テレワーク時代に新入社員のオンボーディングを成功させるには?
最終更新日:2026.03.23
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コロナ禍以降、リモートワークが普及し多様な働き方が定着しました。上司・同僚と直接会えない環境で、新入社員をどう組織に馴染ませ戦力化するか――これは多くの企業の人事・育成担当者に共通する悩みではないでしょうか。本記事では、甲南大学経営学部・尾形真実哉教授の研究や弊社ソフィアの知見をもとに、テレワーク環境下でオンボーディングを成功させるポイントをご紹介します。また、近年注目される越境学習の受入先企業となる場合においても、オンボーディングは越境者が環境を自身に定着させるための重要な足がかりとなるため欠かせないものです。
転職が当たり前の今、オンボーディングが重要な理由
終身雇用が崩れつつある現代では、転職や中途採用が当たり前になり、人材の入れ替わりが活発です。実際、総務省の統計によると2019年の転職者数は351万人と過去最多を記録し、企業の約半数が人手不足を感じているとの調査もあります。こうした状況下、新たに組織に加わった新入社員の早期戦力化と早期離職防止はますます重要な課題となっています。
「オンボーディング(On-Boarding)」とは、新入社員(中途入社者を含む)を早期に戦力化し、組織に定着させるための継続的な育成プロセスのことです。入社直後の新人研修だけでなく、配属後も含め人事部と受け入れ部署が一体となって新人を長期的にサポートする点に特徴があります。オンボーディングが十分に行われれば、新入社員は自己成長を実感して業務へのモチベーションが向上し、職場の文化や価値観への理解も深まります。また、チームとの連携がスムーズになり組織全体への貢献意欲が高まるため、企業にとって有用な人材へと成長するとともに、結果的に定着率向上にもつながります。
テレワーク普及による新入社員エンゲージメント低下の実態
リモートワーク中心の働き方が広がる中、人事担当者が懸念するのは、新入社員が職場に慣れる前に孤立し、エンゲージメント(仕事や組織への愛着・意欲)が低下してしまうことです。実際に「対面でのフォローが不足すると新人が早期に辞めてしまうのではないか」と不安の声をいただくこともあります。
しかし、テレワークによるコミュニケーション不足が社員エンゲージメントの低下を招く可能性は、新入社員に限った話ではありません。弊社ソフィアが継続支援した社員意識調査でも、対面中心だった2019年度とテレワーク中心となった2020年度の結果を比較すると、「組織の一体感」や「自社への誇り」といった社員エンゲージメント指標が明確に低下しました。このようにリモート下では既存社員も含めエンゲージメント低下が起こり得るのです。
一方で、2020年からの約2年間にリモート環境下でも業務が遂行できたことや、環境の変化がDX推進の後押しになったこと、社員がワークライフバランスを取りやすくなったことなど、テレワークのメリットも大きいことは確かです。実際、「コロナ前のように出社率100%に戻す必要は感じない」という企業も多いでしょう。今後もハイブリッド勤務やフルリモート勤務が定着していく中で、新入社員のオンボーディングをいかに円滑に行うかが新たな組織課題として浮上しています。
実際、コロナ禍に新入社員を受け入れた企業を対象とした調査では、上司や先輩社員とのコミュニケーション機会を増やした企業ほど、新人の定着や成長に良い影響が表れたことが明らかになっています。逆にフォロー不足だった企業では、新人のOJT効果が低下し早期離職につながるケースも懸念されます。リモート環境であっても、意図的にコミュニケーションの場を設ける工夫が欠かせないと言えるでしょう。
オンボーディング成功に必要な5つの要素
オンボーディングを語る上で、まず新入社員の組織適応を促す要素を理解しておきましょう。経営学者の尾形真実哉氏(甲南大学教授)は、若年就業者の組織適応に影響を与える5つの重要な要素を挙げています。
1. 文化的社会化
組織の公式・非公式のルールや仕事上の価値基準、パワーバランスなど、組織の「風土」や「文化」を理解し、必要な立ち居振る舞いを身につけることです。
2. 離職意思
その組織で働き続ける意向があるか、長く働けると思えるかどうか(裏を返せば離職意向が低い状態)のことです。
3. 職業的社会化
その組織で新人が担う業務に必要なスキルや知識を習得し、実際に遂行できるようになること(仕事への適応)です。
4. 情緒的コミットメント
仕事や組織に対する誇り・愛着など、社員の感情面でのコミットメント(愛社精神・働きがい)のことです。
5. 仕事のやりがい
業務に取り組む中で感じる充実感や成長実感、社会への貢献実感など(仕事から得られる意義)のことです。
尾形氏の研究によれば、新入社員が上記1~4の状態を満たし、段階的に仕事のやりがい(5)を見出すことで、初めて「オンボーディングが成功した」と言えるとされています。新人が組織に適応し、仕事に意義を見出すまで、受け入れ側は長期的な視点で根気強く成長を見守りサポートしていく姿勢が必要です。
なお、尾形氏は著書において、入社前から仕事内容や組織文化に触れる機会を設けることの有用性や、入社後に直面するリアリティ・ショック(理想と現実のギャップによる衝撃)への対処法など、組織適応に影響を与える多様な要因を分析しています。こうした適応要因は複合的であり、特定の施策だけに頼るべきではありませんが、次章ではリモート環境下で特に重要となるポイントに絞って考えてみましょう。
上司・同僚のサポートと相談しやすい組織風土の重要性
尾形氏の研究によれば、前述の5要素のうち「4.情緒的コミットメント」を高めるには上司・同僚からのサポートや提供される情報の信頼性が大きく影響します。また「2.離職意思」を低下させるには、同僚からのサポートや質問・相談しやすい組織風土、信頼できる情報共有体制が有効であるとされています。これらは社員のエンゲージメント(愛社精神・働きがい)においても特に重要な観点です。
ここでいう「上司・同僚からのサポート」とは、業務上の適切なアドバイスをくれたり精神的な支えになってくれたりと、新入社員としての存在価値を認めてくれることを指します。また「質問・相談しやすい組織風土」とは、上司や先輩に気軽に疑問をぶつけられる雰囲気があり、やりとりされる情報が正確で信頼できるかどうか、という点です。これら心理的安全性の高い職場環境が、新人の組織適応を下支えします。また、上司や同僚との間で質問がしやすいか、相談がしやすいか、やりとりされる情報が信頼できるかなど、組織風土も組織適応を促す要因として挙げられています。
そして最も大切なのは、新人を受け入れる側との信頼関係です。いかに上司や同僚と信頼関係を構築できるかが重要なのです。一番身近な上司・同僚から新人の存在を認めてもらい、キャリア初期から継続的にサポートを得られる環境が整えば、新人は安心して業務に打ち込めます。
この点はデータからも裏付けられています。弊社ソフィアの「IC実態調査2024」では、エンゲージメントスコアに大きく影響する要素として「上司・同僚との人間関係」が最多であることが明らかになりました。人間関係が良好な職場ほど社員の会社への愛着や意欲が高まる傾向が顕著であり、逆にビジョンや報酬といった要素の重要度は相対的に低い結果となっています。
具体的には、日本オラクル株式会社では中途入社者の定着に「社員エンゲージメント」の醸成こそが重要であると捉え、入社後の基礎研修を充実させるとともに、OJT段階で専任スタッフ(「ナビゲーター」「サクセスマネージャー」)を配置して手厚いフォローを行いました。その結果、社員エンゲージメント率85%という非常に高い成果を上げています。新人に対する十分なサポートが、高いエンゲージメントと定着率につながった好例と言えるでしょう。
リモート環境における「ラポール構築」の役割と実践
リモート下で信頼関係を築く方法として注目されるのがラポール構築のスキルです。心理学でいう「ラポール」とはカウンセラーとクライアント間の信頼関係のことで、その構築にはカウンセラーの徹底した傾聴が重要とされています。相手の話に耳を傾け受容的な態度を示すことで、クライアントは「この人なら自分を分かってくれる」と信頼し、悩みを打ち明けようと思えるのです。
この考え方を職場のコミュニケーションに応用すれば、上司や先輩社員は新人の話にじっくり耳を傾け、受け止める姿勢を示すことが信頼関係構築の第一歩となります。テレワーク環境では確かに相手の表情や声のトーンが読み取りづらく、会話のタイミングを計りにくいといった難しさがあります。しかし、対面かオンラインかに関わらず、最終的にはコミュニケーションに臨む姿勢そのものが信頼構築のカギを握るのです。
実際、対面であっても傾聴ができず自分の意見ばかり優先する人もいます。相手の話を途中で遮ったり、求められていないアドバイスを一方的に押し付けたりするようなコミュニケーション姿勢では、新人との信頼関係は築けません。新入社員との意思疎通がうまくいかない原因を「オンラインだから仕方ない」と片付けてしまう前に、まずは自社のコミュニケーション風土そのものを点検してみてはいかがでしょうか。
実際、コロナ禍で全面リモート体制へ移行したある企業(LAPRAS株式会社)では、雑談や相談の機会が極端に減った結果、新入社員が先輩・上司との距離を縮められず、信頼関係を築けないまま業務につまずくという事態に陥りました。新人が職場に馴染めない悪循環が発生してしまったのです。同社ではこの教訓を踏まえ、現在「リモートランチ」や「リモート歓迎会」などオンライン上のカジュアルな交流イベントを増やし、コミュニケーション活性化に注力しているといいます。
組織適応を促す上司や同僚との信頼関係構築においては、対面やオンラインといった置かれた状況に関わらず、本来必要とされるコミュニケーションの姿勢をあらためて振り返ることが大切ではないでしょうか。
新入社員への「積極的な行動」の求め方と受け入れ側の姿勢
オンボーディング成功には会社側からの働きかけだけでなく、新入社員自身の積極的な行動も重要だと言われます。尾形氏も、新入社員の組織適応における重要ポイントの一つとして「新人本人による積極的な働きかけ」を挙げています。例えば、自分の仕事の進め方や成果について上司・先輩にフィードバックを求めたり、社内の人脈を広げようと意欲的に動いたりする、といった行動です。
しかし、リモートワーク環境では自ら進んでコミュニケーションの機会を作らなければ、黙々と与えられた仕事だけをこなすこともできてしまいます。オフィス勤務と比べて情報収集や雑談のチャンスが圧倒的に少なくなるため、そのままでは新人の組織適応が遅れてしまうでしょう。
とはいえ、新しい組織の公式・非公式のコミュニケーションルールや風土がわからないなかで「自ら他者に働きかける」という行為は、実際の新入社員にとってかなりハードルが高いものです。右も左も分からない新人に「困ったら自分から聞きに行け」と突き放すのは酷です。受け入れ側の上司・先輩社員は、そのハードルの高さを理解した上で新人をサポートしていく必要があります。
傾聴できる社員育成と信頼・安心できる職場風土の形成
新入社員の受け入れ役となる上司や先輩社員には、傾聴の姿勢を持って新人と向き合うことが求められます。前述の通り、上司・同僚からのサポートは新人の積極性を引き出す鍵になります。上司やメンターとなる社員自身が傾聴スキルを身につけ、日常的に新人の声に耳を傾けることで、心理的安全性の高い関係を築くことができるでしょう。
実際、尾形氏の研究でも新人の「積極的な行動」を促せるか否かは、上司・同僚からのサポートの質に左右されるとの結果が出ています。まずは教育担当の先輩社員や同じチームのメンバーが新人に関心を持ち、「どんな人物なのかを知ろう」という姿勢を徹底することが大切です。それによって互いの理解が深まり、新人にとっても「受け入れてもらえた」という安心感が生まれます。
そのような環境では、新人も萎縮せず疑問や意見を発しやすくなり、上司・先輩からフィードバックや助言を得ながら成長できます。結果として、新入社員の心理的契約も構築することができるため、信頼できる組織風土の形成につながるでしょう。
新入社員と協働するコミュニケーション・ガイドライン策定
リモートも含めた新しい働き方においては、コミュニケーションのルールやマナーを言語化して共有することも有効です。そこでおすすめなのが、新入社員と既存社員が協働して「コミュニケーション・ガイドライン」を作成する取り組みです。
具体的には、部署単位のワークショップを開催し、対面・オンラインそれぞれにおける「望ましいコミュニケーションのあり方」についてメンバー全員でディスカッションします。例えば「相手の話は最後まで聞く」「会議中はできるだけカメラをオンにする」「困ったときはチャットですぐ相談する」など、コミュニケーション時に大切にしたいことや控えたいことを洗い出し、新入社員を含めた全員で指針としてまとめていきます。
このプロセスは、既存社員にとっては新人一人ひとりをよく知る機会となり、新入社員にとっては組織の文化や風土を学ぶ機会となります。双方向のコミュニケーションによって相互理解が深まるため、組織文化の共有という面からも新人の早期適応につながる効果が期待できます。
作成したガイドラインは、状況の変化に応じて定期的に見直すことも重要です。例えば入社後3~6ヶ月に一度内容をアップデートしていくとよいでしょう。急激な外部環境の変化や多様化する働き方に対応し、コミュニケーションのルール自体も柔軟に進化させていく姿勢が肝要です。
テレワーク時代のオンボーディングにおけるデジタルツール活用
テレワーク時代のオンボーディングでは、社内ポータルサイトや各種デジタルツールの活用も欠かせません。オンラインではオフィスのように気軽に先輩に質問しづらいため、必要な情報を自習できる環境を整えることが重要です。例えば、会社の事業内容・沿革、組織図、就業規則、業務マニュアル、よくあるQ&A集など、新人が知っておくべき情報を一箇所に集約し「ここを見れば会社の基本がわかる」というポータルサイトを用意しておきましょう。入社前にアカウントを発行し、早期からアクセス可能にしておけば、新人は配属前に基本的な知識やルールを身につけることができます。
弊社ソフィアの「IC実態調査2024」によれば、社内コミュニケーション促進のため導入されているデジタルツールとして「社内ポータル」を挙げた企業が最も多く、全体の34.5%に上りました。次いで「ファイル共有ツール」(28.2%)、「データ分析・可視化ツール」(27.6%)、「タレントマネジメントシステム」(27.6%)が多く、情報共有や人材管理にデジタル技術を活用する企業が増えています。一方、「ナレッジ共有プラットフォーム」(導入率10.1%)や「プロジェクト管理ツール」(同11.1%)の普及は低く、現場の知見のデジタル共有や業務進捗の見える化はまだ途上と言えそうです。
こうしたツールを導入する際に注意すべきは、「入れたら終わり」ではない点です。新しいシステムを定着させるにはユーザー教育と運用ルール整備が不可欠となります。実際、デジタルツールが十分に活用されない要因として最も多く挙がるのは「ツールの使い方に関する教育不足」(30.2%)であり、次いで「新しいツールへの抵抗感」(22.6%)、「ツールの必要性が認識されていない」(21.6%)といった回答が続きました。せっかく社内ポータル等を導入しても、社員がその存在を知らなかったり使いこなせなかったりしては宝の持ち腐れです。新人研修の段階からポータルの活用方法をレクチャーする、人事部門が定期的にコンテンツを更新して閲覧を促す、といったフォローも必要でしょう。
社内ポータルは情報提供の場であると同時に、新入社員との交流の場としても活用できます。例えばメルカリでは、必要な情報をポータルに集約するとともに、オンライン会議ツールを活用した「リモートメンターランチ」を実施し、先輩社員と新人が気軽に話せる機会を設けています。このようにデジタルツールの整備と人間同士のコミュニケーション施策を組み合わせることで、リモート下でも新人の不安を軽減しエンゲージメントを高めることが可能になります。
まとめ
新入社員のオンボーディングは、従業員エンゲージメントを高め早期離職を防ぐうえでテレワーク時代にますます重要性を増しています。端的に言えば、ポイントは3つです。上司・先輩社員による手厚いサポートと信頼関係の構築、双方向のコミュニケーション文化の醸成、そしてデジタルツールの活用による情報共有の充実です。リモートワークの普及によって生じた課題を機に、自社の新人受け入れ施策を今一度見直してみてはいかがでしょうか。
ソフィアでは、組織内コミュニケーションの現状調査・分析から改善施策の立案、実行支援に至るまで、お客様企業の成長を伴走支援してまいりました。リモート下でのオンボーディングに課題を感じたら、ぜひお気軽にご相談ください。貴社に最適なオンボーディング施策の構築を専門家としてお手伝いいたします。




