パーパス策定とは?注目される背景とパーパス策定の実施手順をわかりやすく解説

ビジネスの複雑化と多様化が進む中で、パーパスの策定が注目されています。パーパスの策定とは、社会における企業の存在意義を策定することです。この記事では、パーパス策定の概要からパーパス策定が注目されるようになった背景・策定するメリットについて解説します。パーパス策定のポイントについても解説していますので、ぜひ参考にしてください。

パーパスとは

パーパス(purpose)とは「目的」「意図」の意味を表しており、ビジネスにおいては「企業の存在意義」と言い換えることができます。つまり、パーパス経営とは社会における企業の存在意義を軸にした経営を行うことです。
パーパス策定が昨今のビジネスシーンで重要視されている背景には、社会の目まぐるしい変化が関係しています。環境問題や感染症の問題、国や地域・世代間における格差など、これまでの功利主義による企業活動に限界が到来しているとも考えられます。そのような社会の中で、企業に求められる責任は重くなり、投資家や金融機関だけでなく、取引先や従業員に対しても「企業が何のために存在しているのか」を明確にすることが必要視されているのです。そのような背景から、企業の存在意義を表すものとして「パーパス」が注目されるようになり、パーパスを重視した経営が昨今のトレンドとなりつつあります。
詳しくは、以下の記事を参考にしてください。

パーパス策定とは

パーパス策定とは、企業の存在意義(パーパス)を設定・再確認し、経営計画や具体的な戦略に落とし込むことです。企業活動を通して、社会にどのように貢献していくのかという存在意義を策定した後に、パーパスを達成するために対策すべき課題は何かを洗い出します。重要課題に取り組む時間軸を設定し、長期ビジョンに対して戦略・戦術の策定、KPIの設定などをしていきます。
IR(財務状況など投資判断に必要な情報を、株主や投資家に開示する活動)やESG(環境、社会、ガバナンス)の観点から言えば、企業のパーパスは投資家やステークホルダーに対して明確である必要があります。IR活動を通じて、企業のパーパスに基づくビジョンや戦略を示し、将来の成長に向けた取り組みを明確にすることが求められるでしょう。また、ESGにおいては、企業の社会的責任に基づく行動計画を策定し、社会や環境に対する貢献を示すことが求められます。このように、パーパス策定は企業の持続的成長や社会的責任を果たすために欠かせないものとなっています。
企業理念:自社が最も大切にしている価値観や考え方を表し、パーパスの存在意義の土台になる概念
MVV:MVVとはミッション・ビジョン・バリューに分類され、企業理念の基礎となる「何をすべきか(ミッション)」「何を理想にするか(ビジョン)」「どのようにすべきか(バリュー)」を表す
クレド:クレドとは、MVVの実現と価値提供を継続するために、社員が常日頃から意識すべき行動指針

パーパスを策定するメリット

企業はパーパスを策定することによって、企業単位での利益創出ではなく、地域や社会・従業員の働く環境を意識しながら企業経営に取り組むことができます。それにより、企業のサステナビリティが向上し、ステークホルダーからの評価を得ることができます。また、パーパス策定により従業員エンゲージメントの向上が期待できます。
社会にどのように貢献していくのかが明確になるため、企業で働く従業員が「働く目的」を認識しやすくなり、仕事にやりがいを感じることができます。さらに、パーパスを社内全体に共有することで、従業員は自社が目指す方向性を認識することができ、意思決定の行動指針ともなるでしょう。
一方で、パーパスの策定や実行においては、現場での理解や共感を得ることが難しい場合があります。とくに、組織全体に共有するような美辞麗句や抽象的な表現は、現場での理解を妨げることがあるでしょう。事業部門や現場の影響力が強い場合は、この傾向が強くなる可能性があります。そのため、パーパス策定の際に事業部門や現場の声を取り入れることが求められます。さらに、パーパスは策定して終わりではなく、コミュニケーションを通じて継続的に対話し、ビジネスの変化に合わせて適宜修正する必要があります。ただし、パーパスの策定やコミュニケーションが形骸化すると、求心力が失われる恐れがあるため注意が必要です。

パーパス策定が注目される背景

パーパス策定が注目されるようになったのは、2019年8月19日に米国トップ企業が所属する財界ロビー団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が「企業のパーパスに関する宣言」を発表したことがきっかけと考えられます。ここからは、パーパス策定が注目されるようになった背景を考察します。

ビジネスの複雑性と多様化

昨今は「VUCA」時代の到来と言われるように、変化が早く将来の見通しが困難な時代です。さらに、企業の戦略や人材が多様化したことによって、従業員は同じ方向を向いて仕事に取り組むことが難しくなりました。既存のビジネスモデルはもはや通用しなくなり、従業員一人ひとりが変化に対応した正しい判断をすることが求められているのです。
そこで注目されているのがパーパス策定です。時代の変化や不確実性に対応するためには、方法論・制度・ルールのような、ルーティンや固定化はむしろ邪魔で、原則に加え、個々人の考えや思想に理解のある組織でないと判断や行動はできません。
すでに先進国や低成長国では脱工業化が進んでおり、人がモチベーションやエンゲージメントを持つことで成長が期待できます。社員の動機付けができていない組織は成長が見込めないでしょう。また、形骸化された業務を回すだけのいわゆる大企業病も、組織の成長を停止させる要因となるでしょう。
このような状態から抜け出すためにも、パーパス策定により従業員が協業する組織を作ることが重要です。掲げられた価値観の範囲内で意思決定の判断ができる状態が、企業にとって理想的でしょう。

企業においても社会的意義が重要視されている

企業の役割は時代の変化に合わせて変化しています。利益追求よりも社会課題解決への貢献が求められるようになったのです。利益のみを追求する企業像が賞賛された時代は終わりつつあると、多くの著名人が発信しています。
たとえば、英オックスフォード大学教授コリン・メイヤー氏は、「企業のパーパス(存在意義や目的)は、単に利益を生み出すことではない。個人、社会、自然界が直面する問題の解決策を企業戦略に組み込み、人々の信頼を増やす努力を踏まえ、利益が出る形で人々の幸福に貢献することだ」と強調しています。
社会課題を解決する主体は、国家や地域組織という認識もありますが、近年は企業にその役割が期待されています。企業の主義主張・スタンスに影響されたサービスやソリューションが社会を変えていく要因になるため、そのような期待が寄せられているのでしょう。しかし、法人はあくまで営利集団です。そのため、社会課題の解決は思想的背景を確立したうえで、利益の視点も含めながら判断されます。企業活動の1つの軸として、パーパスが必要とされているのです。

いつパーパスを策定するか

パーパスを策定するタイミングは、経営方針や事業戦略の見直し、社長や経営陣の後退、周年記念などが挙げられます。これらのタイミングでパーパスを策定するとは、パーパスを浸透させやすく、企業の再スタートを切ることに適しています。
また、文書主義などによる複雑な規則や手続が多く、マニュアルに従うこと自体が目的化され、本来必要のない書類や手続きが増えてしまうこともあります。企業状態を観察し、組織全体の目的を見失っている企業は、今すぐにでもパーパス策定する必要があります
一方、最近ではESG投資に取り組む企業が増えています。その中でも、一部の企業は既存の経営理念を再考せずにESG投資を実施しています。しかし、経営者の後退や新規事業の導入などのタイミングに、変化を求められESG投資に着手する場合も多くあり、パーパスを導入することが中長期的な問題解決として有効な手段の一つとされています。
企業においてパーパスを導入することは、実践可能な初歩的な方法であり、多くの企業に取り入れることが可能です。パーパスを活用し経営方針や事業戦略を見直すことで、組織変革につながり、企業の成長や発展に貢献することができると言えます。

パーパス策定時の3つのポイント

パーパス策定で求められることは以下の3つであり、これらを押さえながら策定を進めていくことが大切です。ここからは、パーパス策定時のポイントについて解説します。

①企業と社会の関係を重要視する

企業は社会システムの一員として社会課題を解決する役割を担っています。企業と社会の関係性を重要視し、社会課題の解決に企業がどのように貢献できるかを考えましょう。企業と社会の関係性を考えるときには、ステークホルダーすべての視点から検討する必要があります。経営者だけで社会課題を解決する方法を策定するのではなく、従業員や取引先、関係するすべてのステークホルダーを含めて社会との関係性を構築していきましょう。

②企業独自の提供価値を組み込む

パーパス策定に取り組む際には、自社独自の工夫を組み込みましょう。パーパスが他社と同じ内容では、「企業の存在価値」と声を大にして主張することはできません。自社独自のパーパスを策定するために、すでに社内に存在する技術や組織文化などをパーパスに組み込むことが大切です。自社にしかできない、他社には真似できないパーパス策定が新しい組織文化を生み出します

③企業と社員の求心力を着目する

パーパス策定のポイントとして、パーパスが社員を求心する機能を理解することが重要です。これは、経営運営や組織運営における組織内の関係性についての内容であり、日本企業は、昔から良くも悪くも大切にしてきた考え方です。組織でない人間関係の在り方なども含まれます。
しかしこれは、日本企業においてリストラや解雇規制問題でよく出てくる、社員をどのように扱うかということと経済合理性というジレンマを起こしてきました。ただ最近では、「組織が創り出すものに価値がある」と考える組織も増えてきています。組織が産み出す価値は社員一人ひとりの能力や集団組織におけるシナジーや基礎として、最も重要な位置づけをしている企業も増えています。
パーパスは組織風土や文化に強く影響することも忘れてはなりません。上位概念や理念を定めることで、組織内の関係性が改善され、組織全体がより良い方向に進むことができます。また、上位概念や理念を明確にすることで組織内の方向性も明確になり、個々の社員が自分の役割や使命を理解し、モチベーションの向上が期待できます。

パーパス策定の前に行うべきこと

パーパス策定のプロセスでは、策定の前に自社を分析するフェーズが必要です。ここからは、パーパス策定の前に考えるべき事項について解説します。

今の理念体系は、パーパスと違うのか?

まず、現状の自社の理念体系が、パーパスとどのように違うのかを確認しましょう。自社とステークホルダーに対して、アンケートやヒアリングの調査を実施し、それぞれの思いを分析します。分析の手法として「STEEP分析」がおすすめです。
STEEP分析とは、企業を取り巻くマクロ環境のうち、現在と将来に影響を及ぼす要素を把握する分析手法です。社会・技術・経済・環境・政治の視点からマクロ環境分析を実行することで、現状の企業理念の在り方がパーパス策定にマッチしているのかを確認しましょう。

パーパス策定は、何を変えるのか?

投資家やステークホルダーへの対応として、パーパス策定で何を変えるのかが重要です。また、自社の抱える現状の問題(イノベーション、新規事業、組織風土)などを変えるために、パーパス策定する方法もあります。パーパスは、組織や事業の方向性を示す重要な指針であり、社員やステークホルダーとの共感や信頼を生み出すためにも欠かせません。しかし、策定しただけでは意味がなく、継続的に意識を向け、実践することが大切です。組織内外に浸透させるためには、社員に当事者意識や帰属意識を育むことや、共感や変化を促すために労力やコストをかける必要があります
また、パーパス策定は、社内外に浸透させるために言語化することが欠かせません。社員に当事者意識や帰属意識を育むために、社内の部署や階層を巻き込んで議論することがおすすめです。

パーパスから経営計画や戦略を立てる

続いて、言語化したパーパスから経営計画や戦略を立てましょう。経営計画や戦略の立て方は、会社によって違います。シナリオプランニングやSTEEP分析を用いてプロジェクトチームを組成し、内外へのコミュ二ケーションに落とし込む方法が一般的ですが、実際には会社によって考え方がバラバラです。すでにパーパスや理念が浸透している会社であれば、外部とのコミュニケーションを進める必要があり、社内に浸透できていない会社であれば、丁寧にプロセスを進めていく必要があります。
また、パーパスウォッシュを避けるためには、いろいろな部署から意見を出してもらうことが重要です。パーパスは、社会や世界を包含した内容であり、社会貢献が多く含まれています。しかし、それを掲げるには、実際に社会貢献をする事業を営むことが必要です。したがって、パーパスを策定する場合は、実現可能性な内容かどうか慎重に検討する必要があるでしょう。

まとめ

パーパス策定とは、企業の存在意義を設定し、事業戦略や経営戦略を立案することです。パーパス策定によって、従業員やステークホルダーに企業が目指す方向性を示すことにはさまざまなメリットがあります。パーパスが浸透することで、意思決定のスピードが早くなり、組織としても成長することができるでしょう。また、パーパス策定の前に自社を分析するフェーズが重要です。しっかりと自社を分析した上で、自社独自の工夫を組み込んだパーパスを策定しましょう。

株式会社ソフィア

先生

ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。

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