2024.03.26

アサーションとは?意味や定義、職場において必要とされる理由を解説

職場の人間関係で悩んでいる場合、その原因の多くはコミュニケーションの方法にあります。自己主張をしすぎると軋轢が生まれ、かといって自分の意見を一切言わない場合も適切な人間関係は作れません。つまりコミュニケーションとは主張と傾聴のバランスが大切であり、その観点から注目されているのがアサーションです。

ビジネスでは、動機付けや失敗の対処、上司や部門との関係構築、会議や合意形成の難題、顧客との価格交渉、部下への評価伝達など、さまざまな葛藤が起こります。これらの状況では、自分の主張を元にいかに相手を説得するかが重要です。これらの課題にはアサーションという手法が役立ちます。

アサーションは、自己と他者のコンフリクトを解決するための重要な手段です。この記事では、アサーションの概要、効果、ビジネス上の重要性、トレーニング方法について詳しく解説します。

アサーションとは

ビジネスで使えるコミュニケーションスキルは複数ありますが、アサーションとは一体どのような手法なのでしょうか。他のコミュニケーションスキルとの違いや、なぜビジネスで重要視されているのか気になるところです。

まずは基礎の意味も兼ね、アサーションの意味・特徴・発祥(誕生の歴史)について見ていきましょう。

アサーションの意味

アサーションは、相手の意見・立場を尊重しながら、自分の意見を主張し、相手に伝えるコミュニケーションスキルのことを指します。言葉にすると簡単に聞こえますが、相手との距離感・主張と傾聴のバランス・その場の空気などを考慮し、状況に応じてやり方を微妙に変えなければならない、高度なコミュニケーションスキルでもあります。

アサーションの手法を説明する際に大きく以下の3つに分けて説明します。

  • ・アグレッシブ(攻撃的)
  • ・ノンアサーティブ(非主張的)
  • ・アサーティブ
  • それぞれのタイプについての概要は後述しますが、アサーションを使えているタイプはその名称通り「アサーティブ」に当たります。アサーションでは、人は3つのタイプのどれかに偏ったコミュニケーションを取っていると考え、他者との意思疎通や人間関係の構築が上手くいかないのは、「アグレッシブ(攻撃的)」「ノンアサーティブ(非主張的)」のどちらかに該当しているためです

    しかし、アサーションを習得する上では、「アグレッシブ(攻撃的)」、「ノンアサーティブ(非主張的)」の間が、全て「アサーション」であるということはありません。また、コミュケーションは双方の中に存在しており、自分が「アサーティブ」に伝えたとしては、相手が「アグレッシブ(攻撃的)」と認識すれば、これは「アサーティブ」と言えません。

    自分と相手のコミュケーションの間にある距離感・主張と傾聴のバランス・空気の中に、「アグレッシブ(攻撃的)」、「ノンアサーティブ(非主張的)」という大局の間に流動的な「アサーティブ」が存在するということです。

    また、相互のコミュケーションが「アグレッシブ(攻撃的)」「ノンアサーティブ(非主張的)」なコミュニケーションから脱し、「アサーティブ」になることによって、生産性や関係性が向上します。

    伝えたい内容を相手に伝えやすくなり、その結果人間関係が良好になるなど、日常生活・ビジネス問わず、コミュニケーションの質を大きく向上させることができるでしょう。また、誰とでも対等なコミュニケーションが取れることも良い部分で、たとえば仕事の成果の有無や上下関係などによって必要以上に相手にへりくだるといった接し方をする必要がなくなります。

    アサーションの発祥

    アサーション(assertion)は、1950年代のアメリカの心理学者ジョセフ・ウォルピが行動療法として開発し、アメリカ国内で心理療法の1つとして取り入れたことが始まりです。ジョセフ・ウォルピは、第二次世界大戦後、行動療法分野のパイオニアで神経症の行動療法の父であり、帰還兵のPTSDの心的障害を行動療法やカウンセリングにより改善した精神医学者です。この経緯からもわかる通り、アサーションの源流は無意識やトラウマを発見した精神医学の父のフロイトです。

    アサーションは当初、自己主張することが苦手な人を対象とし、コミュニケーション能力向上のためのカウンセリング技法として実施されていました。その後、1960年~1970年代のアメリカでは、人種差別撤廃運動や婦人解放運動といった、差別に関する問題が社会問題化します。差別に関してはとくにコミュニケーションに大きな弊害が出ていたため、相手を尊重しながら自己表現を行う話術として社会に広まりました。

    ここで重要なことは、心的障害など不安や恐怖、パニックを抱えて相手に対する精神医学療法の思想がアサーションに通底しているということです。アサーションは、しばしば主張する為の発信側のコミュケーションスキルに矮小化されがちですが、思想及び視点は、相手にあるということを認識しておきましょう

    また、アサーションが日本国内に持ち込まれたのは比較的遅く、1980年代に入ってからです。当時は、コミュニケーションのメソッドとしてもてはやされましたが、高度経済成長期における「阿吽の呼吸」と「言わずもがな」のハイコンテクストなコミュニケーションが、組織内における日本独自のアサーティブなコミュニケーションの土台にある為、広がることはありませんでした。

    しかし、ビジネスの複雑化と雇用や人財の多様化がうみ出すさまざまな人間関係の葛藤をコラボレーションに変える必要がある現代では、アサーションが再注目されています

    ビジネスにおいてなぜアサーションが必要なのか

    近年、新型コロナウイルスによるパンデミックの影響もあり、出社せずに働くテレワークという働き方が普及しました。しかし、画面を通して行うオンライン上のコミュニケーションには複数のデメリットがあり、表情がわかりにくい・感情が読みにくい・ジェスチャーが行いにくいといった、対面でのやり取りに比べ、勝手の違いにストレスを感じているビジネスパーソンが多いのも事実です。

    このストレスがうつ病の引き金になることも珍しくなく、厚生労働省の「患者調査」では、精神疾患の患者は、2017年以降増加の一途を辿っています。ビジネスにおける「うつ病」に代表される精神疾患は遠因にコミュニケーションがある事は、否定する人は少ないでしょう。これが求職や離職に繋がっていることは明白です。それにより、職場の生産性や関係性に深い影を落とすことを実感されているリーダーや管理者は多いのではないでしょうか。

    こうした事態を打開するため、相手の立場や状況、自身の言葉に意識を向けるアサーションを用いたコミュニケーションの需要が高まっています。

    価値をうみ出すための差異は必要だが葛藤もうむ

    近年のビジネスでは、ITテクノロジーの進歩と普及の影響によって市場が変化し、併せて業務形態に変化が起きたことにより、異分野や社内外の異なる業務を担う人と協同で仕事を進める必要が出てきています。とくにDX化に代表されるような、アナログとデジタルの融合に関してはあらゆる業界が連携しており、たとえば「製造業×デジタル」、「飲食業×デジタル」など、デジタルに精通したサポート企業や知識を持つ外部の人材と連携しなければなりません。データは異なる業界や企業、部門を結びつけることで、その違いから価値を生み出します。

    異なる分野の人々が集まると、コミュニケーションのスタイルも変わります。それぞれの業界や専門分野には独自の常識や言葉があり、それが異なる分野のコミュニケーションともなれば摩擦や誤解を生むことがあります。しかし、この違いがあるからこそ、新たなアイデアやサービスが生まれる可能性もあります。

    また、構想を現実的に実行するのは、誰にでもできないからこそ価値があるとも言えます。その中で、異なる分野の人々が協力してイノベーションを生み出すには、適切なコミュニケーションが不可欠です。アイデアを実行に移すには、主張と傾聴のバランスや、空気感覚など、微妙なコミュニケーションスキルが求められます。

    コラボレーションをうみ出す多様性にあるコミュニケーション

    ビジネスで新たな価値を生み出す際に重要なのが、多様な価値観や専門性、視点を持ち寄った時に発生する視点・価値観の違いです。意見・価値観の違いをコラボレーションに変えなければ多様性は、活力に変化することはできません。アサーションによって相手の価値観や視点、意見を尊重しながらコミュニケーションを取ることで相手目線の貴重な意見を引き出し、隠れていた問題・課題の発見、自社商品・サービスの強みや弱みの再確認し、さらには異業種や異なる専門性を持つ者同士のコラボレーションを促すこともあるでしょう

    多様性は、単純な採用やレピュテーションの為のモノではありません。多様性という差異性に対し許容度の高い組織は、新しい発想や柔軟な職場風土を創りだします。しかし、多様性を許容するには、必ずコミュニケーションが必須であり、双方の意見や視点をまず、引き受けるというアサーションは重要な要素です。

    異業種や異なる専門性を持つ分野同士がコラボレーションすると、これまでなかったプロジェクトの発足、新たな収益源の獲得、企業としての認知度の向上といったメリットがあります。とはいえ、業界の枠組みを超えたコラボレーションにおいては、それぞれの立場や理念を考慮した関係性の構築が不可欠です。その際のコミュニケーションの障壁を突破する手段として、アサーションによる互いを尊重し理解し合うことが有用だと言えるでしょう。

    アサーションにおけるコミュニケーションスタイル

    最初の項目でもお伝えしましたが、アサーションでは人のコミュニケーションスタイルを「アサーティブ」「ノンアサーティブ(非主張的)」「アグレッシブ(攻撃的)」の3つに分類して考えます。厳密に言うと、誰しもが3つすべての要素を持っていますが、いずれかのコミュニケーションスタイルに偏っているため問題が発生しているとアサーションでは説いています。

    ここでは、アサーションにおける「アサーティブ」「ノンアサーティブ(非主張的)」「アグレッシブ(攻撃的)」について見ていきましょう。

    ノンアサーティブ

    「ノンアサーティブ(非主張的)」は、自身に意見があってもあまり主張せず、相手に合わせてコミュニケーションを取るやり方です。自分に自信がなかったり、自分のことを後回しにして相手を優先してしまったりする人に起こりがちなコミュニケーションスタイルで、自分を主張しないことが相手への思いやりだと錯覚している場合もあります。「言ったもの負け」や「沈黙こそが主張」という考えを持っている人もいるかもしれません。

    一見すると物静かでやり取りがしやすそうですが、本心が分からないため信頼しにくく、ビジネス上の関係ではやや扱いにくい存在になります。また、はっきりと意見を言わないことで責任を回避するため、言い訳(と受け取られてしまう状況)が多いのも特徴で、行動に繋がる前向きなコミュニケーションが取りにくいのも、このスタイルの難点です。

    ご自身が「ノンアサーティブ(非主張的)」である場合は、言語化や文章にしてみましょう。簡単に言えば書き出すということです。私たちは、雑談でも議論でも発する言葉には必ず理由や根拠があります。しかし、全ての発信に対して全て理由や根拠を整理して主張するには訓練が必要です。文章は、あなたに反論する事も拒否することもないので誰にでも手軽に行えるでしょう。

    主張には、根拠や論拠、そして事実が必要です。トゥルーミンの法則というテンプレートを使うと、主張の構造をわかりやすく整理することができます。相手が「ノンアサーティブ(非主張的)」である場合は、傾聴やアクティブリスニングが重要です。しかし、ご自身と相手の間の「不信」がある場合や初見の場合は、傾聴や質問をしても難しいでしょう。相手との間に不信や共有するものがない初見の段階では、主張ではなく、相手の状況をコミュニケーション前段階でよく理解する為の準備が必要であり、相手が使う言葉で話したり、相手の話のテンポに併せたりするなど、相手との適合させることが重要です。一般的には、この技術は「ディコーラム」と言います。初見の場合など、自己紹介という主張を、ディコーラムを使ってすることが重要でしょう。

    また、「ノンアサーティブ(非主張的)」である原因は、うまく言語化できないというケースが実は多くあります。職場やビジネスの関係性や課題が複雑化している為、うまく整理できないということもあります。「積極的か消極的か」という単純なマインドの問題ではなく、関係性における「ノンアサーティブ(非主張的)」な態度では、傾聴やアクティブリスニングが重要なキーワードになる事がほとんどです。職場やビジネスでは、言語化できない複雑な状況があります。こうした場面では、傾聴と整理に十分な時間をかける必要があります。

    アグレッシブ

    「アグレッシブ(攻撃的)」は、相手の意見・立場をないがしろにし、自分の主張を優先する、自己中心的なコミュニケーションを展開するスタイルです。相手の言い分を聞き入れず、自分の主張を押し付けるような表現を用いるため、しばしば人間関係で衝突するなど軋轢を生むことがあります

    さらに、意見が対立する相手に悪態をついたり、業績や役職を盾にしてマウンティングをとったりするやり方で自分の主張を通そうとする場合もあります。アサーションとは真逆のコミュニケーションスタイルと言え、ビジネス上では非常に厄介な存在です。「あの人に意見するとややこしいことになるので放っておこう」などと、腫れ物に触るように扱われている場合もあり、チーム・組織の連携の弊害になっていることも珍しくありません。

    しかし、この手の「声の大きい」人の問題を、単純な属人的な問題として処理することは問題解決に繋がりません。また、「声の大きい」の主張に対して反論や意見を言えない周囲がそれを助長している側面もあります。

    相手がアグレッシブではあれば、「理詰め」の論理で対応する事と「共感」で相手の感情に対応する必要があります。どのような意見や立場であろうと、その主張には必ず理由や論理があります。言語化、整理できているか否かは別として、一つひとつ相手の意見を整理していきましょう。自分の意見が論理的に矛盾していたり、意味があいまいだったりする場合は、質問を通じて整理し、自分の意見を少しずつ加えていくことが大切です。そうすることで、自分の考えが整合性のあるものになり、理解が深まります。

    また、感情的に高ぶりや抽象的な言葉が飛び交う場合、まずは相手の言葉ではなく、その背後にある感情に焦点を当てることが重要です。そして、相手の感情に共感しつつ、自分の感情も添えて返していきましょう。

    クレーム対応の現場では、怒りっぽい顧客に理詰めで対応すると問題が大きくなります。また、顧客の無理難題にも無条件で応じると、組織に多大なコストがかかる可能性があります。そのため、論理的な整理と感情的な整理を同時に行いながら、顧客対応を行っています。これは企業によってはマニュアル化されており、具体的なトレーニングも行われています。重要なのは、このスキルを身に着けることです。

    アサーティブ

    「アサーティブ」は、自分の意見を主張しながら相手の意見・立場も尊重し、人間関係に必要な配慮を持ってコミュニケーションを取るやり方です。その場の空気やそれまでの人間関係を大切にし、不用意に攻撃的な言動を取ることもなければ、必要以上に自分の意見を押し殺すこともありません。相手と意見が対立しても物怖じせず、かといって自分の方が正しいといった横柄な態度を取ることもなく、敬意をもって相手と接することができるビジネス向きのコミュニケーションスタイルです。

    主張と相手の尊重の比率を調整することができるためバランスが取れており、「ノンアサーティブ(非主張的)」「アグレッシブ(攻撃的)」を上手く使い分けることができるため、コミュニケーションの理想形とも言えるでしょう。日常会話からビジネス上のやり取りに至るまで、幅広く用いることができるコミュニケーションスタイルです。

    アサーティブを実現するためには、距離感をしっかり認識することが重要です。言語や情報の差異の距離感、論理や理屈の距離感、感情の距離感、関係性の距離感、複数の距離感を認識することが重要です。

    アサーティブは、「言い方」という語彙の問題もありますが、語彙など表現力よりも距離感にしっかりと意識を向ける誠実性や適合性の方が重要です。この姿勢が言語や表現に伝える力をつけることを確認しておきましょう。

    姿勢や考え方が整理されたうえで、ここからはアサーションの言葉などにおける要素に迫っていきます。

    アサーションにおける言葉の重要性

    言語体系が複雑な日本語は、さまざまな言い回しや問いかけを使い分けられるのが良い部分です。アサーションにおいても日本語の自由度を活かした言い方は大切で、相手の感情を尊重してから本題に入るのか、気持ちを高めてもらうため、あえて扇動的に問題提起から入るのかなど、状況に応じて伝わりやすい文脈を選択することが重要です。

    また、感情を揺さぶるストーリーテリングによって主張の説得力や共感性を高めるほか、ロジカルに伝えることで理解しやすくするなどの方法を取ることもできます。言葉選びだけでなく、他のコミュニケーションスキルや思考法と組み合わせて言い方を工夫できるのは、アサーションならではの強みでしょう。

    このようにアサーションは、相手と向き合う際の姿勢・態度もさることながら、コミュニケーションスタイルを柔軟にカスタムできることも魅力です。もちろん間違った言い方を選択すると伝わらない場合もありますが、相手の意見・立場を尊重するアサーションの構造的に、相手を不愉快にするリスクはほとんどありません。失敗のデメリットがないにも関わらず、習熟してくるほど汎用性が高まるため、コミュニケーションスキルとして練習しやすいのもアサーションの大きな特徴だと言えるでしょう。

    アサーションはレトリックと似ている

    アサーションの本質は、コミュニケーションによって相手を説得し、納得感を持ってもらうためのレトリック(修辞法)にあります。レトリックとは、コミュニケーションにおける表現力を指し、その目的は人を動かし、日常やビジネス上での物事を上手に運ぶことです。

    アサーションを用いたコミュニケーションは、相手の意見や立場を尊重し、納得感と腹落ちを持って業務にあたってもらうことを目指とします。このアプローチは、レトリックのエトス(説得者の信頼性)、パトス(感情への訴え)、ロゴス(論理的な説得)という概念と酷似しています。エトスは、説得者自身の信頼性や尊重が相手に影響を与えることを指し、アサーションでは相手の意見や立場を尊重する姿勢が重要です。パトスは、感情に訴えることで相手の共感を引き出すことを意味し、アサーションでも相手の感情や立場を考慮して柔軟にコミュニケーションを行います。ロゴスは、論理的な説得を指し、アサーションも論理的な説得を行う際に相手の立場や思考を考慮し、妥協点を見出して協力関係を築きます。

    また、レトリックの概念にはディコーラム(適応性)も含まれます。ディコーラムとは、特定の状況や相手に合わせて行動や言動を適応させる柔軟性や適切さを指し、アサーションでも相手の立場や状況に合わせて適切なコミュニケーションを取ることが求められます。

    ビジネスの現場では、同僚・上司・経営陣・顧客など、あらゆる立場に置かれた人に対し、納得感と腹落ちを持って業務にあたってもらう必要があります。そのためには、相手の立場・役割・思考・感情・周辺環境などを多角度的に理解し、その上でお互いの共通項を見出し、妥協点を見つけて協力関係を構築しなければなりません。

    アサーションを用いたコミュニケーションは、相手の意見・立場を尊重するところから出発するため、人を動かすために必要な「相手を理解する」という土台部分をクリアしています。比喩・誇張・反語・倒置などの表現=レトリック(修辞法)を用い、言い回しや問いかけ方を相手に合わせて柔軟に使い分けることで、より相手を説得・納得させやすいコミュニケーションを取ることができるでしょう

    また、アサーションもレトリック(エトス)も、客体(相手)が中心にあるコミュニケーションスキルです。相手の立場や感情を尊重しながら、効果的なコミュニケーションを行うための土台となります。

    アサーションが及ぼすプラスの効果

    相手の意見・立場を尊重するアサーションには、いくつものプラスの効果があります。主な効果は人間関係を良好にするものですが、そこから派生する効果に関してもビジネスにおいて大きな意味を持ちます。

    ここでは、アサーションが及ぼすとくに有用なプラスの効果について見ていきましょう。

    人間関係が良くなる

    現代の企業の業務は細かく分業化されており、個々の社員や関係者の経歴・価値観・考え方を知ることが難しい状況です。それでも各個人が担当する領域ははっきりしており、業務遂行に必要なマニュアルが整っているため、表面的には人間関係の影響を受けずに業務が遂行できているように思えます。

    しかし、企業としてより質の良い仕事を行うには、社内外の関係者が深いレベルで理解し合い、互いを信頼することが不可欠です。そのための1つの方法として、アサーションを用いたコミュニケーションが有用であり、強固な人間関係を構築する際の足がかりにすることができます。

    対等な意見交換

    会議や打ち合わせなどの場では、立場や状況による意見の対立が起こりやすく、感情的な不快感も伴うことがあります。特に議論の中でロジカルなやり取りが行われる場合、成否や正解・不正解といった明確な回答が求められ、自分の意見が論理的に否定されることがあるため、感情的な反応が起こりやすいものです。

    このようなヒリヒリとした場面では、ディベートやディスカッションに近い状態になり、感情を逆なでしやすい傾向があります。そのため、アサーションを用いたコミュニケーションが特に効果的です。アサーションを通じて、相手の意見を尊重し、議論を進めることができます。

    相手に不快感をあたえずに断ることができる

    日本人は和を重んじる同調性を大切にしてきたため、断ることを苦手としている傾向があります。しかし、何かを断るという状況はビジネス上の人間関係において必ず発生するため、苦手だからといって避けては通れないものです。断り方や断るタイミングを間違えてしまうと、所属する集団から排除される場合もあり、思っている以上に勇気が必要なコミュニケーションだと言えるでしょう。

    ビジネス上の人間関係で断りを入れる際も、アサーションを用いたコミュニケーションは有用です。相手の意見・立場を尊重した上で賛同・参加できない理由を伝えることで、相手に必要以上に不快な思いをさせずに断ることができるでしょう。相手の感情と理屈を整理して返答すれば、波風を立てずに断ることができ、何度もしつこく誘われることもありません。

    アサーショントレーニングの方法

    ここまではアサーションの概要や効果について解説してきましたが、理屈を知ったからと言ってすぐにできるようになるものではありません。実際にアサーションをコミュニケーションに取り入れるには、時間をかけてトレーニングを行う必要があります。

    ここからは、アサーションを身に着ける際に有効なトレーニングについてご紹介します。

    DESC法

    DESC法は、アサーションのスキルを体系立ててまとめた方法論で、アサーションを4つの段階に分けることで、より分かりやすく実践しやすい形に落とし込んでいます。4つの段階は以下のとおりです。

  • D:Describe(描写)
  • E:Express(表現)
  • S:Specify(提案)
  • C:Choose(選択)
  • それぞれの段階について解説します。

    「Describe(描写)」は、状況・行動などを客観的に把握し、事実だけを相手に伝えます。感情・憶測といった主観的な考えは一切入れず、起きている事実だけにフォーカスし、そのまま描写するように相手に伝えることが重要です。

    「Express(表現)」は、描写した事実に対して、自身の考えや感情を表現します。あくまでも自分自身の考え・感情を伝え、第三者の意見や考えは入れないようにします。その際、相手や周囲の状況を批判したり、責めたりするような態度を取らないことも重要です。

    「Specify(提案)」は、自身が考える現実的な解決案を提示するなど相手に求めている行動について伝えます。ただし、ここでの提案はあくまでも1つの案であり、強要するような押しつけがましい言い方で伝えることは厳禁です。言い方には十分注意しなければなりません。

    「Choose(選択)」は、「Specify(提案)」への相手の反応に応じて、自身の行動を選択するフェーズです。提案を受け入れてもらえたらそのまま協力して実行し、難色を示されたら代替案を用意するなど、柔軟に対応します。相手がどのような反応をしても、感情的になってはいけません

    以上の4つの段階を踏むことで、アサーションを用いたコミュニケーションを実践で活用しやすくなるでしょう。

    ABCDE理論

    ABCDE理論は、論理療法の創始者である臨床心理学者アルバート・エリスが提唱した理論で、人が物事を受け取る際の思考・感情の流れをチャート化して理解する手法です。以下の5つの段階を踏むことで、アサーションのトレーニングとして活用することができます。

  • A:Activating event(出来事、現象)
  • B:Belief(信念、認知、解釈)
  • C:Consequence(結果)
  • D:Dispute(反論、反駁、自問自答)
  • E:Effect(効果)
  • それぞれの段階について見ていきましょう。

    「Activating event(出来事)」は、実際に起きた出来事や現象を指します。この時の出来事や現象をどう受け取るかで、人が物事に対して抱く思考・感情の流れが決定します。

    「Belief(信念、認知、解釈)」は、起きた出来事や現象に対する、感情・思考・思い込みです。合理的な受け取り方をする場合もあれば、理にかなわない不合理な受け取り方をする場合もあります。

    「Consequence(結果)」は、A・Bの段階を経て、結論として感情を出したり、行動に移したりする段階です。理にかなっている良い方向の結論が出る場合もあれば、不合理でストレスフルな悪い結論に辿り着く場合もあります。思考の分岐点とも言える段階です。

    「Dispute(反論、反駁、自問自答)」は、Cで悪い結論に辿り着いた場合に、反応の出発点であるBの段階に対して反論を行います。反論によって不合理な受け取り方であるBの段階を打ち消すよう努めます。

    「Effect(効果)」は、Dの段階で行った反論により、自身の行動を客観的で理性的な方向に修正します。不合理な受け取り方が起きるたびにD→Eの流れを行い、行動によって出来事や現象への受け取り方を修正していきます。

    (アイ)メッセージ

    アイメッセージは、「私」を主題とすることで、意見・主張・希望を伝えやすくするコミュニケーションの手法です。アメリカの心理学者トマス・ゴードンによって提唱された手法で、元々は子どもとの適切な接し方を親に指導するために生み出されました。ただ意見・主張・希望を伝えるよりも、「私」という主語を付け加えることで人間味のあるコミュニケーションに変化し、共感や親近感を抱いてもらいやすくなるメリットがあります

    ビジネス上のコミュニケーションでは、「納得できない」「理解できない」といった個人の感情・価値観よりも、業務の責任や命題が優先されるものですが、そうはいっても喜怒哀楽による感情的な反応は起こってしまうものです。こうした感情への対処は後回しにされがちですが、実は水面下で社員のパフォーマンスやモチベーションに影響しているため、ケアをしながらコミュニケーションを取るのが望ましいでしょう。

    その際に有効なのがアイメッセージで、コミュニケーションを取る際、「私はこう思う」「私はこうして欲しい」と「私」を主語に据えることで人間味のあるやり取りができ、温かみのある構図を作ることができます。すると相手に意見・主張・希望を受け取ってもらいやすくなり、さらに「私」という主語を通して感情を吐き出すことにもなるため、個人の感情・価値観を尊重するちょっとしたメンタルケアにも繋がります

    アサーションのトレーニングとしてアイメッセージを取り入れるなら、まずはコミュニケーション上の発言を「私は〇〇」にすることです。慣れてきたら状況に合わせ、「我が社」「私の部署」と主語の数を増やしていくと良いでしょう。

    アサーション権

    アサーション権とは、自他の権利をそれぞれ尊重して守りながら、お互いが自己表現しても良いという権利のことです。たとえば、「聞いてもらいたい話がある時、それを相手に求める権利」「物事の決断が必ずしも合理的・論理的でなく、感情的な理由でも良い権利」「頼まれごとを断っても良い権利」などです。

    コミュニケーションでアサーションを用いる際、心理的なハードルとなるのがこのアサーション権を行使する瞬間です。主張が苦手な日本人は適切な主張を「わがまま」「自分勝手」「自己中心的」などと考えてしまいがちですが、そのような時はアサーション権の基本原理を思い出すことが有効です。基本原理に則ってアサーション権を行使することに慣れ、自他が自己表現しても良いという原点に立ち返ること自体が、アサーションのトレーニングの一環だと言えるでしょう。

    アサーションとレトリック

    アサーションを用いたコミュニケーションにおいてはレトリック(修辞法)、つまりコミュニケーション上の表現力によって人を動かし、日常やビジネス上での物事を上手く運ぶことだと前項でお伝えしました。その人を動かす行為において重要なのが、古代ギリシャの哲学者アリストテレスが主張する「ロゴス」「パトス」「エトス」の3要素です。

    アサーションとは切っても切り離せない3要素ですが、どのような意味があるのでしょうか。それぞれの要素について見ていきます。

    ロゴス(論理)

    ロゴスは、物事を理屈立てて相手に説明する行為で、声明される側としては、説明する側の論理に関して整合性を判断することを指します。主に、議論・プレゼンテーション・会議など、会話を用いたやり取りの場で必要とされ、ビジネスの現場においては必須とされる概念になります。

    ロゴスの論理を形作る枠組みには、演繹法のように原理原則に対して個別事例を照らし合わせる方法や、逆に個別事例から原理原則や何らかの法則を導き出す帰納法があります。アサーションにおいてもロゴスは大切な要素で、意見・主張に説得力を持たせ、相手に納得してもらうためには必須です。

    パトス(情熱)

    パトスは、コミュニケーションの発信者が受け手の感情や心情をくみ取ることで、簡単に言うと相手に共感してもらうため、心理的に距離を縮めて寄り添うことを指します。コミュニケーションにおいて、意見・主張を受け取ってもらうためには、言葉による説明だけでは不十分です。熱い言葉を並べ、作り込んだプレゼンテーションを通して伝えたところで、相手にとって共感するポイントがなければ伝わりづらさを払拭することはできません。

    そのため、まずは意見・主張の発信者が喜怒哀楽を表現し、受け手の感情に揺さぶりをかけ共感しやすい土台を作ることが大切です。アサーションにおいてもパトスによる共感は重要で、お互いが理解し合い、歩み寄ったコミュニケーションを取るという意味でも必要不可欠な概念です

    エトス(信頼)

    エトスは、意見・主張の発信者や、情報源に対する受け手側が抱く信頼を指す言葉です。古代ギリシャの哲学者アリストテレスはエトスを、レトリックにとってはロゴス・パトス以上に重要だと位置付けており、現代的に表現するならファクト・エビデンス・専門性と言い換えることもできるでしょう。

    実際、SNSなどの情報を見ても、人々が支持するのは内容よりも「誰が発信している情報か」という部分です。どんなに中身のある内容を発信していても、エトスが不十分であればその情報が支持されることは難しくなります。

    アサーションにおいてもエトスは重要な要素で、意見・主張の発信者の経験はもちろん、役職・専門性などの肩書によって信頼度が変わり、コミュニケーションに影響を及ぼすことは避けられません。とはいえ、肩書がなければエトスが機能しないかと言えばそのようなことはなく、受け手との共通項を見つけ、相手の意見・立場に寄り添ったコミュニケーションを取ることでも、エトス=信頼を獲得することは可能です。

    まとめ

    職場のコミュニケーションが適切に行われていないと、人間関係の軋轢が生まれ、業務上のトラブルに見舞われる可能性が高くなります。とくに人間関係の悪化は、社員のモチベーションの低下や離職率の上昇に繋がることもあるため、1度土台であるコミュニケーションを見直してみることも必要でしょう。

    本記事で解説したアサーションを用いたコミュニケーション(アサーティブ)であれば、自分の意見を主張しながら相手の意見・立場も尊重できるため、ビジネス上で円滑な人間関係を構築しやすくなります。また、アサーションはトレーニング方法が複数あり、実践的に鍛えることができることも特徴で、さらにどのような立場の人でも取り組めることも大きな魅力でしょう。

    もちろん、アサーションは一朝一夕で身に付くものではありません。
    しかしながら、業務の中で少しずつ実践していけば質の高いコミュニケーションが取れるようになりますので、社内の人間関係を良くするため一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。

    株式会社ソフィア

    先生

    ソフィアさん

    人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。

    株式会社ソフィア

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