自己組織化とは?ビジネスにおける自己組織化の必要性とポイントを解説

自己組織化とは、従業員が上司の指示を待たずに、自分の発想や判断に従って行動が取れる状態になることと言われています。自己組織化した従業員が集まっている組織では、誰かが統制を取らずとも組織の目指す方向に業務が進んでいきます。しかし、そのような組織が果たして存在するでしょうか?

本記事では、自己組織化とは何か?自己組織化した組織や人材の特長、そしてその必要性、組織にとってのメリットについて紹介します。

自己組織化とは

自己組織化という言葉は、生物学や幾何学で用いられてきた言葉です。個々が全体を俯瞰して動く能力がないにもかかわらず、各々の判断により、結果として組織が自ら統制されていく状態を指しています。
これをビジネスに置き換えると、従業員一人ひとりが当事者意識をもち、自律的であり、それを維持することができれば、管理やルールなどは必要なくなります。
その結果、管理コストも抑えることができるでしょう。つまり、自己組織化とは、個々人の自由意志が動機を生み出し、イノベーティブでエンゲージメントの高い組織と個人を創造的に運営できるという概念です。そして、自己組織化は、めまぐるしく変化する現代社会において、企業が対応するために一つの視座をくれる概念とも言えます。

「自己組織化」はもともと生物学や幾何学の言葉

近年、ビジネスの世界でよく耳にするようになった「自己組織化」という言葉ですが、前述したとおり、元来、自己組織化は生物学や幾何学で用いられてきた言葉です。

たとえば、鳥が群れを成して空を飛ぶのも、アリが列を成して地を這うのも、自己組織化によるものです。また動物だけでなく植物も、自己組織化によって自らの生態系を支えてきました。

生物は自己組織化によって、指示を受けずとも生態系を守ってきたのです。リヤ・プリゴジン(I.Prigogine)は、特に「動的」な秩序化が起こる非平衡開放系を「散逸系」とよび、散逸系での秩序形成を「自己組織化(self-organize,self-organization)」と定義しました。

生命や経済など仕組みを成すものはときおり、多数の要素が絡み合う予測不能な現象を見せることがあります。これを「複雑性」と呼びますが、複雑性の中にも自己組織化は認められます。複雑な現象の中に一定の秩序を生むのが、自己組織化の働きなのです。

自己組織化という考え方は、ビジネスの場にも適用することができます。ビジネスや組織論の文脈で「自己組織化」という言葉が使われるときは、組織に所属する人間が、各々の行動によって組織を理想的なかたちに導いていくことを指します。

誰かに命令されるわけでも、厳格なルールが敷かれているわけでもなく、各々が自身の働くコミュニティの目的を把握して組織に利益をもたらすように動くのです。
結果として、組織側が強制しなくても、各々が自律して行動できる状態の組織を形成することができます。

命令やルールを決めない組織に不安があるかもしれませんが、そもそも組織は、最前線の現場従業員の行動などは正確に把握できていない場合が多くあります。
むしろ、細かい管理は逆効果を生む事すらあります。従来型の組織では、中央集権的にトップから指示を下ろして組織の末端までを管理していましたが、管理などなくても組織は機能したかもしれません。

ビジネスにおける自己組織化の存在は、そもそも中央集権的な管理など必要なのかという、根源的な問いを浮かび上がらせ、旧来型の組織づくりに対するアンチテーゼにもなるのです。
文脈は違いますが、「管理職・マネージャー不要論」というものがあります。管理職やマネージャーがいなくても問題なく仕事ができることや海外で「民主的なマネジメント論」などのムーブメント自体は、生物学的な自己組織化のひとつとも言えるのではないでしょうか。

組織において中央集権的な管理が必要なのか、必要でないのかは時代や環境、状況などにより異なり、過去から現在においても折に触れて議論されてきたテーマです。
つまりは、管理統制と自主自立のジレンマの繰り返しが、組織運営上の自己組織化として営みとも言えるでしょう。

自己組織化とは、闇雲に組織構造や権限をフラットにし個人の自律を促せば、成立するという矮小化した内容ではなく、繰り返し議論したり変化したり試行錯誤できる状態ととらえることができます。

ビジネスにおいて自己組織化の必要性

2000代以降の現代においては、「VUCA」と称される不確実性の高い環境にさらされています。
「VUCA」とは、

V:Volatility

    (変動性)テクノロジーの進化に伴う価値観の変化

U:Uncertainty

    (不確実性)雇用・キャリアの多様化による不安定

C:Complexity

    (複雑性)問題が複雑になり解決策が明確ではない状態

A:Ambiguity

    (曖昧性)物事が常に揺らいでいる状況

の頭文字をとった言葉です。つまり、外部環境の変化スピードが早くなり、企業に求められるものが変わり続ける時代なのです。

社会やビジネスの前提が変化し定まらないこのような時代においては、管理統制的なルールやシステムは、非効率を生む恐れすらあるため、素早く自律的に自己組織化される組織を目指す必要性が高まっています

また、インターネットの革新によって企業経営がリアルタイムに、かつグローバルにつながるようになったことも不確実性や非連続を促進しています。
それにより、従来のような中央集権型のマネジメントでは通用しなくなったことはもはや明確です。

また、経営において、従来のように確実な正解がないため組織は「なるようにしかならない」という状況に置かれています。
このような状況では、何か問題が起きた場合、状況に応じて即座に柔軟に対応するしかありません。

つまり、従業員や組織を信じて、自己組織化にシフトしていかなければ、いずれ立ち行かなくなってしまいます。
理論上、従業員が当事者意識をもち自己組織化している状態であれば、従業員一人ひとりが自分の発想や判断に従って業務を遂行してくれるため、上司は指示を与える必要がありません。このような状態こそが、不確実性の高い時代にも即座に対応でき、組織に改革を起こし続けることができるのです

自己組織化に必要な要素

自己組織化を目指す場合、具体的な管理をまったくしなくても大丈夫なのでしょうか。以下では、自己組織化のために必要になる要素を紹介します。

信頼

自己組織化したチームには、信頼があります。指示や命令がなくてもそれぞれが信頼し合っているからこそ、組織が動いていくのです。
アメリカの理論生物学者のスチュアート・カウマンは、こんな例を示しています。米軍のパイロットがなんらかの事情で管制塔からの指示を受けられなくなったとき、パイロットは互いに連携を取り合い、周囲を優先しながら飛行するといいます。
彼はこれを「受け手本位コミュニケーション」と表現し、自己組織化したチームの例示としています。

例のように、自己組織化した組織では、各々が信頼の前提から周囲をよく見て、想定し、周囲を優先しながら自分の意思決定を下すことができます。
信頼の前提にあるのは、すべてのメンバーがセルフマネジメントに長けていること。それぞれが自分自身を成長させるための行動を自分自身でとっているからこそ、互いを認め合い、この人なら大丈夫だと思い合えるような関係を築くことができます。その絆が、チームを正しく作っていくのです。そのため、自己組織化した組織には、マネジメントを専門とする人はいません。

コミュニケーション

自己組織化した組織では、良質なコミュニケーションを取り合う環境が整っています

組織で働く以上、コミュニケーションから離れることはできません。どの組織でも何か意思決定をするときには、コミュニケーションを取り合うことが不可欠でしょう。

このコミュニケーションのかたちは、組織の姿をそのまま表すものです。フレデリック・ラルーが提唱した有名な組織の5つのフェーズ「衝動型(レッド)組織、順応型(アンバー)組織、達成型(オレンジ)組織、多元型(グリーン)組織、進化型(ティール)組織」も、それぞれ「組織におけるコミュニケーションのあり方の違い」を示していると捉えることができます。

自己組織化した組織とは進化型(ティール)組織にあたります。5つのフェーズについて詳しく知りたい方は関係書物等をご参照ください。 社会人の感じるストレスの多くは、このコミュニケーションに起因するものだと考えることもできます。つまりは、個々人のコミュニケーションスキルは、非常に重要です。

人材の当事者意識

自己組織化した組織を構成している人材は、自ら責任を持って意思決定を下せる人ばかりです。
これは、精神論だけではなく、個人がチーム又は、組織全体を情報や周囲の状況を把握しながら、チームや組織の目標やビジョンと自分を照らし合わせた時に、自ら考え自ら意思決定できる状況と環境が必要です。組織に関わるすべての人材が当事者意識を持つことにより、組織は自然と自律しながら動いていくことが可能となります。

従業員が自己組織化する組織の特長

組織にとって、従業員の自己組織化は大きなメリットとなります。しかし、従業員は人間ですので価値観や考え方が多かれ少なかれ毎日変化していき、自己組織化することは簡単なことではありません。それでも自己組織化の状態に近づけようとする姿勢を持ち続けることが、長期的に見て組織の質を高めることになります。

実際に従業員が自己組織化するために、次の4つの効果的な働きがあります。

1. 失敗から学べる企業文化・風土づくりへの関与
2. エンプロイーエクスペリエンスへの関わり与
3. 企業のビジョンやパーパスへのこだわり
4. 積極的に従業員が学べる環境づくりへの関与

ポイントを整理していきましょう。

失敗から学べる企業文化・風土づくりへの関与

まずは、自己組織化しやすい環境を整えていくことから始めます。挑戦を受け入れる企業風土を確立しましょう。

もし失敗をした際に周囲からバッシングを受けるような環境であれば、従業員は自らの考えで行動することに消極的になってしまうでしょう。
挑戦することのリスクにばかり目が向き、身動きが取れなくなってしまいます。コミュニケーションを活発化させ、失敗しても否定されないと思える環境を整えることで、自分の責任で意思決定を下す人材が生まれてくるはずです。

環境を整え、従業員に役割やある程度の権限を与えることが、自己組織化を促進するためのポイントになります。

エンプロイーエクスペリエンスへの関わり

エンプロイーエクスペリエンス=従業員体験を高める努力も重要です。従業員が職場で働くことの体験価値を評価していれば、モチベーションの向上が見込め、同時にエンゲージメントも高まります。

また、会社への帰属意識が高まることで、従業員の離職率の低下や貢献意欲の形成が期待できます。 これらが連鎖反応を起こしエンプロイーエクスペリエンスが向上するといった好循環が生まれます。

エンプロイーエクスペリエンスについては下記記事をご参照下さい。

企業のビジョンやパーパスへのこだわり

従業員が自己組織化するためには、組織が目指す方向性を各々が理解している必要があります。理解していないと、日々の業務で発生する意思決定を正しく下すことができません。

そのため企業側は、企業のビジョンやパーパスについて明確に発信していくことが大切です。社内チャットや社内報などでインターナルコミュニケーションを充実させ、「何のためにこの仕事があるのか」といった目的意識が浸透しやすいシステムを組織側で用意するのがおすすめです。

ビジョンを浸透させることの重要性については下記記事をご参照下さい。

積極的に従業員が学べる環境づくりへの関与

従業員が自己組織化するためには、個々のスキルアップが欠かせません。企業は学び続けられる環境を整えることで、従業員が判断力と自身の能力を高めることができれば、指示がなくても目指す方向へ動く組織になるでしょう。

とくに、一方通行的に詰め込むのではなく主体的に学びに参加していく「アクティブラーニング」は人材育成に効果的です。積極的に学ぶことができる環境を作り、企業文化として定着させていきましょう。

従業員が学べる環境づくりについて、詳しくは下記記事をご参照ください。


まとめ

不確実性の高い時代だからこそ、ビジネスにおいて自己組織化の必要性が問われています。従業員が自己組織化すると、主体性や責任感のレベルが上がり、自ら行動し理想的な組織の形成に貢献してくれます。そのためには、企業のビジョンやパーパスについて明確に発信し、積極的に従業員が学べる環境づくりを行っていきましょう。

よくある質問
  • 自己組織化とは何ですか?
  • 組織に所属する人間が、各々の行動によって組織を理想的なかたちに導いていくことを指します。
    誰かに命令されるわけでも、厳格なルールが敷かれているわけでもなく、各々が自身の働くコミュニティの目的を把握して組織に利益をもたらすように動きます。

  • 自己組織化に必要な要素は何ですか?
  • ・信頼
    ・コミュニケーション
    ・人材の当事者意識

株式会社ソフィア

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人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。

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