人材育成

行動変容とは何か 人事が企業研修で定着を促す実践法

「馬を水辺に連れて行けても水を飲ますことはできない」。

人材育成でも同じで、研修を実施しただけでは、従業員の行動は変わりません。行動変容を起こすには、本人の納得感、行動しやすい職場環境、そして継続を支える仕組みが必要です。この記事では、行動変容の基本理論から、企業研修で定着まで導く実践ポイントまでを、大企業の人事・研修企画担当者向けに整理します。

行動変容とは何か

行動変容とは、人間の考え方や受け止め方が変化することで、行動や習慣が変わり、その変化が定着していく一連の流れを指します。競合上位の代表記事でも、行動変容は「意識が変わり、行動に表れ、定着するまでのプロセス」と整理されています。医療・健康領域を起点に広がった概念ですが、近年は人材育成、組織開発、マネジメントの分野でも広く使われています。

企業において重要なのは、知識の理解そのものではなく、望ましい行動が現場で再現されるかです。たとえば、1on1の傾聴スキルを研修で学んでも、上司が忙しさから一方的に指示する会話に戻れば、行動変容は起きていません。行動変容施策について、計画・教育訓練・評価を一体で行い、行動を阻害する社会的・環境的障壁まで見直す必要があると示しています。つまり企業研修でも、学習内容だけでなく、職場環境と運用ルールまで含めて設計する必要があります。

行動変容の定義

行動変容は、もともと医療の現場で使われていた考え方で、「生活習慣の改善を本人に促すにはどうするか」という文脈で発展してきました。その後、ビジネスの世界でも、営業行動の改善、マネジメントの質向上、学習行動の定着、部門間連携の改善などに応用されるようになっています。

レヴィンの行動の法則

20世紀(19世紀末〜20世紀前半)ドイツ出身の心理学者クルト・レヴィンよると、
人間の行動(B:Behavior)は人的特性( P:Person) と環境(E:Environment)の影響を強く受けるとされています。
いわゆるレヴィンの(Lewin)行動の法則を公式に表すと次の通りです。

B=f(P, E)

例えば、大相撲の大ファンという「人的特性」を持った人は、自宅という「環境」にいるときは、大相撲のTV中継を欠かさず見る、という「行動」をとっているかもしれません。しかし、同じ人が職場という「環境」にいれば、たとえ大相撲のTVのある時間であってTVを見るという「行動」はとらないでしょう。

これと同じように、いくら社内研修やEラーニングでロジカルシンキングを学習した社員(人的特性)がいたとしても、職場のコミュニケーションや業務の進め方(環境)が非論理的で、ロジカルに考えることを良しとされないのであれば、ロジカルシンキングを活用しようという「行動」にはつながりません。

行動の先には成果が控えています。ビジネスにおいてより良い成果を出すためには、社員の人的特性と・職場環境をうまく管理しつつ、行動変容を促さなければいけません。しかし、そもそもの環境が整っていなければ、望ましい行動も生まれないのです。

企業の人材育成で行動変容が重要な理由

大企業の人事・研修企画担当者にとって、行動変容が重要なのは、研修投資の価値が最終的に現場での行動変化によってしか測れないからです。職場のリーダーによる自律支援は、自律的な仕事動機、ウェルビーイング、前向きな職務行動と強く関連しており、逆に統制的な関わりは、行動の質や継続性を損ないやすいことが示されています。

弊社ソフィアの調査では、エンゲージメントサーベイの活用目的として「管理職の意識変容・行動変容」を挙げた回答が37.3%ありました。また、1on1は62.6%の企業で実施されている一方、役に立っているとする回答は41.2%にとどまっています。仕組みを導入するだけでは不十分で、管理職の関わり方や運用の質そのものを変える必要があることがわかります。

さらに、弊社ソフィアの調査では、良い職場環境の要素として「人間関係」が53.8%で最も高く、インフォーマルなコミュニケーションが職場に良い影響をもたらしているという回答も55.8%ありました。人の行動は、制度や研修だけでなく、日常の会話や安心感のある関係性に強く左右されます。だからこそ、行動変容は人材育成施策であると同時に、インターナルコミュニケーション施策でもあります。

行動変容のメカニズム

行動変容ステージモデル

行動変容を実務で理解するうえでわかりやすいのが、無関心期、関心期、準備期、実行期、維持期の5段階です。競合上位の代表記事でも、この5段階に応じて打ち手を変えることが重要だと整理されています。「業務改善」を例にとると、関心喚起、参加促進、表彰、自信形成といった流れがそれぞれの段階に対応します。

ここで人事が押さえるべきなのは、同じ研修を全員に一律で当てても、同じ効果は出ないという点です。行動変容支援において、短中長期の結果を理解させること、行動の利益を前向きに捉えられるようにすること、段階的なステップで計画すること、行動を崩す状況を想定して「if-then計画」を立てること、明確な文脈で目標を記録すること、そして目標を他者と共有することを推奨しています。これは、各段階に応じた支援を企業研修に翻訳するうえで非常に有効です。

各ステージへの対応と企業研修への当てはめ

無関心期では、本人が「変わる必要がある」と感じていません。ここで必要なのはスキル教育ではなく、危機感と意義の共有です。経営課題や顧客課題、現場の再発ミス、離職傾向などを明確にし、「なぜ今この行動が必要か」を腹落ちさせることが先です。

関心期では、「必要性はわかるが、まだ動けない」状態です。この段階では成功事例の共有やロールモデルの提示が効きます。競合代表記事が示すように、将来像を具体的にイメージさせることが重要で、大企業では同じ役職・同じ部門の実践事例を見せると、自分事化が進みやすくなります。

準備期では、行動のハードルを下げる設計が必要です。「段階的ステップ」や「if-then計画」を応用し、「来週の会議では必ず1回は質問する」「1on1では最初の5分は評価の話をしない」など、具体的で観察可能な行動に落とし込みます。ここで曖昧な目標にすると、実行率は大きく落ちます。

実行期と維持期では、上司・同僚・制度の支えが必要です。職場のリーダーが、選択肢を与える、主体的な提案を歓迎する、情報提供型のフィードバックをする、外的な圧力だけで動かそうとしない、といった関わり方を取ることで、従業員はより自律的に行動しやすくなります。メタ分析でも、こうしたリーダーの自律支援は、動機づけ、ウェルビーイング、仕事上のポジティブ行動と一貫して関連していました。

ビジネスにおける行動変容に有効なナッジ理論

ナッジ理論の活用

なにごとも、無理強いされたことは長続きしません。行動変容を促すポイントは、強制ではなくいかに自然なアプローチをとるかにあります。

2017年に行動経済学でノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のリチャード・セイラー氏は、行動変容に有効なナッジ理論を提唱しています。

ナッジ(Nudge)は直訳すると、肘でつつく、背中を押すという意味です。人間は多かれ少なかれ現状を変えることに抵抗を感じます。だからこそ、周囲からのささやかな働きかけが効果的なのです。

セイラー氏の著書では、学生食堂で学生に対し栄養価の高い食べ物を摂取するよう促すナッジ手法を紹介しています。具体的には、食品の配置(ニンジンスティックやフライドポテトなど)を変えるだけで、多くの食品の消費量が最大25%増減したという事例です。

ナッジ理論を利用した事例

たとえば管理職向け1on1研修であれば、研修直後に「次回1on1で使う最初の質問3つ」を配布し、面談前日に自動リマインドを送り、実施後に簡単な振り返りを入力してもらう流れを設計できます。従業員エンゲージメント施策であれば、サーベイ結果を配るだけで終わらせず、「今月ひとつだけ変える行動」をマネジャーに宣言させ、チーム内で共有する設計が有効です。

弊社ソフィアの調査では、情報やナレッジ共有の課題として「情報が散在している」が27.6%で最も多く挙がりました。つまり、良い行動を支えるはずの情報そのものが見つけにくい状態では、行動変容の定着率も落ちやすいのです。ナッジは心理だけでなく、情報導線の設計にも及ぶと考えるべきです。

行動変容を促す実践ポイント

部下の主体性を引き出す関わり方

行動変容を促す実践ポイントは、一方的に命令するのではなく、本人の主体性を尊重すべき だと述べています。この視点はそのまま活かすべきです。実際、職場の自律支援は、選択肢を示す、本人の視点を理解する、自発性を促す、外的な報酬や制裁で押し切りすぎないといった行動として具体化できます。こうした関わりは、自律的な動機づけや前向きな行動につながります。

人事としては、管理職研修の中で「正しい答えを教える上司」ではなく、「相手が自分で考え、選び、試せるように支援する上司」への転換を促すべきです。研修設計の観点では、ケーススタディの正解発表を増やすより、問い返し、傾聴、選択肢提示、合意形成の練習量を増やす方が、行動変容に結びつきやすくなります。

継続しやすい環境づくり

行動変容は、始めることより続けることの方が難しいものです。行動変容支援において、行動の結果を理解し、段階的なステップを設け、目標を記録し、他者と共有し、必要に応じて「if-then」の対処計画を持つことを推奨しています。研修の直後だけ盛り上がり、現場に戻ると元に戻るのは、これらの仕組みがないからです。

そこで必要なのが、研修前後を含めた設計です。研修前は現場課題の言語化、研修中は行動宣言、研修後は上司との振り返り、1か月後は実践共有、3か月後は成果・課題の再整理といった流れ を設けます。基本的欲求支援のトレーニングは、学びを職場行動へ転移させてはじめて、部下側の動機づけ・ウェルビーイング・パフォーマンス改善につながると整理されています。

職場の人間関係の整備

競合代表記事が指摘する通り、良好な人間関係は行動変容を支える基盤です。安心して相談できる同僚や上司がいることは、新しい行動を試す際の心理的負担を下げます。Self-Determination Theoryでも、関係性は基本的欲求の一つとして位置づけられ、つながりや相互の配慮が欠けると、行動の継続性が下がりやすいと整理されています。

弊社ソフィアの調査では、他部門とのコミュニケーション強化の必要性を感じる回答が74.8%にのぼり、インフォーマルコミュニケーションが良い影響をもたらしているという回答も55.8%でした。さらに、ナレッジ共有の課題としては「他部署の情報にアクセスしにくい」が22.5%挙がっています。大企業ほど部署間の分断が行動変容の壁になります。したがって、社内SNS、実践共有会、越境ワークショップ、他部署事例の見える化は、単なる交流施策ではなく、行動変容を支えるインフラです。

研修前後のデザイン

「研修の前後をデザインする」という視点は、実務上おおきな価値があります。むしろ強化すべきポイントであり施策の計画段階で社会的・環境的文脈を考慮し、教育訓練と評価を一体で設計することを求めています。研修単体ではなく、現場に戻ってからの支援導線まで含めて設計することが、行動変容の再現率を大きく左右します。

具体的には、研修前に本人課題と上司期待をすり合わせ、研修当日に「何を・いつ・どこで・どうやるか」を宣言させ、研修後は1on1で行動結果を振り返る流れが有効 です。「目標と計画」「フィードバックとモニタリング」「ソーシャルサポート」は、そのままこの設計思想に置き換えられます。

小さなゴールを積み重ねる

従業員に行動変容を促すには、気軽に達成できる小さい成功体験のサイクルを回していくのが有効です。たとえば、パワハラ防止対策の一環として、「怒りたくなったら3秒間かぞえる」といった行動変容なら簡単に実践できます。

また、行動変容に効果的な学習方法として、マイクロラーニングがあります。

マイクロラーニングはナッジ理論に基づく学習メソッドの一種で、5分前後単位の学習ブロックで構成し、情報を詰めすぎずに学習を行えるように設計された学習スタイル です。一般的にクイズ形式や動画視聴など、多様なメニューを組み合わせて提供されます。短時間で取り組めるため、時間を割いて研修に参加しなくても、業務時間の合間を利用しての受講が可能で、一つひとつの教材をこなすことが、受講者の小さな達成感につながります。

エンターテイメント性を持たせる

研修にエンターテイメント性を持たせることで、「退屈でつまらない」という研修への先入観を払拭できます。

某メーカーでは、CM出演しているアスリートや若手タレントが社内研修にサプライズで登場する場合があるそうです。こうしたイベントは社員の帰属意識を高めるのに役立ちます。

一方で、新入社員研修の一環として自衛隊入隊体験を実施する企業もあります。厳しい入隊経験が同期の仲間で共有され、一体感醸成につながるのです。

なお、体験研修は「苦しい」だけではなく、楽しみも用意されています。テレビでしか見たことのないような軍用機への搭乗は生涯忘れない貴重な体験になるはずです。普段は決してできないような体験、苦しさを乗り越えた先の楽しさなど、受講者が夢中になって取り組めるような体験を提供することがポイント です。

行動変容の定着を測る指標

上位化を狙う記事として、定着指標の整理は重要なセクションです。大企業人事の検索意図には「で、どう測ればいいのか」が確実に含まれます。行動変容施策には効果、受容性、実行可能性、公平性、安全性の評価を組み込むべきだと示しています。

企業研修で見るべき指標は、少なくとも次の三層です。

第一に行動指標です。たとえば1on1の実施率、会議での発言回数、フィードバックの実施頻度、ナレッジ共有投稿数など、実際に変えてほしい行動が起きたかを見ます。

第二に周辺環境指標です。上司支援の知覚、心理的安全性、他部署連携のしやすさ、必要情報へのアクセス性など、行動を支える環境が整っているかを確認します。

第三に成果指標です。離職率、エンゲージメント、CS、品質指標、改善提案数など、行動変容の先にある事業成果とのつながりを確認します。

弊社ソフィアの調査では、1on1を実施していても、有用性を感じる人は41.2%にとどまりました。これは、実施有無だけをKPIにしても不十分だという示唆です。実施率の次に、質の評価、実感価値、行動の継続率まで見ることが重要です。KPI設計では、「やったか」に加えて「変わったか」「続いたか」を追う発想に切り替える必要があります。

まとめ

人材の行動を意識レベルから変えるためには、行動変容の仕組みを理解し、段階ごとに適切なアプローチを行う必要があります。ここまで、行動変容の基本理論を押さえながら、大企業の人事実務に引き寄せて整理してきました。

大切なのは、研修を起点にしながらも、研修だけで終わらせないことです。主体性を引き出す上司の関わり、段階的な目標設定、行動しやすい情報導線、社内コミュニケーションの活性化、そして行動定着を測る指標設計までをつなげて、はじめて企業の行動変容は成果になります。弊社ソフィアの調査でも、管理職の意識変容・行動変容、人間関係、部門間コミュニケーション、インフォーマルな会話の価値が示されました。行動変容を本気で起こしたい企業ほど、研修施策とインターナルコミュニケーション施策を分けて考えないことが重要です。

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よくある質問
  • 行動変容の定義
  • 行動変容とは、意識や認知の変化が行動の変化につながり、その行動が習慣として定着していくまでの一連の流れです。企業では、人材育成、マネジメント、組織変革、社内コミュニケーション改善などに応用できます。

  • 研修だけでの行動変容の限界
  • 研修だけでは不十分です。行動変容支援について、計画、教育訓練、評価、社会的・環境的障壁の除去を一体で進めることを推奨しています。企業研修でも、上司支援、職場での実践機会、フィードバック、振り返り、情報導線まで設計する必要があります。

  • 行動変容を促す管理職に必要なこと
  • 命令や統制だけで動かすのではなく、相手の視点を受け止め、選択肢を示し、行動の意味を伝え、建設的なフィードバックを返すことです。職場のリーダーによる自律支援は、従業員の自律的動機づけ、ウェルビーイング、ポジティブな仕事行動と強く関連しています。

  • 行動変容の定着率を上げる方法<
  • 小さな目標を段階的に設定し、実行場面を明確化し、行動を崩す場面への「if-then」対処計画を事前に用意することが効果的です。さらに、上司との1on1や周囲からの称賛、実践共有などのソーシャルサポートを組み合わせることで、継続しやすくなります。

株式会社ソフィア

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ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。