自己効力感とは?期待できるメリットから高める具体的な方法まで徹底解説

人生や仕事、社会において、願望や目標を持つことは誰もができますが、その実現に向けて行動し続けることは簡単ではありません。特に、日本では従来の就社の時代から転職やキャリアの向上が重要視される時代に変化しています。今後は安定した給与や経験が会社に所属するだけでは得られないため、自らのビジネスキャリアを設計し、行動して継続する必要があります。

本記事では、高い目標や挑戦に対して行動し続けるための自己効力感について解説します。また、人事担当者が社員の挑戦や課題達成を促すためのヒントとしても役立つ内容です。

自己効力感とは

まずは、自己効力感という言葉について、その意味を解説します。

自己効力感とは、ある目標に対して、それを自分が遂行できると信じられる感覚を指します。物事を自分ならうまくできるはずだ、自分ならやり遂げられると信じられることで「自己可能感」という言葉で表されることもあります。

この概念は、1970年代にスタンフォード大学教授のバンデューラ博士が提唱したのをきっかけに、心理学用語として使われるようになりました。彼の主な論旨を2つの要素から説明します。

自己効力感(Self-Efficacy)

ある特定の状況や、それにおける課題に対処するスキルを、自分で評価する概念です。自分の能力にどのくらいの価値を見出し、信じているのかを表します。自己効力感を持っているかどうかは、トラブルに対応するときにどのように行動するのかを左右します。また、モチベーションをいかに高く維持するか、目標のレベルをいかに高め、いかに達成するかに関わってきます。

高い自己効力感を持っている場合は、その人はどのような困難に相対しても主体的に、エネルギッシュに行動することができます。目の前の試練を冷静に受け入れ、堂々と行動できるのです。

ビジネスにおいては予期せぬ問題や未経験の課題に直面した場合、問題を先送りにするか、表面的に対処し解決したことにしてしまうこともあるでしょう。課題や問題に対して果敢に挑戦することは簡単なことではありません。しかし、挑戦や問題への人間の心理状態を、根性論や観念的なアプローチではなく、心理学的なアプローチで構造化することで、理性的に問題に対処することが可能となります。

自己効力感を形成するのは、成功体験や、他人の成功を見た体験、また、他人から得た励ましの言葉などです。また、ストレスをうまく管理し、感情面を整えておくことも、自己効力感を発揮するためには不可欠です。

簡単に言えば、自己効力感とは「自信」のことです。成功体験という過去と同じ問題に対処する際には、成功体験を基に、同じことをすれば、乗り越えることができるということです。自己効力感における大きな特徴は、自己の成功体験だけではなく、他者の成功や体験から、自信を産み出すことも可能であるという点です。「真似る」=「学ぶ」ということも重要な要素となります。

社会的学習理論

他人の行動や態度、感情面を観察し、模倣しながら学びを深めていくという考え方です。この理論は「モデリング」と呼ばれる、観察を通して模倣するプロセスを表す概念を軸に展開されています。

たとえば、人が社会的なスキルを学ぼうと思ったときは、生徒が先生をモデリングしたり、子どもが親をモデリングすることが一般的です。このように社会が、学習者の大きな拠り所となっているのです。

社会的学習理論は、教育や心理療法などの分野で、スキル獲得のために応用されています。今や教育や心理学の範囲を超えて、広く社会に影響を及ぼし、人が行動や態度、感情面を作り上げるプロセスにおいて、大きな意味を持っています。

ビジネスやOJTにおいて、「モデリング」と呼ばれる行為は広く利用されています。これは他者を真似ることやアイデアを盗むことを指します。自己効力感において、この行為の再確認が重要です。

モデリングを応用すれば、自分のキャリア形成や毎年の目標設定などは、成功している人の行動や考え方を模倣することで、自分の成功体験を作り出すことができます。

自己効力感(Self-Efficacy)が、必要な時代背景

自己効力感は、個人が課題や目標に対してどれだけ自分を信じ、自信を持つかに関する主観的な感覚です。これが高まると、行動が変わり、目標に向かって動くことができます。昔は企業や社員が同じ目標や課題を持ち、学ぶ内容も似通っていました。そのため、個々人が自分を高める必要はあまりありませんでした。

しかし、現在は経済成長の伸び悩みやビジネスの複雑化、多様化が進んでいます。業務や専門性も複雑になり、個々の役割が多様化しています。その結果、個人が自分で目標や課題を設定し、自律的に行動する必要性が増し、自己効力感がますます重要になっています。昔のように外部からのプレッシャーだけではなく、個人が自分で意欲的に取り組むことが求められていると言えます。

また、課題や問題が発生した場合、ロールモデルが社内にいないこともよくあります。しかし、社内にロールモデルがいなくても、外部と連携することができます。産業界や国を越えたネットワークも存在し、個人が越境学習として別の組織やコミュニティに参加して学ぶことも可能なのです。

自己効力感と自己肯定感の違い

自己効力感と自己肯定感は、両方とも自己認識の世界に関連しますが、自己効力感は課題や目標など自分の外側の対象に焦点を当て、自己が変化し、未来に向かって進んでいく思考です。一方、自己肯定感は現在の自分に焦点を当て、過去の経験や体験を振り返り、その解釈や認識を通じて、現在の自己を評価します。自己肯定感は過去から現在に向かっていく思考と言えます。

重要なのは、未来の挑戦や目標に向かう行動は、自己または他者のモデリングに基づいているということです。モデリングとは、経験や体験を解釈することです。このモデリングがどのようにして生まれるのかについて、以下で解説していきます。

自己効力感を形成する際のプロセス

自己効力感は自らの成功体験の他に、他者の成功体験からも形成することが可能です。ここからは、他者が実行できたことを、自分にもできるかもと自己効力感を高める「モデリング」のプロセスについて解説します。

注意の集中(Attention)

観察対象となるモデルの行動に目を向け、注意を払うことがモデリングにおける最初のステップです。モデルの行動がどのくらいインパクトを持っているのか、自分とモデルはどのように関連するのかといった事柄が、興味のもとになり、注意の集中を喚起します。

たとえば、ある企業で、経験豊富な上司が成功した営業戦略をプレゼンテーションで共有しているとします。部下は、上司のプレゼンテーションスタイルや使用している資料、話し方に注目します。具体的な行動や所作、見える部分に着目することになります。

保持(Retention)

モデルを観察し特定の行動をキャッチすることができたら、それを記憶にインプットしていきます。ただ観察しただけでは、自分の中に残りにくいものです。後に自分の行動に反映させようとしたときのために、言語や視覚のイメージを駆使して記憶として残していきましょう。

たとえば、部下は、上司の営業戦略の要点をメモして記録し、後で復習するために整理します。さらに、プレゼンテーション中に上司が強調した重要なポイントや具体的な例を自分なりの言葉で要約し、まとめます。これによって、上司のアイデアや戦略をより深く理解し、自分の知識として定着させることができます。

特筆すべき部分は、それをどのように解釈するかです。つまり、上司が述べた内容や提示したデータを分析し、自分の視点から理解し、適切なコンテキストや意味を付与します。これによって、情報をただ受け入れるだけでなく、より深く理解し、応用できるようになります。

再現(Reproduction)

続いて、モデルから観察できた行動を、自分の行動として模倣していきます。記憶に残っている通りに再現するためには、何度か練習を重ねるなどの試行錯誤が求められることが多く、知識やスキルなどによっても、再現がうまくできないことがあります。

たとえば、部下は、学んだ営業戦略を実際の営業活動で活用します。その際には、上司が使用したテクニックやアプローチを参考にし、自分のスタイルに合わせて微調整する必要があるでしょう。これによって、学んだ内容を実践に移し、効果的な営業活動を行うことができます。

動機付け(Motivation)

モデルから観察できた行動を模倣する際の、動機をつくるステップです。自分がうまく模倣できることを信じられるかどうかも、モチベーションを左右します。また、報酬があったり、社会的承認を得ることができたりすると、動機付けが大きく進むことがあります。

たとえば、営業の社員であれば、営業成績が良くなると昇進や賞与の可能性が高まるとします。それが動機となり、上司から学んだ戦略を実践しようとする意欲が高まります。

このようなプロセスを進めながら、モデリングは実践されています。教育では教師や親が、心理療法では治験者が、職場環境ではリーダーなどが模範的行動をとると、学習者の能力にリンクしていきます。モデルとなる人の行動が模範的であれば、新しい行動を学び、自己効力感を形成していくことができます。これまでの行動パターンを変更し、新しい行動を学んでいくために有用な方法です。

自己効力感を構成する4つの要素

自己効力感の内容をより深く理解するために、以下では、自己効力感を構成する要素について見ていきます。大きくわけて4つの観点に分解することができます。

直接的達成経験

たとえばハードルの高いプロジェクトのリーダーを任され、無事に求められていた成果を達成できたときは、直接的達成経験が獲得できたと言えます。「自分だからこそ達成できた」「自分の力が活きた」と思うと、自分のスキルに自信がつくでしょう。このように、自らが困難に対処しうまく達成することが、自己効力感を培養するのです。「自分ならできる」と可能性を信じられるようになると、行動が積極的になり、さらなる成功体験獲得の機会が生まれるでしょう。

なお、直接的達成経験は、本人が記憶していないこともよくあります。本当は達成経験にあたるのに、それをポジティブに認知できていないケースです。過去の経験を振り返りながら整理すると認知していなかった成功体験が見つかることもあるので、じっくり自問してみることが重要です。

代理経験

モデリングとは、自分の経験ではない場合でも、他人の行動や経験を観察し、それを自分の経験の一部として取り入れることです。たとえば、身近な同期がハードルの高いプロジェクトのリーダーを成功裏に収め、望まれた成果を達成したとします。このような場合、それは代理経験として機能します。自分が実際に経験していなくても、同期の成功を見て、「あいつにできたなら、自分もできるはずだ」というように、リアルに想像できるからです。

代理経験を有効に活用するためには、その相手の行動や感情面を理解し、具体的な例として自分の中にイメージを落とし込むことが重要です。モデルのもととなった人物の経験や人格を見誤ると実際は自分のスキルがなくても何かを達成した気持ちになることがあり、根拠のない自信を得てしまう可能性があります。そのため、冷静かつ客観的に行動することが大切です。

言語的説得

たとえば、あなたがハードルの高いプロジェクトのリーダーを任され、「あなたなら絶対に成功へ導ける」「いつも優秀だから心配していない」などと上司に激励されたとします。このような言語での応援は、言語的説得として自己効力感を育ててくれます。励まされ、応援されることで、自分の価値を信じられるようになるからです。反対に、他人の褒め言葉に影響されるということは、批判的な言語を聞くと、自己効力感が低下してしまう可能性があります。「期待された分だけ成果を出そう」と、モチベーションがアップするようなポジティブな言葉が大きな支えになっています。

生理的・情動的喚起

自分の感情の移り変わりに意識的であることも、自己効力感を育てます。たとえばプロジェクトのリーダーとして、重要なプレゼンテーションを行うとします。このとき、何かを失敗して動揺してしまったら、途端に周囲の目が怖くなって、形勢が傾きます。しかし、失敗したときに焦らず冷静に対処できれば、最後までうまくプレゼンテーションを遂行できるでしょう。このように、自分の心の変化を自覚することでうまく受け止められると、自己効力感が養われていきます。人はちょっとした気分の変化や体調の変化で、自己効力感が高くなったり低くなったりするので、自分自身の状態にいつも意識を向けていくことが大切です。

自己効力感を高めることで期待できるメリット

自己効力感を高めることは、仕事をはじめあらゆる行動にポジティブな影響を与えます。では、具体的にはどのようなメリットを期待できるのでしょうか。自己効力感を高めることで生じる、感情面、行動面の変化を見ていきましょう。

積極的に挑戦するようになる

自己効力感が高まると、どのようなことにも積極的にトライできるようになります。自分ならできると信じられているから、まだ経験したことのない仕事にも、臆さずに取り組めるようになるのです。また、チャレンジしている際の行動も主体的になり、成果が向上することが期待できます。自分に期待しながら物事に取り組み、その通りのパフォーマンスを達成できると、ますます自己効力感が高まっていきプラスのサイクルを回せます。このように積極的に挑戦することは、自己効力感という枠組みを活用し、自分自身をメタ認識する中で、できると思える根拠を見つけているのです。

失敗から立ち直りやすくなる

自己効力感が高まっていると、失敗しても自分を必要以上に責めたり、消極的になってしまうことはありません。失敗や困難もプラスのエネルギーに変えて、自分になら達成できるとまたチャレンジできるのです。失敗を引きずらずに動けるので、長期的に見て成長できる可能性が高くなります。

自己効力感は、目標に向かって行動する際に必要な時間と学習の構造を理解することです。したがって、失敗に至った経緯を振り返り、失敗から立ち直りやすくなるというよりも、むしろ失敗から学ぶことができるようになると言えます。

モチベーションを維持できる

自己効力感は、モチベーションに大きく関わります。自分を信じているからこそ、マイナスなことが起きたり、つらい気持ちになったとしても、自身を信じてモチベーションを維持することができます。物事の達成には、モチベーションを維持できるかどうかが大きく関わるものです。自己効力感が高ければ、継続した努力と成果の双方を実現することができるでしょう。

自己をメタ的に見ることで、モチベーションの浮き沈みを理性的に把握できるようになります。そのため、モチベーションが下がりにくくなり、結果的にモチベーションを維持しやすくなります。つまり、行動を継続しやすくなるのです。

自己効力感を高める具体的な方法

ここまで、自己効力感の意味や期待できるメリットについて解説してきました。

以下では、自己効力感を高める具体的な方法を紹介します。

小さな目標設定から成功体験を重ねる

自己効力感を育んでいくためには目標を設定し、自分の力でゴールする経験を積み重ねることが大切です。大きな目標を達成できるとその分効果が早く出る可能性がありますが、まずは小さな目標から達成していきましょう。段階的に目標を達成していくことで、徐々に自分に自信が持てるようになり、大きな目標にも挑戦できるようになるでしょう。

学習モデルは、大きな成功体験が強調されがちですが、日々の小さな成果も同じフレームワークで整理されることがあり、これによって再現性が生まれます。特にスキル向上において、再現性は非常に重要です。

身近なロールモデルから学ぶ

どのように振る舞ったらいいのか、イメージを立てることも大切です。上司や同僚などに身近なロールモデルを見つけると、自分が何に取り組んだらいいのかが具体的に見えてきます。「あの人ができたなら、自分もこれくらい頑張ればできるな」という見積もりが立つのです。ロールモデルとは、「真似ることは学びの基本」という古くからの言葉を、現代的な構造で再定義した言葉です。ですので、現代の構造を活かして、積極的に真似ることから学びましょう。

社員が心身共に健康で過ごせる環境を整える

自己効力感を持っていると、仕事に積極的になり、パフォーマンスの向上に期待できます。だからこそ会社は、社員が心身共に健康に過ごせるよう、環境を整えるべきです。厳しい働き方にならないように残業時間をチェックしたり、メンタルヘルス研修などで精神面のケアを先手を打って行い、社員が満たされるような基盤をつくっていきましょう。

まとめ

自己効力感とは、目標に対して「自分が遂行できる」と信じられる感覚を指します。自己肯定感も、自分を信じる感覚という意味では似ていますが、自己効力感は現在の状況を踏まえ、未来に向かっていく感情です。自己効力感が高まると、物事に積極的にトライできるようになったり、失敗してもへこたれなくなったり、高いモチベーションを維持できたりします。仕事のパフォーマンスもプラスになることも多く、ビジネスパーソンには欠かせない感覚とも言えるでしょう。

自己効力感を高めるために、まずは小さな目標を立てて成功体験を積み重ねていくことがオススメです。社員の自己効力感を高めることができると、一人ひとりの行動が全体に広がり会社へのさらなる貢献を期待することができます。

株式会社ソフィア

先生

ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。

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