インターナルコミュニケーション

ディベートテーマ ビジネス30選!研修で使える論題と進行完全ガイド

「会議で意見が出ない」「議論が噛み合わず、決定事項が曖昧なまま終わる」――あなたの組織でも、そんな閉塞感に悩んでいませんか?

変化の激しい現代ビジネスにおいて、阿吽の呼吸や忖度に頼った意思決定は限界を迎えています。かつて日本のビジネスシーンでは、和を乱さず、空気を読み、波風を立てずに合意形成を行うことが美徳とされてきました。しかし、グローバル化とデジタル化が加速する現代において、その不文律はもはや通用しなくなっています。

そこで、大企業の人事・研修担当者が注目しているのが「ディベート」です。論理とエビデンスに基づき、建設的に意見を戦わせるディベートの技術は、単なる「話し合い」のスキルではありません。それは、組織の意思決定の質を高め、イノベーションを阻害する「事なかれ主義」を打破するための強力なビジネスツールです。論理的思考力と多角的な視点を養い、組織の合意形成レベルを劇的に引き上げる手法として、その効果が見直されています。

本記事では、ビジネスシーンに直結する厳選ディベートテーマ30選とともに、失敗しない導入・進行のノウハウを、最新の組織コミュニケーション実態調査データを交えて網羅的に解説します。

そもそもディベートとは?

そもそもディベートとはどのような意味を持つのでしょうか。日本ディベート協会では、以下の条件を定義としています。

1. 集会や議会などの公共の場において、何らかの論点・課題について

2. 対立する複数の発言者によって議論がなされ

3. 多くの場合、議論の採否が議論を聞いていた第三者による投票によって判定される

この定義から分かる通り、ディベートは単なる口論や、結論の出ないおしゃべりとは明確に区別されます。基本的にディベートは、自分たちが主張する内容の正しさを証明することを目的としており、正しさを証明するために必要なデータや根拠を集め、採否を決める第三者に対し論理的に説明します。

ここでの重要なポイントは、「第三者」の存在です。当事者同士が相手を言い負かすのではなく、冷静な判断を下す第三者(ビジネスであれば決裁者や顧客、株主など)に対して、いかに説得力のある論理を展開できるかが勝負の分かれ目となります。

端的に言えば、ディベートという形式自体は、コミュニケーションのゲームです。しかし、これは単なる遊びではありません。このゲーム構造は、各国の議会の議論や説明責任の必要な合意形成など、根拠となる「データ・事実」と「論拠・ワラント」を背景にして、双方の意見をぶつけて最終的に合意形成に進めるものです。噛み砕いて言えば、意見や提案の「理由」「根拠」を、「データ・事実」と「論拠・ワラント」の2つに分けて整理している、ということになります。

AI 生成コンテンツは誤りを含む可能性があります。

この「トゥールミン・モデル」とも呼ばれる論証構造(データ、ワラント、主張)を意識することで、日常業務における報告やプレゼンテーションの質も飛躍的に向上します。ビジネスディベートは、この論理構造を体得するための最も効果的なトレーニンググラウンドなのです。

日本的議論の限界とディベートの役割

日本のビジネスパーソンが不得意とされているものに、議論やディベートがあります。日本には「和を以て貴しとなす」という言葉があり、「何事をやるにも、みんなが仲良くやり、いさかいを起こさないのが良いということ」という意味です。これはある意味では、日本企業やビジネスパーソンの大らかさであり、心の広さでもあります。

しかし、この文化には副作用があります。物事を曖昧なまま合意形成することや、行き過ぎた配慮や忖度は、反対意見や批判から生じるコンフリクトを避けるという日本企業の行動原理に根ざしています。実際の企業で経営が意思決定しても総論賛成各論反対という現象が、現場が動けない原因にもなっているのです。

「なんとなく合意したはずなのに、誰も動いていない」「会議では誰も反対しなかったのに、裏では不満が溜まっている」――あなたの職場でも、こうした状況に心当たりはありませんか? このような状況は、多くの企業で常態化しています。弊社ソフィアの調査(後述)でも、戦略に対する従業員の共感不足や、部門間の連携不全が浮き彫りになっており、これらは「対立を恐れて本質的な議論を避ける」組織風土に起因する部分が大きいと考えられます。

現代におけるビジネスはグローバル化し、特に欧米では原理や論理が重視されています。また、データやアルゴリズムといったデジタル社会では、曖昧なものを排除し、ビジネスの議論もその論理や原理が足場を形成しているため、前述の「和を以て…」という考え方が、良い方へ作用しなくなってきていることも事実です。

そのため、海外やデジタル社会では原理や論理に基づいたディベートは一般的であり、論理をベースにした議論は日常的に取り入れられています。しかし、日本ではこのような文化や教育があまり普及していないため、このスキルを持つ人が少ないのが現状です。

一般的な競技におけるディベートでは第三者が客観的な視点で勝敗の判定を下しますが、ビジネスや議会における議論の場合は参加者の双方が結論に合意形成する、あるいはどちらかが諦めることで議論は終了となります。ビジネスの現場では、完全に白黒がつかないことも多々あります。しかし、意見の対立があることを前提としており、実際にビジネスの現場において、審議の末に一方が諦めるという妥協は存在します。一方で、意見の対立すらない中、議論もせず曖昧な状況で合意形成することがいかに問題であるかは、実体験から認識している方も多いのではないでしょうか。

ディベートは、上記のようなことにならないため、半ば強制的に対立構造を創り出し、多様な意見や相手の主張の論理構造を高い解像度で検討する手段です。ここで重要なのは、ディベートにおいては忖度や配慮を排除したうえで、どちらが今の最適解なのかを参加者自らが傍観せず最後まで見届けることです。ディベートはあくまでその仕組みそのものであり、結論に至るまでの過程に大きな意味がありますが、ゲームの勝敗に意味はありません。

では、社会生活やビジネスにおいてディベートをどのように活用すればよいのでしょうか。論破や対立構造から遺恨が残らないようにするためにはどうすればよいのでしょうか。できるのであれば、人間関係を壊さず、遺恨を残さず、多様なアイディアと多様な意見を意思決定や合意形成につなげていきたいと考えるのは、当たり前だと思います。

本記事では、ビジネスにおいてディベートをうまく活かすためのテーマに焦点を当て、その深掘りを行います。

ディベートと他の議論形式との相違点

ビジネスにおけるコミュニケーションにはさまざまな形式がありますが、ディベートを導入する際には、他の形式との違いを明確に理解しておく必要があります。特に「ディスカッション」との混同は、研修の目的を曖昧にする原因となりますので注意が必要です。

【ディベート (Debate)】

・目的:第三者(審判)の説得、論理的優位性の証明

・構造:肯定側 vs 否定側(対立構造)

・立場:強制的・固定的に割り振られることが多い

・ルール:時間制限、発言順序など厳格なルールあり

・勝敗:あり(第三者が判定)

【ディスカッション (Discussion)】

・目的:参加者間での合意形成、最適解の探索

・構造:参加者全員がフラットな立場(協力構造)

・立場:自分の意見を自由に主張できる

・ルール:比較的自由

・勝敗:なし(全員での合意がゴール)

【スピーチ (Speech)】

・目的:聴衆の共感獲得、情報伝達

・構造:話し手(1人) vs 聞き手(多数)

・立場:自分の意見や感情を表現する

・ルール:時間制限はあるが、形式は自由

・勝敗:なし(拍手や共感の量)

ディベートの最大の特徴は、「自分の本心とは関係なく、割り振られた立場で論理を構築する」点にあります。これにより、個人の感情や思い込みを排除し、客観的な視点から物事を捉え直すトレーニングが可能になります。

ビジネスシーンでディベートが注目される理由

では、なぜ今、多くの企業が研修や会議の手法としてディベートを取り入れ始めているのでしょうか。その背景には、組織が抱えるコミュニケーションの構造的な課題があります。ここでは、ディベートが解決する2つの主要な課題と、その効果について深掘りしていきます。

コミュニケーションの前提を揃えることができる(整える)

ディベートによる議論のメリットは、コミュニケーションの前提を揃えることの重要性に気づける点にあります。

言語哲学者ウィトゲンシュタインは、コミュニケーションは「言語ゲーム」だと述べました。言語やデータなどの記号は、それ単体では何ら意味や解釈もないということです。実際には「社会課題」「多様性」「デジタル」「数字」など、その記号単体ではなんら意味性などなく、コミュニケーションの受信者と発信者の状況や関係性などの諸条件において規定されています。平たく言うと、言葉やデータ、事実には、解釈と意味がないとコミュニケーションは成立しないということです。言葉やデータ、事実の背景や解釈を揃えることがディベートの重要なポイントになります。

ビジネスの現場では、同じ「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉を使っていても、経営陣は「ビジネスモデルの変革」を意図し、現場は「ツールの導入」と解釈しているようなズレが頻発します。何気なく使っている言語や記号ほど、実は非常に曖昧な代物であり、解釈や背景を整理してからでないとコミュニケーションは成立しないのです。

普段の議論や対話において、前提の部分を揃えるだけで問題が解決することも多く、俗に言う「ボタンの掛け違い」という現象は前提を揃えるだけで解決します。

相手と話し合う際に前提が噛み合っていないと、そもそも互いの主張が浅い領域でぶつかり合う状態になったり、必要な情報・不要な情報の選り分けができなくなり、解像度の低い前提の共有が本質的ではない議論で消耗することも増えてしまいます。

その点、ディベートではテーマ=土台が決まっており、コミュニケーションの的が絞れている状態からスタートします。そのためコミュニケーションを取る前、つまり主張をぶつけ合う前の段階で前提が揃っているので、話が前提からずれ出した時に気づくことができるのです。

議論では、最初に議論の前提を確認し合い、テーマに対して自分が相手の前提に合わせる、逆に相手の前提を変えるなど、参加者同士で前提を共有することが大切です。ディベートの前提を揃えた状態で行われる議論は、より本質に近づくので、意思決定や判断の質を高めてくれます。

「情報の非対称性」と組織の分断:調査データからの示唆

前提のズレは、情報の偏在によっても引き起こされます。換言すれば、前提を揃えることは、議論における「情報の非対称性」を削減してくれるということです。

例えば、現場から新規事業のアイデアが持ち上がり、ビジネスプランを経営役員陣にプレゼンテーションする場面を想像してみてください。新規事業が意思決定されない問題は「経営の意思決定の問題」とされることも多いのですが、その実、意思決定できるだけの情報が事前に共有できておらず、経営陣も事前に情報を精査しないことが多いようです。ここで、ビジネスプランを主張する側とビジネスプランを意思決定する側に「情報の非対称性」が生まれます。仮に「新規事業」というビジネスプランの土台となる事実やデータ、論拠が事前に共有や精査されず「情報の非対称性」が起こったとしても意思決定できたとします。それはすでに経営陣が検討済みの内容か、もしくは現場のアイデアとは無関係の、新事業とは言えないものかもしれません。

この「情報の非対称性」がもたらす組織の分断について、弊社ソフィアの「インターナルコミュニケーション実態調査2024」では、以下のような深刻な実態が明らかになっています。

・戦略への共感不足:社員の中で、会社の戦略に「共感している」と回答した割合は、わずか1割にとどまっています。これは、経営層が発信する情報が現場に正しく届いていない、あるいは「自分ごと」として捉えられていないことを示唆しています。

・コミュニケーション課題の所在:コミュニケーションに課題を感じている層として、「部門間」を挙げた回答が58%で最多となりました。次いで「部門内の上司と部下」が51%、「経営陣と社員」が42%となっています。

・情報の「三重苦」:現場では、必要な情報が「ない・遅い・見つからない」という三重苦の状態にあることが明らかになりました。

この調査結果は、多くの企業において「前提が揃っていない」状態が常態化していることを証明しています。部門の壁(サイロ)により情報が遮断され、経営の意図が現場に伝わらず、現場の実情が経営に届かない。この状態でいくら「話し合い」を持っても、表面的な調整に終始するのは当然ではないでしょうか。

情報の非対称性を完全に揃えることはビジネス現場では困難ですが、重要な場面でこそ、情報を整えることが必要不可欠な初動であり、最優先事項だと言えるでしょう。ディベートは、特定のテーマについて徹底的にリサーチし、データを持ち寄るプロセスを強制するため、この非対称性を解消する強力なイニシエーションとなります。

また、ディベートには瞬発力や豊富な語彙が必要なコミュニケーション能力が重要だと感じるかもしれません。たしかに、最終弁論や意見を述べる場面ではこれらのスキルが必要ですが、それよりも、相手に質問を投げかけたり、言葉の定義を整えたりすることのほうが重要です。

ディベートでは、議論の基盤となるのは言葉や意味の相互理解です。これはディベートの初めの方に組み込まれる作業で、言葉や内容の定義が双方でしっかりとしていないと、議論が成り立たないと言えます。

さらに、ディベートにおける言い回しや表現力はレトリックと呼ばれ、最終的に自分の意見を相手に説得するための技術です。ディベートや議論力は、この技術に注目されがちですが、実はそれだけではなく、思考力が欠かせません。思考力を養ったうえで、これを強化すると、より深いレベルでのディベートが可能になります。

一言で言うと、ディベートは言い回しや表現力も重要であるものの、それ以前に、論理的に組み立てるロジカルシンキングやクリティカルシンキングという思考が最も重要な要素になります。以下では、ロジカルシンキングを培いながら、ディベートでさらに発展することのできるクリティカルシンキングをご紹介していきます。

クリティカルシンキングを身につけることができる(思考=深さ)

ディベートでは相手の主張に対し反論するために、何か綻びがないかと批判的になるため、自然にクリティカルシンキングが身につきます。

クリティカルシンキングは直訳すると批判的思考と呼ばれ、物事を多様な視点で観察し、あえて批判的に捉えることで論理的・客観的に理解しようとする思考法です。思い込みや常識をできるだけ排除し、より本質的に物事を捉えることに活用できるため、ビジネスの現場において必要とされている思考法です。

現代社会は、ITの浸透・グローバル化によって扱う情報量が劇的に増加しています。とくにビジネスの現場においては、情報を批判的に捉えながら取捨選択することが求められます。そのためクリティカルシンキングが強化されるものとして注目されるようになりました。

ディベートの発言を力強く支えるためには、深い思考力が欠かせません。物事や言葉に対して深く考え、調査し、検証するからこそ、その発言はゆるぎないものになります。その深い思考を促進する方法の一つが「クリティカルシンキング」です。これは物事を客観的に見るために、一定の距離を置いて批判的な立場から考えることを指します。

視点を変えれば、弊社ソフィアの調査で明らかになった「部門間コミュニケーションの課題(58%)」を解決するには、自部門の論理(部分最適)だけでなく、他部門の論理や全社的な視点(全体最適)を理解する必要があります。ディベートで「あえて反対側の立場に立つ」経験を積むことは、相手の立場や制約条件を深く理解し、建設的な妥協点を見出す「視座の転換」を促すのです。

具体的には、「なぜそのように言えるのか」「どのようなデータや根拠があるのか」といった疑問からそれらを明確にし、情報や意見を検証して反対を主張するグループの攻め入るスキをつぶしていきます。これは否定だけでなく、情報を検証し、客観的な根拠をもとに意見を評価するプロセスです。言葉や内容を表面的に受け取るのではなく、多角的な視点から捉え、調査して裏付けがあるからこそ、ディベートやコミュニケーションの場で瞬発的な発言としてインパクトを与えられます。

現代社会は情報が溢れかえっており、無意識に情報を受け入れることが避けられません。そのため、特にビジネスの現場では、情報を批判的に捉え、選別するスキルが求められます。

社会的な課題やビジネスにおいて重要な議題が議論される中で、リーダーや社員は正確な理解だけでなく、その対象に対してどれだけ深く思考しているかが重要です。

しかし、ビジネスにおける諸問題を解決するうえで、リーダーが問題や課題を定義し、解決策を示すというリーダー万能論はほぼ過去のものになりつつあります。現在の高度な問題解決は、専門性や価値観など多様性のあるメンバーをフル活用して、チーム全体の力で問題解決にあたることが増えました。しかし、多様性に富み、高い専門性を持つ人財の視点から発信された情報やデータに対して共通認識を生み出すことは困難です。また、反対意見や批判が出ることは必至であり、チーム内の心理的安全性は崩壊するかもしれません。

逆に言えば、曖昧模糊とした意見交換や腹落ちのない合意形成は、多様な人財の価値を抑圧している行為となり、活力とエンゲージメントを下げることになることも事実です。批判や葛藤は、コラボレーションを生み出すきっかけであり、力強く信頼を醸成することを前提に、批判や反対意見を恐れず議論や対話を粘り強く進めていけば、遠回りのようでもボディブローのようにチームや組織に活力とレジリエンスが根付きます。

ディベート実践の具体的な流れ

ここまで、ディベートの定義やビジネスにおける意義をお伝えしてきました。では、実際にディベートはどのような手順で進められるのでしょうか。

ビジネスディベートを効果的に行うためには、厳格なルールとプロセスの順守が不可欠です。時間制限のない議論は、声の大きい者の独演会になりがちです。ここでは、研修や会議で使える標準的なフローを解説します。

ディベートでは、参加者がテーマに対して肯定側・否定側に分かれ、それぞれの立場から主張を行い、正当性を証明していきます。大まかな流れとしては、以下のような形になります。

①肯定側が立論する

②否定側が反対尋問をする

③否定側が立論をする

④肯定側が反対尋問をする

⑤否定側が反駁(反論)する

⑥肯定側が反駁(反論)する

⑦否定側が最終弁論

⑧肯定側が最終弁論

これを詳しくまとめると以下のようになります。時間配分は研修の長さに応じて調整可能ですが、比率は維持することが望ましいです。

【① 肯定側立論(3分)】

内容:肯定側が定義、プラン、メリットを提示する。

目的:議論の土台(定義)を作り、提案の魅力を伝える。

【② 否定側質疑(2分)】

内容:否定側が肯定側に質問する。

目的:立論の不明確な点の確認や、矛盾点のあぶり出し。

【③ 否定側立論(3分)】

内容:否定側が現状維持の価値、プランのデメリットを提示する。

目的:提案のリスクを提示し、現状の優位性を主張する。

【④ 肯定側質疑(2分)】

内容:肯定側が否定側に質問する。

目的:デメリットの発生根拠を問い、リスクが小さいことを示唆する。

【⑤ 否定側反駁(2分)】

内容:肯定側のメリットへの反論、自側のデメリットの補強。

目的:相手の議論を崩し、自側の優位性を再確認する。

【⑥ 肯定側反駁(2分)】

内容:否定側のデメリットへの反論、自側のメリットの補強。

目的:批判に耐えうる提案であることを示し、メリットを再強調する。

【⑦ 否定側最終弁論(2分)】

内容:議論の総括。なぜ否定側が勝っているかを比較・要約する。

目的:審判に対し、投票すべき理由(Voting Issues)を提示する。

【⑧ 肯定側最終弁論(2分)】

内容:議論の総括。なぜ肯定側が勝っているかを比較・要約する。

目的:審判に対し、最終的な意思決定(採用)を促す。

最初に肯定側が立論(①)を行い、ディベートを開始します。肯定側の立論に対し、否定側が反対尋問(②)を行います。その際、理解しにくかった部分を確認し、論理矛盾や根拠不足を指摘して反論を行います。反対尋問では尋問する側が主導権を握り、相手が何らかの発言をしていても、それを遮って尋問・主張してかまいません。

この「遮ってよい」というルールは、日本的な会議と大きく異なる点です。限られた時間内で必要な情報を引き出すためのタイムマネジメントスキルが問われます。

その後、否定側は肯定側の立論に対し、内容に則した立論(③)を行うことで互いの主張が出揃います。否定側が立論を行った後は、肯定側が反対尋問(④)を行います。同じように理解しにくかった部分を確認し、論理矛盾や根拠不足を指摘して反論を行い、主導権を握って尋問を行います。

肯定側の反対尋問が行われた後は、否定側が反駁(反論)を行います(⑤)。反駁では相手側からの批判・相手側への批判を行い、論理的に反論します。相手側からの質疑・尋問に対し、前の段階で回答できなかった内容については、このパートで回答する場合もあります。

それに対して同じように肯定側も反駁(反論)を行い(⑥)、互いに相手の主張を批判・否定するラリーを行う形になります。互いの反駁(反論)合戦が終わったら、否定側が最終弁論に入り(⑦)、その後肯定側も最終弁論を行って(⑧)互いの主張の正当性を証明する弁論は終了となります。

注意点として、最終弁論では新しい主張・根拠などを出すことは認められていません。最終弁論までに主張した内容に則って結論を出す必要があり、単純な立論のリピートにならないよう総括する必要もあります。ビジネスのプレゼンでも、最後に突然新しいデータを出すことは混乱を招きます。それまでの議論を「要約」し、「比較」して、「結論」を出す力が試されるのです。

肯定側・否定側の双方が、立論・反対尋問・反駁(反論)・最終弁論の流れでアピールした内容をもとに、審判役である第三者がジャッジを下し、ディベートの勝者が決定されます。

ビジネスでディベートを活用すべきシーン

ここまで、ディベートの具体的な進め方を見てきました。では、ビジネスの現場ではどのような場面でディベートが活きるのでしょうか。ディベートは研修室の中だけで終わるものではありません。その思考法とプロセスは、実務の最前線でこそ真価を発揮します。

経営意思決定

ビジネスにおいてディベートが活用できる代表的なシーンには、経営意思決定が挙げられます。すでに意思決定されている事業・業務などに対し、ディベートを通して批判的に再検討してみることで、最初の意思決定の材料とディベート後の材料に違いが見つかり、より多角的に経営判断が下せる状態になります。これにより常識・出来レース・忖度から抜け出すことができ、より本質で深い部分に踏み込んだ意思決定が可能になります。

弊社ソフィアの調査では、戦略に対する従業員の共感が低い(10%)ことが判明していますが、これは意思決定プロセスがブラックボックス化していることへの不信感も一因と考えられます。あえて「悪魔の代弁者(Devil’s Advocate)」を置き、反対意見を公の場で戦わせることで、決定に至るロジックの透明性が高まり、結果として従業員の納得感(腹落ち)も向上するでしょう。

しかし、ビジネスにおけるディベートの最終的な目的は合意形成です。感情的で相手側の立場や感情に十分配慮しない反対意見は効果的とは言えません。一般的には意見や主張を反対されれば感情的に反応してしまうものなので、伝える際は相手側への配慮も怠ってはいけません。

ある企業では、過去の経営決定に関するトピックを再び取り上げ、それを役員研修としてディベート形式で検討するケースがありました。この取り組みは、個人批判とならないように、ソフィアがファシリテーターとして入りました。第三者が介入することで、心理的安全性を担保しながら鋭い議論が可能になります。

過去の経営意思決定には、「海外法人への投資」「新商品への投資」「M&A」「事業部のリストラクチャリング」など、やるかやらないかの重大な決定が含まれており、これらの決定は根拠や必要なデータ、未来の予測が組み込まれています。

過去の意思決定は、現在において一定の結果が出ており、当初の予測にはなかった事実や出来事が浮かび上がっている可能性があります。この「想定外」の要素をどれだけ把握していたかを検証するのが、ディベートの焦点です。

政治的な関係性、役員間の葛藤や解釈の違いがあったとしても、ディベートというゲーム形式とファシリテーションによって、安心・安全な場所が提供されています。

経営意思決定や部門、職場単位での合意形成に至るまで、すべての意思決定は未来への決定です。確実な未来などないのであれば、意思決定プロセスの質を高める方が建設的ではないでしょうか?

実際、経営意思決定は最終的にいくつかの選択肢からなされるものですが、多くの場合は、意思決定段階で想定されていない出来事がその後問題となることがほとんどです。特に予測できない状況で、事実やデータを注意深く調査し、コントロールできる範囲の「想定外」を最小限に抑えることが重要です。

ディベートを活用した会議議論

ディベートを活用した会議では、肯定派・否定派などそれぞれの立場から相手の主張に対し、「根拠」「疑問」「エビデンス・データの提示」を提示し合うことで、思い込みや常識を取り払った本質的な議論を展開します。

特に、部門横断プロジェクトのキックオフや、利害が対立する部門間(例えば開発部vs営業部)の調整会議において有効です。弊社ソフィアの調査で58%が課題と感じている「部門間コミュニケーション」の壁を壊すには、互いの「正義」を可視化し、構造的な対立点を明確にする必要があります。

特に有用なのが、意思決定をするための会議や、小集団において判断を下す際の会議に用いることです。ディベートを用いた会議は、議論というより論理的な正しさをベースにした探求に近くなり、判断において質の高い結論を導き出せる可能性が高まります。

また、会議に参加した者同士が相手の意見を批判的に見るため、簡単に論破されまいとあらゆる角度から反論・反証材料を用意しようとします。それにより参加者の集中力が高まることも、ディベートを活用した会議のメリットになります。

会議の品質は業務や職場の人間関係に大きな影響を与えるだけでなく、仕事のパフォーマンスに直結します。最も効果的なアプローチは、会議で使われる言葉や内容の定義を、参加者全員で共通の理解を築くことです。共通理解がズレると全体に広がりますが、逆に言えば、ここさえ揃っていれば会議の生産性が向上します。

また、立場をはっきりとすることも重要です。ディベートでは肯定と批判という対立が意図的に生まれます。会議でも同様に、各人が明確な立場を取ることが重要です。立場をはっきりさせることで、自分の意見や提案をよりしっかりと根拠づけることができます。さらに、主張を支えるための事実やデータなどの根拠をしっかり揃えることも大事です。

ディベートの要素を会議に取り入れる際には上記の要素に注意しましょう。ただし、一度にこれらすべてを取り入れることは難しいかもしれません。最初は、言葉や内容の定義を明確にするところから始めると良いでしょう。

交渉・営業

営業や自社のツール導入などの交渉の場面でも、ディベートを用いることは可能です。ビジネス上の交渉では、説得力のある根拠の提示が必要なため、プレッシャーのかかるやり取りが多くなるものですが、そのようなシビアな場面では事前準備がものを言います。

ディベートの準備(プレパレーション)は、まさに営業の事前準備そのものです。「相手はどのような反論をしてくるか(反駁の想定)」「それに対してどのような証拠(データ)を出せば返せるか」。このシミュレーションを脳内、あるいはチーム内で行っておくことで、商談の成約率は格段に上がります。

例えば、営業の交渉においては、顧客の課題・問題点を洗い出し、ニーズをしっかりと把握しておく必要があります。さらに、チームメンバーそれぞれが交渉のアプローチを提示することで多角度的な説得を用意し、実際の交渉時に起こりうる、相手側の反論・突っ込みに対する具体的な回答を用意しておく必要もあるでしょう。

また、MAなどのツールを自社に導入する際も、上層部や関係する部署を説得しなければなりません。社内システム上の異なるツール・プラットフォームとの相性や、導入時のメリットやデメリットを慎重に検討し、いかにコストパフォーマンスに優れているかを提示する必要があります。

こういったプレッシャーのかかる交渉の場面では、物事を二項対立に分け、それぞれの立場で主張・論理的根拠を用意するディベートが活用できます。ディベートによって交渉前の準備段階から説得力のある説明・回答を用意し、さらに実際の交渉の場面では、リアルタイムに変化する対話・反論に対応できるからです。

注意点としては、相手の気分を害するような反論・反証を行うことは避けなければならないことです。前項で解説したように、ディベートには否定・攻撃のニュアンスが少なからず含まれるため、交渉においては特に相手側への配慮が必要になります。

ディベートはそっくりそのままビジネスで活用できる

時流・運を含めた複雑な要素が絡み合い、先の予測が立てにくい現代のビジネスですが、ディベートはそのような意思決定が困難な状況でこそ本領を発揮します。

ビジネスは常に変化するものであり、データや情報を客観的に集め、それらを吟味しながら経営計画を練り、事業・業務を遂行する必要があります。しかし、日本のビジネスの現場の意思決定では、関係各所への忖度によって合意形成がされがちです。

このような状況を打破するには、会議等にディベートを導入することが有効です。ディベートによる議論により、まずは本質的に経営に必要なテーマを設定し、現状の経営状態や業界の背景にあるデータ・情報をリサーチします。さらに、ディベート特有の批判的な視点で検証しながら意見をかわすことで、吟味された納得感のある結論を導き出すことができます。

議論の中で事業計画や業務におけるチャンス・リスクを経営陣が把握し、質の高い結論を導き出す手法として、ディベート以上に効果的なやり方はありません。国会での討論がディベート形式で行われるのは、こういった理由があるからです。

だからといって、社内や職場でディベートを行う際には、難解な政策論題や価値論題は必要ありません。職場のメンバーが興味を持っているテーマを選んで、簡単な議論やアイデアを掘り下げる意見のやり取りを行うだけで十分です。職場の問題などは、情報の非対称性も少ないため、情報共有のコミュニケーションコストも低く抑えることが可能です。

たとえば、離職や人材育成、テレワークにおける出社日数、目標達成の施策の優先順位など、職場のメンバーが普段から興味を持っているテーマを取り上げるだけで、活発なディベートやアイデアが生まれます。

普段から曖昧としている問題、興味や関心があるが十分に議論されていないテーマ、感覚や感性だけで対処されている問題など、現在の状況にあるものを積極的に議題にすることが良いでしょう。ディベートは、身近な課題や関心事にフォーカスを当て、メンバー全員が参加しやすいかたちで進めることが成功の鍵です。

ディベートをビジネスに活用するための注意点

ここまで、ディベートの活用シーンをご紹介してきました。では、実際に導入する際にはどのようなことに気をつければよいのでしょうか。

ディベートは、能力開発という観点で、ロジカルシンキング、クリティカルシンキング、レトリック、交渉など、多種多様なコミュニケーション能力を開発できるトレーニングという要素があります。また、テーマの設定や議論の進め方によっては、研修という模擬ではなく実際の課題を解決することも可能になり、研修やトレーニングを超え、より直接的に課題を解決する効果があります。

しかし、コミュニケーションや議論の構造を理解しないまま導入すると、社内にハレーションを起こす可能性が高く、準備なしに簡単には始められません。

これから、ディベートを自社に導入する方法をご紹介しますが、もし社内導入を検討されているなら、独学ではなく最初は専門家に相談することをおすすめします。

ディベートをビジネスに活用するためには、今直面している課題をテーマにする

ディベートをうまくビジネスで活用するためには、テーマの設定が重要です。テーマの設定が適切でないと、参加者が議論に集中したり、議論を深めることができなくなるためです。では、ビジネス上のディベートテーマの設定は、どのような基準で選定すれば良いのでしょうか。

直面している課題をテーマに設定する

ビジネスにディベートを活用する際に大切なのが、現在直面している課題をテーマに設定することです。環境問題や何年も先の事業計画についてなど直接コントロールしにくい課題は抽象度が高く、論理的な根拠を用意することは難しいためです。

社内でディベートを行う際は、必ず直面する具体的な課題をテーマにしましょう。例えば、時間や目標など、具体的な数値や時間的な制限を加えて、自社の実際の状況に合わせると良いです。有効なテーマの例を挙げるなら、「自社は中途採用を行うべきではない」などです。

「自社は中途採用を行うべきではない」というテーマに基づくディベートの内容は、以下のようなポイントを含めて検討できます。なお、これはあくまでディベートのための枠組みであり、実際の組織の状況やニーズに応じて適切な判断が必要です。

・目標達成に向けた数値目標の設定

○○事業部が達成すべき目標額を明確に設定します。これにより、ディベートがより具体的でリアルなものになります。

・中途入社者のパフォーマンス向上に伴う課題の検討

中途採用者のパフォーマンス向上には、どれくらいの研修コストがかかるのかを詳細に検討します。中途入社者が本来の業務に馴染むまでの期間が、事業部の業績に与える影響を検証します。

・社内雰囲気の影響の考慮

中途採用が社内雰囲気に与える影響を評価します。これがパフォーマンスやチームワークにどのような影響をもたらすのかをディベートの焦点にします。

・採用コストの検討

中途採用に伴う求人広告や面接プロセスのコストを具体的に計算します。これらのコストが積み上げられた場合、目標達成に対する影響をディベートの中で考察します。

上記のように、数値や具体的な事例を取り入れたディベートは、参加者がより現実的な視点から討論できるでしょう。リアリティのある数字や事象をディベートに取り込むことで、より具体的な洞察が得られると期待されます。

参加者が共通理解していて関心のある課題の中から最もインパクトのあるテーマを設定する

特定の社員のみ知識・経験に優れているような、情報に非対称性があるテーマはディベートには推奨できません。そのようなテーマは多くの社員の関心が薄くなりがちで、主体的にディベートに参加しようとする気持ちが起こりにくいからです。

逆に言えば、社員が自分ごととして感じられるテーマは、ディベートへのモチベーションを向上させ、議論の質を高める効果があります。自分ごととして感じられるテーマとは、多くの社員が身近に感じている問題や、業務上弊害となっている課題などです。

つまり大前提として、ディベートに参加する社員同士が共通理解しており、関心を向けられる課題の中からテーマを設定する必要がある、ということです。その課題の中でも、最もインパクトのあるテーマが選定できると、さらにディベートの意義が高まることでしょう。

上手にディベートのテーマが設定できると、社員は議論そのものを自分ごととして捉えるため意見・反論・提案が実践的になり、感情も乗るため参加者のモチベーションを高めます。その結果、エキサイティングな議論の場が生まれ、良質な結論を導き出せる可能性も高くなります。

課題やテーマにおける肯定・否定を構造化する

ディベートのテーマ設定は、具体性が重要になります。例えば、「新規事業をやるべきか?」では抽象度が高く、ビジネスのテーマとしてはいまひとつです。「〇〇の新たな事業を立ち上げるべきか」など、何について議論するのかを明確にする必要があります。

たとえば商社であれば、「海外進出をするべきである」をテーマに設定し、肯定派・否定派それぞれに分かれて議論します。その際大切なのが、「期限」「数字」などの具体性を含めることと、折衷案のような中庸な主張が出ないよう、参加者が自分のポジションを取れるような議論の構造にする必要があります。

ビジネスの議論では、やるか・やらないかのような二者択一の結論が求められるため、迷いが生じる中途半端な結論は不要です。特にディベートを議論に持ち込む場合は、肯定派・否定派が対立するような構図でなければ、議論をする意味がありません。

テーマの設定を、否定と肯定に分かれないと話せないというのが、ディベートの強みであり、弱みでもあります。そのため、肯定・否定のどちらかの結論がはっきり出るように、テーマの明確化・具体性を含める・折衷案の防止は絶対条件になります。

ディベートテーマは大きく3つに分類される【例題30選】

ここまで、テーマ設定の考え方を整理してきました。では、具体的にはどのようなテーマがあるのでしょうか。

ディベートのテーマは大きく3つの型に分類されます。それぞれの特徴を理解し、研修の目的や参加者のレベルに合わせて適切なテーマを選ぶことが重要です。ここでは、ビジネスシーンですぐに使える具体的なテーマ30選を、難易度や用途別にご紹介します。

1. 政策論題 (Policy Debate)

政策論題とは、特定の政策・制度を実施した方が良いかどうかを議論する論題です。テーマとなる政策・制度に対し、賛成派と反対派に分かれて主張をぶつけ合います。ビジネス現場での意思決定に最も近く、実践的なスキルが身につきます。

政策論題の例には、以下のようなものがあります。

1. 消費税は増税するべきか?

2. 首都は東京であるべきか?

3. たばこ税は上げるべきか?

4. 移民を受け入れるべきか?

5. 週休三日制を取り入れるべきか?

6. レジ袋は無料にすべきか?

7. 首相公選制を導入すべきか?

8. カジノは合法化すべきか?

9. 救急車の無償利用を廃止すべきか?

10. 定年の年齢は上げるべきか?

政策論題はテーマが分かりやすく、特にディベート向きの内容であることが分かります。また、政策・制度が国民の生活にも関わる論題であるため、主張を自分ごととして受け止めやすいのも特徴でしょう。

ビジネス研修では、以下のような自社課題に置き換えることができます。

・「当社はフルリモートワークを恒久的に導入すべきである」

論点:優秀な人材の確保・コスト削減 vs コミュニケーションの希薄化・帰属意識の低下。

・「全社的に副業を解禁すべきである」

論点:自律的キャリア形成・スキル還元 vs 情報漏洩リスク・本業への支障。

・「ジョブ型雇用へ完全に移行すべきである」

・「営業ノルマ(個人目標)を廃止し、チーム目標のみにすべきである」

2. 推定論題 (Estimation Debate)

推定論題とは、ある事実・物事に対して、必要・不要か、正しい・間違いといった二者択一の結論を出すための論題です。政策論題よりもテーマが自由である半面、結論を出しにくいテーマが扱われることも多々あります。因果関係の分析や、データの解釈力を鍛えるのに適しています。

推定論題の例には、以下のようなものがあります。

11. 超能力は存在するのか?

12. 宇宙人は存在するのか?

13. 子どもにスマートフォンは必要か?

14. 中高生は部活に入るべきか?

15. 学校は制服で通う必要があるのか?

16. 宿題は必要か?

17. 男性専用車両は導入すべきか?

18. 年齢に関わらず英語は学んだ方が良いか?

19. デートのお金は男性が払うべきか?

20. 新卒の一括採用は必要か?

政策論題よりもテーマの幅は増えましたが、良い面・悪い面の判断がしにくい内容も多くなっています。個人の倫理観・価値観が大きく影響するテーマが多くなり、データや根拠を持って正当性を主張することが難しくなります。

ビジネス研修での応用例としては、市場予測やリスク評価があります。

・「生成AIは当社の既存ビジネスを破壊するか?」

論点:技術的特異点と代替可能性 vs 人間にしかできない付加価値。

・「現在の円安傾向は当社にとってメリットの方が大きいか?」

・「新聞広告の効果はネット広告よりも高いか?(特定ターゲット層において)」

3. 価値論題 (Value Debate)

価値論題とは、それぞれの価値観に基づいて行われる論題です。価値観には個人差があり、定義が抽象的になりやすいため、ディベートでも特に扱いが難しいテーマとされています。企業の理念(ミッション・ビジョン・バリュー)や採用基準などの議論に役立ちます。

価値論題の例には、以下のようなものがあります。

21. 勉強は朝と夜どちらがはかどるのか?

22. 犬と猫ならどちらを飼う?

23. 家は買うべきか賃貸か?

24. 都心と田舎どちらに住むべきか?

25. 恋愛と友情どちらが大切なのか?

26. 朝食はご飯とパンのどちらを食べる?

27. 大企業と中小企業、就職するならどちらが良いか?

28. 結婚することは幸せなのか?

29. 外見と性格はどちらが大切なのか?

30. 本は紙と電子どちらが良いか?

価値論題では、推定論題よりもさらに判断しにくいテーマが設けられ、その名称の通り、より個人の価値観による影響が大きくなっています。ディベート参加者が抱く「一概には言えない」といった感覚に対し、いかに根拠を持って対処するかが、主張の正当性を証明するポイントになるでしょう。

ビジネスにおける価値論題の応用は、企業文化や倫理観の醸成に直結します。

・「成果主義よりも年功序列(終身雇用)を維持すべきである」

論点:長期的な人材育成・ロイヤリティ vs 若手の抜擢・競争力維持。

・「顧客満足度(CS)よりも従業員満足度(ES)を最優先に経営すべきである」

論点:ESなくしてCSなし(サービス・プロフィット・チェーン) vs 顧客第一主義の原則。

・「利益よりも社会的責任(CSR/SDGs)を優先すべき局面がある」

ディベートを企業内研修で実施する際のポイント

ここまで、テーマの分類と具体例をご紹介してきました。では、実際に研修として実施する際にはどのような点に気をつければよいのでしょうか。ディベート研修を成功させるには、単にテーマを与えて「さあ、やってください」では不十分です。ファシリテーター(進行役)や企画者が押さえておくべき重要なポイントを解説します。

リアルテーマは白熱するけどリスクがある

現場レベルの課題・問題について議論するリアルテーマの場合、経営陣・役員が見落としていた重要な要素を見つけられる可能性が高く、議論そのものも当事者意識から白熱しますが、それと同時に、意識の高さゆえに双方が感情的になって冷静さを失うリスクがあることも押さえておく必要があります。

最もエキサイトする議題が自社の経営方針で、例えば「海外への事業進出はやめるべきである」といったテーマを設定すると、役員や海外事業部などの関係者が感情的になる可能性があります。

肯定派・否定派に分かれて主張をぶつけ合うディベートでは、それぞれの役職者の立場を悪くしたり、存在・尊厳を脅かす提案が往々にして出てきてしまうものです。そうなると必ず感情的反発が起こるため、相手を納得させるだけの根拠・データ・情報を集め、説得力のあるかたちで伝えなければなりません。

ディベートは用い方を間違えると、相手の怒りを買って関係が悪化するといった、以後の経営・業務に影響を及ぼす可能性があります。そのため、白熱して中身のある議論であっても、攻撃的な発言や高圧的な態度は避け、相手の感情・立場に寄り添いながら主張することが求められます。

研修の初期段階では、あえて自社とは直接関係のない社会的なテーマ(初級編のテーマなど)を選び、まずは「形式」と「思考法」をインストールすることに集中するのも一つの戦略です。心理的安全性が確保された状態でこそ、建設的な批判が可能になります。

審判が重要

ビジネスにおけるディベートでは、相手を論破することを目的としてはいけません。論破は相手の主張を否定し、感情を逆なでするだけであり、ビジネス本来の目的である協力関係を作ることで双方が利益を獲得する状態とは真逆の方向に進めてしまうからです。

そもそもディベートは第三者に審判の立場で議論を見てもらい、勝敗をジャッジする討論の手法です。ビジネス上のディベートの第三者=審判とは、例えば営業で言えば企業や個人といった客であり、事業の提案であれば経営陣にあたりますが、彼らを納得させ協力関係を結ぶことでお互いが利益を得ることが本来の着地点です。

そのため、ビジネス上のディベートでは論破の目的を明確にし、審判をどう説得するかという視点を持ちながら議論を構築することが不可欠になります。

また、審判を研修講師に頼むことは、良い側面もあれば悪い側面もあります。研修講師は外部の専門家であり、ディベートやコミュニケーションのプロかもしれませんが、それは企業や事業の専門家ではありません。ビジネスにおいて重要なのは合意形成です。言い換えれば、ビジネスの場では、審判が講師である必要はなく、社内の人物でも十分です。

社内の人物が審判を務めれば、組織の文脈や目標に合わせた意思決定がしやすくなります。したがって、外部の研修講師だけでなく、社内の人が審判を務めることも一つの選択肢となります。部長や役員が審判役を務め、フィードバックを行うことで、経営視点を現場に伝える良い教育機会にもなるでしょう。

評価シートの活用(テンプレート例)

公平な審判を行うためには、評価基準を明確にしておくことが重要です。以下のような評価シートを用いると、フィードバックが具体的になります。

【論理性(Logicality)】配点:10点

評価のポイント:主張に明確な理由と根拠(データ・事実)があるか。論理の飛躍がないか。

【反駁力(Refutation)】配点:10点

評価のポイント:相手の主張の核心(前提や根拠)に対して的確に反論できているか。

【証拠資料(Evidence)】配点:5点

評価のポイント:提示されたデータは出典が明確で、信頼性が高いか。

【伝達力(Delivery)】配点:5点

評価のポイント:声の大きさ、スピード、アイコンタクト。専門用語を平易な言葉で説明しているか。

【協調性(Teamwork)】配点:5点

評価のポイント:チーム内で役割分担ができているか。メンバーの知見を統合できているか。

【マナー(Manner)】配点:減点法

評価のポイント:相手の人格否定や、感情的な攻撃をしていないか。時間を守っているか。

ロジカルシンキングとクリティカルシンキングは必須

ビジネス上のディベートで重要になる思考法が、ロジカルシンキングとクリティカルシンキングです。どちらが欠けていてもディベートでは不利になるため、必ず身につけておきたい思考法です。

ロジカルシンキングが必要な理由は、ディベートでは自分の意見に関して論理破綻しない鉄壁の防御を構築し、立場・主張を明確にしながら整合性を持った発言をする必要があるためです。また、ディベートでは論理によって相手の主張に反論・反証したり、自分の主張の正当性を提示するラリーを展開します。その際、事実と論理が結びついていなかったり、理屈の筋が通っていない場合は説得力が落ちてしまうため、ロジカルシンキングは基礎として身につけておかなければなりません。

一方で、クリティカルシンキングが必要な理由は、ディベートでは相手の主張を批判的に観察し、論理矛盾や根拠の乏しさを指摘しなければならないため、物事を客観的に評価することが重要だからです。的確に相手の主張を否定し反論するには、まずは相手の言い分に飲まれることなく、客観的かつ批判的な視点で内容を把握しなければなりません。その意味において、ディベートにはクリティカルシンキングが適しており、ロジカルシンキングとあわせて身につけておく必要があります。

専門的な知識を持った人を参加させる

議論の質を高めるためには、データの質が命です。ネット検索で出てくる表面的な情報だけでなく、社内の一次情報を持っている「専門家」を巻き込むことが効果的です。

ディベートで重要になるのが、客観的なデータ・情報を根拠として用意することです。中でも、ある分野に精通したプロフェッショナルがディベートに参加することが有用で、最新の一次情報や深い洞察により、質の高い議論が展開できるようになります。

ネット上のデータや第三者から得た情報などは、すでに古い内容になっていたり、詳細部分を間違えている場合などがあります。しかし、リアルタイムで働く現場のプロフェッショナルの意見は、最新の情報・知見が多分に含まれているため鮮度が高く、議論のテーマである課題・問題への最適なソリューションを提示してくれる可能性が高まります。さらに、専門性や経験をベースに語られる主張は、説得力の高さが一般の参加者とは比較になりません。

議論内容の質を高める意味でも、第三者への説得力という意味でも、専門的な知識を持つプロフェッショナルのディベートへの参加は有意義だと言えるでしょう。たとえば「AI導入」をテーマにするなら、情報システム部の担当者をアドバイザーに入れたり、ヒアリングの時間を設けたりすることで、議論のリアリティが格段に増します。

ビジネスの判断は9割方「固定観念」と「思い込み」

経営方針、事業計画など、ビジネス上の判断は9割方は固定観念・思い込みで下されています。過去の経験を踏襲したり、経営陣の頭の中にある情報・ルールだけで決定した方がスピーディーであり、一見すると判断力があって優秀にも見えてくるからです。

特に日本企業では、業界の村社会の意識が強く、何十年もかけて作られた常識・先入観に縛られている場合も珍しくありません。現代社会におけるビジネスの世界は、テクノロジーの進化やグローバル化によってこれまでの常識ややり方では通用しなくなっています。しかし、昔ながらの固定観念・思い込みによる判断が多くの場面で下されており、不合理な状態が続いているのが実情です。

こういった不合理な判断を打破する場合にも、ディベートによる議論が有効です。ディベートはテーマに対し、肯定派・否定派それぞれが論理によって主張をぶつけ合います。その際、現状のデータ・情報などの根拠も必要となるため、固定観念・思い込みといった過去の常識・経験則だけでは議論に勝つことが不可能であり、一旦過去を捨てなければなりません。

その結果、固定観念・思い込みによって排除してきた情報・判断材料に目を向けるようになり、新たな視座を参加者が獲得できます。視座の変化により現実に即してビジネスを見ることができれば、ディベートのテーマ設定・情報収集の方法・本質的な解決策の提示など、根底から考え方も変わり、ビジネス上の判断の質も向上することでしょう。

まとめ

ディベートは、あるテーマに対して参加者が肯定派・否定派の立場に立ち、論理的に主張をぶつけ合う議論です。互いの主張を否定・反論し合うため攻撃的なニュアンスもありますが、根拠を用意した論理ベースであるため客観性があり、ビジネスで活用すれば大きな効果を発揮してくれます。

また、意思決定・会議・交渉など、あらゆるビジネスのシーンで活用することができることもディベートのメリットです。「政策論題」「推定論題」「価値論題」のどの論題に属するテーマかによって難易度は変わりますが、テーマの設定さえ間違わなければ、ビジネスでは有意義な議論を行うことができるでしょう。

さらにディベートは、論理によって批判し合いながら議論を行うため、参加者がロジカルシンキングやクリティカルシンキングを鍛えられることも大きな効果です。実践的でかつ社員の成長にもつながる、それがディベートの強みだと言えるでしょう。

変化の激しい現代のビジネスシーンだからこそ、課題・問題に対してディベートを実践し、客観的で質の高い結論を導き出すことが重要です。弊社ソフィアの「インターナルコミュニケーション実態調査2024」が示した通り、組織には「部門間の壁」や「情報の非対称性」といった根深い課題が存在します。これらを解消し、社員の戦略共感度を高め、エンゲージメントを向上させるために、ディベートという「知的格闘技」を導入してみてはいかがでしょうか。それは、予定調和な会議を、イノベーションを生み出す熱い議論の場へと変える第一歩となるはずです。

 

ビジネスシーンで活用できるディベートテーマ30選についてよくある質問
  • 参加者がディベートに尻込みして発言しません。どうすれば盛り上がりますか?
  • 最初は「ランチのメニュー」や「身近な社会問題」など、業務と無関係なテーマで練習することをおすすめします。また、肯定・否定をくじ引きで強制的に決めることで、「自分の意見ではないが、役割として演じる」という心理的な逃げ道を作ると、発言のハードルが下がります。

  • 判定を出すと、負けた側のモチベーションが下がりませんか?
  • 判定はあくまで「その場の議論の技術と論理」に対するものであり、人格や普段の仕事ぶりに対する評価ではないことを強調してください。また、負けた側にも必ず「良かった点(Goodポイント)」をフィードバックし、勝った側にも「さらに良くするための改善点」を伝えることで、学びの場としての機能を維持できます。

  • 準備に時間がかかりすぎて、業務に支障が出ないでしょうか?
  • 即興型(パーラメンタリー)ディベートの形式を取り入れるのが有効です。テーマ発表から準備時間を15分~20分に限定し、スマホでのリサーチのみ許可する等のルールにすれば、短時間で集中して行うことができ、瞬発力や検索力(情報収集力)のトレーニングにもなります。

株式会社ソフィア

先生

ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。