2020.09.02
「リモートマネジメント」がリモートワーク成功の鍵を握る!
目次
本記事ではリモートワークにおけるマネジメントについて解説します。リモートワークの向き不向きは業種や業態によってまったく異なり、すべての企業、すべての従業員の方々に当てはまる内容でないことをあらかじめご了承ください。なお、ご自身の属する企業に該当しうるものでなくても、ぜひ情報収集の一環としてお読みいただければ幸いです。
リモートマネジメントとは
リモートワークが普及してきたことにより、働き方に関する感覚や思考の違いが従業員の間ではっきりと分かれるようになりました。以下は、海外の調査により明らかになっていることです(ただし、調査においては、厳密にはリモートワークではなく「在宅ワーク」従事者に限定されています)。
- (在宅ワークで)孤立を感じる人もいれば、解放感を覚える人もいる
- 24時間365日仕事ができることに喜びを覚える人もいれば、仕事とプライベートとを完全に区別できないことでストレスを感じる人もいる
- 業務時間外の議論を好む人もいれば、業務時間以外は仕事に関する情報にアクセスしたくないという人もいる
これらの相違は従来のオフィス勤務による働き方では表面化しにくかったものです。しかし、リモートワークといった新しい働き方では従業員の仕事に対する考え方の相違がより顕著になります。お互いに顔を合わせて働いていない分、従業員を管理する立場の層は、価値観の相違をこれまで以上にしっかり踏まえた上で、人材のマネジメントをしなければなりません。
リモートワークを廃止!?欧米の現状
日本に先駆けて10年以上前からリモートワークを導入してきたアメリカにおいては、在宅勤務の導入に対する意見が大きく分かれています。
Twitter社は「今(在宅勤務)のままでも業務が可能だと証明された」と公表し、恒久的に在宅勤務を認める方針を示しているほか、Facebook社も「アフターコロナ」を迎えたのちも在宅勤務を継続することを発表しました。
しかし過去にはリモートワークのパイオニアといわれるIBM社が、2017年5月にリモートワークの廃止を発表しました。また、Yahoo!社も2013年にはリモートワークを廃止しています。IBM社がリモートワークを廃止した理由は「従業員間のコミュニケーション不足」であり、Yahoo!社においては「勤怠管理がうまくいかなかった」からであるといわれています。
こういった過去の失敗経験もあって、欧米でもリモートワークへの見解が割れています。本来は在宅勤務と親和性が高いはずのシリコンバレーの企業においても、リモートワークを推進すべきかどうか「分からない」というのが現状のようです。
リモートワークを実現するにあたって表面化した多様な価値観と、企業の経営層やマネジメント層がいかに対峙し、管理していくか。そこに、リモートワークを成功に導く鍵があるのではないでしょうか。
リモートマネジメントが難しい背景
リモートマネジメントが困難とされる背景は、大きく3つ挙げられます。
在宅勤務における労務管理の問題
おそらく最初に浮上する問題が労務管理でしょう。ただしこれは自社に適した就業管理システムや給与管理システムに投資することで解決できます。
出退勤の打刻はパソコンやタブレットを利用すればどこでも可能です。これらのシステムに加えて就業規則や人事規定を整備することで、多くの問題は解決できるはずです。
また、就業時間中は自席で作業していることをプレゼンス(在席)機能を用いて確認したり、業務の進捗状況をMicrosoft TeamsやSlackなどのチャットツールを用いて報告するフローを設けたりすることで、就労状況を可視化し、管理がしやすくなります。また、カレンダーやタスク共有ツールを併用することも有用です。
さらに、現在はMicrosoft 365(旧Office 365; Word/Excel/PowerPoint Online)やGoogleドキュメント・スプレッドシートなどのツールがオンラインでリアルタイムの同時編集機能を搭載しているため、Microsoft Teamsのほか、Zoomなどのビデオチャットなどを併用しつつ、複数人でのファイル共有や協働も可能です。
パフォーマンス管理の問題
現在、日立製作所や資生堂、富士通、KDDIといった大手企業が採用を始めている「ジョブ型」(職務等級制度とも呼ばれる)という雇用形態をご存知でしょうか。リモートワークを行う企業は、このジョブ型という雇用形態を導入することで、マネジメントの難しさを解消できる可能性があります。
ジョブ型について解説する前に、まずはこれまで日本企業で採用されてきた日本固有の雇用形態である「メンバーシップ型」(職能資格制度とも呼ばれる)について解説します。メンバーシップ型の雇用形態とは、新卒採用などで一度にまとめて確保した人材を各部門の空きに応じて配置し、「人」に対して「仕事を割り当てる」ことで育成を図るというものです。
一方、ジョブ型の雇用形態はメンバーシップ型とまったく逆の形をとります。全てのポジション(役割)に対してジョブディスクリプション(職務記述書)というドキュメントが作成され、記述された職務を遂行できる人材だけがそのポジションに就くことができます。つまり、「仕事」に対して「人を割り当てる」ことになり、育成のプロセスを削減することができます。
また、ジョブ型の雇用形態が注目される背景には、大きく3つ理由があります。
1つ目には企業のグローバル化が挙げられます。日本企業が海外へ進出していると同時に海外の企業も日本国内へ進出しており、企業間の競争激化は避けて通れません。
海外ではすでにジョブ型が普及しているため、即戦力の人材がジョイン後にすぐ活躍しています。すなわち、「じっくりと人材の育成を待つ」日本の年功序列制度では、もはや太刀打ちが難しくなってきているのです。
2つ目は、生産性の低い従業員の人件費を削減できるという理由です。勤続年数が長いだけの「ぶらさがり人材」に高い賃金を支払う余裕は、企業にはもう残っていません。仕事に対して人をアサインするジョブ型では、ミッションの達成に応じて賃金が支払われるため、企業の発展に貢献した人材に対して正当に報酬を支払えるようになります。
3つ目は、人材不足です。「人で採用する」これまでのメンバーシップ型では、スキルは持っているけれども年齢や性別、国籍によって採用が阻まれてしまうケースが多々ありました。ジョブ型に移行することで、役割を達成するための人材が求められるため、採用される側の属性は問題ではなくなるわけです。より均等化された就労機会の実現にもつながるといえるでしょう。
これまでのメンバーシップ型では、従業員をいくつかの等級に分け、同じ等級であれば同じ賃金が支払われていましたが、ジョブ型においては割り当てられた仕事の達成度によって賃金が支払われることになります。そうなると、どのような基準で人材を評価するかというパフォーマンス測定が問題となります。各職務によって内容や程度がバラバラなので、評価基準が複雑化するわけです。
雇用形態を変えるという試みは日本企業にとって大きな転換点であり、さらに人材がリモートでマネジメントされる変化の過渡期においてそれらが行われるというのは試行錯誤の連続になるでしょう。しかし、企業の生き残りをかけてジョブ型の雇用形態に切り替える価値と意義はあるかもしれません。
コミュニケーションの問題
すでに在宅勤務やテレワークの経験がある方なら実感しているかと思われますが、ICTツールを活用したデジタルコミュニケーションや働き方が急速に普及しています。
たとえコロナ禍が収束しても、これらのデジタル化が衰退することはないでしょう。ただし、現時点でICTツールは対面で顔を合わせて行うコミュニケーションや働き方の代替にはなり得ません。今後これらのツールはさらなる進化を遂げることが予測されますが、それでも完全な代替になるわけではないことを念頭においておくと良いでしょう。
リモートワークの際に日々チャットツールで行われるコミュニケーションは、どうしても業務指示といった直接的なコミュニケーションに留まりがちです。対面で話す際には雑談を含めた情報共有やラポール(信頼形成)などが発生しますが、ICTツールではそれが途端に難しくなります。
また、ICTツールでは相手の「温度感」を察しにくいという欠点があります。
例えば、上司から部下への「〜してください」という伝達ひとつにしても、対面で顔を合わせて行うもの、電話で行うもの、メールで行うもの、チャットツールで行うもの、それぞれで部下が感じる「温度」は異なります。なぜなら、人は言葉そのものだけでなく、表情や声色、雰囲気、関係性といった情報を総動員して相手を察しようとするためです。例えば、コミュニケーションスキルの高さを評価されていた管理職がリモートワークに移行してからうまくパフォーマンスを発揮できなくなったとしたら、ICTツールの特性が障壁になっている可能性を考慮する必要があります。
これらを踏まえると、対面でのコミュニケーション機会が減った現在においてコミュニケーションの質は低下するしかしない、ということになってしまうのですが、実は相手との関係性がすでにしっかりと構築されており、コミュニケーションコストが低くなっていれば、それらのデメリットをカバーできることもあります。
ICTツールを通したコミュニケーションはタスク遂行に焦点が当たりがちですが、感情や関係性をメンテナンスするという側面でICTツールを活用することも重要でしょう。つまり、行動や成果という目に見えるものだけでなく、情緒という目に見えないものをこれまで通り大事にするということです。
結局のところはチーム内でいかにお互いの信頼を築いていくかというところに帰結し、これはリモートマネジメント以前の問題として解決すべきものであるといえるわけです。もしこれがフルリモート化以後の問題であるならば、後述する社内イベントのような施策を行ってもよいかもしれません。
リモートマネジメントの施策
現在ではCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響に対する企業の事業継続性が重要視されており、リモートワークがいかに難しいものだとしても、今後の導入は避けて通れません。そのため、最後にリモートマネジメントを円滑に進める施策について紹介します。
タスク管理のマネジメント
・業務開始/終了時のタスク報告
業務開始時には、その日どんな業務を行うのかを具体的に報告してもらうようにしましょう。これには、部下が「自分のタスクを自分でコントロールする」という意味も含まれています。可能であればMicrosoft TeamsやZoomなどのビデオチャット機能を用いて、画面越しであっても毎日顔を合わせる習慣は設けておいたほうがよさそうです。一部では「化粧をするのが大変」「スーツを着なくては」という反対意見もあるため、そのあたりのルールは柔軟にしておいてもよいでしょう。
また業務終了時にはその日の進捗(進捗は業務時間中に随時報告させてもよいでしょう)と、翌日以降のスケジュールを報告してもらうことも重要です。その日その日を終わらせればよいという視野狭窄に陥らないよう、週次、月次の長いスパンで部下にセルフマネジメントを行ってもらうことも必要になってきます。
・定例ミーティングを増やす
リモートワークでは一対一で個別にやりとりすることが多くなるため、チーム全体の状況を俯瞰的に把握しにくくなりがちです。誰がどんな業務をどのくらいやっているのかがわからないと、パフォーマンスにも影響してくるほか、チームワークが乱れます。チームが全体としてどこに向かっていて、今どの段階にいるのか、各メンバーや自分がそれぞれの役割に対してどの程度コミットできているかといった、パフォーマンスの状況を全員で共有することも重要な施策のひとつです。
・ドキュメント化
業務がリモート化すると、認識の統一(齟齬がないかどうか)がこれまで以上に求められるようになります。ささいな伝え方の違いで、方向性が大きく変わることもしばしばあります。すでに定型化している業務や、わかりやすく伝えたい指示などは、テキストやチャットで全てを伝えようとするのではなく、ドキュメント化してお互いの認識がずれていないことを確認しながら進めていくことが重要です。またこれらのドキュメントは後々も使えるものが含まれることが多いため、チームの資産として漏れなく保管しておいてください。
・一人ひとりの業務を明確にして共有する
オフィスで顔を合わせて働いている際は、その人が今どんな仕事をしているのか、忙しいのか暇なのかがなんとなく見えていましたが、バラバラの場所で働いていると、いつ何をしているのかがまわりからは見えなくなってしまいます。それぞれが担う役割に対してどの程度の進捗で業務が行われているのかというプロセスをチーム内で共有することが、リモートマネジメントには求められます。
コミュニケーションのマネジメント
・業務以外の交流の場を増やす
テレワークになってはじめて、「雑談」の重要性に気づいた人も少なくないのではないでしょうか。ビデオチャットのZoomには、「ブレークアウトセッション」と呼ばれる、参加者を小部屋に区切って少人数で話せる機能があります。業務以外の話をする場としてこれらを活用することも有用でしょう。
打ち合わせの合間に短時間の休憩時間を都度設けてその間にチャットでの雑談を推奨するするなど、タスク以外のコミュニケーションも促進していきましょう。
今後リモートワークがさらに浸透していくと、出社には「勤務をする」以外の目的と意味が含まれるようになります。すなわち、人を集める際にはその目的をしっかりと定義する必要があるといえるでしょう。
例えば、リモートワーカー同士が顔を合わせて相手の価値観や個性に触れることが、お互いの信頼感や共通の文脈を生み出し、コミュニケーションコストを下げることにつながるわけです。そういった社内イベントを実施することも、リモートマネジメントを長期的に円滑にするための施策の一種といえます。
リモートマネジメントは困難だが不可能ではない
米国の大手企業も意見が分かれている中、リモートワークに対して日本企業がどういう姿勢で取り組むかは、非常に難しい問題です。しかしながら前述のように、社会問題の観点からリモート化は避けられないという状況でもあり、であればいかにリモートワークを成功させるかについて考え方をシフトさせていくほうが建設的といえるのではないでしょうか。
リモートマネジメントについては多くのマネジメント層が未知の領域になるかと思われますが、これからも最新の動向をお伝えしていきますので、ぜひ参考にしてください。
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人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。
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