SDGsウォッシュとは?事例・リスクと回避策|企業の生存戦略
目次
近年、気候変動や人権問題といった地球規模の課題に対する意識が急激に高まっています。SDGs(持続可能な開発目標)への注目が世界的に高まっており、この潮流に乗り遅れないよう、SDGsを意識した経営に舵を切ろうと検討している企業も多いのではないでしょうか。
投資家や消費者は、企業がどのように社会的責任を果たしているかを厳しく監視しており、もはやSDGsへの取り組みは「やったほうがいいこと」ではなく「やらなければ生き残れないこと」へと変化しています。
しかし、この急速な社会の変化に対し、多くの企業で対応が追いついていないのが現状ではないでしょうか。SDGsを経営に取り入れる上で特に注意したいのが「SDGsウォッシュ」です。事業におけるSDGsの推進は大切ですが、うわべだけのものになってはいけません。実態の伴わないアピールは、単なるPRの失敗にとどまらず、企業の存続そのものを揺るがす重大なリスクとなります。
この記事では、「SDGsウォッシュ」を防いで効果的なSDGs経営を行う方法を解説していきます。定義や背景といった基礎知識から、EUや日本国内における最新の法規制、実際に批判を浴びた企業事例の深層分析、そして弊社ソフィアの最新調査データに基づいた「組織内部からウォッシュを防ぐ根本対策」まで、専門的な視点で網羅的に紐解いてまいります。
SDGsウォッシュとは?
SDGsウォッシュとは、実態が伴っていないのにSDGsに取り組んでいるように見せかけている状態を指します。実際にはエコではないにもかかわらず、環境に配慮しているイメージを与えて消費者を誤解させることを「グリーンウォッシュ」と言いますが、この言葉がもとになってできた造語です。
グリーンウォッシュからSDGsウォッシュへの変遷
グリーンウォッシュは、20世紀の後半ごろから指摘されるようになりました。人々の環境意識が高まったことで、環境への配慮を打ち出すことが資金獲得やイメージアップにつながるようになった結果、一部の企業や活動団体でグリーンウォッシュが行われるようになったのです。
「グリーンウォッシュ(Greenwashing)」という言葉は、1986年に環境活動家のジェイ・ウェスターヴェルド(Jay Westerveld)氏によって提唱されました。彼は、ホテルが「環境保護のためにタオルの再利用を」と呼びかけながら、実際には裏で環境負荷の高い事業拡大を続けている矛盾を指摘しました。この「Green(環境)」と「Whitewashing(ごまかす、うわべを取り繕う)」を組み合わせた造語は、その後、企業の欺瞞的な環境訴求を批判する言葉として定着しました。
同様に、SDGsへの関心が高まっている現在、実態が伴っていないのにSDGsへの貢献を発信する企業が出てきています。また、取り組みが不十分であったり方法が間違ったりしているせいで、SDGsに貢献する意図はあるにもかかわらず、SDGsウォッシュだと批判されてしまう事例も生じています。
SDGsウォッシュは、グリーンウォッシュの概念をさらに拡張したものです。SDGsには環境(Environment)だけでなく、貧困、飢餓、健康、教育、ジェンダー平等、働きがい、人権など、社会(Social)やガバナンス(Governance)に関わる17の目標が含まれています。
換言すれば、「環境には配慮しているが、サプライチェーンで強制労働が行われている」「女性活躍を謳っているが、実態は男性優位の組織構造である」といったケースも、広義のSDGsウォッシュに含まれるのです。現代の企業は、多面的な視点での整合性が求められているといえるでしょう。
SDGsウォッシュとみなされる具体的な行為
SDGsウォッシュには明確な定義はありませんが、一般的に以下のような行為が該当すると考えられています。
【実態の欠如】
・SDGsに全く取り組んでいないにもかかわらず、取り組んでいるとアピールする ・目標だけ掲げて、具体的な行動計画や予算措置が伴っていない
【誇大表現】
・実際の取り組み以上に、よく見えるような誇大な表現や画像を使用する ・「世界初」「業界No.1」といった根拠の薄い最上級表現を多用する
【トレードオフの隠蔽】
・良い情報(ポジティブな側面)のみを発信し、不都合な事実(ネガティブな側面)を開示しない ・具体的には、電気自動車を販売して気候変動対策(Goal 13)を謳う一方で、バッテリー原料の採掘における児童労働(Goal 8への悪影響)を無視するなど
【曖昧さ】
・根拠を示さずに「エコ」「サステナブル」「地球にやさしい」といった抽象的な用語を使用する ・定義が不明確で、消費者が勝手に良いイメージを持つことを狙う
SDGsウォッシュが企業に与える影響
企業がSDGsウォッシュをしていると批判されてしまったらどのような影響が出るのか、具体的に見ていきましょう。
ステークホルダーからの信頼喪失とレピュテーションリスク
世界中のさまざまなステークホルダーがSDGsの理念に共感を寄せている現在、SDGsウォッシュであると批判されてしまうことは、企業にとって大きな痛手です。実態が伴わない状態でSDGsに貢献しているように見せかけることは、結果的に、SDGsにまったく貢献していない状態よりも企業の評判を低下させる可能性すらあるでしょう。
SDGsは、「貧困を終わらせ、地球を守り、地球上のすべての人々が平和と豊かさを享受することのできる社会を目指す」という目的を持っており、この大義は誰にも否定できるものではありません。これこそがSDGsの最大の特徴といえます。
だからこそ、SDGsウォッシュは多くの人からの強い批判にさらされるのです。消費者に自社商品をボイコットされてしまったり、取引先との関係を打ち切られたりするなど、企業イメージの低下にとどまらない直接的な損失を被ることもあり得ます。
特に近年はSNSの普及により、企業の矛盾は瞬く間に拡散され、「炎上」を引き起こします。Z世代を中心とした若い世代は、社会課題に対する感度が高く、企業の欺瞞に対して厳しい目を向けています。一度「嘘をつく企業」というレッテルが貼られると、ブランドイメージの回復には長い時間と莫大なコストを要するでしょう。不買運動(ボイコット)だけでなく、優秀な人材が採用できなくなる「採用ブランディングへの悪影響」も深刻です。
せっかくSDGsに沿った経営を進めようとしているのに、やり方を間違えてしまったせいで批判されたら元も子もありません。SDGsウォッシュであると指摘されないような取り組みを行う必要があります。
金融市場からの排除(ESG投資とダイベストメント)
SDGsウォッシュの影響は、消費者からの評判だけにとどまりません。金融市場におけるリスクが近年急激に高まっています。
投資撤退(ダイベストメント)の拡大
世界最大の政府系ファンドであるノルウェー政府年金基金(GPFG)は、環境破壊や人権侵害に関与する企業への投資を撤退する厳しい基準(ネガティブ・スクリーニング)を設けています。実際に、環境配慮を謳いながら森林破壊に関与していた企業などが投資対象から除外(ブラックリスト入り)されています。
ESG評価の低下
機関投資家は、財務情報だけでなく非財務情報(ESG:環境・社会・ガバナンス)を重視しています。実態のないアピールは「ESGウォッシュ」とも呼ばれ、格付け機関による評価を下げる要因となります。これにより、株価の下落や資金調達コストの上昇を招く恐れがあるでしょう。
融資への影響
銀行などの金融機関も、投融資判断において企業のサステナビリティを評価するようになっています。ウォッシュ認定されると、新たな融資が受けられなくなったり、既存の融資が引き揚げられたりするリスクがあります。
法的規制と制裁(グリーン・クレーム指令と景品表示法)
「批判されるリスク」を超えて、「法的に罰せられるリスク」が高まっています。欧州や日本において、SDGsウォッシュを規制する動きが急速に進んでいます。
欧州(EU):グリーン・クレーム指令(Green Claims Directive)
EUは世界で最も厳格な規制を進めています。2023年に欧州委員会が提案した「グリーン・クレーム指令」は、日本企業にも多大な影響を与えます。
【実証義務】
「エコ」「環境にやさしい」「カーボンニュートラル」といった曖昧な主張をする場合、科学的根拠(ライフサイクルアセスメントなど)に基づいた証明が義務付けられます。
【第三者検証】
企業が環境主張を行う前に、独立した第三者機関による検証を受ける必要があります(事前検証制度)。
【罰則】
違反した場合、売上高の少なくとも4%の罰金や、公共調達からの除外といった厳しい制裁が科される可能性があります。
この指令はEU域内で活動する企業だけでなく、EUに製品を輸出する日本企業にも適用されるため、グローバルサプライチェーンを持つ企業にとっては喫緊の課題といえるでしょう。
日本:不当景品類及び不当表示防止法(景表法)
日本国内でも消費者庁による監視が強化されています。根拠のないSDGs・環境訴求は、景品表示法上の「優良誤認表示」(実際のものよりも著しく優良であると示すこと)に該当し、措置命令や課徴金納付命令の対象となります。
【違反事例】 2022年、消費者庁は「生分解性プラスチック」を使用したカトラリーなどを販売していた複数の事業者に対し、措置命令を行いました。これらの企業は「自然に還る」「環境にやさしい」と謳っていましたが、実際には特定の条件下でしか分解されないなど、表示を裏付ける合理的な根拠が認められませんでした。このように、日本では「根拠のない表示」に対して厳しい法的措置が取られるフェーズに入っています。
SDGsウォッシュと批判されている具体的な事例
では、SDGsウォッシュにはどのような事例があるのでしょうか。
『グリーン・ライ』が暴く認証ビジネスの闘
『グリーン・ライ エコの嘘』というドキュメンタリー映画があります。環境に優しいとうたわれている商品が実際にはどのように生産され消費者のもとに届けられているのか、その舞台裏を解明しようとした映画です。エコの認証を受けているはずの商品でも、実は環境に悪影響を与えて気候変動を加速させているかもしれない、という現実が描かれています。巧妙に隠されていたり気が付いていなかったりするだけで、SDGsウォッシュの事例は実は身近にもかなり存在するのです。
具体的な日本の企業の例
具体的な日本の企業の例も見てみましょう。
金融機関の石炭火力発電方針
三菱東京フィナンシャルグループや三井住友フィナンシャルグループは2019年、新規の石炭火力発電所向け融資を原則として中止することを公表しました。二酸化炭素の排出を削減し、地球温暖化の防止に寄与することが目的です。これは環境保全にもつながり、歓迎されるべき決定であるはずです。
けれど、批判の声が上がりました。なぜなら、現段階で投融資中の石炭火力発電所については投融資を中止しないという経営判断が、地球温暖化の防止を目指したパリ協定への取り組みに不十分だと考えられたからです。もっと踏み込んだ決断をしなければSDGsを推進しているとは言えない、ということです。
批判を受けた両グループは、2020年に、石炭火力発電所への融資残高を2040年度に向けて段階的にゼロにする方針を新たに発表しました。この方針は一定の評価を受けましたが、もっと迅速な脱炭素の取り組みを進めることができるのではないか、という意見も根強く残っています。
この事例は、「部分的な改善(新規融資の停止)」だけでは評価されず、むしろ「残存する大きな課題(既存融資の継続)」に注目が集まってしまうSDGs特有の難しさを示しています。ステークホルダーは「以前より良くなったか」という相対評価だけでなく、「パリ協定(1.5度目標)などの国際基準と整合しているか」という絶対的な基準で企業を評価します。中途半端な妥協案は、かえって批判を招く可能性があるのです。
日本政府の対応への批判
日本政府にも、SDGsウォッシュとの批判があります。
日本政府はSDGs推進本部を設置し、SDGsへのコミットメントを打ち出しています。しかし、2018年にカナダで開催されたG7シャルルボワ・サミットでは、「海洋プラスチック憲章」に署名しませんでした。
現在、廃棄されるプラスチックごみの影響で海が汚染されて海の生態系や人々の健康に被害をもたらしている問題が、国際的に注目されています。海洋プラスチック憲章は、各国内におけるプラスチックの規制強化を進めることでこの問題に対処しようとするグローバルな合意ですが、SDGsを推進しているはずの日本政府がこの憲章に署名しなかったのです。その背景には国内規制の課題などさまざまな理由があったのですが、結果としてSDGsウォッシュだとの批判を受けてしまいました。
アパレル業界とサプライチェーンの人権問題(ウイグル問題)
アパレル業界では、サプライチェーン上の人権問題が大きな火種となります。
2021年、中国・新疆ウイグル自治区における強制労働疑惑に関し、フランスのNGOが複数のグローバル企業や日本のアパレル企業を告発しました。これらの企業はウェブサイト等で「サプライチェーンにおける人権尊重」を掲げていましたが、実際には強制労働に関与している疑いがあるとされたのです。
この問題に対し、ある大手アパレル企業のトップが決算会見で「政治的な質問にはノーコメント」という姿勢を貫いたことは、さらなる批判を呼びました。「人権問題に対する感度が低い」「都合の悪いことには蓋をする」と受け取られ、結果として株価の下落やブランドイメージの毀損を招きました。SDGsにおいて「沈黙」は中立ではなく、「現状追認(共犯)」とみなされるリスクがあるのです。また、米国ではウイグル強制労働防止法に基づき、関連製品の輸入差し止め措置が取られるなど、ビジネスの実害も発生しています。
なぜSDGsウォッシュが起こるのか
意図的にSDGsウォッシュを行うのは言語道断ですが、そのつもりがないのに結果としてSDGsウォッシュと批判される可能性もあります。では、なぜSDGsウォッシュが起こるのでしょうか。主な3つの要因をご紹介します。
自社の事業とSDGsを結びつけることができていない
よく見られる失敗が、自社の事業とSDGsを結びつけることができていないケースです。SDGsを企業の経営に統合させる指針として、SDGコンパスというものがありますが、そのSTEP4である「経営への統合」がうまくできていない企業が多いのです。
自然環境や社会に配慮したサステナブルな資源や原材料を使うと、費用が高くなってしまいがちです。そのため目の前のコスト負担を嫌って、事業に深く関係する事柄には手を付けず、直接的には事業と関係のない社会貢献活動などを進めようとしてしまうことがあります。もちろん社会貢献活動にも意味はありますが、SDGsを経営に統合させて事業の一環として推進していることにはなりません。
SDGsの理念を組み入れた事業を進めることができていたら、短期的な収支がマイナスになる可能性はあったとしても、長期的にはメリットの方が大きいはずです。「サステナブル」や「エコ」を強みとして売り出すことで、固定客が増えたり企業の評判が高まったりするからです。また、同じ価値観で経営しているほかの企業との協働なども進めやすくなるでしょう。
重要なのは、事業の特性を活かしてどのようなSDGs戦略を立てるか、ということです。自社独自のSDGsの目標を設定するようにしましょう。
「本業でのマイナス(環境負荷や劣悪な労働環境)」を放置したまま、「本業以外のプラス(植林活動や寄付)」で帳消しにしようとする姿勢は、典型的なウォッシュの構造です。これを「チェリーピッキング(いいとこ取り)」と呼びます。SDGsは慈善活動(CSR)の延長ではなく、本業のプロセスそのもの(CSV:共通価値の創造)を持続可能なものに変革することを求めています。
サプライチェーンを管理しきれていない
サプライチェーンの管理ができていない場合も、SDGsウォッシュの批判を受ける可能性が高くなります。自社内では環境配慮や労働条件の改善などといったSDGsの理念に合う取り組みを進めていても、サプライチェーンが長く複雑になればなるほど、その上流から下流までをすべて正確に把握するのは難しいからです。
たとえば、委託先が環境配慮に無頓着だったり劣悪な労働条件を放置していたりすることがあるかもしれません。すると、その委託先だけが批判されるのではなく、委託元の企業も批判を受けるリスクがあります。取引先が海外にある場合などは、物理的な距離に阻まれて状況を把握できないこともあるでしょう。また、国や地域が違うと法制度が異なり、労働条件や文化的な背景も変わってくるため、適切な管理が難しくなるという事情もあります。
SDGsは自社の中だけでコミットすればいいというものではありません。委託先なども含めて、事業にかかわるすべての部分でSDGsの理念に合うように企業活動を行う必要があります。サプライチェーンの全体を適切に管理する手腕が問われているのです。
現代の企業責任は「Scope 3(サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量)」や「人権デューデリジェンス」へと拡大しています。「知らなかった」では済まされない時代であり、直接取引のある1次サプライヤーだけでなく、2次・3次サプライヤーの実態把握まで求められています。ある大手食品チェーンが、持続可能なパーム油の使用を宣言しながら、実際には森林破壊に関与するサプライヤーから調達を続けていたとしてNGOから批判された事例などは、まさにこの管理不足が招いた結果といえるでしょう。
社内のSDGsへの取り組みへの理解が足りていない(組織の分断)
社内におけるSDGsの理解が追い付いていないために取り組みが計画通りに進まず、SDGsウォッシュとなってしまうこともあります。
社内でのコミュニケーションが足りていなければ、全社的な取り組みにはなりません。経営層やSDGs戦略を取り扱う部署ではSDGsの価値観が浸透していたとしても、その他大勢の従業員には「本部がまた面倒ごとを押し付けてきた」と捉えられてしまう可能性もあるでしょう。面従腹背のような状況となり、上辺では納得しているように見せかけつつも日々の業務の中では取り組まないといった状況も起こりえます。
また、理想を語るのは大切なことですが、語られるのが綺麗事ばかりで会社や社員にとってのメリットが伝わらなければ、実際に現場で働く従業員のエンゲージメントがむしろ低くなってしまうこともあります。SDGsは新たなビジネスを開拓するチャンスなのだ、ということを社内で適切にコミュニケーションしなければいけません。どのようなストーリーを用意して社内の共感を得るのか、というのが重要なポイントとなるのです。
そもそもSDGsの推進に関わるような大がかりで長期的な目標というのは、現場レベルにまで落とし込むのは難しいものです。全員が理解し共感できるようなコミュニケーションを行わなければいけません。情報発信と言うと社外に目を向けてしまいがちですが、自社がSDGsという現代の価値観にどう対応していくのか、まずは社内での理解形成を進めてみてはいかがでしょうか。
ソフィア独自調査が示す「共感わずか1割」の衝撃
この「社内の理解不足」は、データによっても裏付けられています。
弊社ソフィアの調査では、経営層が発信する会社の方針や戦略に対し、従業員の「共感」が得られている割合はわずか1割程度にとどまることが明らかになりました。
この調査結果は、大企業の経営企画部門にとって衝撃的な事実を示唆しています。経営層がいくら高尚なSDGsビジョンや中期経営計画を策定し、外部に向けて発信しても、現場で実際に手を動かす従業員の9割は、その内容に心から共感していないのです。この「認識のギャップ(ズレ)」こそが、無自覚なSDGsウォッシュを生む最大の温床です。
具体的には、以下のような乖離が生じています。
【経営層】
「我が社はサステナビリティを最優先する」と統合報告書で宣言。
【現場】
「現場はコスト削減と納期遵守で手一杯。サステナビリティなんて気にする余裕はない」と従来通りの業務を継続。
この乖離がある状態で外部発信を行うと、現場の実態と乖離した「誇大広告」となります。最悪の場合、現場からの内部告発によってウォッシュが露呈することになるでしょう。
また、同調査では「1on1ミーティング」がコミュニケーション施策として最も多く実施されている一方で、「効果が出ていない施策」としても挙げられており、単なる「対話の場」を設けるだけでは戦略の浸透には不十分であることも示唆されています。
消費者視点でSDGsへの取り組み貢献度が評価されている企業
ここまで、SDGsウォッシュの問題点と原因、その回避方法を見てきました。
それでは、具体的にどのような企業が、消費者にSDGsウォッシュと批判されず、その取り組みを高く評価されているのでしょうか。ここからは、消費者視点で企業のSDGsへの取り組みを評価した、株式会社ブランド総合研究所の「企業版SDGs調査2021」を参考に、消費者から高い評価を受けている企業をご紹介します。
1位 トヨタ自動車:トヨタ環境チャレンジ2050
2020年度の調査から2連続の1位に輝いたのは、世界的な自動車メーカーのトヨタ自動車です。同社は2015年、地球環境問題に向き合い取り組むための「トヨタ環境チャレンジ2050」を打ち出しました。「新車CO2ゼロチャレンジ」など、重点的に取り組む事柄を6つ選出し、それぞれに2025年と2030年のマイルストーンを定めています。それがどの程度達成されているか、毎年進捗を確認しているのです。具体的な目標と、進捗確認を行っているという点で、実態を伴うSDGsへの取り組みであるように見えます。
また環境への取り組み以外に、技術革新を通じて交通事故死傷者や移動弱者をなくすこと、人権やダイバーシティを尊重することなども、同社のSDGsに対する取り組みの一部です。同社ホームページには多くの取り組み事例が情報開示されており、同社の意欲が感じられます。

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2位 ユニクロ:一時ニュースを騒がせたが、消費者の評価は高い
なんと2位は、ユニクロです。先にSDGsウォッシュの事例として取り上げたユニクロが、なぜ2位にランクインしているのでしょうか。これについては後ほど議論をいたします。
3位 サントリー:水の課題に優先して取り組む
サントリーは、「人と自然と響きあう」「Growing for Good」の理念の下、SDGsに取り組んでいます。同グループは、同グループとステークホルダーにとっての重要課題を分析し、水・衛生、健康・福祉、責任ある生産・消費、気候変動対策の4つを、優先目標として特定しました。なかでも同グループの重要な原料である水の課題については、最優先で取り組むとし、持続的な水利用に関する認証制度の推進などを行っています。このほか、コーヒーやカシスといった原料についても、持続可能な農業を通じて確保できるよう、取り組みを進めています。
また、各項目に対し方針やビジョンを定めるほか、取締役直下にグローバルサステナビリティ委員会を設置することで、SDGs達成に向けた社内体制の構築を進めています。国連グローバル・コンパクトなど、SDGsに関する国際的なイニシアティブにも参画をしています。
4位 日清食品:エシカル消費は事業拡大の好機
カップヌードルなどの食品ブランドを展開する日清食品グループは、2020年に代表取締役社長・CEOを委員長とする「サステナビリティ委員会」を設立し、サステナビリティ向上を目指した社内体制を整えました。SDGsに関しては、災害発生時のインスタントラーメンの無償提供などを通じた「目標2:飢餓をゼロに」に対する貢献や、健康志向に応える製品の開発を通じた「目標3:すべての人に健康と福祉を」に対する貢献などを掲げて、食品メーカーとしての独自の貢献を狙っています。
また、環境や社会に配慮した製品を選択的に購入する「エシカル(倫理的)消費」の流行を、同グループの事業拡大のチャンスととらえ、認証を受けた材料の利用や、プラスチック使用量の削減、植物代替肉の使用などを通じ、幅広くSDGsに貢献するとしています。同グループは国連グローバル・コンパクトにも参画しています。

SDGsの必要性とは?経営に不可欠な理由と社内浸透の具体策 【2025年版】
企業がSDGsに取り組む必要性を、最新の市場動向や法規制(SSBJ/CSDDD)から徹底解説。経営戦略への統合と、課題とな…
5位 イオン:ハートフル・サステナブル
大規模商業施設を展開するイオンは、「ハートフル・サステナブル」のスローガンの下、SDGsに対する取り組みを進めています。同社の取り組みの一つは、同社の商業施設を、地域の防災拠点・復興拠点とする活動です。商業施設で定期的な防災訓練を行うだけでなく、地域が広く被災した際に電力や飲料水を提供できるように備え、地域に貢献することを目指します。
また、2050年の「脱炭素社会」の実現を見据えて同社が推進しているのは、「次世代スマートイオン」構想です。商業施設に電気自動車充電器や太陽光発電システム、LED照明などの、環境負荷の低い最新技術の導入を進めています。環境と調和したまちづくりを通じて、SDGsへの貢献を狙います。
なぜユニクロが2位にランクインしているのか
さて、先ほど「企業版SDGs調査2021」から上位5社をご紹介しましたが、2位にユニクロがランクインしていました。
同調査は、先ほど紹介したユニクロの柳井会長の発言が報道されたのと同じ月に行われています。ウイグル問題の記者会見の翌日に株価を下げた、あのユニクロが、なぜ2位にランクインしているのでしょうか。これには2つの仮説があげられます。
仮説①:SDGsに関するニュースが一般の消費者に広まらない
まず、「そもそもSDGsに関するニュースが一般の消費者にあまり知られていない」、という仮説が考えられます。SDGsの認知度は年々上がっており、SDGsウォッシュを批判する意識的な消費者が現れているといえど、残念ながら多くの消費者はSDGsに対していまだ無関心です。
2021年の調査に参加した消費者のうち、SDGsを「知らない」と答えたのは25.9%、「SDGsという言葉は知っている」と答えたのは37.7%でした。これらSDGsに対する関心の低い消費者が全体の6割超を占め、ユニクロに関する報道に敏感に反応しなかった、ということが考えられます。
仮説②:企業のイメージ戦略が効果を発揮している
次に、「企業のイメージ戦略が効果を発揮している」という仮説も十分に考えられるでしょう。SDGsウォッシュは、さもSDGsに貢献しているようなふりをしながら、もしくは貢献しているつもりでも、実態が伴っていないために批判をされます。そのため、企業がSDGs推進企業としてのブランドイメージを確立していれば、実態が具体的に明るみになるまでは、「SDGsに対して積極的に取り組んでいる」と評価をされます。
これら2つの仮説は、ユニクロ以外のほかの企業にも言えることです。消費者の評価を得ているからといって、必ずしもその企業がSDGsに貢献しているとは限りません。また、企業のサプライチェーンは複雑で、いくら管理を徹底するといっても、どうしてもミスや漏れが発生してしまいます。消費者にとっても、企業にとっても、企業のSDGsの貢献度合いを評価するには、ブラックボックスがつきまとうのです。
投資家や消費者の目は厳しくなっている
本記事の冒頭で、SDGsウォッシュと批判を受けることで、企業の評判の低下や、直接的な損失が生じうることを指摘しました。しかし、消費者の反応が薄いのであれば、どちらにせよブラックボックスを避けられないのならば、そうした批判は少数派からの一時的なもので、そう気にする必要はないのでは、と思われる方もいるかもしれません。
しかし、「企業版SDGs調査2021」では、以下のような興味深い点も明らかになっています。
回答者のSDGsの認知度は、前年度の結果から急上昇しているのです。2020年時はSDGsを「知らない」という回答が61.0%だったのに対し、2021年には25.9%へと急速に減少しています。また、「SDGsという言葉は知っている」という回答は、2020年時の15.1%から、37.7%へと大幅に増えています。このように、消費者の意識が変容しつつある中、SDGsウォッシュに対する消費者の目は、今後厳しくなっていくと考えられます。
また、日本の消費者のSDGsに対する関心が低いままであったとしても、投資家の見方は変化しています。ESG投資のように、投資家が社会的責任を果たそうとするトレンドは、すでに世界的なムーブメントとなっています。さらに、グローバルに展開する企業であれば、ユニクロの製品がアメリカで輸入差し止めに合ったように、海外の規制やトレンドを無視することはできません。SDGsやCSRといった企業が果たすべき責任を軽視していると、海外の取引先から取引停止を求められる可能性もあります。
そしてブラックボックスの問題に関しては、現在NGOなどによって、企業のSDGsウォッシュを見逃さないために、詳細な企業調査がさかんに実施されています。SDGsウォッシュと批判を受けないためには、普段からSDGsに対して取り組むだけでなく、ブラックボックスをできるだけ小さくする試みを重ねることが重要です。
また同時に、現在多くの企業で内部通報制度や第三者監査の体制構築が進むなど、できるだけブラックボックスを小さくする取り組みが行われています。内部通報制度や第三者監査に取り組んでいたはずの、ユニクロ柳井会長の「ノーコメント」発言が批判を浴びたのは、実態はどうあれ、ブラックボックスをそのままにしたいという「姿勢」を、会長自らが示してしまったためではないでしょうか。
さらには、何か問題が起こってしまったときに、迅速に解決に向けて動けるように備えることも、ユニクロの例を見ると、重要であると考えさせられます。
このような理由があるからこそ、SDGsに真剣に取り組む必要があるのです。
SDGsウォッシュを回避するために
SDGsウォッシュが生じてしまう理由がわかったところで、SDGsウォッシュを回避するためのポイントを再度確認してみましょう。
自社としての解釈を持ち、理念やビジョンにあった取り組みを行う(SDGコンパスの活用)
自社の価値観と親和性の高いSDGsの目標を選択するのが、SDGsウォッシュを回避するためのもっとも大切なポイントです。SDGsが目指す未来を、まずは自社としての解釈に落とし込んでみましょう。経営方針や事業内容と照らし合わせ、自社に合う形で取り組みを進めることで、企業活動に余計な負荷をかけることなくSDGsの推進ができるのです。
SDGsの17の目標すべてに均等にコミットしなければいけないわけではありません。むしろ、SDGsを盲信して何の戦略もないままに促進しようとする方が危険です。必ずしもSDGsのために、今までとはまったく異なる新しいことを始める必要はないのです。企業理念や経営ビジョンに沿った取り組みを選択しましょう。
具体的には、国連が定める企業行動指針「SDGコンパス(SDG Compass)」の5つのステップを活用することが有効です。
- SDGsを理解する:基本知識の習得
- 優先課題を決定する:バリューチェーン全体の影響をマッピングし、自社が取り組むべき「マテリアリティ(重要課題)」を特定する
- 目標を設定する:2030年に向けた野心的な目標(KPI)を設定する
- 経営へ統合する:経営戦略と一体化させる
- 報告とコミュニケーションを行う:進捗を透明性を持って開示する
特に「ステップ4:経営への統合」がウォッシュ回避の肝となります。
サプライチェーンを適切に管理する
SDGsウォッシュを回避するための次のポイントは、サプライチェーンの適切な管理です。先述の通り、サプライチェーンが管理できていなければSDGsウォッシュの批判リスクも高まります。それを避けるためには、サプライチェーン上でSDGsに反した活動が行われないような仕組みづくりが必要なのです。
コミットするSDGsの目標に合わせて達成すべき項目を書き出し、取引先とも共有しましょう。定期的に監査を行い、サプライチェーン上で各項目が守られているかを確認する体制を構築しなければいけません。また、取引先が自社の価値観と共鳴するかを見極めるためにも、コミュニケーションを継続しましょう。
SDGsウォッシュの批判を避けるためには、SDGsに反した活動は自社内だけでなくサプライチェーンのどの部分においても許容しない、というコミットメントを示すことが求められています。
1on1(ワンオンワン)とは?目的やメリット、部下の成長を促すテクニックや話題例を紹介
最近は米国シリコンバレー由来の「1on1(ワンオンワン)」という新たなミーティングの手法がトレンドになっています…
社員の理解を得るための社内コミュニケーションを行う(ソフィア調査からの提言)
すでに述べた通り、経営方針を社内全体に浸透させるためには社内コミュニケーションが重要です。経営層だけでなく、現場レベルで働く社員まで含めた全員がSDGsを推進する必要性を理解していなければいけません。組織の内部で共感を生み出せていない価値観が外部に正しく伝わるはずがないからです。
経営方針を明確に定めて具体的な目標に落とし込み、社内に対して情報を発信しましょう。社内コミュニケーションが適切に行われている企業ほど、社内でのSDGsへのコミットメントも高くなるものです。逆に言えば、理念が社員に正しく伝わっていなければ、現場の社員に反発心が生まれて面従腹背の状態となり、SDGsウォッシュにつながるリスクもあります。
社内における共通目標が明確で、社内全体としてのコミットメントが高いほど、SDGsウォッシュは発生しにくくなります。社員の理解と共感を得られるようなコミュニケーションを心がけましょう。
「共感1割」を打破するための社内施策
弊社ソフィアの調査で明らかになった「戦略への共感1割」という現状を打破するためには、単なる情報伝達(一方通行の発信)ではなく、対話を通じた「腹落ち」のプロセスが必要です。
弊社ソフィアの調査では、1on1ミーティングなどの対話施策が「実施率」と「非効果の実感」の両方で上位に挙がるというパラドックス(逆説)が見られました。これは、手段としての対話は行われているものの、その「質」が伴っていないことを示唆しています。形式的な1on1や上意下達のコミュニケーションでは、従業員の共感は生まれません。
SDGsウォッシュを防ぐ社内浸透のためには、以下の3つの柱(ソフィアの提唱するフレームワーク)が有効です。
- 対話:
SDGsが「自分の業務」にどう関係するのかを翻訳し、本音で語り合う場の創出。部門を超えたワークショップなども有効です。 - 教育:
従業員のリテラシー向上。なぜ今SDGsなのか、ウォッシュのリスクは何か、景表法などの法的知識も含めて正しく学ぶ機会の提供。 - ツール:
社内報やイントラネット等のメディアを活用し、経営の想いと現場の好事例(ベストプラクティス)を双方向で共有する仕組み。
これらの施策を有機的に組み合わせ、従業員一人ひとりが「自社のSDGs」を自分の言葉で語れる状態を目指すことこそが、最強のSDGsウォッシュ対策となります。
まとめ
SDGsウォッシュとは何か、そして回避するために大切なことは何か、というポイントがおわかりいただけたでしょうか。企業のSDGsへの取り組みは、多くの人々から注目されています。対外的な見せ方と社内での取り組みを使い分けるようなダブルスタンダードは長続きしません。企業として、明確な方針と目標を持っておきましょう。
利益だけを追求するのではなく自然環境や地域社会にも配慮しようというSDGsの理念は本来、多くの日本企業の価値観との親和性が高いものです。自社なりにSDGsを解釈し、事業内容や経営理念に沿った方法でSDGsに貢献していけるよう、検討してみてください。
まとめると、SDGsウォッシュは、企業にとって致命的なリスクであると同時に、自社の経営のあり方を見直すための重要なシグナルでもあります。外部へのアピールを急ぐ前に、まずは足元の「社内の共感」と「サプライチェーンの実態」を見つめ直してください。特に、経営と現場の認識ギャップを埋めるインターナルコミュニケーションは、一朝一夕には成し遂げられないものの、着実に企業の「基礎体力」を高め、SDGs経営を成功に導く鍵となるでしょう。








