リスキリングとは?DXやVUCA時代を生き抜く人材戦略と実現に向けた4つのステップ

リスキリングとは業務能力の再開発、再教育のことを意味します。企業が新たに取り組む業務・職種にとって、必要なスキルや知識を再習得するという意味で使われることが多いです。日本ではまだ聞き馴染みはありませんが、海外の有名企業では既にリスキリングの導入が進んでいます。近年、日本でも業務のAI化に向けた取り組みが注目され、リスキリングの導入に関心が集まっています。

そこで今回は、リスキリングについて説明したあと、リカレント教育との違いやリスキリングが注目されている背景、リスキリングされた組織を構築する4つのステップを解説していきます。

リスキリングとは?リカレント教育との違い

リスキリングを導入していても、正しい言葉の意味や定義を理解していない会社は多くあります。周りも導入しているからと、とりあえずリスキリングを導入しても本来の効果は期待できません。ここからは、そもそもリスキリングとは何なのか、似たような意味で理解している人の多いリカレント教育との違いとは何かを比較しながら実態に迫っていきます。

リスキリングの意味と定義

2020年に開催された世界経済(ダボス)会議のレポート「The Future of Jobs Report 2020 by World Economic Forum, 2020.10.20 」では、2030年までに地球人口のうち10億人をリスキリングする必要があるという結論に至りました。日本でも、2020年11月に発表された経団連の新成長戦略で、リスキリングの必要性に関して触れられ重要性が語られました。世界経済(ダボス)会議ではリスキリングは2025年において「2位の学習戦略」です。しかし、先々を見越して勉強する学習自体が投資・博打となっています。

経済産業省の「リスキリングとは」によると、時代の変化とともにビジネスモデルや事業戦略が変わるなら、人材戦略も必然的に変わると主張しています。そして、DX時代の人材戦略としてリスキリングを推奨しているのです。

リスキリングは、主に社会人の転職やキャリアアップをする際に用いられ、導入することで以下のメリットが得られます。

社内に新しいアイデアが生まれやすくなる
業務の効率化が期待できる

リスキリングを導入すれば、知識がない業務について勉強する必要が出てきます。新しい知識を習得することで、社内に新しいアイデアが生まれる可能性が高まるでしょう。新しいアイデアが生まれることで、新規事業の立ち上げや新商品の販売につながり、結果的に会社の売上向上につながります。

また、業務の効率化が実現すれば、従業員の労働時間の削減につながり、短時間で大きなパフォーマンスの発揮に期待ができます。リスキリングの導入は、これからの時代と働き方に適した考え方だといえます。

リスキリングとリカレント教育の違い

リスキリングと似た言葉に、スウェーデンで提唱された「リカレント教育」という言葉があります。リカレント教育とは、社会人になってからも自分に必要なタイミングで、大学や大学院、専門学校などの教育機関を利用して学び直すことをいいます。リカレント教育の「リカレント(Recurrent)」は、「繰り返す」「循環する」「再発」という意味であり、リスキリングと言葉の意味が似ています。

しかし、リスキリングは前述したように、ビジネスモデルや事業戦略の変化に応じて、必要となるであろうスキルや技術の習得を意味しますが、リカレントは「自分の意思で大学に入り直すなど、別のスキルを身につける」ことを意味しています。新たなスキルを身につけていくという意味では、リカレント教育とリスキリングは同義で使用されることもあります。ただし、リスキリングは新たなスキルを身につける、リカレントは既存の知識をアップデートしていくという意味においては全く異なるといえるのです。

リスキリングが重要視されるようになった背景

リスキリングが重要視されるようになった背景には、DX時代の到来があるといえるでしょう。日本の製造業でいえば、1980年代以降、生産ラインは産業機械に置き換わり、人間の手は不必要となっていきました。その代わりに、機械を使える人材が必要とされるという変化が起こりました。

近年、高度経済成長を続ける中国も同じです。現在、工作機械需要が最も高い国となった中国は、自ら生産する工作機械の技術レベル面では未だ先進国と差があるものの、欧米の工作機械メーカーを積極的に買収するなど、技術面でも急速に向上しつつあり、生産額は2009年から11年連続で世界1位となっています。

それだけでなく、ホワイトカラー職においても機械化が進んでいます。時代とともに製造業やサービス業も現場では機械化が進み、現場の情報やデータを、事業設計や企画のフロントローディングすることこそが一番の付加価値になりつつあります。ただ、過去と少し違うのが、産業構造の変化が過去に比べて早くなっているということです。

1980年代以降、日本や中国において、機械化することで「失業率が上がる」「中国では社会不安が起こる」「労働賃金が下がる」などさまざまな議論がありました。しかし、現状はどうでしょうか。人間は柔軟で環境対応能力が非常に高い生き物です。リスキリングは案ずるより産むがやすし、行動してみることが重要ということになります。

DX時代のリスキリング(人的資源戦略)とは?

今後は、さらにデジタル技術が世の中に浸透することが予測されます。そのため、現在の事業構造の土台を変革する必要があり、今までと異なるスキルや能力が必要になります。

しかし、事業戦略の決定やシステム構築を担当する人物をデジタル人材に置き換えるだけでは不十分です。DX戦略を自社に構築すると同時に、自社の強みを変更する戦略を速やかに打ち出し、すべての従業員がDX時代に価値を創造できるようスキルの習得が課題となってきます。

たとえば、事業の各プロセスをデジタルシステムに書き換えられるエンジニアや、市場規模を解析して戦略に反映するデータアナリストなどの専門知識に富んだ人材がDX時代のリスキリングといえるでしょう。ただ、専門知識に富んだ人材を自社で育成するには高度なスキルを身につけてもらう必要があり、それには膨大な時間を要します。

また、既存の事業や今後手掛ける事業へいかにデジタルを組み込むべきかを企画し、付加価値向上のシナリオを描ける人材はデジタルとビジネス両方の知識が必要とされます。したがって、第4次産業ではIT=機械化が進み、ビジネスで使う道具がITとなります。このITこそが複雑で、高い専門性が求められるのです。技術革新のスピードも速くなるため、先々を見越して学習を戦略的に行う必要もあります。


なぜリスキリングをやらない企業が多いのか?

リスキリングをやらない企業の最大の要因として、過去の成功体験が邪魔していることがあげられます。世の中がデジタル化し始めていたとしても、リスキリングを導入せずに企業の売上を向上させてきたため、リスキリングの導入は必要がないと感じている方も多いでしょう。

それ以外にも、「リスキリングは効果がない」とか、「新しいことにチャレンジせず現状維持をしたい」と考える気持ちも理解できます。しかし、そのように考える社員が一人でもいるとリスキリングの導入は難しくなります。

このような場合は社員がITリテラシーを身につけるハードルを下げるための取り組みを行う必要があるでしょう。表面上の知識を身につけるだけでなく、実際にITを活用するための環境整備や適切な社員教育を行うことで、ITリテラシーに強い企業づくりにつながります。

現状維持をしようと思っていても、時代は刻一刻と変化するものです。リスキリングに取り組む際に不安になることもあると思いますが、まずは不安な気持ちを抑えるよう努めてみてください。「欠点を直したい」や「課題を解決したい」などの発想ではなく、「次のステップへ進むための新しいチャレンジだ」という前向きな気持ちで始めてみることが大切です。

一般的には、アンラーニングをしリスキリングしていくという流れが多いです。しかし実態としては、行動してみてうまくいけばリスキリングを行い、その際に必然的にアンラーニングされることはよくあります。そのため、まずはポジティブな気持ちで取り組んでみましょう。

リスキリングされた組織を構築する4つのステップ

リスキリングは、DX時代に企業と個人の双方が生き残るための重要戦略といえます。リスキリングを導入するためには、リスキリングの重要性を従業員全員に理解してもらうことが大切です。

リスキリングの重要性を従業員に理解してもらうことで、自発的に学び続ける姿勢が期待できます。ここでは、リスキリングされた組織を構築する4つのステップを紹介します。

  1. 求められるスキルを可視化する
  2. 学習プログラムを整備する
  3. 学習状況を管理する
  4. 実践する機会を提供する

それぞれのステップについて詳しく見ていきましょう。

 

①求めるスキルを可視化する

リスキリングを導入する際は、最初に求めるスキルを可視化しましょう。新しく発生する職務においてどのようなスキルが必要になるのかを見定めて、そのスキルが必要な人に習得してもらうことが必要です。最初のステップで実践しておくべきことは、以下の通りです。

  • 現在の従業員が保有しているスキルと社内のリソースを明確にして把握する
  • 新しく必要になる職種において必要なスキルを可視化する
  • 両者のギャップを明確にする

スキルマップなどの分析ツールを活用することで、必要なスキルを可視化することができます。DX時代を生き抜くためにも、分析ツールを使用して業務効率化につなげましょう。

②学習プログラムを整備する

次のステップとして学習プログラムを整備する必要があります。このときに自社で内製できる学習コンテンツと、できない学習コンテンツをしっかり把握しておきましょう。一般的にはDXのような大きな戦略転換にともなうリスキリングでは、必要なスキルを獲得している人材がいない場合がほとんどです。

そのため、専門家の力を借りて自社で独自コンテンツを開発したり、外部業者に独自コンテンツの開発を発注したりすることをおすすめします。外部に発注すれば時間削減につながり、その分ほかの業務に時間を費やすことが可能です。

③学習状況を管理する

従業員に知識とスキルをスムーズに身につけてもらうためには、学習状況を管理することも大切です。学習管理システム(LMS)を導入することで、効率的に学習状況を管理することができます。

最初は簡単な学習内容から習熟度に応じて徐々に難易度を上げていくと知識が身につきます。極力コストを削減したい場合は、Office365やGoogle workplaceなど日常業務で活用するビジネスツールで学習コンテンツの入り口をつくり、業務と学習の溝を埋めることに活用すると学習状況を管理しやすくなるでしょう。

④実践の機会を提供する

新しい業務をする際に必要なスキルや知識が定着したら、実践の機会を提供しましょう。また、リスキリングは、実践から始めることもあります。実践を行う中で足りないスキルや知識を感じ取りリスキリングするというプロセスも多いため、実践の機会を提供することは重要です。

リスキリングにはパフォーマンスの発揮を重視したスキルの習得が大切です。社内インターンなど小さな機会でも良いので「実践の壁」を取り除き、実際の業務にチャレンジする機会を提供しましょう。「実践がなければ振り返りもできないためスキルは身につかない」と心得ておくことが肝要です。

まとめ

今回は、リスキリングについて紹介しました。リスキリングは企業にとって、単なる教育ではなく投資です。また、教育をしたからといって、ひとつの業務ができるようになるわけではありません。リスキリングを実践し、業務を遂行できたときに初めて教育がうまくいったと実感できるのです。

組織としては、実践する場の提供は最重要です。実践できる場、失敗できる場を提供することは、企業努力次第と言えます。また、時代の変化とともに、産業構造も変化していきます。その変化に対応できない企業の体力はすり減っていくことでしょう。そのため、失敗への不安にとらわれずに、どんどんチャレンジさせてみましょう。

ただし、リスキリングに関するすべてのプロセスを自社で内製化するのは大変です。通常の業務に加えて、リスキリングの導入準備の必要があるため、外注業者を探している方もいるのではないでしょうか。組織マネジメントを支援しているソフィアでは、インターナルコミュニケーションの活性化や組織変革人材育成などにおいて多くのお客様をサポートしてきました。

本記事を読んで、自社のリスキリングを進めていきたいとお考えの方はぜひご相談ください。

株式会社ソフィア

先生

ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。

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