研修の費用対効果とは?測定・評価の仕方とKPIや成功事例
最終更新日:2023.07.13
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従業員のスキルアップを支え、持続的な企業成長を実現するために、多くの企業は多種多様な研修を実施しています。研修は企画や準備も含め、多くの労力や時間、その他さまざまなコストがかかるものです。だからこそ企業は、投資としての研修によってどれだけの効果が得られたのか、すなわち「費用対効果」を正確に把握する必要があります。
とくに人的資本経営が重要視される現在、「やりっぱなしの研修」は経営層からも市場からも許容されなくなってきました。本記事では、大企業の人事部門長や研修企画担当者の皆様に向けて、研修の費用対効果をどう測定・評価すればいいのか、費用対効果を最大化するにはどのようなことに気をつければいいのかを、弊社ソフィアの最新調査データも交えながら徹底的に解説します。
研修の費用対効果とは
まずは、そもそも「研修の効果」とはどのようなものなのか、その基本的な定義づけから始めます。何をもって効果が出たと判断するか、その基準を定めることが、「費用対効果」を測定するうえでの大前提となります。
判断の基準や、判断が下せるまでにかかる期間は研修の種類によって異なります。新入社員向けの基礎スキル研修のように短期的に成果が見えやすいものもあれば、経営幹部候補向けのリーダーシップ研修のように、数年単位で組織への影響を観察しなければならないものもあります。それぞれの研修に適した評価軸を持つことが重要です。
研修効果測定の難しさと現状
最初に確認しておきたいのは、研修効果があるのかないのかを定量的に判断するのは、とても難しいということです。研修直後にアンケートを行ったり、テストで学習内容の定着を確認したりすることは手法としては簡単ですが、それだけで本当の効果を測定できるとは限りません。
研修効果の測定は非常に難しく、実態としてはできていない企業が大半を占めているのが現状です。研修の本当の成果を知るためには、研修を受けた従業員が実際に職場でどうパフォーマンスを見せるのか、一人ひとりの働きぶりを一定期間チェックしなければ結論が出ないものです。
「目的の設定」の重要性
研修の効果を測定することの難しさについては前述の通りです。しかし、研修という投資にどれだけのメリットがあったのかを測らずに放置するのは賢明ではありません。そこで大事にしたいのは、研修を開催する場合、事前に「何をもって成果とするか」という目標を明確にしておくことです。
成果とは言い換えれば、「目標の達成度」となります。「目標」が不明確では、成果に対する判断も漠然としてしまいます。前提として目標を明確にしておくことで、達成したかどうかという細かい判断が可能になり、研修の効果を正確に評価できるようになるのです。
たとえば、「営業成績の向上」といった抽象的な目標ではなく、「新規クライアントの開拓数を半年以内に20%アップさせる」といった具合に、期限と具体的な数値を伴う定量的目標を設定することが、費用対効果の可視化に向けた第一歩となります。
研修による費用対効果の測定方法
研修の目標を設定した後は、具体的にどのようなフレームワークを用いて測定していくのかを決定する必要があります。世界的に最も普及している評価基準を用いながら、投資対効果を導き出すプロセスを見ていきましょう。
カークパトリックの研修評価モデルとROIの概念
ドナルド・L・カークパトリックによって提案された、カークパトリックの研修評価モデルでは、研修の成果を4つのレベルに分けて評価します。
・レベル1:受講者アンケート(反応:研修に対する満足度や有用性の評価)
・レベル2:事後テスト・レポート(学習:知識やスキルの習得度の評価)
・レベル3:行動チェックリスト(行動:職場での実践や行動変容の評価)
・レベル4:ROI指標(結果:業績向上や離職率低下などのビジネス成果の評価)
レベル3とレベル4をいかに設計するか、ということが重要視され始めているのが世界的なトレンドです。目的に基づいて指標を設計する際、明確な目的が業績改善や行動変容など具体的な結果を目指す場合、カークパトリックの研修評価モデルのレベル1からレベル4までの評価が適切です。
しかし実際の企業現場では、レベル1とレベル2の評価が主な目標となってしまいがちです。とくに福利厚生や階層教育、年次研修のような要素が強く、啓蒙やモラルに関する教育の場合、効果測定の難しさから費用対効果の測定を疎かにすることもあります。
これらの教育において、目的型の教育として成果を求める場合、効果測定や成果の設計が重要です。効果測定自体が難しい中で、現場の問題に近い内容をフォーカスする必要があります。
フィリップスのROIモデルによる「レベル5」の測定
近年では、カークパトリックの4段階に加えて、ジャック・フィリップスが提唱した「第5レベル:ROI(投資収益率)」を組み込む考え方が主流になりつつあります。これは、レベル4で得られた事業成果(売上増、コスト減など)を金銭的価値に換算し、研修にかかった総費用と比較する手法です。
このモデルでは、研修の純粋な効果を算出するために「寄与率」の考え方を導入します。例えば、研修後に営業の成約率が上がったとしても、それが「研修のおかげ」なのか「市場環境の好転」なのかを切り分ける必要があります。研修を受けたグループ(実験群)と受けていないグループ(統制群)の比較を行うことで、研修がもたらした真の財務的インパクトを測定できるようになります。
費用対効果の計算式と指標
効果の測定フレームワークを理解したうえで、実際に費用対効果(ROI)を計算するための具体的な指標と計算式について深掘りしていきます。ここでは、定量的なデータ収集から財務的指標への変換プロセスを解説します。
費用対効果(ROI)の基本計算式とコストの内訳
研修の費用対効果は、以下の計算式で算出されます。
ROI(%) = (利益 - 投下資本) ÷ 投下資本 × 100
ここで最も注意すべきは、「投下資本(コスト)」の捉え方です。多くの企業は、外部の研修ベンダーへの委託費、講師代、システム利用料、会場費といった「直接コスト」のみを計算に入れます。しかし、正確なROIを出すためには、以下のコストも漏れなく含める必要があります。
・機会損失コスト(受講者の人件費):受講者が研修に参加している間、本来の業務を行っていれば生み出せたはずの利益、あるいは時給換算した人件費。
・運用コスト:人事担当者が研修の企画・設計・運営に費やした時間と人件費。
・インフラコスト:eラーニングシステムの保守費用やネットワーク管理費。
これらの見えないコストを正確に把握しなければ、投資に対する真のリターンを語ることはできません。
研修費用対効果を計算するための指標(柳モデル)
研修費用対効果を計算するための指標について、知っておきましょう。多くの場合、費用対効果の測定には柳モデル(エーザイモデル)が活用できます。「柳モデル」と「エーザイの重回帰分析」(柳 2021)を公開して、国内外の機関投資家から高い評価を得ています。
【柳モデルの回帰式(エーザイの人財計算式)】
ln(PBRci)=α+β1・ln(ROEci)+β2・ln(ESG KPIc(i-t))+μc(i-t)
この回帰式は、人的資本(ESG KPI)への投資が、遅延して企業価値(PBR)にどう影響を与えるかを統計的に示すものです。研修のコース単位の費用対効果を計算する際、行動変容が予想されることで、その結果としての業績や収益向上を考慮します。研修は一種の投資であり、継続的な努力が必要となることを前提に設計されます。
たとえば、営業の研修では、販売スキルの向上や顧客対応力の強化によって、営業成績の向上や売上増加につながることが期待されます。このような目標を達成するために、研修コースは具体的な内容やトレーニング方法が設計されるのです。
重要なのは、研修の設計段階で費用対効果を考慮し、行動変容が業績や収益にどのように寄与するかを予測することです。設計上、研修コースは目標の達成をサポートするために具体的なスキルや知識を提供し、参加者の行動やパフォーマンスの改善を促すように設計します。
レベル別KPIの具体例と定性データの定量化
行動変容や業績への寄与を予測するためには、評価レベルごとに適切なKPIを設定し、定期的にデータを収集することが求められます。以下は、階層別に設定すべき具体的なKPIの例です。
【評価レベル別KPI一覧】
・レベル1(反応)/測定の焦点:満足度や学習意欲/具体的な指標(KPI)の例:研修後アンケートのスコア、NPS(他者への推奨度)
・レベル2(学習)/測定の焦点:知識・スキルの定着/具体的な指標(KPI)の例:理解度テストの点数、実技ロールプレイの合格率、資格取得率
・レベル3(行動)/測定の焦点:現場での実践度合/具体的な指標(KPI)の例:360度評価のスコア変化、上司による行動チェックリストの達成度
・レベル4(結果)/測定の焦点:事業成果への貢献/具体的な指標(KPI)の例:売上増加額、商談化率の向上、製造ラインの不良率低下、離職率の改善
とくに難しいとされるのが、リーダーシップやコミュニケーション研修などの「定性的な成果」の定量化です。この場合、「研修によって削減されたミスの件数」に「ミス1件あたりの平均リカバリーコスト」を掛け合わせることで、経済的価値(利益)として換算する工夫が必要になります。
課題と背景
ここまで理想的な測定方法や指標について解説してきましたが、企業を取りまくさまざまな状況の変化により、人材育成を計画通りに進めることは年々困難になっています。研修の効果について語る前に、この背景にある構造的な課題についての認識を深めておきましょう。
変化の速さと雇用環境の変化
1つは、世の中の変化が早くなっているという事実です。人材育成は企業にとっては言わば投資のようなものです。その性質からすぐに効果が出るものではないため、中長期的視点で計画・設計するべきと言われます。
従来であれば、数十年という長期スパンで設計することもありましたが、今では不可能になりつつあると言えます。というのも、中長期的にこれからの世の中で起こることを正しく予測すること自体が無謀といえるためです。このたった10年でグローバル化やデジタル化が加速し、多様性への配慮など企業に求められる要素が激変しました。
業務遂行に必要なスキルも同様です。例えば1980年代に入社した人が、当時テクニカル面の知識を要求されることは稀でしたが、現在ではあらゆる部署でテクノロジーの活用が求められます。ビジネスの軸が変わっていない業界であっても、業務単位でフォーカスすれば、どの業界も劇的な変化を経験していると言えます。
2つ目の要素は、雇用環境が変化している点です。昨今の日本では終身雇用制度が弱まり、若年層を中心に、転職して自分のキャリアを切り拓いていくことが当たり前となりつつあります。従来の日本の就職は言わば「就社」を意味していましたが、本質的に「就職」と言えるようなかたちになってきています。
このような世の中では、人材育成の計画を立てるのは困難であるといえます。どれだけ投資して育成しても、退職してしまう可能性が高くなっており、人材育成計画も、退職によって意味をなさなくなるケースがあるためです。これらが、研修の費用対効果を中長期で回収することを難しくしている最大の要因です。
人的資源開示(ISO 30414)の潮流
一方で、「有価証券報告書」を発行している大手企業においては現在、人的資源開示が義務化されつつあります。人的資源は、人材を消費されるコストではなく、企業価値を生み出す「資本」とする考え方を表しています。
2018年に国際標準化機構(ISO)が発表した「ISO 30414」は、この人的資本の情報開示における世界的なガイドラインです。コンプライアンス、ダイバーシティ、生産性、スキルと能力など11領域58指標に分類され、経営戦略と人事戦略の連動性を定量的に可視化することが求められています。
人的資源開示において重要なのは、従業員がどのようなスキルを持っているか、さらに現在抱えている課題に対処するには、どのようなスキルを身に付けるべきかという点です。課題を洗い出すためには、企業の抱える事業課題から考えることが大切です。
事業課題に基づかない闇雲なトレーニングを行っても、費用対効果が低下することになるでしょう。従業員がより生産的に働ける環境を作れば、トレーニングや開示にかかった費用は効果的に回収できるようになります。
人的資本経営とHRBP
このように激しく変化する経営環境と人的資本開示の要求に応えるためには、人事部門そのものの役割を再定義する必要があります。長期的な人材戦略を机上で描くだけでは、現場のスピードに追いつけません。
費用対効果を明確にするHRBPという視点
そこで重要になるのが、研修の費用対効果を明確にするHRBPという視点です。HRBPは、「Human Resource Business Partner」の頭文字をとった言葉です。日本の企業で一般的となっている、事務的なサポートを中心に行う「事業部人事」とは異なる概念です。
HRBPの目的は、人事という仕事を通じて事業にインパクトを与えることです。現代の複雑化する環境を見極めながら、企業活動を人事面から最適化する役割を果たします。
日本企業の人事は多くの場合、長期的な人材戦略や研修体系に重点を置いています。しかし、理論上は正しいとしても、スキル面で一気に人材全体を押し上げるのは困難です。そこで重要となるのが、HRBPのように各部署の現場と緊密に連携し、現場主導で関わる姿勢です。
HRBPは、現場と経営の間に立ち、現場からの課題感やニーズを経営層に伝え、逆に経営層からの指示を現場に伝えます。こうして両者の意見を調整しながら、現実的で効果的な人事戦略を作り上げます。具体的には次のような業務を手掛けます。
・事業推進に必要な人材要件(経験・スキル・人員数など)の定義
・自社組織内の人材データの把握・整理
・事業推進に必要な知識・スキルの研修の企画
・不足している人材の採用の検討・企画
・評価制度の検討・企画
・労務管理の検討・企画
つまり、HRBPは短期的な「人財の問題」が要因とされている事業課題に対応でき、なおかつその意思決定は、CHOの直下で即断即決できます。「人材の成長」というと長期的な投資という意味合いがありますが、現場視点で課題に取り組むことで、短期的なメリットを追求することも可能です。
事業課題の特定による要件定義
研修において事業課題を出発点にすれば、費用対効果を出せる確率が飛躍的に高まります。どのような点を目的に据えるべきか迷った際は、企業が抱えている事業課題や現場課題に立ち返るようにするといいでしょう。ここが出発点になっていなければ、費用対効果を示すことは困難であるためです。
研修の効果や行動変容が結果として業績や収益にどのように影響するかは、多くの要素や環境要因によって異なります。そのため、中長期においては、研修投資対効果は研究段階となるのです。
しかし、短期的な視点や事業部・部門レベルでは、具体的な目標や指標に基づいた費用対効果のある研修や設計が可能です。曖昧模糊とした能力開発目標ではなく、短期的で現場の具体的な課題を絞って解像度の高い人材要件を設計しましょう。
費用対効果を高めるための取り組み
ここからは、研修の費用対効果を上げるための取り組みについて、具体的なプロセスと実践手法を紹介します。HRBPの視点を持ちながら、どのように現場の課題を解決していくか、順を追ってチェックしてみてください。
要件定義とソリューションの選択
まずは、事業やビジネスユニット単位で課題を要件定義することから始めます。細かい要件定義を行うと、実施する研修内容も具体的に考えられるようになります。さらに、細かい単位で考えることにより、企業は現場の従業員の声に耳を向けることができます。これにより従業員の生産性向上に直結するような研修が行える確率もアップし、費用対効果を最大化できるでしょう。
次に、採用で解決するのか?育成で解決するのか?制度を変えるのか?というフラットな視点を持ちます。そもそも従業員を研修で育成する必要があるのか、根本から熟考するのも大切です。
場合によっては研修ではなく採用することで、課題が解決されることもありますし、組織の仕組みや業務負荷の見直し、適切な人材配置や異動、必要な場合は新たな人材の採用といった他の方法も検討する必要があります。また、専門知識を持つ外部のベンダーとの連携も重要な手段です。
運用効率化と学習コンテンツの設計
費用対効果の高い研修のための近道として、課題解決を設計し、そのプロセス上の学習コンテンツを設計するというアプローチがあります。たとえば、採用という観点で課題解決を設計し、それを研修に落とし込むという考え方です。
しかし、企業における階層研修などの研修運用業務の削減が進んでいないケースも多く、新しい研修を企画立案する時間がないという問題を抱えている人事担当者は少なくありません。人材ニーズの把握や要件定義、ベンダー選定などの作業を、現場業務と並行して進めることは、非常に困難です。
研修の企画や設計には多大な時間と労力が必要とされ、費用対効果の高い研修を実施するためには、より多くの時間とリソースを確保する必要があります。従来の方法に捕らわれず、ITシステムを活用することで、データの蓄積や分析により研修の効果測定を行い、改善点を洗い出すことが可能となり、改善や改変のサイクルが産まれます。
いくつかの研修プログラムは、費用対効果を出すような創意工夫がなければ、価値は提供できません。eラーニングなどを活用して効率化を図り、余いた時間を高度な企画設計に充てることが重要です。
実践的な研修内容の設計(PBLとLXD)
研修内容の設計を考える際におすすめなのが、自ら問題を発見する研修です。売上減少時の問題解決や組織力低下時のコミュニケーション課題など、実際の自社の課題を研修のテーマに据えます。
このような参加型の学習方法をプロジェクトベースドラーニング(PBL)と呼びます。従業員が主体となって答えを導き出すため、実践的なスキルアップが目指せます。さらに重要なのが、ラーナーエクスペリエンスの設計です。これは「学習者体験デザイン」と訳され、意味のある学びを得るために、学習環境や教材の「場」の設定に注力するアプローチです。
研修プログラムの実施方法の検討を行うにあたっては、いきなり実践的課題に取り組む前に、ロジカルシンキングやクリティカルシンキング、ラテラルシンキング、ディスカッションなど、基礎的な問題解決の思考を鍛えるステップが不可欠です。また、ベースとしてコミュニケーションスキルを身につけておくことも効果的です。これらをプログラムとして体系立て、基礎体力を身につけてから実践的な学びの場を与えるようにデザインするのがおすすめです。
研修の効果が現れるまでの時間と場
どんなに優れたプログラムを設計しても、学んだ知識が現場で発揮されなければ投資は無駄になります。ここで重要になるのが、研修の効果が現れるまでの時間と場の概念です。
研修を受けた本人がいかに普段の業務で研修内容を意識しているか、また、それを行動に反映できているのかが最大の焦点です。学習効果を実感するためには、学んだ知識やスキルを実際の業務や環境で活用する機会が必要であり、単に時間を掛けるだけでは効果は得られません。
また、学習の効果が完全に現れるまでに5年から10年の期間が必要とされることは基本的にはありません。長期的な成果を期待する場合でも、その間には学習の効果が段階的に現れることが一般的です。
学習効果を最大限に引き出すためには、学んだ知識やスキルを実践する機会や環境を整える必要があります。実際の業務に結び付けることや環境の整備、上司や組織のサポートが重要な要素となります。
弊社ソフィアの調査に見るコミュニケーションの課題と対策
現場での「上司や組織のサポート」を機能させるためには、組織内のコミュニケーション基盤が健全でなければなりません。しかし、多くの大企業ではここでつまずいています。
株式会社ソフィアが2025年10月に実施した「国内インターナルコミュニケーション実態調査(従業員数1,000人以上の企業対象、回答者623名)」である弊社ソフィアの調査では、リモートワークに代表される働き方の多様化により、従来の対面を前提とした情報共有や意思疎通の手法が見直しを迫られていることが浮き彫りになりました。
さらに、2024年8月~9月に実施された同調査(回答者496名)では、組織の多層化や部門間の分断(サイロ化)に加え、「ナレッジの分散や活用不足」が新たな課題として顕在化しています。
また、人材育成の鍵を握る「1on1」や「エンゲージメントサーベイ」といったマネジメント施策について、導入自体は進んでいるものの、実際の「運用や活用のあり方には企業や部署によって大きなばらつきが見られる」ことが明らかになっています。
つまり、研修で学んだ内容を現場で実践(レベル3:行動変容)しようとしても、1on1を通じた適切なフィードバックが得られなかったり、部門間の壁によって実践の機会が奪われたりするリスクが高いということです。費用対効果を最大化するためには、研修の実施と並行して、社内のコミュニケーション基盤そのものを見直すHRBPの視点が不可欠です。
研修後のフォローアップとKPIの振り返り
これらの課題を踏まえ、研修後のフォローアップをいかに機能させるかが、費用対効果を大きく左右します。まず大事なのは、フィードバックの場です。どのような学びを得られたのか客観的に判断できるよう支援し、実践の場を用意します。受講者が進んで実行するのを待つより、運営側が機会を提供するほうが確実です。そして何より、現場で孤立しないよう、上司や同僚の理解を促しておくことが不可欠です。
工夫を重ねて研修を完遂したら、実際にその研修が課題解決はされたか、KPIは達成したかを振り返るプロセスに入ります。振り返って確認し、定期的に評価を繰り返すことで改善点が見つかれば、内容をブラッシュアップしていきます。このPDCAサイクルが、真に費用対効果の高い研修を実現させるのです。
全社研修の効果測定の落とし穴と個別評価の重要性
効果測定を行う際、人事担当者がしばしば陥る罠があります。それは、全社的な研修の効果を一括りで評価しようとすることです。全社の研修の費用対効果は、個別にビジネスの費用対効果と考えるべきです。
とくに全社に対して行っているような大規模な育成過程の効果は、業績や企業文化の変化のうち、一体どれだけの範囲が研修の影響なのかを割り出すメソッドがないため、測定が極めて困難です。複雑化した組織全体の階層教育や全体へのアプローチでは費用対効果は算定できないと割り切ることも必要です。
行き詰まった場合は、個別にビジネスとして捉えて費用対効果を洗い出すと良いでしょう。特定の部署に対して研修を行った場合は、その部署の業務成果に直接効果が現れるので、比較的簡単に研修の費用対効果を把握できるものです。あらかじめ目標や戦略に基づいてカリキュラムを作り、個別のビジネスとして扱うのが鉄則です。
端的に言えば、事業部や部署単位の現場の人的課題を解決した総和が全社の費用対効果になるということです。もちろん間接的な効果もあるので、複数の視点からの評価を加えながら、あらかじめ適切な指標やKPIを設定して策定していくことが、最も現実的で精度の高い効果測定の手法となります。
費用対効果を高める研修の成功事例
最後に、実際にソフィアが支援し、費用対効果が上がる研修の成功事例となったケースを紹介します。研修の目的を現場の事業課題と結びつけ、実践的な行動変容を促すことに成功した事例を参考に、自社の研修設計に落とし込んでみてください。
株式会社NTTデータ
株式会社NTTデータ 社会基盤ソリューション事業本部は、中堅社員を対象に、ディスカッションを通して中期経営計画策定への提言を考えるワーキンググループ型のプログラムを実施しました。
将来的なミドルマネージャーを育成するために、経営層が策定する「新中期経営計画」を30歳前半の中堅社員に真剣に考えてもらうというチャレンジングな機会を提供しました。最終的に経営層にプレゼンさせ、本気でディスカッションさせるという内容です。抽象的な問題に早期でアプローチする能力が育ち、経営マインドとエンゲージメントの向上に役立つ、極めて費用対効果の高い実践的研修となりました。
株式会社EPクロア
株式会社EPクロアでは、コロナ禍を契機に階層別研修をオンライン化する取り組みがスタートしました。ソフィアはラーニングエクスペリエンスデザイン(LXD)の手法を生かした研修の企画と、実施の支援を行いました。
従業員の「こうなりたい」を促すところから始め、「方法を学ぶ」「業務で使う」「できたという達成感を得る」という一連の体験をデザインし、受講生が主体的に取り組む仕掛けをつくることに成功しました。社内研修で能力が向上する人が増えると、研修に関する全社的な関心も向上し、組織全体のスキルアップへの道筋が見えてくるという好循環を生み出しています。
まとめ
企業は、コストと時間をかけて実施した研修によって、どれだけの事業貢献が得られたのかを厳格に把握する必要があります。研修の効果はシンプルに判断できないものだからこそ、あらかじめ具体的なKPIを設定し、何をもって効果が出たと判断するか、基準を定めることが重要です。
正確な費用対効果(ROI)を導き出すには、受講者の人件費などの機会損失を含めた投下資本の把握と、行動変容による利益創出の予測が欠かせません。また、人的資本開示の潮流の中で、人事部門には長期的な研修体系の構築だけでなく、HRBPとして現場の短期的な課題解決にコミットする姿勢が求められています。
どのような点を目的に据えるべきか迷ったら、抽象的な能力開発ではなく、企業が抱えている生々しい「事業課題」に立ち返るのがおすすめです。弊社ソフィアの調査が示す通り、現場の1on1やコミュニケーション基盤の整備を並行して行いながら、LXDやPBLといった実践的な研修を実施し、自社の持続的な実績向上へと繋げていきましょう。


