アサーションとは?意味・定義と職場で必要な理由【研修設計まで】
最終更新日:2026.04.28
目次
アサーションとは、自分も相手も尊重しながら意見や要望を伝えるコミュニケーションスキルです。職場では1on1、評価面談、部門間調整など葛藤場面が多く、伝え方次第で関係性と成果が大きく変わります。本記事では意味と背景から、研修設計まで体系的に解説します。
職場の人間関係で悩んでいる場合、その原因の多くはコミュニケーションの方法にあります。自己主張をしすぎると軋轢が生まれ、かといって自分の意見を一切言わない場合も適切な人間関係は築けません。つまりコミュニケーションとは主張と傾聴のバランスが大切であり、その観点から注目されているのがアサーションです。
ビジネスでは、動機付けや失敗への対処、上司・部門との関係構築、会議や合意形成の難題、顧客との価格交渉、部下への評価伝達など、さまざまな葛藤が生じます。これらの状況では、自分の主張をもとにいかに相手と合意を形成するかが重要です。そうした課題に対して、アサーションという手法が役立ちます。
アサーションは、自己と他者のコンフリクトを解決するための重要な手段です。本記事では、アサーションの概要、効果、ビジネス上の重要性、トレーニング方法について詳しく解説します。
アサーションの意味と定義
ビジネスで使えるコミュニケーションスキルは複数ありますが、アサーションとはどのような手法なのでしょうか。他のコミュニケーションスキルとの違いや、なぜビジネスで重要視されているのか、気になるところです。
まずは基礎の意味も兼ね、アサーションの意味・特徴・発祥(誕生の歴史)についてご説明します。
アサーションの意味
アサーションとは、相手の意見・立場を尊重しながら、自分の意見を主張して相手に伝えるコミュニケーションスキルのことを指します。言葉にすると簡単に聞こえますが、相手との距離感・主張と傾聴のバランス・その場の空気などを考慮し、状況に応じてやり方を微妙に変えなければならない、高度なコミュニケーションスキルでもあります。
アサーションの手法を説明する際には、大きく以下の3つに分けて整理します。
- アグレッシブ(攻撃的)
- ノンアサーティブ(非主張的)
- アサーティブ
それぞれのタイプの概要は後述しますが、アサーションを使えているタイプはその名称通り「アサーティブ」にあたります。アサーションでは、人は3つのタイプのどれかに偏ったコミュニケーションを取っていると考えます。他者との意思疎通や人間関係の構築がうまくいかないのは、「アグレッシブ(攻撃的)」「ノンアサーティブ(非主張的)」のいずれかに該当しているためだとされています。
ただし、アサーションを習得する上では、「アグレッシブ(攻撃的)」と「ノンアサーティブ(非主張的)」の間にあるすべてが「アサーティブ」というわけではありません。また、コミュニケーションは双方の間に成立するものであり、自分が「アサーティブ」に伝えたとしても、相手が「アグレッシブ(攻撃的)」と認識すれば、それは「アサーティブ」とは言えません。
自分と相手のコミュケーションの間にある距離感・主張と傾聴のバランス・空気の中に、「アグレッシブ(攻撃的)」、「ノンアサーティブ(非主張的)」という大局の間に流動的な「アサーティブ」が存在するということです。
また、相互のコミュケーションが「アグレッシブ(攻撃的)」「ノンアサーティブ(非主張的)」なコミュニケーションから脱し、「アサーティブ」になることによって、生産性や関係性が向上します。
伝えたい内容を相手に伝えやすくなり、その結果人間関係が良好になるなど、日常生活・ビジネス問わず、コミュニケーションの質を大きく向上させることができるでしょう。また、誰とでも対等なコミュニケーションが取れることも良い部分で、たとえば仕事の成果の有無や上下関係などによって必要以上に相手にへりくだるといった接し方をする必要がなくなります。
(公的文書での意味づけ)
文部科学省の資料でも「アサーショントレーニング(主張訓練)」は、葛藤場面(断る・要求する)で自分の伝えたいことをしっかり伝えるためのトレーニングとして説明されています。
アサーションの発祥と歴史的背景
アサーション(assertion)は、 Salter(1949) からはじまり、Wolpe(1958) が行動療法文脈で発展させ、Wolpe & Lazarus(1966) が測定・整理を進めました。アメリカの心理学者ジョセフ・ウォルピが行動療法として開発し、心理療法の一つとして取り入れたことが始まりです。ジョセフ・ウォルピは、第二次世界大戦後、行動療法分野のパイオニアとして帰還兵のPTSDによる心的障害を行動療法やカウンセリングによって改善した精神医学者です。
行動療法の文脈では、Wolpe(1958)が「アサーション(主張反応)」を不安抑制に有効な反応として位置づけ、その後Wolpe & Lazarus(1966)がアサーショントレーニングを開発したという整理が学術的に示されています。
アサーションは当初、自己主張することが苦手な人を対象とし、コミュニケーション能力向上のためのカウンセリング技法として実施されていました。その後、1960〜1970年代のアメリカでは、人種差別撤廃運動や婦人解放運動といった差別に関する社会問題が顕在化します。こうした問題はとくにコミュニケーションに大きな弊害をもたらしていたため、相手を尊重しながら自己表現を行う手法として社会に広まりました。
ここで重要なのは、アサーションの思想の中心は「相手」にあるという点です。アサーションはしばしば主張するための発信側のスキルに矮小化されがちですが、その視点はあくまで相手にあることを認識しておきましょう。
また、アサーションが日本国内に持ち込まれたのは比較的遅く、1980年代に入ってからです。当時はコミュニケーションのメソッドとして注目を集めましたが、高度経済成長期における「阿吽の呼吸」や「言わずもがな」のハイコンテクストなコミュニケーションが日本組織の土台にあったため、広く普及するには至りませんでした。
しかし、ビジネスの複雑化と雇用・人財の多様化がうみ出すさまざまな人間関係の葛藤を、コラボレーションへと変える必要がある現代では、アサーションが再注目されています。
ビジネスにおいてなぜアサーションが必要なのか
近年、新型コロナウイルスによるパンデミックの影響もあり、出社せずに働くテレワークという働き方が普及しました。しかし、画面を通して行うオンライン上のコミュニケーションには複数のデメリットがあり、表情がわかりにくい・感情が読みにくい・ジェスチャーが行いにくいといった、対面でのやり取りに比べ、勝手の違いにストレスを感じているビジネスパーソンが多いのも事実です。
このストレスがうつ病の引き金になることも珍しくなく、厚生労働省の「患者調査」では、精神疾患の患者は、2017年以降増加の一途を辿っています。ビジネスにおける「うつ病」に代表される精神疾患は遠因にコミュニケーションがある事は、否定する人は少ないでしょう。これが求職や離職に繋がっていることは明白です。それにより、職場の生産性や関係性に深い影を落とすことを実感されているリーダーや管理者は多いのではないでしょうか。
こうした事態を打開するため、相手の立場や状況、自身の言葉に意識を向けるアサーションを用いたコミュニケーションの需要が高まっています。
厚生労働省「患者調査(令和5年)」では、傷病分類別の総患者数として「Ⅴ 精神及び行動の障害」が示されています。なお、時系列比較の際は算出方法の見直し等に関する注意書きを踏まえる必要があります。
こうした事態を打開するため、相手の立場や状況、自身の言葉に意識を向けるアサーションを用いたコミュニケーションの需要が高まっています。
価値をうみ出すための差異は必要だが葛藤もうむ
近年のビジネスでは、ITテクノロジーの進歩と普及によって市場が変化し、異分野・社内外の異なる業務を担う人と協同で仕事を進める場面が増えています。とくにDX化に代表されるようなアナログとデジタルの融合はあらゆる業界に及んでおり、デジタルに精通したサポート企業や外部人材との連携が不可欠になってきました。データは異なる業界・企業・部門を結びつけることで、その違いから価値を生み出します。
異なる分野の人々が集まると、コミュニケーションのスタイルも変わります。それぞれの業界や専門分野には独自の常識や言葉があり、異なる分野との交流では摩擦や誤解が生じることもあります。しかし、この違いがあるからこそ、新たなアイデアやサービスが生まれる可能性も広がります。
また、構想を現実的に実行するのは、誰にでもできないからこそ価値があるとも言えます。その中で、異なる分野の人々が協力してイノベーションを生み出すには、適切なコミュニケーションが不可欠です。アイデアを実行に移すには、主張と傾聴のバランスや、空気感覚など、微妙なコミュニケーションスキルが求められます。
コラボレーションをうみ出す多様性のためのコミュニケーション
ビジネスで新たな価値を生み出す際に重要なのが、多様な価値観や専門性、視点を持ち寄った時に発生する視点・価値観の違いです。意見・価値観の違いをコラボレーションに変えなければ多様性は、活力に変化することはできません。アサーションによって相手の価値観や視点、意見を尊重しながらコミュニケーションを取ることで相手目線の貴重な意見を引き出し、隠れていた問題・課題の発見、自社商品・サービスの強みや弱みを再確認し、さらには異業種や異なる専門性を持つ者同士のコラボレーションを促すこともあるでしょう。
多様性は、単純な採用やレピュテーションの為のモノではありません。多様性という差異性に対し許容度の高い組織は、新しい発想や柔軟な職場風土を創りだします。しかし、多様性を許容するには、コミュニケーションが必須であり、双方の意見や視点をまず、引き受けるというアサーションは重要な要素 です。
異業種や異なる専門性を持つ分野同士がコラボレーションすると、これまでなかったプロジェクトの発足、新たな収益源の獲得、企業としての認知度の向上といったメリットがあります。とはいえ、業界の枠組みを超えたコラボレーションにおいては、それぞれの立場や理念を考慮した関係性の構築が不可欠です。その際のコミュニケーションの障壁を突破する手段として、アサーションによる互いを尊重し理解し合うことが有用だと言えるでしょう。
(研修企画担当者向け:課題を”施策”に落とす視点)
弊社ソフィアの調査では、上司とのコミュニケーション課題として「評価の理由が不明(19%)」「フィードバックの質が低い(15.1%)」「反論しにくい雰囲気がある・心理的安全性が低い(13.6%)」などが挙がっています。こうした”説明の仕方・聴き方・反論の受け止め方”は、まさにアサーションの設計対象(行動としての型)です。心理的安全性は、チームが発言や学習行動を取るうえで重要な要因として研究されており、マネジャーの関わり方(聴き方・反応)が鍵になります。
アサーションにおけるコミュニケーションスタイル
最初の項目でもお伝えしましたが、アサーションでは人のコミュニケーションスタイルを「アサーティブ」「ノンアサーティブ(非主張的)」「アグレッシブ(攻撃的)」の3つに分類して考えます。厳密に言うと、誰しもが3つすべての要素を持っていますが、いずれかのコミュニケーションスタイルに偏っているため問題が発生しているとアサーションでは説いています。
ここでは、アサーションにおける「アサーティブ」「ノンアサーティブ(非主張的)」「アグレッシブ(攻撃的)」について見ていきましょう。
ノンアサーティブ(非主張的)
「ノンアサーティブ(非主張的)」は、自身に意見があってもあまり主張せず、相手に合わせてコミュニケーションを取るやり方です。自分に自信がなかったり、自分のことを後回しにして相手を優先してしまったりする人に起こりがちなコミュニケーションスタイルで、自分を主張しないことが相手への思いやりだと錯覚している場合もあります。「言ったもの負け」や「沈黙こそが主張」という考えを持っている人もいるかもしれません。
一見すると物静かでやり取りがしやすそうですが、本心が分からないため信頼しにくく、ビジネス上の関係ではやや扱いにくい存在になります。また、はっきりと意見を言わないことで責任を回避するため、言い訳(と受け取られてしまう状況)が多いのも特徴で、行動に繋がる前向きなコミュニケーションが取りにくいのも、このスタイルの難点です。
ご自身が「ノンアサーティブ(非主張的)」である場合は、言語化や文章にしてみましょう。簡単に言えば書き出すということです。私たちは、雑談でも議論でも発する言葉には必ず理由や根拠があります。しかし、全ての発信に対して全て理由や根拠を整理して主張するには訓練が必要です。文章は、あなたに反論する事も拒否することもないので誰にでも手軽に行えるでしょう。
主張には、根拠や論拠、そして事実が必要です。トゥルーミンの法則というテンプレートを使うと、主張の構造をわかりやすく整理することができます。相手が「ノンアサーティブ(非主張的)」である場合は、傾聴やアクティブリスニングが重要です。しかし、ご自身と相手の間の「不信」がある場合や初見の場合は、傾聴や質問をしても難しいでしょう。相手との間に不信や共有するものがない初見の段階では、主張ではなく、相手の状況をコミュニケーション前段階でよく理解する為の準備が必要であり、相手が使う言葉で話したり、相手の話のテンポに併せたりするなど、相手との適合させることが重要です。一般的には、この技術は「ディコーラム」と言います。初見の場合など、自己紹介という主張を、ディコーラムを使ってすることが重要でしょう。
また、「ノンアサーティブ(非主張的)」である原因は、うまく言語化できないというケースが実は多くあります。職場やビジネスの関係性や課題が複雑化している為、うまく整理できないということもあります。「積極的か消極的か」という単純なマインドの問題ではなく、関係性における「ノンアサーティブ(非主張的)」な態度では、傾聴やアクティブリスニングが重要なキーワードになる事がほとんどです。職場やビジネスでは、言語化できない複雑な状況があります。こうした場面では、傾聴と整理に十分な時間をかける必要があります。
アグレッシブ(攻撃的)
「アグレッシブ(攻撃的)」は、相手の意見・立場をないがしろにし、自分の主張を優先する、自己中心的なコミュニケーションを展開するスタイルです。相手の言い分を聞き入れず、自分の主張を押し付けるような表現を用いるため、しばしば人間関係で衝突するなど軋轢を生むことがあります。
さらに、意見が対立する相手に悪態をついたり、業績や役職を盾にしてマウンティングをとったりするやり方で自分の主張を通そうとする場合もあります。アサーションとは真逆のコミュニケーションスタイルと言え、ビジネス上では非常に厄介な存在です。「あの人に意見するとややこしいことになるので放っておこう」などと、腫れ物に触るように扱われている場合もあり、チーム・組織の連携の弊害になっていることも珍しくありません。
しかし、この手の「声の大きい」人の問題を、単純な属人的な問題として処理することは問題解決に繋がりません 。また、「声の大きい」の主張に対して反論や意見を言えない周囲がそれを助長している側面もあります。
相手がアグレッシブではあれば、「理詰め」の論理で対応する事と「共感」で相手の感情に対応する必要があります。どのような意見や立場であろうと、その主張には必ず理由や論理があります。言語化、整理できているか否かは別として、一つひとつ相手の意見を整理していきましょう。自分の意見が論理的に矛盾していたり、意味があいまいだったりする場合は、質問を通じて整理し、自分の意見を少しずつ加えていくことが大切です。そうすることで、自分の考えが整合性のあるものになり、理解が深まります。
また、気持ちが昂ったり抽象的な言葉が飛び交う場合、まずは相手の言葉ではなく、その背後にある感情に焦点を当てることが重要です。そして、相手の感情に共感しつつ、自分の感情も添えて返していきましょう。
クレーム対応の現場では、怒りっぽい顧客に理詰めで対応すると問題が大きくなります。また、顧客の無理難題にも無条件で応じると、組織に多大なコストがかかる可能性があります。そのため、論理的な整理と感情的な整理を同時に行いながら、顧客対応を行っています。これは企業によってはマニュアル化されており、具体的なトレーニングも行われています。重要なのは、このスキルを身に着けることです。
アサーティブ
「アサーティブ」は、自分の意見を主張しながら相手の意見・立場も尊重し、人間関係に必要な配慮を持ってコミュニケーションを取るスタイルです。その場の空気やこれまでの人間関係を大切にし、不用意に攻撃的な言動を取ることもなければ、必要以上に自分の意見を押し殺すこともありません。相手と意見が対立しても物怖じせず、かといって横柄な態度を取ることもなく、敬意をもって接することができる、ビジネス向きのコミュニケーションスタイルです。
主張と相手の尊重の比率を柔軟に調整できるため、「ノンアサーティブ(非主張的)」「アグレッシブ(攻撃的)」を上手く使い分けることができるコミュニケーションの理想形とも言えるでしょう。日常会話からビジネス上のやり取りまで、幅広く活用できるスタイルです。
アサーティブを実現するためには、距離感をしっかり認識することが重要です。言語や情報の差異の距離感、論理や理屈の距離感、感情の距離感、関係性の距離感、複数の距離感を認識することが重要です。
アサーティブは、「言い方」という語彙の問題もありますが、語彙など表現力よりも距離感にしっかりと意識を向ける誠実性や適合性の方が重要です。この姿勢が言語や表現に伝える力をつけることを確認しておきましょう。
姿勢や考え方が整理されたうえで、ここからはアサーションの言葉などにおける要素に迫っていきます。
(研修に落とすなら:境界線=”適正な指導”の言語化)
職場のパワーハラスメントは「優越的な関係を背景とした言動」「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」「就業環境が害される」の3要素を満たすもの、と厚生労働省指針に整理されています。アサーションは”強く言う”技術ではなく、事実・感情・提案を分けて伝えることで、適正な指導と受け手の尊厳を両立させやすくします。
アサーションにおける言葉の重要性
言語体系が複雑な日本語は、さまざまな言い回しや問いかけを使い分けられるのが良い部分です。アサーションにおいても日本語の自由度を活かした言い方は大切で、相手の感情を尊重してから本題に入るのか、あえて扇動的に問題提起から入るのかなど、状況に応じて伝わりやすい文脈を選択することが重要です。
また、感情を揺さぶるストーリーテリングによって主張の説得力や共感性を高めることも、ロジカルに伝えることで理解しやすくすることも、アサーションでは可能です。言葉選びだけでなく、他のコミュニケーションスキルや思考法と組み合わせて言い方を工夫できるのは、アサーションならではの強みと言えるでしょう。
このようにアサーションは、相手と向き合う際の姿勢・態度だけでなく、コミュニケーションスタイルを柔軟にカスタマイズできることも魅力です。もちろん間違った言い方を選択すると伝わらない場合もありますが、相手の意見・立場を尊重するアサーションの構造上、相手を不愉快にするリスクはほとんどありません。失敗のデメリットが少ないにも関わらず、習熟するほど汎用性が高まるため、コミュニケーションスキルとして練習しやすいのもアサーションの大きな特徴だと言えるでしょう。
アサーションはレトリックと似ている
アサーションの本質は、コミュニケーションによって相手を説得し、納得感を持ってもらうためのレトリック(修辞法)にあります。レトリックとは、コミュニケーションにおける表現力を指し、その目的は人を動かし、日常やビジネス上での物事を上手に運ぶことです。
アサーションを用いたコミュニケーションは、相手の意見や立場を尊重し、納得感と腹落ちを持って業務にあたってもらうことを目指とします。このアプローチは、レトリックのエトス(説得者の信頼性)、パトス(感情への訴え)、ロゴス(論理的な説得)という概念と酷似しています。エトスは、説得者自身の信頼性や尊重が相手に影響を与えることを指し、アサーションでは相手の意見や立場を尊重する姿勢が重要です。パトスは、感情に訴えることで相手の共感を引き出すことを意味し、アサーションでも相手の感情や立場を考慮して柔軟にコミュニケーションを行います。ロゴスは、論理的な説得を指し、アサーションも論理的な説得を行う際に相手の立場や思考を考慮し、妥協点を見出して協力関係を築きます。
また、レトリックの概念にはディコーラム(適応性)も含まれます。ディコーラムとは、特定の状況や相手に合わせて行動や言動を適応させる柔軟性や適切さを指し、アサーションでも相手の立場や状況に合わせて適切なコミュニケーションを取ることが求められます。
ビジネスの現場では、同僚・上司・経営陣・顧客など、あらゆる立場に置かれた人に対し、納得感と腹落ちを持って業務にあたってもらう必要があります。そのためには、相手の立場・役割・思考・感情・周辺環境などを多角度的に理解し、その上でお互いの共通項を見出し、妥協点を見つけて協力関係を構築しなければなりません。
アサーションを用いたコミュニケーションは、相手の意見・立場を尊重するところから出発するため、人を動かすために必要な「相手を理解する」という土台部分をクリアしています。比喩・誇張・反語・倒置などの表現=レトリック(修辞法)を用い、言い回しや問いかけ方を相手に合わせて柔軟に使い分けることで、より相手を説得・納得させやすいコミュニケーションを取ることができるでしょう。
また、アサーションもレトリック(エトス)も、客体(相手)が中心にあるコミュニケーションスキルです。相手の立場や感情を尊重しながら、効果的なコミュニケーションを行うための土台となります。
アサーションが及ぼすプラスの効果
相手の意見・立場を尊重するアサーションには、いくつものプラスの効果があります。主な効果は人間関係を良好にするものですが、そこから派生する効果もビジネスにおいて大きな意味を持ちます。
ここでは、とくに有用なプラスの効果についてご説明します。
人間関係の改善
現代の企業の業務は細かく分業化されており、個々の社員や関係者の経歴・価値観・考え方を知ることが難しい状況です。それでも各個人が担当する領域ははっきりしており、業務遂行に必要なマニュアルが整っているため、表面的には人間関係の影響を受けずに業務が遂行できているように思えます。
しかし、企業としてより質の高い仕事を行うには、社内外の関係者が深いレベルで理解し合い、互いを信頼することが不可欠です。そのための一つの方法として、アサーションを用いたコミュニケーションは、強固な人間関係を構築する際の足がかりになります。
対等な意見交換
会議や打ち合わせなどの場では、立場や状況による意見の対立が起こりやすく、感情的な不快感も伴うことがあります。とくに議論の中でロジカルなやり取りが行われる場合、自分の意見が論理的に否定されることもあるため、感情的な反応が起こりやすいものです。
こうした場面では、ディベートやディスカッションに近い状態になりがちです。そのため、アサーションを用いたコミュニケーションが特に効果的です。相手の意見を尊重しながら議論を進めることで、感情的な摩擦を軽減しつつ、建設的なやり取りへとつなげることができます。
相手に不快感を与えない断り方
日本人は和を重んじる同調性を大切にしてきたため、断ることを苦手としている傾向があります。しかし、何かを断るという状況はビジネス上の人間関係において必ず発生するため、避けては通れません。断り方やタイミングを間違えると、所属する集団から排除される場合もあり、思っている以上に勇気が必要なコミュニケーションだと言えるでしょう。
ビジネス上の断りを入れる際も、アサーションは有用です。相手の意見・立場を尊重した上で賛同・参加できない理由を伝えることで、相手に必要以上に不快な思いをさせずに断ることができます。相手の感情と理屈を整理して返答すれば、波風を立てずに断ることができ、何度もしつこく誘われることも少なくなるでしょう。
(心理的安全性と”発言”の関係)
心理的安全性は、チームが対人リスクを取って発言・学習することを支える概念として整理されています。アサーションは、発言を”攻撃”にせず、かつ”沈黙”にも寄せないため、心理的安全性を現場の行動に落とし込む入口の一つになります。
アサーショントレーニングの方法
ここまでアサーションの概要や効果について解説してきました。では、実際にアサーションをコミュニケーションに取り入れるには、どのようなトレーニングが有効なのでしょうか。
ここからは、アサーションを身につける際に役立つ具体的なトレーニング方法をご紹介します。
DESC法
DESC法は、アサーションのスキルを体系立ててまとめた方法論で、アサーションを4つの段階に分けることで、より実践しやすい形に落とし込んでいます。4つの段階は以下のとおりです。
D:Describe(描写)
E:Express(表現)
S:Specify(提案)
C: Consequences (結果)
「Describe(描写)」は、状況・行動などを客観的に把握し、事実だけを相手に伝えます。感情・憶測といった主観は一切入れず、起きている事実だけにフォーカスして伝えることが重要です。
「Express(表現)」は、描写した事実に対して、自身の考えや感情を表現します。あくまでも自分自身の考え・感情を伝え、第三者の意見や考えは入れないようにします。その際、相手や周囲の状況を批判・非難するような態度は取らないことも重要です。
「Specify(提案)」は、自身が考える現実的な解決案を提示するなど、相手に求めている行動を伝えます。ただし、ここでの提案はあくまでも1つの案であり、強要するような言い方は厳禁です。
「Choose(選択)」は、「Specify(提案)」への相手の反応に応じて、自身の行動を選択するフェーズです。提案を受け入れてもらえたらそのまま協力して実行し、難色を示されたら代替案を用意するなど、柔軟に対応します。相手がどのような反応をしても、感情的になってはいけません。
以上の4つの段階を踏むことで、アサーションを用いたコミュニケーションを実践で活用しやすくなるでしょう。
DESC法の実務例(研修でそのままロールプレイ可能)
評価面談(納得感がないケース)
D:今回の評価面談で、評価の根拠となる事実や基準の説明が短く、私は理解が追いついていない状態です。
E:私は、このままだとどこを改善すればよいか不安です。
S:評価の根拠になった成果・期待水準・次に求める行動を、具体例つきで教えていただけますか。
C:もし時間が足りなければ、別途30分でも追加で時間をいただけると助かります。
部門間調整(期限が守られないケース)
D:先週合意した納期(○日)を過ぎても、成果物が共有されていません。
E:私は後工程の調整ができず、プロジェクト全体の遅延が心配です。
S:次の共有予定日と、難しい場合の代替案(範囲縮小や優先順位)を一緒に決めたいです。
C:今ここで難しければ、今日中に15分だけでも状況整理の時間を取れますか。
1on1(反論しにくい雰囲気があるケース)
D:1on1で私が課題を話すと、会話がすぐ結論(指示)に進むことが多いです。
E:私は、背景や選択肢まで一度整理して相談したい気持ちがあります。
S:結論の前に、現状の整理と選択肢の壁打ちを10分いただけますか。
C:時間が難しければ、次回の1on1で最初の10分をその時間にしていただけると助かります。
(組織課題との接続)
弊社ソフィアの調査では、上司との課題として「評価の理由が不明(19%)」が挙がっています。評価面談のロールプレイは、この課題に直結する訓練テーマになります。
ABCDE理論
ABCDE理論は、論理療法の創始者である臨床心理学者アルバート・エリスが提唱した理論で、人が物事を受け取る際の思考・感情の流れをチャート化して理解する手法です。以下の5つの段階を踏むことで、アサーションのトレーニングとして活用できます。
A:Activating event(出来事、現象)
B:Belief(信念、認知、解釈)
C:Consequence(結果)
D:Dispute(反論、反駁、自問自答)
E:Effect(効果)
「Activating event(出来事)」は、実際に起きた出来事や現象を指します。この出来事をどう受け取るかで、思考・感情の流れが決まります。
「Belief(信念、認知、解釈)」は、起きた出来事に対する感情・思考・思い込みです。合理的な受け取り方をする場合もあれば、不合理な受け取り方をする場合もあります。
「Consequence(結果)」は、AとBの段階を経て、感情として表れたり行動に移したりする段階です。良い方向の結論が出ることもあれば、不合理でストレスフルな悪い結論に辿り着くこともあります。いわば思考の分岐点と言えるでしょう。
「Dispute(反論、反駁、自問自答)」は、Cで悪い結論に辿り着いた場合に、反応の出発点であるBに対して反論を行うフェーズです。不合理な受け取り方を打ち消すよう努めます。
「Effect(効果)」は、Dの反論によって自身の行動を客観的で理性的な方向に修正するフェーズです。不合理な受け取り方が起きるたびにD→Eの流れを繰り返し、行動によって出来事への受け取り方を修正していきます。
(アイ)メッセージ
アイメッセージは、「私」を主題とすることで、意見・主張・希望を伝えやすくするコミュニケーションの手法です。アメリカの心理学者トマス・ゴードンによって提唱された手法で、元々は子どもとの適切な接し方を親に指導するために生み出されました。「私」という主語を付け加えることで人間味のあるコミュニケーションに変化し、共感や親近感を抱いてもらいやすくなるメリットがあります。
ビジネス上のコミュニケーションでは業務の責任や命題が優先されるものですが、それでも喜怒哀楽による感情的な反応は起こってしまうものです。こうした感情は後回しにされがちですが、実は水面下で社員のパフォーマンスやモチベーションに影響しているため、ケアしながらコミュニケーションを取るのが望ましいでしょう。
その際に有効なのがアイメッセージです。「私はこう思う」「私はこうして欲しい」と「私」を主語に据えることで、人間味のある温かみのあるやり取りができ、相手に意見・主張・希望を受け取ってもらいやすくなります。また「私」という主語を通して感情を吐き出すことにもなるため、個人の感情・価値観を尊重するちょっとしたメンタルケアにもつながります。
アサーションのトレーニングとしてアイメッセージを取り入れるなら、まずはコミュニケーション上の発言を「私は〇〇」にすることから始めてみましょう。慣れてきたら状況に合わせ、「我が社」「私の部署」と主語の数を増やしていくと良いでしょう。
アサーション権
アサーション権とは、自他の権利をそれぞれ尊重して守りながら、お互いが自己表現しても良いという権利のことです。たとえば、「聞いてもらいたい話がある時、それを相手に求める権利」「物事の決断が感情的な理由でも良い権利」「頼まれごとを断っても良い権利」などが挙げられます。
コミュニケーションでアサーションを用いる際、心理的なハードルとなるのがこのアサーション権を行使する瞬間です。主張が苦手な日本人は、適切な主張を「わがまま」「自己中心的」などと考えてしまいがちです。そのような時こそ、アサーション権の基本原理を思い出すことが有効です。アサーション権に則って自己表現しても良いという原点に立ち返ること自体が、アサーションのトレーニングの一環だと言えるでしょう。
大企業でのアサーション研修の設計
研修企画を「知識→行動→定着」に分解する
アサーションは概念理解よりも「行動の型(DESC/Iメッセージ等)を、葛藤がある実務場面で使えること」が成果です。レビュー論文でも、アサーショントレーニングは認知行動技法を用いる介入として位置づけられており、社会的スキル訓練の一部として整理されています。
したがって研修は、座学中心よりも「短い説明→ロールプレイ→振り返り→現場宿題→フォロー」の流れで設計すると、習熟(汎化)しやすくなります。
設計テンプレ(研修企画担当者向け)
目的 :
1on1品質向上/評価面談の納得感向上/部門間調整の摩擦低減/心理的安全性の底上げ
対象:
管理職(必須)+プロマネ/評価者層優先
事前課題:
よくある葛藤場面を3件持参(評価・納期・品質・人間関係)
研修内:
DESC法(型)+Iメッセージ(言い換え)+反論を受け止める(傾聴)
事後:
1週間で”1回だけ実践”→次回フォローで共有(成功・失敗問わず)
なぜ1on1と相性が良いのか
弊社ソフィアの調査では、上司との1on1は「実施が義務付け(34%)」「任意で実施・推奨(28%)」で、制度として広く存在します。一方、上司コミュニケーションの課題として「評価の理由が不明(19%)」「フィードバックの質が低い(15%)」が挙がっています。つまり“場はあるが、会話の型が弱い”状態が起き得ます。ここにアサーション研修を差し込むと、投資対効果が見えやすくなります。
効果測定の指標例
- 研修前後:心理的安全性尺度やコミュニケーション満足の簡易サーベイ
- 現場指標:1on1の「率直に話せた」「傾聴されている」の比率(調査票型の設問で追跡可能)
- 定性:評価面談の納得感(自由記述)と、次の行動の明確化(OKR/目標の質)
アサーションとレトリック:ロゴス・パトス・エトス
アサーションを用いたコミュニケーションにおいてはレトリック(修辞法)、つまりコミュニケーション上の表現力によって人を動かし、日常やビジネス上での物事を上手く運ぶことだと前項でお伝えしました。その人を動かす行為において重要なのが、古代ギリシャの哲学者アリストテレスが主張する「ロゴス」「パトス」「エトス」の3要素です。
アサーションとは切っても切り離せない3要素ですが、どのような意味があるのでしょうか。それぞれの要素について見ていきます。
ロゴス(論理)
ロゴスは、物事を理屈立てて相手に説明する行為で、声明される側としては、説明する側の論理に関して整合性を判断することを指します。主に、議論・プレゼンテーション・会議など、会話を用いたやり取りの場で必要とされ、ビジネスの現場においては必須とされる概念になります。
ロゴスの論理を形作る枠組みには、演繹法のように原理原則に対して個別事例を照らし合わせる方法や、逆に個別事例から原理原則や何らかの法則を導き出す帰納法があります。アサーションにおいてもロゴスは大切な要素で、意見・主張に説得力を持たせ、相手に納得してもらうためには必須です。
パトス(情熱)
パトスは、コミュニケーションの発信者が受け手の感情や心情をくみ取ることで、簡単に言うと相手に共感してもらうため、心理的に距離を縮めて寄り添うことを指します。コミュニケーションにおいて、意見・主張を受け取ってもらうためには、言葉による説明だけでは不十分です。熱い言葉を並べ、作り込んだプレゼンテーションを通して伝えたところで、相手にとって共感するポイントがなければ伝わりづらさを払拭することはできません。
そのため、まずは意見・主張の発信者が喜怒哀楽を表現し、受け手の感情に揺さぶりをかけ共感しやすい土台を作ることが大切です。アサーションにおいてもパトスによる共感は重要で、お互いが理解し合い、歩み寄ったコミュニケーションを取るという意味でも必要不可欠な概念です。
エトス(信頼)
エトスは、意見・主張の発信者や、情報源に対する受け手側が抱く信頼を指す言葉です。古代ギリシャの哲学者アリストテレスはエトスを、レトリックにとってはロゴス・パトス以上に重要だと位置付けており、現代的に表現するならファクト・エビデンス・専門性と言い換えることもできるでしょう。
実際、SNSなどの情報を見ても、人々が支持するのは内容よりも「誰が発信している情報か」という部分です。どんなに中身のある内容を発信していても、エトスが不十分であればその情報が支持されることは難しくなります。
アサーションにおいてもエトスは重要な要素で、意見・主張の発信者の経験はもちろん、役職・専門性などの肩書によって信頼度が変わり、コミュニケーションに影響を及ぼすことは避けられません。とはいえ、肩書がなければエトスが機能しないかと言えばそのようなことはなく、受け手との共通項を見つけ、相手の意見・立場に寄り添ったコミュニケーションを取ることでも、エトス=信頼を獲得することは可能です。
まとめ
職場のコミュニケーションが適切に行われていないと、人間関係の軋轢が生まれ、業務上のトラブルが生じる可能性が高くなります。とくに人間関係の悪化は、社員のモチベーション低下や離職率の上昇につながることもあるため、まずはコミュニケーションの土台を見直してみることも重要です。
本記事で解説したアサーションを用いたコミュニケーション(アサーティブ)であれば、自分の意見を主張しながら相手の意見・立場も尊重できるため、ビジネス上で円滑な人間関係を構築しやすくなります。また、アサーションはトレーニング方法が複数あり、実践的に鍛えることができます。さらに、どのような立場の人でも取り組めることも大きな魅力でしょう。
もちろん、アサーションは一朝一夕で身につくものではありません。しかしながら、業務の中で少しずつ実践していけば、質の高いコミュニケーションが取れるようになります。要するに、アサーションとは日々の積み重ねによって磨かれるコミュニケーションスキルであり、それが職場全体の関係性と生産性を底上げする力を持つものです。社内の人間関係をより良くするために、まずは一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。
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