プロジェクトチーム成功のカギは、社内の変化を生み出す情報発信力

企業が何かしらの経営課題に直面したときや、新しいビジョンやテーマの浸透に取り組む際、課題解決のために一時的なチームを立ち上げることがあります。これらはプロジェクトチームやタスクフォース、ワーキンググループなどと呼ばれ、部署や部門を越えたメンバーで組成されるものです。
しかし、さまざまな組織からエース級のメンバーを集めたにも関わらず、プロジェクトチームの取り組みがうまくいかないケースも少なくありません。
この記事では、プロジェクトチームがうまくいかない理由と、取り組みを成功させるために必要なことについて、コンサルタントの経験とさまざまな企業の事例から考えていきます。

社内プロジェクトチームが成功しない3つのケース

会社の組織は一般的に、事業部門のほか経営企画や人事、広報、ITなど機能別に分かれています。企業が経営課題の解決などに取り組む際、テーマによっては特定の部門が主体となってプロジェクトを運営することもありますが、経営課題が複雑化している近年においては、各部署からメンバーを集めてプロジェクトチームを作るケースが増えています。
しかし、優秀な人材が集まったチームにも関わらず、現場からの協力を得られずプロジェクトが円滑に進まない場合も往々にしてあります。なぜ、プロジェクトチームと現場の間に温度差が生じるのでしょうか。ここからは、プロジェクトチームがうまく機能しない状況について解説していきます。

なお、プロジェクトチーム立ち上げ時における成功のポイントについては下記リンク先の記事も参考にしてください。

1.唐突に上から施策が降ってくる

プロジェクトチームの中では緻密に計画している施策でも、現場に伝わっていなければ施策はスムーズに進みません。プロジェクトチームが施策を展開した際に現場でよく見られる反応は「そうなんだ。初めて知った」という驚きや、「会社はいつからそんなこと検討していたの?」「なぜこのタイミングで突然知らされるの?」という疑問です。

例えば、全社での業務システム入れ替えに合わせて、それまで各部門が独自に利用していたファイル共有サービスを全社で統一したとしましょう。なぜ業務システムを入れ替えるのか、それによって現場にどんなメリットがあるのかの説明もなく突然実施すれば、「使い慣れているツールを変更する意味が分からない」「そんなに急に言われても対応できない」など、現場から不満の声が上がるでしょう。
現場には現場の事情があり、ある日突然施策だけが上から降ってきてもすぐに動き出すのは難しいものです。また、その施策によって現場の業務に不都合が生じたり、せっかく作り上げてきた業務フローやマニュアルが無駄になったりすることもあります。こういった現場の状況へ配慮せず当たり前のようにプロジェクトへの協力を求めれば、従業員の反発を招くのも無理はないでしょう。

性急な施策の展開は、現場の混乱とプロジェクトチームへの反発をもたらします。スケジュールに余裕を持って、早いうちから現場とコミュニケーションを取り、施策の内容を知らせるとともに、現場の意見にも耳を傾けましょう。

2.取り組む理由や目的がわからない

施策の意義を現場に伝える以前に、そもそもプロジェクトの目的や取り組む理由が不明瞭というケースもあります。「経営トップに言われたから」という説明では現場は納得感せず、積極的に協力するメリットも感じられないでしょう。

例えばシステムの入れ替えなら、なぜ今のやり方から変更しなければならないのか、理由を明確にする必要があります。なぜなら、現時点で効率的に回っている業務を変更して、わざわざ新しいことを覚えなければならないのは、現場にとって負担でしかないからです。プロジェクトがどのように会社全体の目標につながっているのか、取り組むことで現場にとってどのようなメリットがあるのかを具体的に提示しましょう。現場の従業員が取り組みの目的や意義に納得すれば、プロジェクトチームに対する信頼や、協力するモチベーションにもつながります。

3.何をしたらいいかわからない、自分には関係のないことだと思う

取り組みに関する情報提供が不十分なために、現場の社員が何をしたらいいかわからなくなっていたり、自分には関係のないことだと思い込んだりしている状況もよく見られます。

例えば、企業がサステナビリティ推進に取り組む中で、サステナビリティにつながる取り組みを行うよう現場に指示したり、表彰へのエントリーを呼び掛けたりしたとします。しかし、現場の従業員が「自社にとってサステナビリティとは何なのか」「どんな取り組みがサステナビリティにつながるのか」という具体的なイメージが持てていなければ、実際に取り組むことも、表彰にエントリーすることもできません。また、日頃からサステナビリティにつながる取り組みをしている従業員が、「自分の業務はサステナビリティとは関係ない」と思い込んでいるかもしれません。

取り組みをスムーズに進めるには、全社員が施策について理解し行動に移すことができるよう、十分なコミュニケーションを行うことが重要です。

プロジェクトチーム成功にはインターナルコミュニケーションの視点が欠かせない理由

新たなビジョンの浸透や企業課題の解決のために組成されるプロジェクトチームの役割は、組織に変化を生み出すことです。たとえプロジェクトチームが的確な施策を考え付いたとしても、それを組織の変化につなげることができなければ、プロジェクトは成功とはいえません。
組織の変化には、従業員一人ひとりの意識や行動の変化が必要です。そして、従業員が会社のビジョンや課題を自分事として考え、行動を変えていけるようにするには、チェンジマネジメントの手法が有効です。

チェンジマネジメントとは、企業に必要な変革を外形的な改革として行うのではなく、社員の人間的・心理的側面にも焦点をあてて成功へ導く手法のことです。ジョン・P・コッター(ハーバードビジネススクール名誉教授)が提唱した「変革の8段階のプロセス」を経ることで、スムーズに組織の変革が実現できるとされています。

  • 危機意識を高める
  • 変革推進のための連帯チームを築く
  • ビジョンと戦略を生み出す
  • 変革のためのビジョンを周知徹底する
  • 従業員の自発を促す
  • 短期的成果を実現する
  • 成果を生かして、さらなる変革を推進する
  • 新しい方法を企業文化に定着させる

この「変革の8段階のプロセス」を実行するために、特に大切なのがコミュニケーションです 。ビジョンを周知徹底すること、従業員の自発を促すこと、企業文化に定着させることがこれに当たります。

重要な決定事項や素晴らしい取り組みも、社員全体に伝わり、共感・納得してもらえなければ意味がありません。そのため、社内プロジェクトチームの取り組みを成功させるためには、インターナルコミュニケーションの目的や効果を理解して取り入れることが大切なのです。


 

社内プロジェクトチームを成功させる方法

社内プロジェクトチームを成功させるためには、インターナルコミュニケーションの考え方を理解し、情報発信力の高いプロジェクトチームを作る必要があります。ここからは、プロジェクトチームの情報発信力を高める3つの方法について具体的に解説していきます。

1.コミュニケーション部門のメンバーを入れる

インターナルコミュニケーションに強いプロジェクトチームを作るために、最も近道なのはコミュニケーション部門のメンバーを入れることです。

プロジェクトチームを組織する際、通常は企業が抱えている経営課題やプロジェクトの目的に合わせて、さまざまな部門から必要な人員が選ばれます。しかしその際に「解決すべき経営課題に詳しいメンバー」ばかりが集まると、プロジェクトメンバー側は取り組みの重要性を理解しているために「現場は協力して当然」という態度をとってしまったり、一般の従業員にとっては難しすぎる専門的な情報ばかりが発信されてしまったりする場合があります。

たとえ情報発信をする場があってもプロジェクトメンバーのメディアの活用スキルやコミュニケーション技術が未熟だと、機会を十分に生かすことができません。発信する情報が断片的でわかりにくい、一方的に発信するのみで受け手の反応の確認をしないなどのケースもよく見られます。このような状況では、受け手側がプロジェクトの取り組みを自分事として受け取れないため、意識や行動の変化は生まれにくくなります。

そんなとき、プロジェクトチームの中に広報部などコミュニケーション部門のメンバーがいれば、よりスムーズなコミュニケーション施策の展開が期待できます。社内報や社内ポータル、メルマガなど、複数の方法から伝えたい相手に応じた手段を選択し、より相手の興味に合致した伝わりやすい表現で効果的に伝えることができるでしょう。

2.社員ヒアリングで現場のニーズを知る

具体的なコミュニケーション施策を実施する前に、社員ヒアリングを行うのも効果的です。

プロジェクトチームを成功へ導くためには、プロジェクトの内容を社員一人ひとりに自分事として受け止めてもらう必要があります。そのためには、相手が今どのような状況にあるのか知ることが重要です。具体的には、現場は今何に困っていて、どんな情報を必要としているのか、日頃どのような方法で情報を得ているのか、影響力のあるキーパーソンは誰なのか、などです。

相手のことをよく知ることによって、より適切な表現やツールを選んで情報を発信できるようになります。また、ヒアリングを通じてプロジェクトの目的や状況を伝えたり、相手に役立つ情報を提供したりすることで、プロジェクトチームに対する現場からの信頼醸成も期待できます。
まずはプロジェクトメンバーが現場に足を運び、現場のニーズを把握しましょう。

3.専門家のサポートを得る

プロジェクトチームの中に情報発信の得意なメンバーがおらず、社内メディアを効果的に活用したり、プロジェクトに関連する記事を書いたりするのに必要な技術・ノウハウが足りない場合には、専門家のサポートを受けましょう。
インターナルコミュニケーションについて深く理解していて、プロジェクトチームの情報発信に必要な知識や技術を持つ人であれば、広報部門やデザイン部門など社内の専門家でも、社外のパートナーでも問題ありません。

社外パートナーであれば、広告会社や編集プロダクション、または個人のクリエイターなどに、取材や撮影、記事作成、デザインやサイト制作など、専門技術を必要とする部分のみを外注することもできます。また、インターナルコミュニケーション支援を専門として、状況の分析や施策提案、コンテンツ企画、情報発信に向けたトレーニングなどを提供している企業もあります。

専門家のサポートを得ることで、プロジェクトチーム内の負担を軽減しながら、コミュニケーションの質や量を高め、取り組みの成果につなげることができるでしょう。

情報発信力でプロジェクトチームの取り組みを成功させた企業事例

ここからは、私たちソフィアが支援を行い、インターナルコミュニケーションに力を入れることでプロジェクトチームの取り組みを成功させた企業の事例を紹介します。

1.国内大手食品メーカー

同社は基幹システムの統合・刷新プロジェクトを進めるため、数百名のシステム担当者がプロジェクトに携わっていましたが、プロジェクトは難航し、大きな赤字が出ていました。そのような状況下、プロジェクト事務局は、プロジェクト運営におけるチェンジマネジメントの必要性を感じていました。そこで、インターナルコミュニケーションの視点を持ってチェンジマネジメントができる専門家としてソフィアに支援を依頼しました。
ソフィアによる調査の結果、現場が新システムの導入に懐疑的であることと、プロジェクトチームのメンバー同士の情報共有が不十分であり、ワークエンゲージメントが低いことが判明しました。
そこで、社内メディアや対面のコミュニケーション機会を活用し、プロジェクトの必要性やシステム刷新の意義についてのメッセージを発信するさまざまな施策を展開。プロジェクトチーム内はもちろんのこと、企業全体として基幹システム統合・刷新の目的・意義の浸透を図りました。
その結果、プロジェクトメンバー一人ひとりのワークエンゲージメントが向上し、各組織の協力もスムーズに得られるようになり、無事にプロジェクトの遂行することができました。

2.株式会社ポーラ・オルビスホールディングス

同社は、これまで使用していたグループウェアシステムの老朽化のため、グループ各社へのMicrosoft365の導入と、SharePoint Onlineによるポータルサイト立ち上げを実施しました。
複数のプロジェクトチームを組成して施策の検討がスタートしましたが、従業員のITスキルはまちまちで、グループ会社ごとに企業風土も異なる中、社員全体に新システムを使用してもらえるかどうかが課題でした。

そこで、誰にとってもわかりやすく、親しみやすいイメージを作るために、Microsoft365を活用して主人公が成長していくストーリーの漫画コンテンツを作成。ポータルサイトに掲載してグループ全体に展開しました。漫画コンテンツは現場の従業員からの評判も良く、新システムのスムーズな導入に貢献しました。
また、プロジェクトチーム内ではメンバー間で進歩状況をこまめにシェアし、お互いに刺激しあえる仕組みを用意することで、モチベーションの維持を図りました。

まとめ

各部署から集まった人材が、企業課題解決やビジョンの浸透のために施策の提案や実行をするプロジェクトチーム。しかし、どんなに優れた施策を編み出すだすことができたとしても、現場の社員との関わりを抜きにして取り組みを成功させることはできません。

プロジェクトの成功に必要なのは、プロジェクトチームと現場社員の間のコミュニケーションです。プロジェクトの目的や意義を伝え、社員全体が納得することで、取り組みをスムーズに進めることができます。そのためには、まず、情報の受け手のことをよく知り、より伝わりやすい方法を選択することが重要です。

プロジェクトチームの取り組みを社員一人ひとりの自分事にするために、ぜひインターナルコミュニケーションの考え方や手法を取り入れてみてください。

株式会社ソフィア

取締役、シニア コミュニケーションコンサルタント

築地 健

インターナルコミュニケーションの現状把握から戦略策定、ツール導入支援まで幅広く担当しています。昨今では、DX推進のためのチェンジマネジメント支援も行っています。国際団体IABC日本支部の代表を務めています。

株式会社ソフィア

取締役、シニア コミュニケーションコンサルタント

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インターナルコミュニケーションの現状把握から戦略策定、ツール導入支援まで幅広く担当しています。昨今では、DX推進のためのチェンジマネジメント支援も行っています。国際団体IABC日本支部の代表を務めています。

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