
2020.03.26
インターナルブランディングとは?定義と具体的な進め方をご紹介

目次
「インターナルブランディング」というキーワードをご存知でしょうか。
「インナーブランディング」と呼ばれることもありますが、どちらも同じ意味で使用されています。
インターナルブランディングが順調に進めば、従業員のモチベーション向上や、会社の理念に沿った新事業の創造など、企業の成長に欠かせない効果が期待できます。
今回は、重要な企業活動のひとつとしてますます活発化するこの「インターナルブランディング」について、その定義と、具体的な進め方などをご紹介します。
インターナルブランディングとは?
実際のインターナルブランディングとは、どのようなものなのでしょうか。より詳しくその定義や背景を見てみましょう。
インターナルブランディングの定義
インターナルブランディングは、会社の理念や価値を明確に定義づけ、自社の社員に浸透・共感を促す活動です。
従業員一人ひとりが理解・納得した上で意識変革・文化変革をしていくことがインターナルブランディングの軸となります。
企業を内側から変革し、企業価値を向上させ、より理想的な姿の実現を目指すものがインターナルブランディングです。
具体的な活動内容には、社内外の広報活動や社員研修などの教育活動のほか、報酬制度や人事評価制度などの具体的なシステム改革も含まれます。
インターナルブランディングが日本で広まるようになった背景
インターナルブランディングという考え方は、近年特に注目を集めるようになりました。その背景にあるのは、従業員の多様化であると言えます。
以前の日本では、新卒一括採用や終身雇用制度が一般的であったため、企業理念を社員らに浸透させるのは比較的容易なことだったかもしれません。しかし今は、転職市場が活発化し中途入社の社員が増えたり、様々な雇用形態の社員が集まったりと、労働市場は大きく変わっています。また、業務上のコミュニケーション手段も対面・電話・メール・SNS・WEB・社内報など多様化しており、理念を共有・共感するには、複雑な環境になってきています。
そのため、社をあげてインターナルブランディングを行うことで、会社が進んでいく方向性やビジョンの認識をより強固にする必要性も高く、専門的になってきたのです。
インターナルブランディングとインターナルコミュニケーション
インターナルブランディングに取り組む上で、インターナルコミュニケーションの施策は欠かせない存在です。まずは、ビジネスにおけるコミュニケーションの課題解決に取り組むIABC(International Association of Business Communicators)の提唱する「インターナルコミュニケーション(IC)」の定義を紹介します。
ビジネスにおけるインターナルコミュニケーションとは、企業のビジョンやバリュー、カルチャーを従業員が理解した上で、それを体現する行動を従業員自身が実践し、企業のメッセージを自ら外部へ伝えていくよう企業が従業員を促す活動です。
インターナルコミュニケーションが組織力を高めていく「外向き」の活動であるのに対し、インターナルブランディングは企業のビジョンやバリュー、カルチャーを従業員間に浸透させる、「内向き」の企業活動といえます。
企業を内側から変革するためにビジョンやバリュー、カルチャーの浸透を図るインターナルブランディングと、激化する市場競争の中で企業が生き残っていくための組織力を高めるインターナルコミュニケーションは、相互に取り組む必要があります。
またこのふたつは密接に関連づいており、相乗効果も期待できるでしょう。
インターナルブランディングが必要な企業
では、具体的にインターナルブランディングが必要な企業にはどんな特徴があるのでしょうか。
グローバル企業である
グローバル企業である場合、インターナルブランディングの必要性は特に増します。
グローバル企業では、「ジョブホッピング」と言われる比較的短期間での転職が珍しくなく、様々な背景を持つ人材の出入りが頻繁に発生します。
そのため、揺らぎがちなブランドを常に確立し続ける必要があるわけです。
地域や文化に即した形でローカライズされることもありますが、基本的には本社がブランドの方向性を明確に打ち出すことが重要視されています。
成熟した大企業である
巨大組織に成長した企業こそ、インナーブランディングが必要であるといわれています。
企業規模が大きくなればなるほど、より多くの案件を統率する必要が生まれるため、多くのリソースが管理業務に割かれるようになっていきます。
そのため、新規事業の創造活動などが後回しになってしまいがちです。
とはいえ、目の前にある社内の管理業務を優先して、将来の成長機会を逃し続ければ、会社は衰退していくばかりです。トップダウンでの管理体制に無理が生じてきたとき、あらためて企業理念やブランドを浸透させた上で、事業部門へ管理権限を委譲していくことが重要になるのです。
事業内容が多岐にわたる企業である
例えば、「この会社といえばこの商品(またはサービス)」のように、会社のPRによって社外が強く持つ企業イメージがあるとします。
事業内容が多岐にわたる企業の場合、社外向けの戦略的にPRされている事業内容と異なる業務に従事している社員も多いため、企業イメージの影響で自分の業務が提供する価値をうまく見いだせないこともあるでしょう。戦略的な機能分化された 事業や組織、職場、チームは、合理的な反面、構造的にサイロ化を産み、部門間コラボレーションや社員とのエンゲージメントに弊害を産みます。
このような部門間や社員間のジレンマとコンフリクトを、社員への動機づけに変革することをインターナルブランディングは可能にします。
社員それぞれの認識や方向性を揃え、仕事や会社に愛着を持てる状態やストーリーを提供することで、各々のモチベーションアップへとつなげることができます。
離職率が高い企業である
離職率が高い企業もインターナルブランディングによる変革が急務でしょう。
離職の増加には、従業員のモチベーションの低さが影響している場合もあれば、社内の風土や評価制度に不満を感じている場合も考えられます。
理由が多岐にわたることが想定されるため、この場合は社員へのアンケートを実施するなど、社員ヒアリングをもとに筋道を立てて社員目線の解決施策を考えていく必要があります。
合併や統合を行った企業である
合併・統合などでさまざまな風土や理念を持った人々が混在する心理的ジレンマを解決する上で、インターナルブランディングは効果的であるといえます。
ひとつの企業として一丸となって向かうべき方向を示すことで、共通理念の下で団結して働くことができるようになるためです。
ただし、元々がバラバラの方向や組織文化の企業をまとめるとなると、会社の掲げるビジョンに関連付けた、より説得力のあるメッセージ発信が必要となります。たとえば、社会課題(SDGs・ESGなど)に関連して経営理念を説明するなど、社会における自社の存在意義を従業員が再認識し、各自の仕事に同じ誇りを持てるようなコミュニケーションを展開していくことが必要になるでしょう。組織文化や組織風土など組織や社員のアイデンティティを関わる内容は、コンフリクトのもとに必ずなります。継続的なコミュニケーション活動は必要となります。
インターナルブランディングのステップ
ここからは、インターナルブランディングを行う際の具体的な手順について解説します。
調査する(自社ブランドの社員への浸透状況と課題を明確化)
まずは現状の把握が必要です。
現場の人々が自社に対して抱いている思いを拾い集めることから始めましょう。
そのためには、従業員と向き合って話を聞く機会を作ることが重要です。
さまざまな価値観やモチベーションの従業員がいることを知り、傾向を把握することで、内部的な課題を明確にしていきます。
定義する(目指す姿を描き、戦略を立てる)
調査をもとに、企業ブランドが目指す姿を描いていきます。
インターナルブランディングはその特性から、多くの施策が目標の達成までにある程度の年数を要します。
目標を掲げる際は短期間で達成しようとせずに、年単位での継続的な活動になることを周知し、継続的に取り組む必要があります。
そうすることで、達成までの中だるみや目標の破綻を防ぐことができます。
可視化する(社内報、イントラネットでの発信)
目標と戦略が定まったら、それを社員一人ひとりが把握できるように可視化する必要があります。
伝えたいメッセージを論理的に整理し伝えるだけでなく、感情面に寄り添い訴えかけるストーリー活用することで、共感を生み出します。
社内報やイントラネットを利用し、前者へ広く深く浸透するよう発信し続けることが重要です。
自分ごと化する(社内表彰、セミナー、研修プログラムなど)
会社側が一方向から自社ビジョンを掲げるだけでは、個人の意識改革につなげるのは困難です。
社内表彰や参加型のセミナー、ロールプレイングなどを交えた研修プログラムなどの実施によって、「企業ビジョンに即した人材はどういうものなのか」を考えるきっかけになり、それをどうやって自分ごととして取り入れるかを各々が感じ始めるようになるでしょう。
行動する(業務改善、人事評価制度の見直しなど)
社員らがしっかり意識を持つことができるようになったら、次はそれを行動に移してもらうフェーズに移ります。
業務にその理念を反映させていくように指示したり、理念実現に貢献する取り組みをしたチームを評価したりといった人事制度を整えていきましょう。
現場での意識が根づくよう、組織として取り組む姿勢を忘れないようにしてください。
インターナルコミュニケーション施策
インターナルブランディングの実現に欠かせないのが、インターナルコミュニケーション施策です。
こちらも例を挙げて解説していきます。
対話集会
経営陣と社員とが情報を共有する場として設けられる集会で、タウンホールミーティングとも呼ばれます。
自社の業績結果や年度目標の共有など、経営層から社員に対してトップダウンの情報発信を行うだけでなく、質疑応答やグループディスカッションの併用によって意見交換の場とされることもあります。
メディアコミュニケーション
社内での情報交換や交流には、さまざまな媒体を活用することができます。ターゲット社員に応じて複数媒体を使い分けたり組み合わせたり(クロスメディア)してコミュニケーションを展開することで、より効果的に情報を届けたり、現場の意見を集めたりすることができます。
・社内報
一昔前までは冊子の社内報が主流でしたが、社内報をデジタル化する企業が増えています。
さらに、後述するイントラネットやSNSと組み合わせることで、一方的な情報発信ではなく、オンライン上で議論や交流を促すことができるようになっています。
・イントラネット
イントラネットとは、社内に限定して利用できるネットワークです。業務に関連した書類置き場として機能し、ポータルサイト上から社内のさまざまな情報にアクセスすることができます。
また、ポータルサイトに掲示板やコメント機能などを持たせたシステムが多く採用されており、アップロードした情報に対して社内のコミュニケーションを生み出すことができるようになっています。
・ビデオコミュニケーション
インターネットにおいて動画の利用が一般的になるのにともない、企業内における動画を介したコミュニケーションも盛んになってきました。動画で盛り込まれたメッセージは、テキストメッセージと比較すると圧倒的な情報量を持ちます。
経営トップによる従業員向けメッセージの発信、近く発表される新たな自社商品やサービス、業務に関わる最近の法令改正といった全社員に周知すべき事柄を動画にして配信するケースなどが該当します。
・社内SNS
Microsoft Yammerのようなグループウェアを利用した社内SNSを導入する企業も存在します。そのほかのメディアコミュニケーションと組み合わせることで、企業が発信した情報に対してオンライン上でのコミュニケーションを活発化することができます。
普段接することのない他部署の社員と触れ合うことのできる貴重な機会でもあるといえるでしょう。
また、新サービスなどの自社情報に社員がキャッチアップできるよう、FacebookやInstagramなど対外向けに情報発信している自社アカウントをのフォローを社員に勧めるケースもあります。
社員参加型イベント、社内表彰
イベントでは上司や部下、チームメンバー以外の顔を知る機会になり、普段の業務では関わりのない斜めの関係を築くことができます。
社内表彰は、企業の経営理念やビジョンへの参画意識を高めることができるだけでなく、社長との食事会といった特別な機会と合わせて催されることも多く、日常とは異なる交流ができるでしょう。
現場訪問
経営陣が現場を訪問することで、士気の高揚や課題発見につながります。
現場社員とランチや意見交換会が開かれたりすることもあり、組織のつながりを強化します。
GoodJobカード、サンクスカード
素晴らしい活躍をした社員を称賛するための「GoodJobカード」や、日ごろの感謝を同僚に届ける「サンクスカード」制度も有効です。
こうして形になった思いは、人間関係を円滑にし、風通しのよい環境を作る効果があります。
日報
なにげなく導入されている日報も実はインターナルコミュニケーションの一種です。
部下が日々どのような仕事に取り組み、どのような成果を出しているのかを上司が知るための手がかりとして有用です。
また、現場の状況を本部の社員が知る手段として利用されることもあります。
満足度調査、アンケート
多くは匿名で、直接言いにくい業務上の不満や問題を挙げるといったものです。
率直な意見を吸い上げることで、働きやすい環境の構築につながります。
インターナルブランディングの事例
ここでは、実際にインターナルブランディングを行なって企業改革を叶えた事例を二つご紹介します。
株式会社西武ホールディングス
1つ目は、株式会社西武ホールディングスの事例です。
西武グループでは、現場の風土改善という大きな課題を抱えていました。
活動の第一歩として行われたのは、グループビジョンの策定です。
全社員へのアンケートを基に決められたビジョンに則り、スローガンである「でかける人を、ほほえむ人へ。」という理想の実現を目指しました。
社内表彰やミーティングなど様々な活動を行いましたが、中でも効果的であった事例があります。
それが「ほほえみFactory」という取り組みです。
グループ内の連携を横断的に行うことが目的となっていて、毎年グループ各社から30人ほどが集まり、3.5日間を一緒に過ごします。
グループが今後取り組むべき施策などをディスカッションし、最終的にグループ各社の社長に提案します。
この活動は、今までで既にのべ300人以上の社員が参加しており、ここで出たアイディアが施策として採用され現実化した例もあるといいます。
こうした一連の施策を通し、西武ホールディングスは2014年には東証一部上場を果たしました。インターナルブランディングの成果といえる動きが、実際に現れた事例です。
日立製作所
2つ目は株式会社日立製作所の事例をご紹介します。
日立グループは、2004年に「Inspire the Next」というコーポレートスローガンを制定しました。
グループを構成する約900社もの企業の団結を促すべく、「日立」の掲げる価値観やアイデンティティを浸透させる試みです。
その活動のひとつに、グローバル規模で行う表彰制度があります。
毎年、日立ブランドの価値を特に高めた活動を、世界を6地域に分けて地域ごとに表彰します。
表彰式では、6地域の受賞チームの代表者に日本の拠点に集ってもらいます。
そして、日本で日立の歴史やブランドに関する教育を受けたのち、各拠点に戻ってもらいます。
それぞれの拠点に戻った後、彼ら自身が伝道師となり各拠点の従業員に働きかけることで、その拠点にもより深く日立ブランドを浸透させることが可能となります。
また、受賞者のこの活動は、物語仕立てにして読み物化されていたり、動画にまとめたりされています。
従業員のモチベーションアップや、企業ブランドへの理解を深めることができるツールとしても役立っている好例です。
ライオン株式会社
3つ目はライオン株式会社の事例です。
同社は年1回、社員に向けて「コーポレートブランディング活動に関するアンケート調査」を行っています。
背景としては、お客様に「ライオン」の価値を理解してもらうため、まずは社員に共感してもらうことが大事であると考え、社員が一丸となるべく足並みをそろえる必要がありました。
2013年から調査を続けることで従業員間でのブランドの浸透度・共感度が徐々に上がり、中には業務体制や仕事の仕方が変わったという成果や、ヒット商品の創出にもつながったといいます。
まとめ
インターナルブランディングを効果的に行うことで、企業を内側から改革することができます。
ただし、リソースを少なからず割く活動でもあるので、しっかり計画を立てて社員の理解・納得を得ながら効率的に行うようにしましょう。
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人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。
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