
2020.10.26
大企業病とは?中小企業でも起こりうる症状と原因

目次
「大企業病」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。大企業病とは、企業や企業に属する社員が、組織の拡大によって陥ってしまうさまざまな状態を指します。例えば、風通しが悪くなる、意思決定までの時間やプロセスが長い、安定志向になり変革を嫌う、社内政治が蔓延するといったものが代表的です。また、実はこの大企業病は、中小企業でもかかってしまいます。知らず知らずのうちに自社が大企業病にかかっていたとしたら、手遅れにならないうちに早急に改善すべきです。
本記事では大企業病の定義と大企業病の「検査」方法について、また国内で大企業病にかかった大手企業の事例を紹介しつつ解説します。
大企業病の症状は定義されていない
大企業病という言葉自体は世間に広く認知されているものの、大企業病の症状については明確に定義されていません。そのため、冒頭ではあえて「さまざまな状態」と表現しました。
ただし、大企業病には代表的な症状がいくつか存在し、これらをチェックしておくことで大企業病かどうか傾向を把握することができます。
以下は大企業病とされる症状の一例です。
- リスクをとることを恐れる
- 企業体制が内向きで現場や市場の声が経営に届かない
- 管理者が保守的で動かない
- 社員は与えられた仕事をこなすだけで、主体的に考えたり動いたりしない
- ぶら下がり気質の社員が多い
- チームや組織全体の意思決定が遅い
- 社内稟議や承認フローなどに手続きが多い
例を見ると、組織体制そのものだけでなく、企業の文化や社員の意識や行動も大企業病の要素であることがわかります。
大企業病にかかる原因
企業が大企業病にかかるとされる原因は諸説あり、実は中小企業でも以下のような状態が続くと大企業病にかかることがあります。
経営が安定している状態
企業の経営が安定していると、大きな成長がなくなり、リスクを犯して新たなことにチャレンジする必要性もなくなります。
この状態では企業はある程度「定型化された仕組み」で回すことができ、この仕組みを忠実かつ正確・迅速に回せる人材が評価されるようになります。逆に、イノベーションを起こそうとする野心家は煙たがられ、歓迎されなくなるわけです。すると、企業は現在の仕組みを回すことに終始する守りの状態に移行します。自社が守りに入り出したと感じたら大企業病の初期症状です。
症状が進行すると多くの社員が守りに入り、その状態に疑問を抱かなくなります。さらに、新しいことを始めようとする風潮を避けたり抑圧したりする風土が会社全体に生まれ、負のスパイラルに陥っていくわけです。
企業のビジョンやミッションが社員間に浸透していない
大企業になればなるほど、組織の結束が難しくなるのは自然なことです。企業は果たすべき使命や達成すべき目標、あるべき理想像を持ち、企業理念やビジョン、ミッションという形で共有されています。しかし、これらの思想が社員に浸透していないと、社員は与えられた業務を遂行するだけのぶら下がり人員となってしまいがちです。目の前の仕事を無難にこなすことに終始し、新たなことを始めたり、成長しようと努めたりすることがなくなってしまうのです。
社員がたくさんのルールに縛られている状態
企業規模が大きくなればなるほど、統率をとるためのルールが多くなります。ルールが増えると自ずと自由度が失われるため、変革に必要な型破りな発言や行動が生まれにくくなります。そして、ルールに過剰に固執する社員が生まれ、ときには風通しを悪くしてしまうとこともあるでしょう。それは、本来企業活動に必要とされる組織の新陳代謝が著しく落ちる原因にもなります。
コミュニケーションが不健全である
企業に限らないことですが、努力した人を労ったり称賛したりしない組織や、出る杭を打つような風土、裏で陰口を言い合うような組織は、風通しが悪くなります。そのような組織では、意見を口にすることがはばかられ、挑戦しようという気概が徐々に失われていくことになるでしょう。人は当たり障りのないことしか言わず、無難な行動しかしなくなります。また、淀んだ空気に息苦しさを感じて人が離れていくようにもなっていくはずです。離職の原因はその多くが人間関係にあることは、誰もがよく知っているのではないでしょうか。
大企業病にかかっているどうかを知る方法
自社が大企業病にかかっているかどうかを知るには、アメリカの経済学者であるラリー・E・グレイナー氏が論文「ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー」内で提唱した「企業成長の5段階説」が参考になります。以下に図を挙げておきます。
- 第1段階:創造性による成長|統率の危機
- 第2段階:指揮による成長|自主の危機
- 第3段階:委譲による成長 |統制の危機
- 第4段階:調整による成長|形式主義の危機
- 第5段階:協働による成長|新たな危機?
企業成長の第1段階「創造性」では、創業者のリーダーシップによって企業は成長します。しかしその結果、企業規模の拡大や事業の拡大によって組織の統率が取れなくなるリスクに企業は直面します(統率の危機)。
第2段階の「指揮」では、前段階の危機を回避するために指揮系統を明確にし、リーダーを設置します。すると社員は自主性を失い、指示されたことしかやらなくなります(自主の危機)。早いところではこのあたりから、大企業病の兆候が生じはじめます。
次の第3段階「委譲」では、各人に権限とそれに応じた責任を委譲し、ある程度の範疇で裁量を持たせるようになります。ここでは全体のバランスが崩れ、統制やガバナンスが作用しなくなります(統制の危機)。内部に課題の多い大企業ではよくあるケースです。
第4段階は「調整」です。統制を図るために全体の仕組みを整理し、システムを導入します。結果、アメリカの人類学者デヴィッド・グレーバーがその著書の中で「ブルシットジョブ」と呼んだ、煩雑化した調整や形骸化した承認などの業務が多数発生し、管理業務の負担が大きくなります(形式主義の危機)。これも大企業ではよく聞かれ、この段階で成長が停止している企業が圧倒的多数を占めるでしょう。
そして最終段階が「協業」で、企業理念やミッション、ブランドといった価値観や考え方の範囲内で協業するよう全社に促します。これが達成できるのが企業の理想的な状態です。
企業規模や成熟度の違いはありますが多くの企業は、成長段階にあわせて「調整(自主リスクの回避)」と「委譲」とを繰り返しているのではないでしょうか。これは、企業の遠心力と求心力の関係でも説明ができます。
つまり、大企業病は、遠心力への不安から、自主の危機や統制の危機が起こり求心力ではなく、形式主義を選択し危機に直面している状態であると考えられます。
では、すべてのリスクを乗り越え、形式主義を選択せず、求心力を高めていくには、どのように大企業病を回避すればよいのでしょうか?
大企業病から抜け出す方法
自社がリスクにとらわれて大企業病にかかってしまっているとしたなら、一刻も早く改善の必要があります。シンプルで重要なポイントを押さえておきましょう。
上下左右の意思疎通と自発力の活性化を図る
企業が大きくなればなるほどコミュニケーションの問題は大きく頻繁に勃発します。これはチームレベルのものから部門レベル、また経営層と現場との間でも発生するものです。先ほどの成長段階でいえば、統率が取れていない状態や、自主性を失った状態が該当します。
統率が取れていない場合は、リーダーがしっかりと権限を持ち、部下を指揮しながら意思の疎通を図る必要があるでしょう。また、自主性を失った状態では社員に裁量を持たせ、チャレンジを是とする風土づくりが必要となってきます。
企業のミッションやビジョンを明確にする
社員はとかく目の前の自身の業務やクライアントに目が向きがちです。そうなると、企業の一員として企業の利益に貢献することや企業が向かう方向を見失うことにもなり得ます。経営層は、企業のミッションやビジョンを明確にした上で、絶え間なく社員に伝え続ける必要があります。
多様性を重視する企業文化の創出
一人ひとり異なる考え方を持った人が組織の中で協働しているという事実は昔も今も当たり前のことですが、組織の風通しの悪さが視野をさえぎり、分断や同調圧力、不平や不満、衝突を生み出してきました。近年、企業においてはダイバーシティ推進が盛んに叫ばれていますが、さまざまな属性のメンバーが同居する組織では多様な価値観に対して寛容になりやすいものです。企業として多様性を重視する文化の創出し、風通しのよい企業文化をつくっていくことが、これからは企業規模にかかわらず不可欠といえるでしょう。
そしてこうした文化を醸成するのが、インターナルコミュニケーションやインターナルブランディングです。インターナルコミュニケーションによってVMV(Vision Mission Value)を共有することが、成長の最終段階である協業へ進むカギになります。
また、インターナルブランディングによって、共有したVMVを強化することにもつながるわけです。
大企業病から回復した企業事例
最後に、大企業病にかかりそこから見事に回復を見せた企業の事例を2社紹介します。
トヨタ
トヨタはその失敗史が「トヨタの反省力」という書籍になっているほど、数限りない失敗を繰り返している大企業です。同社が1990年前半に陥った症状は、組織の硬直化による意思決定の遅さでした。
そこで同社は、「トヨタウェイ」の編纂に着手することになります。これは、同社の経営理念や価値観を冊子にまとめたもので、「知恵と改善」「人間性尊重」という2つのテーマを柱に、「チャレンジ」「改善」「現地現物」「リスペクト(尊重)」「チームワーク」という5つのキーワードで構成され、英文版も含む冊子として国内外の事業体に配布されました。
トヨタウェイの策定を主導した張富士夫社長は、冊子の冒頭で、トヨタウェイは「トヨタに働くわれわれの行動原則となるもの」と述べています。その上で、「皆さんには、常に『それはトヨタウェイか?』を問う姿勢」をもつよう呼びかけています。
そしてトヨタウェイは今に至るまで業務遂行の基盤として、新入社員はもとより中途採用者や異動者の導入教育などにも積極的に活用されており、インターナルコミュニケーションとインターナルブランディングがうまく働いた好例といえるでしょう。
パナソニック
パナソニックのかかった大企業病は、新しいものをやろうとすると阻まれたり、社員の同質性が強かったりといったものでした。それを打開したのは、2012年に組織の活性化に取り組む有志団体「One Panasonic」を立ち上げた、当時入社6年目の若手社員の濱松誠氏です。濱松氏が最初に行ったのは、社内横断の交流会でした。経営幹部と若手社員の距離を縮めることで全社に企業のビジョンやミッションを浸透させることがねらいで、若手社員の中にはスキルアップのためにビジネススクールに通い始めたり、退職を思いとどまったりしたこともあったそうです。
さらに年に一度の総会「ONE JAPAN カンファレンス」を他企業と一緒に立ち上げて、会員が所属する企業の新規事業を展示したり企業のコラボレーションを促進したりと、社員の熱量を大きく上げることに成功しています。
参考:ONE JAPAN カンファレンス公式サイト
大企業病の改善は早急に
大企業病の症状を見ると、大企業だけでなく中小企業でも思い当たることはあるのではないでしょうか。これは決して企業規模だけの問題でないことが、分析の章でよくわかったはずです。昔であれば成長を止めた企業でも生き残っていくことができたかもしれませんが、今やこうした企業は衰退を免れません。この記事を読んで自社に大企業病の兆候があると感じたら、早いうちに改善を行いましょう。
関連事例

株式会社ソフィア
フィールド・リサーチ&コンサルティング事業責任者、シニア・コンサルタント
森口 静香
先が見えない、課題が曖昧でどうすればよいかわからないプロジェクトの伴走をすることが多いです。議論をその場で図解したり、時にはグラレコや動画を使って、みなさんの共通認識をつくることを得意としています。
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