従業員調査が従業員満足度を低下させる理由|本音を引き出す設計・分析法
最終更新日:2026.07.31
目次
【この記事のポイント】
・従業員アンケート調査に必要な視点は「答える側にメリットがあるか」
・アンケート結果の取り扱い(経営陣には報告するが社員にはしない、都合の良い部分しか報告しない等)が、従業員の「アンケート離れ」につながる
・アンケート調査は、従業員へのメッセージ。会社の本気が伝われば、従業員も本気で応じる
・従業員満足度(ES)の低下は、顧客満足度(CS)の低下、離職率の上昇、生産性の悪化という負の連鎖を引き起こす
・弊社ソフィアの独自調査において、大企業従業員の約8割が社内コミュニケーションに課題を感じており、戦略への共感はわずか1割にとどまるなど、深刻なサイロ化が浮き彫りになっている
・適切な設計と高度な分析(クロス集計やポートフォリオ分析)の導入、および匿名性の担保が不可欠である
多くの企業や人事担当者は、課題把握の手段として従業員アンケートを選びますが、それ自体は間違いではありません。しかし現場では「忙しいのにまたアンケートか」「どうせ何も変わらない」という冷ややかな声が後を絶たないのが実態です。本記事では、最新の調査データや公的機関の一次情報をもとに、従業員調査を真の組織改善ツールとして機能させるための本質的なアプローチを解説します。
従業員調査による満足度低下の実態と要因
なぜ、調査をすればするほど「会社はわかってくれない」と思われるのでしょうか。社内で何かしらの課題が発生しているとき、解決のために何をすべきか。こんな状況に置かれたとき、多くの人が選択する手段が「従業員に対するアンケート調査を行って現状を把握する」ということです。それ自体は決して間違ってはいません。ただ、コンサルティングで実際に接するお客様企業の現場からは、こんな声が聞こえてきます。
「先週、従業員満足度調査に答えたと思ったら、今週は働き方改革に関する意識調査。同じ部署から立て続けにけっこうボリュームのアンケートを依頼されると、『答える側の都合なんて考えてないんだな』と思う。しかも、同じような内容だった」
「いろんな部署からいろんなアンケートを依頼されるけど、その結果がどうだったか共有されたことって、ないんですよね」
「最初はフリーコメントもけっこう書いていたんだけど、結局書いてもなんにも変わらない。今回のアンケートだって、答えたところで役に立たないんでしょ?」
「結局、何を書いても会社はわかってくれない」
答える側のメリットの欠如
アンケートを依頼する側は、何かしらの目的を持っています。その目的が、あなたが担当する会社の業務に関わるものであれば、従業員にアンケートを依頼して「業務の一環として」回答してもらうのは正しいことのように思えます。アンケートの回答を集めることは、あなたの業務にとってプラスになるでしょう。しかし、答える側にとってプラスになることはどれだけあるでしょうか。
こんな場面を想像してみてください。あなたが休日に自宅のソファーでSNSを見ていて、面白そうな動画や記事のリンクをクリックしたら、ポップアップで自分の興味とは全く関係のないアンケートが表示された。出かける準備で忙しくしている時に自宅の固定電話が鳴って、慌てて受話器を取ったら自動音声のアンケート調査だった。友人との待ち合わせ場所へ急いでいる時に、突然街角でアンケート調査員につかまった。そんなとき大抵、私たちはがっかりしたり、腹が立ったりします。でも、もしそのアンケート内容が少しでも自分の関心のあること、自分が問題意識を持っていることに関連していたら、時間がなくても答えたいと思うかもしれません。もしくは、賞品などのインセンティブがあれば回答する気になるかもしれません。しかし、自分にとって答えるメリットがない、またはメリットがあるかどうかわからないときは、迷わず無視したり断ったりするでしょう。
ここで職場での話に戻りましょう。あなたが普段答えるアンケート、またはあなたが普段依頼しているアンケート。それらは「答える側のメリット」が明確になっているでしょうか。答える側の状況や感情に配慮して、答えやすい、答えたくなるような工夫がされているでしょうか。たとえ、その結果がどこかで生かされて、従業員のメリットにつながっていたとしても、答える側にとって、そのメリットと「アンケートに答えたこと」がつながっていなければ、「忙しいなか時間を使ってアンケートに回答して良かった」とは思えないでしょう。それどころか、「こちらの都合も考えずに、余分な仕事を増やしやがって」と、アンケートを依頼した部署や担当者、ひいては会社に対する不信や不満につながってしまう(従業員満足度が低下する)こともあります。
調査疲れと心理的負担の蓄積
従業員満足度調査が逆効果となるメカニズムの根底には、「調査疲れ(サーベイ・ファティーグ)」と呼ばれる現象が存在します。企業が組織課題を網羅的に把握しようと欲張るあまり、一度の調査に膨大な質問項目を詰め込むケースが非常に多く見られます。質問項目が過剰になると、日常業務で疲弊している従業員にとってアンケートへの回答は深刻な心理的・認知的負担となります。
さらに、設問の質が低いことも負担に拍車をかけます。「会社の理念や目標を十分に理解し、会社が提供するサービスに誇りを持っている」といった、一つの文章に複数の論点が含まれる「ダブルバーレル質問」や、解釈が分かれる曖昧な質問が並んでいると、従業員はどう回答してよいか迷い、最終的には思考を放棄して中央値(どちらでもない)を連続して選択するようになります。これは調査の形骸化を引き起こすだけでなく、従業員の間に「会社は現場の負担を全く考慮せずに、自分たちのデータ収集欲を満たそうとしているだけだ」という不信感を植え付ける結果となります。
社内アンケートに本音が書けない・書かない理由の深層
ここまでの話は、あくまで「会社を良くする」という目的があってアンケート調査が行われていることが前提になっています。しかし、さまざまな企業の現場を見ていると、必ずしもそうでないケースにも遭遇します。たとえば、(会社にとってプラスになるかどうかはわからないが)自分が担当する仕事において「やりたいこと」を実行する裏付けを取るためのアンケート。自分が推進している施策の「効果が出ている」こと、施策の方向性が「間違っていない」ことを証明するためのアンケートなどです。
不都合な真実の隠蔽とシュレッダー行き
そんなときによくあるのが「アンケート結果を会社の上層部には報告するが、回答してくれた社員には報告しない」「アンケート結果の中で、自分の仕事に都合の良い部分しか報告しない」ということです。中には、「実態を知るためにアンケートを実施したい」と担当者が提案しても「悪い結果が出ると困るからアンケートなんかやるな」と上長が阻止するケース、一番恐ろしかったのは、実際に実施したアンケート結果に対して、「これは、出したらいろいろ良くないから、このアンケートはなかったことに」と、引き出しの奥の方にしまわれ、最終的にシュレッダー行きになったことがあるという体験談も聞いたことがあります。
企業の中でこのようなことが当たり前に行われるようになると、答える側もうんざりして、適当に、無難に、本音とは異なる回答をするようになっていきます。都合の悪い結果は発表されず、発表される結果は実態を反映していません。ひとたび組織内の信頼関係が壊れてしまうと、たとえ誰かが本気で会社を良くしようとしてアンケート調査をしようとしても、誰も本気で答えてくれず、意味のないデータしか出てきません。そして「うちの社員は信用できない」「うちの会社は信用できない」と、相互不信が深まっていってしまいます。
匿名性の欠如と人事評価への恐怖
従業員が本音を隠すもう一つの極めて重大な要因は、「匿名性に対する疑心暗鬼」です。部署名、役職、年齢層、入社年次など、回答者の属性を細かく入力させるアンケートにおいて、少数しか所属していない部署のメンバーや特異な役職を持つ者は、「クロス集計されれば、自分が誰であるか容易に特定されてしまう」と直感的に察知します。
「自分の率直な不満や上司への批判が本人や人事部に伝わり、将来の昇進やボーナスの査定に悪影響を及ぼすかもしれない」と感じた瞬間、職場における心理的安全性は完全に崩壊します。この恐怖から自己防衛するため、従業員はどれほど現状に不満を抱えていても、経営陣や上司が喜ぶような「無難で肯定的な回答(フェイクデータ)」を提出するようになります。結果として、経営陣の手元には「我が社には大きな問題はない」という実態とはかけ離れた美しいレポートが届き、水面下で進行する組織崩壊のシグナルを見落とすという致命的な事態を招きます。
「何も変わらない」ことによる学習性無力感
アンケートに答えても状況が改善されないという経験が繰り返されると、従業員は心理学でいう「学習性無力感」に陥ります。現場の切実な要望や改善案を自由記述欄に時間をかけて記入したにもかかわらず、数ヶ月経っても経営層からのフィードバックがなく、職場環境にも一切の変化が見られない場合、従業員は「会社は声を拾うポーズをとっているだけだ」と冷ややかに見なします。このフィードバック・ループの欠如が、次回の調査への協力意欲を根こそぎ奪い、さらなるエンゲージメント低下を引き起こします。
従業員満足度(ES)低下がもたらす深刻な経営リスク
従業員調査への不信感が引き金となり、従業員満足度(ES)の低下が放置された場合、それは単なる「職場の空気の悪化」にとどまらず、企業の持続的な成長を根底から揺るがす甚大な経営リスクへと発展します。ここでは、ES低下がもたらす具体的なビジネス上の損失について解説します。
顧客満足度(CS)と業績へのダイレクトな打撃
経営学者ジェームス・ヘスケットらが提唱した「サービス・プロフィット・チェーン(SPC)」の枠組みにおいて、従業員満足度(ES)と顧客満足度(CS)は密接に連動しています。ヘスケットらの著書「カスタマー・ロイヤルティの経営」で紹介された調査データによれば、ESとCSには99%の因果関係が認められ、CSが平均以上の店舗の78%はESも平均以上であり、ESが1%増加するとCSが0.22%増加するという明確な相関が示されています。
逆に言えば、従業員満足度が低い状態では、モチベーションを失った従業員が提供する製品・サービスの質は必然的に低下します。顧客対応におけるホスピタリティの欠如や、業務上のミスの増加は顧客離れを引き起こし、最終的に企業の売上・利益を直撃します。厚生労働省の調査においても、「従業員と顧客満足度の両方を重視する企業」は、「顧客満足度のみを重視する企業」と比較して、売上高営業利益率および売上高が増加傾向にあることが実証されています。
離職率の上昇と「びっくり退職」の連鎖
従業員満足度の低下がもたらす最も直接的かつ致命的なダメージは、優秀な人材の流出(離職)です。厚生労働省が公表した「若年者雇用実態調査」等を見ても、労働条件や人間関係の不満といった「衛生的要因」の悪化が離職の主要なトリガーとなっています。
近年、多くの人事担当者を悩ませているのが、上司が全く予兆を感じていない状態で突然辞表が提出される「びっくり退職」です。これは、日頃のコミュニケーション不全とアンケート調査の形骸化により、部下の小さな悩みやSOS(予兆)を吸い上げるセンサーが完全に壊れているために発生します。不満を訴えても無駄だと悟った従業員は、会社に見切りをつけ、水面下で転職活動を進めます。そしてある日突然退職を突きつけるのです。これにより組織には人材不足が生じ、残された従業員に業務負荷が集中することで、さらなる満足度低下と連鎖的な離職を招くという最悪の悪循環に陥ります。
ソフィア独自調査に基づく社内コミュニケーション分断の実態
従業員が本音を隠し、組織への不信感を募らせる背景には、現代の企業が抱える構造的なコミュニケーションの欠陥(サイロ化と断絶)が存在します。表面的なツール導入だけでは解決できないこの問題の深刻さについて、定量的なデータから読み解いていきます。
弊社ソフィアが実施した「インターナルコミュニケーション実態調査2024」(従業員数1,000名以上の大企業に勤める従業員496名を対象)では、日本の大企業におけるコミュニケーションの「断絶」に関する衝撃的なエビデンスが明らかになりました。
組織を蝕む「3つのサイロ化」と壁の存在
同調査によると、回答者の79%(「大いに問題がある」20%+「やや問題がある」59%)が自社の社内コミュニケーションに対して明確に「問題がある」と認識しています。特に、コミュニケーション不全が具体的にどの「場所」で起きているのかを分析した結果、組織を分断する3つの強固な壁が存在することが判明しました。
| コミュニケーション不全の発生箇所(壁) | 課題を感じる割合 | 現場で起きている事象の例 |
| 部門間(横の壁・サイロ化) | 58% | 他部署の動きが不明、連携不足による二重投資や手戻り、顧客対応のたらい回し |
| 部門内(上司と部下・縦の壁) | 51% | バッドニュース(悪い報告)が上がらない、評価への不信感、1on1の形骸化 |
| 経営陣と社員(階層の壁) | 42% | 現場の実態を無視したトップダウンへの冷ややかな視線、メッセージの空回り |
最も課題が集中しているのが「部門間(横の壁)」です。テレワークの普及や業務の専門分化により、隣の部署が何をしているか分からない「サイロ化」が極度に進行しています。これにより、横断的なプロジェクトが阻害され、企業全体の生産性が著しく低下しています。
「情報の三重苦」と戦略共感わずか1割の衝撃
また、同調査では、チャットツールなどのデジタルツールの導入率が76.0%に達しているものの、ツールが増えた結果としてかえって情報が分散するパラドックスが起きていることが指摘されています。現場では、必要な情報が「ない(発信されない)」、「遅い(タイムラグがある)」、「見つからない(どこにあるか分からない)」という『情報の三重苦』が発生し、従業員のフラストレーションを増大させています。
さらに深刻なデータとして、自社の経営目標や経営戦略に対して「共感している」と回答した社員が、わずか「約1割(10%)」にとどまったという事実があります。経営層が発信するビジョンや戦略が、中間管理職の層で滞留し、現場の従業員に「腹落ち」する形で翻訳・伝達されていません。9割の従業員が会社の向かうべき方向性に共感を持てず、ただ目の前の作業をこなしているだけの状態では、組織としてのイノベーション創出やアジリティ(機敏性)の向上は到底望めません。
1on1ミーティングのパラドックス
上司と部下の縦の壁(51%)に関連して、注目すべきは「1on1ミーティング」の機能不全です。同調査において、1on1ミーティングは社内コミュニケーション施策の中で「実施率が最も高い(1位)」一方で、皮肉にも「効果を感じない施策」のトップにランクインしています。
本来、1on1は心理的安全性を醸成し、部下の成長支援や本音を引き出すための「対話の場」です。しかし実態は、上司の傾聴スキル不足や目的の誤認により、単なる「業務進捗の確認」や「尋問の場」へと変質しているケースが多く見られます。このようなチェック・ザ・ボックス型(こなすだけ)のマネジメントが日常化している組織において、年に一度の従業員満足度調査を実施したところで、従業員が心を開いて組織の課題を書き記すはずがありません。
従業員満足度調査とエンゲージメントサーベイの差異
ここで、従業員調査の枠組みについて整理しておく必要があります。近年、従業員満足度(ES)調査と並んで「エンゲージメントサーベイ」という用語が頻繁に用いられますが、両者は目的と測定するベクトルが明確に異なります。
| 項目 | 従業員満足度(ES)調査 | エンゲージメントサーベイ |
| 測定の焦点 | 職場に対する「満足度」(条件面・環境面) | 会社への「信頼」と仕事に対する「貢献意欲」 |
| 主な質問テーマ | 給与、福利厚生、職場環境、人間関係の快適さ | 企業理念への共感、仕事のやりがい、自発的な貢献意欲 |
| 従業員のスタンス | 受け身(会社から与えられるものに対する評価) | 主体的(自らが組織にどう関わり、貢献しようとしているか) |
| 代表的な指標 | 総合満足度、項目別満足度 | eNPS(自社を働く場所として友人・知人に勧めたいか)、熱意、没頭 |
満足度調査は「働きやすさ」を測る上で重要ですが、ハーズバーグの二要因理論における「衛生要因(不満を防ぐ要素)」に偏りがちです。単に給与や環境に満足しているだけの「ぶら下がり社員」を生み出さないためには、ES調査とエンゲージメントサーベイ(動機づけ要因の測定)を組み合わせるか、双方の要素をバランスよく組み込んだ設問設計が必要となります。
満足度低下を防ぐ従業員調査の適切な設計と実施手順
あらためて、従業員アンケートを行う意味について考えてみてください。アンケートを依頼する側は、設問を考えて、フォームを作って、依頼メールを配信します。それらをすべて1人で行うのなら短くて数時間あればできます。数人で検討を重ね、作業分担してもせいぜい人数×数時間でしょう。作業を外注しないのなら、アンケートを行うのにはたいしたコストもかからないような気がします。しかし実際は、
(アンケートの作成や依頼・集計や分析や報告にかかる時間×人数+アンケートに答える時間×アンケートに答える従業員の数)×人件費
これだけかかっています。それだけのコストをかけることを、「担当者の都合」や「担当部署の都合」のためだけに行っていいわけがありません。従業員の不満を防ぎ、真の課題を浮き彫りにするための適切なプロセスは以下の通りです。
1. 目的の徹底的な明確化と仮説構築
「他社もやっているから」「とりあえず現状を把握したいから」という曖昧な動機での調査は、必ず失敗します。離職率の低下、人事評価制度に対する不満の解消、ハラスメントの実態把握など、解決したい課題(仮説)をまず明確に設定します。調査とは、あくまでその仮説を検証し、次なる打ち手を決定するための手段に過ぎません。
2. 調査の意義と目的の全社周知
調査を実施する前に、「なぜこの調査を行うのか」「結果をどのように組織改善に活かすのか」という目的と意義を、経営層からのメッセージとして全従業員に事前に周知・徹底することが不可欠です。従業員が「この調査は自分たちの職場環境を良くするために行われるのだ」と腹落ち(理解と納得)して初めて、彼らは質の高い回答を提供してくれます。
3. 質問項目の精選と心理的負担の軽減
前述の通り、設問は多ければ多いほど良いというものではありません。質問数が多すぎると従業員は「面倒だ」と感じ、回答の質が劇的に低下します。目的に直結する重要項目に絞り込み、従業員が10分程度で回答できる分量に抑えることが推奨されます。また、解釈がブレる曖昧な質問や、専門用語の多用を避け、直感的に答えられるシンプルな表現を徹底します。
4. 完全な匿名性の担保と第三者機関・ツールの活用
従業員が報復や評価低下の恐怖を感じることなく本音を吐き出せるよう、匿名性の担保は絶対条件です。自社製のエクセルや無料のアンケートフォームでは「IPアドレスやアカウント情報から特定されるのではないか」という疑念を払拭しきれません。
そのため、個人情報が管理者側にも開示されない仕組みを持つ専用の「従業員満足度調査ツール」を導入するか、外部の第三者機関に実施と集計を委託することが、心理的安全性とデータの正確性を担保する最適解です。外部機関が介在することで、「会社は結果を操作せず、客観的な事実を受け入れる覚悟がある」という強いメッセージにもなります。
調査結果の高度な分析手法と組織改善への活用
回収したアンケートデータを単なる「各項目の平均値の算出」で終わらせてはいけません。例えば「給与・報酬に対する満足度」はどの企業でも恒常的に低く出る傾向があり、単純な平均値だけを見て「我が社の最大の問題は給与だ」と短絡的に判断するのは危険です。真に優先して改善すべき課題を見極め、効果的な施策を打つためには、以下のような高度な分析手法(統計的アプローチ)を駆使する必要があります。
クロス集計と属性ごとの隠れた課題抽出
単純集計(全体傾向の把握)に加え、性別、年代、役職、部署、入社年次などの属性データを掛け合わせる「クロス集計」が分析の基本となります。会社全体での満足度が高く見えても、クロス集計を行うことで「入社3年目以下の若手社員層だけがキャリアパスに強い不安を抱いている」「特定の開発部門でのみ、労働時間に対する不満が異常に高い」といった、局所的かつ致命的な異常値を早期に発見できます。これにより、全社一律の的外れな施策ではなく、ターゲットを絞ったピンポイントな改善策を講じることが可能になります。
ポートフォリオ分析による優先順位の決定
限りある経営リソースをどこに投下すべきかを論理的に決定するために、「ポートフォリオ分析」が極めて有効です。これは、各質問項目を、縦軸に「従業員の満足度」、横軸に「総合的なエンゲージメントへの影響度(相関係数や企業としての重要度)」を設定した4象限のグラフにマッピングする手法です。企業としての重要度(影響度)が高いにもかかわらず、従業員の満足度が著しく低い象限(重点改善領域)にプロットされた項目こそが、最も優先して着手すべき「クリティカルな課題」として可視化されます。
相関分析(満足度構造分析)によるレバレッジ効果
特定の設問間の関係性を紐解く「相関分析」も重要です。総合的に満足度の高い従業員が、具体的にどの個別の項目に対して強い満足を感じているかの傾向を探ります。例えば、「人間関係への満足度」が高い従業員は、連動して「仕事へのやりがい」も高く回答する傾向があるといった相関関係(満足度構造)が明らかになることがあります。これにより、無数の不満をモグラ叩きのように個別撃破するのではなく、根本原因となる一つの課題(例:部署間コミュニケーションを促進するイベントの開催)を解決することで、連動する複数の不満を同時に引き上げるレバレッジ効果を狙うことが可能となります。
経年比較分析と他社比較(ベンチマーク)
今回の調査結果を過去のデータと比較する「経年比較分析」により、過去に実施した人事施策や労働環境の改善が、実際に従業員の満足度向上に寄与したのか(施策の投資対効果)を検証します。また、可能であれば同業他社のデータと比較する「他社比較(ベンチマーク)分析」を行うことで、自社の水準が業界内でどの位置にあるのかを客観視し、人材流出の潜在的リスクを測れます。
調査の効率と精度を飛躍させる専用ツールの活用
前述のような高度な分析を、人事部門が手作業の表計算ソフトで行うことは、膨大な工数を要するだけでなく、ヒューマンエラーや匿名性漏洩のリスクを伴います。そのため、現代の組織改善において「従業員満足度調査ツール」の導入は必須と言えます。ツールを選定する際は、以下の機能と基準に着目すべきです。
| ツールの選定基準と重要機能 | もたらすメリット・効果 |
| リアルタイム集計・レポート機能 | 回答収集と並行して即座にグラフ化・可視化されるため、結果のフィードバックから改善アクションへの移行スピードが劇的に向上する |
| 退職リスクのアラート機能 | 回答の傾向や特定項目の急激な悪化から退職リスクを検知・警告し、優秀な人材の「びっくり退職」を未然に防ぐ |
| カスタマイズ性の高さ | 迅速に調査を始めるためのテンプレートを備えつつ、自社特有の課題(企業理念の浸透度など)に合わせて質問を柔軟に調整できる |
| クロス分析・ポートフォリオ分析機能 | 専門的な統計知識がなくても、部署別・年代別の課題抽出や、優先順位の特定が画面上の操作だけで直感的に行える |
ツールを導入する最大の利点は、「調査業務そのもの」にかかるオペレーション工数を極限まで削減し、人事部門や経営層のリソースを「結果の分析と改善施策の実行」という本来の価値創造業務に集中させられることにあります。
コミュニケーション媒体としてのアンケートと愛の有無
アンケートを行う前に、ひと呼吸置いて考えてみてください。
- 「このアンケートに回答してくれる従業員は、どのような状況にあるのか」
- 「このアンケートに回答することで、従業員にとって良いことはあるのか。それは何か」
- 「アンケートの目的や、回答者の状況に最適な依頼のしかた、質問のしかた、まとめかた、報告・共有のしかたはどのようなものか」
- 「この依頼文や質問文を読んで、回答者はどんな気持ちになるのか」
- 「このアンケートの結果をどのように生かしていくのか」
- 「予想外の結果、思わしくない結果が出たとき、どのようにそれを報告するのか」
たとえば、大きなインシデントが起こって社員が不安にかられているとき、または長年の積み重ねで経営と従業員の信頼関係がすでに壊れてしまっているとき、その状態を修復するのは容易ではありません。しかし、まずは「リアル」な実態を知ることができなければ修復のしようもありません。もし、第一歩としてアンケート調査を行うならば、運営側が本気を見せることが必要です。
たとえば、あえて普段はかけないような手間暇をかけます。アンケートを依頼するための社長メッセージを発信する、アンケート事務局が各拠点に足を運んで直接説明する、経営陣に不都合な結果も隠さず受け止める覚悟を見せる。結果を綺麗にグラフ化し、わかりやすく要約し、運営側の考察と今後の施策の説明も加えて社員向けの報告書や社内報で報告します。結果をまとめて、半年後に報告ではなく、速報としてすぐに発信します。
アナログな手法が引き出す本音の熱量
デジタルツールが全盛の時代においても、社員の本音や熱量を把握したいのであれば、一見時代遅れに見える「紙のアンケート」も有効です。ある企業では、不祥事で経営危機に直面した際、紙のアンケートを行いました。現場から戻ってきたアンケートの一部には、余白や裏面にまでびっしり、会社への不満や不信が書き殴ってありました。それは、経営陣を前にして直接語られることは決してない社員の本音であり、経営陣の心を動かして余りある熱量が込められていました。
その企業では、アンケート結果は各部門のトップ、グループ各社のトップに報告され、現状の改善のためのアクションを出してもらい、ちゃんと実行されたかどうか本社が調査して各トップの業績評価にもつなげています。不都合な真実に正面から向き合い、改善を業績評価にまで連動させるこの徹底した姿勢こそが、失われた信頼を回復させる唯一の道です。
アンケートは従業員へのメッセージ
「アンケートは愛である」
これは、弊社が長年社内調査をお手伝いしているある大企業のある部長の言葉です。アンケートをどのように依頼するか、アンケートで何を聞くのか。それは「会社が社員をどのように思い、どのように扱っているのか」「会社はいまどんなことに関心があり注力しているのか」という従業員へのメッセージでもあります。そこに愛があるかどうか、会社が本気なのかどうか、受け取る側には伝わっています。
会社の本気が伝われば、従業員も本気で応じます。担当者や担当部署が本気を見せて汗をかき、現場に足を運び、「会社を良くしたい」「現場のことを見て、現場の声を聞いて、経営陣に届けている」と繰り返しメッセージを発信すれば、回答する側も「あの部署から頼まれたのならしかたない」「あいつのためなら協力してやるか」と次第に信頼が生まれていくでしょう。
会社が本気なら従業員満足度を高め、本気でなければ不満足につながります。社内アンケート調査は、単なるデータの収集手段などではなく、会社と従業員とを結ぶ極めて重要なコミュニケーションツールなのです。
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