人材育成とは?これからの進め方、成功のポイントとは

人材育成における目的はさまざまありますが、人材育成によって、社員が自身の業務における課題を主体的に解決できるような行動変容を生み出せるかどうかが、重要なポイントです。
そのためには、人材育成を集合研修だけに頼るのではなく、社員の個々の課題に合わせて育成方法を最適化することが必要です。

従来の人材育成手法だけではなく、最新の傾向をとらえ、自社の人材育成に活用していくための成功のポイントを解説します。

人材育成とは

そもそも、人材育成とはなんなのでしょうか?人材開発との違いや、企業の抱える課題について解説します。

人材開発との違い

社員のスキル・知識をサポートするという点では、人材育成も人材開発も同じです。
人材育成は、どちらかといえば業務遂行に必要なスキルの習得に力点を置いています

人材育成の施策は、あくまで現状の組織体制・商流・サプライチェーンを維持するために、業務でパフォーマンスを発揮できるよう、不足する知識・スキルの習得を目的としています。人事施策は研修などのOff-JTに加えて、OJTやジョブローテーションも含みます。

たとえば典型的な新任管理職研修では、部下の労務管理・部下の指導監督・コンプライアンスなど、「会社が管理職に身に着けてほしい」最低限必要なスキルを、講師主導のもとに教育します。研修は決まったフレームワークのもとに行われ、受講者は受動的な立場に置かれます。

一方で人材開発は、組織やビジネスモデルのイノベーションを見据え、改革を率いる「チェンジリーダー」の輩出に力点を置きます

人材開発と人材育成、どちらかが優れているわけではなく、どちらも企業の成長・発展に欠かせない車の両輪なのです。

企業が抱える人材育成の課題

2020年に日本経団連が実施した「人材育成に関するアンケート調査結果」によれば、90%弱の企業が「現状の人材育成施策が環境変化に対応していない」と答え、対応が必要な課題として就労意識の変化(多様化)とデジタルテクノロジーの進展を取り上げています。

人材育成の手法

従来の人材育成手法を大きく分けると、OJTとOff-JT、自己啓発があります。
Off-JTは主に会社の制度として組み込まれ、これまでは職位階層ごとに行われる階層別研修、通信講座などの福利厚生的な自己啓発プログラムなどが主流でした。これらは、「研修」形式で行われるものであり、研修の内容が日常の業務や課題に沿っていなかったり、学んだことを業務に適応することが難しいというケースも多くの企業で見られます。

階層別研修を例にとれば、人事部門主導で、職位横断で共通の研修を実施するのが主流で、一般的なビジネスの理論やスキルの研修を行う、あるいは企業ごとのルールなどに沿った研修を行う、というケースが多いようです。

一方、人材の成長に寄与する割合として、研修が果たす役割は10%という調査結果もあります。
これは米国のリーダーシップ研究の調査機関ロミンガー社の調査結果によるものです。同社が、リーダーシップが発揮できている経営幹部に対して「どのようなことが成長に役立ったか」という調査を行ったところによると「70%が経験、20%が薫陶、10%が研修」であることが分かったというのです。

この事実から、人材育成は、研修プログラムのみを設計するのでなく、合わせて経験をデザインすることが重要であることが分かります。

変わりゆく人材育成手法

では、現在、人材育成はどう変化しているのでしょうか。

世界全体の人材育成担当者や組織に大きな影響を及ぼす、ATD(Association for Talent Development 以下ATD)の国際会議で話題になっている主なトピックスは以下の3点です。

  1. 従業員の個々の課題に、どのように個別化して対応するのか
  2. どのように継続して学習してもらうのか
  3. プログラムデザインから経験のデザイン
  4. ゲーミフィケーションを取り入れる

それぞれ、次に詳しく解説します。

1.従業員の個々の課題に、どのように個別化して対応するのか

個々に合わせた育成方法を行う上で欠かせないキーワードが、「パーソナライズドラーニング」と「アダプティブラーニング」です。

「パーソナライズドラーニング」は、学習対象者の興味、経験、好みの学習方法、その他の要因に合わせたインストラクションを、個々の学習対象者に提供する手法です。

また、「アダプティブラーニング」は、AIなどのテクノロジーを使って、個々の学習者の学習状況や理解度を分析し、それに合わせてコンテンツや方法を適合させることです。こちらは、「学ぶ内容や組み合わせを個人ごとに最適化する」方法です。

2.どのように継続して学習してもらうのか

従業員に継続的に学習を行ってもらうために「マイクロラーニング」が重要なカギを握ります。
「マイクロラーニング」は、1回5分程の動画や、細分化されたWebコンテンツなどの教材を使って学ぶ方法です。

学習者は、スマートフォンなどで、好きな時に好きな場所で学習できます。仕事の合間や移動中などのすき間時間を利用して気軽に学習することが可能となります。

マイクロラーニングは短時間で構成されていることから、反復学習がしやすいため、学んだ内容が記憶に定着しやすく、高い学習効果が期待できるメリットもあります

反復学習、または分散学習とは、一般的には「忘れかけたころに再学習する」を意味します。企業の人材育成においては、コンテンツを細切れにする、同じ内容を飽きないように工夫して継続的に短いプログラムコンテンツを提供しながら学習させる=「マイクロラーニング」ということになります。

3.プログラムデザインから経験のデザインへ

より効果の高い人材育成を実施するためには、研修プログラムのみをデザインするというより、経験から何を学んでもらうかを想定し、育成の全体像をデザインする必要があります。
経験のデザインについて具体例を紹介していきます。

「プロジェクトベースドラーニング」は、複雑な課題や挑戦しがいのある問題に対して、生徒が少人数のグループでの自律的な問題解決・意志決定・情報探索などを通じて解決を目指す学習方法です。これはカナダのマックスター大学において、教育学者ジョン・デューイ氏によって開発された学習理論で、学習者が主体的・能動的に学ぶ「アクティブラーニング」を実現する手法の1つとして注目を集めています。
「プロジェクトベースドラーニング」を取り入れた研修は、適切な事例問題の提示や基本的な説明を行うなど、学習支援(ファシリテーション)の提供が欠かせません。

企業での実践事例でいうと、新規事業開発というテーマの研修に何名かの社員をアサインし、社内の上級役職者や社内外の専門家をコーチャー(コーチする役割の人)としてつけるという形が代表的です。

また、研修やワークショップなどの従来からのフォーマルな学習の場に対して、「インフォーマルラーニング」という概念も近年重要視されるようになりました。
インフォーマルラーニングとは、当面の課題解決に必要な知識や情報を自主的に調べたり、日常業務の中で社員同士が教え合ったりして習得する自発的な学びの機会を指します

上記で紹介した考え方は、単なるプログラムデザインであった従来の研修方法に反して、「経験のデザイン」を中心とした考え方です。

このように、最近の研修においては、従来の集合研修の「講師」が、「コンサルタント」や「コーチ」という役割に変化してきています。

日本では馴染みがありませんが、海外では、個人向けのキャリア開発を主務としたアドバイザー職が職業として確立されています。これは、個人のキャリアのゴールから逆算し、どんなコンテンツをどのくらい学習し、どこで経験を積み、ゴールの達成に向かうのか、ということをアドバイスする職業です。プログラムやコンテンツのみを設計するのではなく、経験も合わせてデザインする、という考え方になります。

という意味では、プロジェクトベースドラーニングや、インフォーマルラーニングと近い考え方であり、後述するラーナー(学習者)ジャーニーマップを設計することと等しい仕事といえます。

4.ゲーミフィケーションを取り入れる

ゲームの要素を研修に取り入れ、没頭して集中できる空間を作る手法(ゲーミフィケーション)の効果も注目を集めています。

ATDによる「仕事におけるゲーミフィケーションの調査」では、適切に設計されたゲーミフィケーションに基づくトレーニングは、学習者の積極性を高め、動機付けにつながるとされており、組織と学習者の両方に役立つものだと報告されています。

ゲーミフィケーションには決まった形があるわけではなく、勝ち負けが明確なディベートなどもゲーミフィケーションに含まれます。

エンプロイージャーニーマップ→ラーニングジャーニーマップがカギ

そもそも社員のエクスペリエンス(経験)から、エンゲージメントの向上や、人材の能力アップなどにつなげるためには、エンプロイージャーニーマップの作成が必要です。

エンプロイージャーニーマップを作成の際のポイントは、社員の目線から考えることです。
新入社員を例に考えると「入社したときに自分はどんなことを期待するか」「入社して自分はどんな問題に直面するか」「それらの場合に自分はどんな心理状態になるか」といったものです。従業員の立場になって彼らが遭遇する体験を快いものへと改善していくために、エンプロイージャーニーマップが役立つのです。

人材育成の観点では、エンプロイージャーニーマップをさらに細分化した、「ラーニングジャーニーマップ」が有用です。これらは例えば、入社(新卒・中途)の際のオンボーディング期間や、管理職の登用の際などに用いられます。

「ラーニングジャーニーマップ」は、オンボーディングを達成したのはどういう状態か、仕事上の問題の解決に必要なスキルはどんなもので、どのように活用するのか、といった要素を、「学習者の経験(ラーナーエクスペリエンス)」という視点から導き出して、ラーニングの全体像を描いたものです。

企業における人材育成の事例

ある企業の管理職候補(30代~40代)の次期管理職育成研修を、ラーナーエクスペリエンスの観点から「研修参加前(現場・日常)」「研修参加(非日常)」「研修参加後(現場・日常)」の大きく3段階に分けて、ラーニングジャーニーマップを設計した事例です。

各段階では、受講者、およびその上司の情動(感情の動き)をあらかじめ想定し、その情動に合わせて施策を展開しました。特に「研修参加前」と「研修参加後」の設計が重要になります。

「研修参加前」については、受講者の感情の動きはネガティブなことが多いため、研修を受ける意味合いや期待について発信しながらも、社員の心持ちを探ることが重要です。そこで、経営トップのメッセージをビデオで配信したり、キャリアや研修に関する事前アンケートを行い、受講者の期待感を調査したりしました。

また、研修の実施においては、受講者の上司をしっかりと巻き込むことが必要です。事前アンケートを踏まえて、上司と受講者との1on1を実施することで、「研修参加前」の受講者と上司のコミュニケーションを意図的にデザインしました。

「研修参加後」は、受講者の情動は、再びネガティブに転じる、もしくは研修の記憶が薄れていくため、受講者と上司のコミュニケーションを再設計すること、そして、受講者同士が情報共有できる場を設計することが重要です。
事後課題を現場で活用する前提の内容にし、受講者同士で結果を共有できるコミュてぃをオンライン上に設けたことで、それぞれの上司からのフィードバックや研修講師からの継続的アドバイスを受講者同士で共有することにつながりました。

また、このようなラーニングジャーニーマップを機能させるには、対面でケアし切れないコミュニケーションをシステムで補完していくことが理想的です。この事例では、Office365の機能を使用し、「研修参加前」のトップメッセージはStreamで、事前課題はLMS365を使用してeラーニングを実施しました。
また、「研修参加後」の受講者同士の共有は、Yammer、プレゼンテーションの共有はShare point onlineで対応しました。

組織開発と人材育成に同時に取り組む必要性

いくらスキル・知識を身につけても、職場ですぐに活かせるわけではありません。

たとえば社員がロジカルシンキングを勉強し、実践しようと考えても、現場に戻って実践できるかどうかは別の話です。

研修を受けた社員が動機付けされて、実際にイノベーティブな提案をしようと思っても、変化に消極的な職場であれば革新的なアイディアは淘汰されていってしまうでしょう。
現実の世界は、研修内のビジネスゲームのようにうまくはいきません。

組織ぐるみで一斉に研修を受けることができれば変わるかもしれませんが、現実的には不可能です。
つまり人材育成と組織風土・スタイル変革は連動させながら推進していく必要があるのです。

まとめ

これまで見てきたように、より個別最適化された学習の提供で人材育成の最大化を目指そうという流れが起きています。

また、従来のように集合研修だけをデザインするのではなく、学習前後の「経験」も踏まえて、どのように最適化していくのか、ということが重要なポイントです。事例であげたように、エンプロイージャーニーマップやラーニングジャーニーマップを取り入れて実際に実践している企業も存在しています。
自社の人材育成のこれからを考えるにあたり、本記事がお役に立てば幸いです。

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