インターナルコミュニケーション

ワークエンゲージメントが低い原因とは?大企業の課題と独自の対策

目次

「従業員の覇気がない」「優秀な人材から辞めていく」「新しい施策が現場に響かない」。これらは多くの大企業が直面する共通の課題であり、その背景には「ワークエンゲージメントの低下」が潜んでいる可能性があります。

実は、日本は世界的に見ても「熱意あふれる社員」の割合がわずか6%という調査結果もあり、構造的な課題を抱えています。しかし、単に賃金を上げたり労働時間を短縮したりするだけでは、この問題は解決しません。

本記事では、ワークエンゲージメントの基礎知識から、低い企業に見られる特徴と真の原因を解説します。さらに、弊社ソフィアが実施した「インターナルコミュニケーション実態調査2024」の最新データをエビデンスとして交えながら、明日から実践できる組織改善のヒントを網羅的にご紹介します。

ワークエンゲージメントとはどのような状態を指すのか?

「仕事に対してやる気が出ない」「仕事にのめり込めない」「仕事に熱心に取り組めない」と感じている従業員がいれば、それはワークエンゲージメントの低下が要因かもしれません。ワークエンゲージメントとは、従業員の仕事における心理状態を表す概念です。本記事では、ワークエンゲージメントについて、その低下の要因と高める方法をご紹介します。

学術的な定義と歴史的背景

ワークエンゲージメントの概念は、単なる「やる気」や「満足度」とは一線を画す、学術的に裏付けられた心理指標です。

オランダ・ユトレヒト大学のウィルマー・B・シャウフェリ教授は、「ワークエンゲージメントとは、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり、活力や熱意、没頭といった要素に特徴づけられる」と定義しています。さらに、「エンゲージメントとは、特定の対象や出来事、個人や行動に向けられた一時的な状態ではなく、持続的かつ全般的な感情や認知が仕事に向けられる状態である」とも述べており、「活力」「熱意」「没頭」という3つの概念を提唱しました。

この定義において重要なのは、エンゲージメントが「一時的な高揚感」ではなく、「持続的な認知・感情の状態」であるという点です。平たく言うと、ボーナスが出た瞬間だけやる気が出る状態は、ワークエンゲージメントが高いとは言えないのです。

ワークエンゲージメントを構成する3つの要素

シャウフェリ教授が提唱した3つの要素は、従業員の心理状態を診断する上で非常に重要な指標となります。それぞれの要素が欠けた場合にどのような状態に陥るかも、併せて理解しておくとよいでしょう。

活力(Vigor)は、仕事中において高水準のエネルギーや心の回復力を持ち、困難な状況でも粘り強く取り組める状態です。精神的なタフさやレジリエンスが高く、朝起きたときに「さあ、仕事に行こう」と思えるエネルギーがある状態を指します。この要素が欠如すると、疲労感や倦怠感が増し、困難に直面するとすぐに諦めてしまうリスクがあります。

熱意(Dedication)は、仕事に強く関与し、意味を見出すことで熱中し、誇りや挑戦意欲を感じている状態です。自分の仕事が社会や顧客に貢献しているという強い実感がある状態とも言えます。欠如した場合には、シニシズム(冷笑的態度)や仕事への無関心、「どうせ意味がない」という虚無感につながる恐れがあります。

没頭(Absorption)は、仕事にのめり込んでいるときの幸福感、時間が早く経つ感覚、仕事から頭を切り離すのが難しいほど熱心に取り組んでいる状態です。「フロー体験」に近い感覚で、業務遂行自体に喜びを感じている様子に近いでしょう。欠如すると、注意散漫や業務効率の低下、ミスへの無頓着といった状態が生じやすくなります。

ワークエンゲージメントは、仕事に対してこの3つが満たされているポジティブな心理状態です。

一般的にベンチャー企業のようなゼロから1を生み出すことが得意な企業では、日々選択の連続です。そのため自分で目標を決め、どんどん新しいことを生み出しているのでワークエンゲージメントが高い傾向にあります。一方で、設立から長年経過している企業や大企業などはルールや制約が多く、従業員はそれに沿って働く傾向にあるため、ワークエンゲージメントが低いといわれています。

従業員エンゲージメントや満足度との違いは何か?

人事領域では似たような用語が混在しており、これらを明確に区別することが施策の第一歩となるでしょう。

ワークエンゲージメントとは別に「従業員エンゲージメント」という言葉があります。従業員エンゲージメントは、理念やビジョンへどれくらい共感を得ているのか、職場・同僚・仕事に対する感情的なコミットメントがあるかどうかを意味します。これには「愛社精神」や「帰属意識」といった組織に対する愛着の側面が強く含まれます。ワークエンゲージメントが「仕事そのもの(業務内容)」への対峙姿勢であるのに対し、従業員エンゲージメントは「組織(会社)」への対峙姿勢を含む点が異なります。

また、よく混同される「従業員満足度(ES)」との違いも重要です。従業員満足度は、給与・福利厚生・オフィス環境などの「待遇・環境」に対して満足しているかを示す指標です。満足度が高くても、必ずしも仕事への熱意(ワークエンゲージメント)が高いとは限りません。「給料が良くて楽だから辞めない」という、いわゆる「ぶら下がり社員」は、満足度は高いがエンゲージメントは低い状態と言えるでしょう。企業が持続的に成長するためには、満足度だけでなく、ワークエンゲージメントの向上が不可欠です。

ワークエンゲージメントの尺度と測定方法には何があるのか?

ワークエンゲージメントを向上させるには、まず現状を把握するところから始めなくてはなりません。感覚的な「元気がない」という判断ではなく、科学的な尺度を用いて定量化することが重要です。ここでは、従業員のワークエンゲージメントを測定する代表的な方法をご紹介します。

MBI-GS(バーンアウトの逆相関として測定)

MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey)は、バーンアウトを測定するための方法です。バーンアウトとは、長期的なストレスや負荷によって引き起こされる心身の疲労状態のことを言います。MBI-GSは、組織や個人のバーンアウトのリスクを把握するために利用されます。組織が従業員のバーンアウトを把握し、適切な対策を講じることで、生産性や効率が向上することが期待されます。

この測定方法では、疲労感・シニシズム・職務効力感という要素を質問項目に盛り込んでおり、回答結果、疲労とシニシズム の数値が高いほどバーンアウトの状態にあることが示されます。職務効力感が低いと高バーンアウトと逆に言えば、バーンアウトが低ければ、ワークエンゲージメントが高いと判断されます。

MBI-GSは、現在さまざまな職業や業種で利用されています。医療従事者や教育関係者、経営者など、高いストレスや負荷を抱える職業ではとくに重要なツールとされていますが、適切な指導や解釈のもとで活用することが大切です。

OLBI(Oldenburg Burnout Inventory)

OLBIは、「疲弊(Exhaustion)」と「仕事からの離脱(Disengagement)」バーンアウトとワークエンゲージメントいうバーンアウトの2次元を測定するツールです。 これらの二つの側面を評価するための質問項目から成り立っています。疲弊バーンアウトの測定項目には、身体的な疲労・情緒的な疲弊・仕事に対する無力感などが含まれています。一方で、ワークエンゲージメントの測定項目には、仕事に対する意欲やエネルギー、自己成長の意識などが含まれています。OLBIを活用するためには、労務管理と従業員サーベイを一元化することが重要となります。

UWES(Utrecht Work Engagement Scales)

現在、世界で最も標準的に使用されているのがUWESです。日本版Utrecht Work Engagement Scales(以下、日本版UWES)は、日本における仕事のエンゲージメントを測定するために開発された尺度で、国際的な比較も可能なため、世界的に広く活用されています。

日本版UWESは、仕事に対する熱意や没頭度、活力などの要素を評価するための質問項目で構成されています。たとえば、「仕事をしているとつい夢中になってしまう」「職場では気持ちがはつらつとしている」といった質問が含まれています。この尺度を用いることで、仕事に対するエンゲージメントの程度を客観的に評価することができます。

短縮版UWESの活用

日本版UWESには短縮版(9項目版や3項目版)も存在します。短縮版では、より簡潔な質問項目で仕事のエンゲージメントを評価することができます。近年、企業では年に1回の大規模調査だけでなく、月次や週次でコンディションを確認する「パルスサーベイ」が普及しています。回答者の負担を減らしつつ、継続的にモニタリングを行うためには、この短縮版UWESの活用が非常に有効です。

日本は世界と比べてエンゲージメントが低いのか?

「熱意あふれる社員」はわずか6%という衝撃

ワークエンゲージメントが低い企業の特徴を知る前に、まず日本全体の現状を把握しておく必要があります。

人事系コンサルティングファームを中心にした研修やアメリカの世論調査を行っている米ギャラップ社の調査によると、日本は仕事に対して熱意がある従業員の割合がわずか6%で、139カ国中132位という結果が出ています。世界平均が23%であることを踏まえると、日本企業のエンゲージメントは極めて低い水準にあると言わざるを得ません。これは個々の企業の努力不足というよりも、日本社会全体が抱える構造的な課題を示唆していると思われます。

背景にある日本特有の要因

また、経済産業省の調査結果からも、日本はワークエンゲージメントが低いことが明らかになっています。この背景には、以下のような日本特有の要因が複雑に絡み合っています。

まず、謙遜の文化と回答バイアスの問題があります。日本人は自己評価を低く見積もる傾向があり、アンケートにおいて「非常にそう思う」といった極端な肯定的回答を避ける傾向があります。次に、長時間労働と疲弊の問題です。「休むこと=悪」「長く働くこと=美徳」とする価値観がいまだに根強く、慢性的な疲労(バーンアウト予備軍)が活力の低下を招いています。さらに、裁量権の欠如も挙げられます。メンバーシップ型雇用において、個人の職務範囲(ジョブディスクリプション)が曖昧なまま、上意下達で業務が割り振られることが多く、自律性を発揮しにくい環境があります。

ワークエンゲージメントが低い企業の特徴と原因を解説

ワークエンゲージメントが低い企業には、何らかの特徴や原因があります。ここでは、その特徴と原因を詳しく解説します。特に大企業においては、組織の構造的な問題がエンゲージメントを阻害する、いわゆる「大企業病」とも言える症状が見られることがあります。

従業員のモチベーションが低い(やりがいの喪失)

ワークエンゲージメントが低い企業の原因のひとつは、従業員のモチベーションが低い、もしくはモチベーションの維持ができないことが挙げられます。仕事に対してやりがいを見出せず、ネガティブな発言やマイナス思考、無気力といった状態で仕事をしていることが、パフォーマンスの低下につながっています。

また、企業理念や目的を理解していない、ビジョンが浸透していないことが、企業の業績や評価にも大きく影響します。仕事をやっていることに意味を感じておらず、やりがいや向上心もないため、周りへ悪影響を及ぼす可能性も高いでしょう。

経営戦略への共感不足(ソフィア独自調査より)

モチベーション低下の根本原因として、「会社の方向性への共感不足」が挙げられます。

弊社ソフィアの調査では、自社の経営目標や戦略に「共感している」と回答した社員は約1割(10%)にとどまるという衝撃的な結果が出ています。

多くの企業が中期経営計画やパーパスを掲げていますが、それが現場の社員にとっては「自分ゴト」になっておらず、単なる「お題目」として受け止められている現状があります。戦略への納得感がなければ、日々の業務への「熱意」や「没頭」が生まれるはずもないでしょう。

社員間のコミュニケーションができない(組織の断絶)

同僚や上司などの社員間で円滑なコミュニケーションが取れないことは、働きにくい環境を生み出します。世間話や何気ない会話など、仕事の話以外のコミュニケーションが取れない環境では、風通しが悪く職場の雰囲気もよくありません。

このような状態では疑問に思ったことやミスをした際にすぐに聞くことができず、トラブル対応が遅れてしまう原因になります。「分からないことを聞かない」「分からないからできない」「できないから意欲がわかない」といった日頃のコミュニケーション不足から、徐々に会話のハードルが上がってしまいます。ワークエンゲージメントが低くなるループを繰り返し、出口が見つからないといったケースも見受けられます。

組織の縦横で生じる「軋み」

コミュニケーション不全は漠然としたものではなく、特定の箇所で発生しています。

弊社ソフィアの調査では、コミュニケーションの課題を感じる対象として、「部門間(横の連携)」が58%と最も多く、次いで「上司と部下(縦の連携)」で51%が問題を感じているという結果が出ています。

部門間の壁(サイロ化)が高く、隣の部署が何をしているか分からない状態や、上司と部下の間で心理的安全性が確保されていない状態が、エンゲージメント低下の温床となっています。

組織の複雑化による意思決定の遅れ(セクショナリズム)

人材が増え組織が大きくなると、組織は複雑化していきます。横の関係性が薄くなり、縦割り化しやすくなるため、ほかのチームが何をしているのか分からない状況に陥ることがあります。部署間の関わりが減ることにより、連携が取りにくくなるでしょう。

さらに組織が複雑化すると、必要な手続きやルールが増えます。意思決定に遅れが発生し、PDCAのサイクルも遅くなります。情報やスピードが大事な企業にとっては、存分に力を発揮できないでしょう。特に大企業では、組織の肥大化に伴って「セクショナリズム(縦割り行政)」が蔓延し、「言われたことだけやる」「他部署には干渉しない」という風土が生まれやすくなります。これが顧客志向を阻害し、仕事の意味を見失わせる原因となります。

過剰な法令順守(オーバーコンプライアンス)と減点主義

大企業特有の深刻な原因として見逃せないのが、「過剰な法令順守(オーバーコンプライアンス)」です。コンプライアンス遵守は当然重要ですが、それが目的化し、何か新しいことを始めようとするたびに膨大な書類作成やスタンプラリーのような承認フローが必要になるケースが増えています。

オーバーコンプライアンスは、リスク回避のためにルールが極端に厳格化・複雑化している状態であり、「新しい提案=面倒な手続きの増加」となって挑戦意欲が削がれます。また、減点主義の蔓延も深刻です。挑戦して失敗した人よりも、何もしなくてミスをしなかった人が評価される環境では、失敗を恐れて萎縮し、指示待ちの姿勢が広がってしまいます(活力の低下)。

管理職や従業員が「ルールを守ること」だけにエネルギーを費やし、「挑戦すること自体がリスク」と捉えられる環境では、仕事への熱意や活力は削がれていくでしょう。

雇用制度の影響(メンバーシップ型雇用)

日本では、年功序列や終身雇用、新卒一括採用が前提とされる「メンバーシップ型雇用」が多く取り入れられる傾向にあります。このメンバーシップ型雇用では、「組織からはみ出さないようにする」という考え方が強くなりやすく、業務ではなく組織への帰属意識を優先してしまう傾向にあります。その結果、クライアントや顧客のことよりも組織の中の自分の立場を無意識のうちに考えながら業務を行うようになり、さまざまな弊害が生じやすくなります。

もちろん、「メンバーシップ型雇用」にもメリットはありますが、上記のような状況では仕事に対するモチベーションの維持が難しくなります。その結果、ワークエンゲージメントも低下してしまいます。また、専門性の高いスキルを持つ人材(スペシャリスト)よりも、社内調整に長けたジェネラリストが評価されやすい傾向があり、プロフェッショナルとしての誇りを持ちにくい環境もエンゲージメントを下げています。専門職が「管理職にならないと給料が上がらない」というキャリアパスの限界を感じることも、熱意を失う要因のひとつです。

勤務時間と賃金の関係(時間対応型賃金)

多くの企業では、仕事の早い遅いに関係なく、業務時間に対して賃金が発生する制度を採用しています。たとえば、業務時間内に誰よりも多く仕事をこなしたとしても、報酬に何ら影響がないといったような場合には、中には生産性を下げた働き方をする従業員もいるかもしれません。また、「社内外のルールが多いためとるべき選択肢がない」などの非民主的な社内文化や大企業病の文化が原因で、ワークエンゲージメントが低くなっていきます。

「残業代を稼ぐためにダラダラ働く」という文化が残っている職場では、効率的に仕事を終わらせて早く帰ろうとする意欲的な社員のモチベーションを著しく低下させます。「頑張って早く終わらせても、給料が減って仕事が増えるだけ」という構造的な矛盾が、活力と熱意を奪っているのです。

人事評価への不満と不公平感

「頑張っても評価されない」という不公平感は、エンゲージメントを直接的に低下させます。特に近年では、若手社員には厳しい成果主義を求める一方で、管理職層は年功序列で守られているといった「評価のねじれ」が生じている企業も見られます。

「成果を出している若手」が、「成果を出していないが高給を得ている働かないおじさん(妖精さん)」を目の当たりにすれば、組織への信頼は失墜し、仕事への情熱は急速に冷めていきます。公正で透明性のある評価制度の欠如は、エンゲージメント低下の決定的な要因となるでしょう。

ワークエンゲージメントを高めるために効果的な方法を紹介

ワークエンゲージメントを高めるためにはさまざまな方法があります。「厚生労働省 令和元年版 労働経済の分析」によると、人件費がかかる企業でも仕事のあり方や環境を工夫し、見直すことでワークエンゲージメントを改善させることができると示唆されています。

「年収が増加しただけ」や「労働時間が短くなった」というだけではワークエンゲージメントのスコアは大きく変化しませんが、「役職が高くなった」「人間関係がよくなった」場合にはスコアの向上が見られました。この結果から、仕事のやりがいにつながる「役職の変化」や、業務の進め方を左右する「人間関係の変化」のような仕事の在り方は、ワークエンゲージメントに大きな影響を与えると言えます。ここでは、ワークエンゲージメントを高めるために効果的な方法をご紹介します。

JD-Rモデル(仕事の要求度-資源モデル)に基づく改善アプローチ

ワークエンゲージメント向上を考える際、最も科学的で効果的なフレームワークとして「JD-Rモデル(Job Demands-Resources model)」があります。このモデルを理解することで、なぜ「残業を減らすだけではエンゲージメントが上がらないのか」が明確になるでしょう。

JD-Rモデルは、職場の要因を「仕事の要求度(Demands)」と「仕事の資源(Resources)」の2つに分類し、それらが心理状態にどう影響するかを説明するものです。

仕事の要求度(Demands)とは、仕事の量・スピード・精神的負担・対人関係のストレスなどを指します。これらが過剰になると「バーンアウト(燃え尽き)」を引き起こします。一方で、仕事の資源(Resources)とは、裁量権・上司のサポート・フィードバック・成長機会などを指します。これらが充実すると「ワークエンゲージメント」が高まります。

重要なのは、「要求度を減らす(楽にする)」だけでは、バーンアウトは防げても、エンゲージメントは高まらないという点です。エンゲージメントを高めるには、積極的に「資源を増やす」アプローチが必要です。

仕事の資源を増やす具体策

仕事の資源とは、モチベーションを高めたり、仕事などの負担やそれによる悪影響を緩和したりする要素のことで、具体的には上司・同僚のサポートやコーチング、仕事に対する裁量権・パフォーマンスのフィードバック、トレーニングの機会などが該当します。ワークエンゲージメントは仕事の資源が充実するほど向上しやすくなります。

具体的には、裁量権の拡大として業務の進め方や判断を現場に委ねることで「自分で決めた」という自律性を高めること、ソーシャルサポートの強化として困ったときに相談できる上司や同僚の存在を可視化して心理的安全性を高めること、フィードバックの質向上として単なるダメ出しではなく成長につながるポジティブなフィードバックや感謝を伝え合う文化を醸成することが有効です。

個人の資源を高める

個人の資源は、心理的ストレスの軽減やモチベーションをアップさせるための自身の内的要因が当てはまります。具体的には自己効力感、組織内部での自尊心、仕事や職場に対する楽観性といったものが含まれます。

個人の資源と仕事の資源は相互に影響し合い、ワークエンゲージメントの状態を生み出します。従業員の「レジリエンス(逆境からの回復力)」や「自己効力感(やればできるという自信)」を高めるための研修や、キャリア自律を支援するプログラムの提供が有効です。

会社のことを「自分ゴト」とする(ジョブ・クラフティング)

ワークエンゲージメントを高めるには、ひとつひとつの行動に意味付けができるように、会社のことを「自分ゴト」とすることが大切です。どこか他人ゴトに「責任は会社が取ってくれる」などという考えを改め、イノベーションができる行動を取りましょう。

これを促進する具体的な手法として「ジョブ・クラフティング」が注目されています。これは、従業員自身が主体的に仕事の「認知」「内容」「人間関係」を再設計する手法です。

認知のクラフティングとは、たとえば「レンガを積む仕事」を「大聖堂を作る仕事」と捉え直すように、自分の仕事の意義を再定義することです。タスクのクラフティングは、自分の強みを活かせるように業務の進め方や範囲を微調整することを指します。関係性のクラフティングは、業務で関わる人との関係性を質的に変化させ、感謝や貢献を実感できるようにすることです。

企業側は、こうした自律的な働き方を許容し、ジョブ・クラフティングを推奨するワークショップなどを開催して支援する環境を整える必要があります。

社内コミュニケーション・コラボレーションができるようにする

コミュニケーションを取ることで、上司や同僚と連携がしやすくなります。気軽に分からないところを共有でき、業務の進捗を把握しやすくなり、業務効率の向上が期待できます。また、部署を越えてコミュニケーションやコラボレーションができるようになると、発想力も豊かになり、一人ひとりのパフォーマンスが上がります。

社内でコミュニケーションを取りやすくするには、1on1ミーティングを実施する、オープンスペースを利用する、社内SNSを活用するといった取り組みで社内コミュニケーションの機会を増やし、継続することが大切です。

要注意!形骸化した1on1は逆効果になる

コミュニケーション施策として多くの企業が「1on1」を導入していますが、運用には細心の注意が必要です。

弊社ソフィアの調査では、社内コミュニケーション促進の取り組みとして「1on1」が上位に挙がる一方で、同時に「促進に効果的でない取り組み」としても「1on1」が上位にランクインするという矛盾した結果が出ています。

これは、多くの企業で1on1が「手段の目的化」に陥っていることを示唆しています。たとえば、上司が一方的に業務進捗を確認するだけの「詰め」の場になっているケース、目的が曖昧なまま実施され双方が「時間の無駄」と感じているケース、上司に傾聴のスキルがなく部下が本音を話せないケースなどが挙げられます。

このような「質の低い1on1」は、部下にとって業務時間を奪う負担となり、かえってエンゲージメントを低下させます。回数をこなすことよりも、対話の「質」を高めるための管理職トレーニングや、目的の再定義が必要です。

業務のフィードバック=対話

小さな成功を積み重ねるために目標を設定し、それに対するフィードバックを行い、個人の課題や目標を明確にすることが大切です。また、成果があった部分にはしっかりと評価を伝えることで、やりがいを感じることができます。ポジティブなフィードバックを行うことは、従業員のモチベーションを保つことにつながります。

上司一人が評価するのではなく、同僚や部下、他部署のメンバーからも多角的にフィードバックを受ける「360度評価」や「ピアボーナス(従業員同士で成果給を送り合う仕組み)」の導入も、公平感を高め、承認欲求を満たす上で有効です。

インターナルコミュニケーションによる戦略の浸透

モチベーション低下の根本原因である「戦略への共感不足」を解消するためには、インターナルコミュニケーション(社内広報)の強化が不可欠です。

先述の通り、弊社ソフィアの調査において、戦略への共感がわずか1割という現状を変えるには、単なる情報伝達(Information)ではなく、対話を通じた腹落ち(Communication)が必要です。

経営層が自身の言葉でビジョンやパーパスを語り、それが現場社員の業務とどう繋がっているのかを「翻訳」して伝えることが重要です。具体的には、社内報で経営者の人柄や想いをストーリーとして伝えること、タウンホールミーティングを開催し経営層と社員が直接対話する場を設けること、ミドルマネージャーが翻訳者となりチーム単位でビジョンを噛み砕くワークショップを行うことなどが考えられます。

一方通行の発信(Top-down)だけでなく、現場からのフィードバック(Bottom-up)を促す双方向のコミュニケーション設計が、共感と納得感を生み出します。

ワーカホリック(仕事中毒)にならないバランス感覚が重要

ワークエンゲージメントを高める施策を行う際、注意すべき点があります。それは「ワーカホリック」との区別です。ワーカホリックは「休みの日にも仕事のことを考えている」「真面目で責任感が強く完璧主義」「プライベートに興味がない」などの状態であると言われていますが、自分でそれに気づくことは難しいかもしれません。逆に、職場は単に収入を得るだけの場であり、ライフを充実させることが重要だという価値観を持っている人もいます。

これは二元論的なものではなく、人それぞれ塩梅は異なっているものです。ただ、スティーブ・ジョブズも言っているように、「work(仕事)」が人生の大半を占めるということにあるように、広い意味で職場もまたこそ人生で長い時間を過ごす場所です。そこで「自己成長し、切磋琢磨できることは、何よりの喜びである」というような価値観を持っている人は、ワーカホリックになる傾向があるため、自戒として心に留めておく必要があるでしょう。自分を高め、自己成長し、喜びを感じていても燃え尽きてしまう可能性があるため、バランス感覚が重要なのです。

エンゲージメントが高い状態とワーカホリックの違いは、「活動水準」はどちらも高いものの、「態度(仕事への感情)」がポジティブかネガティブかという点にあります。

ワークエンゲージメントは、仕事が楽しくて没頭している(肯定的)状態であり、疲れても心地よい疲労感があります。一方で、ワーカホリックは、仕事をしないと不安で強迫観念に駆られて働いている(否定的)状態であり、慢性的な疲労とストレスを伴います。

企業は、社員が高エンゲージメント状態にあるのか、それともワーカホリックに陥りかけているのかを見極め、適切な休息やリカバリーを促す必要があります。

ワークエンゲージメント向上による効果

ワークエンゲージメントが向上すると、多くの面でプラスの効果が期待できます。企業にとってプラスになれば、従業員だけでなく顧客にもプラスの効果が得られます。サービスや商品などの品質が向上することで売上が上がり、企業の業績アップ・イメージアップにつながるでしょう。自分が企業を担っているという「当事者意識」と、自分がやったことの成果が企業の成長につながっているという認識が、ワークエンゲージメントを向上させるために大切です。

心理的ストレスの軽減による離職率低下

ワークエンゲージメントを高めることで、仕事内容や職場の対人関係などによって発生する心理ストレスを抑え、離職率の低下が期待できます。

心理的ストレスは、仕事のプレッシャーや人間関係の問題などさまざまな要因から引き起こされます。従業員がストレスを感じると、モチベーションの低下や健康問題の発生など、さまざまな悪影響が生じます。しかし、心理的安全性が高まると、従業員は自分の意見や感情をオープンに表現することができ、ストレスを解消する機会が増えます。

心理的安全性が高まると、従業員はチームメンバーや上司とのコミュニケーションが円滑になります。意見や質問を自由に発言できる環境が整うため、問題解決が迅速に行われ、ミスやトラブルの発生を防ぐことができます。これにより業務の効率性が向上し、組織の目標達成にもつながります。また、従業員は自身の個性や能力を発揮することができ、生産性やクリエイティビティの向上も期待できます。個々の能力を最大限に発揮できることは、従業員の満足度ややりがいを高め、離職率の低下につながると言えるでしょう。

人材育成・採用のコスト低減

離職率の低下に伴い、新たな人材の採用とその育成に割くリソースやコストを抑えることができるのも大きなメリットのひとつです。長期的な育成施策の実現も可能となります。優秀な人材が定着することで、組織のナレッジが蓄積され、中長期的な競争優位性につながります。

従業員のパフォーマンスアップ

ワークエンゲージメントが向上すると、最新技術を学びたい、経営技術を磨きたい、語学力を伸ばしたいといった動機から自己啓発学習の機会も増えます。学習により能力を伸ばした従業員は、質の高い業務を積極的に行うだけでなく、役割行動やそれ以外の業務にも前向きに取り組むことが分かっています。従業員が自発的に役割外の業務(組織市民行動)を行い、互いに助け合う風土が生まれることで、組織全体の生産性が底上げされます。

まとめ

ワークエンゲージメントが低い企業は、従業員の仕事に対する向き合い方だけでなく、組織のあり方や待遇、風土なども深く関係しています。

特に大企業においては、以下の3点が改革の鍵となります。まず、「仕事の資源」を戦略的に増やすことです。上司のサポート強化や裁量権の付与を行い、やらされ感を払拭することが求められます。次に、「質の高い」コミュニケーションへの転換です。形骸化した1on1を見直し、心理的安全性を確保した対話の場を作ることが重要です。そして、インターナルコミュニケーションによる戦略共感です。経営ビジョンを現場レベルまで翻訳して伝え、仕事の意義を再定義することが不可欠です。

企業が業務のフィードバックの質を高める、人事評価の見直しを行う、ミーティングを強化することは、従業員のワークエンゲージメントを向上させるために必要です。ワークエンゲージメントが低いと感じている企業、特に社内コミュニケーションの課題や戦略浸透にお悩みの企業は、お気軽にソフィアにご相談ください。弊社独自の調査データと豊富なコンサルティング実績に基づき、組織の現状に合わせた最適なアプローチで、ワークエンゲージメントを高めるサポートをさせていただきます。

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よくある質問
  • ワークエンゲージメントを高めるにはどれくらいの期間が必要ですか?
  • 組織の規模や現状にもよりますが、ワークエンゲージメントの向上は企業文化や風土の変革を伴うため、短期的な施策ですぐに結果が出るものではありません。一般的には、施策の導入から効果が定着しスコアに反映されるまで、数ヶ月から1年以上の継続的な取り組みが必要です。単発のイベントで終わらせず、PDCAを回しながら粘り強く取り組むことが大切です。

  • 給料を上げればワークエンゲージメントは上がりますか?
  • 給与アップは「従業員満足度(ES)」を高める要因にはなりますが、それだけで持続的な「ワークエンゲージメント(熱意や没頭)」が向上するとは限りません。ハーズバーグの二要因理論でも示されているように、給与は「不満足要因(衛生要因)」であり、満たされても不満が消えるだけで、積極的な動機づけにはなりにくいとされています。記事内でも解説した通り、仕事の資源(裁量権やサポート)・やりがい・人間関係の質といった「動機づけ要因」を充実させることが重要です。

  • 1on1を実施していますが、効果が感じられません。どうすれば良いですか?
  • 社ソフィアの調査でも、1on1が効果的でないと感じているケースは多く見られます。原因の多くは「目的の曖昧さ」や「上司のスキル不足(一方的な指導・詰め)」にあります。まずは1on1の目的(業務管理ではなく、部下の成長支援や対話)を再定義し、管理職向けのトレーニング(傾聴やコーチング)を実施することをお勧めします。また、上司と部下の相性問題もあるため、メンター制度など斜めの関係性を活用することも有効です。

株式会社ソフィア

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人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。