自己効力感を高める方法とは?人事が押さえる実践策と組織づくり
最終更新日:2026.05.28
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変化の大きい事業環境では、社員に「言われたことをこなす力」だけでなく、「自分ならやれる」と見通しを持って挑戦し続ける力が求められます。自己効力感は、その行動の起点になる概念です。本記事では、自己効力感を高める方法を、人事・研修担当者が組織に実装できる形で、理論、測定、1on1、研修設計、組織づくりまで整理して解説します。
自己効力感の基本
自己効力感とは
まずは、自己効力感という言葉について、その意味を解説します。
自己効力感とは、ある目標に対して、それを自分が遂行できると信じられる感覚を指します。物事を自分ならうまくできるはずだ、自分ならやり遂げられると信じられることから、「自己可能感」という言葉で表されることもあります。
この概念は、1970年代にスタンフォード大学教授のバンデューラ博士が提唱したのをきっかけに、心理学用語として広く使われるようになりました。彼の主な論旨を2つの要素から説明します。
自己効力感(Self-Efficacy)
ある特定の状況や、それにおける課題に対処するスキルを、自分で評価する概念です。自分の能力にどのくらいの価値を見出し、信じているのかを表します。自己効力感を持っているかどうかは、トラブルに対応するときにどのように行動するのかを左右します。また、モチベーションをいかに高く維持するか、目標のレベルをいかに高め、いかに達成するかに関わってきます。
高い自己効力感を持っている場合は、その人はどのような困難に相対しても主体的に、エネルギッシュに行動することができます。目の前の試練を冷静に受け入れ、堂々と行動できるのです。
ビジネスにおいては予期せぬ問題や未経験の課題に直面した場合、問題を先送りにするか、表面的に対処し解決したことにしてしまうこともあるでしょう。課題や問題に対して果敢に挑戦することは簡単なことではありません。しかし、挑戦や問題への人間の心理状態を、根性論や観念的なアプローチではなく、心理学的なアプローチで構造化することで、理性的に問題に対処することが可能となります。
自己効力感を形成するのは、成功体験や、他人の成功を見た体験、また、他人から得た励ましの言葉などです。また、ストレスをうまく管理し、感情面を整えておくことも、自己効力感を発揮するためには不可欠です。
簡単に言えば、自己効力感とは「自信」のことです。成功体験という過去と同じ問題に対処する際には、成功体験を基に、同じことをすれば、乗り越えることができるということです。自己効力感における大きな特徴は、自己の成功体験だけではなく、他者の成功や体験から、自信を産み出すことも可能であるという点です。「真似る」=「学ぶ」ということも重要な要素となります。
Banduraは、結果期待と効力期待を区別しています。
結果期待とは、「その行動を取れば結果が生まれるだろう」という見込みです。これに対して効力期待は、「その行動を自分が実行できる」という見込みです。企業の人材育成で重要なのは、社員が施策の意味を理解するだけでなく、「自分にも実行できる」と感じられる状態をつくることです。結果の説明だけでは行動は変わらず、実行可能感まで設計してはじめて、挑戦や継続につながります。
社会的学習理論
他人の行動や態度、感情面を観察し、模倣しながら学びを深めていくという考え方です。この理論は「モデリング」と呼ばれる、観察を通して模倣するプロセスを表す概念を軸に展開されています。
たとえば、人が社会的なスキルを学ぼうと思ったときは、生徒が先生をモデリングしたり、子どもが親をモデリングすることが一般的です。このように社会が、学習者の大きな拠り所となっているのです。
社会的学習理論は、教育や心理療法などの分野で、スキル獲得のために応用されています。今や教育や心理学の範囲を超えて、広く社会に影響を及ぼし、人が行動や態度、感情面を作り上げるプロセスにおいて、大きな意味を持っています。
ビジネスやOJTにおいて、「モデリング」と呼ばれる行為は広く利用されています。これは他者を真似ることやアイデアを盗むことを指します。自己効力感において、この行為の再確認が重要です。
モデリングを応用すれば、自分のキャリア形成や毎年の目標設定などは、成功している人の行動や考え方を模倣することで、自分の成功体験を作り出すことができます。
自己効力感(Self-Efficacy)が、必要な時代背景
自己効力感は、個人が課題や目標に対してどれだけ自分を信じ、自信を持つかに関する主観的な感覚です。これが高まると、行動が変わり、目標に向かって動けるようになります。かつては企業や社員が同じ目標や課題を持ち、学ぶ内容も似通っていました。そのため、個々人が自分を高める必要性はあまり高くありませんでした。
しかし現在は、経済成長の伸び悩みやビジネスの複雑化・多様化が進んでいます。業務や専門性も複雑になり、個々の役割が多様化しています。その結果、個人が自分で目標や課題を設定し、自律的に行動する必要性が増し、自己効力感がますます重要になっています。かつてのように外部からのプレッシャーだけでなく、個人が自分で意欲的に取り組むことが求められていると言えます。
また、課題や問題が発生した場合、ロールモデルが社内にいないこともよくあります。しかし、社内にロールモデルがいなくても、外部と連携することができます。産業界や国を越えたネットワークも存在し、個人が越境学習として別の組織やコミュニティに参加して学ぶことも可能です。
このテーマを人事が扱うべき理由は、自己効力感が個人の気質だけでなく、職場条件に左右されるからです。
弊社ソフィアの調査では、職場を良いと感じる要因として「人間関係・上司部下関係」が53.8%で最多でした。さらに、情報共有施策としては「チームメンバーとの定期面談・ミーティング」54.1%、「1on1」50.1%、「研修・トレーニング」49.6%が上位を占めています。つまり、自己効力感を高める方法は、個人のメンタルの話ではなく、対話・育成・情報共有をどう設計するかという組織の話でもあります。
自己効力感の3つの種類を押さえておくと、施策の打ちどころが見えやすくなります。
実務上は、自己統制的自己効力感、社会的自己効力感、学業的自己効力感のように分けて理解されることが多いです。新しい業務に踏み出す力を高めたいのか、対人関係の協働を高めたいのか、学習継続力を高めたいのかで、施策は変わります。大企業の人事では、特に自己統制的自己効力感と社会的自己効力感を意識すると、1on1、フィードバック、越境学習、部門間連携の施策に落とし込みやすくなります。
自己効力感と自己肯定感の違い
自己効力感と自己肯定感は似た言葉として扱われがちですが、焦点が異なります。自己効力感は、特定の課題や行動を遂行できるという見通しです。一方で自己肯定感は、できる・できないにかかわらず、自分の存在や価値を受け入れられる感覚に近い概念です。
人事実務でこの2つを分けて考える意味は大きいです。たとえば、部下が「自分には価値がない」と感じているなら自己肯定感への支援が必要です。しかし、「自分には価値はあると思うが、新しい役割をうまくやれる自信がない」という状態なら、必要なのは自己効力感への支援です。後者には、成功体験の設計、観察学習、具体的なフィードバック、感情の整え方といった施策が有効です。
人事施策では、この違いを曖昧にしないことが重要です。表面的な励ましだけでは、「私は価値がある」と感じられても、「この業務を実行できる」とは思えないことがあります。だからこそ、自己効力感を高める方法を考える際には、行動の再現性と行動前の見通しに焦点を当てることが大切です。
自己効力感が高いときの仕事への影響
自己効力感を高めることは、仕事をはじめあらゆる行動にポジティブな影響を与えます。では、具体的にはどのようなメリットを期待できるのでしょうか。自己効力感を高めることで生じる、感情面・行動面の変化を見ていきましょう。
積極的な挑戦
自己効力感が高まると、どのようなことにも積極的にトライできるようになります。自分ならできると信じられているから、まだ経験したことのない仕事にも臆さずに取り組めるようになるのです。また、チャレンジしている際の行動も主体的になり、成果が向上することが期待できます。自分に期待しながら物事に取り組み、その通りのパフォーマンスを達成できると、ますます自己効力感が高まりプラスのサイクルが生まれます。
失敗からの学び
自己効力感が高まっていると、失敗しても自分を必要以上に責めたり、消極的になってしまうことはありません。失敗や困難もプラスのエネルギーに変えて、「自分ならできる」とまたチャレンジできるのです。
自己効力感とは、目標に向かって行動する際に必要な時間と学習の構造を理解することでもあります。したがって、失敗から立ち直りやすくなるというよりも、むしろ失敗から学ぶことができるようになると言えるでしょう。
モチベーションの維持
自己効力感は、モチベーションに大きく関わります。自分を信じているからこそ、マイナスなことが起きたり、つらい気持ちになったとしても、モチベーションを維持することができます。物事の達成には、モチベーションを維持できるかどうかが大きく関わるものです。自己効力感が高ければ、継続した努力と成果の双方を実現することができるでしょう。
自己をメタ的に見ることで、モチベーションの浮き沈みを理性的に把握できるようになります。そのため、モチベーションが下がりにくくなり、結果的にモチベーションを維持しやすくなります。つまり、行動を継続しやすくなるのです。
研究でも、自己効力感は仕事の成果との関連が確認されています。
1998年のメタ分析では、仕事関連パフォーマンスとの有意な関連が示されました。さらに近年のメタ分析では、タスク遂行だけでなく、組織市民行動のような役割外行動との関連も示されています。人事が自己効力感を高める方法に投資する意義は、気分を良くするためだけでなく、行動量、継続、協働、役割外貢献まで含めたパフォーマンス基盤を整える点にあります。
自己効力感が低いときに起きやすいこと
自己効力感が低いと、難しい仕事を前にしたときに「やればできるかもしれない」ではなく、「どうせ無理だろう」と感じやすくなります。その結果、挑戦の回避、努力の縮小、早い離脱が起こりやすくなります。Banduraは、自己効力感が努力量や持続性に影響すると説明しており、厚生労働省もセルフ・エフィカシーが低いと、その行動に取り組みにくくなると整理しています。
自己効力感を測る方法
個人の自己効力感を把握したい場合は、一般性セルフ・エフィカシー尺度(GSES)が一つの入り口になります。日本では16項目で構成される尺度が作成されており、信頼性と妥当性が検証されています。この測定法を把握しておくことで、「自己効力感を高める方法」を探している方に対し、現状把握の視点まで提供できます。
ただし、企業人事で見る場合は、尺度の点数だけで判断しないことも大切です。新規案件への立候補率、ストレッチアサインメントの完了率、1on1での自己言及の質、研修後の行動実験の継続率など、行動指標と合わせて見ることで、より実務的な診断になります。
自己効力感を高める方法
ここまで、自己効力感の意味や期待できるメリットについて解説してきました。では、自己効力感を高めるには具体的にどのような方法があるのでしょうか。以下では、実践的な方法をご紹介します。
自己効力感を構成する4つの要素
自己効力感の内容をより深く理解するために、まずはその構成要素を見ていきましょう。大きく分けて4つの観点に分解することができます。
直接的達成経験
たとえばハードルの高いプロジェクトのリーダーを任され、無事に求められていた成果を達成できたとき、直接的達成経験が獲得できたと言えます。「自分だからこそ達成できた」「自分の力が活きた」と感じると、スキルへの自信がつくでしょう。このように、自らが困難に対処しうまく達成することが、自己効力感を培養します。「自分ならできる」と可能性を信じられるようになると、行動が積極的になり、さらなる成功体験獲得の機会が生まれるでしょう。
なお、直接的達成経験は、本人が記憶していないこともよくあります。本当は達成経験にあたるのに、それをポジティブに認知できていないケースです。過去の経験を振り返りながら整理すると、認知していなかった成功体験が見つかることもあるので、じっくり自問してみることが重要です。
代理経験
モデリングとは、自分の経験ではない場合でも、他人の行動や経験を観察し、それを自分の経験の一部として取り入れることです。たとえば、身近な同期がハードルの高いプロジェクトのリーダーを成功裏に収め、望まれた成果を達成したとします。このような場合、それは代理経験として機能します。自分が実際に経験していなくても、同期の成功を見て「あいつにできたなら、自分もできるはずだ」というように、リアルに想像できるからです。
代理経験を有効に活用するためには、その相手の行動や感情面を理解し、具体的な例として自分の中にイメージを落とし込むことが重要です。モデルとなった人物の経験や人格を見誤ると、実際は自分のスキルがなくても何かを達成した気持ちになることがあり、根拠のない自信を得てしまう可能性があります。そのため、冷静かつ客観的に行動することが大切です。
言語的説得
たとえば、ハードルの高いプロジェクトのリーダーを任され、「あなたなら絶対に成功へ導ける」「いつも優秀だから心配していない」などと上司に激励されたとします。このような言語での応援は、言語的説得として自己効力感を育ててくれます。励まされ、応援されることで、自分の価値を信じられるようになるからです。反対に、他人の褒め言葉に影響されるということは、批判的な言語を聞くと自己効力感が低下してしまう可能性もあります。「期待された分だけ成果を出そう」と、モチベーションを高めるポジティブな言葉が大きな支えになっています。
生理的・情動的喚起
自分の感情の移り変わりに意識的であることも、自己効力感を育てます。たとえばプロジェクトのリーダーとして重要なプレゼンテーションを行うとします。このとき、何かを失敗して動揺してしまったら、途端に周囲の目が怖くなり形勢が傾きます。しかし、失敗したときに焦らず冷静に対処できれば、最後までうまくプレゼンテーションを遂行できるでしょう。このように、自分の心の変化を自覚することでうまく受け止められると、自己効力感が養われていきます。人はちょっとした気分の変化や体調の変化で、自己効力感が高くなったり低くなったりするため、自分自身の状態に常に意識を向けることが大切です。
小さな目標設定と成功体験の積み重ね
自己効力感を育んでいくためには、目標を設定し、自分の力でゴールする経験を積み重ねることが大切です。大きな目標を達成できるとその分効果が早く出る可能性がありますが、まずは小さな目標から達成していきましょう。段階的に目標を達成していくことで、徐々に自分に自信が持てるようになり、大きな目標にも挑戦できるようになるでしょう。
学習モデルは大きな成功体験が強調されがちですが、日々の小さな成果も同じフレームワークで整理されることがあり、これによって再現性が生まれます。特にスキル向上において、再現性は非常に重要です。
身近なロールモデルからの学び
どのように振る舞ったらいいのか、具体的なイメージを持つことも大切です。上司や同僚などに身近なロールモデルを見つけると、自分が何に取り組んだらいいのかが具体的に見えてきます。「あの人ができたなら、自分もこれくらい頑張ればできるな」という見積もりが立つのです。ロールモデルとは、「真似ることは学びの基本」という古くからの考え方を、現代的な構造で再定義した言葉です。現代の仕組みを活かして、積極的に真似ることから学びを始めましょう。
過去の成功体験の言語化と再利用
自己効力感を高める方法を考えるとき、多くの人は「新しい成功体験を作る」ことばかりに意識が向きます。しかし実際には、過去の成功体験を思い出し、再現可能な行動として言語化するだけでも効果があります。うまくいった場面を「何となく良かった」で終わらせず、何を準備し、誰に相談し、どの順序で進めたのかを書き出すと、次の行動の見通しが強くなります。
言語的説得をフィードバック設計に変える
「頑張って」「君ならできる」という言葉は入口として有効ですが、それだけでは長続きしません。人事や管理職が意識したいのは、成果ではなく行動の根拠を言語化して返すことです。たとえば、「あの場面で論点整理を先にしたから、相手が安心して話せた」「先週の準備の仕方が今回の成功につながった」といった具体的なフィードバックは、本人に再現可能感を与えます。単なる称賛よりも、次の行動につながる言語的説得になりやすいからです。
感情と体調のセルフマネジメント
自己効力感を高める方法は、能力開発だけではありません。寝不足、過度な緊張、失敗直後の自己否定などが強いと、「できるはずだ」という感覚は持ちにくくなります。重大な商談や登壇の前に、準備ルーティン、呼吸、想定問答、直前の声かけなどを整えるだけでも、自己効力感が発揮されやすくなります。
行動の意味の明確化
自己効力感は、単に自信を持てばよいという話ではありません。その行動がどの結果につながるかを理解し、さらに自分がその行動を実行できると感じられて、初めて動きやすくなります。研修でも1on1でも、「この行動は何のために必要か」「できるようになると何が変わるか」を明確にすると、自己効力感を高める方法としての効果が高まります。
企業における従業員の自己効力感向上施策
1on1の活用
弊社ソフィアの調査では、上司との1on1は「実施が義務付けられている」34.2%、「任意で実施・推奨されている」28.4%で、合計すると6割強に広がっています。一方で、1on1が業務遂行やキャリア形成に役立っているという前向き回答は41.2%にとどまっています。つまり、実施の有無よりも、何を話し、どう振り返り、どの行動を次につなげるかという質の設計が不足している可能性があります。
自己効力感を高める1on1では、まず「最近うまくいったこと」を具体化し、その要因を一緒に言語化します。次に、「次は何をやれば再現できるか」を小さな行動に落とします。最後に、「もし不安があるなら何が障害か」を整理します。この流れにすると、達成経験、言語的説得、情動整理の3つを一度に扱いやすくなります。
評価理由と判断基準の言語化
弊社ソフィアの調査では、上司とのコミュニケーション上の困りごととして、「評価の理由が不明、基準が人によって異なる」が18.6%、「放任や丸投げなど指示が無い」が17.7%、「方針決定の理由が不明、判断基準が示されない」が15.4%挙がっています。自己効力感を高める方法を考えるなら、こうした不透明さを放置しないことが大切です。何をすれば前進なのかが見えなければ、人は「自分ならできる」と感じにくくなります。
人事としては、評価制度そのものの改定だけでなく、日常のフィードバックの質をそろえることも重要です。評価の根拠、期待する行動、改善の方向性が具体的に示されるほど、社員は「次に何をすればよいか」を想像しやすくなります。それが自己効力感の土台になります。
成功体験まで設計する研修
弊社ソフィアの調査では、情報共有施策として「研修・トレーニング」が49.6%と高い比率で使われています。にもかかわらず、研修が受けっぱなしになれば、自己効力感は高まりません。重要なのは、知識を理解したあとに、小さく試し、振り返り、再現できた感覚を持てるかです。
たとえば、管理職研修なら、傾聴の原則を学んだあとにロールプレイを行い、次週の1on1で一つだけ実践する行動を決め、翌週に振り返る設計が有効です。これにより、学習内容が達成経験に変わりやすくなります。自己効力感を高める方法として、研修後の実践機会を設計することは欠かせません。
ロールモデルの可視化
弊社ソフィアの調査では、部署間コミュニケーションの必要性を「必要だと思う」「どちらかといえば必要だと思う」と答えた人が7割超でした。一方で、他部署の情報が十分に入ってくるという回答は大きくばらついています。これは、学ぶべきロールモデルや成功事例が、組織の中にあっても見えにくいことを示しています。
自己効力感を高める方法として、社内報、イントラ、勉強会、発表会、動画インタビューなどを使って、「自分に近い誰かの成功過程」を流通させることは有効です。重要なのは、成功者の華やかな結果だけではなく、「どこでつまずいたか」「何を工夫したか」「最初の一歩は何だったか」まで見せることです。そうすることで、読む側・見る側の代理経験が具体化されます。
心身の健康を支える職場環境
自己効力感を持っていると、仕事に積極的になり、パフォーマンスの向上が期待できます。だからこそ会社は、社員が心身ともに健康に過ごせるよう、環境を整えるべきです。厳しい働き方にならないように残業時間をチェックしたり、メンタルヘルス研修などで精神面のケアを先手を打って行い、社員が満たされるような基盤をつくっていきましょう。
自己効力感を高める方法は、「個人にもっと頑張れと言うこと」ではありません。むしろ、疲弊しすぎない、相談しやすい、失敗を学びに変えやすい職場をつくることです。弊社ソフィアの調査でも、上司とのコミュニケーションにおいて「反論しにくい雰囲気がある、心理的安全性が低い」との回答が13.6%ありました。小さくても、安心して試せる風土づくりが重要です。
施策実装の順番
人事が自己効力感を高める方法を施策化するときは、次の順番で考えると進めやすくなります。
まず、尺度やサーベイ、1on1の定性情報で現状を把握します。次に、管理職のフィードバックと1on1の質を整えます。そのうえで、研修後の小さな実践機会と振り返り機会を設計します。最後に、ロールモデル共有や事例発信で、組織全体に代理経験を広げます。
自己効力感の形成プロセスと研修への落とし込み
現行記事の大きな強みは、自己効力感の形成を「モデリングのプロセス」で丁寧に説明している点です。この流れは、研修設計やOJT設計にそのまま転用できます。理論で終わらせず、職場実装へ接続することで、この記事の独自価値が高まります。
自己効力感を形成する際のプロセス
自己効力感は自らの成功体験の他に、他者の成功体験からも形成することが可能です。ここからは、他者が実行できたことを、自分にもできるかもと自己効力感を高める「モデリング」のプロセスについて解説します。
注意の集中(Attention)
観察対象となるモデルの行動に目を向け、注意を払うことがモデリングにおける最初のステップです。モデルの行動がどのくらいインパクトを持っているのか、自分とモデルはどのように関連するのかといった事柄が、興味のもとになり、注意の集中を喚起します。
たとえば、ある企業で、経験豊富な上司が成功した営業戦略をプレゼンテーションで共有しているとします。部下は、上司のプレゼンテーションスタイルや使用している資料、話し方に注目します。具体的な行動や所作、見える部分に着目することになります。
保持(Retention)
モデルを観察し特定の行動をキャッチすることができたら、それを記憶にインプットしていきます。ただ観察しただけでは、自分の中に残りにくいものです。後に自分の行動に反映させようとしたときのために、言語や視覚のイメージを駆使して記憶として残していきましょう。
たとえば、部下は、上司の営業戦略の要点をメモして記録し、後で復習するために整理します。さらに、プレゼンテーション中に上司が強調した重要なポイントや具体的な例を自分なりの言葉で要約し、まとめます。これによって、上司のアイデアや戦略をより深く理解し、自分の知識として定着させることができます。
特筆すべき部分は、それをどのように解釈するかです。つまり、上司が述べた内容や提示したデータを分析し、自分の視点から理解し、適切なコンテキストや意味を付与します。これによって、情報をただ受け入れるだけでなく、より深く理解し、応用できるようになります。
再現(Reproduction)
続いて、モデルから観察できた行動を、自分の行動として模倣していきます。記憶に残っている通りに再現するためには、何度か練習を重ねるなどの試行錯誤が求められることが多く、知識やスキルなどによっても、再現がうまくできないことがあります。
たとえば、部下は、学んだ営業戦略を実際の営業活動で活用します。その際には、上司が使用したテクニックやアプローチを参考にし、自分のスタイルに合わせて微調整する必要があるでしょう。これによって、学んだ内容を実践に移し、効果的な営業活動を行うことができます。
動機付け(Motivation)
モデルから観察できた行動を模倣する際の、動機をつくるステップです。自分がうまく模倣できることを信じられるかどうかも、モチベーションを左右します。また、報酬があったり、社会的承認を得ることができたりすると、動機付けが大きく進むことがあります。
たとえば、営業の社員であれば、営業成績が良くなると昇進や賞与の可能性が高まるとします。それが動機となり、上司から学んだ戦略を実践しようとする意欲が高まります。
このようなプロセスを進めながら、モデリングは実践されています。教育では教師や親が、心理療法では治験者が、職場環境ではリーダーなどが模範的行動をとると、学習者の能力にリンクしていきます。モデルとなる人の行動が模範的であれば、新しい行動を学び、自己効力感を形成していくことができます。これまでの行動パターンを変更し、新しい行動を学んでいくために有用な方法です。
まとめ
自己効力感とは、目標に対して「自分が遂行できる」と信じられる感覚を指します。自己肯定感も自分を信じる感覚という意味では似ていますが、自己効力感は現在の状況を踏まえ、未来に向かっていく感情です。自己効力感が高まると、物事に積極的にトライできるようになったり、失敗してもへこたれなくなったり、高いモチベーションを維持できたりします。仕事のパフォーマンスにもプラスになることが多く、ビジネスパーソンには欠かせない感覚とも言えるでしょう。
自己効力感を高めるために、まずは小さな目標を立てて成功体験を積み重ねていくことをお勧めします。社員の自己効力感を高めることができると、一人ひとりの行動が全体に広がり、会社へのさらなる貢献が期待できます。
ただし、人事実務では「本人の気持ちの問題」として片づけないことが重要です。自己効力感を高める方法は、1on1、研修、評価理由の共有、ロールモデルの可視化、安心して挑戦できる関係性づくりまで含めた組織設計そのものです。弊社ソフィアの調査で、人間関係や上司部下関係が職場評価の最重要要因として現れていることを踏まえても、自己効力感は人事の中心テーマの一つとして扱う価値があります。
新任管理職の1on1が形骸化している、研修が受けっぱなしで終わっている、良い事例が部門内に閉じている、といった状態なら、自己効力感の観点から施策を再設計する余地があります。挑戦を続ける組織をつくるには、「できるようにする場」と「できそうだと思える場」の両方が必要です。







