組織変革

チェンジマネジメントとは?DXを成功に導く社員の腹落ちと事例

目次

組織変革の成否は、トップダウンの意思決定の質だけでは決まりません。ビジネスの不確実性や社会の変化、そして技術革新は、あらゆる組織に対して絶え間ない変化への対応を求めています。しかし、いかにその変革が正当であっても、社員の納得と動機が得られなければ、組織は動かないでしょう。

今の時代においては、トップが目標を示し、問題を明確にして変革を実行するという従来型の手法だけでは、成功が難しい局面も少なくありません。この記事では、チェンジマネジメントの一般的な定義を整理した上で、その必要性を改めて確かめつつ、社員の「腹落ち」を生み出す実践的なフレームワークをご紹介します。

チェンジマネジメントとは

チェンジマネジメントとは、どのような手法なのでしょうか。ここでは、チェンジマネジメントの定義や起源などについて詳しく解説していきます。

チェンジマネジメントの定義

チェンジマネジメントとは、企業の変革を成功に導くために、組織に変化を受け入れやすくするためのマネジメント手法です。企業がチェンジマネジメントを行わなければならない背景には、以下のようなものがあります。

  • 急激な環境変化における危機的状況
  • 合併統合/事業や組織の統廃合
  • ビジネスモデル変革
  • 組織や人の変革/人員整理
  • 組織風土や文化の変革
  • 新技術/デジタルツール変革
  • 経営者及び経営チームの変更

現在のビジネスは取り巻く環境が変化し、非常に複雑で不確実となっています。そのため、企業も環境の変化に適応するために、合併や統合、ビジネスモデルの変革、組織や人の変革、組織風土や文化の変革、新技術の導入などを行わなければなりません。手段として変革を行うためには、その変化や変革自体をマネジメントする必要があります
しかし、変化する前の組織や人は、既存の経営資源を活用して、最大限に成果を出す為に、何百何千の膨大な改善活動を繰り返し最適化された完成度の高い強固なビジネスや組織です。しかし、急激な市場変化や環境変化で、途端に最適化された完成度の高い強固なビジネスが脆弱と変化します。
チェンジマネジメントでは、「どうあるべきか?というビジョン創造」「ビジョンをめざした戦略の構築」を既存の成果や結果をリフレームし、強固で完成度の高いビジネスや組織にとらわれず、前提を否定し、ゼロベースでビジョン・戦略を考え、既存の資源(ビジネスモデルや意思決定プロセス・組織体制)にも変革を求めるのが前提です。次から次へやってくる環境や市場からの変化の要求とその度繰り返されるチェンジマネジメントは、本質的に効果を上げているのでしょうか?チェンジマネジメントの経緯や背景から整理していきましょう。

チェンジマネジメントの起源

チェンジマネジメントの考え方は、一般的にアメリカが起源とされています。1993年にチェンジマネジメントの基礎となる、ビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)の基本概念が、マサチューセッツ工科大学の教授であったマイケル・ハマー氏と経営コンサルタントであったジェイムズ・チャンピー氏による著書「Reengineering the Corporation(リエンジニアリング革命)」にて発表されました。

BPRは組織の変革手法として、日本でもバブル崩壊後の苦境を脱する解決策として受け入れられ、日本企業の経営課題に取り入れられてきました。

しかし、初期のBPRはプロセスやシステムの効率化に偏重しており、そこで働く「人」の感情や心理的抵抗が軽視されがちでした。その結果、多くの変革プロジェクトが頓挫する事態が生じました。この反省から、システムやプロセスの再設計(ハード面)と並行して、人々の意識変容や適応(ソフト面)をサポートするアプローチが体系化され、現代の「チェンジマネジメント」へと進化を遂げてきたのです。

チェンジマネジメントの必要性

DX推進や組織変革でチェンジマネジメントが求められる理由

現代のビジネス環境において、デジタルトランスフォーメーション(DX)をはじめとする大規模な変革プロジェクトが多数立ち上がっています。しかし、調査会社ガートナーのデータによれば、明確に成功したと言える変革イニシアチブは約32%に過ぎず、残りの3分の2は失敗または期待を下回る結果に終わっています。また、マッキンゼーの長年にわたる研究でも、変革プロジェクトの約70%が失敗に終わると一貫して報告されています。

これらの失敗の最大の原因は、テクノロジーの欠陥や戦略の誤りではなく、「人」の課題にあります。新しいシステムやツールを導入しても、現場の社員がそれを使わず、旧態依然とした業務プロセスに固執してしまえば、変革は絵に描いた餅に終わります。だからこそ、社員の心理的抵抗を取り除き、変革への参加を促すチェンジマネジメントが不可欠なのです。

ショック療法的な、チェンジマネジメントは失敗する

従来のチェンジマネジメントは、事象を先鋭化させ、現状を問題化し、時には二項対立や優位と劣位を創り上げるなど、変革の正当性を設定しながら変革遂行を実施してきました。しかし、今ではこのようなアプローチは一般化し、組織も人も慣れてしまっており、問題意識や危機意識を醸成するどころか、むしろ儀式化しているのが現実ではないでしょうか。

「冷笑する社員」が増え、声を上げない「面従腹背」の状態になり、その結果、経営が自律や当事者意識を強要しても、より「他人ゴト」の従業員が増え、組織の熱量は下がっていきます。チェンジマネジメントで成長と結果を生み出すためには、「他人ゴト」な従業員に対して社員の「腹落ち」を創り、変革に巻き込めるかどうかにかかっています。

変革を起こしても、「納得感」を創れていなければ、新しい管理業務が増えて業務が煩雑になったと感じるだけです。そのため、既存のフレームワークや理論偏重の進め方は社員を腹落ちさせることができない可能性があるばかりか、マネジメントに失敗してしまい、その失敗から学習さえできない可能性もあります。

ある意味でチェンジマネジメントにおいて、特にマネジメントしなければならないことは、腹落ちや共感を醸成するコミュニケーションです。チェンジマネジメントは感情のマネジメントと言っても過言ではありません。以下では、経営の意図と従業員の共感がどこでボタンを掛け違えるのかをご紹介していきます。

「腹落ち」については下記の記事で詳しく解説しています。

変革の企画者と変革の実施者のジレンマ

経営層などの企画者はチェンジマネジメントのメリットを訴求しますが、実施する従業員はデメリットに目を向けます。企業の経営層には、社内外の会議体や会合などを通じてさまざまな情報が入ってきます。それだけに彼らは、競争環境の変化をいち早くとらえます。昨今の目まぐるしい環境変化に、日頃から危機感を抱いているトップ層も少なくありません。チェンジマネジメントをする動機も意味合いも理解・納得しているのは、マネジメント側であり、チェンジマネジメントを企画する経営層側です。

一方、現場の従業員でトップと同じような危機感を持っている人は一握りでしょう。そのため変革に対しての受容力が低く、場合によっては被害者意識を感じる層も存在します。たとえば体制を変更する、部署を新設する、管理項目を増やすなどの施策は、押し付けと捉えられることが多く、社員のモチベーションを下げるだけになってしまうケースが多くあります。

トップと現場間に生じている情報格差や解釈などを含む文脈の格差は、温度差を生み出します。経営層や全社部門は、自分たちが見聞きするものが現場も見聞きできていると錯覚しがちです。また、現場や従業員は目の前の業務や周囲の状況を前提として意図を解釈します。どれだけコミュニケーションが密に取られている組織や変革であっても、大なり小なり起きる事象です。

しかし、放置したままでは組織変革はうまくいきません。つまり、チェンジマネジメントの実施において間断ないコミュニケーションの機会は、遠回りかもしれませんが必要不可欠であり、近道なのです。

チェンジマネジメントの価値とメリット

チェンジマネジメントを適切に導入・運用することで、企業は単なるプロジェクトの完遂以上の、中長期的な恩恵を享受することができます。競合他社に先んじて変革を成し遂げるための、主な3つのメリットを解説します。

メリット①:ROI(投資対効果)の最大化
概要:プロジェクトの成果は、従業員が新しい仕組みをいかに早く、深く受け入れて実践するかに依存します。
期待される効果:新システムやプロセスの定着スピードが早まり、期待されたコスト削減や売上向上などの経済的リターンを確実に回収できます。

メリット②:「人の課題」によるリスクの最小化
概要:変革に対する現場の心理的抵抗、混乱、不満を事前に予測・分析し、体系的な対策を講じます。
期待される効果:「前のやり方が楽だ」と元の業務フローに戻ってしまう揺り戻しを防ぎ、生産性の低下やキーマンの離職リスクを抑制します。

メリット③:「変革対応力」の組織的な強化
概要:特定のカリスマリーダーに依存せず、組織全体として一貫した変革のフレームワークやプロセスを共有します。
期待される効果:変化が常態化する現代において、次なる市場の変化や技術革新に対しても、柔軟かつ迅速に適応できる強靭な企業文化が育ちます。

変革のROIを最大化するためには、システム要件の定義と同じくらい、社内コミュニケーションや教育プログラムの設計にリソースを割く必要があります。チェンジマネジメントは、これら「人の適応」に関するプロセスを可視化し、リスクをコントロールするための強力な武器となるのです。

チェンジマネジメントの3つのレベル

チェンジマネジメントは、アプローチの焦点や規模によって、大きく3つのレベルに分類されます。大企業のDX推進などにおいては、これら3つのレベルを連動させることが成功の鍵となります。

1. 個人のチェンジマネジメント

変革の最小単位は「個人」です。このレベルでは、個々の従業員が変化に対してどのように反応し、どのように受容していくかという心理的・行動的なプロセスに焦点を当てます。心理学や行動科学の原理を応用し、個人が新しいプロセス、ツール、役割に適応するために必要なコミュニケーションやコーチング、トレーニングを提供します。「なぜ自分が変わる必要があるのか」という個人の腹落ちを形成することが目的です。

2. プロジェクト・組織のチェンジマネジメント

特定のプロジェクトやイニシアチブ(例えば、全社的なERPシステムの導入や、人事制度の改定など)において、関係するチームや部門全体を「目指す姿」へと移行させるレベルです。このレベルでは、ステークホルダーへの影響度を分析し、コミュニケーション計画、スポンサーシップ(経営層の支援)のロードマップ、抵抗管理の計画など、体系的なプロジェクトマネジメントの手法を組み合わせて実行します。

3. エンタープライズのチェンジマネジメント

変革を単発のプロジェクトとして終わらせるのではなく、企業全体の「能力(コンピタンス)」として定着させるレベルです。組織の構造、評価制度、リーダーシップのあり方そのものを、常に変化を受け入れられるアジャイルな状態へと進化させます。このレベルに達した企業は、市場の変化に対して極めて高いレジリエンス(回復力・適応力)を発揮します。

チェンジマネジメントの代表的なフレームワーク

チェンジマネジメントを属人的なスキルに依存せず、体系的に推進するためには、世界的に実績のあるフレームワークを活用することが有効です。ここでは、実務で頻繁に参照される代表的な3つのモデルを解説します。

1. クルト・レヴィンの3段階モデル

社会心理学者のクルト・レヴィンによって提唱された、最も古典的かつ基礎的な変革モデルです。組織の変革を、氷の形を変えるプロセスに例えて3つの段階で説明しています。

・解凍(Unfreeze):既存のやり方や古い慣習(氷)を溶かし、変化の必要性に対する危機感や動機付けを行う段階。
・変化(Change):新しいプロセスや行動様式を導入し、試行錯誤しながら新しい状態へと移行する段階。
・再凍結(Refreeze):新しいやり方を組織の文化や日常業務として定着(再び凍らせる)させ、後戻りを防ぐ段階。

2. Prosci社のADKAR(アドカー)モデル

ADKARモデルは、「組織の変革は、個人の変革が積み重なったものである」という原則に基づき、個人が変化を受け入れるための5つの要素をモデル化したものです。変革の進捗を測定可能な指標に落とし込めるため、多くのグローバル企業で採用されています。

・Awareness(認知):変革が必要である理由と、ビジネス上の背景を理解しているか。
・Desire(欲求):変革に参加し、支援したいという個人的な動機や欲求があるか。
・Knowledge(知識):変革後にどのように行動すべきか、その具体的な方法を知っているか。
・Ability(能力):知識を実際の行動やスキルとして発揮する能力が備わっているか。
・Reinforcement(定着):変革を維持し、後戻りさせないための評価や報酬、仕組みがあるか。

3. コッターの8段階の変革プロセス

ハーバード・ビジネス・スクールのジョン・コッター教授が提唱した、組織全体の戦略的変革をリードするためのフレームワークです。リーダーシップに焦点を当てており、大規模な変革プロジェクトを推進する際の羅針盤として機能します。

ここからは、実務で活用できるチェンジマネジメントのフレームワークとして、このコッターの理論も包含した8つのステップを整理していきましょう。順を追って行うことで定着を図ることが重要です。今回ご紹介するのは、幅広い企業に適用可能な一般的なフレームワークです。

①危機・改善性の明確化と情報開示

まずは、なぜチェンジマネジメントを行う必要があるのかを社員に共有して、腹落ちさせることが重要です。市場・競合の分析を通じた根拠ある説明をすることで、社員の危機意識醸成・変革の必要性認識を目指しましょう。目の前にどのような危機があり、どのように改善するのがベストなのかを整理することで、チェンジマネジメントのきっかけを作ります。

②「変えること」と「変えないこと」の明示

既に通用しなくなったビジネスモデルや習慣、風土という表層的な「変える」部分と、先述した組織の「根茎」である組織の哲学と価値観などの「変えない」部分を明示する必要があります。もちろん、変化の度合いにもよりますが、基本的には「変えること」と「変えないこと」を明示する必要があります。これは、変化の許容範囲を明示し、組織や社員に対する安心感にもつながります。失敗しがちな例として、社会が、競合他社が、他社が、という外部比較からのみ始める場合は、その変化や施策はうまくいかないでしょう。

③変革を率いる初期チームの結成

変革を効果的に起こすためには、推進を担うチームを作る必要があります。実行力と知識を携えたチームがいなければ、変革までに時間がかかったり、途中で頓挫したりしてしまうでしょう。チームのメンバーには、周囲からの信頼や評価が高い人、人脈が広い人、リーダーシップをとれる人などをアサインします。また、変革チームを拡大する、メンバーを入れ替えるなど、状況に応じてチームを柔軟に変化させましょう。

④変革に向けた段階的なストーリー設計

闇雲に動き出しても、理想通りの方向へ変革が進む可能性は低いでしょう。まずはどのようなゴールを目指すのか、段階的にビジョンを描くことが大切です。ビジョンを描くことで、組織が向かう方向性を従業員にいち早く示し、変革へのモチベーションを高めることが可能です。

段階的にビジョンを描くには、以下の流れで行いましょう。

  1. 課題や競合他社と比較しての優位性を洗い出す
  2. 外部の環境変化要因を洗い出す
  3. 情報を整理
  4. ベースのビジョンを作成
  5. 外部環境要因を組み合わせ、それらに基づいた複数のビジョンを描く
  6. 作成したビジョンを自社のビジネスに紐付けて、事業方針を策定し、組織づくりに活かす

また、ビジョンを組織の中に落とし込むためにも、シンプルな内容にすること、実現したときのメリットを思い描きやすい内容にすることがポイントです。

⑤社内全体を巻き込むコミュニケーションデザイン

明確なビジョンを描くことができたら、次は社内に周知していきましょう。効率よく浸透させるために、社内の広報誌があれば掲載するとよいでしょう。その他、デジタルの業務ツールがあればメッセージを発信して共有するのも効果的です。並行して、変革の重要性を認識してもらうための説明会も企画するといいでしょう。

重要なのは従業員全員をいかに納得させられるかです。変革のスピードよりも、いかに広く深く共有できるかが、変革成功の可否を握っています。広く深く共有するためにはインターナルコミュニケーションが重要となります。社員全体でビジョンが共有できるように、コミュニケーションの土台づくりから丁寧に進めていきましょう。

⑥変革を定着させるリズムの創出

社内への周知が進んだら、具体的に変革を進めていくフェーズに入ります。小さな成果でもいいので、成果を刻むことが重要となります。変革の初動で必要なことは明確なプランや優秀なチームよりも、「変化感」を感じさせることです。この「変化感」は、飽くことのない行動と、率先垂範的なコミュニケーションによって生み出され、持続的なリズムが創り出されることが必要です。このようなリズムが変革の初動において極めて重要です。

⑦変革推進の継続と拡大

ここからは、実際に変革を起こしていきます。勢いよく推進することも大切ですが、まずは進捗を管理しながら丁寧に進めていくようにしましょう。たとえば、短期的なゴールをいくつか決めておくことがおすすめです。現状把握が効率よく行えますし、組織全体で進捗を共有しやすくなります。取り組みに手応えがあれば、組織内のモチベーションもアップするでしょう。その場合は報酬や評価軸を新たに用意するなどして士気を高め、変革をさらに拡大していきましょう。

⑧アジャイルな企業文化の獲得

変革を続けることで、新しい方法を組織の文化として定着させていきましょう。変革によってどのような実績が得られたのかを整理し共有することで、風土として馴染みやすくなるはずです。変革プロセスが確立されたら、それを後の世代へ伝承すると同時に、後継者を育てていきましょう。リーダーシップをとる人を育成して次の世代につなげていくことで、変革が組織の風土として根付き、アジャイルな企業文化を獲得できます。

また、アジャイルな企業文化を獲得するためには、権限を委譲し、個人の裁量を拡大することも重要です。アジリティの高い組織を作っていくためには、個人の行動の規制力となるものをできるだけ排除することが大切です。規制力となるものを排除することにより、状況の変化に対してそれぞれの現場が自律的に判断し、最適な行動をとれるようになります。そのため、権限移譲を積極的に行って、現場で働く個人の裁量を高めましょう。

ただし、現場の裁量拡大や情報のオープン化には経営リスクもあります。目標となるビジョンに向けて、組織の規制力をどの程度弱めていくのか、あらかじめ組織内で話し合いを行うことも重要です。

変化が常態化する時代で、「何をチェンジすべきなのか?」

現代の多様性が、業務や組織の複雑性を生み出し、チェンジマネジメントが組織の常態化を促す必要性が高まっています。戦後復興期から高度成長期にかけて、日本の組織は同質性が強く、コミュニケーションは社内に留まっていました。しかし、グローバル化、異なる雇用形態や人材流動化の進展によって、組織内外でのコミュニケーションは複雑化しています。環境の不確実性も高まっており、組織が連携することが求められ、チームビルディングや柔軟性が必要になっています。これらの変化に適応するために、組織自体が変化に強く、柔軟性を持つことが必要でしょう。

常に変化すること、変化に臆さないこと、人と風土を「変化慣れ」した状態に置くためのコミュニケーションは、より重要でコストがかかります。「変化慣れ」とは、文字通り変化に慣れることではありません。従業員の一人ひとりが、企業の方向性やビジョンを原則として理解・共感しつつ、達成するための手法や手段は非連続で実験的であり、コミュニケーションのコストがしっかりとれる状況のことです。つまり、従業員一人ひとりが環境の変化に対して自身で判断できる、自律している状態であることです。

経営におけるアジリティの重要性とコミュニケーションコスト

現代社会において、企業に求められるのはアジャイルであることです。「アジリティ(Agility)」とは、「機敏さ」「素早さ」「敏しょう性」などの意味を持つ言葉です。度重なる自然災害や疫病の発生など、ビジネス環境の不確実性が高まっています。それに伴って、組織の敏捷性という意味で「アジリティ」が重要視されるようになっています。これは、変化を常態化することに他なりません。

組織がアジャイルであるためには、デジタルツールやデジタルワークプレイスにおいて、情報を常に開示している状況でなければなりません。情報を常に開示していなければ、従業員が物事を自身で判断することができず、「アジリティ」は失われます。また、変化が常態化した環境下では、新規事業が軌道に乗った場合、それはもう既存事業となり、次の新規事業への抵抗となってしまいます。だからこそ企業は、アジャイルな状態をキープし、改善や改革を繰り返すことが大切です。

そして、一人ひとりのコミュニケーションスキルが相手や状況に合わせて、阿吽の呼吸であるローコンテクストと、論理やデータを足場にするようなハイコンテクストなコミュニケーションを早く適切に使い分けできる必要もあります。

既存事業が収益の大部分を占め、新規事業は赤字を叩き出しているという企業も少なくありません。赤字であっても新規事業を行っていること自体が評価されれば、イノベーションが起こりやすくなります。しかしそれだと、現実的に利益率が下がり、経営上の問題が出てきます。現実世界をいかに迅速に追いかけようとも、それには限界があります。むしろ、視点を変えて現実を追いかけるのではなく、現実を創造し、または現実世界に対して発信する姿勢を持つことが重要です。これは言い換えれば、価値を創造することです。

価値を創造する側に立てば、顧客からのフィードバックや世間の動向に敏感である必要がありますが、むしろ製品やブランドを通じて顧客や世間を引きつける努力をすることがより効率的です。企業は価値を創造する集団であり、情報収集や分析は単なる価値創造のツールに過ぎません。

しかしながら、情報収集や分析が主要な業務内容となり、本当の意味での価値創造が軽視されているのではないでしょうか?価値を問い、提示することに対する批判も出ていますが、その批判を恐れずに自分自身と信じる価値を理解してもらうための努力を続けることが、企業にとって望ましい状態だと思います。

チェンジマネジメントを実行する前に必要な「リゾーム」の確認

チェンジマネジメントは、「変化する部分」を強調しがちですが、「変化しない部分」をしっかりメッセージとして発信する必要があります。もし「変化する部分」に対して誤解があれば、無駄に抵抗問題を増やすだけです。

しかし、現在のような市場環境では、チェンジマネジメントを実行する前段階で具体的に「変化する部分」と「変化しない部分」を明確に提示することは不可能です。特に大きな組織では、提示した段階で計画の再評価を行い、最終的には玉虫色のチェンジマネジメントになってしまいます。

ここで、「リゾーム」という概念を考えてみましょう。「リゾーム」とは、「根」「根茎」という意味で、フランス哲学者ドゥルーズが提唱した組織モデルです。表面的には変化が乱雑に見えるかもしれませんが、実際には見えない根の部分で集団がしっかりと繋がっていることを意味します。

根がばらばらな状態だと、組織の秩序は崩れてしまいます。しかし、根が繋がっていることにより、見かけの乱れにはいい意味での一定の制約が生じ、過激で極端なものは生まれにくくなります。「リゾーム」構造において根本的なつながりが保証されている場合、このコミュニティは自由に動くことができるはずなのに、それにもかかわらず制約が働き、創造的なプラットフォームの可能性が生まれます。「変化しない部分」とは、この「根茎」になります。

「リゾーム」モデルの根本にあるものこそが、経営理念であり、価値観であるべきです。現在のチェンジマネジメントは、あるべき姿(「ASIS-TOBE」)を設計することも重要ですが、このような思想的な背景概念がないと一貫性も継続もできません。自社がどのような価値を生み出しているのかを再評価し、自社の経営哲学の再考をしていない場合は、チェンジマネジメントは改悪になってしまうか、変化できない可能性があります。チェンジマネジメントを実施する前に、自社の価値創造の根っこの部分を問い直す機会として捉えることもできるでしょう。

社内コミュニケーションとチェンジマネジメントの関係性

変革のビジョンを全社に浸透させ、社員の腹落ちを促す上で、社内コミュニケーションは文字通り「生命線」となります。しかし、多くの大企業において、経営層の意図が現場に正しく伝わっていないという深刻な課題が存在します。

弊社ソフィアの調査では、国内企業におけるインターナルコミュニケーションの実態を浮き彫りにするため、「フル_IC実態調査2024」を実施しました(調査時期:2024年8月21日~9月17日、対象:従業員数1,000人以上の企業に勤めている現場及びコーポレート部門の方、回答者数:496名)。

この調査において、「インターナルコミュニケーションにおける課題と対策」「コーポレート部門からの情報発信」「社内コミュニケーション媒体の活用状況」という3つのテーマで実態を分析した結果、DX推進などの全社的な変革プロジェクトにおいて、社内ポータルや社内報などの媒体を通じた情報発信が「一方通行」に陥っているケースが多数確認されました。

経営層やDX推進部門が、変革の「Why(なぜやるのか)」を語らずに、「What(システムが変わります)」や「How(こうやって使ってください)」というマニュアル的な情報提供に終始してしまうと、現場は強い抵抗を示します。弊社ソフィアの調査結果が示唆するように、コーポレート部門からの情報発信は、受け手である現場の文脈に翻訳し、感情に寄り添う双方向の対話プロセスとして再設計されなければなりません。効果的なチェンジマネジメントは、優れたインターナルコミュニケーションなしには成立しないのです。

チェンジマネジメントを阻害するチェンジモンスターへの対処

どんな組織にも、少なからず改革を妨げる抵抗勢力はいます。ボストン・コンサルティングのジーニー・ダックは著書「チェンジモンスター」の中で、改革をあの手この手で阻むメンバーを、モンスターキャラとして皮肉混じりに描いています。ここでは「チェンジモンスター」4類型をご紹介します。

・「タコツボドン」:縦割り組織のタコつぼに閉じこもり「それはうちに関係ない」「うちのやり方に口出すな」を連発します。

・「ウチムキング」:市場や顧客に目を向けず、各部門の利害や組織間の力関係や諸事情ばかり気にかけます。

・「ノラクラ」:のらりくらりと弁明を連発し、現状維持を図ろうとします。

・「カイケツゼロ」:組織や事業の問題点をとうとうとまくし立てる評論家で、自分で解決する気はありません。

「ビジョン創造」には、まず社員の意識を変えることが重要となりますので、チェンジマネジメントを妨げる可能性のある社員のタイプを知ることからスタートしましょう。

これらのモンスターに対して「正論」をぶつけても、逆効果になることがほとんどです。彼らの抵抗の裏には、「自分のこれまでの実績が否定されるのではないか」「新しいスキルについていけないのではないか」という根深い不安(恐怖)が隠れています。チェンジマネジメントにおいては、彼らを排除するのではなく、個別の対話を通じて不安を取り除き、時には変革チームの重要な推進役として巻き込んでいくような、高度なコミュニケーション戦略が求められます。

チェンジマネジメント成功事例

ここからは、チェンジマネジメントが成功した日本企業の事例について解説していきます。自社の現状を踏まえながら、チェンジマネジメントの参考にしてください。

消費財メーカー(従業員1万名規模以上)

周年の節目を迎えて、2010年前後より新たに経営ビジョンと企業メッセージを刷新・導入しました。この企業メッセージの浸透を目指すため、現場に対する丁寧な調査を実施し、トップダウン型の意識醸成ではなく、部門や役職に関係なく話し合える企業風土づくりに着手しました。

そして必要な時間をかけながら、企業の存在価値やアイデンティティを社員に伝え、納得感を醸成していきました。結果、チェンジマネジメントに成功し、プロジェクト開始から4年後には通期決算で過去最高の売上と利益を達成しています。

ITベンダー(従業員1万名規模以上)

働き方変革がきっかけとなり、自社も働き方変革に着手し、現場の意識醸成とトップへのアプローチで、マネジメントのスタイルを見直しました。しかし、実態は会社として取り組む内容に内心賛同していない社員が存在していることが課題となっていました。

そこで、アンケートとヒアリングを活用し現場の意識調査とヒアリングを実施しました。それをもとにワークショップや社内事例共有、有識者のセミナーなど間断ないコミュニケーションコンテンツを提供し、働き方変革推進のための各種施策の立案・推進支援を行いました。職場変革に3年間取り組んだ結果、トップダウン型からボトムアップ型へのチェンジマネジメントに成功し、1人当たりの生産性(金額ベース)は向上しました。

これらの成功事例に共通しているのは、経営層が一方的にビジョンを押し付けるのではなく、現場の声を丁寧に拾い上げ、社員一人ひとりの「腹落ち」に時間を投資した点です。効率を最優先して対話を省くことは、結果として変革の定着を遅らせる最大の要因となります。

チェンジマネジメントの常態化に向けた具体的ステップ

チェンジマネジメントのフレームワークを全社員に浸透させ、新しい風土を作っていくことを目指しましょう。しかし忘れてはならないのは、風土を作るのがゴールではないことです。作った風土が当たり前になり、文化として継承され、人を変えていくようになることがゴールだと言えるはずです。しかし、ゴール後に何も変わらなければ組織の硬質化・常態化を生み出します。そのため、変わることが常態化する状況を目指していきましょう。

また、組織風土の醸成は、必ずしも全社員で行うべき仕事ではありません。むしろ限られた社員が、権限を委譲して、リーダーシップをもって進めていくことが重要です。

複数シナリオからなるビジョンへの道筋

変革が常態化した組織を目指すなら、シナリオプランニングの手法が適しています。シナリオプランニングとは、将来起こるかもしれない複数のシナリオを描いたうえで、自社の事業や経営方針、想定される出来事への対処法を導きだす手法です。

まず、自社が抱えている課題と競合他社を比較し、自社が持つ優位性を洗い出して整理します。そのうえで、何年後を念頭においたシナリオを作成したいかという「時間軸」と、市場は国内か海外かなどの「地域軸」を検討します。

さらに、未来に影響を及ぼす外部環境要因を洗い出すことでシナリオを描いていきます。不確実性の高い未来に対し、さまざまな方向から俯瞰し、複数の長期的な戦略を立てることで、最悪の事態に備えることができるのがメリットです。また、組織の可能性を想起することで、社員を動機付けする効果もあります。
「シナリオプランニング」については下記の記事をご覧ください。

内外の情報を共有するコミュニケーションプラットフォームの整備

コミュニケーションプラットフォームを見直すことも、変革においては欠かせません。業務に必要なアプリケーションや情報、コミュニケーションツールをクラウドベースのデジタル空間上に集約するのがおすすめです。マルチデバイスでアクセスできるようにすることで、効率化を一気に押し上げる「デジタルワークプレイス」の発想です。

デジタルワークプレイスを活用することで、社内外の情報を簡単に共有できるようになり、従業員のコミュニケーションの円滑化に期待できます。コミュニケーションプラットフォームを整備することは、社内の意識を統一させることに役立つでしょう。

社員同士の信頼関係を育む風土づくり

効率的に変革を行うには、社員同士が信頼し合っている風土があることが不可欠です。従業員が会社を信頼し、自発的な貢献意欲を持っている状態、すなわち従業員エンゲージメントが高い状態を目指しましょう。そのためにも、コミュニケーションの質と量に目を向け、会社が大切にしたい価値観に基づいた情報がしっかり社員に届いているか、コミュニケーションされている内容や場所に偏りはないか、社員の声に経営が触れる機会が確保されているかを確認し、問題を改善していくことが大切です。信頼関係の深い風土を作ることができれば、あらゆる業務にプラスの影響が生じるはずです。

論と情を使い分けるコミュニケーションスキル

コミュニケーションをする上で、論と情を切り分けて話すのはとても重要です。経営層と現場、部門間など、目標に向けた変革連携においては、論理や理屈上の葛藤や心理的葛藤が、そこかしこで起きる、もしくは内在しています。経済合理性が前提なので、ロジックやあるべき論が優先されます。しかし、組織内において、論理だけでは組織は動きません。

論理で他者や他部門・他階層を否定しても、無駄です。人や組織の心理を踏まえながら、「論と情」をしっかり前提においてバランスをとってコミュニケーションできるスキルが必要です。実態としては、日本企業は人の感情や心理に対する配慮などは強くできる傾向があり、相対的には論理や理屈が弱い傾向があります。つまり、過度な配慮や忖度が弊害になることもあります。

不確実時代のチェンジマネジメントはリダンダンシー(冗長性)が必要

組織変革のためにはまず、変化が常態化する風土を生み出すことが大切だと解説してきました。効率よく理想の風土を生み出すには、アジリティが必要であることを常に念頭に置きましょう。

しかし、高度に効率化されたサプライチェーンや組織構造においては、アジリティを発揮することは非常に困難です。高度な効率化・合理化は、高い収益性を生み出す反面、変化に脆弱なのです。目まぐるしく状況が変化する昨今は、効率性を極めることよりも、非効率な冗長性、つまり「リダンダンシー(冗長性)」が必要です。もちろん、冗長性と効率化をバランスよくデザインすることが重要ですが、そもそも事業が変化に対応できず頓挫してしまっては、元も子もありません。不確実時代のチェンジマネジメントは「リダンダンシー(冗長性)」が必要だということを念頭に、チェンジマネジメントに取り組みましょう。

まとめ

企業が勝ち残っていくためには、どこかの段階で組織変革を行わなければなりません。不確実な時代だからこそ、経営におけるアジリティの重要性を理解し、チェンジマネジメントが常態化する組織を目指しましょう。また、チェンジマネジメントが常態化するためには、内外の情報を共有するコミュニケーションプラットフォームも必要です。コミュニケーションプラットフォームを整備し、社内の意識を統一させて、社内外の変化に合わせて対応できる組織づくりを目指しましょう。

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よくある質問
  • チェンジマネジメントとは何ですか?
  • 企業の変革を成功に導くために、組織に変化を受け入れやすくするためのマネジメント手法です。企業も環境の変化に適応するために、合併や統合、ビジネスモデルの変革、組織や人の変革、組織風土や文化の変革、新技術の導入などを行わなければなりません。
    かつてバブル崩壊後の苦境を脱する解決策として受け入れられ、日本企業の経営課題に取り入れられてきました。

  • チェンジマネジメントを阻害する要因は何ですか?
  • それはうちに関係ないという凝り固まった思考のタイプや、市場や顧客に目を向けず、各部門の利害や組織間の力関係や諸事情ばかり気にかける内向きなタイプ、現状維持を貫こうとするタイプがいます。このようなチェンジマネジメントを妨げる可能性のある社員のタイプを知り、変化に適応する組織風土を作ることが必要です。

  • チェンジマネジメントの方法は?
  • 1.危機・改善性を明確にして共有するオープンな情報開示
    2.変革を率いる初期のチームを結成する
    3.変格に向けた具体的且つ段階的なストーリーの設計
    4.社内全体を巻き込むコミュニケーションデザイン
    5.変革が達成できるように環境を整えることはリズムを創ること
    6.変格の推進を継続・拡大していく
    7.アジャイルな企業文化を獲得する