「在宅勤務は廃止すべき」~在宅勤務のメリット・デメリットを問う!オンラインディベート実施レポート~

私たちソフィアは2020年2月中旬より、新型コロナウイルス(COVID-19)の国内における感染状況を踏まえて段階的に出社を停止し完全在宅勤務へと移行。緊急事態宣言の解除後も、引き続き在宅勤務を積極的に活用しています。
数カ月にわたる完全在宅勤務を経て、組織内のコミュニケーションはどのように変化したのか。そして私たちはこのままテレワークを続けるべきなのか否か?この記事では、全社員参加で行ったオンラインディベートの取り組みをレポートします。

ディベートとは?オンラインでどのように実施するのか

ディベートとは、提示された主題(論題)に対して参加者が肯定と否定の立場に分かれて討議するものです。肯定側は自説の優位性を主張し、対する否定側は相手方を論破することを目指します。勝敗は、審判という第三者によって決められます。反論的、批判的な視点を自ら取り込むことで、論理構成力を強化するトレーニングとして、学校教育や企業研修などの場にも取り入れられています。

企業活動においてディベートを取り入れる効果にはどのようなものがあるでしょうか。ディベートを行う上では、かならず「肯定」と「否定」の二つの視点から主題を見ることになります。両方の視点から交互に意見をぶつけ合うことで、企画・提案や計画における構造的な欠陥を見つけやすくなり、それによってプランの実現可能性を高めたり、適切な課題解決が可能になったりするのです。しかも「肯定」「否定」というのは、あくまでもディベートの場で与えられた役割で、実際の自分の意見とは異なる立場から主張しなければなりません。実は、ここが大きなポイントで、普段は気づかない視点や切り口に意識が向いて、新たな気づきを生んだり、ロジックの死角がなくなったりする効果が期待されます。

ディベートを行う際は、参加者が「肯定」「否定」「審判」の3つの立場に分かれます。ディベートの試合では肯定と否定が順番に「立論」「質問」反駁」「要約」という流れで議論を展開し、最後に審判が勝敗とその理由を述べます。そして、1試合ごとに立場を交代しながら、3試合を行います。

対面で行う場合は上の図のように座りますが、今回は参加者の一部が出社、大半が在宅という状況で、オンライディベートを実施ました。使用したツールはFunCorp Lab社が提供するSpatialchatというオンラインビデオチャットです。これは、大人数で利用できるビデオチャットに「距離」の概念が導入されているツールで、参加者のアイコンが並ぶ画面上で自分のアイコンを移動させると、アイコンが近くにある人の声は大きく聞こえるようになり、遠くの人の声は聞こえなくなります。これによって、一つのバーチャル空間で複数の会話を展開できるため、チームごとに分かれての作戦会議と全体で集まっての討議を、画面を切り替えることなくスムーズに行うことができるのです。


肯定、否定、審判に分かれて作戦会議をしているところ。 近くにいる人のアイコンが大きく表示され、声も大きく聞こえる

主題は、「在宅勤務は廃止すべき」。そして討議の結果は?

ディベートは、事前に参加者全員に資料を共有してルールや進め方を理解した上で、全体を2つのグループに分け、各グループが4人ずつ3チームに分かれて試合を進めました。

新型コロナウイルス流行以前にも、2015年には全員がリモートワークできる体制が整って多くのメンバーが日常的にリモートワークを利用していたソフィア。そうはいっても毎週月曜の朝会には原則として全員が顔を合わせ、年に1度の合宿や、半期に1度のキックオフミーティング、ことあるごとに開かれるランチ交流会やランチミーティングなど、リアルで集まる機会を大切にしている会社でもあります。

もともとメンバーの中にはぼんやり「リモート推進派」と「オフィス大好き派」が存在していました。しかし、緊急事態宣言を受けて全員が長い完全在宅勤務を経験し、オンラインで情報共有しながらそれぞれの業務上の悩みや困難を克服して、在宅での仕事のペースを掴んでうまく回り出したタイミングです。ここであえて「在宅勤務は廃止すべきである!」という立場に立って問題提起するのはなかなか難しい。

Spatialchat初体験だったり、ディベート初体験のメンバーも多く、最初は若干の戸惑いや混乱が見られましたが、討議が始まると「在宅勤務廃止」肯定・否定それぞれの立場から活発に意見が発信され、議論は白熱しました。

仕事時間、働き方、情報共有、業務管理、雑談etc… リモートで直面する問題

今回のディベートの主題は「在宅勤務は廃止すべきである」なので、在宅勤務を廃止すべき理由を肯定側が立論し、否定側は肯定側の論の不十分な点を指摘し、論破するという流れで討議が行われました。では、肯定派は在宅勤務を廃止すべき理由としてどのような問題点を挙げたのでしょうか。一部をご紹介します。

<肯定側:在宅勤務は廃止すべきである>

  • オフィスでの雑談が減ることで、情報のインプット・アウトプットの量が減ってしまう
  • 決まった相手と、仕事のやりとり上の会話だけになってしまい、人間関係が築きづらい
  • 通勤がなくなり「人と会う」「現場へ行く」という活動が減ることによって、仕事への熱量、アイデアやインスピレーションが減っている
  • 相手の状況が見えないことで、労務管理が難しくなっている
  • 対面で会話ができないことがメンタルヘルスにも悪い影響を与えている

これらに対する否定側の反論を見てみましょう。

<否定側:在宅勤務は廃止すべきでない>

  • 情報のインプット・アウトプットは雑談だけではない、オンラインで仕事をすることでむしろインプット・アウトプットが増えている面もあるのでは?
  • 雑談はオンライン上でもできるし、ソフィアでは雑談ができるバーチャルオフィスも設けている。バーチャルオフィスの利用率が低いのであれば、むしろメンバーが雑談を求めていない証拠では?
  • 外へ出ることがなくなったが、その分限られた状況での問題解決を必要とされる状況でクライアントへの提案量は増えている。アイデアやインスピレーションが減っているとは言えないのでは?
  • 労務管理はアナログよりデジタルの方が効率的にできるし、隠れ残業はオンラインでなくても生じる。リモートワークのせいで労務管理に支障があるとは言えない
  • メンタルヘルスに影響しているのは「対面の会話がない」ということなのか。リモートワークになったことが原因ではなく新型コロナへの不安などそれ以外の要因の方が多いのでは?

肯定側からは、社員エンゲージメントや心身の健康への悪影響、イノベーション創出を阻害する、労務管理上の問題などさまざまな角度から在宅勤務のデメリットが主張されました。中には「現在のオフィスを撤廃し、各自が個人事業主になって自宅をオフィスにすれば在宅勤務の問題は解決する」という変化球の意見も飛び出し、否定側もそれらの主張を論破するために必死で知恵を絞りました。2グループがそれぞれ3試合、全6試合行った結果、審判による勝敗の判定は「否定(在宅勤務を廃止すべきではない)」が4勝、2試合が引き分けとなりました。

問題を明確にするためにあえて「反論できる構図」を作ってみる

今回「ディベート」という手法を取り入れたのは、ソフィアで研修事業を担当し、社内では人事・労務・財務などコーポレートサービス全般を取り仕切る平井からの提案でした。

日本企業は議論が下手と言われますが、特に、組織の中にあつれきを生むことを嫌って、正面から反論することを避ける傾向があります。反論せずに議論をずらしたり、ごまかしたりして玉虫色にまとめた結果、「会議の中で何が決まったのかわからない」「決定のプロセスや理由がわからない」という状況になる。そのような状況では議論の参加者の納得感はなく、決定事項も実行されなかったり、実行されても続かなかったり、ということが往々にして起こります。

しかし、ディベートではそれぞれの持論とは関係なく「肯定」「否定」の役割が与えられ、それぞれの立場から主張し、反論するという構図ができているため、あつれきを心配することなく反論することができます。そういったこともあり、議論ができるための基礎的なトレーニングとして、顧客向けの企業研修でディベートを取り入れてきました。相手を打ち負かすディベートを日常業務に組み込むことは現実的ではありませんが、問題や課題を明確にするために、あえてやってみるのは効果的です。

ソフィアで完全在宅勤務が長く続く中で、「メンバ―にとって在宅勤務がコンフォートゾーンになりつつあるのではないか」「ここの状況に安住することで成長の機会を逃していないか」と個人的に危機感を持っていました。顔を合わせないと、通常業務で必要なこと以外の会話がほとんどなく、余計なことを突っ込んで話す機会も少なくなっている。そこで、あえて現状を否定する論題でディベートをやってみよう。オンラインでのディベートが成り立つか実験してみようと思ったのです。
(平井 豊康)

事前に社内で「3カ月在宅勤務をしてみてどうだったか」というテーマのディスカッションをしたときも、「最初は大変だったが、次第に慣れてきた」「通勤していたときよりも仕事の効率が上がった」等、大半のメンバーが在宅勤務にメリットを感じており、好意的に受け取っていました。それもあってここであえて「在宅勤務は廃止すべき」という主張をしなければならないことに苦戦するメンバーの姿も見られましたが、あらためて在宅勤務のマイナス面に目を向けることでさまざまな発見があったようです

新しい日常の中で、コミュニケーションの問題と向き合い続ける

オンラインディベートを体験したメンバーの感想としては、ディベートという討議の形式や使用したツールに慣れていないため「疲れた…」という声が多数聞かれましたが、一方で「ゲーム感覚で面白かった」「異なる立場から考えることができて気付きがあった」という声も。中には「リモートワークを続けるべきというのがもともとの考えだったが、自分が行った肯定側立論を自分で論破できないことに気付き、リモートワークはやめるべきなんじゃないかなと思ってしまった」という感想を寄せたメンバーもいました。

2020年の前半で国内企業に急速に広がった在宅勤務。緊急事態宣言解除で出社を再開する企業が一時増えたものの、東京都での感染者数増加を受けて再び出社制限の動きが出てきています。ウィズコロナの生活が続く中、私たちは在宅勤務の問題点もしっかりと認識し、オンライン上での業務の工夫で解決できるものは解決しながら、上手に在宅勤務を続けていく必要がありそうです。ソフィアでは、今後も自分たちや顧客企業が直面するコミュニケーションの問題と向き合い、関係者と対話しながら解決策を探し、その取り組みを積極的に発信していきます。

顔を合わせずに仕事をする中で、社員の状況が見えない。長期化する在宅勤務について社員はどう感じているのか、会社として在宅勤務をこのまま続けるべきかどうか迷っている。そんなときは、それぞれの本音を引き出したり、多様な視点から考える手段として職場でのオンラインディベートを試してみてはいかがでしょうか?

私たちの取り組み事例が、悩めるご担当者にとって何かのヒントになれば幸いです。
(文:瀬尾真理子)

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よくある質問
  • ディベートとは何ですか?
  • ディベートとは日本語で「議論」や「討論」と訳されます。日本ディベート協会でディベートは集会や議会などの公共の場において、何らかの論点・課題について対立する複数の発言者によって議論がなされ、多くの場合は議論を聞いていた第三者による投票によって判定されるものであると定義しています。詳しくはこちらの記事をご覧ください。https://www.sofia-inc.com/blog/9592.html

株式会社ソフィア

最高人事責任者、エグゼクティブラーニングファシリテーター

平井 豊康

企業内研修をコアにした学習デザインと実践を通じて、最適な学習経験の実現を目指しています。社内報コンサルティングの経験から、メディアコミュニケーションを通じた動機付けや行動変容の手法も活用しています。

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