ディベート研修とは?ディベートからビジネスにも必要なスキルを効率的に学ぼう

ディベートとはディスカッションの方法のひとつで、一つのテーマに対して「賛成」と「反対」の異なる立場に分かれて議論することです。ディベートは、その実践を通してビジネスに必要なスキルを学ぶことができるため、社内教育において注目を集めています。

本記事では、ディベート研修の意義や概要、ディベートによって得られるビジネスに必要なスキルについて解説します。ディベート研修の導入を考えている方の参考になれば幸いです。

ディベートとは?ディベートの流れや、ルールについて解説!

ここでは、ディベートの意味や流れと、ディベートの2つの種類である「論証重視型ディベート」や「即興性重視型ディベート」について解説していきます。

ディベートとは

ディベートはディスカッションの方法のひとつで、自身の意見が正しいことを第三者に評価してもらうことを目的としています。一般的に、以下の流れで進めます。

  1. 立論
  2. 反対尋問
  3. 反駁(はんばく)
  4. 最終弁論

ディベートといえばアメリカ大統領選の際に行われる討論会など、公的な場で行われるディベートをイメージする方もいるかもしれません。しかし、昨今では、教育の一環として「アカデミックディベート」を導入する学校も増えてきています。2016年に東京大学と日本教育研究イノベーションセンター(JCERI)が全国の高等学校の教員向けに行った「高等学校における参加型学習に関する実施調査」によると、75%以上の高校がディベートやディスカッションなどを取り入れたアクティブ・ラーニングを教科の中で実施していることがわかりました。そして、学校だけでなく企業における社員教育の場でも、アクティブ・ラーニングの一環としてアカデミックディベートの手法が取り入れられているのです。

アカデミックディベートには、2つの種類があります。

  • 論証重視型ディベート

ポリシーディベートとも呼ばれるディベートで、肯定と否定それぞれの立場から、主張の根拠となるデータを収集し、論証する方法です。論題が数週間から数ヶ月前に発表されるため、時間的に余裕がある中で、どれだけリサーチできるかが鍵となります。

  • 即興性重視型ディベート

パーラメンタリーディベートとも呼ばれるディベートです。論証重視型ディベートと異なり、論題が試合開始の数十分前に発表されるため即興性が求められます。イギリスやイギリスの連邦諸国で行われることが多く、日本でも東京大学や立教大学などでは英語ディベートとして採用されています。

ディベートについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。

なぜ今ディベートが必要なのか?

ディベートに代表される課題解決型のアクティブ・ラーニングは、情報収集力や討議での対応力、思考力や判断力など様々な能力を伸ばすことができると考えられています。

批判的思考力を身につけることができる

ディベートでは、自分の意見の正しさを主張すると同時に、相手の意見を批判します。これらを通して、批判的思考力を育てることができます。

ディベートという言葉は勝ち負けや論破というイメージが強く、批判的思考という言葉も日本語ではあまりいいイメージを持たれないかもしれません。しかし、ものごとの本質を理解するためには、自分の常識を一旦手放し、一つひとつの事実や主張に対して「本当にそうなのか?」と疑問を投げかけ、探求する思考プロセスが必要です。

アカデミックディベートはあくまでひとつのゲームであり、個人が元々持っている考えに関わらず「賛成」または「反対」の立場をとり、一定のルールの中で、テーマに対して「探求」せざるを得ない状況を作り出すことに意義があります。相手を論破することが全てではないのです。

日常の中で批判的な議論をすると角が立つようなテーマであっても、ゲームの中であれば参加者の心理的安全性を確保した状態で、それぞれの主張の根拠をあらゆる角度から検討し、相手の主張の妥当性を問うことができます。このプロセスを通じて、そのテーマ自体が持つ問題点を洗い出し、テーマの本質を理解することができると同時に、参加者の批判的思考力を鍛えることができるのです。

前提を理解してコミュニケーションできるようになる

コミュニケーションの場においては、一つの言葉や資料に対して参加者それぞれの解釈が異なるために話が噛み合わなくなることも珍しくありません。ディベートを経験すると、一つのテーマについて徹底的に探求することを通じて、「議論する相手と前提を揃えること」の大切さに気付くことができます。

言葉の定義を揃える

たとえば、「教育」という言葉を聞いたときに、「学校や職場などで知識や技能を教えること」と捉える人もいれば、「家庭や社会において人格・道徳・生活を育むこと」と捉える人もいるでしょう。もし、教育に関するディベートをするのであれば、まず「教育」とは何なのか、広義で捉えるのか狭義で捉えるのか、どの範囲について議論するのかなど、言葉の定義や前提を揃えなければ議論は成り立ちません。

現在のビジネス環境では、「DX」「SDGs」「サブスク」「AI」など新しい言葉が多数登場しています。これらの言葉は広義で捉えるか狭義でとらえるかによって解釈の幅が出てくるため、議論する上で前提が食い違う可能性の高いテーマといえます。さらに、働き方の多様化により、さまざまな年代・性別・国籍・文化的背景などを持つ人材が一つの職場で働くようになっており、今後はこれまで以上に、異なる主義主張や思想信条を持つ人々とともに働く機会が増えてくるでしょう。こういった状況においては、議論の前提を確認し、相手の前提を変えたり、自分が相手の前提に合わせたり、といった作業がますます重要になります。

資料の解釈を揃える

現代は情報化社会で、文章、図解、音声、動画など多様なコミュニケーション手段があり、それらはさまざまな表現(レトリック:後述)で溢れています。これらを情報源として適切に用いるためには、そこで書かれていることや語られていることのどこまでが事実で、どこまでが作成者の意見や脚色なのかを見抜く必要があります。

例えば、プレゼンなどでよく使われるパワーポイントの資料では、要点を整理して箇条書きにする方法が用いられます。資料の内容は会議当日に口頭で説明するため、箇条書きの資料で問題ないと思われがちですが、その資料をあらためて見たとき、またはその会議に出席していない人が資料を見たときに、作成者が伝えたい内容はきちんと伝わるでしょうか。「確かこういう話だった」、「おそらく、こういうことが言いたいのだろう」といったようにそれぞれが勝手に解釈をすることで真意が伝わらないといったことが起こる可能性もあります。そういった理由から、米Amazonの共同創設者であるジェフ・ベゾス氏は、箇条書きで資料を作成することを禁じ、文章にすることを求めているといいます。

現実のビジネスの場では、話の要点をまとめて相手を説得したり、より具体的な話をして具体的な計画につなげるなど、場面に応じて話の抽象度や解像度の上げ下げが行われます。そのため、的確な議論を行うためには、ひとつの事実や資料に対してどのような解釈をし、どのような範囲を対象に話をしているのか、相手と認識を揃える必要があるのです。こういった視点も、ディベートを通じて批判的思考力を育む中で身に付けることができます。

ディベートから得られる、ビジネスパーソンにとって必要な思考とスキル

ここでは、ディベートの実践を通して得ることができる、ビジネスパーソンに必要なスキルについて解説していきます。

ロジカルシンキング

ビジネスを進める上では、さまざまな関係者を説得し、協力を得たり合意形成したりすることが求められます。そのためには、自分が主張したいことを言うだけではなく、「相手が理解できるか、納得できるか」を考え、説得力を持ってコミュニケーションできる能力が求められます。そこで必要となるのが、根拠から主張まで正しく論理展開できる、ロジカルシンキングのスキルです。

ディベートにおいては、それぞれの立場からより説得力のある主張を展開する必要があるため、ロジカルシンキングのスキルを養うことができます。ただしビジネスにおいては、論理的に思考すること自体が目的になることはありません。ロジカルシンキングの目的は、あくまでも論理的に思考し、わかりやすく伝えることで、円滑なコミュニケーションをとることであると理解しておく必要があります。

クリティカルシンキング

クリティカルシンキングもディベートから得られるスキルです。クリティカルシンキングとは「批判的思考」と訳されます。そのため「否定的」や「あらさがし」といったネガティブなイメージを持ってしまいがちですが、決してネガティブな思考ではありません。物事に対して前提条件や常識を疑うことで、的を射た論理展開をするための思考のことです。

クリティカルシンキングは、ロジカルシンキングと補完関係にあります。ロジカルシンキングは物事を客観的に捉え、論理として一貫性を保つための思考です。しかし、物事の前提条件を疑うような思考ではありません。

それに対し、クリティカルシンキングは物事の前提条件や常識を疑う思考であるため、双方の思考を組み合わせることで、より真理に近付けるというわけです。

レトリック

ディベートにおいて相手に質問を投げかけながら真実を探っていく中で、レトリックのスキルが身につきます。レトリックとは日本語で「修辞法」と呼ばれ、意見を伝える際に言い回しを工夫することで相手の感情に訴えかける技法です。

レトリックは、主に相手を説得するために、自論を演出するために使われるのですが、説得される立場の視点で考えれば、レトリックを理解することで相手の論のどこまでが真実で、どこがどのように演出・脚色されているのか発見することにも非常に役立ちます。レトリックのスキルを養えば、修辞をそぎ落とし、議論の本質を見抜くことが可能です。そのため、レトリックは発信受信双方に必要なスキルと言えます。

レトリックについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。。

具体的な研修内容に落とし込むには

ディベート研修を導入したいと考えている企業は、以下のような課題を持っているのではないでしょうか。

  • 意思決定の遅延(プレゼンの差し戻し、決定の先送り)
  • 会議の増加や会議不要論(建設的議論ができない)
  • 部門間の連携ができない(共通言語がない)
  • イノベーションの停滞(前例のないことができない)
  • ジェネレーションギャップ(育った時代背景によって持っている文脈が違う)
  • 抽象的なコミュケーションが多く具体性がない(総論賛成各論反対など)
  • 聞きかじりのビジネス用語を、ちゃんと理解しないまま使う社員が多い

ディベート研修は、これらの課題への対策として有効です。

社内でディベートを実施する場合は、どのようなテーマを設定するかが重要です。良い議論を促すためには、できるだけ社内のリアルなテーマを扱うことをお勧めします。例えば、「2025年度 の売上1000億円を達成するために、○○事業部の○○サービスをやめるべきである」といったテーマのように、参加者全員がリアリティを感じられ、前提や言葉の定義にずれが生じにくいテーマが望ましいでしょう。組織のリアルテーマであれば、統合報告書などの公式情報を参照することができるため、社内で情報格差が起こることもありません。

普段の仕事の中で、社会や組織の大前提を疑うような発言をすることは、個人にとって大きなリスクがあります。しかし、研修やワークショップなど、失敗が許される環境においては、むしろリスクのあるテーマを選ぶことで組織への深い理解につなげることができます。「なんとなく理解している大前提をあえて批判する」というプロセスを踏むことによって、その前提が何を意味するのか?という本質に近づくことができるのです。

企業研修におけるディベートの目的は、そのテーマに対して参加者が「探求」せざるを得ない状況を作り出し、ビジネスに必要な思考力を養うことです。テーマ設定や場づくりなど、ディベートの前提となる設計の段階で失敗すると、狙った効果を得ることができません。また、ディベートはあくまでゲームとはいえ、相手の意見を徹底的に批判するため、適切な運営ができないと社内に感情的な対立が発生してしまうリスクもあります。

このようなリスクを避けるためにも、ディベート研修を実施する際には専門家に任せることをおすすめします。テーマ設定や進め方に自信がない場合も、専門家に相談しましょう。

まとめ

ディベートは、テーマに対して「賛成」または「反対」、それぞれの立場に分かれて議論するディスカッション方法です。相手の意見や主張を批判的に見て反論することを通じて、常識に対して疑問を投げかける能力を養えます。これは、物事の本質を理解することにつながります。

昨今では人材や働き方の多様化が進むことで、それぞれの持つ前提が異なる人同士で働く機会が増えてきました。前提が異なる人同士で議論するには、前提を確認する作業や相手の前提を変える作業、自分が相手の前提に合わせる作業が必要です。

ディベートからは、ビジネスパーソンにとって必要なスキルを得ることができます。「建設的な議論ができない」「共通言語がない」などの課題を抱えている企業にとっては、ディベート研修が有効な対策となるでしょう。

ただし、ディベートの能力だけを重視していては、ただの評論家を増やすだけになってしまいます。具体的にはどうするのかというディスカッションをし、関係者のコンセンサスを得て意思決定できなければ、ビジネスは成立しません。ビジネススキルの向上につながるようなディベート研修を実施したいのであれば、専門家に相談することをお勧めします。

よくある質問
  • ディベートとは何ですか?
  • ディベートとは日本語で「議論」や「討論」と訳されます。日本ディベート協会でディベートは集会や議会などの公共の場において、何らかの論点・課題について対立する複数の発言者によって議論がなされ、多くの場合は議論を聞いていた第三者による投票によって判定されるものであると定義しています。詳しくはこちらの記事をご覧ください。https://www.sofia-inc.com/blog/9592.html

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人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。

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