2023.07.13
人材育成の考え方とは?具体的な考え方のポイントや注意点を解説
目次
時代や業界を問わずビジネスにおいて、人材育成が大きな課題の一つになっています。皆さんも自身が研修やOJTに参加する、新人の育成を担当するといった形で人材育成に関わったことがあるのではないでしょうか。
本記事では、人材育成の考え方をテーマに、時代背景や課題、注意点などを含めて広く解説します。人材育成に興味がある方、今後人材育成に関わっていく方にとっては有益な内容となっていますので、ぜひ最後までご覧ください。
そもそも人材育成とは?
そもそも人材育成とはどのような概念なのでしょうか。似た用語に人材開発がありますが、両者の意味は異なります。人材開発は、従業員が既に持っている能力を活用し、スキルを向上させることを目指すものです。個々のスキルと組織の目標を調和させるために、より複雑で詳細な学習プログラムを提供します。
一方、人材育成も人材開発も、採用、育成、活躍という人的資本への投資という点で共通点があります。
しかし、人材育成は、あくまで現状の組織体制、取引、サプライチェーンなどのビジネス環境を維持するための業務遂行に不足する知識やスキルの習得を目的としています。そのため、人材育成の具体的な施策としては、座学での研修などを始めとしたOff-JTの施策に加えて、OJTやジョブローテーションといった実業務でのOJT施策も含まれます。
人材育成の考え方の目的や本質とは
人材育成の目的や本質とはどのようなものなのでしょうか。人材育成の主要な目的は、現状業務で必要とされるスキルを伸ばすことにあります。そのためには、従業員個人が各々の職場で求められるパフォーマンスを発揮できるように支援する必要があるでしょう。
一方で、従業員の視点でも受け身でサポートされるだけではなく、能動的にスキル向上を図ることが求められます。近年はあらゆる業界で人手不足が顕在化しており、個人の生産性向上は人事の範疇に留まらない重要な経営課題となりつつあります。個人レベルでのパフォーマンスが高まれば、組織全体の生産性向上にもつながるでしょう。
また、成長には現場での経験と学習の両方が必要です。現場での実務経験から学びを得た知識やスキルを、学習コンテンツなどを通じてさらに深化させる必要があります。だからこそ、ビジネスにおける人材育成の目的は、単に知識やフレームワークを身につけることだけでなく、経験と学習の両方が必要なのです。この両方が組み合わさることで、実際の成果や結果につながります。
さらに、人材育成には経営戦略を具現化し、組織の将来設計を実現することも求められています。従来型の日本企業では、長年人事戦略と経営戦略が紐づいていないことが指摘されてきました。環境変化の激しい昨今において、多くの企業が変化への適応力を高めることを経営戦略に盛り込んでいますが、人材育成についても経営戦略と連動し、かつ柔軟性のある形に見直していく必要があります。
人材育成の考え方の変化
人材育成は人財育成方針や人財戦略といった施策に見られるように、長期視点で設計するべきとされていますが、変化の多い現代においては実質的には不可能になりつつあります。たとえば、ここ数十年だけを見てもスマートフォンの普及やAI技術の発展など大きな技術革新がありました。また、それによって現在では、長期的な人材教育と並行して、変化する業務に対応するための経験が重要となっています。
業務に対応する前に学習するのではなく、業務と学習を同時に進めることが必要です。このアプローチは、周囲の環境や組織の文化に影響されますが、自己の成長を周囲の問題として考えると、問題解決が難しくなります。個人としては、自身が経験を積める場所に身を置く必要があり、組織としては、失敗を許容できる業務環境や経験の場を創ることが重要です。このような環境を整えることで、成長と学習を促進し、問題解決につなげることができます。
人材育成の考え方で必要なスキルの変化による課題
人材育成において重点的に伸ばすべきスキルが時代の流れとともに変化していることから、人材育成の方針についてもそれに応じて適応していくことが課題とされています。とくに後述するテクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルといった分野は変化が大きいといえるでしょう。
テクニカルスキル
テクニカルスキルは、分野を問わず業務を遂行するために必要な専門的なスキルです。テクニカルスキルと聞くと、IT分野などの技術的なスキルをイメージしがちですが、事務職におけるPCスキルや、営業職における提案スキルなどにおいてもそれぞれ必要なテクニカルスキルがあります。これらはそれぞれの職種の現場で円滑に業務を進めるために身に着けておきたいスキルといえるでしょう。リスキリングはこのレベルのスキルです。今から、
ヒューマンスキル
ヒューマンスキルは人と人をつなぐスキルであり、コミュニケーション能力と言い換えることができます。従来型の日本企業では「阿吽の呼吸」を始めとした暗黙的なコミュニケーションが重視されてきました。しかし、従業員や業務のグローバル化、多様化の進展に伴い、暗黙的なコミュニケーションではなく、論理的思考力や明確に意思を伝える能力が重視されつつあります。
コンセプチュアルスキル
コンセプチュアルスキルは、具体的な事象を抽象化して、問題や課題の本質を捉える能力です。ビジネスの現場における課題を発見あるいは定義するスキルともいえるでしょう。とくにこのスキルを育成することは難しいとされており、従業員の個性や才能に依拠する部分が大きいといえます。
人材育成の考え方に変化をもたらすHRBPという視点
HRBP(Human Resource Business Partner)とは、経営者や事業責任者を支援し組織の成長を促す役割を担う人事戦略のプロです。HRBPの視点を持つことで、経営と人事を戦略的に連動させ、事業部単位での部分最適ではなく、全体最適を目指した人事戦略を立てることができます。HRBPは、各事業部に対する人事戦略のコンサルティング、策定した戦略の実行推進、組織の変革などの役割を担っています。
また、HRBPには、事業部に対するリーダーシップを発揮しつつ、これらの役割を能動的に果たすことが求められます。今後の人材育成においても、このHRBPの働きが重要になるでしょう。
従来型の日本企業においては、人事部門は「事業部人事」と呼ばれ、現場における人事業務の事務手続きを担うものとされてきました。しかし、現代では人材の採用から実業務でのパフォーマンス発揮(オンボーディング)まで含めた視点で、人事戦略を立案することが求められています。そのため、ビジネス環境の変化が著しい昨今においては、従来の「事業部人事」の役割に留まらず、HRBPの視点に立って中長期的な戦略に基づいた人材育成を実施する必要があるのです。
人材育成の考え方のポイント
人材育成の施策を立案する上では、いくつか留意すべきポイントがあります。ここでは、いくつか重要なポイントをピックアップして解説します。
個々の従業員の課題にどのように対応するのか
人材育成において伸ばすべきスキルは部署や従業員によって様々であり、スキルの習得スピードにも個人差があります。そのため、人材育成の施策には個人差を考慮した制度設計が求められるのです。個々に合わせた育成方法を行う上で欠かせない考え方として、「パーソナライズドラーニング」と「アダプティブラーニング」の2つがあります。
パーソナライズドラーニング
パーソナライズドラーニングは、学習者の興味、経験、好みの学習方法に合わせて、学習方針を設計する考え方です。これによって学習者の意欲、学習ペース、習熟度に配慮した形で学習コンテンツを設計することができます。集団研修やOJTでは従業員の個人的な事情に配慮した人材育成は難しいため、日々の学習が重要となるスキルについては、パーソナライズドラーニングの考え方を取り入れると良いでしょう。
アダプティブラーニング
一方、アダプティブラーニングはAI技術などを活用して、個々の学習状況や理解度を分析し、それに合わせた学習コンテンツを提供する手法です。これにより実際のデータに基づいて客観的に学習コンテンツを提供することが可能になります。近年は学校教育の現場において、AI教材などの形でアダプティブラーニングの事例が増えています。
上記で挙げた考え方を採用することで、より個人のニーズに即した人材育成が可能にあるでしょう。
現場の課題と経営課題の橋渡しになる
人材育成は、ビジネスの現場において役立つスキルを伸ばすことが求められる一方で、部分最適なものに留まらないよう注意する必要があります。先述の通り、人事部門は人事事務を遂行するオペレーショナルな役割だけでなく、経営層との橋渡しを行う戦略的な役割も担っています。とくに近年は人的資本経営といった考え方が普及しつつあり、無形資産としての人材の価値が占める割合が大きくなっています。具体的に言うと、企業の従業員が身に付けている技能、経験、人的なネットワークなども企業を評価する指標となりつつあるということです。
人材育成に経営戦略の視点が必要である一方で、制度設計そのものは現場主導で実施しなければならない点が人材育成の難しいところです。この点に関しては、人事部門が専門家としての立場で現場をコンサルティングするHRBPの視点を持ち、現場での人材育成を強力に主導していくことが求められます。
継続学習の重要性
従業員がモチベーションを持続させつつ、継続的な学習を続けるためには「マイクロラーニング」の考え方が活用できます。マイクロラーニングとは、1回5分程の動画やWebコンテンツなど短時間で学習できる教材を使って学ぶ手法です。
たとえば、ある業務において必要な法令の知識を2時間のE-ラーニング教材としてまとめたとしても、業務で多忙な従業員にとっては負担を感じるものになってしまいます。しかし、この教材を章立てした上で5分から10分のコンテンツに編成することで、業務の合間を使った学習が可能になり、着実な学習継続ができます。また、細分化したコンテンツごとに小テストを設けることで、従業員にとっては自身の理解度を確かめつつ、確実に成果を積み上げていくことが可能になるでしょう。
マイクロラーニングの手法を活用することで、一回一回の学習における心理的なハードルを下げて、従業員が能動的な学習を継続することが期待できます。
経験をデザインする
人材育成においては、「経験学習」という考え方が重要になります。経験学習とは、自らが物事を実際に体験することで学びを得て成長するプロセスを意味します。より効果の高い人材育成を実施するためには、研修プログラム制度設計に留まらず、研修を通じた経験から何を学んでもらうかを想定する必要があります。
日本企業においては、「石の上にも3年」といった言葉に表れている通り、「先輩の背中を見て学ぶ」という暗黙的なスキル伝承が重んじられてきました。そのため、OJTが行われたとしても何を経験してどのような人材になるべきかというロードマップが示されず、せっかく業務を経験しても体系的な学びとして蓄積しづらい状況にあります。
人材育成におけるOJTやジョブローテーションにおいて、業務の経験から何を学び、どのように内省につなげていくかをデザインすることで、仕事を通じて得た経験値がより実践的なスキルとして定着することが期待できます。また、部下と上司による1on1ミーティングにおいても、上司からの客観的なフィードバックを得ることで、従業員自らが主体的に自身の経験を振り返り、気付きを得る機会につなげることができます。
人材育成を考える上での課題
2020年に日本経済団体連合会が実施した「人材育成に関するアンケート調査結果」によると、調査対象の90%弱もの企業が「現状の人材育成施策が環境変化に対応していない」と回答しました。さらに、人材育成においてとくに対応が必要な課題として、「就労意識の変化(多様化)」と「デジタルテクノロジーの進展」が挙げられています。
このことから多くの企業が時代の変化に応じて、人材育成の方針を適応させていくことを重要な課題として認識しているといえるでしょう。一方で、課題として把握しながらも実際の対応方針については決めあぐねている様子がうかがえます。
人材育成を考える上での注意点
人材育成に関する施策を考える上では、いくつかの注意点があります。第一に組織全体の現状をしっかりと把握する必要があります。さらに人材育成においては短期的な費用対効果を出すことは難しく、なおかつその成果も個人のやる気に左右されることに注意しましょう。
現状をしっかり把握する
人材育成の施策立案においては、まず組織の状態をよく把握することが重要です。経営層からのトップダウンで動くことを前提とするピラミッド型の組織なのか、あるいはボトムアップでの意思決定ができるフラット型の組織なのかで、求められる人材育成の方法が異なります。
ここで、トップダウンでの意思決定が当たり前に行われてきた組織において、ボトムアップ式の人材育成手法を導入したケースを考えてみましょう。人材育成制度の設計や導入そのものは実現するかもしれません。しかし、急ごしらえの制度設計を行ったとしても、上司の顔色を窺って業務を進める組織風土が変わらない限り、大きな効果は期待できないでしょう。
また、企業の規模や創業からの年数などによっても最適な人材育成手法が異なります。歴史のある大企業であるほど長い時間の中で独特の組織風土が根付いており、これを抜本的に変えることは難しいでしょう。
このことから、現状の組織形態、意思決定手法、歴史などを加味して最適な人材育成手法を検討する必要があるのです。
費用対効果の確認が難しい
人材育成においては、研修プログラムの企画や人件費に対してどのような成果が出たかが把握しにくいため、費用対効果の確認が難しいことに注意が必要です。
たとえば、設備投資や商品開発であれば、買い手となるターゲットや市場規模を定量化して費用対効果を分析することができます。しかし、人材育成の成果は個人のやる気に左右されるうえに、業務の中で身に付けたスキルがどのように発揮されるかを定量的に把握することは難しいといえるでしょう。
また、若手社員にはOJTを含め教育コストはかかっている一方で、経験の長い社員と同等の生産性を発揮することは困難です。そのため、人材育成においては短期的な投資回収よりも、中長期的な視点に立った形で成果を定義する必要があります。具体的にはエンゲージメント調査などを通して、モチベーションの度合いを確認するなど、感情面での指標を用いて成果を確認するとよいでしょう。
個人の意欲がなければ育成の効果は得られない
いくら優れた人材育成のプログラムを立ち上げたとしても、人材育成の対象となる従業員が意欲をもっていなければ効果が出ないことに注意する必要があります。投資金額に応じてある程度のリターンが期待できる設備投資などとは違い、当事者の「やる気」が人材育成の成果に大きな影響を与えるのです。
また、モチベーションの欠如は周囲にも波及する可能性があることに注意しましょう。とくに「あの人がやっていないから自分もやらなくてよい」といった、負の共通認識が組織に蔓延すると業績に影響が出るリスクがあります。
人材育成においては、成果を出せる人材をロールモデルにして、「あの人のようなスキルを身に付けたい」、「あの人のように成果を出したい」といった感情を持てるような動機づけが必要になるでしょう。
エンプロイージャーニーマップの作成の考え方
従業員が業務を通じて得た経験から、エンゲージメント向上や、人材のスキルアップにつなげるためには、「エンプロイージャーニーマップ」の作成が必要です。
エンプロイージャーニーマップとは、従業員の入社から昇進、退職までの過程に加え、退職後OBやOGになってからの期間も含めた時の流れを可視化したものです。近年はワークライフバランスが重視されていることから、女性が経験する出産や育児などのライフイベントもエンプロイージャーニーマップに反映する必要があるでしょう。
エンプロイージャーニーマップの作成においては、経営者の目線ではなく社員の目線から考えることがポイントになります。一例として、新入社員では「入社時にどのようなことを会社に期待するか」、「入社して自分はどのような困難に直面するか」、「それぞれの局面でどのような感情を抱くか」といった内容が考えられます。
従業員の立場から、彼らがその企業でのキャリアを通じて遭遇する体験をよりよいものへと改善していくために、エンプロイージャーニーマップが役立つのです。
まとめ
人材育成という言葉は人材開発などの類似用語と混同しがちであり、その正しい意味は広く理解されているとはいえないでしょう。人材育成は、現状業務の遂行に不足するスキルを補完するために実施する取り組みであることを理解する必要があります。
本記事を通して人材育成について理解を深めていただき、ご自身のキャリアップや人材育成手法の検討に役立てていただけますと幸いです。
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株式会社ソフィア
先生
ソフィアさん
人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。
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