人材育成

社員に挑戦してほしいのに、なぜ誰も手を挙げないのか?_挑戦行動が生まれる組織を、個人要因と環境要因の両面から考える

「もっと挑戦してほしい」「社員に自律的に動いてほしい」。そうしたメッセージを掲げる企業は少なくありません。一方で、実際に手を挙げる社員は一部に限られ、新規事業や改善提案の参加者が固定化している。制度はあるのに使われない。そんなギャップに悩む組織も多いのではないでしょうか。

このとき、原因を「本人のやる気が足りない」「挑戦に向いていない」と個人の問題だけで捉えてしまうと、組織として打てる手は限られます。本稿では、挑戦行動を個人の性格や意欲だけで説明せず、個人要因と環境要因の組み合わせとして捉え直します。挑戦行動とは何か、なぜ今重要なのか、そして組織として何を考えるべきかを整理します。

そもそも「挑戦行動」とは何か

「挑戦」という言葉からは、新規事業の立ち上げや大規模な変革プロジェクトなど、限られた人だけが担う特別な活動を想像しがちです。しかし、組織の中で必要な挑戦はそれだけではありません。日々の業務の進め方を見直すこと、職場の課題に気づいて改善を提案すること、前例のないテーマに小さく着手してみることも、挑戦行動に含まれます。

本稿における「挑戦行動」の定義
仕事において大きな利益を得るために、目的に対して新しいものごとに自発的に取り組む、または現在の仕事を改善すること。ただし、自らの能力で達成が容易であることは除きます。

このテーマを考えるようになったきっかけの一つに、職場での何気ない会話がありました。
ある社員が集客担当の同僚に、「他社のこの施策、うちもやればお客さんが来そうじゃない?」と話したところ、担当者は「うちじゃ無理だよ」と即答しました。

雑談の一場面ではありますが、難しいかもしれないことを最初から「できない」と決め、検討の余地すら持たないことに違和感が残りました。
一方で、同じような状況でも「まず考えてみよう」「小さく試してみよう」と動く人もいます。
では、この違いは何から生まれるのでしょうか。性格や経験の差だけで説明できるのでしょうか。ここからが、挑戦行動を組織のテーマとして考える出発点です。

なぜ今、挑戦行動が重要なのか

企業を取り巻く市場、技術、競争環境の変化は速く、計画を立てた時点の前提が途中で変わることも珍しくありません。新規事業や事業変革のように、事前に正解が見えないテーマも増えています。経営がすべての状況を予測し、現場に正解を指示することは難しくなっています。

その結果、現場に求められる役割も変わります。決められたことを正確に実行するだけではなく、経営の意図を理解しながら、現場で考え、試し、結果を見て修正することが必要になります。挑戦行動は、経営戦略を現場で具体化し、変化に合わせて更新していくための行動とも言えます。

これまでと今の違い
これまで:
 上位方針を現場に落とし、決められたことを正確に実行する。
今:
 現場で考え、試し、修正する。
 想定外を前提に動き、経営の意図を自分の判断で具体化する。

だからこそ、経営メッセージや人材戦略の中で「挑戦」「自律」「新しい価値の創出」といった言葉が繰り返し使われます。ただし、言葉として求めることと、実際の行動が組織に広がることは同じではありません。現場では「手を挙げる人がいつも同じ」「制度はあるが使われない」「上司によって挑戦のしやすさが大きく違う」といった状態が起こります。重要性が語られている一方で、実態はまだ道半ばというギャップです。

挑戦しないのは「本人の問題」なのか

挑戦が起きないとき、組織では「やる気が足りない」「慎重な人が多い」「新しいことに向いていない」と説明されることがあります。

もちろん、個人の意欲や特性は無関係ではありません。ただ、それだけで説明すると、同じ社員が環境や状況によって行動を変えることを見落とします。

挑戦しやすい場面  挑戦しにくい場面
上司が「やってみよう」と背中を押す 上司の反応が読めない
失敗しても学びとして扱われる 失敗が評価に影響しそう
本業に余白がある 目の前の業務で手一杯
前例がなくても歓迎される 前例がないと止められる
周囲に同じ挑戦をしている人がいる 誰も手を挙げていない

このように考えると、問いは「なぜ社員は挑戦しないのか」から、「なぜこの状況では手を挙げにくいのか」「なぜ挑戦が続かないのか」へ変わります。個人を責めるのではなく、行動が起きる/起きない構造を捉えることで、組織として手を打てる余地が見えてきます。

挑戦行動は「個人要因 × 環境要因」で生まれる

私たちは、挑戦行動を個人要因と環境要因の組み合わせとして捉えています。個人の意欲や認知、経験だけでも、制度や文化だけでもなく、両方が相互に影響しながら行動を形づくるという考え方です。

個人要因

自信、動機、考え方、能力、不確実性への向き合い方など

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相互に影響 環境要因

上司、周囲、風土、裁量、制度・仕組みなど

 

たとえば、挑戦への意欲が高い人でも、通常業務で余白がなく、失敗が評価に響くと感じ、上司の反応も読めない環境では行動に移しにくくなります。

逆に、最初から強い挑戦意欲を持っていない人でも、具体的な機会が与えられ、周囲の支援を受け、成功や学習の経験を積むことで、次の挑戦につながることがあります。

挑戦行動を支える10の要因

先行研究であるプロアクティブ行動、ボイス行動、タスク・クラフティング、イノベーティブ行動など、挑戦行動と重なる概念を手がかりに、私たちは挑戦行動に関係する要因を10個に整理しました。

区分 要因名 説明
個人要因 自己効力感 「自分ならできる」と感じ、新たな課題にも取り組める感覚。
内発的動機 外的な報酬だけでなく、活動そのものに面白さや意味を感じること。
創造的問題解決能力 既存の枠組みにとらわれず、新しい解決方法を考えられること。
構想力 複雑な情報を整理し、目指す状態や進め方を描けること。
リスク許容 不確実性や失敗の可能性があっても、必要な行動を選べること。
環境要因 心理的安全性 批判や拒否を過度に恐れず、意見や疑問を表明できる状態。
組織風土 挑戦や革新を歓迎し、失敗から学ぶことを受け止める文化。
明確な役割と裁量 期待される役割が分かり、自分の判断で動ける余地があること。
周囲の支援  上司や同僚から、助言・情報・具体的な協力を得られること。
組織構造 情報共有や意思決定、部署間連携を進めやすい制度・仕組みがあること。

重要なのは、この10要因を独立したチェックリストとして扱わないことです。
たとえば、心理的安全性が高いから自己効力感が上がる、内発的動機があるから組織風土が変わる、といったように10要因は相互に影響し合う関係性となっています。挑戦行動は、複数の要因が組み合わさって生まれます。

全員に同じ働きかけをするだけでは広がらない

要因を整理したからといって、全社員に対して10要因を一律に底上げすればよいわけではありません。
必要な支援は、現在の挑戦行動との関わり方によって異なります。そこで、ある時点の社員の状態を4つの層として捉えることができます。

① 先行して挑戦している層  新規事業や改善提案などに自発的に取り組み、挑戦行動が日常化している。
② 挑戦を広げつつある層  興味を持ち、機会があれば手を挙げる。環境や後押し次第で行動が加速しやすい。
③ 挑戦に関心を持ち始めている層  重要性は理解しているが、不安やハードルがあり、まだ十分に一歩を踏み出せていない。
④ 日常業務を中心に担っている層 組織の安定運営を支える存在。すぐに挑戦を求める対象ではなく、中長期的な土台となる。

ここで大切なのは、4層を固定的な人材タイプとして扱わないことです。同じ人でも、役割や上司、仕事の状況、挑戦経験によって位置は変わります。組織として考えるべきなのは「第4層をなくす」ことではなく、必要なタイミングで社員が次の層へ動けること、そして一度挑戦した人が再び動けることです。

一度挑戦した人を、点で終わらせない

時間軸を入れて考えると、過去に挑戦した経験があるにもかかわらず、現在は挑戦していない人もいるはずです。
たとえば、新規事業提案制度に一度は手を挙げたものの、審査で止まった人、途中でプロジェクトが終わった人、異動や現業の都合で継続できなくなった人などです。

こうした人を「失敗した人」と捉えるのではなく、「一度踏み出した経験を持つ人」と捉えることが重要です。理由は大きく3つあります。

  • 一度手を挙げた経験があり、未経験者よりも再び行動につながる可能性がある。
  • 提案、検討、周囲との調整、フィードバックなど、挑戦のプロセスを経験している。
  • フォローされない場合、「挑戦しても報われない」「自分には向いていない」という解釈が残り、次の挑戦を遠ざける可能性がある。

挑戦した事実そのものに意味があるにもかかわらず、その後の関わりがなければ、経験の価値は本人の中で十分に整理されないままになります。挑戦行動を一度きりのイベントにせず、次の行動につなげる視点が必要です。

組織ができる3つの関わり方

挑戦後の分岐を「本人の意欲の問題」ではなく、経験の解釈をどう支援するかという問題として捉えると、組織の役割が見えてきます。セミナーでは、組織が意図的につくるべき機会を3つに整理しました。
褒める

褒める

結果だけで判断せず、挑戦したこと自体を肯定する。手を挙げたこと、試したこと、周囲に働きかけたことを価値として認める。

意味づける

挑戦の経験を振り返り、何を学んだか、現在の仕事にどう活かせるかを整理する。経験を単なる成功・失敗で終わらせない。

背中を押す

次の挑戦機会を具体的に示す。小さな一歩や別テーマへの挑戦など、再び動き出しやすい状態をつくる。

 

制度をつくることだけが組織の支援ではありません。上司との対話、同僚からの声かけ、現業の調整、経験を振り返る場など、日常のコミュニケーションや仕事の設計にも、挑戦を続けやすくする余地があります。

まとめ

挑戦行動を広げたいとき、「挑戦しない社員をどう変えるか」と考えるだけでは十分ではありません。挑戦行動は、個人の意欲や能力だけではなく、上司、周囲、裁量、時間、制度、組織風土などとの組み合わせで生まれます。

  • 挑戦行動は、新規事業だけでなく、日常業務の改善や新しい提案も含む。
  • 挑戦が起きない理由を、個人の性格ややる気だけで説明しない。
  • 挑戦行動は、個人要因と環境要因が相互に影響しながら生まれる。
  • 全社員に一律の施策を打つのではなく、現在の状態や経験に応じてターゲットを見極める。
  • 一度挑戦した人を放置せず、経験を次の行動につなげることも組織の役割である。

挑戦行動は、個人の問題でも、一度きりの行動でもありません。放っておけば失われることもあり、組織の扱い方によってその価値は変わります。社員に挑戦を求めるのであれば、「挑戦してほしい」と伝えるだけでなく、なぜ行動が起きるのか、どこで止まるのか、そして挑戦した後にどう関わるのかまで、組織として設計していくことが重要です。

お問い合わせ

  • 挑戦行動は、新規事業に関わる社員だけを対象にした考え方ですか?
  • いいえ。本稿では、新規事業だけでなく、日常業務の改善、新しい提案、職場のやり方を変える行動なども挑戦行動に含めています。重要なのは、目的に対して新しいことに自発的に取り組む、あるいは現在の仕事を改善することです。

  • 挑戦する人を増やすには、まず研修を行えばよいのでしょうか?
  • 研修は有効な手段の一つですが、それだけで十分とは限りません。本人の自己効力感や考え方に加え、上司の支援、裁量、時間、組織風土、制度など、環境側の条件も確認する必要があります。

  • 全社員を「挑戦する人」にする必要がありますか?
  • 必ずしも全員が常に大きな挑戦を担う必要はありません。社員の現在の状態や役割は異なります。重要なのは、必要なときに挑戦へ踏み出せること、一度挑戦した人が次の機会につながれること、そして層ごとに適切な働きかけを設計することです。

株式会社ソフィア

コミュニケーションコンサルタント

力石 育生

インターナルコミュニケーション(社内コミュニケーション)を通じて、組織の経営課題から社会課題を解決するご支援をしています。特に、持続可能な社会を目指すためのグリーンイノベーションや地域社会との共生を視野に入れた取り組みに対してのご提案が得意です。