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​​越境学習とは?ビジネスシーンで注目される背景やメリット、プロセス手法を解説

最終更新日:2026.03.10

#ラーニングデザイン#組織開発

越境学習とは

目次

近年のビジネスシーンで、人材育成の新たな潮流として「越境学習」というキーワードが急速に注目を集めています。皆様の組織では、「社員が指示待ちで自律的に動かない」「新規事業のアイデアが出てこない」「組織間の壁が厚くコミュニケーションが停滞している」といった課題を抱えていないでしょうか。これらは、組織が同質化し、内向きの論理に閉じてしまっていることの弊害かもしれません。

近年のビジネスシーンで注目を集めている「越境学習」についてご存知でしょうか。越境学習とは、普段働いている会社や職場、または部署から離れ、環境を変えることで学びを深める行為です。

従来の研修が「既存の正解を効率よく学ぶ(知識のインストール)」を目的としていたのに対し、越境学習は「正解のない問いに向き合い、自らのOS(価値観)を書き換える」プロセスを重視します。本記事では、越境学習がなぜ今、多くの企業で必要とされているのか、その背景やメリット、代表的な手法について、学術的な知見や最新のトレンドを交えて徹底的に解説します。また、越境学習を行う際の具体的なプロセスもご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

越境学習とは

越境学習の定義と本質

越境学習とは、普段働いている会社や職場、または部署から離れて、一定期間違う環境で働くことです。社外留学、他社留学などの言葉で表現されることもあります。

ここで重要なのは、単に物理的な場所を変えることだけが「越境」ではないという点です。心理的な「アウェイ(完全なる他者としての環境)」に身を置くことが本質だと言えるでしょう。慣れ親しんだ自社の肩書きや共通言語が通じない場所で、一人の人間として何ができるかを問われる経験こそが、越境学習の核となります。

具体的には、ワークショップに参加したり、ビジネススクールや社会人大学院に通ったり、ボランティア活動に参加することなどが挙げられます。平たく言えば、所属している企業や組織から一定期間離れ、越境先で得た新しい経験や体験を企業や業務に還元することです。

「転職」や「出向」との決定的な違い

越境学習を人事制度として設計する際、しばしば「転職」や従来の「出向」と混同されることがあります。しかし、その目的とプロセスには明確な違いがあります。

最大の違いは「還流(リターン)」の有無です。元々所属していた企業や組織に戻らなければ、それは転職になります。逆に言えば、転職先で活躍できないということは、過去に越境学習ができなかったとも言い換えられるでしょう。越境学習は、異境で得た知見やネットワーク、そして変化した自分自身を、元の組織(ホーム)に持ち帰り、組織全体に波及させることをゴールとしています。

また、従来の「出向」の多くは、グループ会社間の人事調整やポスト不足の解消、あるいは親会社から子会社への技術指導といった「業務命令による配置転換」の色合いが濃いものでした。それに対して、越境学習は「学習」を主目的とし、本人の「自律的な意思」に基づいて行われる点、そして全く異なるカルチャー(異質の知)に触れる点に特徴があります。

いつもの居場所と新しい環境を見比べることで、自分の知識やスキルへの評価が変わったり、物事を見る視点が変わって自分に足りない部分が見えてきたりします。越境学習を行うことで、同じ環境に留まるだけでは気づけない視点や見えてこない問題点が明確になり、新しい学びへとつながっていくでしょう。

越境学習がビジネスシーンで注目されている背景

ここまで越境学習の定義と本質について整理してきました。では、環境を変えることで新しい学びを得ることに期待ができる越境学習が、なぜ現代社会における企業に必要とされているのでしょうか。ここでは、越境学習が昨今のビジネスシーンで注目されている背景について解説します。

VUCA時代で活躍する社員の育成とイノベーション

現代社会は「VUCAの時代」と呼ばれ、変化が激しく不確実性の高い世の中になっています。VUCAとは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った名称で、ビジネスにおいて明日を読むのが難しい状況を指しています。現状の技術や能力だけでは対処できないことが増加し、不安定な状況に置かれる企業も多いでしょう。

高度経済成長期のように「正解」が決まっていた時代には、上司や先輩の真似をしてスキルを磨く「垂直的な熟達」が有効でした。しかし、市場環境が激変する現在、過去の成功体験が逆に足かせとなるケースが増えています。既存の事業ドメインの延長線上にはない、非連続な成長が求められているのです。

そのような中、外部の有識者やコンサルに助けを求めて問題を解決するケースも増えています。しかしながら、外部に依頼できるのは基本的には技術的な対処です。そもそも持っている組織の能力や感性レベルを広げて、物事への視点を根本的に変更したいような場合には、まずは従業員の成長が不可欠な要素になってきます。

別の角度から言えば、経営学者のシュンペーターが定義したように、イノベーションとは「新結合」であり、一見関係のない異質な知と知の組み合わせから生まれるものです。しかし、組織は長く存続すればするほど同質化し、「知の深化(既存事業の深掘り)」に偏る傾向があります。このままでは「知の探索(新しい可能性の模索)」がおろそかになり、イノベーションが枯渇してしまいます。

ここで重要になるのが、自分の元々の属性を維持しながら、越境”体験”だけではなく、越境先で身一つで成果を上げることが越境学習であるという点です。単なる見学や視察ではなく、アウェイの環境で「成果」を問われる当事者となることで初めて、真剣勝負の「知の獲得」が可能になります。

越境学習を行えば、今所属する企業の強みや弱みを距離を置くことで実感しながら、越境先である別の組織において成果を上げることで、双方の境界にある共通要素を体感的に発見できます。一定期間、越境地に身を置くことによる体感的な学習です。越境学習で得た体験や学び、経験を自社に落とし込むことによって、イノベーションにも期待ができるでしょう。越境先で新たな学びを得た人材が増えることで、これまでにないアイデアが生まれやすくなるのです。

従業員のキャリアを進め自律を保持するため

もう一つの大きな背景は、個人のキャリア観の変化と「人的資本経営」の流れです。組織にとってはもちろんのこと、従業員自身のキャリアにとっても越境学習は重要だと言えます。普段とは違う環境に身を置くことで、自社にいた時には気づかなかった自身の強みややりたいことが見えてくるためです。耳で聞いて学ぶのではなく、感性をフルに駆使して一定期間リアルな経験として学ぶことで、従来の感覚が変わっていくのを体感できるでしょう。一度転職をしてから元々の企業に戻る「出戻り」にも、同じような効果があります。

終身雇用制が崩壊しつつある昨今、従業員は自分で自らのキャリアを切り開いていく必要があります。会社の中で学べることや経験できることに限りがある場合、越境学習によって自分のスキルや価値観の範囲を広げることが、キャリア自律のためには有効です。

人生100年時代と言われる中、企業は従業員に対して「一生面倒を見る」ことが難しくなっています。その代わりに従業員に提供できる価値は「どこでも通用する市場価値(エンプロイアビリティ)を高める機会」ではないでしょうか。経済産業省も「未来の教室」プロジェクトなどでリカレント教育や越境学習を推奨しており、自律的なキャリア形成(キャリア・オーナーシップ)を持つ人材こそが、結果として組織に貢献するという考え方が広まっています。

また、越境学習と言ってもその内容は幅広く、広義の意味では仕事をする場所を変える場合も、別業界で別業態であるほぼ転職と言えるようなケースも越境です。つまりは、小さな越境から始めることも十分できます。日本の文部科学省の事業などでは、高校生が地域企業にインターンシップに参加しながら、就職を促進しています。少しずつ越境することも状況に合わせて進めることが重要です。

さらに、越境学習は「若手だけのもの」ではありません。越境学習に挑戦するのに、年齢は関係ありません。現代社会は少子高齢化が進み、人材採用が難しくなっている側面もあるので、中高年層にこそ学びを深めてもらい、さらなる活躍の後押しをしたいところです。特にミドル・シニア層にとって、役職定年などでモチベーションが低下しやすい時期に越境学習を取り入れることは、セカンドキャリアを見据えた再活性化(リスキリング)の絶好の機会となるでしょう。

社内で越境学習を推進するメリット

ここまで越境学習が注目される背景を見てきました。では、実際に企業が越境学習を推進することで、どのようなメリットが得られるのでしょうか。越境学習を推進するのには一定のコストがかかるものですが、それでも企業が越境学習を進めるのには確かな理由があります。ここでは、考えられる利点を3つご紹介します。

イノベーションとコラボレーションの創出

まずはイノベーションの創出です。多くの企業では、長い間続いてきた慣習や既存の考え方が存在します。こうした中で越境学習を導入することで、社員たちは新しい視点を得ることができます。これによって、新しいアイデアや製品の創出がしやすくなり、イノベーションが促進される可能性が高まるでしょう。越境学習によって、新しいサービスやこれまでにない商品のアイデアが出てくるかもしれません。

これは経営学における「バウンダリー・スパニング(境界連結)」の効果です。噛み砕いて言えば、越境者は、自社と他社の境界を行き来することで、双方の言語や文脈を翻訳し、新しい結合を生み出す触媒となるのです。同質性の高い組織内部だけで議論していても、画期的なアイデアは生まれにくいのが現実ですが、越境者が外部の「異質な情報」を持ち込むことで、組織内の議論が活性化されます。

越境学習は、具体的な協力関係の構築にも役立ちます。越境学習を通じて、提携や資本提携などの可能性も考えられるでしょう。ただし、越境学習の際に、越境者が従業員の立場で学ぶことが重要です。そうでない場合、学習やイノベーション、協力の創出が難しいことに留意しましょう。単なる「お客様」としての訪問ではなく、共に汗を流す仲間として信頼関係を築くからこそ、本質的なアライアンスの芽が生まれるのです。

従業員のキャリアの確立とリーダーシップ開発

続いて、従業員のキャリア自律についてです。越境学習によって、自分の強みが明確にわかると、今後のビジョンもはっきりしてきます。キャリア自律し、自分でスキルアップを目指す前向きな姿勢が養われるのです。このような人材は企業にとって、将来会社を支えるリーダー候補になるでしょう。越境学習は長期的に見て、会社の幅を広げながら組織を強化することにつながるわけです。

視点を変えれば、特に大手企業においては、分業化が進みすぎて「仕事の全体像」が見えにくくなっているケースが多々あります。ベンチャー企業やNPOといったリソースの限られた環境に越境することで、従業員は「経営者視点」や「当事者意識」を否応なしに身につけることになります。これは座学の研修では得難い、強烈なリーダーシップ開発の機会となるでしょう。

越境学習では、自分の通常の場所や組織を離れ、一時的に頼ることができなくなる感覚を経験し、この状況から、自己を見つめ直す機会が生まれます。つまり、自分のスキルや興味、過去の経験などを振り返り、考えることが必要となるのです。同じ組織に所属し続けていると、こうした自己評価や内省の機会が得られないことがあります。

組織や集団の枠が広がる(インターナルコミュニケーションの活性化)

最後に、組織や集団の枠の拡大です。越境者が増えることで、多様性が広がっていきます。転職してきた従業員が多い組織と、似たような状態になるとイメージしていただくとわかりやすいでしょう。イノベーションの種が増えることでアイデアの幅が広がり、問題解決における選択肢が増えていきます。

ここで、組織内のコミュニケーション課題に目を向けてみましょう。あなたの職場では、部門間の壁や情報共有の停滞を感じることはありませんか。

弊社ソフィアの調査では、多くの企業が部門間の壁や情報共有の停滞、トップダウンの一方通行な伝達といった「インターナルコミュニケーションの不全」に課題を感じている傾向が見受けられます。組織が大きくなればなるほど「タコツボ化」が進み、隣の部署が何をしているかわからない、現場の意見が経営層に届かないといった閉塞感が漂いがちです。

越境学習は、こうした組織の硬直化に風穴を開ける施策として有効です。外部の風を持ち帰る越境者がハブとなり、硬直化した社内コミュニケーションに新たな文脈や刺激を与えることで、組織全体の風通しを良くし、心理的安全性を高める効果も期待されます。

企業に所属し、熟練するプロセスは必要です。しかしこれはルールが一定という条件が満たされている場合に限ります。ルールや枠組みに変更があった場合には、過去の杵柄は使えなくなります。そしてルール変更が頻繁になると、熟達化はその途中で中断され、最初の段階に引き戻されるというダッチロール的な運動を繰り返します。換言すれば、垂直的な熟達の学習が効果的な人材育成と結びつくには、長い時間かけて獲得した経験知を持続的に活用できる安定した環境が求められるのです。

一方で、越境学習は水平的で、探索的です。変化の激しい環境では、垂直的学習に固執することがかえって新たな状況への適応を妨げることになります。新たな枠組みを探っていくための動きとしては、水平的学習が位置付けられるでしょう。

組織という形態をとることは、そもそも安定を目的としており、所属している社員は同質的になり、風土や文化に染まることは自明の理です。また、企業は価値を生み出すために多様性を必要としますが、これは計画的にできるようなものではありません。しかし、越境学習は計画的ではないながらも、具体的でインパクトのあるアプローチであることは間違いないでしょう。

越境学習のプロセスと越境者の葛藤:なぜ「アンラーニング」が必要なのか

ここまでは、越境学習の良い側面を見てきました。しかし、越境学習はEラーニングなどと比べると一人あたりのコストがかかり、自社にとって安定的なパフォーマンスは約束されていないためにコストだけがかさんでしまう場合もあります。ただ、その対価に見合うだけの収穫が企業側にも越境者にも越境先にもあります。以下では、越境学習を進める際のプロセスと効果を最大限に活かすポイント、そこにつきまとう越境者の葛藤について整理していきます。

越境学習は楽しいだけの体験ではありません。むしろ、痛みを伴う自己変革のプロセスです。このメカニズムを理解しておくことが、人事担当者にとっても参加者にとっても極めて重要だと言えるでしょう。

越境学習のプロセス:初期の無力感とリアリティ・ショック

越境学習では多くの場合、無作為に越境先を決めるのではなく、何かしらのテーマに基づいてどこに行くのかを選んでいきます。越境先にいる人たちも、同じテーマを受けて、相手を受け入れる準備をしていくことになるでしょう。

ただし越境先に身を置いた瞬間に学習できたり、何かが変化したりするわけではありません。越境先である受け入れ先にいる人たちと同じような成果を出せるケースは稀なので、いきなり活躍しにくい状況の中で努力を続けていく必要が生じます。具体的には、一時的な自分の希少性の高さや、もともと居た場所で培った杵柄で成果を出すというのが初期段階でしょう。

この段階で、多くの越境者は「自分はここでは役に立たないのではないか」という無力感(リアリティ・ショック)に襲われます。自社では当たり前に通じた肩書きや社内用語、根回しのスキルが一切通用しないからです。しかし、この「役に立たない自分」に直面することこそが、学習のスタートラインなのです。

越境学習は「学習」なので、受け入れ先で高い成果を出すことよりも、まず自分を規定し直すことが大切です。既存の場所と考え方や価値観が大きく違う場所に身を置くことで違和感を抱くこともあるかもしれませんが、差異を許容できなければ活躍することはできません。この段階は自分のスキルやマインドと、越境先におけるスキルやマインドの差から見つけた自分の能力によって、新しい価値を生み出していくプロセスなのです。

ここに着目できずに、ただ過去の杵柄を使おうとすれば、じきに、もともと居た場所や所属企業に帰りたいと思うでしょう。越境学習では、越境場所でしっかり立ち止まって、自分自身を振り返りながら学習できるかが最初の壁となります。

越境学習から生まれるアンラーニングと心理的抵抗

越境学習の核心は「アンラーニング(学習棄却)」にあります。これは単に忘れることではなく、環境の変化に合わせて、古い知識や行動様式を捨て、新しいものに入れ替えるプロセスです。

越境学習において、越境者は最初「希少性の高いお客様」状態になることは避けられません。そこから自分を環境に定着させていくことで、ようやく学習がスタートします。本格的に学びが始まるとその時点で、従来培ってきたスキルや価値観、過去の実績は使い物にならなくなります。大事にしていた信念が揺らぎ、自分を正当化するために既存の価値観を越境先に押し付けたくなるかもしれません。自己否定に似た、心理的な抵抗と向き合う必要も出てくるでしょう。

たとえば、大手企業の緻密な計画主義で成功してきた人が、スピード重視のベンチャー企業に行くと、「計画を立てている暇があったら動け」と言われ、自分の強みが否定されたように感じます。しかし、そこで「前の会社ではこうだった」と反発せず、一度その価値観を受け入れられるかが分水嶺となります。

それでも、越境先についてひとつずつ理解を高めていき、成果を急ぎすぎずにじっくり学んでいきましょう。新入社員のように振る舞うイメージを持つとやりやすいかもしれません。自分の価値観を一旦崩す経験は「アンラーニング」と呼ばれ、近年注目を集めています。

数学者の岡潔は、文芸評論家の小林秀雄との対談集『人間の建設』の中で、「既存の認識解釈というのは、知っているものから、順々に知らないものに及ぶという流れしかできない。しかし知らないものを知るには、飛躍的にしかわからない。つまり、知るためには捨てよとは非常に正しい言い方である。」という旨のことを述べています。最初は少々苦しいかもしれませんが、知らないことをありのままに質問して、従来の知識を崩しながら進んでいく必要があるのです。

越境先でアウトプットすることの重要性

アンラーニングを経た後、次は「リラーニング(再学習)」とアウトプットのフェーズに入ります。アウェイの流儀を理解した上で、そこに自分の独自性(ホームで培った本質的な強み)を掛け合わせていくのです。

越境先では、アウトプットすることが重要です。もちろん初めは新入社員のような状態なので、アウトプットにハードルを感じることもあるでしょう。そもそも、評価されるアウトプットの定義自体が既存の環境とは違う可能性があり、何をしたらいいのか迷ってしまうことも考えられます。

それでも、資料作りなどの小さなところから、やったことのない業務や枠組みに取り組んでいきましょう。多くの場合これでは自分の過去のキャリアが活かせていない、一貫性がないと不安になるものですが、それはまだ既存の価値観から抜け切れていない証拠と言えます。自社で求められていた成果に捉われず、越境先ならではの評価や結果を得るために行動することが大切です。

海外駐在に失敗したり、地方創生に失敗したり、鳴り物入りで入社した中途社員がうまく馴染まなかったりする多くのケースにおいては、越境者側が既存の価値観に縛られていることに多くの要因があります。必ずしも既存の価値観を捨てるのではなく、一旦横に置いておくことが重要であり、越境先を批判することよりも、まずは越境先をよく知り、よく理解することが先です。

この段階を超えると、既存先でも越境先でも活用できるスキルや考え方が手に入ります。場合によっては、自分のライフワークにつながるものになるかもしれません。既存と越境地、双方の環境を組み合わせることで、独自性のあるスキルや考え方を構築できるでしょう。

軽々と越境する越境者になるために

転々と越境することで、越境学習の効果を深めることができます。では、動き回れる理想的な「越境者」になるには、どのような心構えを持つといいのでしょうか。

企業はデメリットよりもメリットの方が多い

越境学習は、学びにおける属人性が高いので、コストがかかります。企業が頭を悩ませる部分であり、しかも転職と似ている行為なので、離職のきっかけになりかねないのも企業にとってはデメリットでしょう。

しかしながら、越境学習を経て戻ってくると、社員は独自性や専門性を従来よりも発揮し自社に貢献してくれるでしょう。企業にとって一定のデメリットはありつつも、メリットのほうが多いのが越境学習なのです。社内に越境者が増えていくと、対話の中で思わぬ化学反応が生まれることも考えられます。

実際に、多くの先進企業では「出戻り(アルムナイ採用)」を歓迎する制度を整え始めています。一度外の世界を見た人材が、再び自社を選んで戻ってくる場合、そのロイヤリティとパフォーマンスは非常に高いことが知られています。言い換えれば、越境学習は、この「出戻り効果」を雇用契約を維持したまま擬似的に作り出す仕組みとも言えるでしょう。

個人は独自性を保てる

越境することで、これまで自信だと思っていたものが崩れたり、信念を批判されたりすることもあります。いわゆるアンラーニングの過程は、決して気持ちのいいものではないでしょう。それでも、もし自分自身の独自性を保ち、自分の存在に確信を保ちたいのであれば、飄々と越境を繰り返す姿勢が大切です。目の前の辛さよりも、長い目で見る自分の将来性に重きを置くことで、道は開けていきます。

小さな越境から大きな越境へ

越境学習というと大げさに捉えられがちですが、越境はそこかしこにあるものです。これまでの考え方や信念、スキルが通用しない場所に出向けば、どんな規模でも越境になります。まずは気負わずに第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

とくに、テレワークやプロボノ、兼業のように、現在の能力やスキルのまま取り組めるものであれば、心理的なハードルも低いはずです。小さな越境でもたくさんの気づきを得られるものなのです。越境したら、五感をフルに使ってあれこれ考えることで、自分の糧にしていきましょう。

越境学習の代表的な体験的手法と選び方

ここまで越境学習のメリットやプロセス、心構えについて見てきました。では、越境学習を実際に経験したい場合、どのような選択肢があるのでしょうか。よくある例に従って、ご紹介していきます。人事担当者は、自社の課題(リーダー育成、シニア活性化、イノベーション等)に合わせて最適な手法を選択する必要があるでしょう。

プロボノ(Pro Bono)

プロボノとは、「pro bono publico」の略語で、公共善のためにという意味を持ちます。自分が培ってきたスキルや知見を活かし、地域活動や社会貢献を行うことです。

たとえば、地域おこしのために広報の仕事で培った知見を提供したり、子育て支援に関するHPを作るためにプログラミングスキルを提供したりするというイメージです。自分のスキルをいつもとは違う角度で活かすことができ、自分の隠れたモチベーションに気づいたり、普段の仕事への視点が変わる経験ができるでしょう。

【適した目的】:従業員の「働きがい」再発見、シニア層のセカンドキャリア準備、企業のCSR/ブランディング向上。

【特徴】:業務時間外に行うケースが多く、本業への負担調整が必要ですが、コストは比較的低く抑えられます。

ワーケーション(地域課題解決型)

ワーケーションはワークとバケーションを掛け合わせた言葉で、観光地などでリモートワークを行うことを指します。仕事内容が同じでも環境を大きく変えることで、いつもとは違う視点を持つことができるかもしれません。また、観光地ならではの業務に取り組めることもあるでしょう。最近ではリモートワークが浸透し、ワーケーションを積極的に支援する会社が増えています。

近年では、単なるリフレッシュ目的ではなく、地方自治体や現地企業と連携し、地域課題の解決に取り組む「研修型ワーケーション」が増えています。

【適した目的】:チームビルディング、創造性の刺激、地方創生への貢献。

【特徴】:短期間(数日〜1週間)で実施可能。JMAMなどの提供するプログラムでは、地域住民との対話を通じて「本質的な価値」を問い直す経験がデザインされています。

ビジネススクール・社会人大学院(リカレント教育)

ビジネススクールとは、テーマに特化した学習を行う社会人に向けた講座のことです。伸ばしたいスキルに沿ったテーマの講座を受講することでその分野の知見を深めることができます。また、普段の業務とはまったく異なるテーマの講座を受けてみるのもいいでしょう。単純なスキルアップではない、幅の広がりを体感できるはずです。近年は、リアルな場に行かずともオンラインで受講できる講座が増えているため、比較的気軽に越境学習を体験できるでしょう。

【適した目的】:専門知識の体系化、異業種の人脈形成、経営幹部候補の育成。

【特徴】:アカデミックな知見と実務の往復が可能。厚生労働省の教育訓練給付金などが活用できる場合もあります。

副業・兼業(パラレルキャリア)

副業・兼業とは、所属している会社とは別の会社で働いたり、フリーランスとして新しく仕事を受けたりすることです。パラレルワーク、ダブルワークと表現されることも多くあり、プログラミングやコンサル、ライティングなど、さまざまな仕事があります。普段の仕事の延長でも、まったく違う業務でも、新しい視点を得ることができるでしょう。曜日によって執り行う業務を分けるなど、自分でバランスを決めて働くことができます。

【適した目的】:キャリア自律の促進、起業家精神の醸成、収入源の多様化。

【特徴】:従業員個人の裁量が大きい手法です。企業側は就業規則の整備(副業解禁)や、過重労働防止の管理が必要です。

レンタル移籍(期間限定の出向)

従業員をベンチャー企業などの異文化組織に、一定期間(半年〜1年程度)フルタイムで移籍させる仕組みです。

【適した目的】:次世代リーダーの修羅場経験、イノベーション人材の育成、スピード感の習得。

【特徴】:完全なアウェイ環境に身を置くため、アンラーニングの効果が最も高い手法の一つです。株式会社ローンディールなどが仲介サービスを提供しています。

出向(海外駐在)

海外の企業に出向することで、視野を広げることが可能です。ただし日本企業の仕組みを踏襲しているような会社では意味が薄くなるので、海外ならではの環境に飛び込むことがおすすめです。

現地法人でのマネジメント経験は、異文化理解(ダイバーシティ&インクルージョン)の最良の実践場となるでしょう。

留職・転職・出戻り

留職とは、従業員が新興国に派遣され、現地の社会課題を解消することです。一定期間派遣されることで、グローバルな感覚を身に付けることができます。具体的な活動としては、現地のNPOでものづくりをしたり、コミュニケーション支援をしたりするというものが挙げられます。

NPOクロスフィールズなどが提供するプログラムが代表的です。社会課題解決とビジネスの両立を学ぶことができるでしょう。

経済産業界以外の公共団体(社会)

経済活動から離れ、公共団体に所属してみるのも発見が多いでしょう。利益を追求するのではない思考法が働き、新しい頭の使い方が見つかるかもしれません。

立場を変えてみれば、官公庁や自治体への出向もこれに含まれます。規制を作る側、ルールを運用する側の論理を知ることは、事業戦略を練る上で大きな武器となるでしょう。

越境学習の導入ステップと成功のカギ

ここまで越境学習の手法について見てきました。最後に、人事担当者が越境学習を制度として導入する際の具体的なステップと、成功のポイントを解説します。

ステップ1:目的の明確化とターゲット設定

まず、「なぜ越境学習を導入するのか」を言語化します。「イノベーション創出」なのか「シニアの活性化」なのか「若手の選抜育成」なのかによって、選ぶべき手法が変わります。

イノベーション:レンタル移籍、異業種共創プロジェクト

キャリア自律・シニア:プロボノ、副業解禁

若手リーダー育成:留職、地域課題解決型ワーケーション

ステップ2:プログラムの選定と設計

目的に合わせてパートナー企業(JMAM、ローンディール、クロスフィールズ等)を選定し、期間や費用を調整します。重要なのは、単に「行ってこい」と放り出すのではなく、事前・最中・事後のサポート体制を設計することです。

ステップ3:志望者の募集と選抜(「逃げ」の見極め)

公募制にする場合、動機の見極めが重要です。越境学習に対する志望理由をしっかり確認する必要があります。単に「今の部署が嫌だから逃げたい」という現状逃避型の動機では、越境先でも壁にぶつかった際に乗り越えられません。「自社に何を持ち帰りたいか」「自身のキャリアをどうしたいか」というWill(意志)を確認する面談を行いましょう。

ステップ4:事後フォローと「還流」の仕組みづくり

越境学習の失敗パターンの多くは、「行って終わり」あるいは「戻ってきたら浦島太郎状態」になることです。

越境から戻った社員は、新しい価値観を身につけているため、既存の組織ルールに窮屈さを感じることがあります。ここで上司や周囲が「遊んできたんだろ」と冷淡に扱うと、離職につながりかねません。

具体的には、経営層や同僚に向けた成果報告会を開くこと、越境で得た知見を活かせるプロジェクトにアサインすること、そして売上などの短期成果だけでなく行動変容やネットワーク構築を評価する仕組みを取り入れることが効果的です。

まとめ

越境学習とは、普段働いている会社や職場、または部署から離れて、一定期間違う環境で働くことです。まとめると、組織にとっては多様性を広げイノベーションを促すきっかけになり、従業員にとっては自身を客観視しキャリアを見つめ直す機会になると言えるでしょう。

越境先に行ってからしばらくは、従来培ってきたスキルや価値観、過去の実績は使い物にならなくなります。大事にしていた信念が揺らぎ、自分を正当化するために既存の価値観を押し付けたくなるかもしれません。自己否定に似た、心理的な抵抗と向き合う必要も出てくるでしょう。それでも越境先についてひとつずつ理解を高めていき、成果を急ぎすぎずにじっくり学んでいくことが重要です。

変化の激しい現代において、組織が生き残り続けるためには、内部の同質性を打破し、外部の異質な知を取り込む「越境」が不可欠です。それは同時に、従業員一人ひとりが組織に依存せず、自らの足で立つ「キャリア自律」を支援する最強の施策でもあります。まずは「小さな越境」から、組織の壁を開いてみてはいかがでしょうか。

越境学習に関するよくある質問
  • 越境学習を導入すると、優秀な社員が転職してしまうのでは?
  • 「外の世界を知ると辞めてしまう」という懸念はよく聞かれますが、多くの調査や事例では逆の結果が出ています。会社が自らの成長機会を支援してくれたことへの感謝(エンゲージメント向上)や、「外の世界を知った上で、やっぱり自社がいい」と再認識する効果があるためです。むしろ、社内に閉塞感がある状態で成長機会を与えないことの方が、優秀層の離脱リスクを高めると言えるでしょう。ただし、戻ってきた社員の受け皿(活躍の場)がないと離職につながるため、受入体制の整備は必須です。 

     

  • 費用対効果(ROI)はどう測定すればいいですか?
  • 越境学習の効果は定量的(売上増など)にはすぐ現れにくい性質があります。そのため、KPIとしては「参加者の行動変容(発言数の増加、新規提案数)」や「ネットワークの拡大数」、「従業員エンゲージメントスコアの変化」などを設定することが一般的です。また、定性的なレポート(本人の気づきやマインドセットの変化)を重視し、長期的視点で評価することが推奨されます。 

  • どの部署から小さく始めるのがおすすめですか?
  • 新規事業開発部門や、次世代リーダー候補が集まる部署から始めるのがスムーズです。これらの部署はもともと外部との接点や新しい発想が求められているため、越境学習との親和性が高いと言えます。また、人事部門自らがまず越境を体験し、その効果を体感してから全社展開するというアプローチも効果的でしょう。 

  • 管理職やシニア層でも効果はありますか?
  • 非常に高い効果があります。特に長年同じ組織にいて価値観が固定化しやすい管理職やシニア層こそ、アンラーニングが必要です。役職定年前後のタイミングでプロボノや地域課題解決に取り組むことで、セカンドキャリアへの不安を解消し、モチベーションが再点火する事例が多く見られます。 

株式会社ソフィア

先生

ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。