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組織風土開発を成功に導く社内メディア活用と進め方【実践事例もあり】

2020年代に入り、新型コロナウイルス感染拡大への対応、DX、ダイバーシティ&インクルージョン、人的資本経営など、企業を取り巻く前提は大きく変わりました。こうした変化に対応し、成長を続ける企業、社員が働き続けたい企業であるために、組織風土開発の重要性はこれまで以上に高まっています。実際、ハイブリッド環境では社内コミュニケーションが分断されやすく、組織内のサイロ化が進みやすいことも示されています。だからこそ今、組織風土開発を「コミュニケーションの再設計」として捉える視点が必要です。

しかし、社員調査などの結果から「組織風土を変える必要がある」とわかっても、どこから着手すべきか迷う担当者は少なくありません。そこで本記事では、組織風土開発とは何かという基本から、コミュニケーションが果たす役割、具体的な進め方、社内メディアやコンテンツの活用法、成功事例、効果測定の考え方までを体系的に解説します。

組織風土開発の定義

組織風土開発とは、社員の日々の行動や意思決定、人間関係のあり方に影響する“職場の当たり前”を、企業の目指す方向に合わせて育てていく取り組みです。制度やルールだけを変えても、現場の解釈や関係性が変わらなければ、行動はなかなか変わりません。逆に、変化の意味が共有され、対話が行き交い、挑戦や協力が促される状態が整えば、組織風土は少しずつ変わり始めます。
ここで押さえたいのは、組織風土開発は単なる“雰囲気改善”ではないということです。組織開発には、課題を見える化して改善する診断型と、対話を通じて新しい意味や可能性をつくる対話型があります。大企業では、まず現状を把握し、そのうえで対話の場を設けて行動変容につなげるように、両者を組み合わせるのが実務的です。

また、組織風土開発は人事部門だけで完結するテーマでもありません。経営、現場管理職、広報、情報システム、研修企画など、複数部門が連動して初めて前に進みます。とくに大企業では、部署や階層をまたぐ情報伝達と、部門間の認識差を埋める仕組みづくりが成否を分けます。大企業のチーム成熟や連携のあり方が変革の成否に関わることは、複数企業を対象にした研究でも示唆されています。

組織風土開発でコミュニケーションが重要な理由

組織風土改革を進めるうえで、コミュニケーションは非常に重要な要素です。理由は大きく分けて二つあります。ひとつは、企業の理念やビジョン、変革の目的を正しく伝えるためです。もうひとつは、その情報を単に認知させるだけでなく、理解・共感・行動へとつなげるためです。

企業全体で言えば経営陣、単位組織で言えばそのトップが、どのような考え方や方針で動いているのかを全員が意識しなければ、組織としての一貫性は保てません。企業の存在意義や目指す将来像、トップの方針を明確に伝えることは、社員の安心感や信頼感にもつながります。組織風土開発を進める際には、「なぜ変わるのか」「どのように変わろうとしているのか」を組織全体へ伝え、解釈のズレを減らしていく必要があります。

ただし、理念やビジョンは“発信しただけ”では浸透しません。組織変革では一方向の情報伝達だけでなく、双方向のコミュニケーションを常態化し、対話を通じて意味づけを共有することが重要です。内部コミュニケーションにおいて、明確なメッセージ、フィードバック文化、部門横断の調整が整うほど、従業員エンゲージメントや運営上の有効性が高まりやすいことも研究で示されています。

企業の理念やビジョンの伝達

そのためには、理念やビジョンを社員が理解・共感できる言葉に噛み砕き、受け取る人によって認識の相違が生まれないよう、伝え方を丁寧に設計する必要があります。全社集会で一度伝えるだけではなく、社内報、ブランドブック、イントラ特集、動画メッセージ、管理職向け対話ガイドなど、複数の接点で繰り返し接触できる状態をつくることが大切です。

認知・理解・共感による社員エンゲージメントの強化

社員は、会社が何を掲げているかを知るだけでは動きません。その方針が自分の仕事や現場とどうつながるのかが見えてはじめて、自分ごと化が起こります。そのため、組織風土開発では、経営メッセージの翻訳、現場事例の紹介、管理職の対話促進、社員参加型コンテンツの設計が必要です。

加えて、社員が安心して意見を言える状態、すなわち心理的安全性も欠かせません。心理的安全性は、チーム内の学習や振り返り、率直な発言、改善提案を支える土台であり、実証研究ではチームの内省やパフォーマンスとの関連が示されています。組織風土開発をメディア運営だけで終わらせず、対話の場づくりまで含めて設計する必要があるのはこのためです。

さらに、ハイブリッドワークや部門最適化が進む環境では、組織内ネットワークが分断しやすく、互いの文脈が見えにくくなります。社内メディアやコンテンツは、その断絶を埋め、他部署の仕事や意思決定の背景を可視化する役割も担います。単なる“お知らせ媒体”ではなく、組織をつなぐインフラとして位置づけ直すことが重要です。

組織風土開発の始め方

組織風土開発を進めるとき、いきなり媒体制作や施策実行に入るのはおすすめできません。まず必要なのは、「何を変えたいのか」「誰のどの行動を変えたいのか」「なぜ今それが重要なのか」を明確にすることです。組織風土は抽象度が高いため、目的設定が曖昧だと施策もスローガン化しやすくなります。

診断型組織開発は、現状の見える化、課題特定、施策設計、実行・フォローという流れで進みます。一方、対話型組織開発は、メンバーの対話を通じて可能性や未来像を共同で形にしていくアプローチです。大企業の実務では、サーベイやインタビューで課題を把握し、その結果を素材に対話を設計する流れが現実的です。

進め方の基本ステップ

進め方は、次の五段階で整理すると運用しやすくなります。

  • 現状把握:サーベイ、インタビュー、既存媒体の閲読データ、離職・異動・エンゲージメント関連指標を確認する。
  • 課題定義:理念浸透不足、部門間連携不足、管理職コミュニケーション不足など、変える対象を明確にする。
  • 体験設計:誰に、どの順番で、どの媒体と場で、何を体験してもらうかを設計する。
  • 実装:ブランドブック、社内報、対話会、動画、社内SNS投稿企画などに落とし込む。
  • 検証:閲読率、理解度、共感度、参加率、行動変容の兆しを継続的に測る。

この順序を踏むことで、施策の点在を防ぎやすくなります。

組織風土開発に有効なメディアとコンテンツ

方針や想いの共有による意識合わせ

ブランドブックは、自分たちは何を目指し、どのような価値を社会に提供し、どのような存在でありたいのかを整理し、ブランドへの理解を深めるための冊子です。ただ配布するだけではなく、対話会、研修、マネジメント層の1on1、表彰の場などで繰り返し参照される状態をつくることで、象徴的な意味を持ちやすくなります。

大企業では、抽象度の高い理念ほど現場では“自分に関係のない言葉”になりがちです。そのため、ブランドブックに経営メッセージだけを載せるのではなく、現場の仕事との接続、具体行動例、意思決定の判断基準、管理職向けの問いかけ例まで盛り込むと、言葉が実務に近づきます。冊子そのものよりも、それをきっかけにした会話設計に価値があります。

社内への公平な情報共有

社内報は、社員を主な読者とするオウンドメディアであり、全社へ均質に情報を届けるうえで有効です。既に認知されている社内報があるなら、新規媒体を増やすよりも、タイトル、トーン、特集テーマ、社員参加企画を刷新して、組織風土開発の推進装置として再定義するほうが成果につながりやすいケースもあります。

とくに大企業では、経営発信だけが並ぶ社内報だと、読む理由が弱くなりがちです。おすすめは、経営の方向性、部門横断プロジェクト、現場の工夫、管理職の試行錯誤、顧客価値につながった具体例を一つの線でつなぐ編集です。情報を“知らせる”だけでなく「この会社はどこへ向かい、その中で自分は何を期待されているのか」が見える編集にすることで、風土形成に効く媒体へ変わります。

タイムリーな情報共有によるモチベーション向上

社内SNS、Web社内報、イントラ、デジタルサイネージといったデジタルメディアは、即時性、双方向性、運用の柔軟性に優れています。社内SNSは横のつながりづくりに、Web社内報はリッチなコンテンツ配信に、イントラは全社・部門情報の基盤に、サイネージは強く注目させたいテーマの告知に向いています。媒体ごとの得意領域を整理し、役割分担を明確にすることが重要です。
たとえば、全社ビジョンの理解促進にはブランドブックと社内報、今月の重点施策の周知にはイントラとサイネージ、現場発の工夫共有には社内SNS、深いストーリー紹介にはWeb社内報というように、“一つのテーマを複数媒体で立体的に届ける”と定着しやすくなります。組織風土開発では、媒体単体の優劣よりも、組み合わせの設計が成果を左右します。

また、情報システム部門との連携も欠かせません。権限設計、更新体制、運用ルール、閲覧データの取得方法が曖昧なままだと、継続運用や効果検証が止まりやすくなります。媒体を立ち上げること自体が目的化しないよう、体制面の設計までを最初に決めておくことが大切です。

組織風土開発の成功事例

事例1:みずほフィナンシャルグループ

世界有数のメガバンクである同グループが、海外の有名ブランディング会社を起用してブランドステートメントを制作・導入した時のことです。日本人にとって聞きなれない英語表現でつづられたそのステートメントは、簡単には理解しづらいものでした。そこで、ブランドイメージの社内浸透を担うインナーブランディングのチームが中心となって各部署とのコミュニケーション活動を積極的に行うことを決意。ブランドの目指す理念とその結果実現したい社会との関係性などを平易なビジュアルと文章で構成したブランドブックを作成、全社員に配布しました。

当時は今ほどブランドブックが一般的ではなかったため、大きな組織が掲げる目標を末端に行きわたらせるメディアとして社内から大きな反響がありました。実際に研修や日常業務の場で携帯されるブランドブックを通じて「それはブランドとどうつながっていくのか」という意見交換が実際に行われるなど、コミュニケーションの幅を広げることに成功しました。

事例2:グローバル展開するグループ企業A

この企業では、地域や歴史、言語など異なるバックグラウンドを持つ社員を多く抱えているということから、ビジョンやミッションの共有や理解を広めることに難を抱えていました。そこで、英語版だけでなく各国語に訳したブランドブックを作成。世界的に強烈な印象を残した東日本大震災を共通の題材として、海外での理念浸透に努めます。インパクトのある話題で社員の心をつかみ、企業としての思いをストーリーとして伝えることで、理解・共感を促すことに成功しました。

また国内においては、自分の役割や会社として目指すクオリティなどを1人ひとりにアンケートし、得られた社員の声をブランドスローガンとともに広告に反映する取り組みも実施されました。ブランドブックと広告の活用により、実際の社員の声を顧客に届けて会社に対する安心や信頼を構築しただけでなく、社員が主体的に考えて仕事へ向き合う組織風土の形成にも合わせて活用したのです。これにより、企業のブランディングに対する社員の自主的な参画モチベーションが生まれ、活動の輪が広がっていきました。

事例3:社員数10000人以上の大手小売チェーングループB

同業の中でも歴史が長く最大手の同企業は、効率化とガバナンス重視の経営を続けた結果、新たな取り組みを積極的に行う組織風土が後退し、閉塞感が高まったことでセクショナリズムも蔓延していました。
そこで、組織風土改革を実施。まずはトップ直結の企業風土刷新プロジェクトを開始し、社内外からビジョンに関する定性・定量情報を得るところから始めました。理念や事業戦略の立案という経営の根幹にかかわる領域にコミットしていくことで社員の意識が活発化していきます。さらに、ブランドブックを活用し、対話会や研修を重ねることで積極的な挑戦心を養い、チャレンジングな組織風土の再生に成功しました。
現在では、現場主導で新たなブランドの立ち上げや新業態の開拓など幅広い挑戦が次々と発生しています。

事例:中堅の老舗企業C(ソフィア事例)

100年に至る長い歴史を持つ同社は、M&Aによる経営陣の交代が続いたことで、自社の強みや弱み、基本方針などアイデンティティを構成する要素が揺らいで不安定な状態にありました。まじめだが当事者意識に欠け、指示待ち状態の社員が多いという組織風土を改革するべく、社内リサーチの段階から社員を巻き込んでいくスタイルでプロジェクトがスタートしました。

各社員タイプ別に、企業ビジョンの理解・共感レベルやエモーション、行動様式を意識したアプローチのシナリオを用意し、それぞれの社員に寄り添ったビジョン浸透施策を実施します。そして、進捗を常に社内にフィードバックし、参画を促すためのコミュニケーション・プラットフォームとして専用の情報共有サイトを開設。さらには、社内報の発行にも取り組みました。組織風土改革の一環として、これらの編集会議もアジャイル型で制作するなど工夫を凝らします。

これらの事例に共通するのは、媒体を作ったことではなく、媒体を通じて会話を生み、行動基準を共有し、参加感を高めたことです。つまり、社内メディアやコンテンツは配布物ではなく、組織風土開発のプロセスを前進させる“場のデザイン”として使うと成果が出やすいのです。


組織風土開発の効果測定

組織風土開発は、「これで完了」と言い切れる性質のものではありません。そのため、単発施策ではなく、継続的に観測し、改善していく前提が必要です。効果測定は、次の三層で考えると整理しやすくなります。

よくある質問
  • 組織風土開発と組織風土改革の違いは?
  • 組織風土改革は、課題の是正や変革を強調した表現です。一方、組織風土開発は、望ましい風土を継続的に育てていくニュアンスが強く、人的資本経営や継続的改善とも相性がよい表現です。記事内では、検索需要の大きい「改革」と、育成志向の「開発」を文脈に応じて使い分けると自然です。

  • 組織風土開発と人事部門の役割は?
  • 人事部門が旗振り役になることは多いですが、経営、現場管理職、広報、情報システム、事業部門が関わらなければ定着しにくいテーマです。特に大企業では、情報の発信主体と受信現場が離れやすいため、関係部門を巻き込んだ推進体制が必要です。

  • 社内報やブランドブックだけでは組織風土は変わらない?
  • 媒体だけで組織風土が変わるわけではありません。重要なのは、媒体を介して対話が生まれ、行動基準が共有され、変化の進捗が見える状態をつくることです。媒体はあくまで手段であり、運用設計と連動施策が成果を左右します。

  • 最初に着手すべき施策は?
  • 最初に行うべきは、新しい媒体を増やすことではなく、現状把握と課題定義です。どこで情報が止まり、どの階層で認識差があり、どの行動を変えたいのかを整理してから、媒体や対話施策を選ぶと失敗しにくくなります。

株式会社ソフィア

ディレクター・エディター

岡田 耶万葉

主に社内報や社内制作物の企画・編集を担当していますが、加えてライティング・ストーリー制作も得意です。演劇に携わった経験から、演劇の手法を使った研修・インターンシップなどのご提案もしています。