組織風土とは何か?組織文化との違い、構成要素、改革事例と改善のメリットを徹底解説
最終更新日:2023.07.13
目次
ビジネスの現場において、「組織風土」や「組織文化」といった言葉を耳にする機会は多いのではないでしょうか。しかし、言葉のニュアンスは何となく理解していても、その正確な意味や、それらが企業の生産性や業績にどのような影響を与えているのかを深く把握している方は多くありません。
特に近年は、人的資本経営への注目が高まり、組織のあり方が企業価値を左右する時代となっています。本記事では、大企業の人事部門長や企業内研修を担当する研修企画担当者の皆様に向けて、組織風土の基本的な意味から、現代のビジネスにおいて改革が求められる背景までを詳しく解説します。
さらに、弊社ソフィアが独自に実施した最新のインターナルコミュニケーション実態調査のデータに基づき、日本企業が直面している課題や、組織風土改革を成功に導くための具体的なポイントをお伝えします。ぜひ、自社の組織開発や変革の参考にしてください。
組織風土の基本的な意味
ここでは、組織風土という言葉の意味について、基本的な部分から解説します。ビジネスの現場では様々な組織関連の用語が飛び交いますが、それぞれの正確な意味を理解することが組織変革の第一歩となります。
組織風土とは、端的に言うと組織全体で自然に根付いた環境特性のことです。日々の業務のなかで、従業員が肌で感じている「暗黙のルール」や「職場の空気感」と言い換えることもできるでしょう。
組織風土は、組織文化や社風といった用語と同じ文脈で使われることが多いですが、実際には概念の成り立ちや変化のしやすさにおいて多くの違いがあります。類似用語との違いも含めて、一つ一つ詳しく解説していきましょう。
「組織風土」の経営学的な意味
組織風土とは、経営学用語の一つとして古くから研究されてきた概念です。学術的には、「組織において表面化されている価値観」と定義されており、組織全体で自然と形成され、共通認識となっている価値観や行動様式などを広く指す概念です。
また、組織風土は組織が持つ歴史の中で長い時間をかけ、「無意識下で形成されること」が大きな特徴です。企業が様々な事業活動や問題解決を経験するなかで、成功体験や失敗体験が蓄積され、それが暗黙の前提として定着していきます。逆に言えば、設立から間もない組織においては組織風土と呼べるものが存在していない可能性もあります。
さらに、組織風土は長年の間、培われてきたものであることから、「簡単に変わらないものである」ことも覚えておくとよいでしょう。人間の性格がすぐには変わらないのと同じように、企業の歴史が深く染み付いた風土を短期間で作り変えることは非常に困難です。
組織風土が分類される4つの種類
組織風土は、その組織が持つ「成果への意識の高さ」と「チームワーク(人間関係の良好さ)」の2つの軸によって、大きく4つの種類に分類されると言われています。自社の現状がどのタイプに当てはまるかを客観的に把握することは、効果的な改革アプローチを設計するための第一歩となります。
以下の表は、組織風土の4つの分類とその特徴をまとめたものです。
| 風土のタイプ | 成果への意識 | チームワーク | 特徴と組織への影響 |
| ブリリアンス型 | 高い | 高い | 業績目標に対する意識が高く、かつ人間関係も良好です。従業員同士が切磋琢磨し合い、自発的なイノベーションが生まれやすい理想的な組織風土です。 |
| 仲良しクラブ型 | 低い | 高い | 職場内の雰囲気や居心地は非常に良いものの、業績や成果に対する執着が薄い状態です。変革へのモチベーションが低く、厳しい競争環境下では生き残りが難しくなるリスクがあります。 |
| ギスギス型 | 高い | 低い | 成果や数字の達成に対するプレッシャーが非常に強く、従業員間の協力体制が欠如しています。短期的には業績が上がるかもしれませんが、メンタル不調者や離職者が続出する恐れがあります。 |
| 腐敗型 | 低い | 低い | 成果への意欲もなく、かつ人間関係も冷え切っている状態です。組織全体に諦めや無力感が蔓延しており、抜本的かつ早急なテコ入れが求められます。 |
自社の組織風土が「仲良しクラブ型」や「ギスギス型」に偏っている場合、経営層はハード面(制度)とソフト面(意識)の両輪でテコ入れを行う必要があります。まずは現状の風土タイプを認識し、理想とする「ブリリアンス型」へ移行するためのロードマップを描くことが重要です。
組織風土と組織文化の違い
組織風土と組織文化は非常に似た用語でありながらも、いくつかの明確な違いが存在します。エドガー・シャイン氏などの経営学者の定義によれば、組織文化は組織の理念や戦略といった「意図的に標榜される価値観」を含む広い概念とされています。
両者の最も大きな違いの一つは、変化しやすいか否かという点です。組織風土は長年に渡る経営の中で深く根付いたものであり、簡単に変わるものではありません。一方で、「組織文化は企業の経営方針や経営者の考え方によって比較的変化しやすい」ものだといえます。
また、形成のプロセスにも大きな違いがあります。組織文化は経営層が意識的にビジョンを掲げ、従業員に働きかけて形成する側面が強いです。それに対して、組織風土は「経営陣の意図に関わらず自然に形づくられます」。長い時間をかけて、日々の業務やコミュニケーションの積み重ねが地層のように蓄積されるのが組織風土なのです。
さらに、言葉が持つニュアンスの違いにも注目すべきです。組織風土は、「企業の隠蔽体質や前例踏襲に終始する保守的な姿勢などのネガティブな側面を表す形」で使われる言葉でもあることが、組織文化との大きな違いといえるでしょう。組織文化は「目指すべきポジティブな理想像」として語られることが多いのに対し、組織風土は「直視しなければならない現状の課題」として語られることが多いのです。
組織風土と社風の違い
社風という用語もまた、組織風土と混同されやすい言葉の一つです。しかし、これらが指し示すスコープ(範囲)や対象には確かな違いがあります。
組織風土が組織全体に根付いた価値観などを指すのに対して、「社風は組織の構成員が持つ行動パターンや習慣を示すことが多い」でしょう。具体的には、従業員同士の助け合いの精神、日常の人間関係の温かさ、コミュニケーションの取りやすさ、仕事への向き合い方など多岐に渡ります。
たとえば、成果主義を標榜する企業においては、結果を出すためにはハードワークも厭わない社風を持っているといえるでしょう。社風は、組織に所属する個人の価値観や行動様式に大きく影響します。個人としてはワークライフバランスを重視する価値観を持っていたとしても、ハードワークを受け入れる社風を持つ企業に就職すれば、周囲の行動様式に同化していくことが少なくありません。
また、社風は従業員のエンゲージメントや日々の士気にも直結します。そのため、社風の良し悪しが企業全体の生産性や最終的な業績に影響を与えることも多々あります。
ここで、「組織風土」「組織文化」「社風」の3つの概念の違いを一覧表で整理します。この違いを明確に理解することで、社内の課題に対してどの領域からアプローチすべきかが見えてきます。
| 用語 | 意味と定義のポイント | 変化の難易度 | 形成プロセスと要因 |
| 組織風土 | 組織全体で共通認識として根付いた暗黙のルールや環境特性。 | 非常に変わりにくい | 長い歴史の中で、組織の経験から無意識かつ自然に形成される。 |
| 組織文化 | 企業が意図して共有する価値観や信念、行動理念(MVVなど)。 | 比較的変わりやすい | 経営陣がトップダウンで意識的に働きかけて形成する。 |
| 社風 | 組織内の雰囲気や空気感、従業員の具体的な行動パターンや習慣。 | 比較的変わりやすい | 従業員同士の日々の関わり合いや、職場の環境から生まれる。 |
組織風土を構成する要素
組織風土を形づくる要素は多岐に渡ります。その中でも、日本企業のように長期的な雇用形態においては、ハード面とされる可視化された要素よりも、目に見えないソフト面の要素が大きな影響をもたらします。
ハード面の要素は具体的で明文化されており言語化しやすいのに対し、ソフト面の要素は日々の接触や業務のなかで強く感じられるといった違いがあります。さらに、これらが個人の心に及ぼすメンタル的要素も重要です。
ここでは、組織風土の構成要素を「ソフト的要素」「ハード的要素」、そして「精神的要素」に分けて解説します。また、組織マネジメントの世界的フレームワークであるマッキンゼーの「7Sモデル」の視点も交えながら、それぞれの要素がどのように機能しているかを深掘りします。
マッキンゼーの「7Sフレームワーク」による分類
組織改革を考える際、多くのコンサルティングファームや企業で用いられるのがマッキンゼーの「7Sフレームワーク」です。これは組織を構成する要素を「3つのハードなS」と「4つのソフトなS」に分類し、それらが相互に補完し合うことで組織が成り立つとする考え方です。
以下の表は、7Sフレームワークと組織風土の構成要素の対応関係を示したものです。
| 分類 | 7Sの要素 | 組織風土における具体例 | 変更の難易度 |
| ハード面 | 戦略(Strategy) | 事業の方向性やリソース配分、中期経営計画など | 経営陣の意思決定で比較的短期に変更可能 |
| ハード面 | 組織(Structure) | 組織図、レポートライン、部門の役割分担など | 組織改編により比較的短期に変更可能 |
| ハード面 | システム(System) | 人事評価制度、報酬制度、社内ITツールなど | 制度設計により比較的短期に変更可能 |
| ソフト面 | 価値観(Shared Value) | 共通の企業理念、暗黙のルール、信念など | 意識の変革が必要であり、長期的な時間を要する |
| ソフト面 | スキル(Skill) | 組織全体が持つ特有の技術力やマーケティング力 | 育成や採用を通じて時間をかけて構築される |
| ソフト面 | 人材(Staff) | 従業員一人ひとりのモチベーションや能力、人間性 | 個人の成長や採用に関わるため長期的な視点が必要 |
| ソフト面 | スタイル(Style) | 経営陣のリーダーシップや社内のコミュニケーション様式 | 組織の風土として定着しており、容易には変わらない |
このフレームワークからも分かるように、短期間で変更可能なハード面だけを変えても、ソフト面が追いついていなければ組織風土は根本的には変わりません。双方のバランスを取りながら改革を進めることが求められます。
組織風土を構成するソフト的要素
組織風土は表面化してこない概念的なものであり、当然その構成要素の中には目に見えないソフト的なものが存在します。7Sフレームワークにおいて「価値観」「人材」「スキル」「スタイル」と呼ばれる領域がこれに深く関係しています。
具体的には以下のようなものが挙げられます。
- 経営トップがもたらす影響力やリーダーシップのスタイル
- 組織の歴史的経験及び過去の意思決定に対する支配的解釈と学習
- 組織内部で培われたものごとを認識する解釈のパターン
- 組織内部で問題や事象に対する思考のパターン
- 組織内部でのコミュニケーションのパターン
- 組織内部で暗黙の内に形成された行動のパターン
- 組織の構成員の間で培われた信頼関係や従業員エンゲージメント
組織を機能させるうえで、これら目には見えないソフト的要素を適切に管理し、長い時間をかけて醸成していくことは非常に重要です。ソフト的要素こそが、組織風土の根幹を成すDNAと言っても過言ではありません。
組織風土を構成するハード的要素
組織風土には、目に見えないソフト的な要素がある一方で、明文化された様式やルールに基づく要素もあります。7Sフレームワークにおける「戦略」「組織構造」「システム・制度」がこれに該当します。
以下に挙げた要素が、組織風土を構成するハード的要素の具体例といえるでしょう。
- 組織全体で共有する企業理念(パーパスやミッションなど)
- 社訓・社是
- 中長期的な経営ビジョン
- バリュー(行動指針)
- 中期経営計画
- コーポレート・ガバナンス
- 就業規則やコンプライアンス規程
- 人事制度(採用基準、人事評価基準、人事異動、福利厚生など)
これらについては、経営者が積極的に関与し、制度やルールを改定していくことで、組織風土の変化への第一歩を踏み出すことができます。しかし、ハード面ばかりを強引に変更すると、ソフト面との摩擦が生じ、現場に混乱を招くリスクがある点には留意が必要です。
組織風土が社員に与える精神的な影響
組織風土のメンタル的(精神的)要素は、従業員の心理状態や心の側面に強い影響を与えます。組織の環境が、個人の内発的動機づけや自己肯定感に直接作用するのです。
- 社員の行動パターン
- 社員のコミュニケーションパターン
- 社員の思考のパターン
- 社員の学習のパターン
- 社員個人の価値観への影響
- 組織から期待及び評価の実態的認識
- 組織に対する擬人化されたイメージ
上記以外にも構成する要素は多くあります。ハード面(制度)とソフト面(実態)の乖離、もしくはソフト面と社員の精神的要素との乖離が社員の中で起きれば、深刻なストレスを生み出します。この乖離が放置されれば離職などにつながってしまい、最終的に生産性に悪影響を及ぼします。これら3つの要素を上手く調整・統合できなければ、組織と社員が良好な関係を維持発展することは出来ないでしょう。
現代ビジネスにおける組織風土改革の重要性
現代のビジネスにおいては、なぜこれほどまでに組織風土が注目され、経営の最重要課題として標榜されているのでしょうか。その背景には、意思決定の迅速化や事業環境への適応が重要視されつつも、従来の組織風土との乖離が問題視されているからです。
ここでは、高度経済成長期から形づくられてきた日本企業における組織風土の現在地と、なぜ今、組織風土の改革が急務とされているのかを解説します。
VUCA時代への適応と人的資本経営の要請
現代は、グローバル化の進展、ITやAI技術の爆発的な進化、気候変動などにより、数年先の未来すら予測不可能な「VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代」と呼ばれています。これまでの常識が次々と覆される中、変化に素早く対応できない企業は淘汰されるリスクを抱えています。環境変化への適応力を高めるための土台として、俊敏かつ柔軟な組織風土への変革が不可避となっているのです。
さらに、経済産業省が発表した「人材版伊藤レポート2.0」などでも言及されているように、従業員をコストではなく価値を生み出す「資本」と捉える「人的資本経営」の推進が国を挙げて推奨されています。優れた人的資本を惹きつけ、その能力を最大限に引き出すためには、従業員が働きがいを感じられる魅力的な組織風土の構築が前提条件となります。
組織の風土の連続性と非連続な変化の難しさ
従来型の日本企業が持つ組織風土の連続性についてみていきましょう。日本型雇用の三種の神器として、終身雇用、年功序列、企業別組合が挙げられます。
これは、新卒で就職した企業を退職せず長期間働き続けるのに対して、企業側は重大な経営危機や不正行為がない限り、雇用を手厚く守るという暗黙の了解を前提としています。高度経済成長期の成功体験を経て、この慣行が続いたことにより、大企業を中心に強固な組織風土として根付いてきました。
しかし、バブル崩壊以降、経営面で大きなダメージを受けた企業は、手厚い雇用を維持し続けることを困難に感じ始めます。労働者側に対しては忠誠心や長期間の就労といったコミットメントを求めつつも、これらに十分報いることができなくなっていったのです。
実際、2004年には小泉政権下での派遣法改正によって製造業への労働者派遣が解禁されるなど、企業側の人件費削減に資する政策が実行に移されてきました。合理的な経営判断に基づく人員や人件費の削減が行われる一方で、働く側には忠誠心や長期的コミットを求めてきた体質とのミスマッチが生じているのです。
高度経済成長期に形成された組織風土は、機敏な変化を求める昨今の経済環境には適応しきれていないため、このような乖離が生じているといえます。このことは、バブル崩壊以降、日本経済が大きな成長を遂げられなかった背景の一因であることは間違いないでしょう。
面従腹背の風土が生む問題
組織において十分な業績を上げ、競争力が維持できている間は、組織風土は全面的に肯定され、旧態依然の問題には注目が集まりません。むしろ、成功体験が続くことによって、組織風土は見直されることはなく、より強化されていくでしょう。特に日本企業においては高度経済成長期の成功体験によって、終身雇用や年功序列を背景とした同調圧力を伴う組織風土が強化されてきました。
しかし、バブル崩壊後の失われた30年においては、このような組織風土が足枷となり、新たな変化に対応できないケースが散見されます。
また、問題を認識しながらも抜本的な対策を講じず、表面的な対処や上司への忖度に終始する「面従腹背(表面上は従うふりをして内心では反発する)」の組織風土が残っているのも実情です。製造業を中心に発展した高度経済成長期には、日本の組織風土が持つ同質性は大きな強みとなりました。しかし、IT技術が発達しDXを始めとした機敏な変化が求められる現代においては、むしろ弱みになっているといえるでしょう。
環境や市場からの要求に即応できない組織のジレンマが、社員の面従腹背というネガティブな風土を産み出す結果になっています。
良い組織風土がもたらす改善メリット
良い「組織風土」が実現すれば、組織全体にどのような好影響を与えるのでしょうか。ここでは、従業員のエンゲージメント向上や組織のパフォーマンス拡大、コミュニケーションの活性化など、組織風土改善によって期待できる多大なメリットについてご紹介します。
従業員エンゲージメントの向上
良い組織風土が醸成されることによって、従業員の生産性やエンゲージメントの飛躍的な向上が期待できます。従業員が共通の目的を共有し団結できる環境においては、従業員間の信頼も築きやすく、モチベーション向上にも直結します。また、従業員にとって働きやすい環境を実現することは、組織全体の生産性向上にも直結するでしょう。
ギャラップ社のグローバル調査によると、日本企業における従業員のエンゲージメントは世界的に見ても著しく低い水準にあるとされており、日本社会全体が抱える深刻な問題の一つといえます。終身雇用と年功序列などの組織風土が根付いた日本企業では、エンゲージメントが低いにも関わらず、会社への不満を抱えながらも定着率だけは高いという「ぶら下がり現象」が顕在化しています。このような状況も、従業員のエンゲージメント向上が重要な課題として認知されている理由となっています。
ここで、大企業におけるエンゲージメントの現状について、非常に示唆に富むデータがあります。弊社ソフィアの調査では(「インターナルコミュニケーション実態調査2025」、2024年実施、従業員数1,000人以上の企業に勤める623名対象)、自社の経営目標や戦略に対して「共感している」と回答した社員は、わずか約1割(約10%)にとどまることが判明しました。
経営層は「ビジョンや戦略を全社に伝えている」と考えていても、多層化された組織階層を降りていくうちに情報が風化し、現場の従業員には単なる「やらされ仕事」としてしか受け取られていないという認識の断絶が存在しています。良い組織風土を作り上げることは、この認識のズレを解消し、真のエンゲージメントを引き出すために不可欠なのです。
組織パフォーマンスの向上
組織におけるパフォーマンスは、企業における売上や業績といった重要指標と言い換えることができます。組織風土を改善し、従業員が能力を最大限に発揮できる環境を整えることで、従業員のエンゲージメント向上に加えて、業績向上を実現することも可能です。
前述の通り、企業で働く従業員を重要な「資本」とみなす人的資本経営の考え方も広がっています。従業員の持つスキル、人脈、経験などを無形の資産とみなし、経営指標の一部と考えるのが人的資本経営です。組織風土の改善と人的資本経営の実現に向けた取り組みを両立させることができれば、売上拡大や利益率向上に加えて、採用競争力の強化という大きな効果を期待することができるでしょう。
コミュニケーションと協調性の向上
従来の同調性や年功序列を重んじる組織風土では、従業員同士で過剰な忖度が発生し、立場の違いを超えて意見を出し合えないというケースが多く見られます。また、組織が多様な価値観に対して寛容ではないことから、アウトサイダーの斬新なアイデアを受け入れる土壌がなかなか育たないのが実情です。
もしこのような保守的な組織風土を改善し、従業員の多様性を認め、自由な発想を歓迎する雰囲気作りができれば、組織内でのコミュニケーションを一気に活性化することができるでしょう。コミュニケーションの活性化は、イノベーションや新規事業に果敢にチャレンジする士気を高め、最終的には業務プロセスの改善や新しいビジネスモデルの創出につながる可能性があります。
組織風土が障壁となる場合の改革ポイント
ここでは、組織風土を改革する具体的なポイントについて解説します。DXや新規事業、変革の過程で組織風土を阻害要因として問題と位置づけることは一般的です。
組織風土を変えることによって、DXが進み、新規事業のアイデアが増え、承認される機会も増えるという効果があります。論理的にも正しい結果が得られる可能性があります。しかしながら、現在の事業環境の速度に対応するためには、風土変革だけでは追いつけません。
重要なのは、「組織風土は歴史や過去から連続性の中で育まれた規範や慣習、行動様式」であるという事実を受け入れることです。黎明期から現在に至るまでの時系列において、連続性を持って育まれたものが組織風土です。そして、国や民族の文化と同様に、「組織風土自体に善悪の区別はありません」。
事業環境の変化が激しい現代において、「保守的な組織風土が推進を阻害する障壁になる」ことは事実です。しかし、「既存の組織風土を悪者に仕立て上げて、無理矢理変えたからといって新たな試みが実を結ぶわけではない」という点に注意が必要です。
風土変革の因果関係——変革が先か、風土変化が先か
組織風土変革を社内で展開している実務担当者が、手段と目的をミスリードすることは往々にあります。新しい事業戦略や変革を前提に置いたうえで、今の組織風土と合わず、抵抗や沈滞を産むことを問題とするのであれば、「組織風土に着目して風土を先に変える」という優先順位は間違っています。
組織風土は、組織の経験や成果と解釈(成功や失敗)から醸成される過去からの連続性をもったものであり、現在の組織風土状態は、過去の経験と解釈の結果としての産物です。たとえば「失敗を恐れる風土」を「失敗を許容する風土」に変えると標榜しても、風土は変化することはありません。
正しいアプローチは、「結果や事実を優先して作り出すこと」です。今までになかった挑戦的な意思決定や計画を実行し、変革した事実や結果を先に作り出します。その新しい事実に対して、組織や社員の解釈が変わり、思考パターンが変わり、コミュニケーションが変わり、行動が変わります。つまり、「結果として風土が後発的に変わっていく」のです。組織風土を変えるためには、新しい経験と新しい解釈を創るということに他なりません。
新規事業創出におけるアウトサイダーの役割
現在、既存の大企業を中心に「新規事業を進めるためのアイデアが出ない」「戦略を立てる上での意思決定ができない」など、組織風土に起因した問題が顕在化しています。ここで理解すべきは、新規事業やイノベーションといったものは、既存の多数派や主流の人材からは生まれてこないということです。
新しいビジネスやイノベーションの主役となるのは、主流から外れた「アウトサイダー」に属する人々だとされています。たとえば、同じ40歳代の人材でも、新卒から一貫して同じ会社の主流として勤続してきた人材ではなく、子会社に出向して修羅場をくぐってきた、休職して大学に通っていたなどのユニークな経験を持つ人材です。
同質性の高い組織においてアウトサイダーとして革新を起こすことには、周囲との同調や収益性の面でリスクがつきまといます。しかし、アウトサイダーの人材の発想や推進力を意図的に活用することで、既存の価値観やビジネスルールに縛られない形で、新たなアイデアやビジネスモデルを生み出すことができるでしょう。
業務改革におけるボトムアップアプローチの優位性
レポートラインが多重構造となりがちな大企業において、現場からの情報(事実情報)を正確かつ迅速に経営層まで伝えることができれば、大きなコスト削減と効率化が期待できます。
しかし、現場の情報は数々の中間管理職を経由するにつれて、彼らにとって都合の良い解釈が加えられ、実態からかけ離れていくでしょう。いかに直接的なルートで経営層まで情報を届けられるかが重要です。
現場の情報共有がいかに困難であるかを示すデータがあります。弊社ソフィアの調査では(「インターナルコミュニケーション実態調査2024」、2024年8月〜9月実施、従業員数1,000人以上の企業に勤める496名対象)、コミュニケーションの問題を感じる対象として「部門間」の壁を挙げた回答が58%にのぼり最多となりました。次いで「部門内_上司と部下」が51%と続いており、横(サイロ化)と縦(階層)の双方で情報伝達が断絶している実態が浮き彫りになっています。
いくら優秀な経営者であっても、組織風土に根付いた偏向的なレポートラインと、サイロ化・分業化された現場情報からは、正確な経営判断ができません。少なくとも業務改革においては、偏った情報に基づいたトップダウンの試みよりも、現場のアイデアに基づいたボトムアップの試みの方が、現場も高いモチベーションを持って取り組むことができます。そのため、経営層自身が現場の情報を素早く掴めるよう、社内に情報をクラウド上で一括管理するなど、仕組みの面から変えていくことも重要です。
ショックドクトリン的な組織変革の活用
様々な経営危機やビジネス環境の変化が組織改革のきっかけとなることがあります。組織変革においては、経営上のリスクは危機であると同時に、組織の風土や文化に根付いたしがらみや固定観念を一掃し、一気に変革するチャンスでもあります。
企業の時価総額を高めて利益を得ることを目的とするLBOファンドやエクイティファンドは、いわばショック療法のような形で企業の組織風土の改善を行っています。これらのファンドは、経営層の退任要求や人員削減を行いますが、彼らは企業価値を高めるために少々過激な手段を使ってでも組織風土の変革を成し遂げようとしているのです。
しかし、上記のような過激な手段を使って変革を起こしているような企業はあまり見受けられません。大規模な変革や組織の改革を行う場合、過激な手段を取ることは相応のリスクを伴う場合があるからです。
組織風土改革を成功させた企業事例
抽象的な理論だけでなく、実際に組織風土の改革に取り組み、成功を収めている企業の事例を知ることは非常に有益です。国内外の著名な企業は、自社の理念(ミッション・ビジョン・バリューなど)を再定義し、それを具体的な行動レベルや人事制度に落とし込むことで、組織文化や風土を刷新しています。
以下に、特徴的な組織風土を築き上げ、高いエンゲージメントと業績を両立させている企業の事例をいくつかご紹介します。
1. 株式会社リクルートの事例(挑戦と当事者意識の風土)
リクルートは、創業者である江副浩正氏によって作られた「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という旧社訓の精神を、現在も色濃くDNAとして引き継いでいます。この理念のもと、従業員全員が圧倒的な当事者意識を持つ組織風土が形成されています。具体的には、誰でも提案可能な新規事業コンテスト「RING」などの仕組みを通じて、年次や役職に関係なく新しいことに挑戦する文化が根付いています。失敗を恐れず、若い優秀な人材を早期に抜擢して活躍を促す風土が、同社の継続的なイノベーションの源泉となっています。
2. 本田技研工業株式会社(ホンダ)の事例(人間尊重の風土)
ホンダは、「人間尊重」(自立・平等・信頼)と「3つの喜び」(買う喜び・売る喜び・創る喜び)という基本理念を根底に据えています。自動車やバイクという枠にとらわれず、小型発電機から航空機、ロボティクスなど、多岐にわたる革新的な製品を生み出し続けられるのは、この「社員の自立とチャレンジを最大限に尊重する」という風土が、現場の隅々にまで浸透しているからです。個人の創造性を引き出す仕組みが、ハード面でもソフト面でも徹底されています。
3. 伊那食品工業株式会社の事例(永続的低成長と安心の風土)
長野県に本社を置く伊那食品工業は、「いい会社をつくりましょう」という独自の社是を掲げています。同社は、利益や売上の急拡大を追うのではなく、あえて「年輪経営」を目指すという特異な経営方針を貫いています。人件費を削減対象のコストとみなさず、社員が安心して長く働ける終身雇用制度を重んじています。この徹底した「社員第一」のハード面の仕組みが、結果的に社員の強烈なエンゲージメントと高い帰属意識を生み出し、長期にわたって安定した高い収益を生み出し続けるという強固な組織風土を確立しています。
これらの事例から学べる重要なポイントは、経営トップが単に理念をスローガンとして掲げるだけでなく、それを評価制度や新規事業提案制度、日常の業務プロセスといった「ハード面」の仕組みに確実に組み込み、社員の「ソフト面」の行動変容を促しているという点です。
組織風土改革における葛藤の乗り越え方
組織風土の変革は、決して平坦な道のりではなく、そこには数多くの障壁や葛藤が存在します。組織風土を改革するためには、全員の賛成を取り付けることは非常に難しく、反対する従業員に対して丁寧なコミュニケーションをとる必要があります。ここでは、組織風土改革において乗り越えるべき葛藤について解説します。
人間関係の結束が変革の壁になる
組織風土は、従業員同士が直接顔を合わせて働くことが多く結束が強い場合に、むしろ変えることが難しいといわれています。顔見知りであるがゆえに、経営合理化に向けた人員削減などの痛みを伴う改革が進めづらくなるのです。
変革や改革においては、これまで協力関係にあった同僚たちの利益を侵害するなど、場合によって裏切りともなる施策が求められることもあるでしょう。新しい事業を立ち上げるためには、既存事業の縮小や閉鎖が必要になる可能性もあります。既存事業の見直しは、リストラや雇用に対する強烈な不安を醸成します。
このような葛藤を乗り越えるためには、間断ないコミュニケーションと粘り強い対話に基づいて、様々な施策が必要です。それらに反対する従業員を説得するためには、長い時間と粘り強いコミュニケーションが求められます。しかし、これらから逃げずに正面から乗り越えることで初めて、組織風土改革の葛藤を乗り越えられるのも事実です。
葛藤を超えるための心理的安全性の確保
痛みを伴う改革を進める上で基盤となるのが「心理的安全性」です。心理的安全性が信頼関係を築くために必要な要素であることは、組織心理学や人間関係の研究からも明らかとなっています。
信頼関係が醸成されている職場では、従業員は自分本来の姿でいられるため、批判を恐れずに意見やアイデアを自由に出し合えるようになります。一方で、信頼関係に欠けている職場では、従業員は自己防衛心や猜疑心から用心深くなってしまい、自分自身の意見を出すことができません。
ここで、現代の企業が直面しているコミュニケーション施策の罠について触れておきます。弊社ソフィアの調査では、多くの企業で社内コミュニケーション施策として「1on1ミーティング」が実施率1位となっているものの、現場からは「単なる業務報告の場になっている」「形骸化している」という声が多く、その本来の目的である信頼関係構築の効果には強い疑問符が付けられています。また、デジタルツールの過度な導入が、かえって情報過多や心理的距離の拡大を招いている側面も指摘されています。
形ばかりのツール導入や面談制度では、真の心理的安全性は担保されません。従業員からの本音を引き出すことができなければ、どのような素晴らしい施策であっても空回りしてしまうリスクがあるでしょう。変革における葛藤は大なり小なり発生するものですが、葛藤を乗り越えるためには、組織内で自由に意見交換ができる状態を作る必要があります。職場の心理的な安全性が実態として確保されているかどうかによって、組織風土改革における葛藤を乗り越えられるかが決まるといっても過言ではないでしょう。
まとめ
組織風土は、組織が持つ長年の歴史の中で無意識に根付いてきたものであり、短期間で簡単に変えることは難しいものです。一方で、VUCAと呼ばれる変化の激しい現代の環境では、過去の成功体験に基づく保守的な風土が時代遅れになっている面も否めず、企業が生き残るためには組織風土の改革が強く求められています。
しかし、既存の組織風土を悪者に仕立て上げて、無理矢理変えようとしたからといって、新たな試みが実を結ぶわけではありません。改革を成功させるには、風土という「結果」を直接いじるのではなく、新たな挑戦や事業変革という「事実」を先に作り出し、その経験を通じて社員の解釈や行動様式をアップデートしていくアプローチが有効です。
組織風土の改革が全ての従業員にとって受け入れられるものであることは少なく、何らかの葛藤が必ず起きます。組織風土改革の葛藤を乗り越えるには、職場における心理的安全性の確保と、経営層からの丁寧なコミュニケーションが欠かせません。アウトサイダーの知見の活用や、ボトムアップでの情報伝達の仕組み化を含め、ハード面とソフト面の両輪で粘り強く取り組むことが、未来に向けた強い組織づくりへの唯一の道と言えるでしょう。





