静かな退職とは?日本企業の5割が直面するリスクと対策
最終更新日:2026.03.09
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「静かな退職(Quiet Quitting)」という言葉を、最近ニュースやビジネス誌で頻繁に目にするようになりました。これは、実際に退職届を出して会社を去るわけではありません。職場には毎日出社し、在籍し続けながらも、精神的には仕事から離脱し、必要最低限の業務しか行わなくなる状態を指します。一見すると真面目に勤務しているように見えるため、管理職や人事部門がその兆候に気づきにくく、対策が後手に回ることで組織全体の生産性を大きく損なう「静かなる危機」として、現在世界中の企業で警戒レベルが高まっています。特に、終身雇用制度が色濃く残る日本企業においては、欧米とは異なる雇用慣行や文化背景から、この問題がより潜在化しやすく、深刻な「組織の病」として進行しているケースが多発しています。本記事では、この現象の定義や原因を深掘りするとともに、競合他社の動向や、弊社株式会社ソフィアが2024年に実施した最新の「インターナルコミュニケーション実態調査」のデータをエビデンスとして交えながら、大企業の人事部門長や研修担当者が今すぐ打つべき対策について、網羅的に解説していきます。
静かな退職(Quiet Quitting)とはどのような状態のことを言うのでしょうか?
近年、グローバルなビジネスシーンで急速に議論の的となっている「静かな退職」ですが、その本質はどこにあるのでしょうか。まず、その定義を明確にし、なぜこれほどまでに注目を集めているのか、その規模感と実態について解説していきます。
静かな退職(Quiet Quitting)とは 意味を解説(米国の定義)
「静かな退職(Quiet Quitting)」とは、「雇用されているが、仕事を辞めている状態」を指します。この現象は、米国で注目されており、従業員が最低限の業務だけをこなし、職場への積極的な関与を避けることで、表面上は仕事を続けながらも実質的には職場から距離を置く行為です。具体的には、職務記述書(ジョブディスクリプション)に記載された業務範囲外の仕事は一切引き受けない、会議での発言を控える、定時退社を徹底し時間外のメールや連絡には応答しない、といった行動が挙げられます。彼らは決して怠慢なわけではなく、契約上の義務は果たしていますが、かつて日本企業が美徳としてきた「滅私奉公」や「組織への忠誠心」に基づいた追加的な努力(エキストラ・マイル)を拒否しているのです。
静かな退職は米国において急増しているトレンドです。2022年6月にギャラップ社が18歳以上の労働者を対象に実施した調査によると、「静かな退職(Quiet Quitting)」を行う人は「米国の労働力の少なくとも50%を占めており、おそらくそれ以上」と報告されています。さらに、ギャラップ社の「世界の職場の現状2023年レポート」によると、世界の労働力の59%がひそかに仕事を辞める人々であるとされています。この数字だけを見るとかなり多く感じられるのではないでしょうか。これは、半数以上の従業員が、心の中ではすでに会社に見切りをつけていることを意味しており、企業の生産性や成長にとって甚大な損失をもたらしていることが示唆されています。
さらに、とくに米国では35歳未満の労働者の間でこの割合が高いとされています。2022年の調査では、仕事に熱心だと答えた労働者はわずか32%で、18%は仕事に対する不満を露わにしているとされました。残りの50%は、とくに仕事に熱心ではないが、その事実を公にせず、ひそかに仕事を辞める人々として分類されています。この世代間のギャップは、仕事に対する価値観の根本的な変化を反映しており、従来のマネジメント手法が通用しなくなっている証左でもあると言えるでしょう。
静かな退職を選ぶ人々が増加した原因として、コロナ禍を経てリモートワークが常態化し、若い社員がセルフマネジメントを行えなくなったことが指摘されています。しかし、静かな退職は社員の出社によって解決するような単純な問題なのでしょうか?また、雇用されながらも、最低限の業務しかしないという従業員の急増は、米国だけの問題なのでしょうか。
ここで、静かな退職と類似の概念である「サイレント退職」との違いを整理しましょう。
| 項目 | 静かな退職(Quiet Quitting) | サイレント退職(Silent Quitting) |
| 定義 | 在籍したまま、最低限の業務のみを行う | 何の予兆もなく、突然退職届を出す |
| 行動 | 意欲低下、受動的な態度 | 表面上は普通に振る舞うことが多い |
| 企業への影響 | 長期的な生産性低下、士気の伝染 | 突発的な欠員、引継ぎ不足のリスク |
| 背景 | ワークライフバランスの重視、諦め | 強い不満の蓄積、より良い条件への転職 |
サイレント退職が「物理的な離脱」であるのに対し、静かな退職は「心理的な離脱」であり、組織内に滞留し続ける点で、マネジメントにとってより複雑で長期的な課題となる可能性があります。
なぜ今、静かな退職が増えているのでしょうか?
この現象が一時的なブームではなく、構造的な変化であることを理解するためには、その背景にある社会的・心理的要因を探る必要があります。
静かな退職が増加している原因とハッスルカルチャー
静かな退職が増加している背景には、いくつかの要因が複雑に絡み合っています。従業員が職場で最低限の業務だけをこなすようになる理由として、ハッスルカルチャーへの反発や長時間労働の是正への動きが挙げられます。また、働き方の多様化に伴い、組織へのつながりや愛着心が低下していることも影響しています。さらに、仕事に対するストレスの増加が従業員の意欲を削ぎ、静かな退職を選ぶ要因となっています。
ハッスルカルチャーへの反発と長時間労働の是正への動き
静かな退職が起きる理由として、ハッスルカルチャーへの反発や長時間労働の是正への動きが挙げられます。ハッスルカルチャーとは、目標やビジョン、それに伴う報酬などによって社員を熱狂させ、長時間に渡って高いパフォーマンスを引き出す文化のことです。シリコンバレーのスタートアップ企業などを中心に、「寝る間も惜しんで働くことが成功への近道」「仕事こそが人生のすべて」といった価値観が推奨され、世界中に波及しました。
魅力的な企業ビジョンや快適な職場環境は社員のやる気や行動力を高める効果があり、社内でハッスルカルチャーを生み出すきっかけにもなります。しかし、ハッスルカルチャーへの反発は、長時間労働や常に高いパフォーマンスを求められる環境よりも、心身の健康やライフバランスを重視する従業員が増加した結果であると言えるでしょう。特にZ世代やミレニアル世代は、親世代が滅私奉公的に働いてもリストラに遭ったり、心身を病んだりする姿を見て育っており、「会社に尽くしても必ずしも報われない」という冷徹なリアリズムを持っています。
仕事の中で、自己成長を目指して切磋琢磨し、成長を実感して喜びを感じるといったことは、本来非常に重要なことです。しかし、今の企業のあり方では、会社の提示する目標やビジョン、パフォーマンス、給与等が従業員にとって魅力的であるとは言えず、従業員側が長時間労働や高いパフォーマンスで会社のために貢献しようと思えなくなっていると言い換えられるでしょう。
また、静かな退職には長時間労働の是正への社会的な動きも影響しています。企業や労働者の間で、労働時間の適正化やフレキシブルな働き方の導入が進んでおり、従業員が自分の時間をより管理しやすい環境へと変化しています。
リモートワークやフレックス制度により、個々の従業員は自分のタスクや業務内容に合わせて拘束時間を選択できるようになったことで、必ず職場で仕事をする必要がなくなり、特定の場所に縛られることも少なくなっています。その代わりに、職場や集団で他者とともに働いている時間よりも、個人で働いていると感じる時間が増えているのではないでしょうか。(ただし、リモートと出社のバランスはまだ明確に確立されていませんが、日本企業では出社比率が増加しているというデータも存在します。)

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弊社ソフィアの調査では、社内コミュニケーションにおける課題として「部門間の壁」(58%)や「部門内の上司と部下のコミュニケーション」(51%)に問題を感じている回答者が非常に多いことが明らかになっています。
それでも、日本ではリモートワークと出社を使い分けている社員や職場が、徐々に増えつつあります。リモートワークを成立させるためには、社員一人ひとりがセルフマネジメントを行うことが不可欠です。しかし、個人で業務に取り組む中で、常に強い自律心を持って仕事をし続けることは難しいことかもしれません。時には就業時間の全てを業務に集中しきれなかったという日もあるのではないでしょうか。
このような課題を解決するためには、リモートワークと出社の両方を必要に応じて使い分ける必要があります。
仕事に対するストレスの増加
競争が激化し、仕事の負荷やプレッシャーが増大していることも静かな退職の増加に影響しています。長時間労働や過重な責任、仕事とプライベートのバランスが崩れるなどの原因でストレスが蓄積され、従業員が心身の健康を守るために、静かに職場を去るケースが増えています。
リモートワークの場合は、基本的に個人の裁量に任せられる部分が多く、時間や場所を自由に選択することができるなど、一見よいことのように思えますが、同時にその中で成果を求められるため、その分プレッシャーを大きく感じてしまうでしょう。自由と責任の幅が広がるということは、ポジティブな一面もありますが、その反面、個々人にかかる精神的なプレッシャーが増加することも意味しています。
また、職場の人間関係や意見の食い違いは付き物です。テキストメッセージだけのやり取りでは、複雑に入り組んだ関係性や食い違いの解消は難しい場合もあります。このような状況下で、一人悩みを抱え続けて仕事を進めることは、生産性においても、精神衛生上においても、悪影響を及ぼすでしょう。
さらに、「学習性無力感」も大きな要因です。過去に業務改善の提案をしても無視されたり、頑張って成果を出しても正当に評価されなかったりした経験が積み重なると、従業員は「何をしても無駄だ」と諦め、努力を放棄するようになります。これは、組織の硬直性が個人の意欲を削ぐ典型的な例であり、静かな退職への入り口となり得ます。
静かな退職に対する経営者の見方はどうなっていますか?
静かな退職という現象に対し、経営者やリーダー層はどのように反応しているのでしょうか。その見解は一様ではなく、企業文化やリーダーシップのスタイルによって大きく二分されています。
静かな退職に対する経営者の見方
静かな退職に対する経営者の見方は二つに分かれています。多くのCEOや伝統的なビジネスリーダーは、この概念に対して否定的で、従業員が最低限の業務しか行わないことに不満を抱いています。彼らにとって、従業員のエンゲージメント低下は直接的な生産性の損失であり、組織の士気に関わる重大な問題です。
一方で、ソナタファイ・テクノロジーの共同創業者兼CEOであるスティーブ・タプリン氏は、静かな退職を「従業員が自身のスケジュールを管理し、個人の優先事項を重視する動き」として肯定的に捉えています。タプリン氏は、健康的なワークライフバランスを維持することが持続可能性の課題であり、現代の燃え尽き症候群(バーンアウト)に対する答えであるとしています。従業員が長期的に健全に働き続けるためには、一時的にペースを落とすことも必要だという、より人間中心的なアプローチです。
対照的に、テスラとスペースXのCEOイーロン・マスク氏は、この傾向に反対しています。マスク氏は、高強度の労働と例外的なパフォーマンスを求める姿勢を示し、長時間の仕事が必要だと主張しています。Twitter(現X)買収時に「ハードコアに働くか、去るか」を迫った事例は記憶に新しく、イノベーションには並外れた献身が必要だという信念に基づいています。このように、静かな退職に対する見解は企業文化や経営理念によって大きく異なり、各企業が今後の職場環境の進化にどのように対応するかが問われています。
確かに、現在の風潮では、長時間労働を求める姿勢は避けられる傾向にあります。しかし視点を変えれば、「長時間労働=熱中できる仕事が存在する」という見方もできるでしょう。成功者の定義が時代とともに変わる中で、その組織の基礎となる価値観やビジョンが重要な役割を果たしているのです。
米国でも、世間の風潮や一般論だけでは組織運営が難しくなっていることが確認されています。そのため、組織のビジョンや価値観を明確にし、これに基づいて運営を行わないと、企業と従業員の間での価値観の不一致が大きな問題を引き起こす可能性があります。ビジョンや価値観がしっかりと示されていない場合、組織内での方向性や目標に対する共通理解が不足してしまいます。それにより、高い成果を上げることは難しくなるでしょう。
弊社ソフィアの調査では、経営戦略への共感度が「わずか1割」に留まるという衝撃的なデータが出ています。経営層は「伝えたつもり」でも、現場には届いていない、あるいは「自分ごと」として捉えられていないのです。この「認識の断絶」こそが、経営者が静かな退職を嘆く一方で、従業員が冷めている原因の根幹にあります。経営者は単に「働け」と命じるのではなく、「なぜ働くのか(パーパス)」を語り、共感を醸成する努力が不可欠です。
静かな退職を放置すると企業にどんな悪影響がありますか?
「従業員が辞めないなら、それでいいのではないか?」と考えるのは危険です。静かな退職は、目に見える離職以上に、企業の競争力を内部から浸食する深刻なリスクがあります。
静かな退職がもたらす会社への不利益
静かな退職の増加により、企業はさまざまな不利益に直面しています。従業員が最低限の業務しか行わなくなると、生産性が低下し、業務の効率が悪化します。また、業務を積極的に遂行しないことで、リスクマネジメントの機能も低下し、潜在的な問題が見過ごされがちになります。さらに、静かな退職が広がると、残る社員に対する業務の負担が増加し、全体的な職場の士気にも悪影響を及ぼす可能性があります。
静かな退職(Quiet Quitting)は、組織のビジョンや価値観と従業員個人の期待や価値観との不一致から生じるものです。この不一致が労働者のモチベーション低下やエンゲージメントの欠如を引き起こし、結果として業務に対する積極的な取り組みが減少することにつながります。
この問題は、労働者だけでなく経営者にも影響を及ぼします。経営者が組織のビジョンや価値観を明確にし、労働者の求めるものとの整合性を図ることが重要です。一方、労働者も自分の価値観や期待がどのように組織と合致するかを考え、それに応じた行動をとる必要があります。
生産性の低下
静かな退職が進むと、企業全体の生産性が低下するリスクがあります。従業員が最低限の業務しか行わずに成果を出すための努力を怠ると、業務の効率が大きく損なわれる可能性があります。目標達成に向けた意欲の低下や、創造的な問題解決力が不足するためです。その結果、プロジェクトの遅延や品質の低下が引き起こされ、会社全体のパフォーマンスに悪影響を及ぼすことがあります。さらに、非効率的な業務が積み重なることで企業の競争力や収益性に直接的な不利益をもたらし、長期的な成長にも影響を及ぼすことがあります。
経済的なインパクトも甚大です。ギャラップ社の試算によると、従業員のエンゲージメント低下による経済損失は、世界全体で年間8.8兆ドル(約1200兆円)、日本国内だけでも年間約80兆円に上るとされています。これは日本の国家予算の約3倍に相当する数字であり、静かな退職がいかに巨大な「見えないコスト」であるかを物語っています。
仕事を進める中で、最低限の業務だけを行うことは、実際には困難でしょう。米国や日本を含む多くの企業は、職務給制度を採用しており、給与は業務に対して支払われます。理論的には、業務を分業化し、職務記述書に基づいて最低限の業務を遂行すれば、その範囲内での作業は可能です。
しかし、実際には、創造性や問題解決力といった業務内容には明確に示されていない要素が仕事の成果に大きく影響します。これらの要素は、業務の質や成果を向上させるために不可欠です。最低限の業務を行うという考え方では、生産性の低下は避けられないでしょう。
創造性や問題解決力の不足に対応するためには、職務記述書に書かれている以上の努力や対応が求められるため、単に最低限の業務をこなすだけでは十分な成果を上げることが難しいのです。
リスクマネジメントの低下
静かな退職が広がると、リスクマネジメントが低下する傾向があります。従業員の士気が低下すると、問題が発生しても積極的に対処しようとする姿勢が見られなくなるからです。その結果、社内の問題が放置されることが多くなり、リスクが未解決のまま残る可能性が高くなります。
さらに、職場全体に「見て見ぬふりをする」という態度が広がることで、問題が意図的に無視されることもあります。問題を放置することで、小さなトラブルが次第に大きな問題へ成長し、企業の運営に重大な影響を及ぼす恐れがあります。このような状況は、リスクの早期発見や適切な対応が求められる場面で、企業全体の安定性や信頼性に対する脅威となることが多いです。例えば、製品の微細な不具合に気づいても「報告すると自分の仕事が増えるだけだ」と考えて黙殺するようなケースです。コンプライアンス違反や品質不正の温床にもなりかねません。
他社員への負担の増加
静かな退職が進むと、その従業員が担当していた業務はそのまま残ります。そのため、残った社員にその業務が押し付けられ、負担が増加することになります。業務量が増えると、他の社員の仕事の質や効率にも悪影響が及びます。また、業務負担が増した社員がストレスを感じ、今度はその社員が静かな退職に陥るという負の連鎖が生まれます。さらに多くの業務が他の社員に振り分けられることになるのです。これにより、全体の職場環境が悪化し、チーム全体のモチベーションや生産性にも悪影響を及ぼす可能性があります。
こうした負担が増加する中で、結局は仕事ができる人や管理者に業務が集まる傾向があります。この状況は、彼らに対するプレッシャーを増大させ、モラルハザードを引き起こす可能性もあります。モラルハザードとは、職務に対する責任感の欠如や、不適切な行動を助長する状況を指します。結果として、全体の業務環境やチームの健全性がさらに損なわれる恐れがあります。
静かな退職は日本企業でも起きているのですか?
米国発のトレンドである静かな退職ですが、日本の職場環境において、それはどのように現れているのでしょうか。「日本には関係ない」と考えるのは早計です。
日本に静かな退職はない?
日本でも静かな退職は存在していますが、他国と比べてその頻度は少ない傾向にある……というのは過去の話になりつつあります。近年、企業の間でハイブリッドワークやリモートワークが導入され、従業員が自分のライフスタイルに合わせて柔軟に働ける環境が整ってきたためです。これにより、仕事とプライベートのバランスが取りやすくなり、満足度の高い働き方が可能となっています。その結果、日本では静かな退職が必ずしも主要な課題とはなっていない場合もあります。
しかし、依然として多くの企業では、長時間労働や過労、仕事と生活の調整の難しさが問題視されており、静かな退職の必要性が低くなるとは限りません。現在、静かな退職や業務負担の問題が解決しつつあるものの、日本では、働く時間よりも働く意欲の問題が重要です。
事実、マイナビキャリアリサーチLabの「正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)」によると、「静かな退職をしている」と回答した正社員の割合は全体で44.5%にも上りました。特に注目すべきは、20代(46.7%)だけでなく、50代(45.6%)、40代(44.3%)と、全世代において4割を超えているという事実です。これはもはや若者特有の現象ではなく、日本の労働市場全体に蔓延する構造的な課題と言えます。
日本企業には米国のような職務給制がないため、仕事の明確な切り分けが難しいという弱みがあります。しかし、柔軟な働き方が普及した現在の状況下では、そのような弱みが良い意味で作用することもあります。ですが、依然として全体での生産性は高いとは言えないのが現状です。
米国と日本の企業とでは、仕事への意欲や組織的価値観に違いが見られています。日本企業は、仕事への意欲よりも周囲や職場の同僚との協同に価値を見出している傾向がありますが、リモートワークやフレックスタイム制の普及により、このような意識が薄れているという見方ができます。また、組織の価値観が社会の風潮に流されやすく、単に働く時間が短くなっただけでは生産性の向上にはつながっていないという現状もあります。日本の企業文化や労働環境には日本特有の課題があり、仕事と生活の二項対立は複雑化しているのです。そのため、従業員への個別対応やコミュニケーションの重要性が増しています。企業側は静かな退職の背後にある要因を理解し、効果的な対策を講じることが求められているのです。
さらに日本特有の事情として、「メンバーシップ型雇用」の影響があります。職務範囲が不明確な日本企業では、「空気を読んで周りを手伝う」「言われなくてもやる」ことが評価されてきましたが、静かな退職者はこれを拒否します。「言われたことしかやらない」という態度は、日本的なチームワークを崩壊させる破壊力を秘めており、欧米以上に組織へのダメージが深刻化する可能性があります。かつて「窓際族」や「社内ニート」と呼ばれた存在が、能力不足ゆえの非稼働だったのに対し、現代の静かな退職者は「能力はあるがあえて発揮しない」という点で、より厄介な存在と言えるでしょう。
仕事(ワーク)と生活(ライフ)の二項対立
「仕事と家庭、どちらが大切か?」というテーマは、高度経済成長期から長く家族会議で議論されてきました。ワークライフバランスやワークライフインテグレーションなどの働き方改革が進む中で、これらのテーマは社会問題として更に重要なものとなっています。女性の労働参加率が先進国並みに急増し、定年制の廃止により65歳以上の労働力が必要とされる現在の労働市場では、多様な生活状況に対応した労働環境と働き方が求められています。そのため、仕事と生活の二項対立の解決は難しく、状況はより複雑化しています。
仕事や業務には共通の要素が存在する一方で、職場環境や個々人の生活状況は千差万別です。したがって、従業員一人ひとりへの個別対応が不可欠となります。働きやすさと働きがいの提供は、労働者と経営者の双方にとって重要であり、それを実現するためには、常に相互的なコミュニケーションを取ることが求められます。また、人的資源が事業の成功を左右する産業構造の中で、人財への待遇や周囲の環境等の状況が業績に影響を与えることは明らかです。加えて、人財に関する過去の合理的判断が、全ての場合で当てはまるわけではないことにも考慮する必要があります。
現代でも、仕事と生活のバランスについての問題は簡単に解決することのできないジレンマを抱えており、この問題がなくなることはないでしょう。働く環境への配慮や各社の持つノウハウや制度は、確かに従業員を惹きつける魅力があることは間違いありません。しかし、仕事と生活の問題は、一般的なビジネスにおける倫理や合理的な判断だけで解決できるような性質の問題ではないと言われています。
ビジネスでは、人文学的な視点や社会科学的な視点での組織運営が必要です。仕事と家庭生活は、社会通念や社会システムによって区別されています。仕事には、労働時間の管理がありますが、生活には、生活時間の管理はありません。また、仕事には労働対価が支払われますが、日常生活を送るだけで何か対価が支払われることはありません。理論上、二者はその性質の違いによって明確に切り離され、日々の暮らしの中に存在しています。しかし、現実ではどうでしょうか。仕事の悩みやモヤモヤが、生活時間でも頭から離れないという経験をしたことがある人は、非常に多いのではないでしょうか。
つまり、職場問題や悩みは労働時間だけでなく、生活時間にも影響を与えていると言えます。仕事が生活を浸食するだけでなく、逆に、生活時間の中での経験が仕事に影響することもあります。精神労働者にとって、自身の精神状態をコントロールすることは、時間的な面でも、空間的な面でも、実際には不可能でしょう。
このような現状を踏まえると、企業や職場環境も、現在の仕事内容が社員にどう影響を与えているかに目を向ける必要があります。仕事と生活の境界を分けることは非常に難しいですが、比較的コントロール可能なのが、仕事や職場環境です。企業側も従業員側も、ワークとライフを完全に切り分けることは困難であるという共通認識を持った上で、双方にとって最良の形を目指すためにコミュニケーションを取り続けることが重要です。
静かな退職を防ぐために人事ができる対策
では、企業はこの「静かなる危機」にどう立ち向かえばよいのでしょうか。対症療法的なアプローチではなく、組織のコミュニケーションとカルチャーを根本から見直す必要があります。
静かな退職を減らす方法
静かな退職を減らすためには、いくつかの方法があります。まず、企業経営の透明性の確保です。経営の透明性を確保することで、従業員が企業の目標や方向性を理解しやすくなり、信頼感が高まります。また、適度な出社と同期非同期の規範を設定することで柔軟な働き方を推進し、仕事とプライベートのバランスを保つことが可能となります。さらに、ハイブリッドワークの柔軟性を最大限に活用することで、従業員が自分に合った働き方を選びやすくなり、静かな退職のリスク低減に繋がります。
弊社ソフィアが提唱する「インターナルコミュニケーションの三本柱」である「対話」「教育」「ツール」の観点からも、具体的な対策を見ていきましょう。
経営の透明性の確保
経営の透明性を確保することは、静かな退職を防ぐための重要な対策です。定期的に従業員とコミュニケーションを取り、フィードバックを受け入れる文化を醸成することで、経営者が社員の声に耳を傾ける体制が整えられます。これにより、課題や不満を早期に把握し、問題が大きくなる前に対処できるようになります。
また、経営の決定や企業の方針、現状の進捗状況などを従業員と共有することで、情報の透明性が保たれ、従業員の会社に対する信頼感を高めます。透明性のある情報公開は、会社へのエンゲージメントを向上させるため、結果的に静かな退職を減少させます。経営の透明性の確保を行うためには、デジタル技術を活用して、相互に何をしているのか、どのような状況にあるのかなどを可視化し、経営や情報を共有することが重要です。
弊社ソフィアの調査では、経営戦略への共感が「わずか1割」という結果が出ています。経営層は「伝えたつもり」でも、現場には届いていないのです。タウンホールミーティングの開催や、トップメッセージの動画配信、社内報の活用など、あらゆるチャネルを使って「なぜやるのか(Purpose)」を語り続ける必要があります。また、ISO 30414(人的資本情報開示の国際規格)に則り、エンゲージメントスコアや離職率などの人的資本データを可視化し、社内外に開示することも、透明性を高め、従業員の信頼を獲得する有効な手段となります。
適度な出社と同期非同期の規範
適度な出社と同期非同期の規範を設けることで、静かな退職を減少させることが可能です。その会社や職場、業務ごとに、出社した方が良い場合やリモートワークで問題ない場合などを規範化し、適切なタイミングでの導入を行います。これを具体的に進めることで、競争優位が生まれます。従業員が自分のライフスタイルや仕事の性質に応じて勤務時間を選択できる制度を導入することで、各自の生産性を最大化しながらも、必要なタイミングで適切に共同作業を進めることが可能となるのです。
また、タスクの性質に応じてリモートワークを許容するポリシーを策定することで、自宅や他の場所で仕事を行うことができ、通勤時間の負担やストレスが軽減されます。このような取り組みは、従業員の満足度向上に繋がるでしょう。さらに、チームコミュニケーションやプロジェクト管理のための適切なツールを導入することで、効果的な情報共有と連絡の促進を図ることが可能です。ツールの導入により、協力やプロジェクトの進行が円滑に行われるようになります。
コロナ禍が終わったからという単純な理由だけで、出社を増やしていいわけではありません。リモートワークやフレックスタイム制の普及により、それぞれどのようなメリットとデメリットが生まれたのかをしっかりと把握する必要があります。この点を明確にしなければ、日本も米国のような状況に陥る恐れがあります。
ここで注意が必要なのは、「1on1ミーティング」の質です。弊社ソフィアの調査において、1on1は「社内コミュニケーション促進の取り組みとして最も実施されている(54%)」一方で、「効果的でない取り組み」としても上位に挙げられています。これは、単に形だけ対面の場を設けても、上司の傾聴スキル不足や、評価・管理のための場になってしまっている場合、逆効果になることを示唆しています。「対話」の質を高めるための管理職研修や、心理的安全性の確保がセットでなければ、出社や面談も意味を成しません。
ハイブリッドワークの柔軟性を最大限に活用する
ハイブリッドワークの柔軟性を最大限に活用することで、静かな退職を減少させることが可能です。各従業員のライフスタイルや仕事の性質に応じてスケジュールを調整する自由を提供し、各人が最も生産的な時間帯に仕事を行えるようサポートします。
それにより、朝型の人や夜型の人がそれぞれの最適な時間に仕事をすることが可能になります。また、仕事の性質や共同での作業が必要な場合に応じて、オフィス勤務とリモート勤務を自由に選択できる環境を整えることで、従業員は効率的に仕事を進めることができるようになります。これにより、ストレスや通勤の負担が軽減されるでしょう。柔軟な働き方が従業員の満足度を高め、静かな退職を防ぐ一助となります。
まとめ
「静かな退職(Quiet Quitting)」の急増には、労働環境や企業文化の変化、ストレスの増加、従業員のワークライフバランスの重視などが背景にあります。静かな退職がもたらす生産性の低下やリスクマネジメントの問題、他の社員への負担増加は、企業にとって深刻な課題です。
特に日本では、若手だけでなく40代・50代も含めた全世代に広がりを見せており、その割合は4割を超えるというデータもあります。しかし、経営の透明性の確保や、適度な出社と同期非同期の規範設定、ハイブリッドワークの柔軟性の活用等の工夫により、静かな退職を減らすことが可能です。
弊社ソフィアの調査でも明らかになった通り、多くの企業で「部門間の壁」や「戦略の不浸透」が課題となっています。変化する労働環境に適応し、従業員の満足度を向上させるためには、企業側がこれらの対策を行うことが必要不可欠です。社員一人ひとりが「ここで働く意味」を再発見できるような組織づくりを、今すぐ始めましょう。









