パーパス策定とは?存在意義の言語化から浸透までの手順と事例を解説
最終更新日:2026.02.27
目次
ビジネスの複雑化と多様化が進む中で、パーパスの策定が注目されています。パーパスの策定とは、社会における企業の存在意義を策定することです。かつてのように売上や利益目標だけを掲げていれば人がついてくる時代は終わりました。VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)と呼ばれる予測困難な時代において、企業が羅針盤として持つべきものが「パーパス(Purpose)」ではないでしょうか。
この記事では、パーパス策定の概要からパーパス策定が注目されるようになった背景・策定するメリットについて解説します。また、競合他社の事例や最新の調査データを踏まえ、パーパス策定のポイントについてもご紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
パーパスとは
パーパスの定義と経営における意味
パーパス(purpose)とは「目的」「意図」の意味を表しており、ビジネスにおいては「企業の存在意義」と言い換えることができます。つまり、パーパス経営とは社会における企業の存在意義を軸にした経営を行うことです。
パーパスは、企業の「存在」を経済の中だけにとどまらず、社会全体の中に「存在」を置いた概念です。アダムスミスを含む18世紀以降の経済学者は、通常、市場参加者として売り手と買い手に焦点を当てる傾向がありました。しかし、これ以外の要素も考慮するという視点は、古典派経済学の学者たちには欠けていました。つまり、彼らはマーケットを分析する能力を持っていましたが、マーケットを取り巻く環境や自然への視点は持っておらず、例えば工場が環境汚染を引き起こすことについて述べることはありませんでした。
アメリカの主要企業が所属する財界ロビー団体であるビジネスラウンドテーブルは、2019年の「企業の目的に関する声明」において、株主資本主義を否定し、全てのステークホルダーへの配慮を目指す「ステークホルダー資本主義」への転換を宣言しました。これは大きな話題となりました。
現代の企業は、従来の株主利益のみを追求する姿勢から、より広範な社会の貢献を追求し、社会課題を引き受け行という傾向が変化しています。現在、多くの企業が経営理念の中に「社会的課題の解決」という考え方を取り入れており、これはパーパスの思想が浸透している証と言えると共に、大きな事業開発の機会を同時に産み出すとも見ることができます。
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)との違いを整理する
パーパスを策定する際、多くの企業ですでに導入されている「ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)」や「クレド」との違いに迷うことがあるのではないでしょうか。これらは相互に関連していますが、それぞれの役割と「問い」の質が異なります。以下にその違いを体系的に整理します。
| 用語 | 英語 | 役割・定義 | 問いの方向性 |
| パーパス | Purpose | 存在意義:社会において、なぜその企業が存在するのかという根本的な理由 | Why(なぜ行うのか) |
| ミッション | Mission | 使命・任務:パーパスを実現するために、企業が果たすべき具体的な役割や行動 | What(何をするのか) |
| ビジョン | Vision | 志・将来像:ミッションを果たした先に実現したい未来の姿や到達点 | Where(どこを目指すか) |
| バリュー | Value | 価値観・行動指針:目的を達成するために、社員が共有すべき姿勢や判断基準 | How(どう行動するか) |
| クレド | Credo | 信条:バリューをさらに個人の行動レベルに落とし込んだ具体的な指針 | How(個人としてどうあるべきか) |
換言すれば、企業理念は自社が最も大切にしている価値観や考え方を表し、パーパスの存在意義の土台になる概念といえます。MVVとはミッション・ビジョン・バリューに分類され、企業理念の基礎となる「何をすべきか(ミッション)」「何を理想にするか(ビジョン)」「どのようにすべきか(バリュー)」を表します。クレドとは、MVVの実現と価値提供を継続するために、社員が常日頃から意識すべき行動指針です。
このように、パーパスはすべての企業活動の「起点(Starting Point)」であり、MVVや戦略の上位に位置する「北極星」のような存在です。ミッションやビジョンが時代や経営者によって変化しうるのに対し、パーパスはより恒久的で普遍的な性質を持ちます。
なぜ「クレド」や「社是」だけでは不十分なのか
日本には、100年以上存続している長寿企業が世界でもっとも多く存在し、これらの企業の多くは、企業の信念や社会への責任を重視した経営を行っています。日本企業は、創業以来大きな枠組みである社会における“企業の存在意義”を明確にし続けてきました。近江商人の「三方良し」と松下幸之助氏の「企業は社会の公器」という言葉はその一例です。日本は欧米よりむしろ、企業の「存在」を創業当初から、社会全体の中に「存在」の置いて企業活動しています。日本文化には、人間が自然や環境の一部であるであるモチーフが広範に見られます。もしかすると、このような観点も考慮されているのかもしれません。日本の経済が厳しい状況に見舞われている中でも、日本企業が環境や社会を考慮した新しい新規事業や商品サービスの開発はむしろ、競争力を持つ大きなチャンスとも捉えることはできます。
パーパス策定とは
パーパス策定とは、企業の存在意義(パーパス)を設定・再確認し、経営計画や具体的な戦略に落とし込むことです。企業活動を通して、社会にどのように貢献していくのかという存在意義を策定した後に、パーパスを達成するために対策すべき課題は何かを洗い出します。重要課題に取り組む時間軸を設定し、長期ビジョンに対して戦略・戦術の策定、KPIの設定などを進めていきます。
単に「良い言葉」を作って終わりではありません。策定したパーパスを起点として、事業ポートフォリオの見直し、人事評価制度の改定、さらには日々の業務プロセスに至るまで、一貫性のあるストーリーとして実装していくプロセス全体を指します。
IR(財務状況など投資判断に必要な情報を、株主や投資家に開示する活動)やESG(環境、社会、ガバナンス)の観点から言えば、企業のパーパスは投資家やステークホルダーに対して明確である必要があります。IR活動を通じて、企業のパーパスに基づくビジョンや戦略を示し、将来の成長に向けた取り組みを明確にすることが求められるでしょう。また、ESGにおいては、企業の社会的責任に基づく行動計画を策定し、社会や環境に対する貢献を示すことが求められます。このように、パーパス策定は企業の持続的成長や社会的責任を果たすために欠かせないものとなっています。
パーパス策定が注目される背景
パーパス策定が注目されるようになったのは、2019年8月19日に米国トップ企業が所属する財界ロビー団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が「企業のパーパスに関する宣言」を発表したことがきっかけと考えられます。ここからは、パーパス策定が注目されるようになった背景を考察していきましょう。
ビジネスの複雑性と多様化を包括する新たな「求心」の必要性
昨今は「VUCA」時代の到来と言われるように、変化が早く将来の見通しが困難な時代です。サプライチェーンは海を越えて世界的な繋がりを持ち、各工程ごと地域ごとに市場や環境は変化し、技術も発展しています。現在のビジネスはより深く広くなり複雑性を極めています。したがって、この複雑なビジネスを運営する社員の専門性はより個別化し、価値観や考え方も多様化せざるを得ない状況にあるのです。
組織が複雑化し、テレワークなどで物理的にも離れて働くようになると、強力なルールや管理だけで統制することは不可能です。さらには、国籍や宗教を含めて包括しなければ企業経営が成り立ちません。必然的に同じ方向を向いて仕事に取り組むことが難しくなり、かつ従業員一人ひとりが変化に対応した正しい判断をすることが求められているのです。特に人材の多様性への対応は、社会とビジネスが近接していることの表れに他なりません。
そこで、多様な人材を束ねる「求心力」としてパーパスが機能します。時代の変化や不確実性に対応するためには、従来のルーティンや固定化された方法論、制度、ルールだけではなく、個々人の考えや思想を理解し尊重する組織の必要性が浮き彫りになってきています。
人材の流動化とミレニアル世代・Z世代の価値観
先進国や低成長国では、すでに工業化からの脱却が進んでおり、組織のパフォーマンスの中心には従業員の意欲や関与度が位置づけられています。組織が従業員の動機付けを十分に実施できない場合、成長は期待できないでしょう。
特に、労働市場の主役となりつつあるミレニアル世代やZ世代は、給与や企業の安定性以上に「その仕事に社会的意義があるか」「自分の価値観と合致しているか」を重視して就職先を選びます。彼らにとって、利益追求しか語らない企業は魅力的ではありません。また、形骸化した仕組みやルールによって業務を回すだけの、いわゆる大企業病も、組織の成長を停止させる要素となります。
このような状況から抜け出すためには、パーパス策定によって、従業員が共有する明確な目的を作り出すことが重要です。従業員が掲げた価値観の範囲内で自主的に意思決定ができる状態が、企業にとって理想的な状態といえるでしょう。組織が社会の一部として存在するという前提に基づいたパーパスは、従来の求心ではなく、新たな求心を模索する必要があります。
企業においても社会的意義が重要視されている
企業の役割は時代の変化に合わせて変化しています。利益追求よりも社会課題解決への貢献が求められるようになったのです。利益のみを追求する企業像が賞賛された時代は終わりつつあると、多くの著名人が発信しています。
経済学者ミルトン・フリードマン氏の「企業の社会的な責任は利益の増大にある」の発言に象徴されるように、資本主義社会においては企業が利益を生み出すことを通じて経済成長を促進し、社会の問題を解決する役割を果たしてきました。特にアメリカなどの先進国では株主至上主義の傾向が強く、株主からの利益追求のプレッシャーが非常に大きい状況でした。
フリードマン氏が企業の目的を利益創出に限定した理由は、驚くことではありません。自由競争の下で、各企業が利益を最大化することこそが、社会全体の利益に繋がるのです。これがまさに、アダム・スミスの言う「見えざる手」の原理であり、フリードマン氏はスミスの思想を継承した学者といえます。しかしながら、フリードマン氏も古典派経済学の立場からは逃れられず、環境という外部要因については考慮がされていないこともあります。企業の目的が利益最大化に置かれる際、社会や環境への配慮が欠けてしまう傾向があるのです。
アメリカの主要企業が所属する財界ロビー団体であるビジネスラウンドテーブルは、2019年の「企業の目的に関する声明」において、株主資本主義を否定し、全てのステークホルダーへの配慮を目指す「ステークホルダー資本主義」への転換を宣言しました。これは大きな話題となりました。
社会課題を解決する主体は、国家や地域組織という認識もありますが、近年は企業にその役割が期待されています。企業の主義主張・スタンスに影響されたサービスやソリューションが社会を変えていく要因になるため、そのような期待が寄せられているのでしょう。しかし、法人はあくまで営利集団です。そのため、社会課題の解決は思想的背景を確立したうえで、利益の視点も含めながら判断されます。企業活動の1つの軸として、パーパスが必要とされているのです。
消費動向の変化(エシカル消費)
市場中心・利益中心に焦点を当てた先進諸国の政策やグローバル企業の活動は、大量生産・大量消費の生活様式や、環境問題、労働問題、富の不均衡、金融危機など、さまざまな課題を引き起こしてきました。利益追求志向のビジネスモデルは、社会にとどまらず、地球全体に悪影響を及ぼしていることが深刻な懸念となっています。
この問題意識から、2000年代以降、企業の社会的責任(CSR)や環境・社会・ガバナンス(ESG)への投資が広がり、2015年9月の国連サミットでの持続可能な開発目標(SDGs)の採択を含む取り組みが進展しています。
消費者もまた、商品を選ぶ際に「その企業が環境や人権に配慮しているか」を基準にする「エシカル消費(倫理的消費)」への関心を高めています。明確なパーパスを持たない、あるいはパーパスと行動が矛盾している企業は、消費者から選ばれなくなるリスクが高まっているといえるでしょう。
ここまで、パーパス策定が注目される背景について見てきました。では、パーパスを策定することで、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。

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パーパスを策定するメリット
自律的な意思決定と組織の成長
企業はパーパスを策定することによって、企業単位での利益創出ではなく、地域や社会・従業員の働く環境を意識しながら企業経営に取り組むことができます。それにより、企業のサステナビリティが向上し、ステークホルダーからの評価を得ることができます。また、パーパス策定により従業員エンゲージメントの向上が期待できます。
明確な判断軸(パーパス)があることで、現場の社員は上司の指示を待つことなく、「これはパーパスに沿っているか?」という基準で自律的に意思決定できるようになります。これにより、組織全体のスピードとアジリティ(俊敏性)が向上します。
従業員エンゲージメントの向上
社会にどのように貢献していくのかが明確になるため、企業で働く従業員が「働く目的」を認識しやすくなり、仕事にやりがいを感じることができます。さらに、パーパスを社内全体に共有することで、従業員は自社が目指す方向性を認識することができ、意思決定の行動指針ともなるでしょう。
弊社ソフィアが実施した「インターナルコミュニケーション実態調査2024」によると、企業の戦略に対して「共感している」と回答した従業員はわずか1割程度にとどまるという衝撃的な結果が出ています。
弊社ソフィアの調査では、デジタルツール(チャットなど)の導入率は76%に達しているものの、情報が「ない・遅い・見つからない」という「三重苦」の状況にあり、戦略が現場に響いていない実態が明らかになりました。パーパス策定は、この「共感の欠如」を埋め、社員の「個人のパーパス(マイパーパス)」と「会社のパーパス」を接続する重要な架け橋となります。
イノベーションの創出
パーパスは「私たちは何屋か?」という定義を再考させます。例えば、自動車メーカーが「良い車を作る」から「移動の自由を提供する」へとパーパスを再定義すれば、自動運転技術やMaaS(Mobility as a Service)といった新しい事業領域への進出が自然な流れとなります。既存事業の枠にとらわれない発想を促し、イノベーションを生む土壌を作ります。
一方で、パーパスの策定や実行においては、現場での理解や共感を得ることが難しい場合があります。とくに、組織全体に共有するような美辞麗句や抽象的な表現は、現場での理解を妨げることがあるでしょう。事業部門や現場の影響力が強い場合は、この傾向が強くなる可能性があります。そのため、パーパス策定の際に事業部門や現場の声を取り入れることが求められます。
さらに、パーパスは策定して終わりではなく、コミュニケーションを通じて継続的に対話し、ビジネスの変化に合わせて適宜修正する必要があります。ただし、パーパスの策定やコミュニケーションが形骸化すると、求心力が失われる恐れがあるため注意が必要です。
いつパーパスを策定するか
パーパスを策定するタイミングは、経営方針や事業戦略の見直し、社長や経営陣の交代、周年記念などが挙げられます。これらのタイミングでパーパスを策定することは、パーパスを浸透させやすく、企業の再スタートを切ることに適しています。
組織の停滞を感じたとき
あなたの職場では、文書主義などによる複雑な規則や手続が多く、マニュアルに従うこと自体が目的化され、本来必要のない書類や手続きが増えてしまっていることはありませんか?企業状態を観察し、組織全体の目的を見失っている企業は、今すぐにでもパーパス策定する必要があります。
組織が官僚化し、「何のためにこの仕事をしているのか」という問いが現場から消えた時こそ、原点回帰としてのパーパス策定が有効です。
ESG経営への転換期
一方、最近ではESG投資に取り組む企業が増えています。その中でも、一部の企業は既存の経営理念を再考せずにESG投資を実施しています。しかし、経営者の交代や新規事業の導入などのタイミングに、変化を求められESG投資に着手する場合も多くあり、パーパスを導入することが中長期的な問題解決として有効な手段の一つとされています。
企業においてパーパスを導入することは、実践可能な初歩的な方法であり、多くの企業に取り入れることが可能です。パーパスを活用し経営方針や事業戦略を見直すことで、組織変革につながり、企業の成長や発展に貢献することができるといえるでしょう。
ここまで、パーパス策定のメリットとタイミングについて解説してきました。では、実際にパーパスを策定するには、どのような手順で進めればよいのでしょうか。
パーパス策定の実施手順とフレームワーク
パーパス策定は、トップダウンで言葉を決めるだけでは不十分です。社員を巻き込み、納得感を醸成するプロセスそのものが重要です。ここでは一般的な4つのステップをご紹介します。
Step 1:プロジェクトチームの組成と現状分析
まず、経営層だけでなく、次世代リーダーや現場のキーマンを含めた横断的なプロジェクトチームを結成します。
パーパス策定の前に行うべきこととして、自社の現状分析が不可欠です。パーパス策定のプロセスでは、策定の前に自社を分析するフェーズが必要です。
今の理念体系は、パーパスと違うのか?
まず、現状の自社の理念体系が、パーパスとどのように違うのかを確認しましょう。自社とステークホルダーに対して、アンケートやヒアリングの調査を実施し、それぞれの思いを分析します。分析の手法として「STEEP分析」がおすすめです。
STEEP分析とは、企業を取り巻くマクロ環境のうち、現在と将来に影響を及ぼす要素を把握する分析手法です。社会・技術・経済・環境・政治の視点からマクロ環境分析を実行することで、現状の企業理念の在り方がパーパス策定にマッチしているのかを確認しましょう。
Step 2:探索と発散(Will・Can・Mustのフレームワーク)
次に、ワークショップなどを通じてパーパスの「種」を探します。この際、有効なのが「Will・Can・Must」の3つの輪が重なる領域を見つけるフレームワークです。
- Will(想い・志):私たちは何をしたいのか?創業の精神や、社員が情熱を持てる未来像。
- Can(強み・能力):私たちは何ができるのか?自社独自の技術、資産、組織能力(ケイパビリティ)。
- Must(社会要請):社会から何を求められているのか?解決すべき社会課題や顧客ニーズ。
これら3つが重なる部分こそが、独りよがりでもなく、無理難題でもない、その企業ならではの「パーパス」となります。
Step 3:言語化(ワーディング)
抽出された要素を一言で表す言葉に落とし込みます。記憶に残りやすく、かつ誤解を生まない表現を模索します。
- シンプルであるか?
- 独自性があるか?(他社と入れ替えても成立しないか)
- 共感を呼ぶか?
Step 4:経営への実装と浸透
策定したパーパスを、中期経営計画や人事評価制度、ブランド戦略に組み込みます。
パーパス策定は、何を変えるのか?
投資家やステークホルダーへの対応として、パーパス策定で何を変えるのかが重要です。また、自社の抱える現状の問題(イノベーション、新規事業、組織風土)などを変えるために、パーパス策定する方法もあります。パーパスは、組織や事業の方向性を示す重要な指針であり、社員やステークホルダーとの共感や信頼を生み出すためにも欠かせません。
また、パーパス策定は、社内外に浸透させるために言語化することが欠かせません。社員に当事者意識や帰属意識を育むために、社内の部署や階層を巻き込んで議論することがおすすめです。
パーパスから経営計画や戦略を立てる
続いて、言語化したパーパスから経営計画や戦略を立てましょう。経営計画や戦略の立て方は、会社によって異なります。シナリオプランニングやSTEEP分析を用いてプロジェクトチームを組成し、内外へのコミュニケーションに落とし込む方法が一般的ですが、実際には会社によって考え方がバラバラです。すでにパーパスや理念が浸透している会社であれば、外部とのコミュニケーションを進める必要があり、社内に浸透できていない会社であれば、丁寧にプロセスを進めていく必要があります。
パーパス策定時の3つのポイント
パーパス策定で求められることは以下の3つであり、これらを押さえながら策定を進めていくことが大切です。ここからは、パーパス策定時のポイントについて解説します。
①自社と社会の関係を問い直す
具体的な例として、パタゴニアというアパレル企業をご紹介します。この企業は、自身の使命を「パーパス」という言葉ではなく「アカウンタビリティ」という言葉で表現しています。通常、「アカウンタビリティ」とは、個々の従業員が自分の活動を説明する責任や説明責任を意味します。しかし、パタゴニアの文脈では、企業が自然環境を含む社会全体に対して説明責任を負うことを示しています。
従来、企業は主役であり、自然環境は従属的な存在であると考えられていましたが、パタゴニアは逆の立場を取ります。彼らは自然環境が主役であり、人間や企業はその中の一つの「存在」に過ぎず、自然環境や社会が主役であり、企業や人間はその中のプレイヤーであると捉えています。このような考え方により、企業や人間と社会や環境との関係は変化し、海外でも企業が社会の中に位置づけられる傾向が増してくると予想されます。日本企業も、この姿勢を参考にすることが重要でしょう。
企業は社会システムの一員として社会課題を解決する役割を担っています。企業と社会の関係性を重要視し、社会課題の解決に企業がどのように貢献できるかを考えましょう。企業と社会の関係性を考えるときには、ステークホルダーすべての視点から検討する必要があります。経営者だけで社会課題を解決する方法を策定するのではなく、従業員や取引先、関係するすべてのステークホルダーを含めて社会との関係性を構築していきましょう。
②企業独自の提供価値を組み込む
提供価値(ケイパビリティ)は、1992年にボストンコンサルティンググループのジョージ・ストークス、フィリップ・エバンス、ローレンスE.シュルマンが提唱した概念です。彼らは「コア・コンピタンスがバリューチェーン上の特定の技術力や製造能力を指し示すのに対し、ケイパビリティはバリューチェーン全体に及ぶ組織の能力を示すものと定義づけています。
つまりコア・コンピタンスは、企業にとって最も本質的で他社との差異を確立する中核的な能力を意味し、ケイパビリティは、自社だけでなく協力企業などが含まれるバリューチェーン全体において組織の有機的な結びつきによって生まれる総合力を指します。
パーパスという「存在意義」から、「提供価値(ケイパビリティ)」を導き出す際に、コアコンピタンスである自社にとって他との差別化確立された中核的な能力に目が行きますが、バリューチェーン全体に多く社会や環境を近接する視点での提供価値であり、自社ではなく産み出す全体として、「自社は何を提供しているのか?」という視野でパーパスを策定する必要があります。
またパーパス策定に取り組む際には、自社独自の工夫を組み込みましょう。パーパスが他社と同じ内容では、「企業の存在価値」と声を大にして主張することはできません。自社独自のパーパスを策定するために、すでに社内に存在する技術や組織文化、スタンスなどをパーパスに組み込むことが大切です。自社にしかできない、他社には真似できないパーパス策定がユニークな組織文化を生み出します。
③企業と社員の求心力に着目する
パーパス策定のポイントとして、パーパスが社員を求心する機能を理解することが重要です。これは、経営運営や組織運営における組織内の関係性についての内容であり、日本企業は、昔から良くも悪くも大切にしてきた考え方です。組織でない人間関係の在り方なども含まれます。
しかしこれは、日本企業においてリストラや解雇規制問題でよく出てくる、社員をどのように扱うかということと経済合理性というジレンマを起こしてきました。ただ最近では、「組織が創り出すものに価値がある」と考える組織も増えてきています。組織が産み出す価値は社員一人ひとりの能力や集団組織におけるシナジーを基礎として、最も重要な位置づけをしている企業も増えています。
パーパスは組織風土や文化に強く影響することも忘れてはなりません。上位概念や理念を定めることで、組織内の関係性が改善され、組織全体がより良い方向に進むことができます。また、上位概念や理念を明確にすることで組織内の方向性も明確になり、個々の社員が自分の役割や使命を理解し、モチベーションの向上が期待できます。
別の角度から言えば、「カルト」という言葉は、恐ろしい印象を与えるかもしれませんが、元々の英語の意味は「熱狂の対象」や「崇拝の対象」といった意味であり、より広くは教義を指す言葉でした。現在、世界の多くの成功した企業やスタートアップの物語には、社員たちが労働対価に見合わないように働くという状況にもかかわらず、まるでカルト信者のように会社や経営者、業務に従事しています。なぜでしょうか?
それは、彼らが企業の考え方や求心の何かに共感したからです。彼らは自分自身を犠牲にしても、その理念に捧げることができると信じたのです。世界の大企業の創業期には、このような美談がたくさん存在します。日本の大企業の黎明期を見ても、無名の社長の理念に共感した数人の若者の物語が見つかるでしょう。社長を「親父」と呼び、会社を「うち」と言います。彼らは自分たちにしかできない活動に取り組み、一種の選ばれし存在として自分の潜在能力を開花させることで思いもよらない成果や結果を産み出します。もちろん、これが独裁的な権力の行使に変貌する例も後を絶ちません。ただ、現在の日本企業において、夢中でワクワクする職場や組織はどれだけあるでしょうか?
社員や組織が熱狂しワクワクするという視点でパーパスを策定する視点は重要であり、熱狂と活力は組織文化と風土を大きく変えることになります。
パーパスを浸透させるための具体的な施策
策定したパーパスが「絵に描いた餅」にならないためには、社内への浸透(インターナルブランディング)が極めて重要です。しかし、多くの企業でここがボトルネックとなっています。
ソフィア調査に見る「社内コミュニケーション」の課題
弊社ソフィアの調査では、社内コミュニケーションにおける深刻な課題が浮き彫りになっています。
調査結果によると、社員の約76%がチャットツールなどのデジタル手段を利用しているにもかかわらず、「情報が共有されない」「共有が遅い」「欲しい情報が見つからない」という情報の「三重苦」を感じています。
さらに、経営戦略やビジョンに対して「共感している」と回答した社員はわずか1割程度にとどまりました。これは、単に情報を配信するだけでは、社員の心には届かないことを示しています。
効果的な浸透施策:「対話・教育・ツール」の三本柱
弊社ソフィアの調査では、これらの課題を解決するために以下の「三本柱」の施策を推奨しています。
1. 対話(Dialogue)
一方的な情報発信ではなく、双方向のコミュニケーションを重視します。タウンホールミーティングや座談会を通じて、「なぜこのパーパスなのか」を経営陣と社員、あるいは社員同士が語り合う場を設けます。
調査でも、社内コミュニケーション活性化の取り組みとして「1on1ミーティング」が多く実施されていますが、効果が出ていないケースも散見されます。形だけの面談ではなく、パーパスと個人のキャリアを接続するような質の高い対話が求められます。
お客様インタビューvol.31
「NOK株式会社:人事組織および人事制度変革支援 「経営に資する人事」実現に向けた伴走」
2. 教育(Education)
管理職への研修を強化し、パーパスを自組織の目標に翻訳して伝えるスキルや、部下のエンゲージメントを高めるマネジメント力を育成します。
お客様インタビューvol.28
「株式会社トリドールホールディングス:Learn365導入支援 全国3万人のスタッフが等しく学べる環境づくりに貢献」
3. ツール活用(Tool)
社内報(Web・紙)、動画、イントラネットなどを適切に組み合わせ、情報の「見つけやすさ」を改善します。特に動画コンテンツは、文字だけでは伝わりにくい「熱量」や「ストーリー」を伝えるのに有効です。
お客様インタビューvol.20
「NECソリューションイノベータ株式会社:データ分析とユーモラスなアイデアで社内報制作を支援」
パーパス経営の成功事例
日本企業においても、パーパスを軸に据えた変革が進んでいます。
事例①:富士通株式会社
「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」
富士通は、全社員が「マイパーパス(自分の存在意義)」を言語化し、会社のパーパスと重ね合わせる取り組みを行っています。これにより、社員の自律的な行動変容と、DX企業へのカルチャー変革を加速させています。
お客様インタビューvol.23
「富士通株式会社:マテリアリティ動画制作支援 理解促進と現状把握を同時に実現」
事例②:ソニーグループ株式会社
「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」
多角化する事業(エレキ、金融、エンタメなど)の求心力としてパーパスを制定。コロナ禍などの危機的状況下でも、このパーパスを判断軸として、迅速な支援活動や事業運営を行いました。
お客様インタビューvol.22
「三菱電機株式会社:パーパス浸透ワークショップ支援 現場で自走できる仕組みを実現」
パーパス策定で失敗しないための注意点
「パーパス・ウォッシュ」を避ける
また、パーパスウォッシュを避けるためには、いろいろな部署から意見を出してもらうことが重要です。パーパスは、社会や世界を包含した内容であり、社会貢献が多く含まれています。しかし、それを掲げるには、実際に社会貢献をする事業を営むことが必要です。したがって、パーパスを策定する場合は、実現可能な内容かどうか慎重に検討する必要があるでしょう。
実態が伴わないのに、表面上だけ社会貢献を謳うことは「パーパス・ウォッシュ」と呼ばれ、かえってステークホルダーの信頼を損ないます。
現場への押し付けにならないように
経営陣だけで密室で策定し、一方的に発表するだけでは「他人事」になります。策定プロセスから社員を巻き込み、自分たちの言葉として語れるようにすることが成功の鍵です。
まとめ
パーパス策定とは、企業の存在意義を設定し、事業戦略や経営戦略を立案することです。パーパス策定によって、従業員やステークホルダーに企業が目指す方向性を示すことにはさまざまなメリットがあります。パーパスが浸透することで、意思決定のスピードが早くなり、組織としても成長することができるでしょう。また、パーパス策定の前に自社を分析するフェーズが重要です。しっかりと自社を分析した上で、自社独自の工夫を組み込んだパーパスを策定しましょう。
パーパスは策定して終わりではなく、そこからが本当のスタートです。弊社ソフィアの調査では、戦略への共感が不足している現状に対し、対話や教育を通じた地道な浸透活動が不可欠であることが示されています。自社の「存在意義」を問い直し、社員一人ひとりの「熱狂」を生み出すパーパス策定に、ぜひ取り組んでみてください。



