行動変容をビジネスのシーンで起こすには?

「馬を水辺に連れて行けても水を飲ますことはできない」
これは、イギリスで昔から言い伝えられることわざですが、従業員の人材育成についても同じことが言えます。

いくら従業員に研修やOJT(オンザジョブトレーニング)を施しても、本人が自らやる気になって意識を変え、行動を変容しなければ何にもなりません。ではどうすれば行動変容を促せるのでしょうか。

この記事では、行動変容のフレームワークとして「ステージモデル」をご紹介するとともに、行動変容の基本理論と実例、行動変容を促すポイントについて解説します。

そもそも行動変容とは?

行動変容は、もともと医療の現場で使われていた考え方で、「成人病予防・改善を本人に促すためにはどうするか」といった文脈で語られてきました。それが最近では、ビジネスの世界や人材育成の分野でも使われるようになってきました。

レヴィンの行動の法則

19世紀ドイツの心理学者クルト・レヴィンよると、人間の行動(B:Behavior)は人的特性( P:Person) と環境(E:Environment)の影響を強く受けるとされています。いわゆるレヴィンの(Lewin)行動の法則を公式に表すと次の通りです。

B=f(P, E)

例えば、大相撲の大ファンという「人的特性」を持った人は、自宅という「環境」にいるときは、大相撲のTV中継を欠かさず見る、という「行動」をとっているかもしれません。しかし、同じ人が職場という「環境」にいれば、たとえ大相撲のTVのある時間であってTVを見るという「行動」はとらないでしょう。

これと同じように、いくら社内研修やEラーニングでロジカルシンキングを学習した社員(人的特性)がいたとしても、職場のコミュニケーションや業務の進め方(環境)が非論理的で、ロジカルに考えることを良しとされないのであれば、ロジカルシンキングを活用しようという「行動」にはつながりません。

行動の先には成果が控えています。ビジネスにおいてより良い成果を出すためには、社員の人的特性と・職場環境をうまく管理しつつ、行動変容を促さなければいけません。しかし、そもそもの環境が整っていなければ、望ましい行動も生まれないのです。

行動変容ステージモデル

人が行動を変える場合、「無関心期」→「関心期」→「準備期」→「実行期」→「維持期」の5つのステージを通ります。

(無関心期)
自ら行動を変容しようとは全く思ってない時期

(関心期)
行動変容に興味はあるが、あえて行動を変えるつもりはない時期

(準備期)
行動を変容したいとの意識はあるが、まだ実行に移せない時期

(実行期)
実際に行動に移しつつあるが、まだまだ単発的で継続していない時期

(維持期)
行動変容を持続的に実施し、モチベーションも上がる時期

従業員に行動変容を促すには、この5ステップを1つずつ上がっていくことが大切です。たとえば、「業務改善」に向けた社員の行動変容を促したいとき、このステップに当てはめると、どのようなアプローチが必要になってくるでしょうか。以下、具体的に見ていきましょう。

  1. 従業員は、業務改善に無関心な状態にあります。(無関心期)
  2. まず経営層や部門トップからのメッセージを通じ業務改善の重要性を訴え、関心を喚起します。(関心期)
  3. 次は、賞金付きの改善提案キャンペーンなどを通じ参加を促します。(準備期)
  4. 提案が認められて表彰されれば、次回キャンペーンに参加しようとの意欲も高まります。(実行期)
  5. 改善提案を繰り返してコツもつかんでくると、自信もついてくるでしょう。(維持期)

ビジネスにおける行動変容に有効なナッジ理論

なにごとも、無理強いされたことは長続きしません。行動変容を促すポイントは、強制ではなくいかに自然なアプローチをとるかにあります。

2017年に行動経済学でノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のリチャード・セイラー氏は、行動変容に有効なナッジ理論を提唱しています。

ナッジ(Nudge)は直訳すると、肘でつつく、背中を押すという意味です。人間は多かれ少なかれ現状を変えることに抵抗を感じます。だからこそ、周囲からのささやかな働きかけが効果的なのです。

セイラー氏の著書では、学生食堂で学生に対し栄養価の高い食べ物を摂取するよう促すナッジ手法を紹介しています。具体的には、より取りやすい場所にサラダを置くことで、てきめんの効果が出て、サラダの消費量が1/4も増えたのです。

ナッジ理論を利用した事例

「やるな・禁止」では、真の行動変容は得られません。「こうしたほうがいいですよ」と導くことが大切です。

たとえばトイレに「汚すな」と張り紙してあったら、あまり気分は良くないでしょう。「いつもキレイに使ってくれてありがとう」だったらどうでしょうか?
進んで汚さないようにする人が多いはずです。

コロナ禍においては、スーパーのレジ前に床に印をつけることによって、自然と線に立ち止まり、距離を取って並ぶようになりました。手洗い・マスクも、義務付けではなく励行によって、諸外国では例をみないほどに浸透するようになったのです。

人の意識は簡単には変えられません。だからこそ、無理強いはせずちょっとした伝え方の工夫で行動変容を促すことが大切なのです。

ビジネスでの行動変容を促すポイント

セクシャルハラスメント防止・パワーハラスメント防止・人権啓発…こうしたテーマを従業員に浸透させ、真の意味で行動変容を促すのは口で言うほど簡単ではありません。業務や業績に直結しないこうしたテーマは、往々にして従業員の関心も低いのです。

これまで、パワハラ研修などは講師が一方的に話したり、DVDを見せるのが一般的でした。しかし最近は、行動科学を活かしたアプローチが注目されつつあり、従業員の経験・動機にフォーカスが当たるようになってきました。

具体的なポイントを見ていきましょう。

研修の前後をデザインする

研修は実施中だけでなく、研修を受ける前、受けた後の受講者の経験もデザインし、効果的にナッジする仕掛けを取り入れることが大切です。ナッジを利用することで受講者を動機づけ、行動変容につなげていくのです。

小さなゴールを積み重ねる

従業員に行動変容を促すには、気軽に達成できる小さい成功体験のサイクルを回していくのが有効です。たとえば、パワハラ防止対策の一環として、「怒りたくなったら3秒間かぞえる」といった行動変容なら簡単に実践できます。

また、行動変容に効果的な学習方法として、マイクロラーニングがあります。
マイクロラーニングはナッジ理論に基づく学習メソッドの一種で、5分前後単位の学習ブロックで構成し、情報を詰めすぎずに学習を行えるように設計された学習スタイルです。一般的にクイズ形式や動画視聴など、多様なメニューを組み合わせて提供されます。短時間で取り組めるため、時間を割いて研修に参加しなくても、業務時間の合間を利用しての受講が可能で、一つひとつの教材をこなすことが、受講者の小さな達成感につながります。

エンターテイメント性を持たせる

研修にエンターテイメント性を持たせることで、「退屈でつまらない」という研修への先入観を払拭できます。

某メーカーでは、CM出演しているアスリートや若手タレントが社内研修にサプライズで登場する場合があるそうです。こうしたイベントは社員の帰属意識を高めるのに役立ちます。

一方で、新入社員研修の一環として自衛隊入隊体験を実施する企業もあります。厳しい入隊経験が同期の仲間で共有され、一体感醸成につながるのです。
なお、体験研修は「苦しい」だけではなく、楽しみも用意されています。テレビでしか見たことのないような軍用機への搭乗は生涯忘れない貴重な体験になるはずです。普段は決してできないような体験、苦しさを乗り越えた先の楽しさなど、受講者が夢中になって取り組めるような体験を提供することがポイントです。

まとめ

最近はピープルアナリティクスなどのデジタル技術により、個々の従業員の興味・関心や行動パターンを把握・分析できるようになりました。
元はアナログ中心だった人事データもデジタル化が進み、組織や従業員の状況を可視化できるようになっています。データに基づいた分析・検証から、従業員の行動変容を促すためのヒントを得やすくなっただけでなく、組織活性化をめざしたコミュニケーションのデザインも容易になったのです。

みなさんもデジタル技術を上手に活用しつつ、従業員の行動変容促進に取り組んでみませんか。

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