自律型組織を作るには? 自律型人材が育つ環境を作る4つのポイントと企業事例
最終更新日:2026.06.30
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最近、組織マネジメントに関する話題のなかで、「自律」という言葉をよく耳にするようになりました。自律型組織、自律的な組織、自律的なキャリア、自律的な働き方……と、企業の中期計画や経営戦略、Webメディアなどでもよく見かけます。従来のトップダウン型による指示待ちの姿勢から脱却し、社員一人ひとりが自律的に意思決定を行い、組織の目標達成に向けて主体的に行動する「自律型組織」への移行は、現代のビジネス環境において大企業が生き残るための急務となっています。
この記事では、自律型の組織とはいったいどのようなものなのか、なぜいま必要とされているのか、どうすれば自律型の組織が作れるのかという点について、さまざまな企業の組織変革に携わってきたコンサルタントの経験をもとに、実際の企業事例を交えながら解説していきます。
自律型組織の定義と他の組織形態との違い
自律型組織とは、一部の管理職や経営層に権限が集中するのではなく、各部署や社員一人ひとりが自律的に意思決定を行い、組織の目標達成に向けて主体的に行動する組織形態を指します。
これまでのビジネスシーンで主流であった「階層型組織(ピラミッド型組織)」は、上から下への指示命令系統が明確に整備されており、大量生産や定型業務を効率的に進めるのに非常に適した構造を持っています。しかし、この構造のもとでは、現場からの提案が上層部に届き、承認を得るまでに多くの会議や稟議といった時間を要してしまいます。
一方で自律型組織では、現場の社員やチームに対して一定の権限が委譲されているため、顧客のニーズや市場の変化に対して迅速に対応できるという強力な特徴を備えています。上司からの指示を待つのではなく、直面している状況に応じて社員自らが最適解を判断し、すぐに行動へと移すことが期待されます。
また、自律型組織の概念のなかには、アプローチの違いによっていくつかの代表的な枠組みが存在します。それぞれの組織形態の特徴をまとめると、次のとおりです。
- アジャイル組織:小規模で多様な専門性を持つメンバーがクロスファンクショナルなチームを組み、短いサイクルで試行錯誤を繰り返しながら柔軟にプロジェクトを進める組織形態です。
- ティール組織:フレデリック・ラルー氏が提唱した概念であり、組織を一つの「生命体」として捉えます。上司と部下という階層による管理を排し、全メンバーが目的実現のためにセルフマネジメントを行う組織です。
- ホラクラシー組織:ティール組織と似たフラットな形態ですが、人を対象に管理するのではなく「役割(ロール)」を明確に定義し、その役割の範囲内において完全な意思決定の権限を持たせる、厳格なルールに基づく手法です。
自律型組織とキャリア自律の相違点
自律型組織と関連して人事領域で頻繁に語られる言葉に「キャリア自律」がありますが、これらは対象とする範囲と目的に明確な違いがあります。
そもそも「自律」とは、自らの規範や意思に基づいて自分自身をコントロールし、行動する内的な要素を指します。他者の力を一切借りない「自立」や、決められたことを率先して行うだけの「自主性」とは異なり、状況を判断して自ら正解を導き出し、それに責任を持つ力が求められます。
この前提において「キャリア自律」とは、従業員個人が自身の能力や価値観を深く理解し、主体的にキャリアプランを描いて学習や経験を積んでいく状態であり、あくまで「個人」に焦点を当てた概念です。企業に依存せず、自身の市場価値を高めていく個人の姿勢を指します。
対して「自律型組織」は、そうした自律的な個人が集まり、お互いに連携・協働しながら「組織全体」の目標達成に向けて連動する仕組みや環境そのものを指します。いくら個人のキャリア自律を促す研修を実施しても、組織の構造や意思決定のプロセスがトップダウンのままであれば、その個人の能力は組織の成果として還元されません。個人の自律と組織の自律、この両者を同時に機能させることが、持続的な企業成長には不可欠なのです。
自律型組織のメリットと構築に向けた課題
自律型組織への移行には、多くの企業が大きなポテンシャルを感じていますが、運用面での難しさも存在します。ここでは、導入を検討するうえで事前に把握しておくべきメリットと課題について解説します。
最大のメリットは、意思決定のスピードが飛躍的に向上することです。現場に権限が与えられているため、上司の承認プロセスを待たずに素早く課題に対処でき、顧客のニーズの変化やトラブルに対して即座に最適解を提示できるようになります。加えて、自らの裁量で仕事を進められる環境は、社員の個性を存分に活かすことができ、仕事に対する誇りやモチベーション、エンゲージメントを強力に高めます。多様な価値観を持つ社員同士が主体的に意見を交わすことで、既存の枠にとらわれない新しいアイデアやイノベーションが生まれやすくなる点も、大きな利点だと言えるでしょう。
一方で、自律型組織ならではの課題やデメリットも存在します。各チームが独立して動く傾向が強まるため、企業全体での情報共有が滞りやすく、他部署で同じような施策が重複して進行してしまったり、重要な情報が特定のチーム内でブラックボックス化してしまったりするリスクが高まります。
また、これまで上司の指示を待つ働き方に慣れていた社員が、自ら考えて行動できるようになるためには、マインドセットの根本的な転換が必要であり、人材育成には多大な時間とリソースを要します。さらに、従来の明確な役職や階層がない場合、誰が最終的な責任を負うのかが曖昧になりがちであり、個人の成果とチームの成果のバランスをどのように評価するかといった、人事制度や評価プロセスの複雑化にも対応しなければなりません。
自律型組織が必要とされる背景
はじめに、現代においてなぜ自律型組織が必要とされているのか、その背景に迫ってみましょう。
市場の成熟
まず背景の一つとして、市場の成熟によって商品・サービスがコモディティ化し、足りないものがなくなってしまったということが挙げられます。
かつて日本企業が輝かしい発展を遂げていた高度経済成長の時代には、“ないものをつくる”という機会が多く存在していました。つまり、「まだ世の中に存在しない」「あると便利」というニーズから商品やサービスを創出していたのです。それらの商品やサービスを生活や企業活動に取り入れることで、人々の暮らしや仕事の生産性が飛躍的に向上していたため、計画的につくれば、ある程度の売り上げが見込める傾向にありました。
技術の進歩や消費者の動向がある程度予測可能な状況であれば、上意下達で組織を管理し、計画的に事業計画を遂行することが有効です。そのため、多くの日本企業では各役職の役割や権限が明確なヒエラルキー型の組織が作られ、短期的な目標達成を重視する経営が行われていました。
その頃と比べると、現在は多くの市場が成熟し、商品・サービスが消費者に行きわたり、“ないものがない”というような状態です。それゆえ、まったく新しい商品・サービスを作り出すことの難易度は高まっています。新たな商品・サービス開発の糸口を探すことに、どの企業も必死になりながらも、基盤となる既存事業は持続的に成長させなければなりません。
新たなものを作り出すことと、あるものを着実に成長させること——この両輪を動かしていくには、これまでと同じように計画の実行に強みを持った組織運営方法では、求める成果をあげていくことは困難です。上から指示されたことを確実に遂行するだけの組織では、イノベーションの創出は見込めません。新たなものを作り出していくためには、現場の社員が事業の現状について問題意識を持ち、自分事として考え、発信・行動し、経営への提案・提言を行えるような組織風土や仕組みが必要なのです。
技術や社会の急速な変化・不確実性の高まり
次に挙げられるのは、現代は技術の急速な変化をはじめ、感染症の流行、大規模災害、地政学的な問題などによって、市場環境の変化が予測不可能な状況になってきたということです。企業は状況に応じて変革していくことが必要であり、常に答えのない問題と向き合い続けなければならなくなりました。
明確な答えのない状況においてスピーディーに問題を解決するには、各現場の社員が目の前の情報から主体的に考え、対応策を検討し、職場内で議論を進め、部門長や場合によっては経営に対して提案・上申を進めることが求められます。上の指示を待つのではなく、それぞれの社員が自律的に判断・行動できる組織へ変化することが求められるようになったと言えるでしょう。

働き方や社員の多様化
もう一つ考えられる背景として、リモートワークの普及など働き方の変化や、働くことに対する価値観の変化、社員(人材)の多様化などが挙げられます。
2020年以降、新型コロナウイルスの流行によって出社を制限せざるを得ない状況が続き、企業において急速にテレワークが普及しました。同じオフィスの中で、見えるところで働いていた頃は、相手の状況や表情を見て仕事を依頼・相談したり、フォローしたりすることができました。しかし、テレワークでは相手の状況が見えません。見えないところは上司が管理できないため、「上司が見ていなくても自律的に動ける社員」が求められているとも考えられます。
また、社会の変化にともない、企業で働く人材の多様化や、働くことに対する価値観の多様化が進み、かつて人材の同質性の高い組織で行われていた“あうん”の呼吸のコミュニケーションは通用しなくなりました。このような背景もあり、社員がもともとある規範に倣うだけではなく、それぞれの状況に応じて臨機応変に判断し、自律的に動くことが求められる時代となっているのです。
自律型組織が育たない原因と自律を阻む要因
多くの企業が自律型の組織を目指し始めている一方で、実際に企業のさまざまな方とお話をすると、「自分のタスク以外には協力的ではない」「結局、言われたこと以外はやらない」など、部下や他部門・他部署、または上司に対する不満が止まらないケースが多く見受けられます。
ここでは、ソフィアのこれまでの経験を踏まえて、なぜ自律型の社員が育たないのか、なぜ自律型の組織ができないのか、その原因について考察します。
前時代型のままの組織構造とワークスタイル
現在、多くの企業が、短期的な事業計画の実現を重視する従来型の組織から、企業が存在する社会的な価値や意義(パーパス)を定め、それを実現するための組織へと変革を目指しています。しかしそれらの企業の現実を見てみると、組織の運営実態が30年前と変わらず「超」上意下達で、上長からの指示命令がすべてであり、現場の社員は目の前の目標に追われ、長期的な目標は飾ってある絵に等しい状態になっている……ということも珍しくありません。
社員の自律を促すには、社員にある程度の自由や裁量を与え、自分で判断・行動できる環境を整えることが必要です。しかし実際は、自律型組織へ変革するという目標を掲げながら、上意下達型の組織体系や、管理・手続きを重視する旧来型のワークスタイルが維持されている場合も多いのです。
失敗を恐れ、現状維持にこだわる組織風土
次に考えられる要因として、出る杭が打たれる、やる気のある個人が周囲につぶされるなど、社員の自律性が他者によって折られてしまうような環境が挙げられます。その背景にあるのは、失敗を恐れる組織風土です。
たとえば、経営が多様性やインクルージョン、自律など、次々と新しいキーワードを掲げ、その実現は現場に丸投げされることがあります。また、とりあえず会社として1on1制度を導入し、上司と部下の面談を通じて現場の挑戦を後押ししようという話も耳にします。そして、1on1などの場で上司は立場上「やってみたらよい」「応援する」と表面上は言うものの、実際に現場の社員が取り組みを提案してみると、上に話を通してくれなかったり、遠回しになかったことにされたり……ということも起きているようです。
「挑戦しろ!」という言葉を多くの組織で耳にしますが、実際に現場の社員に話を聴いてみると、次のような現実が次々と出てきます。
- 新しい企画や改善アイデアを出しても「忙しいから」と相手にしてもらえない
- 立案したところで、重箱の隅を突かれ、無能のレッテルを貼られる
- 事業アイデアを出せば、あちこちからの意見を取り入れなければならなくなり、結局もとの企画の趣旨が何だったかわからなくなる
- しまいには「そんなことはいいから目の前のことをやれ」などと言われる
これらのなかには、「せっかくなら部下の提案を通しやすくしたい」「部下に失敗させたくない」と思う上長や、部門・部署全体のバランスを見ている管理職が、良かれと思ってアドバイスしているケースも含まれます。しかし、そういった好意が結果として、意見をあげる人たちの意思を折ってしまうこともあるのです。これらの経験が重なると、現場の社員は「余計なことは考えない」「アイデアを思いついても提案しないほうが利口だ」と、現状維持を重視するようになってしまいます。
一人歩きする「自律型組織」「自律型の社員」という言葉と本質理解の不足
自律が進まないもう一つの原因として、「自律型組織」「自律型の社員」という言葉の本質が適切に理解されていない、ということが挙げられます。
これは、経営側は自律型組織・自律型の社員の創出を目指そうとしているものの、「そのために何をすべきか」という点まで議論できておらず、現場任せになってしまっているケースです。号令はかけるものの、そこで満足してしまい、制度や組織を変えるところまで至らず、結局現状と変わらないままになっている、ということです。
組織風土を変え、社員の意識・行動を変えるには、「組織の仕組みを変える」「変化に向けた投資をする」などによって企業の強い意志を示すことが重要です。そのためには、今目の前にある仕事や制度を否定することが求められる場面も出てくるはずです。ところが多くの企業では、仕事や組織の仕組み自体は現状維持を前提としたまま、経営が現場へ「自律型になれ」と号令だけかけているのが現状です。これでは、結局何も変わりません。
自律型組織に必要な心理的安全性の確保
自律型組織が正常に機能するためには、社員が失敗や批判を恐れずに挑戦できる「心理的安全性」の確保が絶対的な基盤となります。ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授が提唱した心理的安全性とは、チーム内で自分の意見や疑問を率直に発言したり、ミスを報告したりといった「対人関係のリスク」を取っても、メンバーから馬鹿にされたり拒絶されたりしないという安心感が共有されている状態を指します。
心理的安全性が低い職場では、無知や無能と思われることを恐れ、失敗を隠蔽したり、波風を立てない現状維持の行動ばかりが選択されるようになります。逆に、心理的安全性が高いチームでは、問題が起きた際に犯人探しをするのではなく、チーム全員で前向きに解決策を探る対話が生まれるため、結果的に組織としてのイノベーションや学習が促進されます。立場が上の人間が自ら弱みを見せたり、発言の機会を均等に設けたりするマネジメントの工夫が、自律的に動ける風土の土台を築くのです。
自律型組織を形成するためのGRPIモデル
社員の自律性を引き出し、組織としてのまとまりを持たせるための具体的なフレームワークとして、「GRPI(グリッピー)モデル」が非常に有効です。このモデルは、アメリカの組織論者でMITスローン・スクールの客員教授でもあったリチャード・ベックハード氏が提唱したもので、チームが健全に機能し成果を出すための4つの構成要素の頭文字をとったものです。
- Goal(目標):チームのビジョンや「何をもって勝ちとするか」という目標が明確であり、メンバー間で深く共有されている状態を指します。
- Role(役割):目標達成のために、誰がどの領域に責任を持ち、どのように貢献するのかという役割分担が明確化されている状態です。
- Process(手順):効率的に業務を遂行し、情報共有や意思決定を行うためのルールや会議の進め方などのプロセスが整っている状態です。
- Interpersonal Relationship(関係性):メンバー同士がお互いを尊重・信頼し合い、率直な意見交換ができる心理的安全性が確保された対人関係のことです。
自律的なチームを作ろうと組織改革を進める際、多くのリーダーはコミュニケーションの改善、すなわち「I(関係性)」から着手しがちです。しかし、GRPIモデルにおいては「G(目標)」から上から順に見直すことが本質的な解決につながるとされています。目標が曖昧なまま役割だけを割り振られても、メンバーは「何のためにその仕事をするのか」を見失い、ベクトルが揃いません。まず共通の目標をすり合わせ、それに紐づく役割とプロセスを明確に設計することで、初めて健全な関係性が育まれ、組織の枠組みのなかで社員が自発的かつ自律的に動けるようになるのです。
弊社ソフィアの調査に見る組織コミュニケーションの実態
自律型組織の理論やフレームワークを実践に落とし込むためには、現在の社内環境や社員の意識を正確に把握する必要があります。ここでは、弊社ソフィアが実施した「フルIC実態調査2025」のデータ(従業員数1,000人以上の企業に勤める623名を対象)をエビデンスとして交えながら、大企業におけるインターナルコミュニケーションの現在地を分析します。
調査回答者の属性
まず回答者の属性です。年齢構成を見ると、25〜29歳が最多であるものの、おおよそどの年代も10%以上で分布しており、幅広い世代の傾向を網羅しています。業種構成は、製造業がおよそ3分の1を占め、金融・保険業、サービス業と続きます。勤務形態については、一般社員が6割以上を占めており、現場のリアルな声が反映された調査となっています。
多様化するワークスタイルとリモートワークの実態
現在のワークスタイル(リモートワークと出社の実施比率)を確認すると、出社前提の働き方が過半数を占める一方で、フルリモートとハイブリッド勤務を合わせた割合も半数に迫る結果となりました。勤務形態を選択する自由度についても、勤務形態の柔軟化が進み、自分主導で選べるという回答が過半数を超えています。希望する勤務形態としても、在宅勤務を組み合わせたハイブリッド勤務を望む声が多数を占めました。
一方で、直近1年間におけるリモート勤務環境の変化としては、リモート勤務の可否にかかわらず現状維持が多数派である一方、出社回帰や自由度の低下も一定程度見受けられます。とはいえ、こうした変化の受け止めには出社回帰の動きに対する前向きな評価も存在し、リモート勤務のウェルビーイングへの効果としては、生活満足度の向上や柔軟な働き方による生きやすさが高く評価されています。リモート勤務による業務生産性への効果についても、生産性に好影響があったとする前向きな評価が多数となりました。
働き方が多様化し、物理的な距離が離れた状態でも成果を出すためには、監視がなくても自律的に動ける組織基盤が、これまで以上に重要となっているのです。
職場満足度を左右する人間関係
組織の基盤となる職場に対する満足度を問うと、職場を良いと判断する好意的な回答が過半数を占め、否定的な評価は2割程度にとどまりました。さらに満足度の要因を分析すると、職場評価の要因として人間関係が最多となり、職場環境や待遇を上回る結果が示されています。組織内の関係性が、社員のエンゲージメントに直結していることがわかります。ただし、自社のエンゲージメント調査結果に対する個人の認識においては、中立的な回答が最多で、好意的な評価も同程度であり、実態との間に若干の乖離が見られます。
社内における情報共有の現状
情報共有の現状としては、主要な発信テーマを見ると、社内メディアで取り上げられるのは経営・事業関連が中心であり、現場の取り組みはやや少なめであることが浮き彫りになりました。現場での情報共有のための施策としては、面談・1on1が上位を占め、研修の活用も目立ちます。一方、日常的な社内コミュニケーションツールの利用実態においては対面が圧倒的であり、デジタル活用には業界・働き方による差が見られます。
上司とのコミュニケーションと1on1の課題
自律型組織の鍵となる上司とのコミュニケーションの課題については、「困っていない」という回答が一定数ある一方で課題は分散しており、一律の処方箋が通用しにくい状況です。
マネジメントの要となる1on1に関しては、6割強が実施しており着実な広がりを見せていますが、実施頻度は3カ月〜半年に1回が中心で、1on1の主旨が伝わっているか疑問符がつく頻度にとどまっています。面談における上司への率直な意見・課題の伝達状況については、率直に伝えられるという回答が多数を占めるものの、課題を抱える層にどう対処すべきかが今後の論点となります。
1on1における上司の傾聴・受容姿勢については、6割超が「傾聴してくれている」と回答しており、基本姿勢は伝わりつつあると言えます。しかし、1on1による業務・キャリアへの貢献度については、有用性を感じる層が4割を超える一方で「どちらでもない」が最多となっており、対話の仕組みが形骸化し、本来の目的である社員の自律や成長に結びつききれていない実態が明らかになりました。
部署間コミュニケーションとナレッジ共有の実態
組織を横断した活動においては、7割以上が部署間コミュニケーションの必要性を感じているものの、実際の部署間における情報共有の満足度は各評価が拮抗しており、他部署からの情報状況には大きなばらつきが見られます。部署間コミュニケーションの促進への取り組み状況を見ると、施策は定例会議が中心で、取り組みがない会社も存在します。情報の流通経路も定例会議が最多であり、複数の経路で共有されている状態です。
また、社内のナレッジ共有状況については「どちらでもない」が最多で評価が拮抗しており、ナレッジ共有システムの導入・活用状況も、口頭共有が最多、ツールを通じた共有も見られる一方で、組織制度として位置づけている企業は少数にとどまっています。その背景には、情報整理やアクセス面に課題があることが判明しました。
非公式コミュニケーションと心理的安全性の関係
心理的安全性に関連する非公式コミュニケーションのデータも、非常に興味深い結果を示しています。コミュニケーションスタイルのニーズ分析では、バランス志向が半数を占め、求めるスタイルが混在している点に留意が必要です。
社内イベントの実施・開催状況としては、歓送迎会などの交流イベントが最多で、表彰や共有会も行われています。社内イベントの継続意向と期待度は、各種イベントが総じて好評ななかでも、部門内外の交流機会への評価が特に高くなっています。継続を希望する背景・理由を探ると、チーム連携や組織への一体感を高める点が、社内イベントを高く評価する要因となっていました。社内イベントの有無と職場評価のクロス集計でも、明確な差が確認されています。
また、社内飲み会への参加頻度については、既存の関係づくりが多めではあるものの、新しい関係づくりを目的とした参加も見られました。参加の主な目的は関係づくりであり、断れない雰囲気には注意が必要であるものの、業務上の有用性については、飲み会が業務にも好影響を与えると感じる前向きな評価がどのタイプでも過半数に達しています。飲み会で得られた良い影響としては、リフレッシュと関係づくりに効果があり、築いた関係性が業務に好影響をもたらしていることがわかります。
さらに、非公式・偶発的なコミュニケーションの発生頻度は、「全くない」「ほとんどない」を合わせて3割弱で、職場ごとの雑談頻度に大きな差があるものの、雑談が業務にプラスになるという前向きな評価が過半数を占めています。その具体的な効果は飲み会と似た傾向で、リフレッシュや関係づくりに寄与することが示されました。雑談の頻度と職場評価においても、雑談の頻度が高いほど職場評価が高い傾向がはっきりと出ています。
これらを踏まえた「関係構築に最も役立つもの」としては、「一緒に仕事をする経験」が最重要であり、飲み会・食事会や雑談もその効果が認められる結果となりました。業務内外の対話が、心理的安全性の土台を作ることが裏付けられたと言えるでしょう。
エンゲージメントサーベイの活用実態
最後に、組織改善のために導入されているエンゲージメントサーベイの活用状況を見ると、サーベイの実施・活用状況には企業間で差があることがうかがえます。活用目的としては、サーベイ結果から従業員の声を把握し、職場の改善に活かすことが主目的であると認識されつつも、結果に向けた目標管理の実態としては、相対的に評価する企業が多数派で、目標数値を持たない企業も多い状況です。
危険なのは、サーベイ運用が形骸化し、多くの現場で手段が目的化して、改善より数値の底上げに走ってしまうことです。結果として、属性別に見るサーベイ結果の有用性実感においては、サーベイの結果が現場には活かされていないと感じられている層も少なくありません。制度を入れるだけでは自律性は育たないことが、データからも明白になっています。
自律型組織を作るために必要な4つの要素
ここまでご紹介してきた、自律型組織の実現を阻害する要因の数々は、最近発生したような短期的な組織の問題に基づくものではなく、長い時間をかけて形成されてきた組織風土に基づくものです。これらは、何らかのツールを入れさえすればすぐに解決するようなものではありませんし、経営者が「自律的になってください」とメッセージを発したからといって、一朝一夕に実現できるものでもありません。
それでは、自律型組織を作るために、何から手をつけたらよいのでしょうか。この章では、これまでの内容を振り返りながら、4つのヒントをご提示します。
組織役割の変化に対する経営陣の認識
短期計画の達成に全力を注ぐことが重要だった時代に比べ、現在は予測不可能な時代へと変化しています。そのような状況において、企業は自社が存在する社会的な価値や意義を定め、計画の変更も含めて変化に柔軟に適応しながら、長期的なビジョンに向かって邁進する経営スタイルへと変えていくことが必要になっています。
事業環境と組織の役割に完全なるパラダイム・シフトが起きていることを、まずは経営層がしっかりと認識することが重要です。
ビジョン・理念の再定義・再解釈と組織全体への共有
次に、ビジョン・理念の再定義や再解釈をすることで、「自社がどのような姿を目指して、どのような価値を提供したいのか」を明確にし、それらを社内に共有することが大切です。
古くから社是やビジョン、理念がある企業は多くあります。そこでは「自分たちは何のために存在するのか」「何を社会的な役割とするのか」といったことが定められていますが、それらは往々にして抽象的で、幅広い解釈ができるものです。そこで、理念やビジョンに基づいて、社会で果たすべき役割を果たしながら企業が成長していくプロセスを具体的にしたものが、事業戦略や事業計画です。
これらを遂行するためには、「計画や戦略を実現することが個人や社会にとってどんな意義のあることなのか」をすべての社員が納得し、自分事として行動できるようにすることが必要です。そのためには、もともとある理念やビジョンを現在の社会状況に照らして再解釈したうえで、まずは組織としての有りたい姿や提供したい価値を明確にし、社員に共有すべきだと言えるでしょう。
ビジョン・理念を社員が咀嚼・吸収するための全方位コミュニケーション
企業の理念やビジョンを現状に照らして再解釈し、「組織としての有りたい姿」や「提供したい価値」を明確にしたら、それを社員が理解・共感できる形のメッセージとして繰り返し伝えることが必要です。
さまざまな社内メディア(情報接点)を使って繰り返し伝えるだけでなく、社員が自発的に理念やビジョンについて考え、話し合うような場を設けていくことで、社員がメッセージを咀嚼・吸収し、自分のものとして行動に反映できるようになるでしょう。ただし、非対面のコミュニケーションが増えている現状においては、以前とは異なるアプローチも必要となってきます。
コロナ禍で高まった組織内コミュニケーションの難易度
コロナ禍でのテレワークによって、業務のデジタル化が急速に進みました。ビジネスチャットなどによる非対面・非同期のコミュニケーションが増加するなかでは、コロナ禍以前と同じような共有の方法では成果をあげにくくなってきています。そこには2つの要因があると考えています。
1つは、デジタルツールを通じて会社が発信する情報が増えすぎて、社員の情報処理速度が追いつかず、重要なメッセージが届きにくくなっていることです。もう1つは、オンライン上のコミュニケーションでは表情やしぐさ、口調などのノンバーバル(非言語)の要素が伝わりにくいため、上司・部下の対話や対話会などの場を通じて、理念・ビジョンに対する社員の納得感を醸成しにくくなっていることです。
非対面でも理念・ビジョンを体現できる社員の育成方法
今後、自律的に判断・行動し、企業の理念・ビジョンを体現できる社員を育成するためには、次のように施策のステップを変えていく必要があるのではないかと考えています。
これまでのコミュニケーション施策のステップは、次のとおりです。
- まずは情報を発信して、理念・ビジョンに対する社員の認知・理解度を高める
- 対話を通じて共感・納得感を醸成する
- 具体的なアクション(行動)に結びつける
しかし、オンラインのコミュニケーションが中心となっている状況においては、「社内で発信される情報が多すぎて、必要な情報が届けたい相手に届きにくい」「ノンバーバルな要素も含む深い対話をする機会が減ってしまい、共感・納得感の醸成が困難になる」などのデメリットがあります。
そこで、これからのコミュニケーション施策のステップは、次のように変えていくとよいでしょう。
- 理念・ビジョンに沿ったアクションを取る機会を作る
- 自分のアクションについて考えさせる機会を設ける(考えざるを得ない仕組みや制度をつくる)
- 考えたことを周囲と共有し、対話することを通じて、理念・ビジョンへの理解や共感、納得感を醸成する
前提として、これまで社員に行ってきた理念・ビジョンに対する認知・理解度を高めるコミュニケーションは実施しながらも、施策全体を上記のようなステップに変えていく必要があると考えています。深い対話を通じて理念・ビジョンに対する社員の共感・納得感を醸成することが難しい状況においては、まず理念・ビジョンに沿ったアクションを体験できる機会を設けたうえで、そのことについて考え、話す体験をすることが、理解や共感、納得への近道なのです。
社員の意見・アイディアを正当に評価・反映する組織づくり
一連のコミュニケーション施策を通じて社員の意識や行動が変化しても、それが実際の仕事に活かせないのであれば、いずれは元に戻ってしまいます。そうならないためには、次のような仕組みを構築していくことが不可欠です。
- 社員が日常的にアイデアを出し、それを経営に伝えられるような仕組み
- 社員の発意が正当に評価されて企業活動に活かされ、フィードバックが受けられるような仕組み
具体的には、新規事業提案制度やイントラネット上のアイデアボックス、表彰制度、経営との対話会などが挙げられます。これらを、前述した理念・ビジョン浸透のステップの「アクション」としても機能するよう組織のなかに位置づけることができれば、より効果的でしょう。
自律型組織の実現に向けた各社の取り組み事例
この記事の最後に、実際に自律型組織の実現に向けて取り組まれた事例をご紹介します。これらの事例は、先述した「これからのコミュニケーション施策のステップ」のように、理念・ビジョンに沿ったアクションと、その体験について話すことを重視した施策となっており、ご紹介したプロセスに加えて、社内メディアを使った多方面からのコミュニケーション施策もあわせて実施しています。
A社:社員による問題解決プロジェクトの推進
A社では、社員が手触り感を持って会社の変革に携わることができるよう、社員による問題解決プロジェクトを推進しています。
具体的な施策のプロセスは、次のとおりです。
- プロジェクトメンバーを公募し、自薦・他薦でプロジェクトを組成する
- 集まったメンバーで、ビジョンの実現に対して現在問題だと思うことを掘り下げ、ディスカッションを行う
- 真因を突き止めて課題化し、「関連部門や周囲のメンバーの実感や考え」「過去の取り組み」などについても、意思決定の要因や課題感をヒアリングする
- ヒアリング結果をもとに課題を推敲して解決策を立て、自ら経営にプレゼンする。その際、プレゼンまでに実行可能な箇所はプロジェクト内でパイロット導入し、改善案を検討したうえで提案を行う
- 提案が通ったものから、随時全社展開を行う
この取り組みを通じて、これまではどちらかと言うと評論家肌だった社員や、声が小さく意見が通りにくかった社員などの強い問題意識や思いが形となり、前向きなパワーを生み出すことに成功しました。
B社:ビジョン実現と職場内の問題解決に向けた各部門への担当者・予算の配置
B社では、部門ごとに課題解決のプロジェクトメンバーを置き、ビジョンの実現と職場内の問題解決をテーマとして、独自の予算を持った取り組みを行っています。
具体的な施策のプロセスは、次のとおりです。
- 部門ごとにプロジェクトを組成する
- メンバー間であるべき職場の状態をディスカッションし、それに対する問題意識を洗い出
- 洗い出した問題意識の発生要因を検討し、職場の社員に対してヒアリングやアンケートを実施する
- それらの結果をもとに「短期的に解決できること」「長期的に取り組むこと」「全社ごととして取り組むこと」などに仕分けし、できることから着手する
- 部門を超えてプロジェクトメンバー同士がディスカッションできる会を月に1回運用し、取り組み方の共有や協働を行う
プロジェクトメンバー以外の社員の関心も高く、意見がプロジェクトのメンバーに集まるようになるなど、推進しているメンバーの成功体験が大きい事例となりました。
まとめ
いかがでしたでしょうか。自律型組織を形成するためには、まず経営層がその必要性について理解を深め、納得することが重要です。そこで得たことを通して、社員一人ひとりに伝えていくことで、社員自身もまた、自らが取り組む必要性や納得感を醸成させる機会になるでしょう。
この記事では、自律型組織に向けた施策のステップや事例をご紹介しましたが、有効となる具体的な施策は企業様によって異なります。貴社が目指すべき自律型組織とはどのような組織なのか、お悩みの際は、企業マネジメントを支援しているソフィアまでぜひご相談ください。













