社員に挑戦してほしいのに、なぜ誰も手を挙げないのか?_挑戦行動が生まれる組織を、個人要因と環境要因の両面から考える
最終更新日:2026.09.15
目次
「もっと挑戦してほしい」「社員に自律的に動いてほしい」。そうしたメッセージを掲げる企業は少なくありません。一方で、実際に手を挙げる社員は一部に限られ、新規事業や改善提案の参加者が固定化している。制度はあるのに使われない。そんなギャップに悩む組織も多いのではないでしょうか。
このとき、原因を「本人のやる気が足りない」「挑戦に向いていない」と個人の問題だけで捉えてしまうと、組織として打てる手は限られます。本稿では、挑戦行動を個人の性格や意欲だけで説明せず、個人要因と環境要因の組み合わせとして捉え直します。挑戦行動とは何か、なぜ今重要なのか、そして組織として何を考えるべきかを整理します。
そもそも「挑戦行動」とは何か
「挑戦」という言葉からは、新規事業の立ち上げや大規模な変革プロジェクトなど、限られた人だけが担う特別な活動を想像しがちです。しかし、組織の中で必要な挑戦はそれだけではありません。日々の業務の進め方を見直すこと、職場の課題に気づいて改善を提案すること、前例のないテーマに小さく着手してみることも、挑戦行動に含まれます。
本稿における「挑戦行動」の定義
仕事において大きな利益を得るために、目的に対して新しいものごとに自発的に取り組む、または現在の仕事を改善すること。ただし、自らの能力で達成が容易であることは除きます。
このテーマを考えるようになったきっかけの一つに、職場での何気ない会話がありました。
ある社員が集客担当の同僚に、「他社のこの施策、うちもやればお客さんが来そうじゃない?」と話したところ、担当者は「うちじゃ無理だよ」と即答しました。
雑談の一場面ではありますが、難しいかもしれないことを最初から「できない」と決め、検討の余地すら持たないことに違和感が残りました。
一方で、同じような状況でも「まず考えてみよう」「小さく試してみよう」と動く人もいます。
では、この違いは何から生まれるのでしょうか。性格や経験の差だけで説明できるのでしょうか。ここからが、挑戦行動を組織のテーマとして考える出発点です。
なぜ今、挑戦行動が重要なのか
企業を取り巻く市場、技術、競争環境の変化は速く、計画を立てた時点の前提が途中で変わることも珍しくありません。新規事業や事業変革のように、事前に正解が見えないテーマも増えています。経営がすべての状況を予測し、現場に正解を指示することは難しくなっています。
その結果、現場に求められる役割も変わります。決められたことを正確に実行するだけではなく、経営の意図を理解しながら、現場で考え、試し、結果を見て修正することが必要になります。挑戦行動は、経営戦略を現場で具体化し、変化に合わせて更新していくための行動とも言えます。
これまでと今の違い
これまで:
上位方針を現場に落とし、決められたことを正確に実行する。
今:
現場で考え、試し、修正する。
想定外を前提に動き、経営の意図を自分の判断で具体化する。
だからこそ、経営メッセージや人材戦略の中で「挑戦」「自律」「新しい価値の創出」といった言葉が繰り返し使われます。ただし、言葉として求めることと、実際の行動が組織に広がることは同じではありません。現場では「手を挙げる人がいつも同じ」「制度はあるが使われない」「上司によって挑戦のしやすさが大きく違う」といった状態が起こります。重要性が語られている一方で、実態はまだ道半ばというギャップです。
挑戦しないのは「本人の問題」なのか
挑戦が起きないとき、組織では「やる気が足りない」「慎重な人が多い」「新しいことに向いていない」と説明されることがあります。
もちろん、個人の意欲や特性は無関係ではありません。ただ、それだけで説明すると、同じ社員が環境や状況によって行動を変えることを見落とします。
| 挑戦しやすい場面 | 挑戦しにくい場面 |
| 上司が「やってみよう」と背中を押す | 上司の反応が読めない |
| 失敗しても学びとして扱われる | 失敗が評価に影響しそう |
| 本業に余白がある | 目の前の業務で手一杯 |
| 前例がなくても歓迎される | 前例がないと止められる |
| 周囲に同じ挑戦をしている人がいる | 誰も手を挙げていない |
このように考えると、問いは「なぜ社員は挑戦しないのか」から、「なぜこの状況では手を挙げにくいのか」「なぜ挑戦が続かないのか」へ変わります。個人を責めるのではなく、行動が起きる/起きない構造を捉えることで、組織として手を打てる余地が見えてきます。
挑戦行動は「個人要因 × 環境要因」で生まれる
私たちは、挑戦行動を個人要因と環境要因の組み合わせとして捉えています。個人の意欲や認知、経験だけでも、制度や文化だけでもなく、両方が相互に影響しながら行動を形づくるという考え方です。
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個人要因 自信、動機、考え方、能力、不確実性への向き合い方など |
× |
相互に影響 環境要因 上司、周囲、風土、裁量、制度・仕組みなど |
たとえば、挑戦への意欲が高い人でも、通常業務で余白がなく、失敗が評価に響くと感じ、上司の反応も読めない環境では行動に移しにくくなります。
逆に、最初から強い挑戦意欲を持っていない人でも、具体的な機会が与えられ、周囲の支援を受け、成功や学習の経験を積むことで、次の挑戦につながることがあります。
挑戦行動を支える10の要因
先行研究であるプロアクティブ行動、ボイス行動、タスク・クラフティング、イノベーティブ行動など、挑戦行動と重なる概念を手がかりに、私たちは挑戦行動に関係する要因を10個に整理しました。
| 区分 | 要因名 | 説明 |
| 個人要因 | 自己効力感 | 「自分ならできる」と感じ、新たな課題にも取り組める感覚。 |
| 内発的動機 | 外的な報酬だけでなく、活動そのものに面白さや意味を感じること。 | |
| 創造的問題解決能力 | 既存の枠組みにとらわれず、新しい解決方法を考えられること。 | |
| 構想力 | 複雑な情報を整理し、目指す状態や進め方を描けること。 | |
| リスク許容 | 不確実性や失敗の可能性があっても、必要な行動を選べること。 | |
| 環境要因 | 心理的安全性 | 批判や拒否を過度に恐れず、意見や疑問を表明できる状態。 |
| 組織風土 | 挑戦や革新を歓迎し、失敗から学ぶことを受け止める文化。 | |
| 明確な役割と裁量 | 期待される役割が分かり、自分の判断で動ける余地があること。 | |
| 周囲の支援 | 上司や同僚から、助言・情報・具体的な協力を得られること。 | |
| 組織構造 | 情報共有や意思決定、部署間連携を進めやすい制度・仕組みがあること。 |
重要なのは、この10要因を独立したチェックリストとして扱わないことです。
たとえば、心理的安全性が高いから自己効力感が上がる、内発的動機があるから組織風土が変わる、といったように10要因は相互に影響し合う関係性となっています。挑戦行動は、複数の要因が組み合わさって生まれます。
全員に同じ働きかけをするだけでは広がらない
要因を整理したからといって、全社員に対して10要因を一律に底上げすればよいわけではありません。
必要な支援は、現在の挑戦行動との関わり方によって異なります。そこで、ある時点の社員の状態を4つの層として捉えることができます。
| ① 先行して挑戦している層 | 新規事業や改善提案などに自発的に取り組み、挑戦行動が日常化している。 |
| ② 挑戦を広げつつある層 | 興味を持ち、機会があれば手を挙げる。環境や後押し次第で行動が加速しやすい。 |
| ③ 挑戦に関心を持ち始めている層 | 重要性は理解しているが、不安やハードルがあり、まだ十分に一歩を踏み出せていない。 |
| ④ 日常業務を中心に担っている層 | 組織の安定運営を支える存在。すぐに挑戦を求める対象ではなく、中長期的な土台となる。 |
ここで大切なのは、4層を固定的な人材タイプとして扱わないことです。同じ人でも、役割や上司、仕事の状況、挑戦経験によって位置は変わります。組織として考えるべきなのは「第4層をなくす」ことではなく、必要なタイミングで社員が次の層へ動けること、そして一度挑戦した人が再び動けることです。
一度挑戦した人を、点で終わらせない
時間軸を入れて考えると、過去に挑戦した経験があるにもかかわらず、現在は挑戦していない人もいるはずです。
たとえば、新規事業提案制度に一度は手を挙げたものの、審査で止まった人、途中でプロジェクトが終わった人、異動や現業の都合で継続できなくなった人などです。
こうした人を「失敗した人」と捉えるのではなく、「一度踏み出した経験を持つ人」と捉えることが重要です。理由は大きく3つあります。
- 一度手を挙げた経験があり、未経験者よりも再び行動につながる可能性がある。
- 提案、検討、周囲との調整、フィードバックなど、挑戦のプロセスを経験している。
- フォローされない場合、「挑戦しても報われない」「自分には向いていない」という解釈が残り、次の挑戦を遠ざける可能性がある。
挑戦した事実そのものに意味があるにもかかわらず、その後の関わりがなければ、経験の価値は本人の中で十分に整理されないままになります。挑戦行動を一度きりのイベントにせず、次の行動につなげる視点が必要です。
組織ができる3つの関わり方
挑戦後の分岐を「本人の意欲の問題」ではなく、経験の解釈をどう支援するかという問題として捉えると、組織の役割が見えてきます。セミナーでは、組織が意図的につくるべき機会を3つに整理しました。
褒める
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褒める 結果だけで判断せず、挑戦したこと自体を肯定する。手を挙げたこと、試したこと、周囲に働きかけたことを価値として認める。 |
意味づける 挑戦の経験を振り返り、何を学んだか、現在の仕事にどう活かせるかを整理する。経験を単なる成功・失敗で終わらせない。 |
背中を押す 次の挑戦機会を具体的に示す。小さな一歩や別テーマへの挑戦など、再び動き出しやすい状態をつくる。 |
制度をつくることだけが組織の支援ではありません。上司との対話、同僚からの声かけ、現業の調整、経験を振り返る場など、日常のコミュニケーションや仕事の設計にも、挑戦を続けやすくする余地があります。
まとめ
挑戦行動を広げたいとき、「挑戦しない社員をどう変えるか」と考えるだけでは十分ではありません。挑戦行動は、個人の意欲や能力だけではなく、上司、周囲、裁量、時間、制度、組織風土などとの組み合わせで生まれます。
- 挑戦行動は、新規事業だけでなく、日常業務の改善や新しい提案も含む。
- 挑戦が起きない理由を、個人の性格ややる気だけで説明しない。
- 挑戦行動は、個人要因と環境要因が相互に影響しながら生まれる。
- 全社員に一律の施策を打つのではなく、現在の状態や経験に応じてターゲットを見極める。
- 一度挑戦した人を放置せず、経験を次の行動につなげることも組織の役割である。
挑戦行動は、個人の問題でも、一度きりの行動でもありません。放っておけば失われることもあり、組織の扱い方によってその価値は変わります。社員に挑戦を求めるのであれば、「挑戦してほしい」と伝えるだけでなく、なぜ行動が起きるのか、どこで止まるのか、そして挑戦した後にどう関わるのかまで、組織として設計していくことが重要です。

