インターナルコミュニケーション

パーパス経営とは?パーパス策定のポイントや実装のステップを解説

昨今、パーパス経営(企業の存在意義を軸にした経営)が注目されています。企業が社会にどう貢献するかを明確にし、ステークホルダーからの共感や信頼を得る経営手法ですが、具体的にどのように取り組めば良いのでしょうか。本記事では、パーパス経営の概要やメリット、成功企業の事例、実践ステップについて、大企業の経営企画・事業部門の方に向けてわかりやすく解説します。

パーパス経営とは何か?

パーパス経営とは、企業が「社会における自社の存在意義」を明確にし、それを経営判断や事業活動の中心に据える経営手法です。従来の「利益最優先」の経営とは異なり、本業で利益を上げると同時に社会課題の解決や社会貢献に重きを置く点に大きな特徴があります。言い換えれば、企業のパーパス(Purpose)=存在意義を軸に経営を行うことで、社会的価値の創出と企業の成長を両立させるアプローチと言えるでしょう。

例えば、「自社はなぜ存在し、社会にどう役立つのか」という問いに真摯に向き合い、その答えを企業の指針として掲げるのがパーパス経営です。企業が社会の中で果たすべき役割を経営の一部に組み込むことで、ステークホルダー(顧客、従業員、株主、取引先、地域社会など)からの信頼や共感を得やすくなります。現代では、消費者も働き手も社会貢献に積極的な企業を支持する傾向が強まっており、パーパス経営はそうした時代背景の中で注目を集めているのです。

パーパスについて考える際には、自社にとってのステークホルダーが誰なのかを定義することが重要なタスクとなります。ステークホルダーはどのような個人・団体なのか、自社との関係はどのような状態で、相互作用によりどのような価値を生み出せるのか、綿密に議論しましょう。こうして定義したステークホルダーに対し、コミュニケーションを通じて価値を生み出していくことを、パーパスブランディングコミュニケーションと呼びます。

なお、企業理念を示す言葉としてはミッションやビジョン、バリュー(MVV)が以前から使われてきましたが、パーパス経営ではそれらよりも根源的な志存在意義に焦点を当てます(違いについては後述のQ&Aでも解説します)。パーパスは「企業が何のために存在するのか」を問う内発的な理念であり、ミッション(果たすべき使命)やビジョン(将来のあるべき姿)を包含する上位概念とも言えるでしょう。

なぜパーパス経営が注目されるのか?(背景)

パーパス経営が重視されるようになった背景には、近年の社会やビジネス環境の大きな変化があります。企業に対して社会が求める役割が変わり、「利益を上げさえすれば良い」から「社会課題の解決に貢献すべきだ」という期待へとシフトしているのです。

ESGやSDGsの潮流

地球環境問題や格差問題など、グローバルな課題が顕在化し、企業にも環境・社会・ガバナンス(ESG)の観点で責任ある行動が求められています。2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)も、「企業の社会的意義」を問い直す流れを後押ししました。企業は社会の一員として、利益だけでなく持続可能な社会づくりに貢献することが期待されています。こうした潮流の中で、自社の存在意義を明確にし社会に貢献するパーパス経営が脚光を浴びているのです。

ステークホルダーの価値観変化

消費者は製品やサービスの価格・品質だけでなく、企業の姿勢にも目を向けるようになりました。また従業員も、「社会に良い影響を与える仕事がしたい」「自社の存在意義に共感したい」と考える人が増えています。企業活動が環境破壊や不公正を招けば厳しい批判に晒され、逆に社会的意義のある企業には支持が集まる時代です。こうした価値観の変化に応えるため、企業は自社のパーパスを定義し、それに沿った経営を行う必要に迫られているのではないでしょうか。

VUCA時代の経営指針

先行き不透明で変化の激しいVUCA時代において、企業が長期的視点でブレない軸を持つことが重要になっています。パーパス(存在意義)は、短期的な環境変化にも左右されにくい不変の指針として機能し得ます。社会の中での使命を自覚し明文化しておくことで、不確実性の高い状況でも意思決定の拠り所となり、社員のベクトルを合わせる効果があるのです。

以上のような背景から、「自社は何のために存在し、何を成すべきか」を問い直すパーパス経営が、多くの企業で経営課題として取り上げられています。現代の社会ではすべての企業に社会課題解決への貢献が求められており、その企業が存在することで社会にどう役立つのかを対外的に示すパーパスを持つことが重要とされているのです。

パーパス経営のメリットは何か?

パーパス経営に取り組むことは、企業にも多くの利点をもたらします。ここでは主なメリットを3つ挙げ、それぞれ解説します。

持続可能な成長への寄与

パーパス経営は単に社会的意義を高めるだけでなく、自社の長期的な発展にもつながります。例えば、自社のパーパスを環境問題の解決に設定すれば、事業活動を通じてCO₂削減や資源循環型の取り組みを推進できます。その結果、規制強化や環境リスクに強いビジネスモデルを構築でき、長期的な持続可能性が高まるでしょう。社会貢献と自社の技術開発・事業成長を両立することで、持続可能な開発目標(SDGs)の達成にも寄与し、企業価値を高める効果があります。

企業ブランディングの向上

自社の存在意義を明確に掲げ社会貢献に取り組むことで、ステークホルダーに良い印象を与え企業ブランドを強化できます。実際に、明確なパーパスを打ち出した企業はイメージ向上に成功している例が多く、単に何も掲げていない企業よりも支持や共感を得やすくなります。ただし、パーパスと事業内容の一貫性が重要です。見かけ倒しのスローガンでは「絵に描いた餅」となりかねません。事業との整合性を保ちながら発信することで、ブランド価値と信頼性の向上につながります。

従業員の自律性・エンゲージメント向上

パーパス経営は、社員一人ひとりの意識や働きがいにも好影響を及ぼします。企業の存在意義や目指す方向が明確になることで、社員は「自分は何のためにこの仕事をするのか」が理解しやすくなり、自ら考え行動する自律性が促進されます。また、「自分の仕事が社会に貢献している」と実感できるためモチベーションが高まり、仕事への誇りや愛着も生まれます。その結果、離職率の低下や人材定着、さらには社員が主体的に学び成長する企業文化の醸成にも効果的です。パーパスへの共感が社内に広がれば、社員同士の連帯感が強まり組織力も高まるでしょう。

以上のように、パーパス経営は社会価値と経済価値の双方を高める経営だと言えます。企業ブランドの向上、従業員エンゲージメントの強化、持続的なイノベーション創出など、長期的に見て企業の競争力を底上げするメリットが数多く報告されています。

パーパス経営に成功している企業事例は?

実際にパーパス経営に取り組み、大きな成果を上げている企業の例をいくつかご紹介します。国内外の有名企業がどのように自社のパーパスを定め、それを軸に経営改革を行ったのかを見てみましょう。

パタゴニア(Patagonia)

アウトドア衣料品メーカーのパタゴニアは、自社のパーパスを「故郷である地球を救うためにビジネスを営む行う」と明確に掲げています。売上の1%を環境保護団体に寄付し、環境に優しい素材を積極採用するといった徹底した環境貢献型ビジネスを展開しています。この揺るぎない信念に共感する社員や顧客が数多く存在し、社内外に強固な支持者層(いわゆる「パタゴニア信者」)を生んでいます。パーパスに基づく一貫した取り組みがブランド忠誠度を高め、結果として事業の成長と社会貢献を両立している好例です。

ソニーグループ

日本を代表する企業ソニーは、2019年に「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というパーパスを制定しました。早期にパーパス経営に着手していたことでコロナ禍でも組織の一体感を維持し、「人々のストレスをエンターテインメントで和らげる」という社会貢献のもと、PS5はゲームや映画の予定通りリリースを実現しました。その結果、2020年度には過去最高益を達成し、パーパスが社員の結束と業績向上につながった事例と言えるでしょう。

味の素株式会社

食品メーカー大手の味の素は、かつて企業ビジョンが社内に十分浸透していない課題があり、約2年かけて新たなパーパスを模索しました。その結果生まれたパーパスが「アミノサイエンス®で、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」(2023年更新) アミノ酸のはたらきで食習慣や高齢化に伴う食と健康の課題を解決し、人びとのウェルネスを共創します」です。このパーパス策定を機に、社内で表彰制度を設けるなど従業員の意識改革を推進し、社員のモチベーション向上や共通認識の定着化に成功しました。現在では社員が一丸となって「食を通じた健康問題の改善」に取り組んでおり、パーパスを軸に事業戦略を刷新した好例として注目されています。

上記のほかにも、ユニリーバ(「輝く毎日をすべての人に」「サステナビリティを暮らしの”あたりまえ”に」)、ネスレ日本(「食の力で現代そしてこれからのと未来世代のすべての人々の生活の質を高める」)、トヨタ自動車(トヨタイムズによる企業姿勢の発信)など、数多くの企業がパーパス経営に取り組んでいます。それぞれの企業が自社の歴史や強みを踏まえた独自のパーパスを掲げ、経営改革やブランド戦略に活かしています。

これらの事例からもわかるように、自社ならではの明確なパーパスを掲げてブレずに実行することで、社員と企業が一体となり、社会的価値の創出と事業成果の向上を両立できるのです。

パーパス策定のポイント

パーパス経営を始めるには、まず自社の「パーパス」を正しく定義する必要があります。闇雲にかっこいいスローガンを掲げれば良いわけではありません。ここでは、パーパス策定において押さえるべき重要なポイントを解説します。以下の点を意識することで、自社にふさわしいパーパスを見出しやすくなるでしょう。

社会課題の解決への貢献を掲げること

パーパスは企業と社会との関係性を重視する考え方です。他社でも当たり前に行っている事業目標ではなく、ぜひ自社が社会の課題解決にどう貢献できるかを盛り込みましょう。自社の利益だけを目的とせず、企業活動のベースに社会課題の解決を位置付ける必要があります。社会や地域に目を向け、事業を通じて解決したい問題意識をパーパスに反映させることで、ステークホルダーからの共感も得られやすくなります。

自社ならではの内容にすること

パーパスは内発的な「志」です。他社から与えられた綺麗事ではなく、自社独自の存在理由を見出すことが大切です。他社と似たり寄ったりの表現では「自社の存在意義」とは言えません。もし自社独自の強みや価値が見えにくい場合は、現状の分析不足かもしれません。顧客やパートナーから自社がどう評価されているか、強み・弱みは何かを洗い出してみましょう。必ず自社ならではの存在理由があるはずであり、それをパーパスに落とし込むことで社員の誇りやモチベーションにもつながります。

相互作用の中で実現可能な内容にすること

いくら立派な理想を掲げても、自社の事業領域や能力とかけ離れた「絵空事」では意味がありません。パーパスは夢物語ではなく実行可能である必要があります。顧客・従業員・取引先などステークホルダーとの相互作用の中で実現できることを考えましょう。自社にできること、そしてステークホルダーが自社に期待することの重なり合う部分に目を向け、根拠のある実現可能なパーパスを策定します。

外向けのパーパスと内向けのパーパスを分けないこと

対外的には綺麗な理念を掲げながら、社内では従業員に利益最優先を強いる——そのようなことがあればパーパス経営とは呼べず、単なる「パーパス・ウォッシュ」になってしまいます。パーパスは社外への宣伝文句ではなく、あくまで企業内部から湧き上がる志です。定義したからには経営の意思決定や組織運営に一貫して反映させる必要があります。外でも内でもブレない姿勢を貫くことで初めて、ステークホルダーの期待に応えられるでしょう。

これらのポイントを踏まえて自社のパーパスを策定すれば、単なるお題目で終わらない”芯の通った”存在意義を打ち出せます。自社の歴史や強み、事業領域、そして社会からの期待を総合的に考慮しながら、自社にしか掲げられないパーパスを言語化してみましょう。

パーパス経営を実践するには?(実践ステップ)

パーパスを策定したら、それを企業経営に実装していく必要があります。掲げるだけでは絵に描いた餅です。パーパス経営を社内で根付かせ、日々の業務に落とし込んで成果を出すには、段階的な取り組みが求められます。ここでは、パーパス経営を実践するための5つのステップを具体的に解説します。

調査する

まず最初のステップは現状把握です。自社を取り巻く環境やステークホルダーについて徹底的に調査・分析しましょう。具体的には、ステークホルダー分析として顧客アンケート、従業員意識調査、取引先ヒアリングなどを行い、社外から見た自社の評価や課題を洗い出します。また、業界トレンドやESG評価などの外部環境データも収集します。

併せて自社分析も重要です。自社の強み・中核能力を明らかにする「コンピテンシー分析」、ステークホルダーとの結びつきで発揮できる価値を探る「ケイパビリティ分析」、さらに現行の企業理念やビジョンとの整合性を検討し課題を見つける作業を行います。こうした綿密な調査によって、自社の現状とパーパス策定の土台をデータに基づき把握します。

パーパスを言語化する

調査に基づき、自社のパーパス(存在意義)の核心を言葉としてまとめます。経営層の頭の中にある抽象的な理念を、社員全員が理解し共感できる具体的なパーパスステートメントに落とし込む作業です。「どのような企業・社会貢献を目指しているのか」が誰にでも伝わる、短く覚えやすい文章にまとめます。

この際、独自性のある表現(自社らしいユニークな言葉遣い)や行動方針も含めると良いでしょう。言葉にするプロセスでは、現状の理念体系(経営理念・ミッション・ビジョン等)との一貫性を確認しつつ、不足があれば再構築します。また、社内の様々な部署・階層のメンバーを巻き込んで議論することで、社員自身がパーパスを「自分ごと」として感じられるようにすることも大切です。

例えば、ソニーではCEOが全社員に社員向けブログメールでパーパスのアイデアを募り、全社的な議論を経てパーパスを決定したというエピソードがあります。このように多様な視点を取り入れることで、社内外に共感されるパーパスが生まれやすくなります。

パーパスをもとに具体的なビジョンを策定する

パーパスの言語化ができたら、その理念を土台に将来像(ビジョン)を描きます。パーパスが指し示す方向性を受けて、「従業員がすぐにでも行動に移せるような未来像」を示す作業です。

手順としては、いくつかのシナリオプランニングを行い、未来の事業環境や社会の姿を複数想定します。その中からパーパス実現に最もふさわしいメインシナリオを選定し、それに沿ってビジョン(将来のありたい姿)を策定します。例えば、「パーパスを達成するために今後どの事業領域に注力すべきか」「5年後10年後にどんな社会・会社になっていたいか」といった問いに対する答えを練り上げていきます。

策定したビジョンは、現在の事業戦略や経営計画との整合性も確認します。必要に応じて事業ポートフォリオの見直しや新規事業の検討など、経営戦略との統合も図ります。ビジョン策定の過程では、自社の歴史を振り返る「ヒストリカルレビュー」を活用したり、創業の原点に立ち返る議論も有効です。こうしてパーパスとビジョンが一貫した物語を描ければ、社内外のステークホルダーに響く強いメッセージとなります。

業務への落とし込み

続いて、策定したパーパスとビジョンを日々の業務プロセスに組み込んでいく段階です。パーパスに基づく経営を実践するには、組織のあらゆる活動をパーパスと紐づけて再設計する必要があります。

具体的には、統合的なコミュニケーション戦略を策定し、対外的なCSR・IR・PR・マーケティングから対内的な従業員コミュニケーションまで、全方位で一貫性のある発信を行います。例えば、CSR活動やブランディング施策もパーパスに沿ったテーマで展開し、従業員向けにはパーパスを理解・体現するための研修や社内イベントを実施するといった具合です。

また、各戦略ごとに分科会やプロジェクトチームを設置し、実行計画を練ります。ターゲット(顧客や社員)の行動変容を促す施策、必要なコンテンツ制作、効果測定指標(KPI)の設定など、具体的なアクションプランを策定しましょう。さらに、定期的なモニタリングと改善(PDCAサイクル)によって、パーパスに沿った取り組みを継続的にブラッシュアップしていくことが肝要です。こうした業務への落とし込みがあって初めて、パーパス経営は机上の理論でなく現場で息づくものとなります。

社員にパーパスを腹落ちさせるコミュニケーション

最後に忘れてはならないのが、社内への浸透です。どんなに立派なパーパスや戦略も、現場の社員一人ひとりが理解し共感していなければ実行力は伴いません。インターナルコミュニケーションを駆使して、社員がパーパスを自分事として捉えられる状態を作りましょう。

具体的には、経営層から全社員へのメッセージ発信や対話の場の設定、社内報・ポータルサイトでの特集、パーパス体現を促すワークショップの開催などが有効です。ポイントは、会社のパーパスと各社員自身のパーパスを結びつけることです。例えば「なぜ自分はこの会社で働くのか」という問いに社員それぞれが答えを見出せるよう、会社のパーパスから部門ミッション、ひいては個人の意義へと紐付けていきます。会社の存在意義が社員一人ひとりの働く意義につながれば、仕事の意欲や誇りが格段に高まるでしょう。

このステップ⑤に関して、弊社ソフィアの調査では自社の経営目標や戦略に「十分共感している」と回答した従業員がわずか9.9%にとどまるという結果が出ています。約半数の社員は自社の戦略に共感できていない現状が示唆されており、背景には「現場の実情と乖離している」「経営からの説明が不足している」といった要因が挙げられます。

裏を返せば、経営理念や戦略の意図を現場にしっかり届け、腹落ちさせるコミュニケーションができれば、多くの社員の共感と協力を得られる可能性が高まるということです。パーパス経営を成功させるには、社内への丁寧な説明と対話を重ね、社員が心から納得し熱狂できる状態(「パーパス・ドリブン」の状態)を作ることが欠かせません。実践ステップの仕上げとして、インナーブランディング施策を通じた社内浸透にしっかり取り組みましょう。

パーパス経営を社内に浸透させるには?(インナーブランディング)

パーパス経営を絵に描いた餅に終わらせないためには、インナーブランディング(内部ブランディング)の視点が非常に重要です。インナーブランディングとは、一般消費者向けではなく社員や株主など自社のステークホルダーに対して行うブランディング活動のことであり、その要となるのが自社のパーパス(企業の存在意義)の発信です。企業の存在意義を社内に浸透させるパーパス起点のブランディング施策によって、社員と企業の価値観共有を図り、組織の一体感を高めることができます。

具体的には、前述したような経営トップからのメッセージ発信や全社ワークショップの実施、社内報・動画・社内SNSなど多様な社内コミュニケーション媒体を駆使してパーパスを訴求します。また、パーパスに沿った行動を表彰・称賛する制度を設けたり、日常業務の中でパーパスを意識する仕組み(例:朝会で自部署の活動をパーパスに照らして共有する等)を取り入れる企業もあります。社員自身が自社のパーパスを語れるようになることが理想であり、社員が自発的にSNS等で会社の理念や取り組みを発信すれば、それ自体が社外へのブランディングにもつながります。

インナーブランディングの成功事例として、NTTコミュニケーションズでは自社の存在意義を物語にまとめた「ストーリーブック」を全社員に配布し、社員が自社のパーパスを「自分ごと化」できるようにしました。トヨタ自動車では社外向け情報発信メディア「トヨタイムズ」を活用し、自社のDNAやパーパスを社内外に共有する取り組みを行っています。また、協和キリンではマンガやゲームなど様々なコンテンツで自社の企業姿勢(存在意義)を発信し、社内外に一貫したメッセージを届けています。これらのように、社内だけに留まらず社外広報とも連動させて多角的にパーパスを発信していくことが効果的とされています。

要するに、「企業の存在意義」を社員に腹落ちさせ、社員自らがそれを発信できる状態を作ることがパーパス経営成功のカギです。インナーブランディングを通じて社員のエンゲージメントを高めることで、結果として社外へのブランド発信力も増し、パーパス経営の効果が倍増します。

パーパス経営と経営戦略の関係とは?

パーパス経営は決して従来の経営戦略と切り離されたものではありません。むしろパーパス(存在意義)を軸に経営戦略を再構築・強化するものだと言えます。優れたパーパスは経営のあらゆる領域(事業戦略、ブランド戦略、人材戦略、社会貢献など)と密接に連携できるポテンシャルを持っており、それを活用することで企業全体の戦略に一貫性と推進力をもたらします。

例えば、パーパスに沿って事業領域の取捨選択や新規事業の立ち上げを判断すれば、経営資源の配分にも明確な優先順位がつきます(「一人ひとりの可能性を増やし続ける」というパーパスを掲げた企業では、その実現に資する事業を拡充しよう、という具合に)。また、組織・人材戦略の面でも、パーパス実現に必要な人材像が定まり、採用・育成方針を明確にできます。さらにブランド戦略や顧客体験の設計も、パーパスが示す価値観を基準に据えることで、顧客に提供すべき体験やメッセージの一貫性を保てます。このようにパーパスを軸に据えることで、企業活動のあらゆる側面が一本筋の通ったストーリーでつながり、社内外に説得力を持つようになるのです。

一方で、経営戦略とパーパスを連動させる際には注意点もあります。現場の実情とかけ離れた綺麗事になっていないか、常に点検することです。前述した弊社調査でも、社員が経営目標に共感できない理由のトップに「現場の実務と乖離している」が挙げられていました。パーパスも同様で、経営層が描いた理想が現場感覚とズレていれば社員の協力は得られません。従って、パーパス策定段階から現場の声を聞き、戦略に落とし込む際も現場目線で具体策を検討することが重要です。

また、短期利益と長期ビジョンのバランスも考慮しましょう。社会貢献に力を入れるあまり目先の収益をおろそかにすると事業が立ち行かなくなりますし、逆に短期利益ばかり追うとパーパスが空文化します。「短期的な利益も長期的な社会価値もあきらめない」という姿勢で、経営戦略にパーパスを組み込むことが肝要です。

まとめると、パーパス経営と経営戦略は表裏一体です。パーパスを据えることで戦略立案に新たな軸が生まれ、戦略の実行によってパーパスが具体化されていきます。経営戦略と人材戦略、ブランド戦略などをパーパスで一貫させることで、企業全体が志に沿って動く統合的な経営が実現します。その結果、企業は社会的存在意義と収益性の双方を高めることができるのです。

まとめ

以上、パーパス経営に関する基礎知識や具体的な進め方、事例をご紹介しました。パーパス経営を成功させるには、綿密なインターナルコミュニケーションが欠かせません。自社のパーパスを定めたものの社内浸透に課題を感じる場合や、どこから手を付ければよいか迷われている場合は、ぜひ弊社ソフィアにご相談ください。

長年にわたり企業のインターナルコミュニケーション支援を手掛けてきた知見を活かし、御社のパーパス経営推進をサポートいたします。貴社の存在意義が社員全員の心に火を灯し、ひいては社会から愛される企業へと成長できるよう、ともに取り組んでまいりましょう。

よくある質問
  • パーパスとミッション・ビジョンとの違いは何ですか?
  • パーパスは「自社はなぜ存在するのか(存在意義)」を示す概念で、ミッションやビジョンよりも根本的な問いに答えるものです。ミッションが「何を成し遂げたいか(使命)」、ビジョンが「将来どうなりたいか(理想像)」だとすれば、パーパスはそれらの前提となる「なぜそれを成すのか」を表します。
    例えば、パーパスが企業の”Why”に相当し、ビジョンは”Where”(目指す場所)、ミッションは”What”(実現したいこと)とも説明されます。実際の経営ではこれらは密接に関連しますが、パーパス経営では特に”Why”=存在意義を重視し、そこからミッションやビジョンを再構築するアプローチと言えるでしょう。

  • パーパス経営の導入における注意点やデメリットはありますか?
  • 注意点としては、パーパス・ウォッシュ(見せかけだけのパーパス経営)に陥らないことが挙げられます。単に美辞麗句のスローガンを掲げても、実際の経営行動が伴わなければ社員や社会からの信頼を失いかねません。パーパスを定義したら、それに即して意思決定や業務プロセスを変えていく覚悟と継続的努力が必要です。

    また、即効性が低い可能性もデメリットとして認識しておきましょう。パーパス経営は企業文化の醸成やステークホルダーとの信頼関係構築といった長期的成果を目指すものなので、短期的にはコスト増や業務負荷増になる場合もあります。しかし、それらは将来の持続的成長のための投資と捉えるべきです。さらに、社員の理解・共感を得るプロセスにも時間がかかるため、経営トップの強いコミットメントのもとでじっくり腰を据えて取り組むことが求められます。
    要は、パーパス経営は「急がば回れ」の経営手法であり、短期的利益とのバランスや現場との対話を疎かにしないことが導入のポイントです。

  • 中小企業にもパーパス経営は有効ですか?
  • はい、中小企業にとってもパーパス経営は有効です。むしろ企業規模が小さい分、トップの理念が社員全員に行き渡りやすく、パーパス経営を実践しやすい側面もあります。中小企業の場合、創業者の想いや地域社会との結びつきがそのままパーパスにつながっているケースも多いでしょう。

    自社の存在意義を明確にし、それを軸に事業展開することで、社員一人ひとりが仕事の意義を実感し結束力のある組織を作ることができます。また、競合との差別化要素として「うちの会社はこんな社会的使命を担っている」と打ち出せれば、採用面でも共感する人材が集まりやすくなる効果が期待できます。
    ただし、中小企業ではリソースに限りがあるため、無理のない範囲で自社らしい身の丈に合ったパーパスを設定することが大切です。背伸びしすぎず、地元や既存顧客に密着した独自の存在意義を深掘りすることで、着実に信頼と業績を積み上げることが可能です。

  • パーパス経営は短期的な利益と両立できますか?
  • 両立させることは十分可能です。パーパス経営というと「社会貢献のために利益を犠牲にする」イメージを持つ方もいますが、実際は社会価値の向上が中長期的な利益拡大につながるケースが多いです。例えば、環境配慮や従業員重視の姿勢はブランド好感度を高め、結果的に売上増や優秀な人材の定着につながります。

    一方で、企業が存続し利益を上げ続けること自体が社会への貢献(雇用や税金の提供)である側面もありますから、短期的利益を軽視する必要もありません。要は短期的な利益創出と長期的な社会価値創出のバランスをとり、双方を追求するのがパーパス経営です。

    実際に多くの企業が「社会課題の解決」を掲げつつも堅実に収益を上げています(ソニーやトヨタもパーパス策定後に業績を伸ばしています)。パーパス経営のポイントは、短期と長期、経済価値と社会価値の二者択一ではな”Both And(両方とも)”を目指すことにあります。そのために経営戦略とパーパスをしっかり統合し、投資判断やKPI設定にも両面の視点を組み込むことが重要です。