従業員エンゲージメントの重要性とは?高める方法や効果、成功事例を徹底解説
最終更新日:2026.03.12
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人的資本経営の潮流や労働人口の減少に伴い、「従業員エンゲージメント」は今や企業の持続的成長を左右する最重要経営課題の一つとなりました。かつてのような終身雇用が当たり前ではなくなった現在、企業と従業員の関係性は「相互拘束」から「相互選択」へと変化しています。従業員がその組織にどれだけ貢献したいかを示すエンゲージメントが低ければ、企業は従業員にとって重要な存在にはなれず、高いモチベーションを保って働いてもらうことが難しくなります。結果、組織運営は厳しいものになるでしょう。
多くの企業が施策を講じる一方で、「施策を行っても現場の熱量が上がらない」「組織内のコミュニケーション不全が解消されない」といった悩みを抱えているのも事実です。
この記事では、それを避けるために「従業員エンゲージメント」について詳しく解説します。弊社ソフィアが2024年に実施した最新の「インターナルコミュニケーション実態調査」で見えてきた「情報の三重苦」などのリアルな課題データも交えながら、ポイントを知って、従業員エンゲージメントの高い企業を目指していきましょう。
従業員エンゲージメントとは
従業員エンゲージメントとは、会社と従業員との関係性を示す用語です。企業の成長や実績に大きく関わる要素であることから、人事系コンサルティングファームを中心に、多くの企業で研究されている分野です。
直訳すると「愛社精神」や「思い入れ」と解釈されることもありますが、ビジネスにおいてはより双方向的な「絆」や「信頼関係」を指します。企業が目指す方向性(ビジョン)に従業員が共感し、自発的にその達成に向けて貢献しようとする意欲の深さを表しています。
「ワークエンゲージメント」という言葉も、従業員エンゲージメントと同じ意味で使われることが多くあります。ただし、従業員エンゲージメントが「個人と組織」に対して求められるのに対して、ワークエンゲージメントは「個人と業務」に対して用いられる言葉という違いがあります。
ワークエンゲージメントや他概念との違い
ここでは、混同されやすい類似概念との違いを明確にし、従業員エンゲージメントの本質を掘り下げていきます。
・従業員エンゲージメント:個人 対 組織 / 企業への愛着、信頼、貢献意欲。組織の成功を自分の成功と捉える状態。
・ワークエンゲージメント:個人 対 仕事 / 仕事そのものへの熱意、没頭、活力。学術的に定義された心理状態。
・従業員満足度(ES):個人 対 環境 / 給与、福利厚生、労働環境への満足。受動的な評価であり、業績との相関は必ずしも高くない。
・モチベーション:個人 対 行動 / 行動を起こす動機。金銭的(外発的)な場合もあれば、やりがい(内発的)な場合もある。
・ロイヤリティ(忠誠心):個人 対 組織 / 上下関係に基づく服従や忠実さ。終身雇用を前提とした受動的なニュアンスが強い。
ワークエンゲージメントは、オランダ・ユトレヒト大学のSchaufeli教授らが提唱した概念です。「仕事から活力を得ていきいきとしている(活力)」「仕事に誇りとやりがいを感じている(熱意)」「仕事に熱心に取り組んでいる(没頭)」、この3つが揃った状態が、ワークエンゲージメントの高い状態であると定義されています。これは従業員がポジティブな気持ちで業務に関われているかどうかを示すもので、研究機関がデータをとって発表しています。
これに対し、従業員エンゲージメントは、企業と人がどれだけ信頼・理解し合っているのか、共感し合っているのかを表すものです。研究機関ではなく、コンサルティング会社などがデータをとるケースが多いのが特徴的です。
従業員エンゲージメントが高いという状態は、理念やビジョンへの共感があり、職場、同僚、仕事に対する感情的なコミットメントがあるという状態であり、エンゲージメントを高めるために待遇を改善しても必ずしも向上するわけではありません。それを裏付けるデータとして「厚生労働省 令和元年版 労働経済の分析」によると、報酬や福利厚生を充実させれば向上するものではないことがわかります。そもそも報酬や福利厚生は、一定の水準を超えると業績や成果にはほとんど影響しないことが研究でも明らかになっています。
では、エンゲージメントを高めるために、企業は一体どうすればよいのでしょうか。そもそも、企業側が従業員エンゲージメントを管理することなど可能なのでしょうか。
従業員エンゲージメントの定義
弊社ソフィアは、従業員エンゲージメントが高い状態を「従業員の一人ひとりが、会社の成長と自身の成長を結び付け、会社の目標を実現しようとする戦略に則って、自らの力を発揮しようとする自発的(内発的)な意欲をもって、行動すること」と定義しました。
従業員の仕事の満足感を引き出すためには、なによりも動機付け要因にアプローチすることが大切です。従業員が組織にコミットしたいと思うような動機を与えることができれば、エンゲージメントが向上します。生産性が高まり、企業は業績や評判までも向上させることができるでしょう。
従業員エンゲージメントを構成する要素
従業員エンゲージメントを左右する一般的なポイントとして、「共感」「環境」「行動意欲」の3つが挙げられます。これらの要素をいかに維持していくかが、エンゲージメント向上において重要です。
共感
まずは、「共感」です。従業員が、企業理念や経営ビジョンに共感できるようにしましょう。社員が主体性を持って働けるようになり、エンゲージメントが向上します。単に言葉を知っている(認知)だけでなく、その背景にある想いや社会的な意義を理解し、自分の価値観と重ね合わせられる状態を目指します。
環境
従業員が貢献したくなるような環境であるかどうかも重要です。たとえば、従業員の評価を企業に対する貢献度で決めるという方法があります。また働きやすさという点では、部署間でコミュニケーションが取りやすい環境であることも重要です。ほかにも、ミスをしたときに助けてくれるといった良好な関係の同期・上司がいることもエンゲージメントの向上につながります。これは近年注目される「心理的安全性」にも通じる要素です。
行動意欲
「自分でやってみたい」というような前向きな行動意欲は、エンゲージメントに直結します。仕事内容が面白かったり、自分で考えて決められる裁量権があったりすると、行動意欲が高まり、エンゲージメントが向上するでしょう。これは自己決定理論における「自律性」の欲求を満たすことと同義です。
従業員エンゲージメントが重要とされる背景
昨今、従業員エンゲージメントが注目されるようになった一番の理由は、産業構造の変化にあります。特に近年ではIT化・デジタル化が進み、日本の産業構造は、国内総生産(GDP)で確認すると、第三次産業(サービス業)の比率が高くなってきています。よって人的資本が注目されています。
製造業中心の時代は、マニュアル通りに効率よく作業をこなすことが求められましたが、サービス経済化した現代では、従業員のホスピタリティや創造性、臨機応変な対応といった「感情労働」や「知的生産」が付加価値の源泉となります。これらは強制されて発揮できるものではなく、本人の内発的な動機(エンゲージメント)に依存するためです。
さらに近年、働き方の多様化により、人材の流動化が進んでいます。優秀な人材を育成するためにはキャリア形成が必要ですが、人材は流れていってしまいます。そこで企業は、従業員のエンゲージメントや自社への帰属意識を高めることで、離職の可能性を下げたいと考えるようになりました。
産業構造からも、経営戦略上も、人的資源におけるエンゲージメントの重要性が再認識されているところですが、2020年米ギャラップ社の「State of the Global Workplace」レポートで日本のエンゲージメントが5%〜7%と世界最低水準であることがらかになりました。
また、「厚生労働省 令和元年版 労働経済の分析」でも、日本のワークエンゲージメントスコアが相対的に低いことがわかっています。ただし、ポジティブに思う気持ちをどう自覚して表現するのかは、各国の国民性や文化にもよるので、単純に比較できていない可能性があることには留意が必要です。
このような日本の状況を受け、エンゲージメントに関する企業の課題意識は、より一層高まっています。同調査によると、新聞(主要全国紙、一般紙、業界紙を含む)、雑誌、インターネットニュース、研究・調査レポート、書籍などにおける「エンゲージメント」というワードを含む記事の件数は、過去5年で約10倍にまで増えています。このような状況からも、従業員エンゲージメントは多くの注目を集めているということがわかります。
人的資本経営と情報開示の義務化(ISO 30414)
2020年代に入り、エンゲージメントの重要性を決定づけたのが「人的資本経営」の潮流です。人材をコストではなく、価値を生み出す「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出す経営手法です。
2023年3月期決算より、日本の上場企業等を対象に、有価証券報告書における人的資本情報の開示が義務化されました。ここでは、「人材育成方針」や「社内環境整備方針」と並び、エンゲージメントに関する指標の開示が強く推奨されています。
また、人的資本に関する情報開示の国際的なガイドラインである「ISO 30414」においても、従業員エンゲージメントは、リーダーシップ、企業文化、生産性と並ぶ主要な報告領域(11領域58指標の一つ)として定義されています。
投資家やステークホルダーは、財務情報だけでなく、「その企業の従業員がいきいきと働いているか」「組織に求心力があるか」という非財務情報を、企業の持続可能性(サステナビリティ)を判断する重要なファクターとして見始めています。エンゲージメントスコアは、企業の将来の成長性を占う先行指標として機能するのです。
人材獲得競争の激化と「選ばれる企業」への転換
少子高齢化による労働人口の減少は、企業にとって深刻な脅威となっています。特に若手層や高度専門人材(DX人材など)の獲得競争は激化の一途をたどっています。
かつてのように「企業が人を選ぶ」時代から、「人が企業を選ぶ」時代へとパワーバランスがシフトしました。エンゲージメントが低い企業、つまり「働きがい」や「成長環境」を提供できない企業からは、優秀な人材が流出し、新たな採用も困難になります。リファラル採用(社員紹介)が注目される中、自社を友人に勧めたいと思えるエンゲージメントの高さは、採用ブランディングそのものと言えるでしょう。
従業員エンゲージメントを高めるメリット
ここまで、従業員エンゲージメントの定義や重要性についてご説明してきました。では、従業員エンゲージメントを高めることで企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。その疑問にお答えするために、従業員エンゲージメントの高さが企業の実績や顧客からの評価にどのように影響するのかがわかる調査をご紹介します。
ギャラップ社は、96ヶ国の54の異なる業界から、276もの組織を対象に調査研究を行い、メタ分析を実施しました。この分析では、従業員エンゲージメント調査で上位四分位数にランク付けされている雇用主は、業績が優れているという結果になりました。これをさらに分析したレポートでは、従業員エンゲージメントが高かった企業についてより詳しいことがわかっています。
業績向上と生産性の改善
上位四分位数と下位四分位数の差の中央値をとってみると、上位四分位数の方が、利益は23%多く、生産性は18%高く、欠席は81%減少。また、顧客の評価は10%向上したという結果が出ました。
従業員エンゲージメントを高めることで、利益や売上高といった数値的な結果にも結びつくことが、この調査からはわかります。
これは、「やらされ仕事」ではなく、自発的に工夫し、より良い成果を出そうとする従業員の総和が、組織全体のパフォーマンスを押し上げるためです。モチベーションの高い従業員は、業務プロセスを自律的に改善し、無駄を省き、質の高いアウトプットを生み出します。
離職率の低下と優秀な人材の定着(リテンション)
エンゲージメントが高い従業員は、組織に対する愛着や帰属意識が高いため、離職する可能性が低くなります。
株式会社日立ソリューションズ・クリエイトの分析などでも示されている通り、「自分が貢献している」という意識や、会社への理解度が深まることで、結果的に離職率が低下します。特に、次世代リーダーとなるハイパフォーマー層の定着は、企業の競争力維持に不可欠です。離職率の低下は、採用コストや教育コストの大幅な削減にも直結し、組織のノウハウ蓄積を促進します。
顧客満足度(CS)の向上
「従業員満足なしに顧客満足なし」という言葉がある通り、従業員のエンゲージメントと顧客満足度は強く相関しています。これを説明するモデルが「サービス・プロフィット・チェーン」です。
エンゲージメントが高い従業員は、自社の商品やサービスに誇りを持ち、顧客に対してより良い提案やホスピタリティあふれる対応を行います。その結果、顧客ロイヤルティが向上し、リピート率や顧客単価の増加につながり、最終的に企業の収益向上へと還流するのです。
イノベーションの創出と組織の俊敏性
変化の激しいVUCA時代において、トップダウンの指示待ち組織では市場の変化に対応できません。エンゲージメントが高い組織では、現場の従業員が主体的に課題を発見し、解決策を提案する風土があります。
また、後述する「心理的安全性」が担保された環境では、失敗を恐れずに新しいアイデアに挑戦できるため、イノベーションが生まれやすくなります。組織全体が同じビジョンに向かって自律的に動くことで、意思決定のスピード(アジリティ)も向上するでしょう。
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従業員エンゲージメントを高める方法
従業員エンゲージメントが、企業にとっていかに重要であるかがわかりました。では、従業員エンゲージメントを高めるためには、具体的にどのような手段をとればよいのでしょうか。以下にポイントを整理していきます。
企業理念・ビジョンの共有と「腹落ち」のプロセス
企業理念や経営ビジョンを共有すると組織に貢献したいという気持ちに結びつきます。ただし、ビジョンは単に掲げるだけでは意味がありません。しっかりと浸透させることで、企業をあるべき姿へと導くことができるのです。ビジョンが社内に浸透していれば、企業が岐路に立たされたとき、社員の意見をまとめやすくなります。また、統一されたビジョンは社員に一体感をもたらします。結果、モチベーションを向上させるためのトリガーとなるでしょう。
ビジョンが組織に浸透し力を得るプロセスは、「認知」「理解」「共感」「実践」「協働/影響」という5つのフェーズを辿ると考えることができます。まず重要なのはビジョンの存在を周知した上で理解を促し、その内容に共感してもらうことです。そのあとで初めて、従業員はビジョンを実践します。そして各々がビジョンを実践するようになれば、組織には協働意識が芽生え、より強固に団結していくのです。
しかし、弊社ソフィアの2024年調査では、自社の経営目標や戦略に「共感」している社員は、わずか1割程度にとどまるという衝撃的なデータが出ています。多くの企業で「認知」や「理解」までは進んでいても、自分事として腹落ちする「共感」の壁を越えられていないのが現状です。
この壁を越えるためには、トップダウンの一方的な発信(Tell)ではなく、タウンホールミーティングや車座集会などを通じて、従業員自身がビジョンを自分の言葉で語り合う対話(Dialogue)の場を設けることが不可欠です。
社内コミュニケーションの活性化と「情報の三重苦」の解消
社内コミュニケーションを活性化し、従業員にとって働きやすい環境を作ることも大切です。
企業の規模やオフィスの形態、社員の人数などによって社内コミュニケーションを活性化させるためにできることは異なりますが、導入目的を明確にしたうえで、企業に合った取り組みやツールを選ぶことがポイントです。
とくにチームで関わり合うことが多い企業では、上司や同僚とのコミュニケーションを促し、良好な関係性を作れるよう支えていきましょう。相談や雑談がしやすい環境を作ることで、従業員のちょっとした日頃のもやもやが軽減され、エンゲージメントの向上に結びつきます。そのために、1on1ミーティングを実施したり、ランチミーティングを日常的に取り入れたりすることをおすすめします。
また、コロナ禍の影響で、ここ数年で多くの企業が在宅勤務を開始しました。在宅勤務が続くと、コミュニケーションが希薄になりがちです。そのまま放置すれば、企業の生産性低下や離職率の高まりを招くリスクがあります。ビジネスチャットツールを導入したり、オンラインイベントを実施したりし、テレワークという新たな働き方に対応できるよう、コミュニケーション方法の最適化に努めましょう。
コミュニケーションが深まって働きやすくなれば、自ずと従業員は組織への帰属意識を育んでいくでしょう。
弊社調査で判明した「情報の三重苦」と断絶の実態
しかし、現実の組織内コミュニケーションは危機的な状況にあります。
弊社ソフィアの調査(2024年)では、約8割の組織にコミュニケーション不全を示す「赤信号」が点灯していることが明らかになりました。
特に深刻なのが、以下の「情報の三重苦」です。
- 情報がない(46%):業務に必要な情報が共有されない、降りてこない。
- 情報が遅い(39%):意思決定や共有のスピードが遅く、現場の対応が後手に回る。
- 情報が見つからない(33%):情報はポータルサイト等にあるはずだが、階層が複雑で検索できない。
さらに、チャットツールなどの導入率は76%に達しているにもかかわらず、こうした問題は解決されていません。これは、ツールを入れるだけでは不十分であり、「縦(経営層と現場)」と「横(部門間)」の断絶を埋めるための運用ルールや、情報をオープンにする風土改革が必要であることを示唆しています。
従業員エンゲージメント調査の定期実施とフィードバック
従業員エンゲージメントの実態を定期的に調査し、把握することも大切です。誰が見てもわかりやすいように実情を可視化し、課題を明確にしていきましょう。パルスサーベイ(簡易的な高頻度調査)やセンサスサーベイ(詳細な年次調査)を組み合わせることで、組織の状態変化を定点観測できます。
ただし調査の際は、従業員が本音を書けるようなものにするよう工夫が必要です。いくら組織をよくするための調査であっても、従業員がその調査にメリットを感じなければ、回答する行為そのものに不満が募るだけでしょう。
たとえば、設問数が多くて煩雑なアンケートには、答えたくないと思うのが人情です。そのため、「答える側のメリット」を明確に示しながら調査を進めることが大切です。
また、調査をしても悪い回答にフタをして良い回答だけを報告するというようなことがあると、従業員の不信感は募るばかりです。調査は組織と従業員のコミュニケーションです。従業員の本音に愛を持って耳を傾ける姿勢を示せば、従業員エンゲージメントを高めるフックとなるでしょう。
最も重要なのは、調査結果を「やりっぱなし」にせず、必ずフィードバックを行い、具体的な改善アクション(対話の場の設定、制度の見直しなど)につなげることです。「会社は自分たちの意見を聞いてくれた」という実感こそが、エンゲージメント向上の第一歩と言えます。
職場環境の整備と心理的安全性
職場に愛着が湧くように環境を整えることも重要です。
職場環境は、組織の風土に左右されます。もし組織風土に問題がある場合、求心力が低下し、さまざまな悪い兆候が現れるでしょう。たとえば社員の成長意識が低かったり、雰囲気が暗かったり、さらにはコミュニケーションが希薄で各々が勝手な判断で物事を進めていたりします。このような場合は、まず社員インタビューや意識調査によって状況を把握した後、改革の重要性を経営層から説く必要があるでしょう。そして組織に合った具体的な行動指針を示し、各々の意識変革を促していきます。
ここで重要となるキーワードが「心理的安全性(Psychological Safety)」です。これは、1999年にハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソン教授が提唱した概念です。
「無知だと思われたくない」「邪魔だと思われたくない」といった不安なく、率直に意見を言ったり、失敗を報告したりできる環境は、エンゲージメントの土台となります。心理的安全性が確保されることで、学習行動やイノベーションが促進され、結果としてエンゲージメントが向上するという学術的な相関も示されています。
他にも、休みが取りにくかったり、残業を強いられたりするような環境では、従業員の不満が募りエンゲージメントが低下するというケースがあります。この場合、フレックスタイム制を導入したり、リモートワークなどの柔軟な働き方を許容したりすることで、従業員のワークライフバランスを整えていきましょう。自分で働く環境を選択できると、従業員の気持ちは明るくなります。とはいえ、選択肢を増やしすぎてしまうと不安や混乱につながりかねません。上司や同僚と相談しながら、環境を選べるような状態が理想的です。
様々な制度の運用・見直しと「称賛」の文化
従業員エンゲージメントを高めるために様々な制度を作る企業もありますが、重要なのは運用の仕方です。どのような制度を作ったとしても従業員一人ひとりに当てはまる完璧な制度はないため、1on1ミーティングやラーナーエクスペリエンスを前提として運用していきましょう。ときには制度を見直して改善することも必要です。
どのような制度が必要か、どのように制度を変える必要があるかなどを調査するためには、社内コミュニケーションが重要となります。社内コミュニケーションを活性化し、様々な制度を運用したり見直したりすることで、従業員エンゲージメントは向上するでしょう。
特に、評価制度の透明性や公平性はエンゲージメントに直結します。近年では、「ピアボーナス」や「サンクスカード」のように、従業員同士が日々の感謝や貢献を称賛し合う仕組みを導入することも、ポジティブな風土醸成に効果的です。これにより、目に見えにくい貢献が可視化され、承認欲求や帰属意識が満たされます。
従業員エンゲージメントを高めるポイント
上記のポイントを押さえて環境を整えたり、制度を用意したりしても、従業員エンゲージメントがうまく向上しないという場合もあります。
「管理」から「支援」へ
このような場合は、エンゲージメントを管理しすぎている可能性があります。組織側がエンゲージメントを高めることに躍起になると、従業員は自分が機械のように扱われている感覚に陥り、さらにエンゲージメントが下がってしまうケースがあります。エンゲージメントは、力でコントロールできるものではありません。管理しようとするのではなく、従業員にチャンスを与え、自由にチャレンジできるような環境を用意し「可能性の余白」を与えると、前向きな姿勢を促すことができるでしょう。
これは、自己決定理論における「自律性」の尊重に通じます。上司は部下を管理するのではなく、部下が自律的に動けるように障害を取り除き、支援する「サーバントリーダーシップ」が求められます。
当事者意識の醸成と「三本柱戦略」
ただし、適切な環境づくりができたのに効果がないという場合もあります。そのような場合は、従業員の当事者意識を見直す必要があります。当事者意識がないと何事にも受け身になってしまい、イノベーティブな動きがとれなかったり、生産性が停滞したりするでしょう。また責任感が薄れ、何かあったときに責任逃れをするため、重大なインシデントを起こしてしまう可能性も高くなります。重要な仕事を任されても自分ごととして捉えることができないことから、ミスや情報漏洩を引き起こす可能性もあるでしょう。
当事者意識を高めるには、経営に参画させたり、組織風土をより民主的なものにしたりなどして、「会社と自分は別物」という概念を捨ててもらうことが大事です。
弊社ソフィアの調査では、これらの課題を解決するためのアプローチとして、「対話・教育・ツール」の三本柱戦略を提唱しています。
対話(Dialogue):上意下達の伝達ではなく、ビジョンや課題について「なぜ?」を語り合う場。1on1やタウンホールミーティングなどを通じて、縦と横の断絶を埋めます。
教育(Education):コミュニケーションスキルやリーダーシップ、キャリア自律を促す研修。管理職がメンバーのエンゲージメントを引き出すための「関わり方」を学ぶことも含まれます。
ツール(Tool):チャットや社内報、ポータルサイトなどの適切な選定と運用。単に導入するだけでなく、「情報の見つけやすさ」や「双方向性」を設計し、情報の三重苦を解消します。
一人ひとりの意識を変えていくことに加え、社内でのコミュニケーションを活発化させることで、相乗効果で社内の雰囲気を高めていきましょう。
当事者意識の高い社員同士が、適切な環境の中でコミュニケーションを取れば、組織の雰囲気は相乗効果で良くなり、企業はさらなる成長を遂げるはずです。
従業員エンゲージメントが高い企業の事例
ここでは、独自の施策によって高いエンゲージメントを実現している企業の事例をご紹介します。
ライオン株式会社:働きがい改革とジェネラティビティ
ライオン株式会社は、「ライオン流働きがい改革」を掲げ、従業員エンゲージメントの向上に戦略的に取り組んでいます。
同社は、従業員の健康を基盤とし、「ワークマネジメント」「ワークスタイル」「関係性強化」の3つを軸に改革を推進しています。特にユニークなのが、従業員がお互いの貢献や強みを認め合う「感謝・称賛」の文化づくりや、副業(複業)の解禁など、個人の自律的なキャリア形成を支援する姿勢です。
また、自身の知見を次世代や社会に還元する「ジェネラティビティ(次世代育成能力)」の概念を取り入れ、ボランティア休暇の推奨などを通じて、従業員が社会貢献の実感を持てる機会を提供しています。これにより、「自分の仕事が社会の役に立っている」という誇り(プライド)と組織への愛着が高まっています。
味の素株式会社:ASVとエンゲージメントサイクル
味の素グループは、ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)を経営の中核に据え、従業員エンゲージメントを経営目標の重要指標(KPI)として設定しています。
「ASVアワード」を通じて、ASVを体現した取り組みを表彰することで、ビジョンの浸透を図っています。特徴的なのは、個人の目標と会社の目標をすり合わせる対話を重視し、エンゲージメントサーベイの結果を詳細に分析して、翌年のアクションプランに反映させる「ASVマネジメントサイクル」を回している点です。
サーベイ結果をモニタリングし、課題を抽出して改善策を実行するというPDCAサイクルを徹底することで、高いエンゲージメントスコア(70%超)を維持し、企業価値向上につなげています。
株式会社日立ソリューションズ・クリエイト:対話による風土改革
合併による組織の壁を解消するため、「対話」を中心とした風土改革を推進しました。
「タウンホールミーティング」での経営層と社員の直接対話や、従業員同士が強みを伝え合う「ストレングスカード」の導入など、地道なコミュニケーション施策を展開しています。トップダウンだけでなく、ボトムアップの活動を活性化させることで、従業員の「Happiness(幸福度)」やエンゲージメントスコアが着実に向上し、心理的安全性の高い組織づくりに成功しています。
スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社:ミッションへの共感
スターバックスは「人々の心を豊かで活力あるものにする」というミッションへの共感を徹底しています。マニュアルに頼るのではなく、従業員(パートナー)一人ひとりがミッションに基づいて自律的に判断し、顧客に最高の体験を提供することを推奨しています。この「自律性」と「共感」が高いエンゲージメントの源泉となっています。
まとめ
従業員エンゲージメントを高めれば、生産性が上がり、企業は実績向上・顧客評価向上などのメリットを享受できるでしょう。そのためには、従業員が各々に積極的に組織に関われるように、環境を作っていくことが大切です。今回の記事で挙げたポイントを押さえながら、エンゲージメントが高まりやすい組織環境を構築していきましょう。
特に、弊社ソフィアの調査で明らかになった「情報の三重苦」や「ビジョンへの共感不足」といった課題は、多くの日本企業に共通する構造的な問題です。これを解消するためには、単なる制度導入ではなく、「対話・教育・ツール」を組み合わせた総合的なアプローチが求められます。
当事者意識の高い社員同士が、適切な環境の中でコミュニケーションを取れば、組織の雰囲気は相乗効果で良くなり、企業はさらなる成長を遂げるはずです。ただ、従業員エンゲージメントや社内コミュニケーションは、企業の特性によってアプローチの仕方が異なるものです。自社に合った手法を見つけたいという場合は、ぜひソフィアまでお問い合わせください。





