人材育成における課題とは?原因と解決策、成果を高める実践ステップ!
最終更新日:2026.06.03
目次
人材育成に力を入れているのに、現場では「忙しくて育成に時間が取れない」「上司によって育成の質に差がある」「研修後の行動変容が見えない」といった悩みが尽きないのではないでしょうか。人材育成における課題は、研修の中身だけではなく、経営戦略との接続、現場の対話、評価制度、学習定着の仕組みまで含めて捉える必要があります。この記事では、最新の公的調査と弊社ソフィアの調査をもとに、企業の人事・研修担当者が押さえるべき課題と解決策を体系的に整理します。
人材育成における課題の定義
人材育成とは、企業が従業員一人ひとりの能力・スキル・行動特性を高め、事業や組織の成果につなげていく取り組みのことです。教育や研修だけを指すのではなく、OJT、1on1、異動、経験学習、自己啓発支援、キャリア支援、組織文化づくりまで含めて捉えるほうが、実務では実態に合います。
人材育成の目的と必要とされる背景
デジタル技術の普及により、労働市場は大きな変革を迎えています。野村総合研究所とオックスフォード大学の共同研究(2015年)によれば、日本では将来的に49%の労働人口が自動化される可能性があります。これにより、既存の労働市場や労働者の仕事観にミスマッチが生じる可能性が上がるでしょう。
米国では既に自動化による労働市場の二極化が進行しており、中程度のスキルを要する仕事が減少し、高スキルや低スキルの職業が増えています。
また、脱炭素の流れに伴い、関連する産業の縮小と雇用の減少が予測されています。企業は循環型社会にシフトするために、新たなサービスや商品の開発が求められているのが現状です。
さらに、少子高齢化の進行により生産人口が減少し、外国人労働者の不足も懸念されています。これらの課題に対処するため、企業は将来に必要な能力やスキルを持つ人材を育成する必要があります。
経済産業省は、デジタル化の加速度的な進展や脱炭素化の世界的潮流が、産業構造だけでなく労働需要のあり方にも根源的な変化をもたらすと整理しています。さらに、IPAは2026年4月にデジタルスキル標準ver.2.0を公表し、AI活用やデータマネジメント、ビジネス変革に関する役割とスキルを更新しました。つまり、企業が人材育成を見直すべき理由は、単なる一般論ではなく、求められる職務能力そのものが変わり続けているからです。
厚生労働省の令和6年度「能力開発基本調査」でも、企業が重視する能力・スキルは一様ではありません。管理職を除く50歳未満の正社員では「チームワーク、協調性・周囲との協働力」が58.6%で最も高く、次いで「職種に特有の実践的スキル」が36.9%でした。50歳以上では「マネジメント能力・リーダーシップ」が55.0%で最上位です。人材育成における課題は、単に”教える内容が足りない”ことではなく、誰に、どの役割で、何を伸ばすかが複雑化していることにあります。
また、令和7年版高齢社会白書によれば、日本の65歳以上人口は総人口の29.3%に達しています。労働供給の制約が強まる中では、「採る」だけでなく、「育てる」「定着させる」「戦力化を早める」が経営課題になります。
人材育成における課題を放置することは、人事領域の問題にとどまらず、事業継続性の問題でもあります。
人材育成における主な課題
多層化する育成課題の実態
現代の企業における人材育成は、いくつもの課題が重なり合っています。普及しているITテクノロジーを活用する際に必要な能力・スキルが育成の項目から欠けているカリキュラムが多くを占めている点や、長期雇用を前提としたスローペースな育成など、旧態依然の土台で人材育成の方針が組まれてしまっていることも課題のひとつとして挙げられるでしょう。この章では、現代の人材育成における具体的な課題について見ていきます。
まず、現時点の企業実態を押さえておくべきです。厚生労働省によると、能力開発や人材育成に関して何らかの問題があるとする事業所は79.9%で、約8割に達しています。問題の内訳は
・「指導する人材が不足している」59.5%
・「人材を育成しても辞めてしまう」54.7%
・「人材育成を行う時間がない」47.4%
・「鍛えがいのある人材が集まらない」26.7%
・「育成を行うための金銭的余裕がない」14.5%
でした。
この五大課題は、別々に起きているようで実際には連動しています。指導者が不足しているから育成が後回しになり、後回しになるから本人が成長実感を得られず、成長実感が乏しいから離職につながる、という連鎖です。したがって、人材育成における課題への打ち手は「研修を増やす」一点突破ではなく、管理職、現場業務、評価制度、職場コミュニケーションまで含めて設計する必要があります。
環境・市場変化への対応不足による課題
人材育成はその育成期間の長さから、人材育成方針や人材戦略と呼ばれ、長期的なスパンで設計することが必要だと言われています。しかし、現在の仕事の現場においてはそれが難しくなりつつあります。
たとえば人材戦略においては、企業や事業戦略に基づき、中長期的に必要な人材を育成するという流れが定番です。以前までは、グローバル化の影響から英語教育やTOEICの重要性が高まっていました。しかしここ10年で企業の戦略は大きく変化しており、ダイバーシティや女性活躍の推進においては多様性教育が注目され、デジタル化やDXの進展に伴い、デジタル教育の必要性が浮上しました。
さらに現在では、国や企業がそれぞれの立場を持って均衡を作る多極化の時代が訪れようとしています。テクノロジーの進化によって企業どころか個人レベルでグローバル化しており、今や国際的な行き来は特別なものではありません。このような状況の中で、多くの企業は柔軟性を求めています。
組織や個人は、変化に迅速に対応し、必要なスキルや知識を柔軟に獲得する必要があります。将来に向けた人材育成においては、未来予測に則り、研修や制度をアップデートしていくことが企業の課題でしょう。
経済産業省は「未来人材ビジョン」で、企業側が必要な具体的スキルや能力を把握し、それをシグナルとして発信できているかを問題提起しました。
人材育成における課題とは、単なる研修テーマの更新不足ではなく、経営戦略から逆算して「必要人材像」を描き切れていないこととも言えます。
雇用形態の変化による課題
欧米や中国のように、ジョブホッピングしながらキャリアを積んでいくといった極端な変化はしていないものの、日本でも若年層を中心に、転職して自身のキャリアを積んでいくことが当たり前となりつつあります。つまり、企業に就社して長期的に安定・安心する労働観ではなく、自身の能力やスキルを拠り所とした就職に本格的に変化しつつあるということです。
また現在では、一括新卒採用と内部の人材育成だけでは、労働市場の変化に対応することが難しくなっています。そのため、企業は外部委託を増やす傾向にあり、社内での徹底的な育成よりも、中途採用市場からスキルのある人材を獲得する方向にシフトしています。それは、自社の社員も他社に引き抜かれるリスクが高まっているということでもあります。このような流動性の高まりに対応するため、企業は育成にかかるコストを減らす代わりに、新入社員が早期に活躍できるようなオンボーディング施策や離職防止策を導入するなど、トレードオフの関係を考慮しています。
この現状を受け、企業は階層教育を短期サイクルに変化させ対応していくことが必要です。しかし、新入社員、若手社員、中堅社員、管理職など、全社の役職に合わせて階層教育を変化させるのは大変な作業です。自社に設けられた制度との整合性、階層教育を受けていない人の扱い、対象を正社員だけに絞るのか、といった懸念を考えると、容易ではないことが分かります。
育成と定着は別施策ではなく、キャリア支援や配置、評価とつながって初めて成立します。厚生労働省でも、能力開発に関して問題がある事業所の上位課題として離職が挙がっています。「育成して終わり」ではなく「育成後に活躍できる場をどう設計するか」まで視野に入れることが、現場の実態に合った取り組みと言えるでしょう。
必要スキルの変化による課題
業務のデジタル化、企業の経営方針の変化に伴い、社員に必要なスキルが変わってきていることはお伝えしました。これまでのような、マニュアル業務を効率的にこなす能力や、既存のビジネスモデルに合わせて資格やスキルを身に着けるのではなく、課題を見つける創造性や時代の変化に対応できる柔軟性といった能力が社員には求められています。
そのような企業の未来を担う人材を育てるために役立つのが、管理者に必要な能力を段階的に整理した「カッツモデル」です。カッツモデルとは、アメリカの経営学者であるロバート・L・カッツによって提唱されたフレームワークで、人材育成の現場でよく活用されるモデルです。
カッツモデルでは、管理者の段階を「ロワーマネジメント」「ミドルマネジメント」「トップマネジメント」の3段階に分類し、そこに「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」の3つの必要スキルを組み合わせることで、管理者の適切なマネジメント力を判別することができます。
カッツモデル自体は古典ですが、いま読み直す価値があります。厚生労働省の調査でも、50歳未満では協働力や実践スキル、50歳以上ではマネジメント能力が重視されており、役割ごとに育成すべき能力が異なることが示されています。加えて、IPAのデジタルスキル標準ver.2.0では、AIやデータ活用を前提に、ビジネスアーキテクトやデザイナーなどの役割が見直されました。つまり、「スキルが変わった」という抽象表現だけでなく、「役割ごとに求める能力を分けて設計しなければならない」という視点が、実務では不可欠です。
人材育成における課題を自社で整理しきれない場合は、まず「現場で何が起きているのか」を見える化することが近道です。弊社ソフィアの調査資料「フル_IC実態調査2025」は、1on1・上司とのコミュニケーション・ナレッジ共有の課題把握に活用できます。
人材育成の効果が見えない理由
投資対効果の測定が困難という課題
2020年1月に日本経団連が実施した「人材育成に関するアンケート調査結果」によると、人材育成施策の環境変化への対応状況について、9割弱(88.8%)の企業が「対応できていない部分がある」と回答しました。対応が必要となっている要因(複数回答)としては、就労意識の多様化(ダイバーシティ経営の推進)、デジタル技術の進展、事業のグローバル化の進展、オープンイノベーション(外部との連携)の広がりなどが挙げられています。
また、2021年6月に改定が行われた東証のコーポレートガバナンスコードにより人的資本の情報開示が(コンプライ・オア・エクスプレインの原則のもとで)上場企業に強く促されるようになり(法的義務化は2023年の内閣府令改正による)、 投資家からの人的資本の活用度合いが株価に影響する時代になってきています。
育成効果の不可視化という構造的問題
多くの企業が取り組みを進めているという調査結果からも分かるとおり、激動の時代ともいわれる現代社会の変化に適応すべく、多くの企業の経営課題に「人材育成」が挙げられるようになっています。
『企業は人なり』という松下幸之助氏の言葉が示すとおり、「人的資源」は最も重要な経営資源のひとつです。しかし、これらの無形資産は有形資産のように、完全に数値化・可視化ができる資産ではありません。人材育成における実態としては、人材育成という投資が実務や成果にどのように作用しているのか、さらには費用対効果の算定までを行っていないのが現状です。
また、人材育成の費用対効果が見えにくい理由として、人事と研修ベンダーとの間の構図があります。研修企画者としては、アンケート結果が良ければベンダーが研修サービスを継続してくれる、ベンダー側からすれば、アンケート結果が良ければ研修を継続できるという構図です。
しかしながら、このアンケート結果だけで費用対効果が証明されるわけではありません。このような構図の下、長期的な費用対効果を出す必要性があるにもかかわらず、実際の動機が醸成されにくいという状況が生じています。
弊社ソフィアの調査では、上司との1on1を「義務付けられている」または「任意で実施・推奨されている」と答えた人は合計62.6%でした。一方で、頻度は「月1回以上」まで広げても29.4%にとどまり、「半年に1回以上」が30.7%で最多です。また、1on1が業務遂行やキャリア形成に役立っていると感じる人は41.2%にとどまり、36.2%は「どちらでもない」と回答しました。制度として存在していても、育成やキャリア支援に結びつく運用になっていない可能性があります。
さらに、弊社ソフィアの調査では、上司とのコミュニケーションの不満として「評価の理由が不明、基準が人によって異なる」18.6%、「放任や丸投げなど指示が無い」17.7%、「方針決定の理由が不明、判断基準が示されない」15.4%、「フィードバックの質が低い」15.1%が挙がりました。人材育成における課題は、育成コンテンツ以前に、日常のマネジメントが”育成の場”として機能していないことにもあります。
ナレッジ共有にも同じことが言えます。弊社ソフィアの調査では、社内のナレッジ共有が十分だと感じる人は31.2%に対し、不十分だと感じる人も30.5%存在しました。阻害要因としては「情報がいろいろな場所にあり、どこにあるか分からない」27.6%、「他の部署の情報にアクセスしづらい」22.5%、「忙しくて共有する時間がとれない」21.3%が上位です。研修で学んでも、職場で知識にアクセスできず、相談しづらく、記録が散在している状態では、定着しにくくなります。
HRBPの台頭と費用対効果改善への期待
HRBP(Human Resource Business Partner)は、経営者や事業の責任者とパートナーを組み、経営や事業をサポートする存在を指します。一般的な事業部人事が現場の人事業務のサポートを行うのに対し、HRBPは人事を通して経営や事業全体に良い影響を与え、上向かせることを最終的な目的としています。
HRBPの台頭が示すように、現代の日本の企業の人材育成においては、長期的な視点による人材戦略・人事制度・研修体制がもっともらしい理屈だけ残して形骸化しつつあり、時代に則した機能を発揮しているとは言えない状態です。上記の課題を解決するには、採用段階から実際の現場での活躍までを包括し、人材の問題を経営や事業単位でとらえる必要があります。
脱工業化が進み、人的資産が開示される社会においては、人材が事業の中心になっており、とくに現場主導で必要な人材育成をしていかなければならない実態があります。しかし現代の企業においては、人材育成の設計と運用を担う人事部門はオペレーション人事だけでなく、より広く経営に関わる戦略的な役割も担っているため、現場で働く人と連携して必要な人材育成を行うまで手が回らなくなっているのです。
そこでHRBPと連携することにより、企業の将来を見越しつつ、変化の激しい現代で必要なスキルを持つ人材育成を行うことが選択肢として出てきました。
HRBPがもたらす費用対効果の改善
HRBPは企業内の各部門と連携し、現場の状況を正確に把握しながら経営・事業の方針に合わせた人事戦略を策定します。経営陣と現場の間を取り持つ役割もあり、HRBPが仲介することで、経営側からの指示や要望を現場に伝え、現場からはニーズや課題・問題を経営側に伝えることが可能です。
HRBPの仲介で経営と現場の意見をスムーズに行き来させることにより、より現実的に必要な能力・スキルを持つ人材像があぶり出され、最適な人材戦略を策定して実行することができるようになります。
現代のビジネスの現場は複雑化しており、社員個人の能力・スキルの全体最適化には限界があります。経営・事業といった抽象的な視点だけではなく、現場の個別事案にもフォーカスし、具体的な視点で能力・スキルを人材育成の戦略に織り込む必要があるでしょう。その点において、現場の状況を正確に把握するHRBPの役割は大きいと言えます。
また、HRBPの介入は抽象度の高い長期視点での人材育成とは異なり、現時点での現場レベルでの課題・問題を解決するための取り組みが含まれます。社員の能力・スキル向上を目的とした人材育成に注力するのか、外部委託を選択するのかなど、経営・事業戦略で多方面の検討を行い、長期的な人材投資か短期的な利益を追及するのかといった、状況に合わせた選択ができるのも利点でしょう。
人材育成における課題の解決策
ステップの全体像は、①現場課題の洗い出し、②目標と指標の明確化、③育成時間の確保、④方法とコンテンツの設計、⑤実施後の定着支援と測定、の五段階です。この順番が大切なのは、課題が曖昧なまま研修を入れても、学習内容が現場で使われず、結局「効果が見えない」に戻りやすいからです。
① 現場の課題を洗い出す
最初にやるべきことは、研修メニューを選ぶことではありません。現場で何が詰まっているのかを把握することです。管理職ヒアリング、従業員アンケート、1on1ログ、異動や離職の傾向、部門ごとのKPI、業務プロセスのつまずきなどを見て、「どの成果が、どのスキル不足や組織課題と結びついているのか」を言語化します。厚生労働省の調査でも、約8割の事業所が人材育成上の何らかの問題を抱えていますが、その中身は指導者不足、離職、時間不足など異なります。自社のボトルネックがどこかを見誤ると、育成施策は当たりません。
ここで役立つのが、弊社ソフィアの調査が示した「コミュニケーション上の摩擦」です。評価理由が不明、フィードバックが曖昧、方針の理由が共有されない、心理的安全性が低い、といった日常のマネジメント課題は、そのまま育成課題にも直結します。現場ヒアリングでは、スキル不足だけでなく、上司との対話、部門間の情報流通、ナレッジ共有の運用も合わせて確認すると、原因の解像度が上がります。
② 目標を明確にし、指標を設計する
人材育成における課題が「効果が見えない」ことであるなら、最初から測る設計が必要です。ここで言う目標は、「受講者満足度を上げる」ではありません。「半年後に新任管理職の1on1実施率を月1回以上にする」「営業の提案同行後のフィードバック実施率を上げる」「異動後3か月以内の立ち上がり期間を短縮する」といった、行動や業務に接続したものが望ましいです。人的資本可視化指針でも、指標と目標の設定、現状との差分の可視化、進捗のモニタリングが重視されています。
指標は、少なくとも三層で見ると運用しやすくなります。一つ目は学習指標で、修了率や理解度、提出課題などです。二つ目は行動指標で、1on1実施率、フィードバック頻度、ナレッジ投稿数、OJT同行件数などです。三つ目は成果指標で、生産性、定着率、早期戦力化、顧客満足、管理職評価などです。この三層がつながると、人材育成における課題が「なんとなく効果がない」→「どこで詰まっているかが分かる」へ変わります。
③ 育成時間を確保する
厚生労働省調査で47.4%が「人材育成を行う時間がない」と答えている以上、時間不足は個人の努力不足ではなく、構造的な問題です。したがって、育成時間を現場任せにしてはいけません。OJT担当者と管理職の工数を業務計画に組み込み、学習・面談・振り返りを”余白時間”ではなく”業務時間”として扱う必要があります。
このとき有効なのが、短時間学習と分散配置です。分散学習は、まとまった一気学習よりも学習保持に有利とする研究があります。業務と両立しやすいマイクロラーニングや、短い実践課題を継続的に挟む設計は、時間不足の現場と相性が良いです。
④ 方法とコンテンツを設計する
研修ありきで決めるのではなく、課題に応じて方法を選びます。知識のインプットが不足しているならOFF-JTやeラーニング、現場での動き方を変えたいならOJTや同行・ロールプレイ、管理職の関わり方を変えたいなら1on1の型やフィードバック訓練、部門間連携が弱いなら横断プロジェクトや勉強会のほうが効きます。厚生労働省でも、正社員に対する計画的なOJT実施は61.1%ですが、逆に言えば約4割は十分に実施できていません。自社の課題に対して、何が足りていないかを見たうえで組み合わせることが重要です。
⑤ 実施後の定着支援と測定を行う
研修後に現場で何をさせるかまで決めていない施策は、定着しにくいです。研修直後の提出物、上司との確認面談、現場課題への適用、振り返り、同僚との共有、上司観察という一連の流れを設計したほうが、転移は起きやすくなります。Hughesらのメタ分析でも、同僚支援と上司支援は、研修内容の持続利用と関連していました。人材育成における課題を解くには、「研修の場」ではなく「職場の場」まで設計対象に入れることが欠かせません。
人材育成の方法の選び方
ここまで人材育成における課題と解決の方向性を整理してきました。では、具体的にどのような方法で課題へ向き合うべきでしょうか。
まず前提として、人材育成の方法は”一律同一”より”個別最適”へ向かっています。OJT、メンター、1on1、eラーニング、タレントマネジメントなどの手法を複数紹介することより重要なのは、「どの課題に何が効くか」を線でつなぐことです。たとえば、指導者不足には指導者研修とメンター制度、時間不足には短時間学習、離職にはキャリア支援と1on1、定着不足には現場実践の設計が対応しやすいです。
弊社ソフィアの調査でも、職場を良いと感じる要因として最も多かったのは「人間関係・上司部下関係」53.8%で、「成長・学習機会」は21.5%でした。この結果は、人材育成の方法を考えるうえで示唆的です。従業員は学習制度そのものより、日々の関係性や上司との関わり方を通じて育成の質を感じやすいからです。研修制度を整えるだけではなく、その学びを支えるコミュニケーション環境を整えなければ、育成施策は体感価値に結びつきにくいと考えられます。
育成面談と1on1を育成の中核に置く
弊社ソフィアの調査では、1on1の実施自体は広がっていますが、業務やキャリアへの有用感は41.2%にとどまりました。このギャップは、1on1が「業務進捗の確認」や「形式的な面談」にとどまっている可能性を示します。育成面談では、本人の課題、目指したい状態、そのために必要な経験や学習を一緒に整理し、次回までの行動に落とすところまで設計すべきです。1on1を制度として回すだけでは、人材育成における課題は解決しません。
ナレッジ共有を“善意”から“業務”へ転換する
ナレッジ共有は、多くの企業で「大事だと思うが回らない」状態になりがちです。弊社ソフィアの調査では、「忙しくてナレッジを共有する時間がとれない」21.3%、「どうまとめて共有すればいいか分からない」17.2%、「共有が業務に組み込まれておらず、余計な仕事になっている」14.4%でした。つまり、共有文化の問題だけでなく、業務設計の問題でもあります。OJT報告、案件終了後の振り返り、FAQ更新、1on1メモの要約などを定型化し、更新責任者を定めるほうが実装しやすいです。
ナレッジマネジメントとは?AI活用と失敗しない導入手順【2025年版】
ナレッジマネジメントの定義からSECIモデル、ISO30401、最新の生成AI(RAG)活用までを網羅。組織の暗黙知を資産に変え…
フォーマル学習とインフォーマル学習の組み合わせ
フォーマル学習は、基礎知識の共通化に向いています。一方で、実務での相談、雑談、先輩からの助言、他部署との情報交換といったインフォーマル学習は、仕事への応用や定着に効きます。弊社ソフィアの調査では、偶発的な雑談や立ち話に業務上の良い影響があったとする人は55.8%で、具体的な効果として「相談しやすくなった」43.8%、「業務上の連携がしやすくなった」41.2%、「業務に役立つ情報やヒントが得られた」35.8%が挙がりました。研修制度だけではなく、学びが流通する場づくりも育成方法のひとつです。
マイクロラーニングの活用
マイクロラーニングは、時間不足が深刻な企業ほど相性が良い方法です。短い動画やクイズ、業務直前の確認コンテンツ、ケース確認などを分散的に配置することで、まとまった研修時間を確保しづらい現場でも回しやすくなります。分散学習が保持に有利という研究知見とも整合しており、現場でのOJTや1on1と組み合わせると、学びを思い出すきっかけを増やせます。
オンライン化は”体験設計”で考える
オンライン研修が増えるほど、課題は「配信できるか」ではなく「学習者が参加しやすく、考えやすく、職場で使いやすい体験になっているか」へ移ります。オンデマンドで学んで、少人数で対話し、上司と振り返り、現場で試し、その後また短い学習に戻る、といった循環設計のほうが、単発ライブ配信よりも成果につながりやすいです。
方法選定の判断基準
方法選定では、少なくとも次の四点を見ると判断しやすくなります。育成したいのは知識、行動、役割認識のどれか。対象は新入社員、若手、中堅、管理職のどこか。職場で上司支援や実践機会を確保できるか。短期成果を狙うか、中長期の人材基盤をつくるか。この四点が曖昧だと手法が流行で選ばれ、人材育成における課題をかえって増やしてしまいます。
人事部門長・研修担当者が今すぐ取り組むべきこと
ここまでの内容を踏まえると、担当者が最初に着手すべきことは明確です。大掛かりな制度改定の前に、まずは「見立て」を整えることが重要です。
人材育成における課題は複合的なので、いきなり研修を刷新するより、現場ヒアリング、管理職の負荷把握、1on1の実施状況、育成後の配置、ナレッジ共有の実態を確認し、どこが詰まりやすいかを絞り込むほうが、投資対効果は高まりやすいです。実務上は、次のような順番で進めると動きやすくなります。
・第一に、役員・事業責任者と人材育成の目的をそろえることです。採用強化なのか、管理職育成なのか、DX推進なのかで、指標も方法も変わります。
・第二に、管理職の育成を後回しにしないことです。指導者不足が最大課題である以上、部下育成の土台づくりが先です。
・第三に、育成施策を職場の仕組みへ埋め込むことです。研修単体ではなく、1on1、OJT、異動、学習共有、評価と連動させます。
・第四に、学習・行動・成果の三層で効果測定することです。人的資本開示の観点からも、ストーリーを持った説明が必要です。
特に管理職層への支援は急務です。厚生労働省の調査では、50歳以上の正社員で最も重要と考えられている能力はマネジメント能力・リーダーシップでした。一方で、弊社ソフィアの調査では、上司とのコミュニケーションで評価理由の不明瞭さやフィードバックの弱さが課題として現れています。つまり、「現場で育てる」は正しい方向性である一方、その現場管理職が育成スキルを持っていないなら、現場主導は機能しません。管理職の1on1、フィードバック、対話、ナレッジ共有の運用を鍛えることは、全社育成のレバレッジになります。
人材育成における課題を、現場ヒアリングから研修設計、1on1運用、ナレッジ共有、効果測定まで一気通貫で見直したい場合は、弊社ソフィアへご相談ください。調査・設計・施策実装をつなげて支援できます。
まとめ
人材育成における課題とは、単に「良い研修がない」ことではありません。指導する人材が不足している、育成時間が取れない、育成しても辞めてしまう、目標が曖昧、研修後の定着が弱い、職場での対話や情報共有が詰まっている、といった複数の問題が重なって現れます。厚生労働省の調査では約8割の事業所が人材育成に悩み、弊社ソフィアの調査でも1on1やナレッジ共有に改善余地が確認されました。
だからこそ、人材育成の打ち手は研修単体で閉じてはいけません。経営戦略と人材戦略をつなげ、現場課題から必要能力を定義し、1on1やOJT、フォーマル学習とインフォーマル学習を組み合わせ、職場での実践機会と上司支援まで設計し、行動と成果まで測ることが重要です。人的資本開示の時代においては、この一連の流れを説明できる企業ほど、人材育成への投資を経営成果に結びつけやすくなります。



