人材育成における課題 従来の人材育成方法は意味がない?個を伸ばす育成方法とは

#Eラーニング#ラーニングデザイン#多様性#研修・ワークショップ#組織開発

06.Apr.2020

働き方改革やテレワーク推進といった外部環境の変化の渦の中で、企業のあるべき姿も目まぐるしく変わっています。
特にCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の脅威にさらされている今は事業の継続が最優先事項ですが、長期的に考えると人材の育成にも目を向けなければなりません。
本記事では、従来の人材育成方法における課題についておさらいをしつつ、これからの人材育成がどうあるべきかを解説していきます。

人材育成の課題に取り組む前に

人事担当者はご承知のとおり、激動の時代ともいわれる現代社会の変化に適応すべく、企業の経営課題に「人材育成」が挙げられるようになりました。

『企業は人なり』という松下幸之助氏の言葉が示すとおり、「人的資源」は最も重要な経営資源のひとつです。
しかし、これらの無形資産は有形資産と比べて低く見積もられてきた経緯から、日本企業においてその考えが完全に浸透しているとは残念ながら言いがたい状況でした。

それでも人的資源の活用が企業価値の向上に寄与することを多くの企業がようやく理解し、人材育成の一手法としてさまざまな集合研修が実施されています。
代表的なコンテンツは、ロジカルシンキングやファシリテーション、プレゼンテーションやコンプライアンス(個人情報保護、情報セキュリティ)などのようです。
集合研修は外部の法人研修サービス会社に委託しているケースがほとんどですが、大手企業では内製化も見受けられます。
このように、集合研修は人材育成において確立された手法とされてきました。

しかし昨今、「集合研修に対する効果は本当にあるのか」と疑問の声が上がっていることをご存じでしょうか。

従来の集合研修は意味がない?エビングハウスの忘却曲線とは

「受講した社員のアンケートでは満足度が高いのでうちでは意味がある」「研修のコンテンツは我々が見ても納得のいくものである」と感じた方もいらっしゃるでしょう。
「エビングハウスの忘却曲線」をご存知でしょうか。
ドイツの心理学者であるヘルマン・エビングハウスが提唱した、「記憶の忘却」に関する理論です。

・20分後には42%忘れる
・1時間後には56%忘れる
・9時間後には64%忘れる
・1日後には67%忘れる
・2日後には72%忘れる
・6日後には75%忘れる
・31日後には79%忘れる

この理論によれば、充実した内容のコンテンツの研修でも、人はたった1日でその半分以上を忘れてしまうのです。
満足度が高くてもそれはあくまで受講直後の感想であり、長期的に考えるとスキルアップにつながっていない可能性があります。

人材育成の方法をこのまま集合研修に頼り続けることは、主催側は「やったつもり」、受講側は「わかったつもり」という状態になりかねません。
常に変化し続ける社会環境の中で、人材育成の方法もアップデートが不可欠です。

参考記事:
「集合研修って仕事の役に立ってる?」組織のお悩みぶっちゃけ劇場 vol.6  

効果のある人材育成とは

決して集合研修が無意味だというわけではありません。
効果のある人材育成において重要なのは、「自分ごと」であるという気づきを社員に与え、自身の課題と重ね合わせて解決しようとする主体的な行動変容を生み出せたかどうかがカギになります。
これは俗にいう「研修転移」ができるかどうかということです。
参加している社員の中には営業担当もいればIT担当もいて、全員に一律の内容を教示する方法では、気づきを与えにくいのです。

なお、新人研修や昇格者研修社員の職務や処遇が変わる際に行う研修はこれまで通り必要であるといえます。
これらは、新たな業務を適切に処理するための、実務に即した内容であるためです。

参考記事:
「どうしてあの人は当事者意識がないのか」と嘆く前に  

人材育成の方法も多様化の時代 個々の課題に合わせた解決方法が必要

大企業を中心にダイバーシティ推進の取り組みが始まり、性別や国籍の異なるさまざまな人材が同じ組織に集うようになったことから、勤労に対する社員一人ひとりの価値観も多様化しています。
そのため、同じコンテンツの研修を一律に受講させる方法では、すべての社員が持つ課題の解決になりえません。
これからの人材育成においては、多様な社員の課題に合わせた多様な解決方法が求められるようになっています。

人材の多様化に合わせ、個々に合った育成方法を

社員個々の課題に合わせた育成方法として、「育成面談(個別面談)」が注目されています。
なおこれは、査定のために従来から実施されている「評価面談」とは異なることにご注意ください。

評価面談は、「上司からの評価を部下に伝え、自分への評価を納得してもらう」ことを目的としています。
一方、育成面談では、評価面談のプロセスに「社員の課題を上司と共有し、解決に向けた行動計画を自身が主体的に立案すること」が加わります。
その行動計画の中に「知識やノウハウを修得する」という内容があれば、これまでのようにスキルアップ研修を受講することで、それらのコンテンツを「自分ごと」として捉えることができ、実務に生かしていくようになるでしょう。

社員の納得を得ながら、効果のある人材育成を

集合研修の多くは社員の承諾を得ないままスケジューリングされることが多く、通常業務の時間を圧迫してしまうことで社員が感じる負担が大きくなります。
人材育成の施策の目的やメリットをはっきりと社員に伝えることで、社員の納得を得られるでしょう。

加えて、部署単位で育成面談を実施し、社員の話に耳を傾け、社員自身から自発的な言葉を引き出すことが重要です。
社員によって課題が異なることはもちろん、価値観や勤労観、キャリアに対する方向性や、意欲の程度もそれぞれ違います。
そのことを、面談を実施する各部署の管理者層にもあらかじめ理解してもらうことが不可欠です。

また管理者には、育成面談に限らず業務中のさまざまな場面で、社員が普段どのようなことに関心を持ち、これからどうなりたいのかを察する技量も必要になってきます。
社員からのアクションを待つのではなく社員へ能動的に働きかけて自発性を促すことが、これからの時代における効果的な人材育成のカギといえるでしょう。

参考記事:
若手社員が積極的にアイデアを出せる組織とは?~正解のない問いと心理的安全性~  

人材育成の課題と組織風土の関係性 組織の取り組みのポイント

人材育成においては、社員を育てやすい土壌を作ること、すなわち組織風土も同時に見直していかなければなりません。
突然トップダウンで方向性を変えると、いたずらに現場の混乱を招くことになるでしょう。
まずは社員全員で足並みをしっかりと揃えて意識を統一することが重要です。

目指す組織像、人材像を明確に

企業は営利組織であり、利益を上げるために目指す組織像が掲げられています。
組織が理想とする人材像と、人材育成の方針を明確に定義・共有しておき、会社と社員との間で認識の齟齬が生まれないようにしましょう。
ここにズレがあると、人材育成どころか、コストを費やして獲得した貴重な人材が離脱してしまう可能性も生まれるためです。

社員を主体とした会社のあり方を考える

効果的な人材育成のためには、社員一人ひとりが主体性を持って業務に取り組む組織風土づくりが重要です。
先述のとおり、社員が自身の課題を「自分ごと」として捉えられるようにならない限り、人材育成には限界があります。
組織としての将来像と社員それぞれの将来像を勘案しつつ、社員自身の内発的な動機づけを行うように働きかけることが欠かせません。

では、社員が主体性を持つにはどうしたらよいでしょうか。
ひとつには、組織の課題解決に向けた意思決定の裁量を、管理職だけでなく社員にも持たせるという方法です。
組織づくりに自分が関わっているという当事者意識は、社員が自身の意見を積極的に述べ、進んで実行するといった主体性の促進につながります。

また、社員が自身の希望するポジションへと柔軟に配置転換していくことも、社員が主体性を持つようになるひとつの方法といえるでしょう。
最近は、挙手制で任意に部署移動ができる企業も増えつつあります。

組織風土を整える

人材育成の効果を実務と結びつけるためには、組織風土を整えることが重要です。
例えばある社員が学習した内容を実務に生かそうとしても、組織で働いている以上、単体では成果につながりにくいだけでなく、メンバーからの反発を招く可能性があります。
人材育成に向き合う意識を、社員を取り巻く上司や同僚にもしっかりと理解してもらい納得を得る必要があります。

また、成功のためには失敗やその経験から得た学びが不可欠であり、寛容な風土づくりも重要です。
たったひとつの失敗を頭ごなしに叱ったり、行動を細かく指摘して責めたり、評価を著しく下げたりといった一昔前の組織風土は、社員を過度に萎縮させ、指示どおりにしか動けない受け身の人材を量産する結果となります。
大企業ほど「新しいことを始められては困る」という安定志向から保守的になりがちですが、そういった風通しの悪さは、失敗を恐れず挑戦しようとする気概を折る要因にもなります。

社員が主体の会社を作る組織風土のキーワードは「共有すること」と「褒めること・認めること」です。
企業の組織像と求める人物像を社員へ伝え、お互いが納得した上でそれぞれの課題解決に向けた行動計画を立てていきます。
上司は社員が積極的に業務に関わる姿勢を評価し、その結果にかかわらず褒めるようにします。
それがたとえ大きな失敗に終わったとしても、その経験を次へと生かすためのサポートをすることで、失敗によって不安に陥った社員の主体性を維持することができ、上司と部下との間には揺るぎのない信頼が芽生えることでしょう。
ちなみに、社内の良好な対人関係は社員のパフォーマンスを向上させる重要な要因のひとつでもあります。

これらのサイクルを地道に繰り返していくことで、企業全体が活性化し、社員が自分の課題に限らず組織の課題までも「自分ごと」として捉えられるようになります。
やがて社員一人ひとりが組織にとってかけがえのない資産となり、会社を良い方向へと導いていくようになるはずです。

人材育成のトレンド

ここからは、昨今の人材育成におけるトレンドについて解説します。
※内容は、「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)」流行前の調査を元にしています。

集合研修のデザイン+経験・体験のデザイン

1つ目は、集合研修の後に研修内容を現場で実践するよう、育成方法をデザインするプログラムです。
研修で得た学びに経験や体験を通すことで「研修転移」を促します。

フォーマル+インフォーマル

2つ目は、フォーマルな学習とインフォーマルな学習の相互作用を生み出すことです。
フォーマルな学習とは、人事部主導の集合研修やeラーニング教材で受講するものです。
ここでは基礎的な概念やスキルについて学びます。
そしてこれらを、社員同士が教え合うインフォーマルな学習の機会を設けることでより深く浸透させます。
ツールは社内SNSやYouTube(社内動画共有)などを利用するとよいでしょう。
こちらは活用方法や事例について共有し合う、フォーマルな学びの応用です。

集中学習+分散学習

集中学習とは、まとまった時間を使って一気に学習を終わらせてしまう方法です。
これまでの集合研修はこの集中学習が主体でした。
最近は学習教材のマイクロラーニング化により、例えば動画教材であれば1本5分未満で学習を終えられる、分散型の学習が台頭しています。
コンプライアンス研修や情報セキュリティ研修などは前者、スキルアップ研修は後者と、コンテンツの内容によって使い分けたり、同じコンテンツを両方に割り振って研修転移を促したりといった活用法も考えられます。

キャリア開発+自己選択学習

これは、上述した「育成面談」の内容を踏まえて個々に学習内容を最適化する方法です。
人事担当は必要最低限の研修を設計して全体を推進するという役割を担うことになります。
また、上司が部下の状況をより正確に把握する支援ツールとして「タレントマネジメントシステム」を導入することも視野に入れてください。

効果が出る人材育成の方法をご紹介

最後に、これからの人材育成としてすでに目に見える効果を上げている方法を、一部企業事例を交えながらご紹介します。

プロジェクトベースドラーニング

総合エンジニアリング会社の三機工業株式会社が、1泊2日の研修と発表会から成る「未来記事」研修を実施しています。
これは、「自社がビジネス誌に取り上げられたらどのような内容になるか」を想定してひとつの「未来記事」を作り上げるという、プロジェクト型の研修です。

具体的には、参加者が1日目にメディアの記者へ渡す情報をまとめた「プレスキット」を作成し、2日目はそれをもとに取材を受ける(発表する)という内容で実施されました。
メディアの記者へ渡す情報は自社の新事業に関するもので、今回の研修を実施する背景である「新事業や新商品を生み出す意識をもった人を継続的に育てていく」という企業課題を反映しています。

まず、デザイン思考などの講義を受けてから4つのチームがそれぞれ新事業のアイディアを膨らませ、具体化したものをプレスキットに落とし込むワークを行って初日の夕方までに提出することになっていたのですが、どのチームも間に合わず翌朝に締め切りを延長したそうです。
ここには、参加者の「納得できるところまでしっかり組み立てて提出したかった」という意欲が伺えます。
実際、受講後のアンケートでは「これまで受けた研修のなかで一番面白かった」「このような機会を与えてくれてありがとう」などのコメントがあったそうです。
この「未来記事」研修のように、参加者が和気あいあいと話しながら新事業を自由に企画してアウトプットする研修は珍しく新鮮に感じられたのではないでしょうか。

企業の抱える課題をしっかりと解決し、実践的な内容で研修転移を促したよい事例といえるでしょう。

マイクロラーニング

アパレル業界でも最大手の株式会社ユナイテッドアローズが、スマートフォンで受講できるeラーニングを導入しました。
同社の目的は「従業員が学習したくなる」コンテンツの開発でした。
そのため、豊富な学習内容を短時間で無理なく受講し、学習の成果や習慣化の向上を図るため、eラーニングをマイクロラーニング化してスマートフォンで配信したのです。

実施後、従業員が自発的に受講したコンテンツの中でも受講率の高いものは90%超という優れた結果となりました。
店舗スタッフが多く在籍する企業特性をしっかりと理解してマイクロラーニングの利点を最大限に活用した事例といえるでしょう。

タレントマネジメントシステムを利用した学習のデザイン

個人がどのようなタレント(才能)を持っているかという情報をデータして収集・蓄積・管理するタレントマネジメントシステムは、人材育成と親和性が高いツールです。
それぞれに不足しているスキルや経験が可視化されるため、それを補完する内容の研修をサジェストすることで効果的な人材育成が可能となります。
LMS365のようなラーニングマネジメントシステムとあわせて活用することで、より柔軟で一人ひとりにフォーカスした学習デザインを実現できます。

ウイズコロナ・アフターコロナの研修のあり方

COVID19(新型コロナウイルス感染症)の流行に伴ってテレワークが普及したことにより、研修においてもオンライン化の動きが進行しています。
これからは環境の変化に合わせて、学習設計においても「ラーニング・エクスペリエンス(人材開発の場における学習体験)」を意識して取り組む必要があります。
具体的には、多様化する就労環境において従業員がストレスなく参加できる体系で、個別のキャリアとタレントに合わせた学習を、より仕事の成果・パフォーマンスの向上につながる方法で提供するというものです。

参考記事:
あなたの組織に、変化を受け入れる風土はあるか?~エンプロイージャーニーマップが求められる理由~  

まとめ

今回の記事では、既存の人材育成方法における課題を挙げながら、これからの時代において企業が発展していくための「個を伸ばす人材育成」について解説しました。

これまでの会社のあり方は、企業が主体となって社員全員を一斉に牽引するものでした。
しかし、社員の抱える課題や仕事への価値観が多様化した現在では、社員一人ひとりに目を向けて、個に合わせた細やかな育成を行うことが重要です。

また、人材育成の方法を変えるためには組織風土の変革も不可欠です。
これは企業だけに限った話ではありませんが、日本は文化的に海外と比較して人を「褒める」という意識が希薄です。
頑張っても評価されない、理解してもらえないという無力感は、社員をどんどん「ぶら下がり体質」にさせてしまいます。
逆に社員全員が自由闊達に主体性を持って業務に関わることができ、それが成果に関わらず大きく評価される組織風土においては、社員が意欲的にパフォーマンスを発揮できるようになることでしょう。

参考記事:
組織風土改革がうまくいかない理由は? 組織風土改革の手順及び成功のコツをご紹介

個を伸ばすということは、個の主体性を尊重するということでもあります。
今回テーマにした新たな人材育成とは、個を伸ばし、個の主体性を尊重することで、これからの時代を生き抜く「社員を主体とした会社」を構築することに他ならないのです。

参考記事:
研修は、経営から社員へのメッセージ  

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