アンラーニングとは?VUCA時代を生き抜く意味と実践のポイント
最終更新日:2026.07.30
目次
アンラーニングは、教育関係や人材育成、経営などにおいて注目を集め、力を注がれるようになってきています。VUCA時代への突入という背景やコロナの影響で自立型人材育成の需要が拡大している今、企業も個人もアンラーニングするべき時代と言っても過言ではありません。
記事内では、青山学院大学経営学部 教授の松尾睦教授の理論やデイヴィッド・コルブの「経験学習モデル」といった学術的知見を交えつつ、個人・組織レベルでの実践ステップを具体的に提示します。
また、パーソル総合研究所のデータに基づく年代・役職別の課題も深掘りします。さらに、弊社ソフィアが2025年に独自調査した『フル_IC実態調査2025』のデータ(大企業に勤める623名が名が回答)をエビデンスとして活用し、インターナルコミュニケーションの観点からアンラーニングを組織に定着させるための環境づくりの秘訣までを詳しく網羅しています。
アンラーニング(学習忘却)の意味と定義
アンラーニング(学習忘却)とは、これまでに学習してきたことを「忘れ去る」ことではなく、既存の価値観を認識し、個人や仕事をより進化させるために今の習慣やスキルを「修正する」ことをいいます。これまで重要だと言われていた概念や価値観から脱し、新たな考えや価値観を身につけることが大切です。ここでいう「価値観」とは、ビジネス上での価値観を指します。
例えば、「営業は足が命」「24時間働けますか?」のようなCMが昔はありました。もちろん、営業がお客様に直接会いに行くことに効果がないわけではありません。しかし、「足が命」というと、行動レベルと価値観が直結し硬直化しています。また、「24時間働く」ということも、今の時代にそぐわない労働スタイルです。つまり、従来の信念とルーティーンが直結し、さらにそれが硬直化してしまうと、時代の変化が激しい昨今のビジネスシーンに対応できません。そのために、アンラーニングが必要となります。
表層的なアンラーニングと中核的なアンラーニングの違い
この中核的なアンラーニングを実現するためには、自分自身の常識や前提が本当に正しいのか、あるいは過去の成功体験が今も有効なのかを深く問い直す「批判的内省」が不可欠であると、松尾教授の研究においても明らかにされています。
– 過去の成功体験に基づくビジネス上の価値観の硬直化を防ぐために機能する。
– ツールの入れ替え等の「表層的」なものと、価値観を変える「中核的」なものがあり、後者には批判的内省が必須である。
アンラーニングはマインドの変化、リスキリングはスキルのアップデート
アンラーニングは、既存の知識やスキルを捨て、新しいものを学ぶことを指します。一方、リスキリングはアップデートするために必要な行動です。リスキリングとは、働き方の変化によって今後新たに発生する業務で役立つスキルや知識の習得を目的に、勉強してもらう取り組みのことです。現代は「第4次産業革命」に突入しており、人間に代わってAIが業務を担うケースが増えると言われています。
業務がAIに置き換えられると、その業務に携わっていた従業員たちは働く場を失ってしまう恐れがありますが、AIへの置き換えが進んでも、プログラムの設計や社内システムの管理といった新たな業務も出てくるでしょう。
とはいえ、スキルを習得していなければ上記のような業務をこなすことは困難です。リスキリングによってこれらの業務に関係するスキル・知識を習得しておけば、従業員は別の業務に就くことができます。アンラーニングとリスキリングは、変化に対応し、成長し続けるための重要な要素です。
国が推進するリスキリングとアンラーニングの相補関係
経済産業省や厚生労働省などの各省庁も、デジタル化やグリーン化といった社会構造の転換に対応するため、社会人の「リスキリング(学び直し)」を強く推進しています。しかし、新しいITスキルやデータ分析の手法を研修で提供したとしても、現場の従業員が「これまでのやり方で十分だ」「新しいシステムは仕事の邪魔になる」という古い価値観を抱えたままでは、教育投資は無駄に終わってしまいます。
つまり、リスキリングが新しいソフトウェア(スキル)のインストールだとすれば、アンラーニングは古いオペレーティングシステム(前提となる価値観)のアンインストール、あるいは初期化に近い概念と言えるでしょう。新しいスキルを吸収するための「心の余白(受け皿)」を作り出すのがアンラーニングの役割なのです。
関連用語との比較整理
読者の皆様が社内へ説明しやすいよう、関連する概念との違いと目的を以下の表に整理しました。
| 概念の名称 | 目的とアプローチ | 対象となる主な領域 |
| アンラーニング | 過去の成功体験や陳腐化した価値観を「手放し」、思考の枠組みを「変化」させること | 価値観、マインドセット、長年のルーティン、信念 |
| リスキリング | 新しい業務や技術(AIやDXなど)に適応するため、必要なスキルを「アップデート」すること | テクニカルスキル、デジタルリテラシー、新業務知識 |
| アップスキリング | 現在の業務をより高度に遂行するために、既存のスキルの専門性をさらに「深める」こと | 現在の担当業務における専門知識や高度な技術 |
このように、アンラーニングによって古い枠組みを手放すことで初めて、リスキリングによる新しい知識が組織に定着します。大企業の人事担当者としては、研修プログラムを企画する際、この両輪のバランスを意識した設計が求められます。
アンラーニングがビジネスで重要視される理由と背景
アンラーニングがビジネスで重要視されているのは、VUCA時代への突入という背景やコロナの影響で自立型人材育成の需要が拡大し、予測困難かつ不安定で変化が激しい時代になったからです。これまで常識ではなかったことが、今では一般的な価値観として受け入れられていることが多く存在します。今まで積み重ねられてきた技術や知識の習得だけでは太刀打ちできなくなってきている、といっても過言ではないでしょう。
パーソル総合研究所の調査から見る環境変化の波
パーソル総合研究所の調査データによれば、就業者がアンラーニングの必要性を感じ、実際に過去のやり方を手放すきっかけとして最も多かったのが「コロナ禍などビジネス環境の変化(23.2%)」です。この他にも、「職場メンバーの変更」や「自身のキャリアの振り返り」などが多岐にわたるきっかけとして挙げられています。想定外のパンデミックや急速なAIの普及といった外的要因が、これまでの成功方程式を強制的にリセットしたことが、導入が急がれる大きな要因となっています。
これは個人だけの問題ではありません。組織の中でも同じような問題が存在します。たとえば、組織風土、経路依存性、大企業病などの問題は行動レベルと価値観レベルが直結して硬直化しています。このような問題を解決するためにも、組織的なアンラーニングを行うことが重要です。
個人レベルでは、時代や価値観の変化により組織の在り方について疑問を感じることも多いでしょう。部署や部門はもちろんのこと、会社を越えて行う越境学習は、個人のアンラーニングにもつながります。
組織レベルでは、絶えず変化する時代の中で、価値観の再構築(リフレーム)や経営理念の再解釈が非常に重要です。経営理念を起点にした学習・アンラーニングを行うことにより、経営理念や価値観を基準として、企業活動を通じた体験や学習のサイクルなどを見直すことができます。成功や失敗、業績と成果の定義などの根本的なところから学習を重ね、経営理念の実現に向けて組織に変化を起こし続けることが可能です。
近年ビジネスは複雑化し、それに対応するためにはスピードが重要とされています。アンラーニングは組織風土や習慣などを前提レベルで学び直すことが重要です。しかし、組織レベルでのアプローチを同時並行しない場合は、効果がない場合もあります。
例えば、デジタル化に伴い、個人レベルのITリテラシーが必要不可欠であり、自分の仕事に必要となる技術を学ぶことも多いでしょう。しかし、個人のITリテラシーやIT技術レベルだけ向上して、業務効率やITツールは活用できても、IT技術やデジタルを活用したビジネスの思想や考え方も含めて学び直すアンラーニングを進めない限り、変化やイノベーションは起きません。また、リスキリングも併せて理解しておくことも大事です。
弊社独自調査が浮き彫りにするインターナルコミュニケーションの壁
組織的なアンラーニングを阻む要因として見逃せないのが、社内の情報伝達や対話の欠如です。弊社ソフィアの調査では、従業員数1,000人以上の企業に勤める623名を対象に、2025年に『フル_IC実態調査2025』を実施しました。この調査では、「インターナルコミュニケーションにおける課題と対策」や「社内コミュニケーション媒体の活用状況」など実態を深掘りしています。
弊社ソフィアの調査では、リモートワーク等の働き方の多様化により、従来の対面を前提とした情報共有や意思疎通の手法が見直しを迫られていることが判明しています。さらに、大企業特有の「組織の多層化」や「部門間の分断」によりナレッジが局所的に分散し、全社的な経営理念の再解釈やアンラーニングの波及が著しく滞っている実態が明らかになりました。1on1やエンゲージメントサーベイといった個別の施策が導入されていても、その運用にばらつきがあるため、組織全体の風土改革には直結していないのです。
アンラーニングを企業活動に取り入れるメリット
アンラーニングを取り入れる場合、個人レベルと組織レベルで取り入れ方が異なります。
個人で取り入れる場合の行動習慣レベルであれば、ITリテラシー教育や機械操作方法などが多いでしょう。思考価値観レベルであれば、「そもそも、何を大切にしているのか?」など自分の価値観に問いを立て、解像度を大きく下げて俯瞰してみると、見え方が変わってきます。前述した「営業は足が命」の例であれば、「そもそも、営業とは何か?」という振り返りを行うことが出発点となります。
組織で取り入れる場合の行動習慣レベルであれば、BPRやITリテラシー向上などが挙げられます。思考価値観レベルであれば、経営理念やパーパスなど組織の価値観に問いを立て、解像度を大きく下げて俯瞰してみましょう。業務や組織風土、組織習慣として染みついている行動も多いため、これらを俯瞰して見ることによりアンラーニングのポイントが見えてきます。
アンラーニングを取り入れることにより、従来の価値観を捨てて新しい知識を獲得し、現在の業務を異なる視点で見直したうえで業務に反映・活用できるようになり、企業・組織として成長し続けることが可能になります。今の時代に即した新しい着想の反映や適切な業務フロー改善を行える効果も望めるため、事業を伸ばしていくチャンスにもつながるのです。
業務効率化と非連続なイノベーションの創出
アンラーニングの最大のメリットは、業務プロセスの抜本的な見直しによる「業務効率の向上」です。長年続けてきた業務フローを「今までこうしてきたから」という理由で無批判に踏襲するのではなく、デジタルツールの活用やデータ駆動型の意思決定へと転換することで、属人的な判断や無駄な作業を排除できます。
また、非連続なイノベーションの創出にも直結します。世界最大の動画プラットフォームであるYouTubeは、創業当初は動画配信サービスではなく、動画を使った出会い系サイトとしてスタートしました。しかし、ユーザーの反応を見て最初のビジネスモデルを大胆にアンラーニングし、純粋な動画共有プラットフォームへとピボット(方向転換)したことで、世界的な大企業へと成長しました。このように、執着を手放すことが大きな飛躍を生む好例といえるでしょう。
従業員エンゲージメントの向上と採用コストの削減
企業が組織的にアンラーニングとリスキリングの機会を提供することは、従業員の「自律的な成長意欲」と「エンゲージメント(企業に対する理解・信頼感・貢献意欲)」を大きく高める効果があります。新しい環境や技術への適応を会社が積極的に支援してくれるという認識は、従業員の組織に対するロイヤルティを醸成します。
昨今、労働市場において優秀な人材の獲得競争は激化の一途をたどっています。既存の従業員がアンラーニングを経て新たなスキルを獲得し、変化に対応できる人材へと成長すれば、外部から多額のコストをかけて即戦力を採用する必要性が減少します。結果として、採用コストの削減と業績向上の両立という、企業にとって極めて大きなメリットをもたらすのです。
個人レベルのアンラーニング推進のポイント
現代の企業におけるアンラーニングで個人レベルに求められている要素は、次の2つです。
「既存の前提」を手放し、新たな知識や能力の習得
個人レベルにおいては、「既存の前提」を手放して、新たな知識や能力の習得を優先しましょう。従業員にアンラーニングの重要性を伝え、新しい知識や能力の習得を促進することが求められます。
予測不可能なことに対する肯定的なマインドへの転換
また、予測不可能なことに対する否定的なマインドは組織全体の士気を下げることにもつながりますので、仕事に対する価値観を認識し、肯定的なマインドへ変化させることが必要です。
具体的には、ダブルループラーニングといわれる、1970年代にアメリカの組織行動学者クリス・アージリスによって提唱された学習理論を用いて行うのが一般的です。ダブルループラーニングとは、既存の前提や習慣の枠組みでの学習を繰り返しながらも、さらに既存の前提や習慣の枠組みを超えて新たな思考の枠組みを加える学習プロセスのことをいいます。
経験学習モデルにおけるアンラーニングの必然性
個人の学び直しを理解する上で、デイヴィッド・コルブが提唱した「経験学習モデル」が非常に重要な理論的枠組みとなります。このモデルは、人が経験を通じて成長するプロセスを以下の4つのサイクルで説明しています。
| 経験学習の4ステップ | 具体的なプロセス | アンラーニングとの関連 |
| 1. 具体的経験 | 未知の業務や課題に直面し、自らの意思で行動を起こす | 指示待ちではなく、自ら手探りで行動することが出発点 |
| 2. 内省的反省 | その行動の結果(成功・失敗)を客観的かつ多角的に振り返る | なぜうまくいったのか、なぜ失敗したのかを深く問う |
| 3. 概念化・抽象化 | 振り返りから得られた法則やルールを抽出し、持論とする | ここで過去の教訓をアンラーニングする必要がある |
| 4. 能動的実験 | 新たに構築した仮説を、別の業務や新しい状況で実際に試す | 過去の習慣に縛られず、即座に新しい行動に移す |
松尾睦教授は、このサイクルの中で特に「概念化・抽象化」のフェーズにおいてアンラーニングが決定的な役割を果たすと指摘しています。人間は一度成功体験を得ると、その時に得た法則に固執してしまいます。過去の法則を握りしめたままでは、新しい経験から新しい教訓を引き出すスペースがありません。したがって、過去の教訓の適用を一度停止し手放すこと(=アンラーニング)が、継続的な成長サイクルの心臓部となるのです。
さらに、松尾教授が日米のデータを用いて実証した研究では、自己変革スキル(Personal Growth Initiative)が高い従業員ほどアンラーニングが円滑に進み、結果として仕事への活力であるワーク・エンゲージメントが有意に高まることが証明されています。つまり、アンラーニングは個人のキャリアを前向きに押し上げる強力な原動力といえるでしょう。
アンラーニングを進めるための3ステップ
組織内で個人のアンラーニングを偶発的なものに終わらせず、意図的に引き起こすためには、体系的なステップを踏むことが効果的です。以下は、組織として支援すべき具体的な3つのステップです。
– ステップ1:内省を促す(気づき)
従業員に対して、日々の業務の成功と失敗の記録を促し、無意識に縛られている思い込みを言語化させます。この際、弱みの克服だけでなく、「自分のどのような強みが過去の成功をもたらしたか」も同時に振り返らせることで、心理的負担を和らげます。
– ステップ2:選択をする(取捨選択)
時代に合わない価値観に気づいたら、何を残し何を手放すかを選択させます。人間は自己評価が甘くなりがちなため、このステップでは上司や同僚からの客観的なフィードバックが不可欠です。
– ステップ3:学びの場を設ける(実践と対話)
1on1ミーティングなどを通じて、「なぜそのやり方にこだわるのか」「他にどのようなアプローチがあるか」といった批判的内省を促す問いを投げかけます。組織として新たな知識をインプットする研修等の場を提供し、新しいやり方を試す環境を整えます。
これらのステップを踏まえた上で、次は組織レベルで推進する際の不可欠なポイントと注意点を見ていきましょう。
組織レベルのアンラーニング推進に不可欠なポイント
現代の企業におけるアンラーニングで組織レベルに求められている要素を、一つずつ解説していきます。
従業員のモチベーション低下に留意する
アンラーニングの導入によって、長年慣れ親しんできた仕事の信念やスタイルを変えることには、多かれ少なかれ心理的な抵抗感が伴います。「今まで自分が学んできたことを否定されるのでは」といった不安や恐れから従業員のモチベーションが著しく低下することもあるでしょう。また、やり方を変えた結果として一時的にパフォーマンスが低下することもしばしばあります。アンラーニングはあくまでも自己否定ではなく、成長のための見直し・検証の機会であると位置付けることが重要になります。
新しい業務プロセスへ移行する際、一時的に生産性が落ちる現象は不可避であり、これを許容する姿勢が経営層には求められます。すぐに「元のやり方のほうが早かった」と後戻りしてしまうと、変化への適応は永久に完了しません。
必ずチーム単位で行う
アンラーニングに取り組む場合には、必ずチームあるいは組織単位で行うことを心がけましょう。誰か一人が仕事の進め方・やり方を何の予告もなく変えてしまうと、周囲に迷惑が掛かるのは自明の理です。
また、アンラーニングは個人の弱みと向き合わなければならないため、痛みが伴います。誰かと共にアンラーニングを行うことで痛みも軽減されるでしょう。
アンラーニングに取り組む際は、すべてを変えようとするのではなく、有効性が下がってきた仕事を優先的に切り出し、課題意識を共有することも重要です。そのためにも、まずは業務の優先順位や重要度を整理することから着手していきましょう。
認知と内省
アンラーニングを行うには、従業員のマインドセットが重要となります。まずは個人レベルで行動する前の「認知」と、行動した後の「内省(リフレクション)」の作業を行い、仕事に対する自分の考え方ややり方を見つめ直すと良いでしょう。
一例として、内省するにあたっては、日々の業務において成功したことや失敗したこと、その理由を記録するというのも有効な手法となります。「時代に合わないやり方をしていないか」、「これまで続けてきたことは今後も価値があるか」などと考えながら書き込んでいくうちに、新たな気づきを得ることもあるでしょう。それと同時に、内省を繰り返していく過程で自分がどうしても譲れない信念を再認識できることもあります。
リフレクションと反省の混同への注意
アンラーニングの過程で経験や知識を取捨選択していくと、「自分の知識はこんなにも時代とマッチしていなかったのか」と反省したり落ち込んでしまったりする従業員が出てくることもあります。しかし、アンラーニングに際して行う内省は、個人を責めることではなく、客観的に自分を見つめ直すことです。あくまでも、新しく学んだ知識を習得する受け皿を作る取り組みであると位置付けるようにしましょう。
特に、過去の知識が現在の状況に合わないと認識した瞬間、強い自己否定に陥る危険性があります。内省の目的は犯人探しではなく、「過去の成功をもたらした自身の長所を、新しい環境にどう適応させるか」というポジティブな視点を見出すことにある、とマネジメント層が粘り強く伝える必要があります。
他部署・異業種との交流促進
他部署や異業種、幅広い年代の人との交流を図ることも、推奨したい取り組みです。新たな価値観に触れたり刺激を受けたりすることでアンラーニングが進みやすくなります。また、自分自身を客観視することで、何を捨てるべきか、何を新たに取り入れるべきかがより明確になる点も、他部署・異業種との交流による大きなメリットといえるでしょう。
知識や経験の取捨選択の意識
アンラーニングは、これまでの知識や経験をすべて捨て去ることではありません。残すべき、そしてアップデートすべき知識や経験を取捨選択することがポイントとなります。大切なのは、アンラーニングによって視界を広げるとともに、今後何がより重要になっていくかを捉えて身につけていくことです。そのサイクルの中で、「新たな価値観をより多く知りたい」という知的好奇心が開花する状態を目指しましょう。
ラーニングを否定しない姿勢
個人や組織が成長するにはアンラーニングだけでなく、ラーニングも欠かせません。時代に合わせて知識を捨てることにばかり目が向いてしまうと、知識をインプットするラーニングに疑問を抱いてしまいがちです。しかし、学習したものに価値があるかどうかは、実際に行動して初めてわかるものです。従業員がラーニングし続ける姿勢を保てるよう、組織として配慮する必要があります。
専門家こそ学習を継続する
経営層やマネジメント層が注意すべきは、役職に甘んじて学習を放棄しないことです。自社に長く属し物事に精通している人、熟練した技術者など、ある程度の知識や技術を習得して「専門性を高めた」という人こそ、学習を放棄せずアンラーニングを行うことが重要です。
専門家であっても学習を放棄しない
パーソル総合研究所の調査において、非常に示唆に富むデータが示されています。役職滞留年数とアンラーニングの実施割合の関係を見ると、役職に就いて「3ヶ月〜半年未満」でアンラーニングのピークに達しますが、その後は年数を経るごとに顕著に減少していく傾向が確認されています。さらに、高齢層や特定の年代においては、「意思決定のプロセスや方法」「顧客のニーズについての考え方」など、組織の根幹に関わる中核的なアンラーニングが行われていない傾向が強いことも指摘されています。
従業員がアンラーニングを通して変化に強く時代に即した人材になったとしても、会社の方向性を決める経営層やマネジメント層が変化に適応できなければ、柔軟な判断ができず会社としての意味をなしません。
専門性が縦軸だとすれば、アンラーニングは横軸です。専門性ばかりを高めても、固定観念化したり知識に固執したりすれば、逆効果になります。時代の変化により、一昔前の知識は役に立たなかったり、専門的な一部の作業が機械化されたりしていることも多々あります。そのような状況に臨機応変に対応するためにも、専門家であっても学習を放棄しないようにしましょう。メタな視点で自分の行動や学習を俯瞰し、価値観レベルで検討してみることも重要です。そのような行動を取ることで、自身の専門性を他の専門領域に活用できるかという視点が生まれます。
学習をベースにした企業運営
多くのビジネスパーソンにとって、意思決定する際の価値基準や判断のよりどころとなっている評価軸は経済合理性、つまり損得勘定である場合がほとんどでしょう。働くという時間を損得勘定で判断してしまうと、学びは後回しにされ目の前の業務に没頭するだけの日々を過ごすことになります。企業規模で考えた場合でも同じです。企業利益を重視した考え方をベースにしていてはアンラーニングは進みません。企業全体として、未来を見据えて今何を取り入れるべきか、学ぶべきかを判断する必要があります。
アンラーニングしやすい環境や仕組みの整え方
人事担当者やマネジメント層は、より良い人材育成を目指してアンラーニングを会社全体で必要と認識しているのであれば、下記の環境や仕組みが重要です。
コミュニケーション基盤の再整備
環境づくりの大前提として、従業員同士が率直に意見を言い合えるコミュニケーションの土壌が不可欠です。弊社ソフィアの調査では、1on1などのマネジメントコミュニケーションや、社内イベント・雑談といった非公式なコミュニケーションの運用に課題を抱える大企業が非常に多いことがわかっています(『フル_IC実態調査2025』より)。アンラーニングは個人の価値観を揺さぶる作業であるため、安全な対話の場がなければ従業員は防御姿勢に入ってしまいます。まずは情報の透明性を高め、インターナルコミュニケーションを活性化する戦略を整えることが先決です。
実践の場づくり
学びを実際の業務に反映することで、学習の効果がより期待できます。学びをより深く理解するためにはアウトプットの場を用意する必要があります。ワークショップや演習など、たとえ小規模なアウトプットの場でも、実践の機会を得ることで学びの定着は格段に変わります。受け身の学習ではなく、アクティブな学習環境がアンラーニングにおいて重要です。
学びを評価・表彰する仕組みづくり
ときには、学びを評価・表彰する制度やテスト、コンペなどで競い合うことも必要です。横並びにするのではなく競争することで、競争心が成長へと導いてくれるでしょう。
クリティカルシンキングによる異論・反論の受容
クリティカルシンキングとは「物事の前提の正誤を検証したのち、その事象の本質を見極めていくこと」をいいます。自分自身が学んだことを整理したうえで、今後のビジネスにおいて必要かどうかを考え整理する時間をつくることも大切です。学んだことを単にアウトプットするだけでなく、現在の会社でどのように活かせるのかを考えて実践するまでがアンラーニングの一部といえます。
リベラルアーツの視点の取り込み
多様化する社会の中で、他者を尊重しながら自分の意見や立場を明確にし、他者を排除したり否定したりせずに共存していく姿勢を養う学問がリベラルアーツです。「人文科学」「自然科学」「社会科学」「哲学」「倫理」「心理学」など広範な分野を学ぶことにより、新たな組み合わせに気づき、それを商品化する道筋をつけやすくすることができます。変化が激しいうえにAIが普及し、機械的・事務的な作業が自動化されていく現代のビジネスの世界において、人間が担う業務の領域は創造性が問われるものへと舵を切ることは避けられません。将来のビジネスパーソンに求められるのは、問題の設定や問いの立て方、アイデアの発想力など、創造性を活かす能力です。AIを含むテクノロジーと人間が共存するためにも、リベラルアーツを学んでおくことは有用でしょう。
越境学習の実践
越境学習とは、普段働いている会社や職場、または部署から離れて、一定期間違う環境で働くことです。社外留学、他社留学などの言葉で表現されることもあります。具体的には、ワークショップに参加したり、ビジネススクールや社会人大学院に通ったり、ボランティア活動に参加することなどが挙げられます。平たく言うと、所属している企業や組織から一定期間離れ、越境先で得た新しい経験や体験を企業や業務に還元することです。
越境学習において、越境者は最初「希少性の高いお客様」状態になることは避けられません。そこから自分を環境に定着させていくことで、ようやく学習がスタートします。本格的に学びが始まると、その時点で従来培ってきたスキルや価値観、過去の実績は使い物にならなくなります。大事にしていた信念が揺らぎ、自分を正当化するために既存の価値観を越境先に押し付けたくなるかもしれません。自己否定に似た、心理的な抵抗と向き合う必要も出てくるでしょう。この経験こそがアンラーニングそのものなのです。越境先についてひとつずつ理解を高めていき、成果を急ぎすぎずにじっくり学んでいきましょう。新入社員のように振舞うイメージを持つとやりやすいかもしれません。
まとめ
変化していく環境に対し柔軟な対策を取るためのアンラーニングの必要性を解説してきました。アンラーニングをビジネスで活用するには、組織風土や仕組みづくりがカギとなります。組織風土改革や仕組みづくりを行うためには、組織内のコミュニケーションを活性化させなければなりません。
弊社ソフィアの調査結果にも表れている通り、リモートワークや働き方の多様化により、企業内のコミュニケーションはますます複雑化・多層化しています(『フル_IC実態調査2025』より)。アンラーニングという難易度の高い変革を全社に浸透させるためには、ツールの導入や制度の変更にとどまらず、従業員が互いの「前提」を言語化し、対話を通じて新しい価値観を共創していくプロセスが不可欠です。
組織マネジメントを支援しているソフィアでは、インターナルコミュニケーションの活性化や組織変革人材育成などにおいて多くのお客様企業をサポートしてきた実績があります。自社のアンラーニングを進めていきたいとお考えの方は、ぜひご相談ください。

















