自分ごと化とは?メリットやポイントについて解説!他人ごとは本当にダメなの?
最終更新日:2025.12.09
目次
現代のビジネス環境において、「自分ごと化」という言葉を耳にする機会が増えているのではないでしょうか。変化の激しいVUCA時代と呼ばれる今、企業が持続的に成長していくためには、社員一人ひとりが当事者意識を持って主体的に行動することが不可欠になっています。しかし実際には、多くの企業で「社員が指示待ちになっている」「部署間の連携がうまくいかない」といった課題を抱えているのが現状です。
本記事では、そうした組織課題の解決策として注目される自分ごと化について、その定義から重要性、具体的な促進方法まで包括的に解説します。「自分ごと化とは何か」という基本から始め、なぜ今これほど重視されるのか、どのようなメリットがあるのか、そして実際に組織で推進するにはどうすればよいのか——これらの疑問に、実践的な視点で答えていきます。また、自分ごと化の「光と影」についても触れ、適切なバランスを保つための方法もご紹介します。
自分ごと化とは何か

自分ごと化とは、平たく言うと企業や組織の目標・課題を「自分のこと」として捉え、主体的に取り組むことを指します。与えられた業務をこなすだけでなく、自分の役割や影響範囲を超えて積極的に課題解決に関与する姿勢と言えるでしょう。
例えば一見自分の担当外に思える経営課題でも、「自分の行動が結果に直結する」という意識を持てば、責任感と主体性を持った行動が自然と生まれてきます。換言すれば、仕事を「やらされている」のではなく「自らやっている」と感じられる状態が、自分ごと化された状態と言えます。
類語・関連する概念
「自分ごと化」に近い意味を持つ言葉としては、当事者意識・責任感・主体性などが挙げられます。これらの表現は、自分自身が課題や状況に関わっていると感じ、それに対して能動的に行動する態度を指します。
それぞれニュアンスや使用場面に若干の違いはありますが、本質的には同じ概念です。責任感とは、自身の役割や任務を全うしようとする気持ちのことで、仕事を途中で投げ出すことなく最後までやり遂げる姿勢を示します。単なる義務感とは異なり、自発的な行動に繋がるものであり、組織の目標達成に対して指示を待つのではなく、自ら率先して行動する姿勢が例として挙げられます。
いずれも「自分もその物事に関わっている」という認識の下で主体的に行動する態度を指しており、ビジネスにおいては「自分に関係あること」と捉えて積極的に動く姿勢を示す言葉として理解できます。
一方で対義語として「他人ごと」があります。これは「自分には関係ないこと」という意味で、仕事においてこの姿勢が強いと周囲からの信頼を損ねかねません。自分ごと化とは逆に、物事を自分事と捉えない状態を指す点で対極の概念です。
ビジネスで自分ごと化が重要視される理由
ここまで自分ごと化の定義についてお話ししてきました。では、現代のビジネス環境において、なぜこれほど自分ごと化が重視されるのでしょうか。その背景には、経営環境の激変と組織運営の変化があります。
変化の激しい時代への対応
今日の市場は変動性・不確実性・複雑性・曖昧性が高いVUCAの時代と呼ばれています。次々と新しい課題が生じる中、従来のトップダウン型ではスピードについていけないのが現状です。不確実性が大きい現代では、従業員一人ひとりが自身の役割を理解し当事者意識を持って業務に当たることが求められています。
企業が生き残るには、社員が指示待ちではなく自律的に判断・行動できる状態——つまり自分ごと化された状態を作り出す必要があると言えるでしょう。視点を変えれば、一人ひとりが当事者として動けるかどうかが、企業の競争力を左右する時代になったとも言えます。
組織構造の変化(現場の権限移譲)
従来、大企業では現場の問題も上層部が決定していましたが、現在は現場に権限が移譲されつつあります。高度に専門化した現場の課題はトップだけでは把握しきれず、現場ごとに自律的な問題解決が求められる状況です。
そのため各担当者が自分事として課題に向き合い、上司の指示を待たず行動できることが不可欠となっています。現場レベルで自分ごと化が進めば、素早い対応と現場発の改善が可能になり、組織全体の俊敏性が高まるでしょう。
管理職の役割変化
組織のフラット化や現場権限拡大に伴い、中間管理職にも自分ごと化が求められます。従来以上に広い視野で会社全体を捉え、自部署だけでなく組織横断の課題にも当事者意識を持つ必要があります。
管理職自身が自部門の利益に留まらず経営課題を自分事として考えることで、部下への良い手本となり、組織一丸となって目標達成に向かえるでしょう。また管理職は部下に自分ごと化を促す立場でもあります。メンバーが主体的に動ける環境を整え、企業ビジョンを現場に翻訳して伝える役割が期待されています。
大企業における内部課題との関連
近年、大企業では社員のエンゲージメント低下やコミュニケーション断絶が課題となっています。弊社ソフィアの調査でも、社内コミュニケーションに課題を感じる人は約8割に上りました。特に「部門内も部門間も!各所に見られる組織の軋み」との指摘がある通り、部署間(58%)・上司と部下(51%)・経営陣と社員(42%)といった縦横両方向のコミュニケーション不全が明らかです。
こうした状況では、社員が自社の課題を他人ごと視点で傍観していては問題解決が進みません。だからこそ一人ひとりが主体的に動ける自分ごと化が重要であり、組織のサイロ化を打破する鍵として期待されているのです。
自分ごと化による5つのメリット
ここまで自分ごと化が重視される背景を見てきました。では、自分ごと化を社員に浸透させることは、企業と従業員の双方にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。主な利点を5つ挙げ、それぞれ解説していきます。
1. 生産性の向上
まず第一に、自分ごと化した社員は仕事への責任感が高まり、生産性が向上します。主体性を持って業務に取り組み、上司の指示を待たず自律的に動くため、ムダな待ち時間や重複作業が減少します。
自分の仕事と感じているのでミスも減り、効率的な手法を自ら工夫するようになるでしょう。実際、ただ受け身で指示待ちだった頃に比べ、同じ時間で処理できる業務量やクオリティが格段に上がるケースが多く報告されています。生産性向上は企業存続の要であり、自分ごと化を推進する大きな理由となります。
2. 人材の成長スピード加速
従業員の成長にも自分ごと化は寄与します。主体的に仕事へ取り組むことで、仕事に必要な知識やスキルの吸収が早まります。自分ごと化した社員は、与えられた課題について自分で考え実行し振り返る(リフレクション)習慣が身につきます。
その結果、仮説構築→実践→検証というビジネススキルが磨かれ、成長スピードが加速します。例えば、「この仕事が好きだ」「自分の役に立つ」と思えると学習意欲が湧き、吸収力も上がるでしょう。逆に言えば、受け身で「他人ごと」の意識では成長機会を逃しがちです。また主体的行動が周囲にも刺激を与え、チーム全体のスキル向上に波及する相乗効果も期待できます。
3. モチベーションの持続・向上
モチベーション(動機づけ)においても自分ごと化はプラスに働きます。自分ごと化した社員のやる気は、外発的ではなく内発的なものです。自分自身の価値観や目標と仕事が結びついているため、成果を出すほど意欲が湧き、モチベーションを高い水準で持続できます。
例えば、自分ごと化したプロジェクトが思うように進まないとき、「なんとか解決したい」という強い思いが生まれます。この内なる動機がエネルギー源となり、困難を乗り越える力になるのです。一方で、全ての業務が好きになれるわけではありませんが、自分ごと化された大きな目標や意義があれば、多少苦手な仕事も乗り越えて成果を出せるでしょう。つまり内発的動機付けが働き、長期的なモチベーション維持につながるのです。
4. 従業員エンゲージメントの向上
社員が自分の仕事を自分事として捉えると、従業員エンゲージメント(会社や仕事に対する愛着・貢献意欲)が向上します。自分ごと化した社員は、「自分が組織に貢献している」「自分の働きが会社に影響を与えている」と実感できます。
その結果、会社への愛着や帰属意識が強まり、チームへの協力姿勢も増します。現場で一体感が高まれば離職率の低下や職場環境の改善にもつながるでしょう。実際、「エンゲージメントが高い企業ほど業績が良い」「離職が少ない」という調査も多く、従業員の自分ごと化は組織の持続的成長に直結すると言えます。さらに専門性やスキルに自負を持つようになり、各自が主体的に学び続ける風土が生まれる点も見逃せません。
5. 問題解決力・イノベーション創出
課題発見・解決の質とスピードも向上します。自分ごと化した社員は、目の前の小さな問題にも当事者意識を持って取り組みます。「誰かがやるだろう」と見過ごさず、自ら改善策を講じるため、業務フローの効率化やサービス向上が進みます。
その積み重ねが組織全体の生産性向上と業績アップに寄与します。また自分ごと化によりイニシアティブ(主導性)が発揮され、今までにないアイデアや創造性が生まれることもあります。自ら率先して動く社員が増えることで職場に活気が生まれ、イノベーションが促進される土壌ができます。
ただし、主導性が行き過ぎると他者の意見を無視する恐れもあるため、組織として協調とのバランスを取る必要はあるでしょう。いずれにせよ、自分ごと化は問題解決志向と創造性を高め、企業に新たな価値をもたらす原動力となります。
自分ごと化できない5つの理由
これまで自分ごと化のメリットについて見てきましたが、現実には「社員がなかなか自分ごと化してくれない」というケースも少なくありません。ここでは、自分ごと化ができない主な原因を5つ挙げていきます。
1. 目的・目標が明確になっていない
社員にとって「何を達成すべきか」が曖昧な場合、自分ごと化は進みません。ゴールが不明確だと仕事の意義を感じられず、与えられた作業をこなすだけになりがちです。
弊社ソフィアの調査でも「諸問題に対する必要性が共通認識になっていない(34%)」人が多数おり、そもそも課題の重要性が共有されていない実態が浮き彫りになっています。社員が目標を自分事と捉えるには、定量・定性の両面で具体的な目標設定と共有が不可欠です。
2. 組織文化が保守的で変化を嫌う
革新や自主性を重んじない企業風土も大きな障害です。失敗を許容せずトップダウンが強い文化では、社員は新しい挑戦や創意工夫を避け、言われたことしかやらなくなります。
こうした環境では「どうせ提案しても無駄」と受け身になり、自分ごと化が進みません。弊社調査結果でも「組織の文化や体質」(33%)が課題要因の上位に挙がっており、企業カルチャー自体が当事者意識醸成の妨げになっているケースが多いと言えます。まずは経営層が率先して文化改革に取り組むことが必要でしょう。
3. 他責思考が強い
物事がうまくいかない原因を他人や環境のせいにする他責思考が根付いていると、自分ごと化は困難です。「自分ができることはもうない」「悪いのは別の部署だ」という発想では、主体的な改善行動は期待できません。
他責思考が蔓延する組織は責任の所在が曖昧になり、問題が放置されやすくなります。対照的に、自分ごと化している社員は「自分に何ができるか」を考える自責思考を持っています。組織全体で自責思考を奨励し、失敗から学ぶ文化を作ることが重要です。
4. 心理的安全性の欠如
社員が安心して意見を言えない職場では、自分ごと化は育ちません。心理的安全性とは、失敗やミスを恐れずに発言・行動できる環境のことです。
「間違ったことを言うと批判される」「新しい提案をすると否定される」といった雰囲気では、社員は萎縮して指示通りの仕事しかしなくなります。心理的安全性を高めるには、上司が傾聴の姿勢を示し、失敗を学びの機会として捉える文化を醸成する必要があります。
5. コミュニケーション不足・情報共有の不備
組織内のコミュニケーションが不足していると、社員は会社の方向性や他部署の状況を把握できず、自分ごと化しにくくなります。弊社調査では「フィードバックが十分に貰えない」(33%)という声も上がっており、上司からの適切な反応がないことも課題です。
情報が共有されず孤立した状態では、「自分の仕事が組織にどう影響するか」が見えず、当事者意識が芽生えにくいでしょう。定期的な情報共有の場を設け、部署を超えた対話を促進することが求められます。
自分ごと化を促進する6つの方法

ここまで自分ごと化ができない理由を見てきました。では、実際に組織で自分ごと化を促進するにはどうすればよいのでしょうか。以下、6つの具体的な方法をご紹介します。
1. ビジョン・ミッションの共有と目標設定
まず基本となるのが、企業のビジョンやミッションを社員全員で共有することです。会社が何を目指し、どんな価値を提供したいのかが明確でなければ、社員は自分の役割を自分事として捉えられません。
経営層は折に触れてビジョンを語り、それを現場の業務に翻訳して伝える必要があります。さらに、大きなビジョンを各部署・個人レベルの具体的な目標に落とし込むことが重要です。「自分の仕事がどう会社の目標につながるか」が見える化されることで、社員は当事者意識を持ちやすくなります。目標設定の際は、単に数値を課すのではなく、社員自身が納得し「達成したい」と思える形で設定することが大切です。
2. 企業文化・組織風土の改革(心理的安全性の確保)
自分ごと化を阻む保守的な組織文化がある場合は、その改革が必要です。失敗を許容し、挑戦を称える風土を作りましょう。具体的には、新しいアイデアを歓迎する姿勢を経営層が示し、失敗した場合もそのプロセスや学びを評価する仕組みを導入します。
また、心理的安全性を高めることも欠かせません。社員が安心して意見を言える環境があってこそ、主体的な行動が生まれます。上司は部下の発言を否定せず傾聴し、多様な意見を尊重する姿勢を示すことが求められます。心理的安全性が確保された職場では、社員は自ら考え行動する勇気を持てるでしょう。
3. 部署間・階層間の交流促進
組織のサイロ化を防ぐには、部署を超えた交流が有効です。他部署の業務や課題を知ることで、社員は自分の仕事が組織全体にどう影響するかを理解でき、自分ごと化が進みます。
具体的には、部門横断プロジェクトの実施、社内イベントや勉強会の開催、フリーアドレス制の導入などが考えられます。また、経営層と現場社員が直接対話する機会(タウンホールミーティングなど)を設けることで、縦方向のコミュニケーションも活性化します。こうした交流を通じて、社員は会社全体の状況を自分事として捉えやすくなるでしょう。
4. リフレクションと対話
社員が自身の仕事を振り返り、学びや気づきを得るリフレクション(内省)の機会を提供することも効果的です。例えば、定期的な1on1ミーティングでキャリアや業務について対話したり、プロジェクト終了後に振り返りの時間を設けたりします。
リフレクションを通じて、社員は「自分は何を成し遂げたか」「次にどう改善できるか」を考える習慣が身につきます。この内省のプロセスが、自分の仕事への理解を深め、自分ごと化を促進します。また、失敗を単なるミスとして片付けるのではなく、そこから学びを引き出す姿勢を組織全体で持つことが大切です。
5. 権限委譲と裁量の拡大
社員に権限を委譲し、一定の裁量を与えることも自分ごと化に繋がります。「自分で決められる」という実感は、仕事への主体性を高めます。細かい指示を出すのではなく、目標を示した上で手段は社員に任せる、といったアプローチが有効です。
もちろん、いきなり大きな権限を与えるのは難しいかもしれません。小さな意思決定から始め、徐々に範囲を広げていくことが現実的でしょう。重要なのは、社員が「自分の判断が尊重されている」と感じられることです。権限委譲により、社員は自分の仕事に対する責任感と達成感を得ることができます。
6. フィードバックと承認の文化づくり
日頃からフィードバックを行い、成果や行動をきちんと認める文化も自分ごと化を促します。社員が主体的に動いた際には上司がタイムリーに称賛や建設的なフィードバックを与えることで、「自分の行動は組織に影響を与えている」と実感できます。
弊社調査でも、「フィードバックが十分に貰えない」(33%)という声がコミュニケーション課題として挙がっています。裏を返せば、多くの社員が上司や組織からの適切な反応を求めているということです。成果を挙げたときには称える、たとえ失敗しても過程での学びを認める、といったフィードバックを習慣化しましょう。「認められている」という実感は社員のエンゲージメントを強化し、さらなる自主的な挑戦を生みます。フィードバックの循環が回る組織は、社員の自分ごと化が着実に進んでいきます。
自分ごと化と他人ごと化の関係・バランス
これまで自分ごと化のメリットと促進方法を見てきました。しかし、社員が当事者意識を持って仕事に取り組む自分ごと化は、多くのメリットをもたらす一方で、行き過ぎることによる弊害も存在します。ここでは自分ごと化のリスク面と、適切に「他人ごと化」の視点を取り入れる重要性について考えてみましょう。
自分ごと化の行き過ぎによる弊害
まず、自分ごと化が極度に進むと社員と仕事(会社)が精神的に一体化しすぎる危険があります。具体的には以下のような弊害が指摘できます。
ワーカーホリックの誘発
仕事を自分のことと強く捉えるあまり、休息を忘れて働きすぎてしまう恐れがあります。使命感が暴走し、心身の健康を損なっては本末転倒です。企業としても社員の燃え尽きを防ぐ必要があります。
視野の狭窄・多様性の欠如
自分ごと化した組織やチームは高い一体感を持つ反面、同質化しやすい傾向があります。全員が同じ方向を向きすぎることで客観的判断が難しくなり、新しいアイデアや異なる視点が生まれにくくなる可能性があるでしょう。同じ価値観に長期間浸ることでイノベーションの停滞を招きかねません。
排他性・優劣意識の発生
強く自分ごと化している社員とそうでない社員の差が生まれると、組織内に暗黙の優劣意識が芽生える危険もあります。「あの人は当事者意識が低い」というレッテル貼りや、帰属意識の低い人を排除するような空気が醸成されると、組織の一体感は逆に損なわれます。
「他人ごと化」の活用とバランスの取り方
以上のように、自分ごと化はメリットと表裏一体でデメリットも内包しています。しかし、これは「自分ごと化が悪い」という意味ではありません。大切なのは自分ごと化と他人ごと化のバランスを取ることです。社員が常に100%の当事者意識で突っ走るのではなく、適度に客観視する余白も必要と言えるでしょう。
組織に健全な客観性を保つには、時に意図的に他人ごと化(距離を置いた視点)を取り入れることが有効です。具体的な方法として、以下が挙げられます。
ディスカッションの場を設ける
定期的に自社の課題やビジョンを批判的に議論する場を設けます。敢えて自分の属する組織を一歩引いた目で見る訓練です。例として、部署横断のディベートやブレインストーミング大会を開き、「もし自社を外部の第三者として評価するなら?」といったテーマで話し合います。これにより、思い込みや前提を疑い、客観的評価を行う習慣を養えます。
メタ認知を促進する
メタ認知とは自分自身と周囲の状況を俯瞰し客観視する力のことです。社員一人ひとりがこのメタ認知能力を高めることで、自分ごと化による熱中と客観視とのバランスが取れるようになります。
メタ認知ができる人は自身の感情コントロールやコミュニケーションにも優れる傾向があり、組織において冷静な視点を提供してくれるでしょう。具体策としては、研修でメタ認知の手法(瞑想や内省ワークなど)を取り入れる、上司が対話の中で部下に客観視する質問を投げかける等が考えられます。
越境学習の推奨
越境学習とは、社員が通常の職場を離れ他組織・他業界で働いたり学んだりする機会を持つことです。新しい環境に飛び込むことで、今までの自社・自部署を客観視する視点が得られます。
例えば社外のセミナーやボランティアに参加したり、他社との人材交換研修を行うなどです。こうした経験を通じ、社員は自社の常識を疑ったり新たな発想を持ち帰ったりできます。結果的に「自分ごと」の業務にも新鮮な視野を取り入れることができ、自分ごと化による凝り固まりを防ぎます。
社内広報・インナーコミュニケーション
内部コミュニケーションの活性化も他人ごと化とのバランス維持に役立ちます。社内報や全社集会などオープンなコミュニケーションの場で、多様な意見交換や議論を頻繁に行うことです。
様々な価値観や視点に触れる機会が増えれば、一人ひとりが自社の状況を客観的に捉えるヒントを得られます。対話と議論が活発な組織ほど、自分ごと化と他人ごと化のバランスが取りやすくなるでしょう。
自分ごと化は組織にとって諸刃の剣でもあります。本質的に自分ごと化できる人材とは、状況に応じて「自分ごと」と「他人ごと」を行き来できる柔軟性を持った人です。企業としても社員が適度に客観視・俯瞰できる環境を整える必要があります。自社の課題に熱心に取り組みつつも、時には距離を置いて見つめる習慣を奨励する——このバランス感覚こそが、持続的に成長できる強い組織の条件と言えるでしょう。
まとめ
ここまで自分ごと化について、その定義から重要性、メリット、課題、促進方法、そしてバランスの取り方まで幅広く見てきました。最後に、本記事の要点を振り返ってみましょう。
「自分ごと化」は、従業員が企業の課題を自分の問題として捉え主体的に行動することであり、企業の発展・従業員の成長に欠かせない要素です。多くの大企業で内部コミュニケーションの停滞や当事者意識の欠如が課題となる中、自分ごと化の推進は組織活性化の鍵となります。
自分ごと化した社員が増えれば、より本質的な商品・サービス提供に邁進でき、結果として業績向上や競争力強化につながるでしょう。生産性の向上、人材の成長加速、モチベーションの持続、エンゲージメント向上、そして問題解決力とイノベーション創出——これらのメリットは、組織に大きな価値をもたらします。
一方で、自分ごと化を組織に根付かせるには段階的な取り組みが必要です。闇雲に「自分ごと化せよ」と号令をかけてもすぐには浸透しません。まずはビジョン共有・目標設定、企業文化改革、交流促進、リフレクション機会提供などの土壌づくりから着手しましょう。社員が安心して主体性を発揮できる環境を整え、成功体験を積ませることが肝要です。
留意すべきは、自分ごと化の「光と影」です。行き過ぎた自分ごと化は独りよがりな思い込みや排他性を生みかねません。客観的に自社を見る「他人ごと」の視点も適度に取り入れ、柔軟な発想や多様性を失わないようにすることが重要です。バランス感覚を持ちながら社員の当事者意識を醸成していくことで、組織はしなやかに強くなります。
自分ごと化の促進によって従業員のパフォーマンスが向上し、生産性や成果につながりやすくなるのは確かです。自社でこの取り組みを進める際は、本記事の内容を参考に、自社に合った方法で社員の意識改革・組織風土づくりに挑戦してみてください。






