。働きやすさを構成する要素はさまざまなので、しっかりと状況を把握しないとリスクを見過ごす可能性があるため要注意です。これには物理的なオフィス環境だけでなく、長時間労働の是正やテレワーク環境の整備、ITツールの使い勝手なども含まれます。

従業員を成長させるための教育制度がない

終身雇用制度が事実上終焉を迎え、従業員は「ぶらさがり人材になることは危険である」と認識するようになっています。企業にとってはプラスに働くこともある反面、従業員がよりよい環境を求めることで人材の流動化が進みました。

この変化に伴って従業員は自分を成長させないと市場価値がなくなることにも気づきはじめており、スキルを伸ばせない環境を早々に見限るようになってきているのです。企業における教育制度の不整備も、従業員が離職する要因の一つでしょう。リスキリングの機会が提供されないことは、キャリア自律を求める現代の従業員にとって大きなマイナス要因となります。

従業員の意見が経営に届かない(心理的安全性の欠如)

企業経営の方針に従業員の意見が反映されない状態が続くと、会社と従業員との間の信頼関係が崩れ、意見や認識の不一致が生じやすくなります。従業員にとって、自分たちの意見が反映された経営の意思決定は受け入れやすいものです。

しかし、声を上げても経営からの反応がなく、従業員が「無視された」と認識している状態で経営の意思決定が行われれば、「経営は自分たちのことを見ていない」という不満が生じます。その結果として、従業員エンゲージメントの低下につながるのです。別の角度から言えば、これは心理的安全性の欠如とも直結しており、自由に発言できない空気はエンゲージメントを著しく損ないます。

属人的な評価制度により公平な評価がされない

古い体質の企業でしばしば問題になることですが、人事評価が公平でなく属人的で、正当な評価を受けられていないと従業員が感じると、当然のことながら従業員エンゲージメントは著しく低下します。双方とも納得のいく評価制度を設けることが不可欠だと言えるでしょう。特に、成果が見えにくいバックオフィス部門や、新しい取り組み(イノベーション)に対する評価基準が曖昧な場合、モチベーションの維持は困難になります。

戦略への共感不足と部門間の壁(ソフィア調査2024より)

上記に加え、弊社ソフィアが実施した「インターナルコミュニケーション実態調査2024」では、より深刻な構造的実態が明らかになりました。

戦略共感わずか1割の衝撃

弊社ソフィアの調査では、自社の経営目標や戦略に心から共感している社員は「約1割」にとどまるという結果が出ています。多くの企業で中期経営計画やビジョンが策定されていますが、それが現場の社員にとっては「単なる数字の羅列」や「他人事」として受け止められており、心に響いていない現状があります。戦略への腹落ち感がなければ、自発的な貢献意欲(エンゲージメント)が生まれるはずもありません。

部門間の壁(セクショナリズム)という最大のボトルネック

同調査において、組織の効率性や連携を阻害する最大の要因として挙げられたのが「部門間の壁(58%)」です。縦割り組織の弊害により、隣の部署が何をしているか分からない、協力が得られないという状況が、従業員の無力感やストレスにつながっています。これはエンゲージメントを下げるだけでなく、イノベーションを阻害する大きな要因となっています。

情報共有の「三重苦」

「情報がない」「情報が遅い」「情報が見つからない」という情報共有の不全も、エンゲージメントを下げる大きな要因として指摘されています。弊社ソフィアではこれらを「情報共有の三重苦」と呼び、多くの企業で共通する構造的な問題であると分析しています。 DX推進によりツールは増えましたが、かえって情報が分散し、必要な情報に辿り着けない「情報の断片化」が現場を疲弊させています。

まとめると、ソフィア調査2024に見る主な課題は次のとおりです。

  • 戦略共感の欠如:経営戦略に共感している社員はわずか1割。戦略が現場に「翻訳」されて届いていません。
  • 部門間の壁:組織連携の最大の阻害要因であり、セクショナリズムが横のつながりを断ち、イノベーションを阻害しています。
  • 1on1のパラドックス:コミュニケーション施策として最も実施されているにもかかわらず、同時に「効果がない施策」としても上位に挙がるという矛盾が生じています。
  • 情報共有の三重苦:情報がない・遅い・見つからないという状態であり、デジタルツールの乱立による情報の断片化が原因です。

ここまで、日本企業のエンゲージメントが低い原因を見てきました。では、こうした課題を乗り越えるために、どのような施策を打てばよいのでしょうか。

従業員エンゲージメントを高める具体的な施策やステップ

これらの課題を乗り越え、従業員エンゲージメントを高めるためには、単発のイベントや制度改正だけでは不十分です。弊社ソフィアでは、インターナルコミュニケーション(社内広報・組織開発)の観点から、「対話」「教育」「ツール」の三本柱をバランスよく強化することが、組織のコミュニケーション不全を解消し、エンゲージメントを高める鍵であると提唱しています。

「対話」の場を創出し、戦略への共感を深める(Dialogue)

ビジョンや戦略を浸透させるためには、一方的な通達(Information)ではなく、双方向の対話(Communication)が必要です。具体的には、以下のような施策が考えられます。

タウンホールミーティングの刷新

社長が壇上で話すだけの形式的なものではなく、社員からのリアルタイムな質問(匿名ツールなどを活用)に答える、本音の対話の場へと変革します。経営層の「生の声」と「人となり」を感じられる場を作ることで、心理的距離を縮めることができるでしょう。

ビジョン・ワークショップの実施

会社のビジョンを自分の業務やキャリアに落とし込むためのワークショップを行います。「自分事化」するプロセスを経ることで、戦略への共感度を高めます。たとえば、鳥居薬品株式会社の事例では、社員参加型で企業価値観(バリュー)を策定・実践することで、組織風土の変革に成功しています。

ミドルマネジメントの翻訳力強化

経営層の抽象的な言葉を、現場の具体的な行動指針へと「翻訳」するのは中間管理職の重要な役割です。立場を変えてみれば、管理職が戦略の背景(Why)を自分の言葉で語れるかどうかが、現場への浸透を左右すると言えます。この役割を担えるよう、管理職への支援が必要です。

「教育」によりコミュニケーションスキルとリテラシーを高める(Education)

ツールや制度があっても、それを使いこなすスキルがなければ形骸化します。特に、対話の質を高めるための教育が急務です。

1on1ミーティングの質的改善(1on1のパラドックスの解消)

弊社ソフィアの調査から、社内コミュニケーション施策として「1on1」が広く導入されている一方で、その効果に疑問を感じる声も多く、形骸化が深刻な課題となっていることが明らかになっています。

これは、上司が適切な対話スキル(傾聴、コーチング、フィードバック)を持たず、単なる業務進捗確認の場になっていることが原因です。あなたの職場の1on1は、「管理の場」になってしまっていないでしょうか。1on1が「成長支援の場」となるよう、管理職向けのトレーニングを実施し、心理的安全性を担保した対話ができるよう教育することが不可欠です。また、話すテーマ(アジェンダ)を事前に共有する仕組みや、人事による定期的なフォローアップも効果的でしょう。

ITリテラシー教育とデジタル活用

デジタルツールを活用した情報発信や、オンラインでのコラボレーションスキルを教育することで、情報格差を解消し、スムーズな連携を促します。特にリモートワーク環境下では、テキストコミュニケーションのスキルも重要になります。

「ツール」を最適化し、情報共有のストレスをなくす(Tools)

使いにくいツールや分散した情報は、エンゲージメントの阻害要因です。ツールは「導入して終わり」ではなく、UX(ユーザー体験)を考慮した設計が必要です。

社内ポータルの再構築と統合

必要な情報にすぐにアクセスでき、会社の「今」がわかる統合ポータルサイトを構築します。ここに経営メッセージや各部署の取り組みを集約し、部門間の相互理解を促すメディアとして機能させます。

具体的には、株式会社ニチレイフーズの事例では、Microsoft SharePoint Onlineを活用して、社員の「ハミダス(自発的な挑戦)」活動を可視化するサイトを構築し、社員の主体的な取り組みを促進しています。また、三井不動産株式会社では、イノベーションマインド醸成のためにポータルサイト「WARP」を構築し、新規事業の知見や社内外の情報を集約することで、新たな価値創造を支援しています。

双方向ツールの活用とサンクスカード

社内SNSやTeams/Slackなどのチャットツールを活用し、称賛(サンクスカード、ピアボーナスなど)やカジュアルなコミュニケーションを促進します。これにより、組織内の「感謝」や「賞賛」を可視化し、帰属意識を高めることができます。リロクラブのようなポイント型インセンティブシステムの導入も一つの手段でしょう。

公正で納得感のある人事評価制度への刷新とフィードバック

プロセス評価の導入や、360度評価など、多面的な視点を取り入れた評価制度へ見直すことも重要です。また、評価結果に対するフィードバック面談を充実させ、「なぜその評価なのか」「次はどうすればよいか」を明確に伝えることで、従業員の成長意欲を支援します。透明性の高い評価制度は、会社への信頼(エンゲージメント)の土台となるでしょう。

人的資本経営の視点:EVP(Employee Value Proposition)の明確化

人材の流動化や、雇用形態の多様化により、企業は人を柔軟に入れ替えられるようになりました。近年、経済界のリーダーが終身雇用制度の限界に言及するようになり、あらかじめ定められた職務に人を割り当てる「ジョブ型」の人材採用へと切り替える大手企業も増えつつあります。

しかし、この風潮は企業にとってリスクでもあります。社員が会社を移ることが珍しくなくなった結果、人材はよりよい環境、たとえば賃金が高かったり、組織風土が良かったり、付加価値の高い職務経験を得られたり、そのような企業へとすぐに移動してしまうようになります。

このような現状から、これまでの「社員が会社にどんな価値をもたらすか」という視点ではなく、「会社は社員にどんな価値をもたらすか」、すなわち「EVP(Employee Value Proposition)」の視点が必要になっています。

一言で言えば、「この会社で働くことで何が得られるのか(スキル、キャリア、報酬、社会貢献、ウェルビーイングなど)」を言語化し、社内外に発信することで、価値観の合う人材を惹きつけ、定着させるということです。この価値が提供できなければ、人材は自社を選ぶこともなく、ましてやエンゲージメントなどが生まれるはずもありません。そのため、EVPの視点で社員との関係を再考し、エンゲージメントを高める取り組みを行うことが、流動化・多様化する市場で人材をつなぎ止める有効な手段となりえます

従業員エンゲージメントサーベイ(組織診断)の定期的実施と活用

施策の効果を測り、次の手を打つためには、現状を定量的に把握することが不可欠です。年1回の大規模調査(センサス)に加え、月次や週次の簡易調査(パルスサーベイ)を組み合わせることで、組織のコンディション変化をリアルタイムに捉えることができます。重要なのは「やりっぱなし」にせず、結果を従業員にフィードバックし、改善アクションにつなげることです。

たとえば、サーベイの結果スコアが低い部署があれば、その原因(業務過多、人間関係、マネジメント不全など)を特定し、ピンポイントで対策を打つことが可能になります。リンクアンドモチベーション社の「モチベーションクラウド」や、HRBrainの組織診断サーベイなどのツールを活用し、組織の状態を「見える化」することが改善の第一歩でしょう。

人的資本経営において従業員エンゲージメントが重要視される理由とは?

従業員エンゲージメントを高める要素は、「従業員エンゲージメントを高めるメリット」と相関関係にあります。たとえば、従業員エンゲージメントが高いと離職率の低下につながることは解説したとおりですが、もとより離職率が低い企業であれば、おのずと従業員エンゲージメントが高くなることも考えられるでしょう。従業員エンゲージメントを高める要素は多種多様であり、また相互に影響を及ぼし合います。

さらに、経済産業省が主導する「人材版伊藤レポート2.0」においても、従業員エンゲージメントは人的資本経営を実現するための「5つの共通要素」の一つとして位置づけられています。投資家などのステークホルダーは、企業の持続的な成長性を判断する指標として、財務情報だけでなく、エンゲージメントスコアなどの非財務情報を重視するようになっています。

結論から言えば、エンゲージメント向上は単なる「社内の雰囲気作り」ではなく、企業の市場価値を左右する経営戦略そのものなのです。

人的資本経営の3つの視点(伊藤レポート2.0)とエンゲージメントの関連性を整理すると、次のようになります。

経営戦略と人材戦略の連動:戦略実行のために、従業員の共感と意欲(エンゲージメント)が不可欠です。

As is-To beギャップの定量把握:エンゲージメントサーベイにより、組織の現状と理想のギャップを可視化できます。

企業文化への定着:企業理念やパーパスを浸透させ、エンゲージメントの高い文化を醸成することが求められます。

まとめ

従業員エンゲージメントは似たような概念である従業員満足度と比較すると可視化しにくいことから、日本企業ではあまり注目されることなく、世界でもワーストという現状があります。激動する社会の中で生き残るために、それぞれの企業で人材採用や育成、配置などの見直し、変革に向けて動いている状況かと思いますが、従業員エンゲージメントも決して見過ごしてはならない要素です。

先述のとおり、日本企業は海外企業と比較して、従業員エンゲージメントが低いと言われています。経営層やマネジメント層、管理部門の方は、自社はこの状態に該当しないと楽観視することなく、現状をしっかりと見極めましょう

弊社ソフィアの調査で明らかになった「戦略共感の低さ」や「1on1の形骸化」、「部門間の壁」といった課題は、多くの大企業に共通するものです。つまり、これらを解決するためには、部分的な施策ではなく、「対話・教育・ツール」を組み合わせた包括的なアプローチが必要だということです。

どうやって従業員エンゲージメントを測定するかわからない、従業員エンゲージメントが低かったとして打つべき施策がわからない、従業員エンゲージメントに関してもっと詳しい情報がほしいということであれば、お気軽にお問い合わせください。

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よくある質問
  • 従業員エンゲージメントと従業員満足度(ES)の違いは何ですか?
  • 従業員満足度(ES)は、「給与」「福利厚生」「働きやすさ」など、会社から与えられる環境に対する満足度を指し、どちらかと言えば受動的な指標です。

    一方、従業員エンゲージメントは、会社への「愛着」「信頼」に加え、「自発的に貢献したいという意欲」を含む能動的な指標です。満足度が高くても業績に貢献するとは限りませんが、エンゲージメントの高さは業績との相関が強いとされています。

  • エンゲージメントサーベイを実施しましたが、スコアが低いままで改善しません。なぜでしょうか?
  • よくある原因として、「調査を行うだけで、結果に基づいた改善アクションが取られていない(やりっぱなし)」、「施策が現場の課題感とズレている」、「経営層からのメッセージが届いていない」などが挙げられます。

    特に弊社ソフィアの調査でも見られるように、形だけの1on1や一方的な情報発信になっていないかを見直す必要があるでしょう。サーベイ結果を現場にフィードバックし、従業員と一緒に改善策を考える「対話」のプロセスを取り入れることが改善への近道です。

  • テレワーク環境下でエンゲージメントを高めるにはどうすればよいですか?
  • 物理的な接点が減るテレワークでは、「情報の透明性」と「心理的つながり」の確保が重要です。

    具体的には、Web社内報やポータルサイトを活用して経営情報をタイムリーに共有すること、チャットツールでの雑談推奨やオンライン社内イベントで横のつながりを作ること、そしてオンライン1on1で業務以外のケア(体調やメンタル)を丁寧に行うことが効果的です。

  • 1on1ミーティングが形骸化しています。どうすれば効果的になりますか?
  • 形骸化の最大の原因は「目的の曖昧さ」と「上司のスキル不足」です。

    まず、1on1は「上司が話す場」ではなく「部下のための時間」であるという目的を再定義してみてください。その上で、管理職に対して「傾聴」や「コーチング」のトレーニングを行い、部下が話しやすい雰囲気を作るスキルを習得させることが不可欠です。また、毎回業務報告に終始しないよう、キャリアや体調、人間関係など、トピックをあらかじめ設定する支援も有効でしょう。

株式会社ソフィア

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人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。