探究型学習とは?ビジネスに役立つ理由を解説

探究型学習は、小中高教育の学習要領改訂で2022年から新たに導入が予定されている学習法です。今後は義務教育のみならず、現代の社会人教育にも応用できるものとして、様々なビジネス分野から注目されています。そこで、この記事では探究型学習の学習方法について詳しく解説します。

文部科学省も推奨している探究型学習とは?

近年、新型コロナウイルスの感染拡大、国際関係の変化、グローバル化、IT化、生産年齢人口の減少など私達の取り巻く社会は急速に不確実性が高まっています。今までの常識とされた社会構造や技術的前提も大きく揺らぎ、モノの見方、考え方の前提を変えていく局面に来ております。見通しがつかない将来に不安を覚える機会も増えています。

上記のような事象に対し、これからの人材育成のために教育の在り方を見直す必要性がでてきました。そのため、学習指導要領が約10年ぶりに改訂され、文部科学省は「変化の激しい社会に対応して、探究的な見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、よりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていくための資質・能力を育成することを目標にしていることから、これからの時代においてますます重要な役割を果たすもの」として、探究型学習を推奨しています。

文部科学省による「探究型学習(文部科学省HPより)」の提唱

  • 急速に変化する今の時代に積極的に向き合い、他者と協働して課題を解決する
  • 価値につなげていくこと、複雑な状況変化の中で目的を再構築する
  • 探究的な見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習
  • 課題を解決し、自己の生き方を考えていくための資質・能力を育成することを目標とする
  • 各教科等で育成する資質・能力を相互的に関連づける
  • 実社会・実生活において活用できるものとする
  • 教科等を越えた学習の基盤となる資質・能力を育成することを基本的な考え方とする
  • 4つのプロセス(課題の設定、情報の収集、整理・分析、まとめ・表現)の質的充実
  • 様々な情報を活用しながらそれを統合し、課題の発見・解決や社会的な価値の創造に結びつけていく資質・能力の育成
  • <総合的な学習の時間における教科等横断的な学習や探究的な学習の充実を図る
  • STEAM教育の取り組みへの期待

 

では、探求型学習は今までの教育とどのように違うのでしょうか。ここでは、探究型学習と今までの教育との違いを解説します。

今までの学校教育との違い

従来の学校教育は、詰め込み教育(インプット教育)が主流でしたが、これからの時代は対応力を身につけなければなりません。そのため、詰め込み教育には限界がきています。いまや世界的にも、実践的体験を通して問題解決を行う学習法が効果的であるという共通認識があります。

これは至って普通のことです。例えば、STEAM教育と言われる、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・ものづくり)、Art(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)は、変化することが前提です。技術が変化するということは、カリキュラムも変える必要があり、カリキュラムを教える先生も学ばなければならないということです。しかし、技術革新のスピードとそれに伴う社会常識の変化に、後に続くカリキュラムの変更や体制変更が、間に合うより先に周回遅れになっているのが現在です。つまり、変化を構造化しカリキュラムにするのではなく、変化に向き合う教育の必要性が表出したということです。課題(カリキュラム)があるのではなく、自分の課題を見つける/決める課題形成と、それを解決する教育が必要ということになります。

予測不可能で正解のないさまざまな問題に向き合う機会が多い中で、課題形成のスキルや知識、必要な人材を集めて解決行動をする中で学習していくことが重要であり合理的なのです。そのためにも、学校教育の現場でも今の時代に合った探求型学習の学習方法へと転換されつつあります。

今までの社会人教育

従来、新人研修など人材を育成する社会人教育(新人研修など)においては、学校教育と同様、知識を覚える、やり方を覚えるといった詰め込み教育の形態です。実務教育もワークショップや職場体験など、カリキュラムの工夫はあるものの、それは、あくまでも疑似体験であるということが前提です。

実践的にプロジェクトに取り組みながら、課題を見つけ出す、また正解のない問題を解決する力などを身につける機会はありませんでした。実態としては、カリキュラムの枠内において学習が達成度されたのか?を確認することが主目的にならざるを得ない状況です。したがって学習の先にある課題形成や解決は副次的な目的になります。しかし、上記でも挙げたように社会構造や雇用環境の変化により、社会人においても詰め込み教育の限界が来ています。そのため、社会人教育の現場でも学習方法を変えていく必要があります。では、社会人教育において探求型学習はどのような意味合いをもつのでしょうか。

社会人教育こそ探究型学習を行うべき

社会人教育と学校教育の大きな違いは、成果や結果が問われないことです。ビジネスではあらゆる事態を想定して自ら課題を作成し解決しなければならない場面が多々あります。不測の事態に対応することが求められる社会人こそ、探究型学習が必要です。

ビジネスにおける探究型学習の現状

現在でもビジネスにおいて、今も社会人教育は詰込み型が主流であり、探究型学習を取り入れていない企業が数多く見受けられます。企業の人材育成は、広く多くが事業戦略に基づきあるべき人物像を定義し、階層や職種に必要な能力やコンピテンシーを明確にして、教育カリキュラムを設計しています。いわゆる階層教育というものです。

本来であれば、企業においてあるべき人物像は事業戦略の変化と共に変わることが望ましいです。 ただ、実態としては「環境と事業戦略の変化」と「あるべき人物像や階層職種の能力やコンピテンシー、運用する教育カリキュラム」は、有機的に連動できていない状況です。現場からの要求や自社の課題と、階層教育を照らし合わせて、足りない教育を適宜導入している対応しているというのが現状であり、むしろ足りないものが増え階層教育が縮小化しているのが、企業内教育の現在地です。 DX化やグローバル化、環境問題、変化の激しい社会情勢や経済、そして働く人たちの価値観や雇用形態も多様化が進み、ますます社会は複雑化しています。そして、新聞を読んだだけの知識や社内教育で得た耳学問といった表面的な知識では通用せず、役に立ちません。

これからの時代に更なる成長を目指す企業において必要なことは、目の前で起きている問題の本質をとらえ、状況に合った知識を抽出する人材を育てることです。企業内には、答えがない不確実な今の社会を生き抜くうえで、新たな人材を創造する機会、社会人が探究するべき課題や問題は山ほどありますが、探求(学習)する時間や教材、そして探求した内容を試験実践する機会や一般化・ノウハウする時間は、十分とは言えません。

変化の多い時代だからこそ探求学習型の人材育成に注力すべき

現代のような変化の多い時代だからこそ、人材育成に注力すべきです。今のビジネス環境においては、「深い学び」に繋げる探求型の教育が必要になります。

実際に、ビジネスがデジタル化し、デジタルトランスフォーメーションの重要性が高くなり、社員に「リスキリング」や「ITリテラシーの教育」を実践している企業が増えています。では、一般的なITリテラシーを身に付けるにはどのような方法が効率的でしょうか。

従来のような詰め込み教育でもITリテラシーは身に付くでしょう。しかし、それだけではなく、現在の業務を自動化・デジタル化させる課題を与えて、必要な知識やリソースは企業が提供するという機会を創り学習する方が、デジタル受容力の向上や本質的なリテラシーの向上につながります。
つまり、企業がリスキリングするだけではなく、「ビジネスの課題はなぜか?何か?」「何を解決することで成果をだすの?」「解決に向けて自らが獲得するスキルや能力はなぜ必要か」ということにおいて、探求できる課題を提供し、自ら探求しながら学習するスタイルに変換したほうが効率よく学習でき、理解度も向上します。またこのような探求型学習機会を提供することによって、新しい情報や知識を得ることができ、知的欲求や新しいアイデアも生まれます。

混沌とした時代において「優秀な人材」とは、問題を見つける力がある人、冷静に分析できる人、それを問題解決へと導くことができる人です。探究型学習は、こうしたスキルを身につけるための人材育成です。

探究型学習の効果とメリット

ビジネスを行う際にはあらゆる問題に直面します。その際に、自分の力で考えて問題を解決しなければならないこともあります。探究型学習の効果はこのような場面で大いに活用できるスキルです。状況に応じて判断力、思考力が養われ、自身の力で問題解決ができるようになります。プロジェクトベースドラーニングと探求型学習は、言い方や文脈に差はありますが、受講者や学習者には同じ学習効果を生みます。

課題解決の道筋を学べる

探究型学習では正解のない問題に対して、まず自分で課題の全体像を捉えることから始めます。それから情報を集め、整理・分析をします。その過程で、情報活用能力、問題発見、解決能力である「知識及び技能」、また「考えるための技法」を実体験から習得することによって、知識の定着が可能となり、問題解決に必要な力が身につきます。

学び方が身につく

研修で学んだことが実際の現場で活用され、成果を生み出す考え方について、「研修転移(『研修開発入門 「研修転移」の理論と実践』(中原淳 著/島村公俊 著/鈴木英智佳 著/関根雅泰 著・ダイヤモンド社) 」に記載されている3つの要素を参考に解説します。

 

  1. 「研修の中で学ばれた知識やスキル」が実際に「仕事の現場」で実践される
  2. 参加者の「行動」が変わり、現場や経営に「成果」を残すことができる
  3. その効果が持続すること

 

研修で学んだことを活かすためには上記の要素が重要です。学ぶだけでなく、実際の現場で実践され、成果を残し、なおかつ持続させる必要があります。

研修内容は予習・復習し、実践に移すことで定着していきます。さらに職場内で上司や同僚からのサポートが受けられる体制を整えることによって、研修そのものが「自己効力感」を高め、学びを実践に移すきかっかけになります。

実務で活きるような研修を実現するためには、研修と現場を近くするための工夫や、積極的に発言権を与えたりすることなどが必要です。また、研修内容を実践の場で活用できるかどうかは、講師や企画者によるサポートやフォローも必要となります。それと同時に、研修に参加する必要性を感じられるような動機づけ、意味のある体験ができるような工夫も必要です。

外部と協働で進められる

探究型学習の醍醐味は、さまざまな場面で応用可能なスキルの獲得ができることで、社内はもちろん、さらに外部の人々と協働で業務を進められることです。課題形成に必要な知識やスキル、人材を集めることも現代のビジネスにおいて重要です。デジタル環境やコミュニケーションの手段も飛躍的に変化することで、普段使うスキルや学習内容が多様になっています。多くの人物と解決行動の実践をするなかで学ぶことが実践型の人材を育成し、ビジネスの成長へと繋がります。

企業で探究型の研修を導入するには?

企業で探究型の研修を行う際には以下のような流れで行います。

 

  1. 全体設計・課題設定
  2. 情報収集
  3. 情報分析
  4. 振り返り

 

ここではそれぞれの項目について詳しく解説します。

1.全体設計・課題設定

企業での営業活動、実績目標など社内のリアルな問題を課題として設定しましょう。「問題視されていることは何か」「もっと効率的にできる方法はないか」「新しいアプローチ方法はないか」など、日頃思った気づきや発見、疑問から課題を設定することにより、積極的に研修に取り組むことが可能です。このような取り組みは、個人でもグループでもその場の状況に応じ、様々な形で活用できます。

この課題設定は慎重に行いましょう。実現可能かどうか、目標との整合性はとれているか、やることでどれだけ価値が生まれるかといったことを序列化し、出来る限り多くのメンバーと話し合うことが必要です。

2.情報収集

設定した課題について解決に結びつくための必要な情報を収集します。この過程では、課題に対する目的を調査するための情報を収集する場合や、学習の過程で学んだ知識をもとに新たな可能性を求めて情報を収集する場合もあります。

インターネット検索、デジタルや紙の書籍、また人物インタビューなど様々な方法で情報を収集し、その膨大な情報源の中から適切な情報を見極める力が養われます。あらゆる手段で情報を収集していくうちに、自分が探し求めている確かな情報がわかってくるようになります。

また、信頼性の低い情報、虚偽性の高い情報などもわかるようになります。インターネットの検索などは特に情報の質が幅広くあります。インターネットの情報だけを頼ると、情報の多様性に欠けてしまい、課題自体への疑問が生じてしまうこともあるため、様々な方面からの情報収集を行うことが必要です。

3.情報分析

収集した情報を整理し、分析する際には情報の仕分けが必要になってきます。時系列、地域別、シチュエーション、といった種類別に整理してから分析を行うことで効率的に行えます。分析の方法は、フィールドワークやディスカッション、また統計・グラフ化・構造化して分析を行います。コンセプトマップやチャートなどを用いて整理・分析するといった実践例もあります。

課題のテーマについて主張したいことや、意見に対して収集した情報の中からその考えに至った理由や根拠を書き出して図にしていくことがポイントです。まとめあげた情報の全てを見える化することで、新たな問題の発見、修正、見直しができます。

4.振り返り

学んだ成果を振り返るプロセスでは経験を通して「何を学習し、何を得たか?」が重要です。実際に経験し、失敗・成功したことは何ものにも変えられない自分だけが得た財産です。そして重要なのは、これらの経験を材料にさらに学習し、実践することです。経験したことを漠然と振り返るのではなく、どの部分に焦点を当てるかを明確にします。結果か、プロセスか、自分自身の言動か、周囲の状況かといった、どこを振り返るのかその切り口は様々です。

企業がまず大切にするべきことは、社員に経験をさせることです。そして振り返りを行い、経験が概念に昇華されるまで内省を促すことです。振り返りを丁寧に企業側がデザインすれば、同じ失敗を繰り返すことは少なくなり、結果的に組織としての成長につながります。

まとめ

人材育成は企業成長の戦略として最優先にすべき最重要課題でもあります。探究型学習はビジネスを行う上で問題に直面した際に、大いに活用できるスキルを養うメソッドです。状況に応じて判断力、思考力が養われ、自身の力で問題解決ができるようになります。人材育成において、不測の事態に対応する力が必要な社会人こそ探求型学習を積極的に活用しましょう。

株式会社ソフィア

先生

ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。

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