不確実な時代のラーニングエクスペリエンス ~ニューノーマルにおける企業研修の姿とは?~

#Eラーニング#ラーニングデザイン#働き方#研修・ワークショップ

19.Nov.2020

新型コロナウイルス感染症流行の影響で在宅勤務が広がり、人材育成の現場においても大規模な集合研修の実施が難しい状況が続いています。今年度、予定されていた集合研修を急遽オンライン研修に切り替えた企業、集合研修のプログラムを単にオンラインに置き換えただけでちゃんと効果が得られるのか不安に思っているHRご担当者も多いのではないでしょうか。

しかし、ここで自らに問いかけてみてほしいのです。「そもそも新型コロナ流行以前に行っていた集合研修では、どのような効果を得られていたのか」「集合研修の講義で伝えた知識や、グループワークから出てきたアウトプットは、受講者がその後各自の現場に戻った際、実務に生かされていたのか」――これらの質問に自信を持って答えられない方にとって、この悩み多きコロナ禍は、研修のあり方を根本から見直す良い機会に変わるかもしれません。

なぜ研修の成果が出ないのか~ラーニングエクスペリエンスデザインとは~

集合研修実施後のアンケート結果が良好で「研修は成功した!」と思ったのに、現場に戻った受講者の日常業務には研修の結果が生かされていない。それもあって受講者の上長が研修の効果に懐疑的になっている…という企業の人材育成ご担当者の嘆きを、以前からよく聞いていました。企業として、現場に必要と考えられることを研修プログラムという形で提供しているが、思ったような効果が得られない。この背景には何があるのでしょうか。

さまざまな調査や研修の運営側と受講者双方へのヒアリングから見えてきたのは、「研修の対象者となる社員の行動や感情」への理解が欠けているという事実でした。研修の担当者にとって「成功だった」と感じられた研修も、受講者の立場から見ると以下の図のようになります。

何の心の準備もなく研修に参加して、その後何のフォローもなければ、参加者にとって研修はその場限りの体験となり、日常に戻れば忘れられてしまうのです。そこで、近年HRの分野において注目されているのが「ラーニングエクスペリエンスデザイン(またはラーナーエクスペリエンスデザイン、以下LXD)」という考え方です。これは、「研修で何を教えるか」という会社視点からではなく、「受講者がどこでどのような体験をして、どのような感情を抱くか」という社員側の視点から学習の機会や環境を設計することです。

会社が「これを学んで実践してほしい」と強制しても、それは社員の自発性を奪うことになりかねません。実践につなげるためには「ありたい状態」から逆算して、時系列の中で社員の体験を考えていく必要があります。

上の図からわかるように、研修で学んだことの実践までを時系列で考えると、研修はその中の一つの地点にすぎません。この一連の流れの中で、いかに学習内容の必要に対して受講者の共感を得て、現場での生かし方を知ってもらうか。また、職場に実践の機会を設けて学習内容を実務につなげてもらうかが重要になります。そのためには、研修の前後を含めて、多様な関係者を巻き込みながら学習者と絶え間のないコミュニケーションを積み重ね、実践への障壁を一つひとつ取り除きながら受講者の動機付けをはかることが必要なのです。

デジタルコミュニケーションツールの活用で研修の姿が変わる

ソフィアでは新型コロナ流行以前から、LXDの考え方に基づいて、お客様企業の課題や社員の状態をあらかじめヒアリングした上で個別に設計した研修プログラムを提供してきました。その中では、全国から社員が一堂に会する集合研修を一連の流れの中の山場として位置付け、その準備期間やインターバル、事後フォローを設計し、運営していました。

しかし、今年のコロナ禍で集合研修ができなくなり、すべてオンライン上で研修を展開することになったのです。その体験から、さまざまな新しい発見がありました。

まず、在宅勤務の普及によって企業内におけるデジタルコミュニケーションツールの活用が進んだことで、研修前後の受講者との日常的なコミュニケーションが取りやすくなりました。これまでも研修前後にメールやYammerなど複数の手段で事務局スタッフが参加者をサポートしたり、研修上でのチームごとにYammer上にコミュニティーを作成し、研修と研修の間にそこでディスカッションしながらプレゼン資料を作成したり、ということを行っていたのですが、それらのやりとりがこのコロナ禍において、よりスムーズで充実したものになりました。

また、これまでリアルの場で行っていた集合研修をZoom上での研修に切り替えたことで、より集合研修とその前後のプロセスがよりシームレスにつながったことも感じています。たしかに、一つの場に集まる機会がなくなったことで、場を共有することで得られる一体感や熱気はこれまでと異なるものになりました。しかしZoomで上の研修であっても、全体の流れとのつながりのなかでオンラインツールを効果的に使用し、コミュニケーションをデザインすることで、参加者の気づきや行動変容が生まれる機会にしていくことができると考えています。

オンライン学習における「伴走者」の重要性

そんなことを社内で話していたとき、学校教育の現場での変革推進をサポートしている弊社代表の廣田から、「角川ドワンゴ学園N高等学校(以下、N高)」の話を聞きました。N高は開校からわずか4年で生徒数が1万5千人超と、日本一の規模の高等学校です。通常、高校と言えば教師は各教科を教えながら担任のクラス持って進路指導や生徒指導も行う…というイメージですが、インターネットを駆使した通信教育を行うN高では、授業は専門の講師による映像教材で教え、担任の先生は生徒に対する個別のフォロー、いうなればコーチングに専念しているそうです。それによって、個別のニーズに合わせた質の高い教育を効率的に実践し、成果を出しているということです。映像教材を使ったアクティブラーニングと、担任によるコーチングを組み合わせた教育はアメリカの小学校などでも一部で採用されており、コロナ禍で世界的にオンライン学習のニーズが高まる中、拡がっていくのではないかと思います。

これを企業の研修に当てはめると、授業を教える専門の講師は「集合研修で教える講師」、担任の先生は「集合研修前後における参加者の学びや学習内容の実践をサポートするスタッフ」と考えられます。ここで研修の鍵を握るのは個々の受講者と直接やりとりをするスタッフです。このスタッフに求められるのは、学習内容に関する専門知識よりもむしろ、受講者をサポートし、意欲や力を引き出すための「伴走者」としての能力。たとえば質問力や傾聴力といったコーチングのスキルです。そして、受講者に対して適切なタイミングで適切な情報提供をするキュレーションのスキルも必要となってきます。スタッフがいかにしっかりと受講者に伴走し、学習への動機付けや実践へのきっかけづくりを行えるかが、受講者の学習成果を大きく左右するのです。

テクノロジーと人の力で新しい学びをつくる

働く人の価値観の多様化、働き方の多様化が進む中、コロナ禍で在宅勤務が普及し、多くの組織で求心力の低下が課題となっています。ニューノーマルの働き方において、「会社が教えたいことを教える」研修を続けていてもこれまで以上に効果が得にくくなるのは明白です。もちろん、ひとつの場に集まって参加者と講師が顔を合わせる集合研修の価値がなくなるわけではなく、条件さえ整えばリアルの集合研修を行うことは有効でしょう。ただ、それを意味あるものにするには、学びの全体の流れの中で、集合研修の役割を再定義する必要があります。

企業におけるデジタルコミュニケーションツールの活用は、LXDの考え方で研修を再設計する好機となります。テクノロジーの進歩と社会の変化により、これまでよりも効率的に、より高品質で実践につながる学習体験を提供できる可能性が広がったのです。そして、コミュニケーションの「場」がデジタルに移行する中、個々の受講者をサポートする「人」の力は一層重要性を増しています。

ソフィアではお客様企業の胸を借りながら、研修ご担当者とともに、ニューノーマルにおける企業研修のあるべき姿を模索しています。その結果はまたこの場やセミナー等を通じて皆様にお伝えしていく予定です。ご興味のある方はお問い合わせください。

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