組織を成功に導く風土醸成とは?具体例とともにわかりやすく解説します

組織風土とは、簡潔に言うと「組織の習慣」です。
組織は人が集まって成り立ちます。人と人が目的に向かって協力しあう時、お互いの価値観の違いからぶつかり合いやタイミングの違いなどの非効率が生まれることがあります。こうした非効率を排除するために、周囲に合わせてしまう同調圧力や、合理的な判断よりも集団的判断を優先するグループシンクなど、組織特有の不思議な現象が起こることがあります。こうした人と人とが織りなすパターンの繰り返しにより、組織風土が徐々に出来上がっていくのです。

「組織の習慣」は、組織のパフォーマンスに良い影響を与えることもあれば、場合によっては企業不祥事などを引き起こすという恐い側面も持っています。
今回は、組織を成功に導く組織風土とは何か、良い組織風土、悪い組織風土の違いについて、ご紹介していきます。

参考記事:
組織風土改革がうまくいかない理由は? 組織風土改革の手順及び成功のコツをご紹介

組織とは

「組織」の定義はさまざまで、明確に定義づけることは難しいというのが実際のところです。

早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授である入山章栄氏の著書『世界標準の経営理論』によれば、組織とは「事業部門や政府部門など、特定の目的を持つ人々の組織化されたグループ」と定義づけられています。また、「人々」とあるように、組織は複数の構成員によって形成されます。

一方で、アメリカの経営学者チェスター・バーナード氏は、3要素からなる組織論を提唱しています(バーナード組織の3要素)。本理論によれば、組織は「コミュニケーション」「貢献意欲」「共通の目標」の3つから成立し、これらのうちどれか一つでも欠けてしまうと組織不全に陥るとバーナードは定義しています。

また、同じくアメリカの経営学者であるハーバート・サイモン氏によれば、組織とは「意思決定とその実行の過程を含めた、人間集団におけるコミュニケーションとその関係のパターン」であるとしています。

これらが現在も支持されている組織の定義の一例であり、この内容から、組織にとってコミュニケーションが重要な存在であることがわかります。

組織風土の正体とは

組織の定義について触れたところで、組織風土とはどのようなものかについても解説します。

組織風土の定義とよくある形態

冒頭で、組織風土とは「組織の習慣」であると定義しましたが、実際には学術研究などによって定義に若干のバラつきがあります。
ここでは、わかりやすくするために、企業の問題を例に挙げて組織風土について解説をしていきます。

「大企業病」という言葉を、耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか。「大企業病」はまさに「組織の習慣」と言えます。
「大企業病」に特化して、2016年にリクルートマネジメントソリューションズが行なった調査があります。その調査結果では、「自社を大企業病と感じる理由」が、以下のようにいくつかのパターンに類型化されました。

「意思決定が遅い」
「内向きで現場・市場の声が通らない」
「無駄な手続きが多い」
「管理者が内向きで動かない」

また、この調査結果では、慣例やルールにとらわれて非効率な業務や本質的でない施策を増やすなど、組織の「形式化」が大企業病の諸症状になって現れるとしています。

こういった症状の根底には、顧客や従業員をエンゲージメントするより、過去の慣例の方が重要だと、組織が判断してしまっていることがあります。

組織風土と組織文化

組織風土と混同されやすい概念として、「組織文化」があります。
組織風土がいつのまにか定着してしまった「組織の習慣」である一方、組織文化は意図的にデザインすることが可能です。

ここでは、組織心理学の権威、エドガー H.シャイン氏の組織文化の3段階モデルを用いて組織文化を構成する要素について説明します。

1つ目の要素は、組織体制、社訓、経営理念、戦略、トップの人物像など、目に見える形で存在するものです。いわゆるハード要素です。

2つ目の要素は、暗黙のルール、社内コミュニケーション、責任の所在、トップの影響力など、見えないものです。ソフトの要素といえます。

3つ目の要素は基本的過程です。簡単に説明すると、組織の大多数が当然と思い込み、疑うことがなくなってしまっている価値観や行動などです。

近年、メーカーなどのリコール隠し、データ改ざんなどが多く報じられましたが、企業の不祥事が発生した際には往々にして、ミスを報告しづらくする「職場の風通しの悪さ」だけが問題視されがちです。しかし、組織風土の構成要素を鑑みれば、長年の間に不正が慣例化して組織文化として根付いてしまい、「悪いことだと理解した上で」悪事を行って周囲もそれを隠すという組織風土が形成されていた可能性も十分に考えられます。

認知的文化と情緒的文化

ペンシルバニア大学のシーガル・バーセイドとジョージメイソン大学のオリビア・A・オニール氏は、10年に及ぶ調査結果から、企業文化が大きく2つに大別されると指摘しています。

1つは「認知的文化」で、仕事の上での発想や行動を方向づけるもの、もう一つは「情緒的文化」で、職場における社員の感情の表出に影響があると主張しています。

認知的文化は、組織のメンバー間で共有される、理念や規範、成果、前提など、外部環境への対応や組織の目標達成を目指す上で水準となる文化であると言えます。

情緒的文化は、企業業績やこの認知文化や規範に対して、社員一人ひとりが抱く感情から産まれる企業文化です。

2つの大きな違いは、「認知的文化」は考え方を軸としており、主に発言や行動を介して伝わるのに対し、「情緒的文化」は、感じ方を軸としており、身振り手振りや表情から伝わると傾向が強いことです。

しかし、認知的文化は、企業や経営者が経営の中で重要な要素として、認識し管理・変革している一方で、情緒的文化は、ほとんど無視されてきているということを、この調査においては問題視しています。そして、情緒的文化が経営業績に多大な影響を及ぼすことを調査研究で示しています。

実際にスタートアップ企業やベンチャーでは「仕事を楽しむ」ということを「行動指針やWAY」としている企業も増えています。一方で、情緒的文化のみを重視して、認知的文化を軽視してもいいということではなく、情緒的文化と認知的文化は相互に補完するものであると、この研究では示しています。

そして、良い情緒的文化を組織内に醸成するためには、経営トップを筆頭にすべてのリーダーが望ましい感情や振る舞いを体現し、周囲がそれに同調し、完全に模倣してなり切るまで繰り返すことが必要と述べています。

最近では、個人またはグループの状態を示す「ウェルビーイング」が経営として、着目されていることも、企業自身が情緒的文化の重要性に気付き始めている証拠であると言えます。

日本企業において組織文化、または企業文化というときには、大抵の場合は企業の理念やビジョン、行動指針などである程度明文化されている「認知的文化」のことを指しています。一方で、「組織風土」というときには、組織内の発言や行動、表情や身振り手振り、口調などにあらわれる、感情や雰囲気なども含まれ、「情緒的文化」に近いものです。

つまり、組織文化はある程度意図的に管理・運営することができますが、組織風土は組織内人々の中で自然に醸成されるものと言えるのではないでしょうか。良い組織文化を形成し、従業員がその文化を反映したふるまいを積み重ね、相互に影響を与え合うことができれば、自ずと良い組織風土が醸成されていくはずです。

組織風土の可視化

「組織風土」に課題がある、より良い組織風土を醸成したいと考えている場合は、まず目指す状態を描くとともに、組織風土の現状を把握し、可視化することが重要です。

良い組織風土とは?

良い組織風土を醸成するためには、現状の組織風土と自社が目指す状態から、ありたい組織風土をあらかじめ描く必要があります。そのときに「従業員エンゲージメント」の考え方は一つのヒントになるでしょう。

「従業員エンゲージメント」とは、従業員が現在働いている会社に対して、どれだけ信頼しているか、どれだけ貢献したいと考えているか、ということを意味します。言い換えると、従業員の自発的(内発的)な貢献意欲、ということになります。

「自発的(内発的)な貢献意欲」とは、賃金や他者からの評価を得たいといった外部からの動機付けではなく、自身の内面から起こる動機付けを意味します。自身の中から湧き出てくる興味や関心などが行動要因となっているため、その行動そのものが目的となっている状態です。

このように、従業員が会社を信頼し、自発的な貢献意欲を持っている状態、すなわち従業員エンゲージメントが高い状態であることは、離職率の低減や生産性の向上、製品・サービス品質の向上など、経営に良い影響を与えます。これは、目指すべき組織の状態の一つと言えるのではないでしょうか。

従業員エンゲージメントに影響を与える要因として、従業員による会社の理念・ビジョンへの共感や、組織内の関係性の質などが挙げられます。こういった要因を改善することが、良い組織風土の醸成につながります。そのためのカギとなるのは、組織内のコミュニケーションです。

良い組織風土を醸成するためのチェックポイント

企業にとって望ましい組織風土を醸成するためには、組織内の情報の流れがスムーズであることが必要です。まずは、下記のチェックポイントを通して、自社の現状を把握することをおすすめします。

  1. 経営者や経営チームから、企業のビジョンやあるべき状態がコミュケーションされているか
  2. 現場の状況や現場の本音が、経営や組織全体に伝わっているか
  3. メンバー間や部門間を超えたコミュケーションがなされているか
  4. 組織目標に必要な行動や規範を社員一人ひとりのコミュケーションから確認できているか
  5. 社員一人ひとりが本音を吐露しているか
  6. 上記に必要なコミュケーションラインが整備されているか

組織風土は良い状態から悪い状態になることがある

現在、組織風土に問題を抱えていない企業でも、いつのまにか悪い状態に陥っていたという場合があります。

今なお、出口の見えないかんぽ生命保険の例について考察をしてみたいと思います。

同社では、顧客に不適切な契約を結ばせて成果を上げる、という価値観が根付いてしまっている可能性があり、販売員の上司も、売り方をトレーニングするインストラクターも、そういったやり方をむしろ、賞賛する傾向にあったようです。

不正を行って、あるいは不正ではなくとも顧客のためになっていない方法で業績を上げた人が称賛されている場合、そのような習慣が良しとされる風土が醸成されてしまう場合があります。

偏った価値観をもとに行われたコミュニケーションの影響は、事業がうまくいっている時期は気づきにくいことが多いので注意が必要です。上記のかんぽ生命の事例は、金利が高い時期は顧客の不利益が表面化しづらかったことも、事実の発覚が遅れた原因としてあったようです。

上記は、ビジョンや組織として大切にする価値観や社員一人ひとりの良心よりも、過去の成功体験に基づく偏った価値観(成果主義)が優先されていたために起こったと考えられる事象です。本来大切にすべき理念やビジョンがないがしろにされ、社員一人ひとりが本音に蓋をしたまま偏った価値観にもとづくコミュニケーションに晒されることが、組織風土の悪化を招き、最悪の場合は不正につながることもあるのです。

組織風土と企業経営との関連性

組織風土の悪化を防ぐために、経営側は何に気をつけるべきでしょうか。
不祥事が起こらないよう、「職場や組織の風通し」に目を配り、全社員に研修を行えばいいのでしょうか。

良い組織風土を醸成するためには、コミュケーションの「量」と「質」のバランスが重要です。

組織のミッション・ビジョンを従業員がしっかりと理解し、共感できるよう、コミュニケーションの質と量が担保できているかが重要なポイントになります。いくらコミュニケーションの量が多くても、それが経営から従業員への一方的な情報伝達に偏っていないか、過去の成功体験に引きずられた偏った価値観に基づくコミュニケーションとなっていないか、経営の視点から確認することが必要です。

また、ミッション・ビジョンや企業価値観・戦略に沿って、経営陣と現場の社員がコミュニケーションできる場や、社員同士で本音のコミュニケーションができる基盤を整える必要があります。また、その際に、その場に現れる社員の感情に注意を払い、組織の問題を早い段階で把握・対処するとともに、組織内に醸成していきたい感情(楽しさ、前向きさ、親しみなど)をリーダーが積極的に体現していくことも重要です。

組織風土醸成・変革の事例

最後に、組織風土の醸成や、変革に成功した企業事例を紹介します。いずれもソフィアが支援を行った企業です。

中堅企業(社員1,000名以上)の事例

収益を支えていた主力商品の衰退と、同業他社の統廃合に直面していた同社。大規模化する競合の中で生き残りを図るために、自社独自の戦略を打ち出すことが求められていました。また、マネジメント層と現場社員とが一丸となって事業変革を進めていくにあたっては、マネジメント層の連携強化、マネジメントと社員の信頼関係強化が課題でした。

そこで同企業はマネジメント層と現場社員の対話を繰り返し行うとともに、現場社員からの信頼を損なう一つの要因として挙げられていたマネジメントメンバー間の意思疎通の悪さを改善するために、マネジメント層の組織開発を実践しました。また、現場社員のエンゲージメントや関与の度合いを向上させるため、組織改革に向けた価値観やテーマの検討と実際の改革を進めていくプロジェクトチームを組織し、これを機に行動指針や理念・ビジョンの見直も行うこととなりました。さらに、こうした一連の動きがすべての社員にオープンに伝わるように、隔週で社内報を発行し、改革の動きを中心に全社員に伝達しています。結果として、組織内コミュニケーションの活性化と、業績の改善を同時に実現しました。

参考記事:
組織風土を強みに転換し、生き残りをかけた事業再編に挑む

大規模企業(社員10,000名以上)の事例

同企業では、グローバル本社の経営計画に合わせて、国内市場におけるビジョンを策定し、その実現に向けて組織変革のプロジェクトを立ち上げました。さらに、社員によるビジョンの理解促進と自発的な行動喚起、それらを通じた組織風土の改善に向けて、新たな行動指針を策定。浸透活動を行うにあたって、具体的な施策立案と、プロジェクト推進体制の構築を必要としていました。

そこでソフィアでは、ビジョンの実現に向けたマイルストーンを策定し、「経営層から部長クラスへ、部長クラスから課長クラスへ、そして現場社員へ、直接的なコミュニケーションを通じて浸透するシナリオ」と、「継続的なメディア活用を通じて、組織全体に理解・共感を醸成するためのシナリオ」の2つのシナリオを有機的に組み合わせる施策を立案しました。具体的な施策として、部長クラス向けに行動指針体感ワークショップの企画・運営支援を行ったほか、ワークショップ実施のためのツールキットの企画・制作、ワークショップ当日の動画撮影・編集、Web会議システムを活用したバーチャル研修の企画・運営などを行い、ビジョンの浸透と行動喚起を後押ししています。

参考記事:
組織変革 ~行動指針の全社浸透を目指したプロジェクト活動支援~

まとめ

あなたが今感じている組織の課題はどのようなものでしょうか。
良い組織風土を醸成するためには、現状の組織風土の状態を把握・可視化した上で、ありたい組織風土の状態をあらかじめ描き、必要な施策を打っていく必要があります。良い組織風土を考える上では「従業員エンゲージメント」の考え方が参考になります。

また、経営の視点では、コミュニケーションの質と量に目をむけ、会社が大切にしたい価値観に基づいた情報がしっかり社員に届いているか、コミュニケーションされていている内容や場所に偏りはないか、社員の声に経営が触れる機会が確保されているかを確認し、問題を改善していくことが大切です。

本記事の内容が、自社の組織風土に問題点を感じ、改善していきたいと思われている方々の参考になれば幸いです。

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株式会社ソフィア

フィールド・リサーチ&コンサルティング事業責任者 シニア・コンサルタント

森口 静香

先が見えない、課題が曖昧でどうすればよいかわからないプロジェクトの伴走をすることが多いです。議論をその場で図解したり、時にはグラレコや動画を使って、みなさんの共通認識をつくることを得意としています。

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