コアコンピタンスとケイパビリティに着目して、組織を動かす「ストーリー」の重要性を理解しよう

変化が激しく先行きが不透明な状況が続く現代において、企業として成果を上げていくには組織を動かす知恵と力「センスメイキング」が重要です。そのためには、リーダーが背景や想いを「ストーリー」として明確に示し、語ることが欠かせないものとなります。
では、組織づくりにおいて語るべきストーリーとはいったいどのようなものなのでしょうか?
この記事では組織の強み(コアコンピタンス)や可能性(ケイパビリティ)に着目して、組織を動かすストーリーをどのように掘り起こし探していけばよいか、について解説していきます。

コアコンピタンスとは?

COVID-19の流行やSDGsの推進など、2020年代に入り企業や市場を取り巻く環境は大きく様変わりしました。そして、今後の事業の方向性を改めて見直すため、古典とされている経営戦略理論の価値に再注目し、組織の力を強化しようという動きが盛んになっています。
ここでは、「コアコンピタンス」と「ケイパビリティ」に着目し、その有効な使い方を見ていきましょう。

コアコンピタンスの定義

コアコンピタンスとは「Core:中核、Competence:力量、能力、適性」の文字の通り、企業にとって中核となる能力、強みのことを指します。日本では1995年3月に日本経済新聞出版から邦訳された「コアコンピタンス経営」により広く認知された理論で、著者のゲイリー・ハメルとCK.プラハラードが1990年にハーバード・ビジネスレビューに発表したものが元になりました。

同書ではコアコンピタンスを「顧客に対して、他社にはまねのできない自社ならではの価値を提供する、企業の中核的な力」と定義しています。一例として、ホンダのエンジン技術やソニーの小型技術などが日本企業の事例としてよく挙げられます。さらには独自の技術や製造スキルにとどまらず、マーケティングにおけるバリューチェーン上の活動や、コカ・コーラのように価値が確立されたコーポレート・ブランドなどもコアコンピタンスに含めて考える場合があります。

コアコンピタンスに類似する概念として「ケイパビリティ」がありますが、コアコンピタンスが企業にとって本質的・中核的な能力であるとするならば、ケイパビリティはそれを実際の展開に活かし顧客の元へ届けるまでの総合力である、と考えればわかりやすいでしょう。

コアコンピタンスを構築する重要なポイント

「自社にとってのコアコンピタンスは何か」を認識するにあたり注意すべき重要な点が2つあります。
まず、競合との関係性を意識したうえで考えなくてはなりません。どれほど得意で高い専門性を伴った技術であったとしても、ライバル企業との差異がそれほどないのであればコアコンピタンスとはなりえません。たとえば、ファストフードやデリバリーピザ、コーヒーのチェーン店などは、多様なメニューを素早く調理し、顧客に低価格で提供するというバリューをビジネスのベースにしています。しかし、その内容には決定的な差が生じにくく、もっと他の部分で競合との明確な差異を見つけなくてはなりません。したがって、メニューやクイックな提供スタイルといった特徴は、コアコンピタンスにはなり得ないのです。単に「自社が得意だ」「自社にとって大事だ」という要素をアピールするのではなく、「ライバルに対してどのくらい強いか」と言う要素まで細分化して具体的に考える視点が重要と言えます。

しかしながら、現時点で十分力のあるコアコンピタンスであったとしても、市場環境の変化とともに陳腐化する恐れがあり、「いつまでその価値を保てるか」という点については確実ではありません。

たとえば、日本の富裕層を囲い込み、長く消費市場の頂点に君臨していた百貨店は、次々と閉館の憂き目にあっています。大都市や観光地を結ぶ幹線という地の利と、スピードやダイヤグラム管理のノウハウを誇る随一の鉄道であるJR東日本も、コロナ禍の影響による利用客減で2020年度の最終決算は民営化後初の赤字となりました。

持続可能な企業であるためには現在のビジネスで中核となっている価値の独自性を大切にしながらも、時代の先を予測し、調査研究や新しい技術への投資を継続することによって、急激な変化に対応するコアコンピタンスを柔軟に設定する動きが必要不可欠と言えるでしょう。

ケイパビリティとは?

ケイパビリティ(Capability)は、一見コアコンピタンスと区別しにくい考え方です。言葉の本来の意味としても能力・素質といった抽象的な概念を指すため、経営戦略の面で用いる際には、コアコンピタンスとの違いや関係性を明確に定義しておく必要があります。

ケイパビリティの定義

ケイパビリティは、ボストン コンサルティング グループのジョージ・ストークス、フィリップ・エバンス、ローレンス E.シュルマンの3人が1992年に発表した考え方です。「コア・コンピタンスがバリューチェーン上における特定の技術力や製造能力を指すのに対し、ケイパビリティはバリューチェーン全体に及ぶ組織能力である」と定義づけました。
この2つの違いは多少難解に思えるかもしれません。しかし前述したように、

  • コアコンピタンス=企業にとって最も本質的で、他との差異を確立する中核的な能力
  • ケイパビリティ=自社だけでなく協力企業なども含めたバリューチェーンを通じて、組織の有機的な結合によりもたらされる総合力

を意味するため、視点を明確に分けて考えることが大切です。
ケイパビリティとは、取り扱う商品をその市場性や価値といった外的環境によって競争優位性を持たせることを意味し、特定の技術ではなく「ビジネスプロセス」にフォーカスした考え方と言えるでしょう。

ケイパビリティを構築する重要なポイント

コアコンピタンスは事業の根幹=独自の価値や強みを示すため、スタートアップの時点である程度の優位性を持っているケースもあります。一方で、ケイパビリティは商品・サービスを提供するビジネスプロセス全体に及ぶものであるため一朝一夕にはいかず、構築には困難を伴います。

しかし、適切に構築することができれば、他社による再現性が難しくなり模倣されるリスクが減少するだけでなく、確立したケイパビリティの特性を活用して他の事業に応用できるなど、大きな価値を発揮するようになるでしょう。ケイパビリティの構築が難しければ難しいほど、他社との比較のなかで強みとしての価値が上がるといっても過言ではありません

さらに、ビジネスプロセスの変革によって生産性の向上やスピードアップが期待できるだけでなく、コストやリスクの低減も可能になるため、プロセス的な視点で全体を見渡しながらケイパビリティを確立することも重要です。ケイパビリティが変わるということは、それに対応する「巨額の投資」や「従業員の意識変革」「ビジネスコンセプトの変更」などが必要になります。従来の組織や方針から大きく変わらなければいけないケースも考えられるため、コアコンピタンスに基づいてしっかりとしたビジネスモデルを設計し、それに即した組織作りと従業員の意識変革を行っていくことで事業としてのベクトルを合わせていきましょう。

一例として、国内2カ所で展開している子どもが主役のテーマパーク「キッザニア」の事例を紹介します。キッザニアでは子どもたちの権利を掲げ、国旗や国歌、独立宣言書などのバックストーリーツールをいくつも持っており、子どもたちに楽しい職業体験の場を与えるそのサービスは他の追随を許していません。その理由は、

  • 親や祖父母から子へのエンジェル投資
  • 次世代への広報
  • CSR効果を狙うスポンサー企業の利害

を結びつけた「子どもにとって楽しい体験型テーマパーク」という唯一無二のコアコンピタンスと、それを可能にするケイパビリティにあります。

約100種類の仕事が体験できるパビリオンを建設し、理念を十分に理解・共有したスタッフを配置。スポンサー企業に対してはコンセプトを説明することで「一業種一社」の優位性をキーとして開拓を行いました。来場者の勧誘は個人消費者へのアプローチだけでなく、学校や幼稚園などからの集団受注を意識した営業を展開。「体験を贈ろう」と銘打ってのギフト需要を掘り起こすことで、付き添う親はモニタールームで子供たちの様子をあたたかく「観戦」するというエンターテイメント性も兼ね備えています。他に類を見ないテーマパークのケイパビリティ構築は苦労が多かった反面、2006年の開業から現在に至るまで代替する競合のない唯一無二の存在としての地位を確立しているのです。

このように、ケイパビリティでは多大な金銭的・人的な投資を行い、それを軸にしたビジネスコンセプトやビジネスプロセスを構築していくことがポイントになり、ロジスティクスというなかなか目につきにくい場所の基盤も固めていくことが大切です。ユニークなケイパビリティを考えるためには、まず自社の強み(コアコンピタンス)をさまざまな観点から捉え直すことから始めましょう。

「コアコンピタンス」と「ケイパビリティ」の違いとは?

2021年7月、ついに東京オリンピックが開催されました。そこで活躍するアスリートたちの「驚異的なパフォーマンスを実現する強靭な身体・精神」を彼らのコアコンピタンスとすると、その能力を最大限に引き出し記録の樹立を可能にするコーチの指導能力や、所属チームの管理能力、またウェアやツールでサポートするスポンサーの技術力などの総体が、ケイパビリティに相当すると言えます。

すなわち、コアコンピタンスはバリューチェーン上のある突出した技術力や製造能力を指し、ケイパビリティはそのポテンシャルを最大限に引き出し、市場へ確実に行きわたらせる組織の総合力です。その意味でコアコンピタンスとケイパビリティは相互補完の関係にあり、どちらが欠けていても望ましい戦略構築が達成できないものとして意識しましょう。

言い換えれば、コアコンピタンスは「他社との差別化を行う戦略の策定」、ケイパビリティは「自社での業務に落とし込む戦略の遂行」という関係になります。確実に展開できるケイパビリティがあって初めて、市場で勝てるコアコンピタンスが発揮でき、逆にコアコンピタンスがあるからこそ、企業はそれを軸にバリューチェーン全体にわたるケイパビリティ開発への人的・経済的投資が可能になるのです。

「コアコンピタンス」と「ケイパビリティ」を見つけるためには?組織を動かす強み(ゴールド)を見つけよう

コアコンピタンスとケイパビリティの相互関係について事例とともに理解を深めてきたあなたなら、自社の強みの強化と「組織風土」が密接な関係にあることにお気づきなのではないでしょうか。前述したキッザニアの例では「子どもが主役の街として、一人前の人間として扱い、その権利と安全を守る」サービスを展開するために、

  • 子どもと接するスタッフ
  • メンテナンスや警備を担当するスタッフ
  • スポンサー企業や学校などと折衝する部署
  • 魅力を伝える広報や予約システムを担う部署

などが例外なく一体となって、キッザニアの世界観を成立させることに携わります。このようなテーマパークでは、自社スタッフのみならず多くの協力会社もパークのテーマ(世界観)を共有し、来場者の期待する世界観の現実化を図ります。目指す世界観を実現していくためには、組織において十分な「理解・共感・納得」が必要となり、コアコンピタンスを体現するためのケイパビリティ構築に寄与する行動が生まれるのです。ここからも、企業として私たちは何を目指し、何のために誰に対しどのような価値を提供していくのか、というコアコンピタンスの前提となる理念が重要になるということが伺えます。

この章では、会社や事業、商材が生まれた背景、実現したい想いや理想像などを多くの関係者に「理解・共感・納得」してもらうためのソフィアならではの手法「ゴールドマイニング」をご紹介します。企業のなかに眠る理念を表し、それを伝えるパワーエピソードやストーリーを貴重な金鉱石(ゴールド)として掘り起こし、「センスメイキング」と「ストーリーテリング」を通して磨き上げることによって組織のダイナミズムにつなげていきましょう。

ゴールドマイニングによる「自社の特色探し」(何を語るか)

ソフィアのゴールドマイニングにおける具体的なプロセスとして、以下のような流れでストーリーを探し、組み立てることでお客さま企業の組織強化をお手伝いしています。

リーダーが内省の機会を作る

伝えたい・語りたいことがあるかなど自社の強みをより深めるためにリーダーが内省の機会を作るというのがおすすめです。新しくビジネスを創業したり、新規事業を立ち上げたり、新商品を世に問う機会となり、さまざまなエピソードが発掘できるでしょう。
そのためには、まずリーダー自身が伝えたいこと・語りたいことに関しての理解を深めることが大切です。たとえば、

  • ファウンダー(創業者)の夢
  • 創業時から伝わるDNAが現場で発揮されたエピソード
  • 現経営者の信念などにまつわるエピソード

などにまで掘り下げたストーリーは、ゴールドの宝庫です。場合によっては、当時を知る人への公式・非公式のインタビューや記録資料の収集を行い、第三者の視点を交えることでストーリーの奥深さを突き詰めていくというのもよいでしょう。
この部分をクローズアップしてエンターテイメント化した番組やドラマなどを連想する方も多いと思います。自社の「プロジェクトX」を掘り当てるつもりで、会社を擬人化したときに出てくる過去のエピソードを内省してみてください。

リーダーとの対話を通してストーリーを引き出す

それぞれの現場で活動する従業員は、リーダーとの対話を通して組織や活動に対する理解を深めていくため、リーダーはゴールドをストーリー化して現場に伝えるメディアの役割を担うことになります。そして、従業員側はリーダーからどれだけストーリーを引きだして自分のものとして消化できるかがカギです。リーダーへの質問会など話を聞く機会があったときは、より「具体的」で「エモーショナル」な内容を引き出すようにすることで、自分達だけでは気づけないような要素にも目を向けることができます。ただの昔話や一般論ではなく、そのエピソードが実際に起こったときの状況や人々の想い、そこから得られた成果などを頭の中で描けるように情報を引き出しましょう。

社員との対話を通し、自分たちの意図や目的を探す

リーダーだけではなく、さまざまな立場の方からヒアリングをすることもまた重要です。同僚だけでなく他の部署や他の地域、さらには関連会社や協力会社のスタッフからは多くの知見が得られます。現場が感じている強みはリーダーの視点だけでは気づけないことかもしれず、何より顧客と最前線で接する現場のエピソードは力のあるストーリーとなるでしょう。
自社の強みや特色を活かして事業を成功に導く「組織風土」を創るのは、会社の中で語られるストーリーです。自社の方針や具体的なイメージ、重要性を伝えてさまざまなステークホルダーに納得・賛同してもらい、協力関係を気づくことが重要になってきます。次の記事で、事例とともに「ストーリーテリング」の重要性を理解し、「いかに物語るか」を押さえましょう。

また、ソフィアでは前述のようにストーリーを探し組み立てるだけではなく、それらを広く伝えるための各種ツール作成もお手伝いしております。詳しくはこちらからお気軽にお問い合わせください。

センスメイキングによる「腹落ちのためのプロセス作り」(どのように語るか)

ある経験や出来事に際し、そこに能動的な意味を与える思考プロセス作りを表す理論として「センスメイキング」という概念があります。そして、このセンスメイキングでもストーリーの要素が大きく関わってくるのです。
センスメイキングとは、トップマネジメント層が企業のビジョンや戦略に対する「意味づけ」を行い、それを従業員や関係者に伝えることで「なるほど、そういうことか」という納得感や腹落ち感を形成していくプロセスです。

しかし、社員や関係者が実際に納得して行動するかどうかは、従業員に伝える際に「何が語られるか」「どのように語られるか」というストーリーの組み方や受け手の印象によって変わってくるものです。前述したように、よくある過去のエピソードや、単なる事実・事象の羅列では共感感情は起こりにくいため、社内報などのインターナルコミュニケーションメディアを用いることで、心に響く具体的なストーリーを「均一な理念的情報(企業の方針や価値観、活動内容など)」として全員に伝達していく施策が有効になるでしょう。これにより、組織基準の浸透や社員モチベーションの向上が可能となり、会社の士気を向上させながら組織風土を構築していくことが可能となります。

センスメイキングを踏まえたインターナルコミュニケーションは、組織風土改善だけでなく、お客様や社会にとってより信頼を与える人材へ育成させたりする効果も期待できます

組織とは

ストーリーテリングによる「人の心の動かし方」(どのようにストーリーを伝えるか)

繰り返しになりますが、ソフィアでは「ストーリー」とは情報やファクト、データの羅列でなく1つの物語として、「人を感情的に惹きつける面白いもの(=エンターテイメント)」として考えています。相手のエモーションに働きかけて気づきや本心からの納得を引き出すことによって秘めたるパワーを発掘し、組織として無限の可能性を最大に切り開いていくことができるのです。

ビジネスの現場は、毎日の仕事における多くの人とのかかわりで成り立っているからこそ、現実のシーンすべてにストーリーが存在しています。背景と目標を併せ持ったストーリーは相手の心を動かし、強く印象付けるため、多くのストーリーを企業内に眠るゴールドとして発掘して共有することは大きな価値があると言えるでしょう。

また、ケイパビリティの構築は企業活動のすべての側面に関連します。商談やプレゼン、社員教育などのちょっとした会話のなかでストーリーテリングを意識できるようになれば、好ましい組織風土の構築を後押しできるでしょう。

まとめ

コアコンピタンスとケイパビリティの違いから始まり、それを現場で具体化し理解・共感を生むためのゴールドマイニングとセンスメイキング、ストーリーテリングまで解説してきました。好ましい組織風土の構築には、コアコンピタンスやケイパビリティにもとづいて「ストーリーをデザインする」ことが重要であると理解していただけたのではないでしょうか。ぜひ貴社の組織づくりにお役立てください。

よくある質問
  • コアコンピタンスとケイパビリティとは何ですか?
  • 「コア・コンピタンスがバリューチェーン上における特定の技術力や製造能力を指すのに対し、ケイパビリティはバリューチェーン全体に及ぶ組織能力である」と定義されています。

  • 「コアコンピタンス」と「ケイパビリティ」を見つけるためにはどうすればいいですか?
  • ゴールドマイニングによる「自社の特色探し」(何を語るか)
    センスメイキングによる「腹落ちのためのプロセス作り」(どのように語るか)

株式会社ソフィア

コミュニケーションコンサルタント

廣井 和幸

社内報やビジョンブックなどインターナルコミュニケーションのためのコンテンツをつくることが多いですが、外向けも歓迎です。公開社内報「そふぃあと!」の責任編集長でもありますので、そちらもごひいきに!

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