次世代の育成 職場体験の意義 中学生が「仕事」を問い直す対話の場「そふぃトーク」から見えたもの
最終更新日:2025.12.03
目次
「仕事とは何か」——社会にでてもなお、この問いの答えを探し続け、多くの社会人にとっての永遠のテーマであるかのようなものです。
ましてや10代の若者にとって、仕事に対するイメージはつかみどころもなく、ただ漠然と「やがて来る人生のステージ」なのではないのではないでしょうか。
そんな中、昨年に引き続き11月17日ドルトン東京学園中等部2年生の2人を招き職場体験を行いました。
同校の取り組みである「ぶっちゃけ、ドルトーク」(生徒と教師がぶっちゃけて発言する場)の精神をそのままに、社員との哲学対話を通じて、仕事を「稼ぐ手段」以上の意味を持つものとして再定義する試みです。
はじめに
こんにちは。株式会社ソフィアの石黒咲恵です。
2025年11月17日、ドルトン東京学園の中等部2年生2名が、職場体験プログラムの一環としてソフィアを訪れました。
今回の職場体験は、単なる業務見学ではなく、「仕事とは何か」という根源的な問いに向き合う、対話を軸とした特別なプログラムです。
同校での「ぶっちゃけ、ドルトーク」という対話文化を職場体験に再現し「そふぃトーク」として展開。
社員との哲学対話を通じて、2人の生徒が自分たちなりの「仕事の定義」を見出していく過程には多くの学びがありました。
本記事では、その2日間の記録をお伝えします。
ソフィアとして職場体験に取り組む背景
ソフィアでは、越境をカギにして地域を元気にしていくこと、地域企業を活力あふれる魅力的な場とすることで、人の行き来を創り出すことをビジョンに掲げ、2021年より「ソフィアクロスリンク」という関連会社が設立されました。
ソフィアで20年培ったインターナルコミュニケーションのテクノロジーやメソッドを活用し、地域の人と組織を元気にするというミッションのもと、地域の関係資本をもとに企業と行政、企業と学校、企業同士が繋がり、相互に越境しあうことで新しい価値を生み出す支援を行っています。
このたびドルトン東京学園から依頼を受けて、中学2年生の職場体験プログラムに参加することになりました。
ドルトン東京学園では自由と協働を原理として掲げ、生徒たちが常に自分自身の興味関心に沿って多くのことが探求できるような学びの場を提供する中で、将来の進路を定めていく「仕事を知る」ということにも力を入れています。
今回の職場体験では、常に学び続け自分たちを見つめ続けているドルトン東京学園の中学2年生2名が、ソフィアで「仕事とは何か」という問いに向き合いました。
職場体験のテーマ設定と2人の目標
職場体験における目標
今回参加した2人は、それぞれ明確な問題意識を持って職場体験に臨みました。
Aさんの問い:
「仕事は稼ぐための手段。他にはどんな意味合いがあるのか、話を聞いて知りたい」
Bさんの問い:
「仕事は互いを満たし合えるものだと考えているが、好きなことを仕事にしても給与が高くないこともある。どう折り合いをつけているのか。熱意のない人も含めて、どんなふうにモチベートしているのか」
この2つの問いは、まさに多くの働く大人たちも日々向き合っている普遍的なテーマです。
「ドルトーク」から「そふぃトーク」へ
ドルトン東京学園には、「ぶっちゃけ、ドルトーク」という特色ある取り組みがあります。
先生と生徒が率直に意見を交わし合う対話の場で、生徒から「課題が多すぎる!」といった本音も飛び交うこの場は、互いの価値観を知り、理解を深める貴重な機会となっています。
ソフィアの担当者がこの話を聞き、「哲学対話」の手法を提案したところ、2人から「同じようなことを学校でもやっています!」という反応がありました。
ソフィアでは「それぞれ考え方の異なる社員がいるので面白い。哲学対話の中で、多くの人の話を聞いたり、価値観を知ることができるのではないか」と考え、学校での対話文化を職場に持ち込んだ「そふぃトーク」が誕生しました。
2人が設定した具体的な目標
Aさんの目標:
- 学校の課題として:職業観がある程度固まって、将来に対する考えを何段階か深められるような状態になっていたい。
- 個人として得たい学び:DSC(学校活動)の活動に役立てられるようなことが知りたい。趣味と仕事の両立のしかた。
Bさんの目標:
- 学校の課題として: ソフィアで働いている方々の考えや職業観を頭に詰め込んで帰りたい。また、話を聞くことはあっても体験したことはなかったので、職場のリアルを知りたい。
- 個人として得たい学び:夢と仕事をどう両立しているか。壁にぶつかったときにどちらを優先し、欠けてしまった方をどう補っているのか。また、コンサルタント業界において大切なお客様の話を聞く力はどう育てたのか。
2人とも、単に「仕事を見る」だけでなく、「仕事とは何か」を深く考え、自分なりの答えを見つけたいという明確な意図を持っていました。
そふぃトーク(1)
好きと仕事の両立の難しさを知ったとき、どちらを優先している?
この仮説をもとに、ソフィアの社員たちとの対話が始まりました。
対話から得られた学び
対話を通じて得られた気づき:
- 得意なことを仕事にする = 誰かの役に立てる = その仕事が好きになる
- 趣味を仕事にしているわけではないが、本当に興味がないことは仕事にしにくい
- 趣味を仕事にするのと、関心があることを仕事にするのは違う
- 気持ち面での優先と時間面での優先は違う
- 関心のあるものを仕事にしている人が多かった
- 色々な会社を回ったりするうちに関心の向く方へ行っている
- 関心や人間関係は仕事と深く結びついている
- 課題は変えられないけど仕事は選んだり変えられる
結論
- 『好きを仕事にしている人』と『趣味と仕事を分けている人』の2パターンではない。だんだんと好きになる人や、少しずつ得意・好きな仕事を絞っていく人もいるので、経験を積み重ねることも大切なのではないかと考えた。
- 仕事は絶対ではないから、選んだり変えたりして自分に合うものを見つける
当初の二元論的な仮説から、より多様で柔軟な職業観へと視点が広がっていきました。
そふぃトーク(2)
人とかかわりを深める上で気をつけていること
対話から得られた学び
社員たちとの対話を通じて、以下のような深い洞察が得られました:
- 興味がない人との会話でも、前向きな態度を作ることでその人への感情も後からついてくる
- 相手がつまらないと感じたら自分の感性が足りていない。他の人から見たら面白いかもしれない
- 仕事なので相手が好きかどうかはあまり関係ない
- 人とかみ合わないことがあっても、その人は自分の世界の1登場人物にすぎない
- 相手の話を聞く(過去・現在・未来、自分の知らないこと)
- 共通体験をすると仲良くなる
- その人の話を面白がる(態度に感情が引っ張られる)
結論
- 「相手への関心は自分の行動で変えることができるのではないか。また、相手は自分から見えている面だけがすべてではないので、色々な視点から見ることが大切。」
- 「相手の話に関心をもって楽しむ、面白がる」
- 人間関係における主体性と、視点の多様性の重要性に気づいた様子が見て取れます。
職場体験を終えて——2人のまとめ
Aさんの振り返り
「職業体験に来る前までは、将来の仕事を早く決めてそこに向かって走っていきたいという焦燥感があった。目標が決まらないと日々の時間が意味のあるものにならないのではないか、という気持ちがあったものの、多くの人の職業観に触れて、ゆっくり決めていってもいいと思えるようになった。むしろゆっくり構えて、ぼんやりとこの先を見据えることで選択肢と可能性が増えるのではないかと思う。」
「学校で学んでいく中で本当に必要な教科なのか?と考えることが多く、勉強するモチベーションがなかなか持てないことが多かった。でも、自分がやりたいことや意味が分かるだけでなく、実際にやってみたり行動することで視野が広がり、自分の興味関心が見えてくる。長い目で見て多くのことに触れて学びながら自分自身の進路を決めていくことが重要だと改めて感じた。」
Bさんの振り返り
「自分の知りたいことに対しての答えを探るだけでなく、自分が今まで持っていなかった価値観も会社の方々から学ぶことができた。また考え方だけでなく、説明の仕方や会社の方々同士のかかわり方も、学校と同じところや違うところがあって新鮮だった。」
「両立する・しないだけでは収まらないことが分かった。そのとき何を優先するかは環境によって変わるし、そもそも『好き』と『趣味』も同じではない。」
「そふぃトーク」が生み出したもの
今回の職場体験で特筆すべきは、生徒たちが自ら問いを設定し、仮説を立て、対話を通じて検証するというプロセスを踏んだことです。
従来の職場体験が「体験する」「見学する」ことに重点を置くのに対し、そふぃトーク」は「問う」「対話する」「考える」ことに焦点を当てました。これはまさに、ドルトン東京学園が大切にする主体的な学びの姿勢そのものです。
対話が開いた新しい視点
2人が持っていた問いは、対話を通じてより深く、より豊かなものへと変化していきました。
「仕事は稼ぐ手段 or それ以上?」という二元論から、「仕事の意味は多様で、時間とともに変化する」という柔軟な視点へ
「好きを仕事にする or 分ける」という選択から、「関心を育て、積み重ねていく」というプロセス重視の視点へ
「早く決めなければ」という焦りから、「ゆっくり構えて可能性を広げる」という余裕のある視点へ
社員側の学び
この職場体験は、受け入れた社員側にとっても貴重な機会となりました:
「『職業観』という、普段仕事や生活している中では特に意識することのない概念に改めて向き合ういい機会でした。」
「私は何気なく、なんとなく意思決定をしていたり作業をしていたりすることが多いのでは?と気づいてしまいました。働くことに対して定期的に考えてみるのは良いかもしれない。」
「まっさらな目で、将来に対してたくさんの可能性を感じているおふたりの言葉を通して、自分自身ももっと素直に『何をやりたいか?やってみたいか?』を問い直したいと思いました。」
中学生の問いかけが、社員たちにとっても自身の職業観を見つめ直すきっかけとなったのです。
私にとっての学び
今回、職場体験の企画・運営に関わる中で、ドルトン東京学園から来た中学生がアンケート設計をする様子や、慣れないインタビューをする姿を見て「自己分析が上手で、自分のことをよく考えているのだな」「将来を見据えて常に生活しているのだな」ということを感じて刺激を受けました。
一番最初に参加した職場体験の詳細を詰めるミーティングの中で「ソフィアに来たからこそ学べた、といってもらえるような時間を作りたい」という話をしていたので、2人の振り返りの言葉を聞いて、それが伝わっているように感じられてとても嬉しく思うと同時に、そのことに関われたことを幸せに思っています。
おわりに
職場体験を終えた2人は、「自分たちの中での仕事の新しい定義」を見出すことができたでしょうか。
おそらく、明確な「答え」を得たというよりも、より多くの「問い」を持ち帰ったのではないでしょうか。それでいいのだと思います。なぜなら、「仕事とは何か」という問いに、唯一絶対の答えなどありません。
大切なのは、問い続けること。話し続けること。そして、自分なりの答えを更新し続けることです。
「ぶっちゃけ、ドルトーク」の精神は、「そふぃトーク」として企業の中で花開き、そしてまた学校へと戻っていきます。この循環の中で、生徒たちの職業観は、これからも成長し続けるでしょう。
2025年11月17日、ドルトン東京学園の中等部2年生たちは、「働く」ということの多様な姿に触れ、考えるきっかけやヒントを持ち帰ったはずです。
子どもたちと同じく私たちも改めて原点に立ち返る貴重な時間を共有しました。今回新しい学びの場を一緒に作り上げてくれた、学園関係者のみなさんと生徒さん、本当にありがとうございました。
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